(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで柱状構造物を打撃する方法の一つとして、作業者がゴムハンマー等を用いて打撃する方法がある。しかしながら、柱状構造物の打撃面は曲面であることから、ハンマー打撃の方向や荷重が不均一になりやすく、精度の高い振動データが収録できない場合がある。また、特許文献1の手法によると、一つの柱状構造物において円周方向に複数回打撃する必要があり、かつ複数本の計測となることから打撃で疲労してしまい、特に作業者が高齢化している近年においては怪我につながる可能性がある。さらに、計測者が打撃に集中しなければならないため、例えば車の交通量が多い場所に建っている電柱を計測している際に、車の作業帯への侵入に気付きにくいという安全上の課題も考えられる。したがって、前記の課題を解決しない限り、弾性波振動モードを利用した柱状構造物の損傷を診断する手法は現場運用に供する際にリスクを伴う。以上のような理由から、弾性波振動モードを利用した柱状構造物の損傷を診断することが望まれている反面、これまでの打撃法では実現困難であった。
【0007】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、精度の高い振動データを取得することができ、かつ作業者の負担を軽減することができる打撃装置及び打撃方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る打撃装置は、
打撃装置部と、円周移動設置部とを備える打撃装置であって、
前記円周移動設置部は
スライドレールを有し、前記スライドレールにより前記打撃装置部に接続され、柱状構造物の円周方向に前記打撃装置部を移動可能に設置し、
前記打撃装置部は、
打撃部ヘッドと
、前記打撃部ヘッドに接続されたソレノイドと
を含む打撃部と、
所定電圧で前記ソレノイドを駆動して前記打撃部ヘッドを押し出して前記柱状構造物を打撃するように制御する制御部と
を有
し、
前記打撃部が前記柱状構造物を打撃した後、前記打撃部は打撃の反力で前記スライドレールを使用して打撃逆方向にスライドすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る打撃方法は、
打撃装置部と円周移動設置部とを備える打撃装置による打撃方法であって、
前記打撃装置部
は、
打撃部ヘッドと、前記打撃部ヘッドに接続されたソレノイドと
を含む打撃部と、
制御部と
を有し、
前記円周移動設置部は
スライドレールを有し、前記スライドレールにより前記打撃装置部に接続されており、
前記円周移動設置部により柱状構造物の円周方向に前記打撃装置部を移動して設置するステップと、
前記制御部により前記ソレノイドを駆動して前記打撃部ヘッドを押し出して前記柱状構造物を打撃するステップと、
前記打撃部が前記柱状構造物を打撃した後、前記打撃部は打撃の反力で前記スライドレールを使用して打撃逆方向にスライドするステップと
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明における打撃装置及び打撃方法によれば、精度の高い振動データを取得することができ、かつ作業者の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は本発明の一実施形態に係る打撃装置1のブロック図である。本発明の一実施形態に係る打撃装置1は、打撃装置部2と、円周移動設置部3とを備える。打撃装置部2は、電源部21と、制御部22と、打撃部23とを備える。打撃装置部2は概略として、電源部21からの給電により、制御部22が打撃部23のソレノイド231を駆動して打撃部ヘッド234を押し出し、柱状構造物を打撃する。ソレノイド231及び打撃部ヘッド234については後述する。
【0014】
円周移動設置部3は、打撃装置接続部31と、柱状構造物設置部32とを備える。打撃装置接続部31は打撃装置部2と接続し、柱状構造物設置部32は柱状構造物の円周方向に打撃装置部2を移動可能に設置する。
【0015】
図2に打撃装置部2の構成を示す。電源部21は、制御部22及び打撃部23のソレノイド231を動作させるための電気を供給する。電源部21は、例えばバッテリーを用いたDC給電やコンセント又は発電機からのAC給電を行う。電源部21は、ソレノイドの動作方式に応じてDC又はACのコンバートを行い給電する。
【0016】
