【実施例】
【0074】
(実施例1)
実施例1として作製したターゲット全体の組成は、91(73Co−11Cr−16Pt)−4SiO
2−2TiO
2−3Cr
2O
3であり、以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。なお、ターゲット全体の金属(Co、Cr、Pt)に対するCoの含有割合は73at%、Crの含有割合は11at%、Ptの含有割合は16at%である。
【0075】
Co単体を1700℃まで加熱してCo単体の溶湯とし、ガスアトマイズを行ってCo粉末(磁性金属粉末)を作製した。
【0076】
また、合金組成がCo:69at%、Cr:22at%、Pt:9at%となるように各金属を秤量し、1700℃まで加熱して69Co−22Cr−9Pt合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って69Co−22Cr−9Pt合金粉末(第1の非磁性金属粉末)を作製した。
【0077】
また、合金組成がCo:5at%、Pt:95at%となるように各金属を秤量し、2000℃まで加熱して5Co−95Pt合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って5Co−95Pt合金粉末(第2の非磁性金属粉末)を作製した。
【0078】
作製した3種類のアトマイズ金属粉末(Co粉末、69Co−22Cr−9Pt合金粉末、5Co−95Pt合金粉末)をそれぞれ150メッシュのふるいで分級して、粒径がφ106μm以下の3種類のアトマイズ金属粉末(Co粉末、69Co−22Cr−9Pt合金粉末、5Co−95Pt合金粉末)を得た。
【0079】
分級後のCo粉末1470.00gに、SiO
2粉末65.80g、TiO
2粉末43.81g、Cr
2O
3粉末124.95gを添加して混合分散を行い、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)を得た。用いたSiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、Co粒子の周囲が酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)により緻密に覆われた状態になるまでボールミルで混合分散を行い、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)を得た。
【0080】
また、分級後の69Co−22Cr−9Pt合金粉末1150.00gに、SiO
2粉末43.60g、TiO
2粉末28.98g、Cr
2O
3粉末82.76gを添加して混合分散を行い、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)を得た。用いたSiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、69Co−22Cr−9Pt合金粒子の周囲が酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)により緻密に覆われた状態になるまでボールミルで混合分散を行い、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)を得た。
【0081】
また、分級後の5Co−95Pt合金粉末1480.00gに、SiO
2粉末20.82g、TiO
2粉末13.83g、Cr
2O
3粉末39.32gを添加して混合分散を行い、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された5Co−95Pt合金粉末)を得た。用いたSiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、5Co−95Pt合金粒子の周囲が酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)により緻密に覆われた状態になるまでボールミルで混合分散を行い、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された5Co−95Pt合金粉末)を得た。
【0082】
次に、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)805.67g、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)1229.89g、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された5Co−95Pt合金粉末)744.44gを混合して混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を得た。詳細には、各粉末(磁性混合粉末、第1の非磁性混合粉末、第2の非磁性混合粉末)の粒径が小さくならない範囲内で、各粉末が概ね均一に分散するように混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末とした。
【0083】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1100℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.041(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.85%であった。
【0084】
図8および
図9は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図8は低倍率の写真で、
図9は高倍率の写真である。
図10および
図11は、得られたテストピースの厚さ方向断面のSEM写真であり、
図10は低倍率の写真で、
図11は高倍率の写真である。
【0085】
EPMAによる元素分析の結果、
