特許第5748216号(P5748216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748216
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】加工性に優れる耐食合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20150625BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150625BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C22C19/05 Z
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-178246(P2011-178246)
(22)【出願日】2011年8月17日
(65)【公開番号】特開2013-40379(P2013-40379A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】細田 孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 敬介
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−027189(JP,A)
【文献】 特開2009−046716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
C22C 38/00 〜 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001〜0.100%、Si:0.01〜2.00%、Mn:0.01〜2.00%、S:0.0005〜0.0100%、Cr:5.0〜35.0%、Mo:0.1〜10.00%、Cu:0.1〜5.00%、Ti:0.01〜2.00%、Al:0.01〜2.00、N:0.0001〜0.05%、Ca:0.0001〜0.0200%、Fe:32.6〜53.7%を含有し、残部Niおよび不可避不純物からなり、
fn(1)=100[C]+11[Cr]+100[Mo]+5[Al]+60[Ti]−25([Fe]−30)≦500、
fn(2)=fn(1)−0.6×(Tmp.−160)≦−200、
fn(3)=[Ti]×[N]≦0.030
1.0≦fn(4)[Ca]/[S]≦30.0
を満足することを特徴とする優れた熱間加工性および冷間加工性を有する高耐食性の耐熱合金。
ただし、各fnにおける[C]、[Cr]、[Mo]、[Al]、[Ti]、[Fe]、[N]、[Ca]および[S]は耐熱合金の化学成分の質量%で示す含有率の数字の大きさのみを示し、さらにfn(2)のTmp.は、℃で示す温度の数字の大きさのみを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント用部材、配管や海水を用いた熱交換器などの各種腐食環境下で優れた耐食性を有すると共に、熱間および冷間での加工性にも優れた高耐食合金に関する。
【背景技術】
【0002】
CrやCu、Moを含む高Ni合金は、多くの腐食環境において優れた耐食性を示すが、加工性においては、熱間加工および冷間加工での変形抵抗が高く、延性が低いため、設備負荷が大きい上に、熱間・冷間での加工時に割れやキズが発生しやすく、加工寸法の制限や歩留りの悪化が生じ、生産性を阻害している。
【0003】
従来のゴミ焼却炉洗煙設備用材として、優れた耐局部腐食性と熱間加工性を有するため、熱間加工性においては、S、O、N量を限定し、固定元素を添加すること、Ni当量>Cr当量とすることで良好な熱間延性を得られることを特徴とした発明が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この発明は、各元素が変形抵抗、材料融点に及ぼす影響への言及は無く、さらに冷間加工性を施す場合については何ら配慮されていない。
【0004】
さらに、従来の技術として、Cu、Mo、N量を計算式によって限定して、十分な耐硫酸性を有しつつ、優れた熱間延性による絞り加工が得られる発明が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この発明には、各元素が熱間加工での変形抵抗や、材料融点に及ぼす影響などの言及が無く、さらに冷間加工性を施す場合については何ら配慮もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−128699号公報