制御部22は、電源部21から給電された電気を用い、ソレノイド231が駆動する所定の電圧まで昇圧した電気を打撃部23に供給し、所定の電圧でソレノイド231を駆動制御する。また制御部22は、打撃回数と各打撃の時間間隔(以下、打撃間隔時間という。)を設定し、設定した打撃回数と打撃間隔時間に応じて、打撃部23により複数回打撃するようにソレノイド231を駆動制御する。制御部22は、所定のタイミングで打撃のためのトリガを発出する。
【0017】
打撃部23は制御部22が発出したトリガ、又は打撃部23に設けられた打撃ボタン232の押下により発出されたトリガに基づき、該トリガが発生したタイミングでソレノイド231を駆動し柱状構造物を打撃する。複数回打撃する場合、打撃部23は、制御部22が発出したトリガに基づき2回目以降の打撃を行う。
【0018】
図3は、制御部22の構成を示す図である。制御部22は、電源用インターフェース220と、打撃部用電源インターフェース221と、電源スイッチ222(ON/OFFスイッチ222)と、電源ランプ223と、打撃回数設定部224と、打撃間隔時間設定部225と、打撃スイッチ226と、動作中ランプ227と、打撃停止スイッチ228と、フューズ229とを備える。
【0019】
電源用インターフェース220は電源部21からの電力の供給を受けるインターフェースである。電源用インターフェース220は電源部21と電源ケーブル24により接続され、電源部21からの電力供給を受ける。打撃部用電源インターフェース221は、制御部22から打撃部23に電力を供給するためのインターフェースである。打撃部用電源インターフェース221は打撃部23と電源ケーブル25により接続される。電源用インターフェース220及び打撃部用電源インターフェース221は、メンテナンスや充電のため必要に応じてそれぞれ電源ケーブル24及び電源ケーブル25が容易に着脱できる構造が望ましい。
【0020】
電源スイッチ222は、作業者の操作によりON又はOFFにすることにより、制御部22の装置を動作又は停止させるためのスイッチである。打撃部23は制御部22を介して給電されるため、電源スイッチ222により打撃部23の動作又は停止を制御可能である。電源スイッチ222をONにしたタイミングから打撃部23のソレノイド231の充電を開始する。複数回打撃する場合は、打撃毎に充電が行われる。
【0021】
電源ランプ223は、電源切り忘れによるバッテリー切れと誤動作による事故等を防止するために電源ON/OFFの状況を報知するためのランプである。電源ONの場合、電源ランプ223が点灯し、電源OFFの場合、電源ランプ223が消灯する。
【0022】
打撃回数設定部224は、打撃部23による打撃の回数を、作業者の入力に基づき設定可能な入力インターフェースである。制御部22は、打撃回数設定部224により設定された打撃回数分、打撃部23により打撃するように制御する。
図3は打撃回数が1回に設定されている例を示しており、打撃回数設定部224の表示部2240に“1”と表示される。ボタン2241が押下された場合、打撃回数は1回加算される。ボタン2242が押下された場合、打撃回数は1回減算される。ただし打撃回数が1回に設定されている場合、ボタン2242が押下しても打撃回数を減算せず、打撃回数は1のままである。
【0023】
打撃間隔時間設定部225は、複数回打撃する場合において打撃部23による打撃の時間間隔を、作業者の入力に基づき設定可能な入力インターフェースである。打撃間隔時間はソレノイド231を駆動させるための充電に必要な最低の時間(以下、最低充電時間という。)以上の時間をリニアに設定可能とする。すなわち打撃間隔時間は、最低充電時間以上の任意の時間とするように設定可能である。制御部22は、打撃間隔時間設定部225により設定された打撃間隔時間でトリガを発出する。
図3は、打撃間隔時間が10秒に設定されている例を示す。打撃間隔時間設定部225のツマミ2250を作業者が回転させることにより、打撃間隔時間をリニアに変更することができる。
図3の例では、ツマミ2250を時計回りに回転させた場合、打撃間隔時間が増加する。またツマミ2250を反時計回りに回転させた場合、打撃間隔時間が減少する。なお
図3の例ではソレノイド231の最低充電時間は3秒である。好適には、ツマミ2250を3秒を示す位置より反時計回りに回転させることはできない。
【0024】
打撃スイッチ226は、作業者による押下げにより打撃のためのトリガを発出するためのインターフェースである。打撃スイッチ226により発出するトリガ又は打撃部23の打撃ボタン232に基づき初回の打撃を行う。複数回打撃を行う場合、2回目以降の打撃は、制御部22が打撃間隔時間設定部225により設定された打撃間隔時間で発出したトリガに基づき行う。
