特許第5749411号(P5749411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5749411酸化物半導体層及びその製造方法、並びに酸化物半導体の前駆体、酸化物半導体層、半導体素子、及び電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5749411
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】酸化物半導体層及びその製造方法、並びに酸化物半導体の前駆体、酸化物半導体層、半導体素子、及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20150625BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20150625BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20150625BHJP
   C08G 64/34 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   H01L21/368 Z
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
   C08G64/34
【請求項の数】19
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-554108(P2014-554108)
(86)(22)【出願日】2014年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2014067960
【審査請求日】2014年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-166318(P2013-166318)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-262975(P2013-262975)
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
(72)【発明者】
【氏名】川北 知紀
(72)【発明者】
【氏名】藤本 信貴
(72)【発明者】
【氏名】西岡 聖司
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/014885(WO,A1)
【文献】 特開2009−290112(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/103528(WO,A2)
【文献】 特開2013−018696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/368
C08G 64/34
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体を、基板上又はその上方に層状に形成する前駆体層の形成工程と、
前記前駆体層を、前記バインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱した後、前記第1温度よりも高く、かつ前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度以上の温度によって前記前駆体層を焼成する焼成工程と、を含む、
酸化物半導体層の製造方法。
【請求項2】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体を、基板上又はその上方に層状に形成する前駆体層の形成工程と、
前記前駆体層を、前記バインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱した後、前記第1温度よりも高く、かつ前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記化合物の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度以上の温度によって前記前駆体層を焼成する焼成工程と、を含む、
酸化物半導体層の製造方法
【請求項3】
前記第2温度が、前記第1温度よりも10℃以上高い、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物半導体層の製造方法。
【請求項4】
前記第2温度が、前記第1温度よりも50℃以上高い、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物半導体層の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程の後、さらに紫外線を照射する照射工程を含む、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体層の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪族ポリカーボネートが、エポキシドと二酸化炭素とを重合させた脂肪族ポリカーボネートである、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体層の製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族ポリカーボネートが、ポリエチレンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体層の製造方法。
【請求項8】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体であって、かつ、
前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度よりも低い第1温度によって前記バインダーが90wt%以上分解される、
酸化物半導体の前駆体。
【請求項9】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体であって、かつ、
前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記化合物の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度よりも低い第1温度によって前記バインダーが90wt%以上分解される、
酸化物半導体の前駆体。
【請求項10】
前記第2温度が、前記第1温度よりも10℃以上高い、
請求項8又は請求項9に記載の酸化物半導体の前駆体。
【請求項11】
前記第2温度が、前記第1温度よりも50℃以上高い、
請求項8又は請求項9に記載の酸化物半導体の前駆体。
【請求項12】