図11のSEM写真において、相の大きさが比較的大きく灰色の濃い部分がCo相であり、最も白っぽい部分が5Co−95Pt合金相であり、Co相および5Co−95Pt合金相の中間的な灰色の濃さの部分が69Co−22Cr−9Pt合金相であり、これらの金属相の間を仕切っている灰色の濃い部分が酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)であり、金属相同士は酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)により仕切られていることが判明した。
【0086】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1070℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ7.0mmのターゲットを2つ作製した。作製した2つのターゲットの密度を測定したところ、9.009、9.009(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.50%、97.50%であった。
【0087】
作製した2つのターゲットについて、ASTM F2086−01に基づき、漏洩磁束についての評価を行った。磁束を発生させるための磁石には馬蹄形磁石(材質:アルニコ)を用いた。この磁石を漏洩磁束の測定装置に取り付けるとともに、ホールプローブにガウスメータを接続した。ホールプローブは、前記馬蹄形磁石の磁極間の中心の真上に位置するように配置した。
【0088】
まず、測定装置のテーブルにターゲットを置かずに、テーブルの表面における水平方向の磁束密度を測定し、ASTMで定義されるSource Fieldを測定したところ900(G)、900(G)であった。
【0089】
次に、ホールプローブの先端を、ターゲットの漏洩磁束測定時の位置(テーブル表面からターゲットの厚さ+2mmの高さ位置)に上昇させ、テーブル面にターゲットを置かない状態で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定し、ASTMで定義されるReference fieldを測定したところ563(G)、572(G)であった。
【0090】
次に、ターゲット表面の中心と、ターゲット表面のホールプローブ直下の点の間の距離が43.7mmになるようにターゲットをテーブル面に配置した。そして、中心位置を移動させずにターゲットを反時計回りに5回転させた後、中心位置を移動させずにターゲットを0度、30度、60度、90度、120度回転させ、それぞれの位置で、テーブル面に水平な方向の漏洩磁束密度を測定した。得られた5つの漏洩磁束密度の値をReferennce fieldの値で割って100を掛けて漏洩磁束率(%)とした。5点の漏洩磁束率(%)の平均をとり、その平均値をそのターゲットの平均漏洩磁束率(%)とした。下記の表3、表4に示すように、作製した2つのターゲットの平均漏洩磁束率は51.0%、50.7%であり、その2つの平均漏洩磁束率の平均は50.9%であった。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
(実施例2)
実施例2として作製したターゲット全体の組成は、91(73Co−11Cr−16Pt)−4SiO
2−2TiO
2−3Cr
2O
3であり、実施例1と同じであるが、アトマイズにより作製する第2の非磁性金属粉末が10Co−90Pt合金粉末である点が異なる。
【0094】
実施例2のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0095】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、10Co−90Pt合金粉末を得た。なお、10Co−90Pt合金粉末を得るアトマイズの際の加熱温度および噴射温度は2000℃であった。
【0096】
得られた10Co−90Pt合金粉末1500.00gにSiO
2粉末21.77g、TiO
2粉末14.52g、Cr
2O
3粉末41.50gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された10Co−90Pt合金粉末)を得た。
【0097】
また、実施例1でアトマイズにより得られたCo粉末1450.00gにSiO
2粉末64.91g、TiO
2粉末43.22g、Cr
2O
3粉末123.26gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)を得た。
【0098】
また、実施例1でアトマイズにより得られた69Co−22Cr−9Pt合金粉末1150.00gにSiO
2粉末43.60g、TiO
2粉末28.98g、Cr
2O
3粉末82.76gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)を得た。
【0099】
次に、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)791.37g、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)1229.89g、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された10Co−90Pt合金粉末)758.74gを混合して実施例1と同様にして混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を得た。
【0100】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1100℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.052(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.96%であった。
【0101】
図12および
図13は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図12は低倍率の写真で、
図13は高倍率の写真である。
図14および
図15は、得られたテストピースの厚さ方向断面のSEM写真であり、
図14は低倍率の写真で、
図15は高倍率の写真である。
【0102】
EPMAによる元素分析の結果、