【0025】
動作中ランプ227は、打撃部23により所定の打撃間隔時間で複数回打撃をする場合に、初回の打撃から最後の打撃が終了するまで点灯するランプである。当該動作中ランプにより、打撃部23が動作中であることを作業者は認知することができる。特に連続打撃の設定によっては間隔を開けて長時間動作するため、運用面と安全確保の観点から当該ランプを備えることが好ましい。
【0026】
打撃停止スイッチ228は、打撃部23により所定の打撃間隔時間で複数回打撃をする場合に、初回の打撃から最後の打撃が終了するまでの任意のタイミングで打撃を中断するためのスイッチである。
【0027】
フューズ229は、過電圧又は過電流が生じた場合に電源部21から制御部22への給電を停止し、制御部22を保護する。
【0028】
図4は、打撃部23の構造を示す図である。打撃部23の側面図及び正面図をそれぞれ
図4(a)及び
図4(b)に示す。打撃部23は、カバー230と、ソレノイド231と、打撃ボタン232と、シャフト233と、打撃部ヘッド234と、打撃部重量調整用おもり235と、ガイド236と、軸受け部(237、238)と、すべり軸受け(239、240)と、リターン用スプリング241と、衝撃吸収パッド242と、グリップ243と、一脚取付ネジ構造244と、を備える。
【0029】
カバー230は、打撃部23の各部材を収容する。好適にはカバー230は防水加工が施され雨風等による打撃部23の故障を防止する。
【0030】
ソレノイド231は、好適にはプッシュ型ソレノイドであり、制御部22と接続された電源ケーブル25から電気の供給を受ける。ソレノイド231は、制御部22の打撃スイッチ226又は打撃部23の打撃ボタン232によりトリガが発出されたタイミングで駆動し、ソレノイド231に連結されたシャフト233を介して、打撃部ヘッド234を押し出す。打撃部ヘッド234は、シャフト233を介してソレノイド231に接続され、ソレノイド231の駆動により押し出されて柱状構造物を打撃する。
【0031】
打撃部重量調整用おもり235は、打撃対象の柱状構造物に応じて打撃部ヘッド234の質量を変更するための部材である。打撃部ヘッド234の形状は
図4に示すものに限られず、打撃対象の柱状構造物に応じて打撃面の形状や面積を変更する。
【0032】
ガイド236は、打撃部23と柱状構造物との距離(離隔)を設けるための部材である。ガイド236による離隔は、適宜変更可能である。離隔を変更することで打撃部23による打撃力を調整することができる。なおガイド236を備えなくてもよく、カバー230の端部により離隔を設けるようにしてもよい。
【0033】
軸受け部(237、238)はソレノイド231と打撃部ヘッド234との間に設けられ、シャフト233を支持する。また軸受け部(237、238)は、カバー230に固定される。軸受け部(237、238)とシャフト233との間にはすべり軸受け(239、240)が設けられ、シャフト233との摩擦力を低減し、シャフト233が軸方向に平行移動可能なように構成する。
【0034】
リターン用スプリング241は、軸受け部237とシャフト233とに接続される。当該リターン用スプリングにより、ソレノイド231、シャフト233、及び打撃部ヘッド234の初期位置の位置決めをする。例えばリターン用スプリング241が伸縮していない状態(自然状態)におけるソレノイド231、シャフト233、及び打撃部ヘッド234の位置を初期位置とする。リターン用スプリング241は、シャフト233が打撃部ヘッド234を押し出す方向(
図4(a)における左方向、以下打撃方向という。)に移動した場合に収縮し、当該押し出す方向とは反対方向(
図4(a)における右方向、以下打撃逆方向という。)の力をシャフト233に与える。すなわちリターン用スプリング241は、打撃部ヘッド234が移動した方向と逆方向の力を生じるため、打撃部ヘッド234の自由な移動を拘束し、打撃部ヘッド234による不要な打撃、いわゆる2度打ちを防止することができる。耐久性と耐候性の観点から、打撃部ヘッド234が打撃時の反動で戻ってきた際に、内部の固定金物等を破損させるリスクを低減するために衝撃吸収パッド242を設置することが好ましい。
【0035】
グリップ243は、作業者が打撃部23を把持するために備えられる。好適にはグリップ243の端部には一脚取付ネジ構造244が設けられ、打撃部23単体でも手持ちもしくは一脚に搭載した状態で打撃を可能とすることが望ましい。
