【実施例】
【0031】
以下、本発明による電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0032】
[実施例1]
出発原料としてのFe
2O
3(平均粒径0.6μm)6.8kgとMn
3O
4(平均粒径0.9μm)3.2kgと赤燐粉末15gを純水3.0kgに分散させるとともに、ポリカルボン酸アンモニウム系分散剤60gを添加して混合した。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、Fe
2O
3とMn
3O
4と赤燐の混合スラリーを得た。なお、出発原料の混合比は、フェライトの組成式MnFe
2O
4になるように算出した。
【0033】
このようにして得られたスラリーに、還元剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製の三菱カーボンブラックMA7)30gを添加した後、スプレードライヤーによって約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒粉を得た。
【0034】
この造粒粉から粒径が100μmを超える造粒粉を篩により除去した後、電気炉に投入して1200℃で3時間焼成した。この焼成では、電気炉内に酸素と窒素の混合ガスを流して酸素濃度を100ppmにした。このようにして得られた焼成物を粉砕した後に篩により分級して、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。
【0035】
[実施例2]
出発原料としてFe
2O
3(平均粒径0.6μm)7.2kgとMn
3O
4(平均粒径0.9μm)2.8kgと赤燐粉末15gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。なお、出発原料の混合比は、フェライトの組成式Mn
0.85Fe
2.15O
4になるように算出した。
【0036】
[実施例3]
出発原料としてFe
2O
3(平均粒径0.6μm)7.2kgとMn
3O
4(平均粒径0.9μm)2.8kgと赤燐粉末30gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。
【0037】
[実施例4]
出発原料としてFe
2O
3(平均粒径0.6μm)8.4kgとMn
3O
4(平均粒径0.9μm)1.6kgと赤燐粉末15gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。なお、出発原料の混合比は、フェライトの組成式Mn
0.5Fe
2.5O
4になるように算出した。
【0038】
[比較例1]
出発原料としてFe
2O
3(平均粒径0.6μm)7.2kgとMn
3O
4(平均粒径0.9μm)2.8kgを使用し、赤燐粉末を加えなかった以外は、実施例2と同様の方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。
【0039】
[比較例2]
焼成時の温度を1100℃とした以外は、実施例2と同様に方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。
【0040】
[比較例3]
出発原料としてFe
2O
3(平均粒径0.6μm)10.0kgと赤燐粉末15gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、平均粒径35μmのキャリア芯材を得た。なお、出発原料の混合比は、マグネタイトの組成式Fe
3O
4になるように算出した。
【0041】
このようにして実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材について、以下のように組成分析、粒径の測定、磁気特性の評価、平均溝深さの算出、帯電量の算出を行った。
【0042】
(組成分析)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材を塩酸に完全に溶解して得られた溶液から、ICP分析(島津製作所製のICPS−7510)によってリンの定量分析を行った。その結果、キャリア芯材中のリンの分析値は0.33質量%(実施例1)、0.14質量%(実施例2)、0.26質量%(実施例3)、0.25質量%(実施例4)、0.02質量%(比較例1)、0.26質量%(比較例2)、0.28質量%(比較例3)であった。
【0043】
(粒径)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材の粒度分布について、マイクロトラック(日機装株式会社製のModel−9320−X100)を用いて測定した。その結果、キャリア芯材の粒径(体積率50%までの積算粒径D