図15のSEM写真において、相の大きさが比較的大きく灰色の濃い部分がCo相であり、最も白っぽい部分が10Co−90Pt相であり、Co相および10Co−90Pt相の中間的な灰色の濃さの部分が69Co−22Cr−9Pt相であり、これらの金属相の間を仕切っている灰色の濃い部分が酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)であり、金属相同士は酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)により仕切られていることが判明した。
【0103】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1080℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ7.0mmのターゲットを2つ作製した。作製した2つのターゲットの密度を測定したところ、9.023、9.014(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.65%、97.55%であった。
【0104】
作製した2つのターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表5、表6に示すように、平均漏洩磁束率は50.6%と50.7%であり、その2つの平均漏洩磁束率の平均は50.7%であった。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
(比較例1)
比較例1として作製したターゲット全体の組成は、91(73Co−11Cr−16Pt)−4SiO
2−2TiO
2−3Cr
2O
3であり、実施例1、2と同じであるが、実施例1、2の第2の非磁性金属粉末(5Co−95Pt合金粉末、10Co−90Pt合金粉末)に替えて、磁性金属粉末である50Co−50Pt合金粉末を用いてターゲットを作製しており、非磁性相が1つである点(磁性相がCo相と50Co−50Pt合金相の2つである点)が異なる。
【0108】
比較例1のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0109】
合金組成のみを変更した以外は実施例1と同様にアトマイズおよび分級を行って、50Co−50Pt合金粉末を得た。なお、50Co−50Pt合金粉末を得るアトマイズの際の加熱温度および噴射温度は1800℃であった。
【0110】
得られた50Co−50Pt合金粉末1850.00gにSiO
2粉末38.55g、TiO
2粉末25.63g、Cr
2O
3粉末72.93gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された50Co−50Pt合金粉末)を得た。
【0111】
また、実施例1でアトマイズにより得られたCo粉末1080.00gにSiO
2粉末48.34g、TiO
2粉末32.19g、Cr
2O
3粉末91.81gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)を得た。
【0112】
また、実施例1で得られた69Co−22Cr−9Pt合金粉末1150.00gにSiO
2粉末43.60g、TiO
2粉末28.98g、Cr
2O
3粉末82.76gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt粉末)を得た。
【0113】
次に、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)574.04g、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)1229.89g、第2の磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された50Co−50Pt合金粉末)976.07gを混合して実施例1と同様にして混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を得た。
【0114】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1100℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.023(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.65%であった。
【0115】
図16および
図17は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図16は低倍率の写真で、
図17は高倍率の写真である。
図18および
図19は、得られたテストピースの厚さ方向断面のSEM写真であり、
図18は低倍率の写真で、
図19は高倍率の写真である。
【0116】
EPMAによる元素分析の結果、
図19のSEM写真において、相の大きさが比較的大きく灰色の濃い部分がCo相であり、最も白っぽい部分が50Co−50Pt相であり、Co相および50Co−50Pt相の中間的な灰色の濃さの部分が69Co−22Cr−9Pt相であり、これらの金属相の間を仕切っている灰色の濃い部分が酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)であり、金属相同士は酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)により仕切られていることが判明した。
【0117】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1090℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ7.0mmのターゲットを2つ作製した。作製した2つのターゲットの密度を測定したところ、9.071、9.065(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は98.17%、98.11%であった。
【0118】
作製した2つのターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表7、表8に示すように、平均漏洩磁束率は44.8%と44.9%であり、その2つの平均漏洩磁束率の平均は44.9%であった。