【特許文献2】特許第3294282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UNS N08825等の高Ni合金はCrやCu、Moを含み、その化学組成から硫酸、燐酸、硝酸、さらには海水など、多くの腐食環境において優れた耐食性を示すため、化学プラント用部材、配管や海水を用いた熱交換器などに使用されている。しかし加工性においては、SUS304などの汎用オーステナイト系ステンレス鋼と比べて変形抵抗が高く、延性が低いため、設備負荷が大きい上に、熱間および冷間での加工時に、割れやキズが発生しやすく、加工寸法の制限や歩留りの悪化が生じ、生産性を阻害している。そこで、本願発明が解決しようとする課題は、耐食性を損なうことなく熱間加工および冷間加工を容易に実施できる耐熱合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、発明者らは、優れた耐食性を有し、熱間加工性および冷間加工性を悪化する原因である材料自体の有する高い変形抵抗、低い延性および熱間加工にける低オーバーヒート温度を有し、低融点化合物の析出、冷間加工でのTiNといった硬質介在物の析出による割れやキズの発生を抑制する合金を鋭意考究し本発明の手段を得た。
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.001〜0.100%、Si:0.01〜2.00%、Mn:0.01〜2.00%、S:0.0005〜0.0100%、Cr:5.0〜35.0%、Mo:0.1〜10.00%、Cu:0.1〜5.00%、Ti:0.01〜2.00%、Al:0.01〜2.00、N:0.0001〜0.05%、Ca:0.0001〜0.0200%、Fe:32.6〜53.7%を含有し、残部Niおよび不純物からなる合金であり、この合金は、
fn(1)=100[C]+11[Cr]+100[Mo]+5[Al]+60[Ti]−25([Fe]−30)≦500
fn(2)=fn(1)−0.6×(Tmp−160)≦−200
fn(3)=[Ti]×[N]≦0.030
1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0
を満足することからなる優れた熱間加工性および冷間加工性を有する高耐食性の耐熱合金である。
ただし、各fnにおける[C]、[Cr]、[Mo]、[Al]、[Ti]、[Fe]、[N]、[Ca]および[S]は耐熱合金の化学成分の質量%で示す含有率の数字の大きさのみを示し、さらにfn(2)のTmpは℃で示す温度の数字の大きさのみを示す。
【0009】
本願発明における高耐食性の耐熱合金の化学成分の限定理由および各fnの限定理由を以下に説明する。なお、%は質量%を示す。
【0010】
C:0.001〜0.100%
Cは、強度を高める効果を有するので0.001%以上を添加する。ところで、Cは0.100%より多いと、Crと結合して炭化物を形成し、耐粒界腐食性を低下する。また、材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるため、熱間加工性、冷間加工性が低下する。そこで、添加する場合は、Cは0.001〜0.100%とする。
【0011】
Si:0.01〜2.00%
Siは、合金の製造時に脱酸剤として添加するので0.01%以上を添加する。ところで、Siが2.00%より多いと材料の延性を低下させる。そこで、添加する場合は、Siは0.01〜2.00%とする。
【0012】
Mn:0.01〜2.00%
Mnは、Sを固定することによる熱間加工性の改善効果およびγ相の安定化のために0.01%以上が必要である。しかし、これらのMnの効果は2.00%で飽和する。そこで、Mnは0.01〜2.00%とする。
【0013】
S:0.0100%以下(0%を含む)
Sは、0.0100%以下(0%を含む)とする。本発明において、Sは低融点硫化物を形成して熱間加工性を悪化させる有害な不純物である。したがって、Sは低ければ低いほど望ましい。
【0014】
Cr:5.0〜35.0%