前記脂肪族ポリカーボネートが、エポキシドと二酸化炭素とを重合させた脂肪族ポリカーボネートである、
請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の酸化物半導体の前駆体。
【請求項13】
前記脂肪族ポリカーボネートが、ポリエチレンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、
請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の酸化物半導体の前駆体。
【請求項14】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体の層を、前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度以上で焼成することにより形成され、かつ、前記第2温度よりも低い第1温度によって前記バインダーが90wt%以上分解される、
酸化物半導体層。
【請求項15】
酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体の層を、前記金属と酸素とが結合する温度であって、前記化合物の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度以上で焼成することにより形成され、かつ、前記第2温度よりも低い第1温度によって前記バインダーが90wt%以上分解される、
酸化物半導体層。
【請求項16】
前記第2温度が、前記第1温度よりも10℃以上高い、
請求項14又は請求項15に記載の酸化物半導体層。
【請求項17】
前記第2温度が、前記第1温度よりも50℃以上高い、
請求項14又は請求項15に記載の酸化物半導体層。
【請求項18】
請求項14乃至請求項17のいずれか1項に記載の酸化物半導体層を備えた、
半導体素子。
【請求項19】
請求項18に記載の半導体素子を備えた、
電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体層及びその製造方法、並びに酸化物半導体の前駆体、酸化物半導体層、半導体素子、及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、微細かつ薄い膜を積層することによって形成された小型増幅管であり、ゲート、ソース、及びドレインを備える三端子素子である。
【0003】
従来、薄膜トランジスタのチャネル層として、主に、多結晶シリコン膜、又は非晶質シリコン膜が用いられてきた。しかしながら、多結晶シリコン膜の場合、結晶粒子間の界面で起こる電子の散乱等により、電子移動度が制限され、結果としてトランジスタ特性にばらつきが生じていた。また、非晶質シリコン膜の場合、電子移動度が非常に低く、時間による素子の劣化が発生し易いため、素子の信頼性が低くなるという問題がある。そこで、電子移動度が非晶質シリコン膜より高く、且つ多結晶シリコン膜よりトランジスタ特性のばらつきが少ない、酸化物半導体に関心が集まっている。
【0004】
最近では、フレキシブルな樹脂基板上に電子デバイスを、印刷法や塗布法等の低エネルギー製造プロセスで作製しようという試みが盛んになされている。印刷法や塗布法を用いることにより、直接、基板上に半導体層をパターニングできる結果、パターニングのためのエッチング処理工程を省くことができるという利点がある。
【0005】
例えば、特許文献1〜3にあるように、導電性高分子や有機半導体を用いて塗布フレキシブル電子デバイスを作製する試みが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−134547号公報
【特許文献2】特開2007−165900号公報
【特許文献3】特開2007−201056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
様々な形態の情報端末や情報家電が産業界及び消費者に求められる中、半導体は、より高速に動作し、長期間安定であり、且つ低環境負荷であることが必要となる。しかしながら、従来技術では、例えば、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセスといった比較的長時間、及び/又は高価な設備を要するプロセスを採用するのが一般的であるため、原材料や製造エネルギーの使用効率が非常に悪くなる。これは、工業性ないし量産性の観点から好ましくない。一方、現状では、これまで主流として用いられているシリコン半導体に対して、上述の印刷法や塗布法によるプロセス(以下、総称して「低エネルギー製造プロセス」という)を適応することは極めて困難である。また、特許文献1〜3に記載された導電性高分子や有機半導体を採用した場合であっても、その電気物性や安定性は未だ不十分である。
【0008】
ところで、低エネルギー製造プロセスと、機能性溶液ないし機能性ペーストを用いて製造される半導体素子及び電子デバイスとは、電子デバイスのフレキシブル化、及び上述の工業性ないし量産性の観点から、現在、産業界において非常に注目を集めている。
【0009】
しかし、一般的に、低エネルギー製造プロセスの代表例である、印刷法によって形成される層の厚さと半導体素子に要求される層の厚さとは違いがある。具体的には、印刷法を用いたパターニングの際には比較的厚い層が形成されるが、半導体素子に要求される層の厚さは一般的に非常に薄い。また、低エネルギー製造プロセスに用いられるペースト又は溶液(例えば、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を、バインダーを含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体)には、パターニングを行うための好適な粘度が存在することから、バインダーを添加することによってその粘度が調整されている。従って、特に半導体素子を構成する層(代表的には、酸化物半導体層)を形成する際には、バインダーを添加したペースト又は溶液を用いてパターニングを行った後、そのバインダーを可能な限り除去した上で、層を薄くしなければならない。しかしながら、この薄層化の過程においてクラックが発生するという問題が生じ得る。
【0010】
この酸化物半導体層を形成するための焼成によってバインダーはある程度分解されるが、依然としてある一定の量は不純物としてペースト又は溶液内に残存することになる。ここで、炭素不純物に代表される不純物の残存は、その量がある値を超えれば半導体の電気特性の悪化を確度高く招くことになる。従って、低エネルギー製造プロセスを用いた半導体素子の製造には依然として多くの技術課題が残されたままである。
【0011】
