(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749152
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】シリカガラスルツボの表面粗さの三次元形状測定方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/10 20060101AFI20150625BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20150625BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/06 502B
C03B20/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-282410(P2011-282410)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-133228(P2013-133228A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠広
(72)【発明者】
【氏名】北原 賢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 江梨子
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−185545(JP,A)
【文献】
特開2001−048693(JP,A)
【文献】
特開平08−278117(JP,A)
【文献】
特開2006−096618(JP,A)
【文献】
特開2004−271247(JP,A)
【文献】
特開平09−196646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスルツボの内表面に沿って非接触で内部測距部を移動させ、
移動経路上の複数の測定点において、内部測距部から前記シリカガラスルツボの内表面に対して斜め方向にレーザー光を照射し、前記内表面からの内表面反射光を検出することによって、内部測距部と前記内表面の間の内表面距離を測定し、
各測定点の三次元座標と、前記内表面距離を関連付けることによって、前記シリカガラスルツボの内表面の三次元形状を求め、
この三次元形状上の複数の測定点において前記内表面の表面粗さを測定することによって、前記内表面の表面粗さの三次元分布を決定する工程を備えるシリカガラスルツボの表面粗さの三次元分布の決定方法。
【請求項2】
前記シリカガラスルツボの外表面に沿って外部測距部を移動させ、
移動経路上の複数の測定点において、外部測距部からシリカガラスルツボの外表面に対してレーザー光を照射し、前記外表面からの外表面反射光を検出することによって、前記外部測距部と前記外表面の間の外表面距離を測定し、
各測定点の三次元座標と、前記外表面距離を関連付けることによって、前記シリカガラスルツボの外表面の三次元形状を求め、
この三次元形状上の複数の測定点において前記外表面の表面粗さの三次元分布を決定する工程をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面粗さは、共焦点顕微鏡を用いて測定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記内部測距部からのレーザー光は、前記内表面に対して30〜60度の入射角で照射される、請求項1〜3の何れか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記内部測距部は、前記内部測距部を三次元的に移動させることができるように構成された内部ロボットアームに固定され、
前記シリカガラスルツボは、前記内部ロボットアームを覆うように配置される、請求項1〜4の何れか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記外部測距部は、前記外部測距部を三次元的に移動させることができるように構成された外部ロボットアームに固定される、請求項2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスルツボの表面粗さの三次元形状測定
方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造にはシリカガラスルツボを用いたチョクラルスキー法(CZ法)が採用されている。具体的には、シリカガラスルツボの内部にシリコン多結晶原料を熔融したシリコン融液を貯留し、シリコン単結晶の種結晶を接触させ、回転させながら徐々に引き上げ、シリコン単結晶の種結晶を核として成長させてシリコン単結晶を製造する。
【0003】
シリコン単結晶引き上げに用いるルツボは、一般に、回転モールドの内表面に平均粒径300μm程度のシリカ粉を堆積させてシリカ粉層を形成するシリカ粉層形成工程と、モールド側からシリカ粉層を減圧しながら、シリカ粉層をアーク熔融させることによってシリカガラス層を形成するアーク熔融工程を備える(この方法を「回転モールド法」と称する)。