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
(比較例2)
比較例2として作製したターゲット全体の組成は、91(73Co−11Cr−16Pt)−4SiO
2−2TiO
2−3Cr
2O
3であり、実施例1、2および比較例1と同じである。また、ターゲットの作製に用いる磁性金属粉末はCo粉末であり、第1の非磁性金属粉末は69Co−22Cr−9Pt合金粉末であり、第2の磁性金属粉末は50Co−50Pt合金粉末であり、ターゲットの作製に用いる3種類の金属粉末の組成は比較例1と同じである。
【0122】
しかしながら、本比較例2では、前記した3種類の金属粉末と酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)とを同時に(1段階で)混合分散させて加圧焼結用混合粉末を作製しており、この点が、3種類の金属粉末をそれぞれ酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)と混合分散させた後、得られた3種類の混合粉末をさらに混合して(2段階の混合を経て)加圧焼結用混合粉末を得ている実施例1、2および比較例1とは異なる。
【0123】
比較例2のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0124】
実施例1でアトマイズにより得られたCo粉末254.74g、実施例1でアトマイズにより得られた69Co−22Cr−9Pt合金粉末557.61g、比較例1でアトマイズにより得られた50Co−50Pt合金粉末467.65g、SiO
2粉末42.35g、TiO
2粉末28.18g、Cr
2O
3粉末80.26gを同時に混合して混合分散を行い、1段階の混合で加圧焼結用混合粉末を得た。詳細には、実施例1と同様の時間および強さで、ボールミルで混合分散を行い、1段階の混合で加圧焼結用混合粉末を作製した。
【0125】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1100℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.027(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は97.69%であった。
【0126】
図20および
図21は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図20は低倍率の写真で、
図21は高倍率の写真である。
図22および
図23は、得られたテストピースの厚さ方向断面のSEM写真であり、
図22は低倍率の写真で、
図23は高倍率の写真である。
【0127】
EPMAによる元素分析の結果、
図23のSEM写真において、金属相として観察できる部分はほとんどがCo相であり、50Co−50Pt合金相として観察できる比較的大きな部位は
図23に示す部位である。他の部位は金属と酸化物が入り混じった相となっており、金属相同士は酸化物相により仕切られていないと考えられる。
【0128】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1100℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ7.0mmのターゲットを1つ作製した。
【0129】
さらに、前記した製造プロセスと同様のプロセスで、φ152.4mm×厚さ7.0mmのターゲットをもう1つ作製した。
【0130】
作製した2つのターゲットの密度を測定したところ、9.07、9.06(g/cm
3)であった。理論密度は9.24(g/cm
3)であるので、相対密度は98.2%、98.1%であった。
【0131】
作製した2つのターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表9、表10に示すように、平均漏洩磁束率は31.9%と31.5%であり、その2つの平均漏洩磁束率の平均は31.7%であった。
【0132】
【表9】
【0133】
【表10】
【0134】
(比較例3)
比較例3として作製したターゲット全体の組成は、91(71Co−11Cr−18Pt)−3SiO
2−2TiO
2−4Cr
2O
3である。なお、ターゲット全体の金属(Co、Cr、Pt)に対するCoの含有割合は71at%、Crの含有割合は11at%、Ptの含有割合は18at%である。
【0135】
本比較例3でターゲットの作製に用いる磁性金属粉末はCo粉末であり、第1の非磁性金属粉末は69Co−22Cr−9Pt合金粉末であり、第2の非磁性金属粉末はPt粉末である。本比較例3では、2つの非磁性金属粉末のうち、第1の非磁性金属粉末(69Co−22Cr−9Pt合金粉末)には強磁性金属元素であるCoが含まれているが、第2の非磁性金属粉末(Pt粉末)には強磁性金属元素が含まれていない。
【0136】
比較例3のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0137】
Co単体を1700℃まで加熱してCo単体の溶湯とし、ガスアトマイズを行ってCo粉末(磁性金属粉末)を作製した。
【0138】
また、合金組成がCo:69at%、Cr:22at%、Pt:9at%となるように各金属を秤量し、1700℃まで加熱して69Co−22Cr−9Pt合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って69Co−22Cr−9Pt合金粉末(第1の非磁性金属粉末)を作製した。
【0139】
また、Pt単体を2000℃まで加熱してPt単体の溶湯とし、ガスアトマイズを行ってPt粉末(非磁性金属粉末)を作製した。
【0140】
そして、得られた金属粉末に対して実施例1と同様に分級を行って、Co粉末、69Co−22Cr−9Pt合金粉末、Pt粉末を得た。
【0141】
分級後のCo粉末700.00gにSiO
2粉末23.56g、TiO
2粉末20.84g、Cr
2O
3粉末79.32gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)を得た。