省エネルギー化が求められる昨今、低エネルギー製造プロセスにより形成された基板上の膜を焼成することによって、所望の薄い酸化物半導体層を形成するとともに、その酸化物半導体層を備える半導体素子を製造することは、上述の課題の解決に向けて大きく前進することになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の諸問題の少なくとも1つを解決することにより、クラック(又は亀裂、以下、総称して「クラック」という)の生成が低減され、電気的特性及び安定性に優れる酸化物半導体層、及び該酸化物半導体層を備えた半導体素子や電子デバイスの提供に大きく貢献するものである。
【0013】
本願発明者らは、液体材料から種々の酸化物半導体層を形成する研究を行う中で、液体からゲル膜に至る過程、及びゲル膜から固化ないし焼結に至る過程について多面的に詳細に分析を行った。その結果、ほぼ完全にバインダーが分解される温度と差別化できる程度の高い温度によって、酸化物半導体前駆体材料がゲル膜から固化ないし焼結することができる材料を選定することによって、上述の課題を解決し得ることを知見した。なお、前述の「液体からゲル膜に至る過程」は、代表的な例で言えば、熱処理によってバインダーと溶媒を除去するが、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物(例えば、配位子を有する金属錯体)が分解されていない状況をいう。また、前述の「ゲル膜から固化ないし焼結に至る過程」は、代表的な例で言えば、前述の配位子が分解し、酸化されたときに酸化物半導体となる金属と酸素との結合が実質的に出来上がる状況をいう。
【0014】
そして、多くの試行錯誤と分析の結果、本願発明者らは、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー中に、ある特定の酸化物半導体の前駆体をある溶液中に分散させた材料から膜を形成することにより、半導体素子として利用できる程度の高い電気伝導性を得ることが確認できた。また、その膜は、低エネルギー製造プロセスによって容易に形成することができることも確認された。本発明は、上述の視点と数多くの分析に基づいて創出された。
【0015】
本発明の1つの酸化物半導体層の製造方法は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体を基板上又はその上方に層状に形成する前駆体層の形成工程と、その前駆体層を、そのバインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱した後、その第1温度よりも高く、かつ前述の金属と酸素とが結合する温度であって、その前駆体の示差熱分析法(DTA:differential thermal analysis)における発熱ピーク値である第2温度以上の温度によってその前駆体層を焼成する焼成工程とを含む。
【0016】
この酸化物半導体層の製造方法によれば、脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーが、上述のバインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱されることにより、そのバインダーがほぼ分解することになる。そうすると、その第1温度よりも高く、かつ酸化されたときに酸化物半導体となる金属と酸素とが結合する温度であって、その酸化物半導体の前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度と同じ温度又はそれを超える温度によってその前駆体の層を焼成することにより、酸化物半導体層中に、炭素不純物に代表される不純物の残存を確度高く抑えることができる。また、第1温度での加熱によってバインダーがほぼ分解することにより、その後の第2温度での焼成時には、バインダーの分解過程がほぼ生じなくなるとともに、金属と酸素との結合にほぼ特化した反応が行われると考えられる。その結果、この酸化物半導体層の製造方法によれば、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた半導体素子や電子デバイスを実現することができる。なお、より確度高く炭素不純物に代表される不純物の残存を抑える観点から言えば、第1温度は、上述のバインダーを95wt%以上分解させる温度であることが好ましく、そのバインダーを99wt%以上分解させる温度であることがさらに好ましい。また、この酸化物半導体層の製造方法によれば、容易に、低エネルギー製造プロセスによる層の形成を実現することができる。
【0017】
また、本発明の1つの酸化物半導体の前駆体は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体であって、かつ、その金属と酸素とが結合する温度であって、その前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度よりも低い第1温度によってそのバインダーが90wt%以上分解される前駆体である。
【0018】
この酸化物半導体の前駆体によれば、酸化されたときに酸化物半導体となる金属と酸素とが結合する温度であって、その前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である温度(第2温度)よりも低く、かつそのバインダーを90wt%以上分解させる温度(第1温度)によって上述のバインダーが加熱されることにより、そのバインダーがほぼ分解することになる。そうすると、そのような前駆体を焼成することによって得られる酸化物半導体層中には、炭素不純物に代表される不純物の残存を確度高く抑えることができる。また、第1温度での加熱によってバインダーがほぼ分解することにより、その後の第2温度での焼成時には、バインダーの分解過程がほぼ生じなくなるとともに、金属と酸素との結合にほぼ特化した反応が行われると考えられる。その結果、この酸化物半導体の前駆体を用いて酸化物半導体層を形成することにより、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた半導体素子や電子デバイスを実現することができる。なお、より確度高く炭素不純物に代表される不純物の残存を抑える観点から言えば、上述のバインダーを分解させる第1温度は、そのバインダーを95wt%以上分解させる温度であることが好ましく、そのバインダーを99wt%以上分解させる温度であることがさらに好ましい。
【0019】
また、本発明の1つの酸化物半導体層は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体の層を、その金属と酸素とが結合する温度であって、その前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である第2温度以上で焼成することにより形成され、かつ、その第2温度よりも低い第1温度によって前記バインダーが90wt%以上分解される酸化物半導体層である。
【0020】