【0004】
アーク熔融工程の初期にはシリカ粉層を強く減圧することによって気泡を除去して透明シリカガラス層(以下、「透明層」と称する。)を形成し、その後、減圧を弱くすることによって気泡が残留した気泡含有シリカガラス層(以下、「気泡含有層」と称する。)を形成することによって、内表面側に透明層を有し、外表面側に気泡含有層を有する二層構造のシリカガラスルツボを形成することができる。
【0005】
ルツボの製造に使用されるシリカ粉には、天然石英を粉砕して製造される天然シリカ粉や化学合成によって製造される合成シリカ粉があるが、特に天然シリカ粉は、天然物を原料としているので、物性・形状・サイズがばらつきやすい。物性・形状・サイズが変化すると、シリカ粉の溶融状態が変化するので、同じ条件でアーク熔融を行っても、製造されるルツボの内表面の表面粗さは、ルツボ毎に異なり、又は各ルツボにおいても部位毎に表面粗さが異なる場合がある。
【0006】
ルツボ内表面は、シリコン融液と接触する部分であり、シリコン融液は、引き上げ中にルツボ内でゆっくりと回転しているので、ルツボ内表面の表面粗さは、シリコン融液とルツボ内表面の間の摩擦力の大きさ、シリコン融液の湯面振動の程度、ルツボ内表面の溶損の程度等に影響を与え、そのため、製造されるシリコン単結晶の収率や特性にも影響を与える。
【0007】
特許文献1では、ルツボ内表面の表面粗さを特定の範囲内にすることによって、シリコン単結晶の引き上げ中に内表面に表面荒れが生じることを防ぐ技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11―292694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の通り、表面粗さは部位毎に差異があるが、特許文献1の方法では、そのような差異は全く考慮されていないので、表面粗さのバラツキの程度や引き上げ条件によっては、シリコン単結晶の引き上げにおいて問題が生じる場合がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、シリカガラスルツボの表面粗さの三次元分布を高精度に決定する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、シリカガラスルツボの内表面に沿って非接触で内部測距部を移動させ、移動経路上の複数の測定点において、内部測距部から前記シリカガラスルツボの内表面に対して斜め方向にレーザー光を照射し、前記内表面からの内表面反射光を検出することによって、内部測距部と前記内表面の間の内表面距離を測定し、各測定点の三次元座標と、前記内表面距離を関連付けることによって、前記シリカガラスルツボの内表面の三次元形状を求め、この三次元形状上の複数の測定点において前記内表面の表面粗さを測定することによって、前記内表面の表面粗さの三次元分布を決定する工程を備えるシリカガラスルツボの表面粗さの三次元分布の決定方法が提供される。
【0012】
上記の通り、ルツボ内表面の表面粗さは、シリコン単結晶引き上げ工程におけるパラメーターであるが、従来技術では表面粗さに特定の範囲内にすることが好ましい点が述べられていても、表面粗さの三次元分布について検討されたことはなかった。
【0013】
上記の通り、ルツボ内表面の表面粗さは、シリコン融液とルツボ内表面の間の摩擦力の大きさ、シリコン融液の湯面振動の程度、ルツボ内表面の溶損の程度に影響を与えるものである。本発明では、以下の方法によって、この表面粗さの三次元分布を高精度に決定することを可能にしている。
【0014】
本発明者らは、内表面の三次元形状を最初に特定して、その三次元形状上に複数の測定点において表面粗さを測定することによって表面粗さの三次元分布を決定しようとしたが、通常の三次元レーザースキャナを用いて、内表面の三次元形状を特定しようとしたところ、ルツボが透明体であるので、測定はうまくいかなかった。ルツボ内表面に光を照射して画像を取得し、その画像を解析する方法も試してみたが、この方法では、画像の解析に非常に長い時間がかかるため、ルツボの内表面全体の三次元形状の測定には到底使えるものではなかった。
【0015】
このような状況において、本発明者らは、ルツボの内表面に対して斜め方向からレーザー光を照射したところ、ルツボ内表面からの反射光(内表面反射光)の検出が可能であり、この反射光に基づいて内部測距部と内表面の間の内表面距離が測定可能であることを見出した。
【0016】
また、ルツボの内表面に沿った複数の測定点において測定が行われるが、各測定点での内部測距部の座標と内表面距離を関連付けることによって、各測定点に対応するルツボ内表面座標が得られる。
【0017】
そして、ルツボの内表面に沿って、メッシュ状に多数の測定点を配置して測定を行うことによって、メッシュ状の内表面座標が得られ、これによって、ルツボの内表面の三次元形状を求めることができる。