【0142】
また、分級後の69Co−22Cr−9Pt合金粉末1050.00gにSiO
2粉末29.81g、TiO
2粉末26.43g、Cr
2O
3粉末100.67gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)を得た。
【0143】
また、分級後のPt粉末840.00gにSiO
2粉末8.49g、TiO
2粉末7.52g、Cr
2O
3粉末28.76gを添加した以外は実施例1と同様にして混合分散を行い、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたPt粉末)を得た。
【0144】
次に、磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたCo粉末)738.62g、第1の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆された69Co−22Cr−9Pt合金粉末)1107.63g、第2の非磁性混合粉末(酸化物粉末が被覆されたPt粉末)653.75gを混合して実施例1と同様にして混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末を作製した。
【0145】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1070℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.375(g/cm
3)であった。理論密度は9.56(g/cm
3)であるので、相対密度は98.06%であった。
【0146】
図24および
図25は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図24は低倍率の写真で、
図25は高倍率の写真である。
【0147】
図24および
図25において、白っぽい部分が金属相(Co相、69Co−22Cr−9Pt合金相、Pt相)であり、これらの金属相の間を仕切っている灰色の濃い部分が酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)であり、金属相同士は酸化物相(SiO
2−TiO
2−Cr
2O
3相)により仕切られている。
【0148】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1030℃、圧力:31MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ6.0mmのターゲットを作製した。作製したターゲットの密度を測定したところ、9.388(g/cm
3)であった。理論密度は9.56(g/cm
3)であるので、相対密度は98.20%であった。
【0149】
作製したターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表11に示すように、平均漏洩磁束率は50.3%であった。
【0150】
【表11】
【0151】
(比較例4)
φ152.4mm×厚さ6.0mmのターゲットを作製する際の焼結温度を1000℃にし、比較例3の焼結温度を1030℃よりも低くした以外は比較例3と同様にして、φ152.4mm×厚さ6.0mmのターゲットを作製した。
【0152】
作製したターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表12に示すように、平均漏洩磁束率は51.0%であった。
【0153】
【表12】
【0154】
(比較例5)
実施例1、2、比較例1〜4では、ターゲットの作製に用いたアトマイズ金属粉末はいずれも3種類であったが、本比較例5でターゲットの作製に用いるアトマイズ金属粉末は71Co−11Cr−18Pt合金粉末の1種類である。
【0155】
作製したターゲット全体の組成は、91(71Co−11Cr−18Pt)−3SiO
2−2TiO
2−4Cr
2O
3であり、比較例3、4と同じである。
【0156】
比較例5のターゲットを以下のようにして作製を行うとともに評価を行った。
【0157】
合金組成がCo:71at%、Cr:11at%、Pt:18at%となるように各金属を秤量し、1700℃まで加熱して71Co−11Cr−18Pt合金溶湯とし、ガスアトマイズを行って71Co−11Cr−18Pt合金粉末を作製した。そして、実施例1と同様に分級して71Co−11Cr−18Pt合金粉末を得た。
【0158】
分級後の71Co−11Cr−18Pt合金粉末1140.00gにSiO
2粉末27.34g、TiO
2粉末24.26g、Cr
2O
3粉末92.17gを添加して混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末(酸化物粉末が被覆された71Co−11Cr−18Pt合金粉末)を得た。用いたSiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末は、中心径0.6μmの1次粒子が凝集して、粒径がφ100μm程度の2次粒子を形成していたが、71Co−11Cr−18Pt合金粒子の周囲が酸化物粉末(SiO
2粉末、TiO
2粉末、Cr
2O
3粉末)により緻密に覆われた状態になるまでボールミルで混合分散を行い、加圧焼結用混合粉末(酸化物粉末が被覆された71Co−11Cr−18Pt合金粉末)を得た。
【0159】
作製した加圧焼結用混合粉末30gを、焼結温度:1160℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、テストピース(φ30mm)を作製した。得られたテストピースの厚さは4.5mm程度であった。作製したテストピースの密度を測定したところ、9.402(g/cm
3)であった。理論密度は9.56(g/cm
3)であるので、相対密度は98.35%であった。
【0160】
図26および
図27は、得られたテストピースの厚さ方向断面の金属顕微鏡写真であり、
図26は低倍率の写真で、
図27は高倍率の写真である。
【0161】
図26および
図27において、白っぽい部分が金属相(71Co−11Cr−18Pt相)である。比較例3の
図24および