【0036】
図5は、打撃部23の動作を示す図である。打撃前(
図5(a))においては、ガイド236を打撃対象である柱状構造体に押し当て、ソレノイド231は給電されている。初期位置は、リターン用スプリング241により位置決めされている。
【0037】
次に打撃時(
図5(b))において、打撃スイッチ226又は打撃ボタン232を押下されると、トリガが発出されたタイミングでソレノイド231を駆動させ、シャフト233を介して打撃部ヘッド234を柱状構造物の方向に押し出し、柱状構造物を打撃する。
【0038】
続いて打撃後(
図5(c))において、打撃の反動とリターン用スプリング241の力により打撃部ヘッド234が打撃逆方向に移動し、リターン用スプリング241の力で打撃方向に戻る際に衝撃吸収パッド242で跳ね返りを抑える。このようにして打撃部ヘッド234を初期位置にて停止することで2度打ちを防止する。
【0039】
図6は、円周移動設置部3の構造、すなわち打撃装置接続部31及び柱状構造物設置部32の構造を示す図である。円周移動設置部3の正面図及び側面図を、それぞれ
図6(a)及び
図6(b)に示す。
【0040】
打撃装置接続部31は、打撃方向及び打撃逆方向にスライド可能なようにフレーム310に接続するスライドレール311とスプリング312により打撃部23と接続する。ショックアブソーバ付ストッパ313は、打撃部23と柱状構造物との距離を調整し、また打撃の反力に基づく打撃部23の移動による衝撃を吸収する。
【0041】
柱状構造物設置部32は、移動用タイヤ320及び固定バンド321により構成される。各打撃角度に移動用タイヤ320により打撃部23を移動し、所望の打撃場所で固定バンド321により打撃部23を固定する。移動用タイヤ320は打撃時には回転しないようロック機構(不図示)を備え、移動時にはロックが開放され円周方向に自由にスライド移動できる構造を備えていることが望ましい。固定バンド321は、多様なサイズの柱状構造物に設置できる構造が望ましく、例えばラチェット式巻き取りベルト等により構成する。例えば、固定バンド321をラチェット式巻き取りベルトにより構成する場合、打撃時にはラチェット式巻き取りベルトを締めると回転しないよう移動用タイヤ320のロックがかかり、移動時にはラチェット式巻き取りベルトを緩めると当該ロックが開放されるといった構造により実現する。
【0042】
図7は、打撃装置接続部31の動作を示す図である。打撃前(
図7(a))において、最適な打撃の離隔にするため、初期位置をショックアブソーバ付ストッパ313の位置で調整する。打撃時(
図7(b))において、打撃部23は、打撃の反力でスライドレールを使用して打撃逆方向にスライドする。打撃後(
図7(c))において、打撃部23はスプリング312により初期位置に戻され、ショックアブソーバ付ストッパ313により緩やかに初期位置で停止する。
【0043】
図8は、柱状構造物に設置された打撃部23を、30°毎に円周方向に移動させて使用した例を示している。
図8(a)〜(f)はそれぞれ0°、30°、60°、90°、120°、及び150°に打撃部23を設置している。
図8(a)〜(f)を上から見た図をそれぞれ
図8(a’)〜(f’)に示す。移動時には固定バンド321を緩め、移動用タイヤ320を用いて移動させ、再度打撃場所において固定バンド321で固定する。好適には、打撃角度を表示するベルト等を併用し、打撃角度が容易に認知できるようにすることが望ましい。
【0044】
このように本発明によれば、打撃部23が所定の電圧によりソレノイド231を駆動し、均一の打撃を柱状構造物に与えるため、精度の高い振動データを取得することができ、かつ作業者の負担を軽減することができる。
【0045】
また本発明によれば、制御部22により、所定の打撃間隔時間でソレノイド231を所定回数駆動し、柱状構造物を所定回数均一の力で打撃するため、さらに精度の高い振動データを取得することができ、かつ作業者の負担を軽減することができる。
【0046】
また本発明によれば、打撃部23がリターン用スプリング241を備えるため、打撃部ヘッド234の移動を拘束し、2度打ちを効果的に防止することができる。また本発明によれば、円周移動設置部が、スプリング312を介して打撃装置部23を接続するため、打撃部23の移動を拘束し、2度打ちを効果的に防止することができる。
【0047】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。