この方法が優れているのは、画像解析による方法に比べて、データのサンプリングレートが格段に大きいことであり、予備実験によると、直径1mのルツボで10万点の測定をする場合であっても、10分程度で内表面全体の三次元形状の測定を終えることができた。
【0018】
ルツボの内表面の三次元形状が求まった後は、この三次元形状上の複数の測定点で内表面の表面粗さを測定することによって、内表面の表面粗さの三次元分布を決定する。このような方法で表面粗さの三次元分布を決定した場合、内表面の三次元形状が高精度に求まっているので、内表面の表面粗さの三次元分布も高精度に決定することができる。
本発明の方法が優れている点は、表面粗さの三次元分布が非破壊で決定できるため、実際の製品の表面粗さの三次元分布が分かることである。従来は、ルツボを切断してサンプルを作成し、このサンプルの表面粗さを測定していたが、この方法では、実際の製品のデータが取得できないこと、サンプル作成に時間とコストがかかるという問題があるので、本発明は、実際の製品の表面粗さを低コストで測定できる点で利点が大きい。また、本発明は、外径28インチ以上の大型ルツボや、40インチ以上の超大型ルツボにおいて特に利点がある。なぜなら、このようなルツボにおいては、サンプル作成にかかる時間とコストが小型ルツボに比べて非常に大きいからである。
【0019】
内表面の表面粗さの三次元分布が決定されれば、この分布に基づいてルツボの品質検査を行うことができる。例えば、各部位の表面粗さが規定の範囲内に入っているかどうかだけではなく、そのバラツキが規定の範囲内に入っているかどうかに従って品質検査を行うことができ、規定の範囲外である場合には内表面をファイアーポリッシュする等によって表面粗さを調節して規定範囲内に入るようにすることができる。
【0020】
また、シリコン単結晶の引き上げ条件を設定する際に、内表面の表面粗さの三次元分布を考慮して条件設定を行うことができ、シリコン単結晶の引き上げを高精度に行うことができる。
【0021】
さらに、ルツボの使用前に内表面の表面粗さの三次元分布を決定しておくことによって、万が一、シリコン単結晶の引き上げがうまく行かなかった場合、その原因追求を行うことが容易になる。
【0022】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下の実施形態は、互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記シリカガラスルツボの外表面に沿って外部測距部を移動させ、移動経路上の複数の測定点において、外部測距部からシリカガラスルツボの外表面に対してレーザー光を照射し、前記外表面からの外表面反射光を検出することによって、前記外部測距部と前記外表面の間の外表面距離を測定し、各測定点の三次元座標と、前記外表面距離を関連付けることによって、前記シリカガラスルツボの外表面の三次元形状を求め、この三次元形状上の複数の測定点において前記外表面の表面粗さの三次元分布を決定する工程をさらに備える。
【0023】
好ましくは、前記表面粗さは、共焦点顕微鏡を用いて測定される
【0024】
好ましくは、内部測距部からのレーザー光は、前記内表面に対して30〜60度の入射角で照射される。
【0025】
好ましくは、内部測距部は、内部測距部を三次元的に移動させることができるように構成された内部ロボットアームに固定され、前記シリカガラスルツボは、内部ロボットアームを覆うように配置される。
【0026】
好ましくは、前記外部測距部は、前記外部測距部を三次元的に移動させることができるように構成された外部ロボットアームに固定される。
【0027】
好ましくは、前記シリカガラスルツボ内に保持されたシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる工程を備え、前記シリコン単結晶の引き上げ条件が、前記シリカガラスルツボの内表面の表面粗さの三次元分布に基づいて決定され、前記内表面の表面粗さの三次元分布は、上記方法によって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の内部測距部及びその近傍のシリカガラスルツボの拡大図である。
【
図5】
図5は、共焦点顕微鏡を用いて取得した内表面の三次元画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、
図1〜
図5を用いて、本発明の一実施形態のシリカガラスルツボの表面粗さの三次元分布の決定方法を説明する。
【0030】
<1.シリカガラスルツボ>
本実施形態で使用されるシリカガラスルツボ11は、一例では、回転モールドの内表面に平均粒径300μm程度のシリカ粉を堆積させてシリカ粉層を形成するシリカ粉層形成工程と、モールド側からシリカ粉層を減圧しながら、シリカ粉層をアーク熔融させることによってシリカガラス層を形成するアーク熔融工程を備える(この方法を「回転モールド法」と称する)方法によって製造される。