Crは、耐食性の向上に必須であり、このためには5.0%以上を添加する必要がある。しかし、Crが35.0%より多いと、融点を下げ、変形抵抗を上げるため熱間および冷間の加工性を低下する。そこで、Crは5.0〜35.0%とし、好ましくは15.0〜30.0%とする。
【0015】
Mo:0.1〜10.00%
Moは、耐食性の向上に必須であり、このためには0.1%以上を添加する必要がある。しかし、Moが10.0%より多いと、融点を下げ、変形抵抗を上げるため熱間および冷間の加工性を低下し、コストを上げる。そこで、Moは0.1〜10.00%とし、好ましくは1.00〜8.00%、より好ましくは1.50〜5.00%とする。
【0016】
Cu:0.1〜5.00%
Cuは、耐食性の向上に必須であり、γ相の安定化に必要で、このためには0.1%以上を必要とする。しかし、Cuが5.00%より多いと熱間加工性を低下し、コストを上げる。そこでCuは0.1〜5.00%とし、好ましくは0.50〜3.00%、より好ましくは1.00〜2.00%とする。
【0017】
Ti:0.01〜2.00%
Tiは、C固定による耐食性を向上するとともに、TiCやTiNによるピン止め効果により結晶粒微細化による強度および靱性の向上に寄与する元素で、このためには0.01%以上を必要とする。しかし、Tiが2.00%より多いと、多量のTiNを生成し、耐食性を悪化するとともに冷間加工での割れや疵の発生起点となり、また材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるために、熱間加工性および冷間加工性を低下する。そこで、Tiは0.01〜2.00%とし、好ましくは0.05〜1.50%とする。
【0018】
Al:0.01〜2.00%
Alは、脱酸剤として添加され、また、AlNによるピン止め効果により結晶粒微細化による強度および靱性の向上に寄与する元素で、このためには0.01%以上を必要とする。しかし、Alが2.00%より多いと、多量のTiNを生成させ、耐食性を悪化させるとともに、冷間加工での割れや疵の発生起点となる。また、Alは材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるため、熱間加工性および冷間加工性を低下する。そこで、Alは0.01〜2.00%とし、好ましくは0.05〜1.50%とする。
【0019】
N:0.0001〜0.05%
Nは、γ相を安定化する元素で、このためには0.0001%以上必要である。しかしNが0.05%より多いと窒化物生成により耐食性と冷間加工性を低下する。そこでNは0.0001〜0.05%とし、好ましくは0.0001〜0.03%とする。
【0020】
Ca:0.0001〜0.0200%
Caは、Sを固定し、熱間加工性の改善に寄与する元素で、このためには0.0001%以上必要である。しかし、Caが0.0200%より多いと、低融点化合物の生成により熱間加工性を悪化する。そこで、Caは0.0001〜0.0200%とし、好ましくは0.0001〜0.0100%とする。
【0021】
Fe:32.6〜53.7%
Feは、1.0%以上含有されると材料の熱間加工および冷間加工における変形抵抗を下げて、コストダウンに寄与する。しかし、Feは55.0%より多いと耐食性を悪化する。しかしながら、本願の実施例に基づき、Feは32.6〜53.7%とする。
【0022】
Ni:残部
Niは、Ni基合金として上記成分の残部として含有されている。
【0023】
fn(1)=100[C]+11[Cr]+100[Mo]+5[Al]+60[Ti]−25([Fe]−30)≦500
fn(1)が500より多いと、材料の変形抵抗の上昇および延性の低下により冷間加工性が低下する。そこで、fn(1)は500以下とし、好ましくは450以下、より好ましくは400以下とする。
【0024】
fn(2)=fn(1−)0.6×(Tmp.−160)≦−200
fn(2)が−200を超過すると、材料の変形抵抗の上昇、延性の低下、さらにオーバーヒート温度の低下により熱間加工性が低下する。そこで、fn(2)は−200以下とし、好ましくは−250以下とする。なお、fn(2)中の「Tmp.」は合金の℃で示す融点である。
【0025】
fn(3)=[Ti]×[N]≦0.030
fn(3)は、0.030より多いとTiNの生成によって耐食性、冷間加工性を悪化する。そこで、fn(3)は0.030以下とする。
【0026】
1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0
