【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、発明者らは、優れた耐食性を有し、熱間加工性および冷間加工性を悪化する原因である材料自体の有する高い変形抵抗、低い延性および熱間加工にける低オーバーヒート温度を有し、低融点化合物の析出、冷間加工でのTiNといった硬質介在物の析出による割れやキズの発生を抑制する合金を鋭意考究し本発明の手段を得た。
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.001〜0.100%、Si:0.01〜2.00%、Mn:0.01〜2.00%、S:
0.0005〜0.0100%、Cr:5.0〜35.0%、Mo:0.1〜10.00%、Cu:0.1〜5.00%、Ti:0.01〜2.00%、Al:0.01〜2.00、N:0.0001〜0.05%、Ca:0.0001〜0.0200%、Fe:32.6〜53.7%を含有し、残部Niおよび不純物からなる合金であり、この合金は、
fn(1)=100[C]+11[Cr]+100[Mo]+5[Al]+60[Ti]−25([Fe]−30)≦500
fn(2)=fn(1)−0.6×(Tmp−160)≦−200
fn(3)=[Ti]×[N]≦0.030
1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0
を満足することからなる優れた熱間加工性および冷間加工性を有する高耐食性の耐熱合金である。
ただし、各fnにおける[C]、[Cr]、[Mo]、[Al]、[Ti]、[Fe]、[N]、[Ca]および[S]は耐熱合金の化学成分の質量%で示す含有率の数字の大きさのみを示し、さらにfn(2)のTmpは℃で示す温度の数字の大きさのみを示す。
【0009】
本願発明における高耐食性の耐熱合金の化学成分の限定理由および各fnの限定理由を以下に説明する。なお、%は質量%を示す。
【0010】
C:0.001〜0.100%
Cは、強度を高める効果を有するので0.001%以上を添加する。ところで、Cは0.100%より多いと、Crと結合して炭化物を形成し、耐粒界腐食性を低下する。また、材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるため、熱間加工性、冷間加工性が低下する。そこで、添加する場合は、Cは0.001〜0.100%とする。
【0011】
Si:0.01〜2.00%
Siは、合金の製造時に脱酸剤として添加するので0.01%以上を添加する。ところで、Siが2.00%より多いと材料の延性を低下させる。そこで、添加する場合は、Siは0.01〜2.00%とする。
【0012】
Mn:0.01〜2.00%
Mnは、Sを固定することによる熱間加工性の改善効果およびγ相の安定化のために0.01%以上が必要である。しかし、これらのMnの効果は2.00%で飽和する。そこで、Mnは0.01〜2.00%とする。
【0013】
S:0.0100%以下(0%を含む)
Sは、0.0100%以下(0%を含む)とする。本発明において、Sは低融点硫化物を形成して熱間加工性を悪化させる有害な不純物である。したがって、Sは低ければ低いほど望ましい。
【0014】
Cr:5.0〜35.0%
Crは、耐食性の向上に必須であり、このためには5.0%以上を添加する必要がある。しかし、Crが35.0%より多いと、融点を下げ、変形抵抗を上げるため熱間および冷間の加工性を低下する。そこで、Crは5.0〜35.0%とし、好ましくは15.0〜30.0%とする。
【0015】
Mo:0.1〜10.00%
Moは、耐食性の向上に必須であり、このためには0.1%以上を添加する必要がある。しかし、Moが10.0%より多いと、融点を下げ、変形抵抗を上げるため熱間および冷間の加工性を低下し、コストを上げる。そこで、Moは0.1〜10.00%とし、好ましくは1.00〜8.00%、より好ましくは1.50〜5.00%とする。
【0016】
Cu:0.1〜5.00%
Cuは、耐食性の向上に必須であり、γ相の安定化に必要で、このためには0.1%以上を必要とする。しかし、Cuが5.00%より多いと熱間加工性を低下し、コストを上げる。そこでCuは0.1〜5.00%とし、好ましくは0.50〜3.00%、より好ましくは1.00〜2.00%とする。
【0017】
Ti:0.01〜2.00%
Tiは、C固定による耐食性を向上するとともに、TiCやTiNによるピン止め効果により結晶粒微細化による強度および靱性の向上に寄与する元素で、このためには0.01%以上を必要とする。しかし、Tiが2.00%より多いと、多量のTiNを生成し、耐食性を悪化するとともに冷間加工での割れや疵の発生起点となり、また材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるために、熱間加工性および冷間加工性を低下する。そこで、Tiは0.01〜2.00%とし、好ましくは0.05〜1.50%とする。
【0018】
Al:0.01〜2.00%
Alは、脱酸剤として添加され、また、AlNによるピン止め効果により結晶粒微細化による強度および靱性の向上に寄与する元素で、このためには0.01%以上を必要とする。しかし、Alが2.00%より多いと、多量のTiNを生成させ、耐食性を悪化させるとともに、冷間加工での割れや疵の発生起点となる。また、Alは材料の融点を下げ、変形抵抗を上げるため、熱間加工性および冷間加工性を低下する。そこで、Alは0.01〜2.00%とし、好ましくは0.05〜1.50%とする。
【0019】
N:0.0001〜0.05%
Nは、γ相を安定化する元素で、このためには0.0001%以上必要である。しかしNが0.05%より多いと窒化物生成により耐食性と冷間加工性を低下する。そこでNは0.0001〜0.05%とし、好ましくは0.0001〜0.03%とする。
【0020】
Ca:0.0001〜0.0200%
Caは、Sを固定し、熱間加工性の改善に寄与する元素で、このためには0.0001%以上必要である。しかし、Caが0.0200%より多いと、低融点化合物の生成により熱間加工性を悪化する。そこで、Caは0.0001〜0.0200%とし、好ましくは0.0001〜0.0100%とする。
【0021】
Fe:32.6〜53.7%
Feは、1.0%以上含有されると材料の熱間加工および冷間加工における変形抵抗を下げて、コストダウンに寄与する。しかし、Feは55.0%より多いと耐食性を悪化する。しかしながら、本願の
実施例に基づき、Feは32.6〜53.7%とする。
【0022】
Ni:残部
Niは、Ni基合金として上記成分の残部として含有されている。
【0023】
fn(1)=100[C]+11[Cr]+100[Mo]+5[Al]+60[Ti]−25([Fe]−30)≦500
fn(1)が500より多いと、材料の変形抵抗の上昇および延性の低下により冷間加工性が低下する。そこで、fn(1)は500以下とし、好ましくは450以下、より好ましくは400以下とする。
【0024】
fn(2)=fn(1−)0.6×(Tmp.−160)≦−200
fn(2)が−200を超過すると、材料の変形抵抗の上昇、延性の低下、さらにオーバーヒート温度の低下により熱間加工性が低下する。そこで、fn(2)は−200以下とし、好ましくは−250以下とする。なお、fn(2)中の「Tmp.」は合金の℃で示す融点である。
【0025】
fn(3)=[Ti]×[N]≦0.030
fn(3)は、0.030より多いとTiNの生成によって耐食性、冷間加工性を悪化する。そこで、fn(3)は0.030以下とする。
【0026】
1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0
fn(4)は、S固定による熱間加工性の改善のためには1.0以上とする必要がある。しかし、fn(4)が30.0より大きいとCa過剰による熱間加工性を悪化する。そこで、fn(4)は1.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦30.0とし、好ましくは2.0≦fn(4)=[Ca]/[S]≦10.0とする。