この酸化物半導体層によれば、酸化されたときに酸化物半導体となる金属と酸素とが結合する温度であって、その前駆体の示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である温度(第2温度)よりも低く、かつそのバインダーを90wt%以上分解させる温度(第1温度)によって上述のバインダーが加熱されることにより、そのバインダーがほぼ分解することになる。そうすると、そのような酸化物半導体層中には、炭素不純物に代表される不純物の残存を確度高く抑えることができる。また、第1温度での加熱によってバインダーがほぼ分解することにより、その後の第2温度と同じ温度又はそれを超える温度での焼成時には、バインダーの分解過程がほぼ生じなくなるとともに、金属と酸素との結合にほぼ特化した反応が行われると考えられる。その結果、この酸化物半導体層を採用することにより、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた半導体素子や電子デバイスを実現することができる。なお、より確度高く炭素不純物に代表される不純物の残存を抑える観点から言えば、上述のバインダーを分解させる第1温度は、そのバインダーを95wt%以上分解させる温度であることが好ましく、そのバインダーを99wt%以上分解させる温度であることがさらに好ましい。
【0021】
なお、本願における「基板」とは、板状体の基礎に限らず、その他の形態の基礎ないし母材を含む。また、本願における「層」は、層のみならず膜をも含む概念である。逆に、本願における「膜」は、膜のみならず層をも含む概念である。加えて、本願の後述する各実施形態においては、「塗布」とは、低エネルギー製造プロセス、すなわち、印刷法や塗布法によってある基板上に層を形成することをいう。
【発明の効果】
【0022】
本発明の1つの酸化物半導体層の製造方法によれば、製造された酸化物半導体層中に、炭素不純物に代表される不純物の残存を確度高く抑えることができる。その結果、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた半導体素子や電子デバイスを実現することができる。加えて、この酸化物半導体層の製造方法によれば、低エネルギー製造プロセスを実現することができる。また、本発明の1つの酸化物半導体の前駆体によれば、炭素不純物に代表される不純物の残存が確度高く抑えられる酸化物半導体層を形成することができる。また、本発明の1つの酸化物半導体層によれば、その酸化物半導体層中に、炭素不純物に代表される不純物の残存を確度高く抑えることができる。従って、本発明の1つの酸化物半導体の前駆体又は酸化物半導体層によれば、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた半導体素子や電子デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図3】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図4】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図5】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図6】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図7】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図8】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図9】本発明の第1の実施形態における薄膜トランジスタの全体構成及びその製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図10】本発明の実施例における酸化物半導体層の厚みの変化を示すグラフである。
図11】本発明の実施例における酸化物半導体層の表面の光学顕微鏡写真である。
図12】本発明の比較例における酸化物半導体層の表面の光学顕微鏡写真である。
図13】本発明の実施例における薄膜トランジスタのチャネルを形成するための酸化物半導体の前駆体を構成するインジウム−亜鉛含有溶液のTG−DTA特性を示すグラフである。
図14】本発明の実施例における薄膜トランジスタのチャネル部を形成するためのバインダー溶液のTG−DTA特性を示すグラフである。
図15】本発明の第1の実施形態に相当する実施例における薄膜トランジスタのチャネルのVg−Id特性測定システムを示す図である。
図16】本発明の第1の実施形態に相当する実施例における薄膜トランジスタのチャネルのVg−Id特性を示すグラフである。
図17】本発明の第1の実施形態の変形例に相当する実施例における薄膜トランジスタのチャネルのVg−Id特性を示すグラフである。
図18】本発明の第2の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図19】本発明の第2の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図20】本発明の第2の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図21】本発明の第2の実施形態における薄膜トランジスタの製造方法の一過程を示す断面模式図である。
図22】本発明の第2の実施形態における薄膜トランジスタの全体構成及びその製造方法の一過程を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0024】
10 基板
20 ゲート電極
32 ゲート絶縁層用前駆体層
34 ゲート絶縁層
42 チャネル用前駆体層
44 チャネル
50 ITO層
56 ドレイン電極
58 ソース電極
90 レジスト膜
100,200 薄膜トランジスタ
M1 チャネル用型
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態である酸化物半導体の前駆体、酸化物半導体層、半導体素子、及び電子デバイス並びにそれらの製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0026】
<第1の実施形態>
1.本実施形態の薄膜トランジスタの全体構成
図1乃至図8は、それぞれ、半導体素子の一例である薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、図9は、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。図9に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、基板10上に、下層から、ゲート電極20、ゲート絶縁層34、チャネル44、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。なお、この半導体素子を備える電子デバイス(例えば、携帯端末や情報家電、あるいはその他の公知の電化製品)の提供ないし実現は、本実施形態の半導体素子を理解する当業者であれば特に説明を要せず十分に理解され得る。