50の値)は、35.5μm(実施例1)、34.7μm(実施例2)、34.5μm(実施例3)、34.5μm(実施例4)、36.2μm(比較例1)、35.3μm(比較例2)、34.2μm(比較例3)であった。
【0044】
(磁気特性)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材の磁気特性として、VSM(東英工業株式会社製のVSM−P7)を用いて磁化の測定を行い、外部磁場1000Oe
における磁化σ
1000(emu/g)を得た。その結果、磁化σ
1000は、69.7emu/g(実施例1)、69.6emu/g(実施例2)、69.6emu/g(実施例3)、72.6emu/g(実施例4)、70.9emu/g(比較例1)、70.9emu/g(比較例2)、67.1emu/g(比較例3)であった。
【0045】
(溝深さ)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材の粒子の表面を分割する粒界面における溝の深さについて、粒子の中央付近の10μm四方の範囲に対して高さ測定を行い、平均線より最も深い場所での高さを溝深さとし、粒子50個分の溝深さを平均化して平均溝深さとした。この溝深さの値は、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製のOLS30−LSU)を使用して、粒子の表面をスキャンすることによって算出した。その結果、キャリア芯材の平均溝深さは、0.34μm(実施例1)、0.38μm(実施例2)、0.42μm(実施例3)、0.28μm(実施例4)、0.31μm(比較例1)、0.15μm(比較例2)、0.28μm(比較例3)であった。
【0046】
(芯材帯電量)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたそれぞれのキャリア芯材38gと市販のトナー(モノクロ用の粒径6μmの一般的なトナー)2.0gをガラス瓶に入れ、振とう機に装填して20分間攪拌して帯電量測定用試料とした。この帯電量測定用試料500mgに対して、吸引法によりキャリア芯材がトナーに与えた電荷を測定して、帯電量(μC/g)を算出した。 なお、電荷の測定は、電荷測定装置(日本パイオテク株式会社製のSTC−1−C1型)を使用し、吸引圧力を7.0kPaとし、吸引用メッシュとして750メッシュのSUS網を使用した。その結果、芯材帯電量は、18.3μC/g(実施例1)、21.1μC/g(実施例2)、19.5μC/g(実施例3)、17.2μC/g(実施例4)、14.5μC/g(j比較例1)、11.4μC/g(比較例2)、9.2μC/g(比較例3)であった。
【0047】
これらのキャリア芯材の特性評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
(表面性状)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材の表面の元素の構成元素の分布状態(析出状態)を評価するために、SEM−EDS(日本電子株式会社製のJSM−6510LAおよびJED−2300)を用いて、キャリア芯材の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)からキャリア芯材の表面における元素マッピングを行った。
【0050】
図1〜
図4は、それぞれ実施例2および比較例1〜3で得られたキャリア芯材のSEM像であり、これらのSEM像から、いずれのキャリア芯材でも、粒子の表面が数μmから10数μm程度の大きさの領域に分割されており、その粒界面は表面より高さの低い溝状になっているのがわかる。
【0051】
図5Aおよび
図5Bは、実施例2で得られたキャリア芯材に対して、
図1のSEM像と同一視野におけるマンガンおよびリンの元素マッピングを行った結果を示している。
図5Aおよび
図5Bから、実施例2で得られたキャリア芯材では、粒子の表面を分割している溝の領域にマンガンおよびリンが偏析しているのがわかる。マンガン元素とリン元素が同一の箇所に偏析していることから、実施例2で得られたキャリア芯材では、粒子の表面の溝部にマンガン−リン化合物が析出していると考えられる。このような粒子の表面のマンガン−リン化合物の偏析状態は、実施例1〜4で得られたいずれのキャリア芯材でも認められた。
【0052】
図6Aおよび
図6Bは、比較例1で得られたキャリア芯材に対して、
図2のSEM像と同一視野におけるマンガンおよびリンの元素マッピングを行った結果を示している。
図6Aおよび
図6Bから、出発原料にリン化合物を加えなかった以外は実施例2と同様の方法である比較例1で得られたキャリア芯材では、リン元素は検出されず、バックグラウンド程度のシグナルが得られるのみであった。また、マンガン元素については、偏析は見られず、粒子の表面に均一に分布していた。この結果から、前駆体となる出発原料の粒子中にリン元素が存在しないと、焼成後にマンガン元素の偏析が起こらないことがわかった。