図25と比較して、金属相(白っぽい部分)の大きさが小さくなっているとともに、濃い灰色の部分の面積が広くなっている。したがって、本比較例5は、比較例3、4と比べて金属相自体が微細化しているとともに、金属相と酸化物相とが微細に分散し合った領域が増加しているものと思われる。
【0162】
次に、作製した加圧焼結用混合粉末を用いて、焼結温度:1160℃、圧力:24.5MPa、時間:60min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の条件でホットプレスを行い、φ152.4mm×厚さ6.0mmのターゲットを作製した。作製したターゲットの密度を測定したところ、9.397(g/cm
3)であった。理論密度は9.56(g/cm
3)であるので、相対密度は98.30%であった。
【0163】
作製したターゲットについて、実施例1と同様にして、漏洩磁束についての評価を行った。下記の表13に示すように、平均漏洩磁束率は40.0%であった。
【0164】
【表13】
【0165】
(考察)
平均漏洩磁束率を測定した実施例1、2、比較例1〜5についての測定結果を下記の表14にまとめて示す。ただし、実施例1、2、比較例1、2において平均漏洩磁束率を測定したターゲットの厚さが7mmであるのに対し、比較例3〜5において平均漏洩磁束率を測定したターゲットの厚さは6mmであり、この厚さの違いにより、実施例1、2、比較例1、2よりも比較例3〜5の方が平均漏洩磁束率が大きく測定されやすくなる点に留意する必要がある。また、実施例1、2、比較例1、2のターゲット全体の組成が91(73Co−11Cr−16Pt)−4SiO
2−2TiO
2−3Cr
2O
3であるのに対し、比較例3〜5のターゲット全体の組成は91(71Co−11Cr−18Pt)−3SiO
2−2TiO
2−4Cr
2O
3であり、実施例1、2、比較例1、2のターゲットにおけるCoの含有割合が66.43mol%であるのに対し、比較例3〜5のターゲットにおけるCoの含有割合が64.61mol%であり、比較例3〜5のターゲットの方が強磁性金属元素であるCoの含有割合が小さくなっており、強磁性金属元素であるCoの含有割合の点からも、実施例1、2、比較例1、2よりも比較例3〜5の方が平均漏洩磁束率が大きく測定されやすくなる点に留意する必要がある。
【0166】
【表14】
【0167】
実施例1、2は、Co(強磁性金属元素)を含む磁性層と、Co(強磁性金属元素)を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性相(第1の非磁性相と第2の非磁性相)とを有しており、本発明の範囲に含まれる。実施例1、2では、第1の非磁性相と第2の非磁性相の両方にCoが含まれており、ターゲット全体におけるCo量を一定に保ちつつ磁性相(Co相)の体積分率を減少させることができ、ターゲットの平均漏洩磁束率を大きくすることができる。
【0168】
比較例1は、Co−Pt合金相のCoの含有割合が50at%と大きく、Co−Pt合金相が磁性相となっており、非磁性相は69Co−22Cr−9Pt合金相のみである。このため、ターゲット全体に対する磁性相の体積分率が実施例1、2よりも大きくなっており、平均漏洩磁束率が実施例1、2よりも12%程度小さくなっている。したがって、強磁性金属元素が含まれる非磁性相を複数設けることは、ターゲットの平均漏洩磁束率を向上させる上で重要と考えられる。
【0169】
比較例2は、Co−Pt合金相のCoの含有割合が50at%と大きく、Co−Pt合金相が磁性相となっており、非磁性相は69Co−22Cr−9Pt合金相のみである。また、加圧焼結用混合粉末を1段階の混合で作製しており、混合時に異なる組成の金属粉末間で連結が生じ、混合時および加圧焼結時に金属原子の移動(拡散)が生じているものと思われる。このため、69Co−22Cr−9Pt合金粉末から形成された相においても、その一部が磁性相となっている可能性がある。実際、比較例2のターゲットの平均漏洩磁束率は31.7%であり、実施例1、2と比べると38%程度小さくなっており、また、比較例1と比べても29%程度小さくなっており、69Co−22Cr−9Pt合金粉末から形成された相の一部は磁性相となっていると思われる。したがって、実施例1、2のように加圧焼結用混合粉末を2段階の混合で作製することは、ターゲットの平均漏洩磁束率を向上させる上で重要と考えられる。
【0170】
比較例3、4は、実施例1、2と同様に非磁性相を2つ有するが、第2の非磁性相がPt単体相であり、強磁性金属元素であるCoが含まれていない。このため、ターゲット全体における磁性相の体積分率が十分には小さくなっておらず、平均漏洩磁束率が十分には向上していないと考えられる。比較例3、4の平均漏洩磁束率は実施例1、2の平均漏洩磁束率と同程度であるが、前記したように、比較例3、4のターゲットの厚さは実施例1、2のターゲットの厚さよりも小さく、また、比較例3、4のターゲットに含まれるCoの含有割合は実施例1、2よりも小さいので、これらを実施例1、2と揃えた場合には、比較例3、4の平均漏洩磁束率は実施例1、2の平均漏洩磁束率よりもかなり小さくなると考えられる。
【0171】
なお、比較例3、4の平均漏洩磁束率を比較すると、焼結温度が1030℃の比較例3よりも、焼結温度が1000℃の比較例4の方が平均漏洩磁束率がわずかであるが大きくなっている。焼結温度が低い方が原子の拡散が起こりにくいため、このような結果になったものと思われる。したがって、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量を向上させたターゲットを作製するためには、焼結温度は低い方が好ましいと思われる。
【0172】
比較例5は、金属相が71Co−11Cr−18Pt合金相のみである。この金属相は磁性相であり、比較例5のターゲットには非磁性の金属相は存在していないと考えられ、磁性相の体積分率が高くなっていると考えられる。このため、比較例5のターゲットの平均漏洩磁束率は比較例3、4のターゲットの平均漏洩磁束率よりも小さくなったと考えられる。なお、比較例5のターゲットの平均漏洩磁束率は40.0%であるが、ターゲットの厚さおよびCoの含有割合を実施例1、2および比較例1、2に合わせた場合、平均漏洩磁束率の値は40.0%よりもかなり小さくなるものと思われる。