【0027】
また、薄膜トランジスタ100は、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。また、本出願における温度の表示は、特に説明がなければ、基板と接触するヒーターの場合はその設定温度を表しており、基板と非接触のヒーターの場合は加熱対象物の表面付近の温度を表している。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0028】
本実施形態の基板10は、特に限定されず、一般的に半導体素子に用いられる基板が用いられる。例えば、高耐熱ガラス、SiO/Si基板(すなわち、シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板)、アルミナ(Al)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面上にSiO層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板等、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板等)を含む種々の絶縁性基材が適用できる。なお、絶縁性基板には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、アラミド、芳香族ポリアミドなどの材料からなる、フィルム又はシートが含まれる。また、基板の厚さは特に限定されないが、例えば3μm以上300μm以下である。また、基板は、硬質であってもよく、フレキシブルであってもよい。
【0029】
(1)ゲート電極の形成
ゲート電極20の材料には、例えば、白金、金、銀、銅、アルミ、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、ルテニウム酸化物を含む導電性の金属酸化物、あるいはp−シリコン層やn−シリコン層が適用できる。本実施形態では、図1に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法やCVD法により基材であるSiO/Si基板(以下、単に「基板」ともいう)10上に形成される。
【0030】
(2)ゲート絶縁層の形成
また、本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、ゲート絶縁層34が、シリコン(Si)を含む前駆体(例えば、ポリシラザン(polysilazane))を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするシリコン酸化物(但し、不可避不純物を含み得る。以下、この材料の酸化物に限らず他の材料の酸化物についても同じ。)である。
【0031】
本実施形態では、図2に示すように、ゲート電極層20上に低エネルギー製造プロセス(例えば、印刷法又はスピンコート法)を用いて上述のゲート絶縁層用前駆体溶液を塗布することにより、ゲート絶縁層用前駆体層32が形成される。その後、ゲート絶縁層用前駆体層32を、例えば、大気中で、所定時間(例えば、2時間)、400℃で加熱する焼成工程が行われる。その結果、図3に示すように、ゲート電極20上に、シリコン酸化物の層であるゲート絶縁層34が形成される。なお、本実施形態のゲート絶縁層34の厚みは、例えば、約100nmである。
【0032】
(3)チャネルの形成
本実施形態のチャネル44は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物(「金属化合物」ともいう)を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダー(不可避不純物を含み得る。以下、同じ)を含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体の層(以下、「酸化物半導体の前駆体層」又は「前駆体層」ともいう)を焼成することによって形成される。
【0033】
ここで、上述の金属化合物の一例は、酸化されたときに酸化物半導体(不可避不純物を含み得る)となる金属に、配位子が配位した構造(代表的には錯体構造)を有する材料である。例えば、金属有機酸塩、金属無機酸塩、金属ハロゲン化物、又は各種の金属アルコキシドも本実施形態の金属化合物に含まれ得る。なお、代表的な金属化合物の例としては、インジウムアセチルアセトナートと塩化亜鉛をプロピオン酸に溶解させた溶液が挙げられる。この溶液を焼成することによって酸化物半導体であるインジウム−亜鉛酸化物(以下、「InZnO」ともいう)を形成することができる。
【0034】
また、酸化されたときに酸化物半導体(不可避不純物を含み得る)となる金属の例は、インジウム、スズ、亜鉛、カドミウム、チタン、銀、銅、タングステン、ニッケル、インジウム−亜鉛、インジウム−スズ、インジウム−ガリウム−亜鉛、アンチモン−スズ、ガリウム−亜鉛の群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。但し、これまで本願発明者らによって把握されている素子性能や安定性等の観点から言えば、インジウム、インジウム−亜鉛が、酸化されたときに酸化物半導体となる金属として採用されることが好ましい。
【0035】
本実施形態における材料の選定により、その金属と酸素とが結合する温度であって、示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値である温度(第2温度)が、バインダーを分解させる温度に比べて十分に高いため、あるいは、その発熱ピーク値である温度(第2温度)よりもバインダーを分解させる温度が十分に低いため、より確度高くバインダーを90wt%以上(より好ましくは95wt%以上であり、さらに好ましくは99wt%以上、最も好ましくは、99.9wt%以上)分解できる。
【0036】
なお、酸化物半導体の相状態は、特に限定されない。例えば、結晶状又は多結晶状、あるいはアモルファス状のいずれであってもよい。また、結晶成長の結果として、樹枝状又は鱗片状の結晶の場合も、本実施形態において採用し得る一つの相状態である。加えて、パターニングされた形状(例えば、球状、楕円状、矩形状)にも特定されないことは言うまでもない。
【0037】
次に、本実施形態におけるバインダー及びバインダーを含む溶液について説明する。
【0038】