【0053】
図7Aおよび
図7Bは、比較例2で得られたキャリア芯材に対して、
図3のSEM像と同一視野におけるマンガンおよびリンの元素マッピングを行った結果を示している。
図7Aおよび
図7Bから、焼成温度を低くした以外は実施例2と同様の方法である比較例2で得られたキャリア芯材では、マンガン元素およびリン元素の偏析が見られず、粒子の表面に均一に分散していた。この結果から、前駆体となる出発原料の粒子中にリン元素が存在していても、焼成温度が低過ぎると、原子の移動が起こり難く、マンガン−リン化合物の偏析が起こらないことがわかった。
【0054】
図8Aおよび
図8Bは、比較例3で得られたキャリア芯材に対して、
図4のSEM像と同一視野におけるマンガンおよびリンの元素マッピングを行った結果を示している。
図8Aおよび
図8Bから、出発原料にマンガン化合物を加えなかった以外は実施例2と同様の方法である比較例3で得られたキャリア芯材では、マンガン元素の検出はされず、バックグラウンド程度のシグナルが得られるのみであった。また、リン元素の偏析も見られなかった。この結果から、前駆体となる出発原料の粒子中にマンガン元素が存在しないと、リン元素の偏析も起こらないことがわかった。
【0055】
これらの結果から、実施例1〜4で得られたキャリア芯材では、粒子の表面を分割する粒界面にマンガン−リン化合物が偏析していることが確認された。
【0056】
なお、実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材の表面の平均溝深さは0.2〜0.4μm程度であったが、SEM像による粒子の表面性状から推測すると、この平均溝深さは、キャリア芯材の粒子の表面を分割する粒界面における溝の深さに相当すると考えられる。また、元素マッピングの結果まで考慮すると、実施例1〜4で得られたキャリア芯材では、この0.2μm以上の深さの凹部にマンガン−リン化合物が偏析していると判断することができる。一方、比較例1〜3で得られたキャリア芯材では、凹部に特定の化合物の偏析が生じていないことを確認することができる。
【0057】
また、実施例1〜4で得られたキャリア芯材では、比較例1〜3で得られたキャリア芯材と比べて、高い帯電特性を有していることがわかる。これは、実施例1〜4で得られたキャリア芯材では、マンガン−リン化合物の偏析部分が高い帯電特性を有しているためであると考えられる。
【0058】
(キャリア帯電量)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材に対して、以下のように樹脂コート処理を行った。すなわち、シリコーン系樹脂(東レダウコーニングシリコーン株式会社製のSR−2411)をトルエンに溶解させて濃度30%の樹脂被覆用の樹脂溶液を用意し、この樹脂溶液と実施例1〜4および比較例1〜3で得られたキャリア芯材とを質量比1:9の割合で撹拌機に装填し、樹脂溶液にキャリア芯材を浸漬しながら、150〜250℃で3時間加熱および撹拌して、キャリア芯材100質量部に対して樹脂3.0質量部の割合でキャリア芯材を樹脂で被覆した。この樹脂で被覆されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置によって250℃で5時間加熱することにより、樹脂被覆層を硬化させてキャリアを得た。
【0059】
このようにして得られた樹脂被覆後のそれぞれのキャリア38gと市販のトナー2.0gをガラス瓶に入れ、振とう機に装填して20分間攪拌して帯電量測定用試料とした。この帯電量測定用試料に対して、上述した芯材帯電量の測定と同様の方法により、キャリアがトナーに与えた電荷を測定して、帯電量(μC/g)を算出した。この帯電量をキャリアの初期帯電量とした。また、帯電量測定用試料を振とう機によってさらに24時間連続して攪拌した後、同様の方法により帯電量を算出し、この24時間撹拌後の帯電量と初期帯電量との差(初期帯電量−24時間撹拌後の帯電量)を帯電量の変化量(μC/g)として、キャリアの耐久性の指標とした。これらの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、実施例1〜4および比較例1〜3のキャリア芯材から得られたキャリアでは、いずれも初期帯電量が20〜30μC/g程度であるが、比較例1〜3のキャリア芯材から得られたキャリアでは、24時間攪拌した場合の帯電量が大きく減少しており、初期帯電量の80%以下になっている。これに対して、実施例1〜4のキャリア芯材から得られたキャリアでは、24時間攪拌した場合でも帯電量の劣化が小さく、初期帯電量の95%程度の帯電量を維持している。これは、実施例1〜4のキャリア芯材から得られたキャリアを現像剤として使用すると、長期間の現像の繰り返しにより現像機内で長時間キャリアとトナーが混合および攪拌されても、トナーの帯電特性が変化せず、安定した画像特性を得ることができることを意味している。