【0031】
アーク熔融工程の初期にはシリカ粉層を強く減圧することによって気泡を除去して透明シリカガラス層(以下、「透明層」と称する。)13を形成し、その後、減圧を弱くすることによって気泡が残留した気泡含有シリカガラス層(以下、「気泡含有層」と称する。)15を形成することによって、内表面側に透明層13を有し、外表面側に気泡含有層15を有する二層構造のシリカガラスルツボを形成することができる。
【0032】
ルツボの製造に使用されるシリカ粉には、天然石英を粉砕して製造される天然シリカ粉や化学合成によって製造される合成シリカ粉があるが、特に天然シリカ粉は、天然物を原料としているので、物性・形状・サイズがばらつきやすい。物性・形状・サイズが変化すると、シリカ粉の溶融状態が変化するので、同じ条件でアーク熔融を行っても、製造されるルツボの内表面の表面粗さは、ルツボ毎にばらついてしまい、また同じルツボ内においても部位毎にばらついてしまう。従って、製造したルツボの一つ一つについて、内表面の表面粗さの三次元分布を決定する必要がある。
【0033】
シリカガラスルツボ11は、円筒状の側壁部11aと、湾曲した底部11cと、側壁部11aと底部11cを連結し且つ底部11cよりも曲率が大きいコーナー部11bを備える。本発明において、コーナー部11bとは、側壁部11aと底部11cを連接する部分で、コーナー部の曲線の接線がシリカガラスルツボの側壁部11aと重なる点から、底部11cと共通接線を有する点までの部分のことを意味する。言い換えると、シリカガラスルツボ11の側壁部11aが曲がり始める点が側壁部11aとコーナー部11bの境界である。さらに、ルツボの底の曲率が一定の部分が底部11cであり、ルツボの底の中心からの距離が増したときに曲率が変化し始める点が底部11cとコーナー部11bとの境界である。
【0034】
<2.ルツボの内表面の三次元形状の測定方法>
以下、
図1〜
図4を用いて、ルツボの内表面の三次元形状の測定方法について説明する。本実施形態では、レーザー変位計などからなる内部測距部17をルツボ内表面に沿って非接触で移動させ、移動経路上の複数の測定点において、ルツボ内表面に対してレーザー光を斜め方向に照射し、その反射光を検出することによって、ルツボの内表面の三次元形状を測定する。以下、詳細に説明する。また、内表面形状を測定する際に、透明層13と気泡含有層15の界面の三次元形状も同時に測定することができ、また、内部測距部19を用いることによってルツボの外表面の三次元形状も測定することができるので、これらの点についても合わせて説明する。
【0035】
<2−1.シリカガラスルツボの設置、内部ロボットアーム、内部測距部>
測定対象であるシリカガラスルツボ11は、開口部が下向きになるように回転可能な回転台9上に載置されている。ルツボ11に覆われる位置に設けられた基台1上には、内部ロボットアーム5が設置されている。内部ロボットアーム5は、複数のアーム5aと、これらのアーム5aを回転可能に支持する複数のジョイント5bと、本体部5cを備える。本体部5cには図示しない外部端子が設けられており、外部とのデータ交換が可能になっている。内部ロボットアーム5の先端にはルツボ11の内表面形状の測定を行う内部測距部17が設けられている。内部測距部17は、ルツボ11の内表面に対してレーザー光を照射し、内表面からの反射光を検出することによって内部測距部17からルツボ11の内表面までの距離を測定する。本体部5c内には、ジョイント5b及び内部測距部17の制御を行う制御部が設けられている。制御部は、本体部5c設けられたプログラム又は外部入力信号に基づいてジョイント5bを回転させてアーム5を動かすことによって、内部測距部17を任意の三次元位置に移動させる。具体的には、内部測距部17をルツボ内表面に沿って非接触で移動させる。従って、制御部には、ルツボ内表面の大まかな形状データを与え、そのデータに従って、内部測距部17の位置を移動させる。より具体的には、例えば、
図1(a)に示すようなルツボ11の開口部近傍に近い位置から測定を開始し、
図1(b)に示すように、ルツボ11の底部11cに向かって内部測距部17を移動させ、移動経路上の複数の測定点において測定を行う。測定間隔は、例えば、1〜5mmであり、例えば2mmである。測定は、予め内部測距部17内に記憶されたタイミングで行うか、又は外部トリガに従って行う。測定結果は、内部測距部17内の記憶部に格納されて、測定終了後にまとめて本体部5cに送られるか、又は測定の度に、逐次本体部5cに送られるようにする。内部測距部17は、本体部5cとは別に設けられた制御部によって制御するように構成してもよい。
【0036】
ルツボの開口部から底部11cまでの測定が終わると、回転台9を少し回転させ、同様の測定行う。この測定は、底部11cから開口部に向かって行ってもよい。回転台9の回転角は、精度と測定時間との考慮して決定されるが、例えば、2〜10度である。回転角が大きすぎると測定精度が十分でなく、小さすぎると測定時間が掛かりすぎる。回転台9の回転は、内蔵プログラム又は外部入力信号に基づいて制御される。回転台9の回転角は、ロータリーエンコーダ等によって検出可能である。回転台9の回転は、内部測距部17及び後述する外部測距部19の移動と連動してすることが好ましく、これによって、内部測距部17及び外部測距部19の3次元座標の算出が容易になる。