本実施形態においては、バインダーとして、熱分解性の良い吸熱分解型の脂肪族ポリカーボネートが用いられる。なお、バインダーの熱分解反応が吸熱反応であることは、示差熱分析法(DTA)によって確認することができる。このような脂肪族ポリカーボネートは、酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解することが可能であるため、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存量を低減させることに積極的に寄与する。
【0039】
また、本出願において、バインダーを含む溶液に採用される有機溶媒は、脂肪族ポリカーボネートを溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒の具体例は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、α−ターピネオール、β−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどである。これらの有機溶媒の中でも、沸点が適度に高く、室温での蒸発が少なく、得られる酸化物半導体の前駆体を焼成する際に均一に有機溶媒が除去できる観点から、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、α−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、及びプロピレンカーボネートが好適に用いられる。
【0040】
本実施形態の金属化合物、バインダー及び有機溶媒からなる前駆体の製造方法は、特に限定されない。例えば、金属化合物、バインダー、及び有機溶媒の各成分を、従来公知の攪拌方法を用いて攪拌して均一に分散、溶解する方法が採用され得る。また、金属化合物を含む有機溶媒とバインダーを有機溶媒に溶解した溶液とを、従来公知の攪拌方法を用いて攪拌して前駆体を得る方法も採用され得る一態様である。
【0041】
上述の公知の攪拌方法には、例えば、攪拌機を用いて混合する方法、あるいはセラミックスボールが充填されたミル等の装置を用いて、回転及び/又は振動させることにより混練する方法が含まれる。
【0042】
また、金属化合物の分散性を向上させる観点から、バインダーを含む溶液には、所望により分散剤、可塑剤等をさらに添加することができる。
【0043】
上述の分散剤の具体例は、
グリセリン、ソルビタン等の多価アルコールエステル;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンイミン等のアミン;
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の(メタ)アクリル樹脂;
イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、及びそのアミン塩など
である。
【0044】
上述の可塑剤の具体例は、ポリエーテルポリオール、フタル酸エステルなどである。
【0045】
また、本実施形態の酸化物半導体の前駆体層を形成する方法は、特に限定されない。低エネルギー製造プロセスによる層の形成は、好適な一態様である。より具体的には、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法、又はロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗工法などを用いることができる。特に、簡便な方法であるスピンコート法、及びスクリーン印刷により基板に塗布することにより、酸化物半導体の前駆体層を形成することが好ましい。
【0046】
そこで、図4に示すように、ゲート絶縁層34上に、換言すれば、基板10の上方に、低エネルギー製造プロセスにより、チャネル用前駆体層42を形成する。なお、酸化物半導体の前駆体層であるチャネル用前駆体層42の厚さ(wet)は特に限定されない。
【0047】
その後、予備焼成(「第1予備焼成」ともいう)工程として、所定時間(例えば、3分間)、例えば150℃で加熱することにより、厚みが約600nmのチャネル用前駆体層42を形成する。この第1予備焼成工程は、主にゲート絶縁層34上のチャネル用前駆体層42の定着を目的とするものであるため、後述する第2予備焼成工程を行う場合は、第1予備焼成工程を省略することもできる。
【0048】
本実施形態では、その後、チャネル用前駆体層42中のバインダーを分解させるために、所定の温度(第1温度)により第2予備焼成工程(乾燥工程)が行われる。本実施形態の第2予備焼成工程では、バインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱する。この第2予備焼成工程と、後述する本焼成(焼成工程)とが相俟って、最終的にチャネル用前駆体層42中の、特にバインダーに起因する炭素不純物に代表される不純物をほぼ消失させることができる。なお、チャネル44中の特にバインダーに起因する炭素不純物に代表される不純物の残存をより確度高く抑える観点から言えば、第1温度は、上述のバインダーを95wt%以上分解させる温度であることが好ましく、そのバインダーを99wt%以上分解させる温度であることはさらに好ましい。
【0049】
ここで、第2予備焼成工程は、常温常圧乾燥に限られない。例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥など、基板やゲート絶縁層などに悪影響を与えない限り、加熱や減圧などの処理を行ってもよい。なお、第2予備焼成工程は、酸化物半導体層の平滑性に影響を与え得る工程であるが、溶媒によって乾燥中の挙動が異なるため、溶媒の種類によって、適宜、第2予備焼成工程の温度(第1温度)等の条件が選定される。
【0050】
一例としての本実施形態の第2予備焼成工程は、チャネル用前駆体層42を所定時間(例えば、30分間)、例えば180℃以上300℃以下の範囲で加熱する。なお、上述の予備焼成は、例えば、酸素雰囲気中又は大気中(以下、総称して、「酸素含有雰囲気」ともいう。)で行われる。なお、窒素雰囲気中で第2予備焼成工程が行われることも採用し得る一態様である。
【0051】
その後、本焼成、すなわち「焼成工程」として、チャネル用前駆体層42を、例えば、酸素含有雰囲気において、所定時間、200℃以上、より好適には300℃以上、加えて、電気的特性において更に好適には500℃以上の範囲で加熱する。その結果、図5に示すように、ゲート絶縁層34上に、酸化物半導体層であるチャネル44が形成される。なお、本焼成後の酸化物半導体層の最終的な厚さは、代表的には0.01μm以上10μm以下である。特に、0.01μm程度(つまり、10nm程度)の極めて薄い層が形成された場合であっても、クラックが生じにくいことは、特筆に値する。
【0052】