fn(4)は、S固定による熱間加工性の改善のためには1.0以上とする必要がある。しかし、fn(4)が30.0より大きいとCa過剰による熱間加工性を悪化する。そこで、fn(4)は1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0とし、好ましくは2.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦10.0とする。
【発明の効果】
【0027】
本願発明の合金は、上記の手段とすることで、熱間加工における変形抵抗が200MPa以下でかつ絞りが60%以上で、さらに冷間加工における50%加工時の変形抵抗が890MPa以下でかつ60%加工時の割れが無く、硝酸溶液、硫酸・硫酸第二鉄溶液および塩化第二鉄溶液における耐食性のいずれにおいても優れた効果を奏する加工性に優れた耐食合金である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】縦軸をfn(2)の値とし、横軸をfn(1)の値として発明合金および比較合金の熱間加工性および冷間加工性の関係を示すグラフである。
図2】縦軸をfn(4)の値とし、横軸をfn(3)の値として発明合金および比較合金の加工性および耐食性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態について、図面および表を参照して以下に説明する。
【0030】
本発明の供試材である発明合金のNo.1〜10と比較合金のNo.11〜24の各実施例および比較例について、それら化学成分の含有量と、それら合金の融点を示す「Temp.」と、並びにfn(1)〜fn(4)の値とを、表1に示す。なお、含有量の%は質量%で示している。
【0031】
【表1】
【0032】
この表1に示す各化学成分からなるNo.1〜10の発明合金とNo.11〜24の比較合金の、それぞれ100kgをVIM(真空誘導溶解)炉で溶解してインゴットに鋳造し、これらのインゴットを1150℃に加熱して、径15mmおよび径25mmの棒材に鍛伸した。
【0033】
表1における合金の融点のTemp.はそれぞれの供試材のNo.の化学成分から熱力学的平衡計算ソフトを使用して算出した温度である。
【0034】
表1に示す供試材の発明合金のNo.1〜10と比較合金のNo.11〜24の各実施例および比較例について、熱間絞り加工の変形抵抗およびその絞りの程度によって熱間加工性を評価して、表2に示した。この熱間絞り加工は、上記の径15mmの棒材を1170℃に30分間加熱保持した後、水焼入れによる熱間加工時の加熱温度相当である前熱処理を実施し、径8mmで100mmの長さに試料調整したものをグリーブル試験片とし、さらに、これらのグリーブル試験片を1180℃に加熱した後、グリーブル試験機を用いて、50mm/sの引張速度で引張りを行って、熱間加工における絞りおよび引張強度を測定する加工である。これらの測定による熱間加工性の評価として、1180℃における絞りが60%以上であり、かつ変形抵抗が200MPa以下である場合に、熱間加工性が良好であるとして表2に○で示し、1180℃における絞りが60%未満であり、かつ変形抵抗が200MPaを超える場合に熱間加工性が良くないとして表2に×で評価した。
【0035】
さらに、上記の径25mmの棒材を940℃に30分間加熱保持した後、水焼入れによる固溶化処理の前熱処理を実施し、これらの棒材を径14mmで長さ21mmの据え込み試験用試料に作製し、さらに、これらの据え込み試験用試料を、冷間加工温度を室温として60%圧縮加工したときの割れの有無と該室温として50%圧縮加工したときの変形抵抗を測定した。この60%圧縮加工および50%圧縮加工は、加工前の高さを100%としたときに、加工後の高さが40%になるまで圧縮加工をするとき、その加工による減少度合いである60%を以って『60%圧縮加工』、加工後の高さが50%になるまで圧縮加工をするとき、その加工による減少度合いである50%を以って『50%圧縮加工』という。これらの測定による冷間加工性の評価として、50%圧縮加工時の変形抵抗が870MPa以下であり、かつ60%圧縮加工したときに割れの発生が無い場合に、冷間加工性が良好であるとして表2に○で示し、50%圧縮加工時の変形抵抗が870MPaを超えており、かつ60%圧縮加工したときに割れの発生がある場合に、冷間加工性が良くないとして表2に×で示して評価した。
【0036】