【0037】
後述するが、内部測距部17は、内部測距部17から内表面までの距離(内表面距離)、及び内部測距部17から透明層13と気泡含有層15の界面までの距離(界面距離)の両方を測定することができる。ジョイント5bの角度はジョイント5bに設けられたロータリーエンコーダ等によって既知であるので、各測定点での内部測距部17の位置の三次元座標及び方向が既知になるので、内表面距離及び界面距離が求まれば、内表面での三次元座標、及び界面での三次元座標が既知となる。そして、ルツボ11の開口部から底部11cまでの測定が、ルツボ11の全周に渡って行われるので、ルツボ11の内表面の三次元形状、及び界面の三次元形状が既知になる。また、内表面と界面の間の距離が既知になるので、透明層13の厚さも既知になり、透明層の厚さの三次元分布が求められる。
【0038】
<2−2.外部ロボットアーム、外部測距部>
ルツボ11の外部に設けられた基台3上には、外部ロボットアーム7が設置されている。外部ロボットアーム7は、複数のアーム7aと、これらのアームを回転可能に支持する複数のジョイント7bと、本体部7cを備える。本体部7cには図示しない外部端子が設けられており、外部とのデータ交換が可能になっている。外部ロボットアーム7の先端にはルツボ11の外表面形状の測定を行う外部測距部19が設けられている。外部測距部19は、ルツボ11の外表面に対してレーザー光を照射し、外表面からの反射光を検出することによって外部測距部19からルツボ11の外表面までの距離を測定する。本体部7c内には、ジョイント7b及び外部測距部19の制御を行う制御部が設けられている。制御部は、本体部7c設けられたプログラム又は外部入力信号に基づいてジョイント7bを回転させてアーム7を動かすことによって、外部測距部19を任意の三次元位置に移動させる。具体的には、外部測距部19をルツボ外表面に沿って非接触で移動させる。従って、制御部には、ルツボ外表面の大まかな形状データを与え、そのデータに従って、外部測距部19の位置を移動させる。より具体的には、例えば、
図1(a)に示すようなルツボ11の開口部近傍に近い位置から測定を開始し、
図1(b)に示すように、ルツボ11の底部11cに向かって外部測距部19を移動させ、移動経路上の複数の測定点において測定を行う。測定間隔は、例えば、1〜5mmであり、例えば2mmである。測定は、予め外部測距部19内に記憶されたタイミングで行うか、又は外部トリガに従って行う。測定結果は、外部測距分19内の記憶部に格納されて、測定終了後にまとめて本体部7cに送られるか、又は測定の度に、逐次本体部7cに送られるようにする。外部測距部19は、本体部7cとは別に設けられた制御部によって制御するように構成してもよい。
【0039】
内部測距部17と外部測距部19は、同期させて移動させてもよいが、内表面形状の測定と外表面形状の測定は独立して行われるので、必ずしも同期させる必要はない。
【0040】
外部測距部19は、外部測距部19から外表面までの距離(外表面距離)を測定することができる。ジョイント7bの角度はジョイント7bに設けられたロータリーエンコーダ等によって既知であるので、外部測距部19の位置の三次元座標及び方向が既知になるので、外表面距離が求まれば、外表面での三次元座標が既知となる。そして、ルツボ11の開口部から底部11cまでの測定が、ルツボ11の全周に渡って行われるので、ルツボ11の外表面の三次元形状が既知になる。
以上より、ルツボの内表面及び外表面の三次元形状が既知になるので、ルツボの壁厚の三次元分布が求められる。
【0041】
<2−3.距離測定の詳細>
次に、
図2を用いて、内部測距部17及び外部測距部19による距離測定の詳細を説明する。
図2に示すように、内部測距部17は、ルツボ11の内表面側(透明層13側)に配置され、外部測距部19は、ルツボ11の外表面側(気泡含有層15側)に配置される。内部測距部17は、出射部17a及び検出部17bを備える。外部測距部19は、出射部19a及び検出部19bを備える。また、内部測距部17及び外部測距部19は、図示しない制御部及び外部端子を備える。出射部17a及び19aは、レーザー光を出射するものであり、例えば、半導体レーザーを備えるものである。出射されるレーザー光の波長は、特に限定されないが、例えば、波長600〜700nmの赤色レーザー光である。検出部17b及び19bは、例えばCCDで構成され、光が当たった位置に基づいて三角測量法の原理に基づいてターゲットまでの距離が決定される。
【0042】
内部測距部17の出射部17aから出射されたレーザー光は、一部が内表面(透明層13の表面)で反射し、一部が透明層13と気泡含有層15の界面で反射し、これらの反射光(内表面反射光、界面反射光)が検出部17bに当たって検出される。