ここで、この焼成工程における設定温度は、酸化物半導体の形成過程において金属化合物の配位子を分解した上でその金属と酸素とが結合する温度であるとともに、後述する示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値の温度(第2温度)以上の温度が選定される。この焼成工程により、チャネル用前駆体層42中のバインダー、分散剤、及び有機溶媒が、確度高く分解及び/又は除去されることになる。なお、第2温度が第1温度に対して10℃以上高いことは、より確度高く、本焼成後の酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存を抑える観点から好適な一態様である。加えて、第2温度が第1温度に対して50℃以上高いことにより、さらに確度高くそのような不純物の残存を抑えることが可能となる。そして、最終的な酸化物半導体層の厚みの制御性及び/又は薄層化の実現、及び不純物の残存の低減の観点から言えば、第2温度が第1温度に対して100℃以上高いことは最も好適な例である。他方、第2温度と第1温度との最大差については特に限定されない。
【0053】
本願出願人らの分析によれば、上述の第1温度での加熱によってバインダーがほぼ分解することにより、その後の第2温度以上の温度での焼成工程(本焼成)においては、そのバインダーの分解過程はほぼ生じなくなるとともに、金属と酸素との結合にほぼ特化した反応が行われると考えられる。すなわち、理想的には、第1温度と第2温度の役割を異ならせることが、上述のとおり、非常に薄い層であっても、後述するようにクラックの生成を生じにくくさせていると考えられる。
【0054】
なお、上述の第1予備焼成工程、第2予備焼成工程、及び本焼成(焼成工程)のいずれにおいても、加熱方法は特に限定されない。例えば、恒温槽や電気炉などを用いる従来の加熱方法でもよいが、特に、基板が熱に弱い場合には、基板に熱が伝わらないように紫外線加熱、電磁波加熱やランプ加熱によって酸化物半導体層のみを加熱する方法を用いることが好ましい。
【0055】
ここで、本実施形態におけるバインダーの例には、アクリル樹脂、脂肪族ポリカーボネート、ポリ乳酸などが含まれる。これらのバインダーの中でも、脂肪族ポリカーボネートは、焼成分解後において酸化物半導体層中に残存する分解生成物を低減、又は消失させることができるだけでなく、緻密な酸化物半導体層の形成に寄与し、さらにゲート絶縁層に代表される下地と酸化物半導体層との密着性を高めることができる。従って、脂肪族ポリカーボネートを採用することは本実施形態の好適な一態様である。
【0056】
なお、本実施形態で用いられる脂肪族ポリカーボネートの種類は特に限定されない。例えば、エポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートも、本実施形態において採用し得る好適な一態様である。このようなエポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートを用いることにより、脂肪族ポリカーボネートの構造を制御することで吸熱分解性を向上させられる、所望の分子量を有する脂肪族ポリカーボネートが得られるという効果が奏される。とりわけ、脂肪族ポリカーボネートの中でも酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解する観点から言えば、脂肪族ポリカーボネートは、ポリエチレンカーボネート、及びポリプロピレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
また、上述のエポキシドは、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されない。例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシド、及び3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等のエポキシドは、本実施形態において採用し得る一例である。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシド、及びプロピレンオキシドが好適に用いられる。なお、上述の各エポキシドは、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられることもできる。
【0058】
上述の脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000であり、より好ましくは10000〜500000である。脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量が5000未満の場合、バインダーとしての効果が十分ではなく、酸化物半導体層にクラックが生成したり、基板と酸化物半導体層との密着性が低下するおそれがある。また、脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量が1000000を超える場合、脂肪族ポリカーボネートの有機溶媒への溶解性が低下するために取り扱いが難しくなるおそれがある。なお、前述の数平均分子量の数値は、後述の実施例に示す方法によって測定した値である。
【0059】
また、上述の脂肪族ポリカーボネートの製造方法の一例として、上述のエポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が採用され得る。
【0060】
また、上述の金属触媒の具体例は、アルミニウム触媒又は亜鉛触媒である。これらの中でも、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられる。また、亜鉛触媒の中でも有機亜鉛触媒が特に好ましく用いられる。
【0061】
また、上述の有機亜鉛触媒の具体例は、
酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;あるいは、
一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒など
である。
これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒を採用することは好適な一態様である。
【0062】
また、重合反応に用いられる上述の金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0063】
上述の重合反応において必要に応じて用いられる反応溶媒は、特に限定されるものではない。この反応溶媒は、種々の有機溶媒が適用し得る。この有機溶媒の具体例は、
ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;
ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒など
である。
【0064】
また、上述の反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、500質量部以上10000質量部以下であることが好ましい。