さらに、上記の径25mmの棒材を940℃に30分間加熱保持した後、水焼入れによる固溶化処理の前熱処理を実施し、これらの棒材を径12mmで長さ21mmの腐食試験用試料を作成し、さらに、これらの試験片を、JISに規定する65%硝酸による腐食度試験と、硫酸・硫酸第二鉄による腐食試験と、さらに塩化第二鉄による腐食度試験に供した。
【0037】
これらの腐食度試験の条件の詳細を示すと、以下の通りである。
先ず、65%硝酸による腐食度試験は、JIS G0573に規定する腐食度試験で、65%硝酸の沸騰液に試験片を入れて、48時間の沸騰試験を行ない、付着している腐蝕生成物を除去し、乾燥後にそれらの質量を量って腐蝕減量を求める。さらに、これを新しい5%硝酸の沸騰液に入れて48時間の沸騰試験を行い腐蝕減量を求める。この試験を全5回行って5回の平均値の腐食度(g/m2・h)を測定し、これらの平均の腐食度が0.15g/m2・h以下を、表2に○で示し、平均の腐食度が0.15g/m2・hを超えるものを表2に×で示して評価した。
【0038】
次いで、硫酸・硫酸第二鉄による腐食度試験は、JIS G0572に規定にする腐食度試験で、硫酸・硫酸第二鉄の沸騰液に試験片を入れて、120時間の沸騰試験を行ない、付着している腐蝕生成物を除去し、乾燥後にそれらの質量を量って腐蝕減量を求めて、腐食度(g/m2・h)を測定した。これらの腐食度が0.25g/m2・h以下を、表2に○で示し、腐食度が0.25g/m2・hを超えるものを表2に×で示して評価した。
【0039】
さらに、塩化第二鉄による腐食試験は、JIS G0578に規定にする腐食度試験で、50℃にした塩酸酸性6%塩化第二鉄溶液に試験片を入れて、24時間の浸漬試験を行ない、付着している腐蝕生成物を除去し、乾燥後にそれらの質量を量って腐蝕減量を求めて、腐食度(g/m2・h)を測定した。これらの腐食度が12g/m2・h以下を、表2に○で示し、腐食度が12g/m2・hを超えるものを表2に×で示して評価した。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、発明合金鋼は、No.1〜10の全ての試験片で、熱間加工性、冷間加工性および耐食性の全てで評価は○であり、優れた合金である。これに対し、比較合金のNo.11〜24の中で、No.14、No.23、No.24は、いずれもインゴットの鍛伸時に割れが発生し、試験片が作成されなかったものである。これらの3件を除く他の比較合金のNo.のものは、熱間加工性、冷間加工性あるいは耐食性のいずれかの評価で×であり、揃って○となるものはなかった。
【0042】
図1において、本願発明の実施例の発明合金鋼は白丸で示し、その比較合金は黒丸で示している。これらの白丸で示す発明合金は、図1の破線で示す縦軸の、fn(2)の値の−200以下である下側の小さな値の範囲と、かつ、一点鎖線で示す横軸のfn(1)の値の500以下である低い値の範囲に存在しており、この範囲は、熱間加工が1181℃でその変形加工の変形抵抗が200MPa以下であり、かつ絞りが60%以上の範囲であり、さらに冷間加工が室温で、変形抵抗が870MPa以下で、かつ60%圧縮加工時の割れの発生しない範囲である。これに対して、黒丸で示す比較例である比較合金は、図1の破線で示す縦軸のfn(2)の値の−200より大きな上側の値の範囲と、かつ、一点鎖線で示す横軸のfn(1)の値の500より高い値の範囲に存在しており、この範囲は、熱間加工が1181℃で、その変形加工の変形抵抗が200MPaより大きく、かつ絞りが60%未満の範囲であり、さらに冷間加工が室温で、変形抵抗が870MPaより大きく、かつ60%圧縮加工で割れの発生する範囲である。
【0043】
さらに、図1と同様に、図2において、本願発明の実施例の発明合金鋼は白丸で示し、その比較合金は黒丸で示している。これらの白丸で示す発明合金は、図2の破線で示す縦軸の、fn(4)の値の1.0と11.0の間の値のS固定による熱間加工性の改善が図れる範囲と、かつ、一点鎖線で示す横軸のfn(3)の値の0.030以下のTiNの生成によって冷間加工性と耐食性を悪化すること無い範囲に存在している。これに対して、黒丸で示す比較例である比較合金は、図2の破線で示す縦軸の、fn(4)の値の1.0未満の範囲と30.0より大きな値の熱間加工性を悪化する範囲と、かつ、図2の一点鎖線で示す横軸の0.030より大きな値の冷間加工で割れを発生し、さらに耐食性を悪化する範囲とに存在している。
図1
図2