図2から明らかなように、内表面反射光と界面反射光は、検出部17bの異なる位置に当たっており、この位置の違いによって、内部測距部17から内表面までの距離(内表面距離)及び界面までの距離(界面距離)がそれぞれ決定される。好適な入射角θは、内表面の状態、透明層13の厚さ、気泡含有層15の状態等によって、変化しうるが例えば30〜60度である。
【0043】
図3は、市販のレーザー変位計を用いて測定された実際の測定結果を示す。
図3に示すように、2つのピークが観察されており、内表面側のピークが内表面反射光によるピークであり、外表面側のピークが界面反射光によるピークに対応する。このように、透明層13と気泡含有層15の界面からの反射光によるピークもクリアに検出されている。従来は、このような方法で界面の特定がなされたことがなく、この結果は非常に斬新である。
【0044】
内部測距部17から内表面までの距離が遠すぎる場合や、内表面又は界面が局所的に傾いている場合には、2つのピークが観測されない場合がある。その場合には、内部測距部17を内表面に近づけたり、内部測距部17の傾けてレーザー光の出射方向を変化させて、2つのピークが観測される位置及び角度を探索することが好ましい。また、2つのピークが同時に観測されなくても、ある位置及び角度において内表面反射光によるピークを観測し、別の位置及び角度において界面反射光によるピークを観測するようにしてもよい。また、内部測距部17が内表面に接触することを避けるために、最大近接位置を設定しておいて、ピークが観測されない場合でも、その位置よりも内表面に近づけないようにすることが好ましい。
また、透明層13中に独立した気泡が存在する場合、この気泡からの反射光を内部測距部17が検出してしまい、透明層13と気泡含有層15の界面を適切に検出できない場合がある。従って、ある測定点Aで測定された界面の位置が前後の測定点で測定された界面の位置から大きく(所定の基準値を超えて)ずれている場合には、測定点Aでのデータを除外してもよい。また、その場合、測定点Aからわずかにずれた位置で再度測定を行って、得られたデータを採用してもよい。
【0045】
また、外部測距部19の出射部19aから出射されたレーザー光は、外表面(気泡含有層15)の表面で反射し、その反射光(外表面反射光)が検出部19bに当たって検出され、検出部19b上での検出位置に基づいて外部測距部19と外表面の間の距離が決定される。
図4は、市販のレーザー変位計を用いて測定された実際の測定結果を示す。
図4に示すように、1つのピークのみが観察される。ピークが観測されない場合には、外部測距部19を内表面に近づけたり、外部測距部19の傾けてレーザー光の出射方向を変化させて、ピークが観測される位置及び角度を探索することが好ましい。
【0046】
<3.ルツボの内表面の表面粗さの三次元分布の決定方法>
ルツボの内表面の三次元形状が求まった後は、この三次元形状上の複数の測定点において内表面の表面粗さを測定することによって、その三次元分布を決定する。
各測定点での表面粗さの測定方法は、非接触式であれば特に限定されないが、焦点が合った面からの情報を選択的に取得することができる共焦点顕微鏡を用いれば、高精度な測定が可能である。また、共焦点顕微鏡を用いれば、
図5に示すような表面の詳細な三次元構造の情報を取得することができるので、この情報を用いて表面粗さを求めることができる。表面粗さには、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均高さRzがあり、これらの何れを採用してもよく、表面の粗さを反映する別のパラメーターを採用してもよい。
測定点の配置は、特に限定されないが、例えば、ルツボの開口部から底部に向かう方向には5〜20mm間隔で配置し、円周方向には例えば10〜60度間隔である。
具体的な測定は、例えば、共焦点顕微鏡用プローブを内部ロボットアーム5の先端に取り付け、内部測距部17と同様の方法で、非接触で内表面に沿って移動させる。内部測距部17を移動させる際には、内表面の大雑把な三次元形状が分かっているだけで内表面の正確な三次元形状は分かっていなかったので、その大雑把な三次元形状に基づいて内部測距部17を移動させていたが、表面粗さの測定時には、内表面の正確な三次元形状が分かっているので、共焦点顕微鏡用プローブを移動させる際に、内表面とプローブとの距離を高精度に制御することが可能である。
共焦点顕微鏡用プローブをルツボの開口部から底部まで移動させ、その移動経路上の複数点で表面粗さを測定した後は、回転台9を回転させて、ルツボ11の別の部位の表面粗さの測定を行う。
このような方法でルツボの内表面全体に渡って表面粗さを測定することができ、その測定結果により、ルツボの内表面の表面粗さの三次元分布を決定することができる。
また、ルツボの外表面についても外表面の三次元形状上の複数の測定点において、内表面と同様の方法で表面粗さを測定することによって外表面の表面粗さの三次元分布を決定することができる。