【0065】
また、上述の重合反応において、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、オートクレーブに、上述のエポキシド、金属触媒、及び必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が採用され得る。
【0066】
加えて、上述の重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されない。代表的には、0.1MPa〜20MPaであることが好ましく、0.1MPa〜10MPaであることがより好ましく、0.1MPa〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0067】
さらに、上述の重合反応における重合反応温度は、特に限定されない。代表的には、30〜100℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。重合反応温度が30℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概には言えないが、代表的には、2時間〜40時間であることが好ましい。
【0068】
重合反応終了後は、ろ過等によりろ別し、必要により溶媒等で洗浄後、乾燥させることにより、脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0069】
なお、本実施形態においては、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物とバインダーとの重量比を変動させることにより、最終的なチャネル44の厚みを制御することが可能であることも、本願発明者らの研究によって確認された。例えば、非常に薄い層といえる、10nm〜50nmの厚みのチャネル44がクラックを発生させることなく形成され得ることが分かった。なお、前述の薄い層のみならず、50nm以上の厚みの層についても、チャネル用前駆体層42の厚みや、前述の重量比などを適宜調整することにより、比較的容易に形成することができる。なお、一般的には、チャネルに用いられる層の厚みは0.01μm(つまり10nm)以上1μm以下であることから、最終的なチャネル44の厚みを制御することが可能な本実施形態の酸化物半導体の前駆体、並びに酸化物半導体層は、薄膜トランジスタを構成する材料として適しているといえる。
【0070】
加えて、本実施形態の酸化物半導体の前駆体を採用すれば、当初はかなり厚膜(例えば、10μm以上)の酸化物半導体の前駆体層を形成したとしても、その後の焼成工程によってバインダー等が高い確度で分解されることになるため、焼成後の層の厚みは、極めて薄く(例えば、10nm〜100nm)なり得る。さらに、そのような薄い層であっても、クラックの発生が無い、又は確度高く抑制されることになる点は、特筆に値する。従って、当初の厚みを十分に確保できる上、最終的に極めて薄い層を形成することも可能な本実施形態の酸化物半導体の前駆体、並びに酸化物半導体層は、低エネルギー製造プロセスや後述する型押し加工によるプロセスにとって極めて適していることが知見された。また、そのような極めて薄い層であってもクラックの発生が無い、又は確度高く抑制される酸化物半導体層の採用は、本実施形態の薄膜トランジスタ100の安定性を極めて高めることになる。
【0071】
さらに、本実施形態においては、上述の金属化合物の種類や組み合わせ、バインダーと混合させる比率を適宜調節することにより、チャネルを形成する酸化物半導体層の電気的特性や安定性の向上を図ることができる。
【0072】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
さらにその後、図6に示すように、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、チャネル44及びレジスト膜90上に、公知のスパッタリング法により、ITO層50を形成する。本実施形態のターゲット材は、例えば、5wt%酸化錫(SnO)を含有するITOであり、室温〜100℃の条件下において形成される。その後、レジスト膜90が除去されると、図7に示すように、チャネル44上に、ITO層50によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0073】
その後、ドレイン電極56、ソース電極58、及びチャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、レジスト膜90、ドレイン電極56の一部、及びソース電極58の一部をマスクとして、公知のアルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチング法を用いて、露出しているチャネル44を除去する。その結果、パターニングされたチャネル44が形成されることにより、薄膜トランジスタ100が製造される。
【0074】
<第1の実施形態の変形例>
本実施形態の薄膜トランジスタは、第1の実施形態におけるチャネルの焼成工程(本焼成)後に、さらに紫外線を照射する照射工程が行われている点を除き、第1の実施形態の薄膜トランジスタ100の製造工程及び構成と同様である。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0075】
本実施形態では、第1の実施形態におけるチャネルの焼成工程(本焼成)後に、公知の低圧水銀ランプ(SAMCO社製、型式:UV−1)を用いて、185nmと254nmの波長を持つ紫外線が照射された。その後、第1の実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法と同様の工程が行われた。なお、本実施形態においては、紫外線の波長は特に限定されるものではない。185nm又は254nm以外の紫外線であっても同様の効果が奏され得る。
【0076】
<実施例>
以下に、酸化物半導体の前駆体及び酸化物半導体層の製造例、実施例、及び比較例とともに、酸化物半導体層を備えた半導体素子(本実施例では薄膜トランジスタ)の実施例を用いて具体例を説明するが、上述の各実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
[製造例1](有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた300mL容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛8.1g(100ミリモル)、グルタル酸12.7g(96ミリモル)、酢酸0.1g(2ミリモル)、及びトルエン130g(150mL)を仕込んだ。次に、反応系内を窒素雰囲気に置換した後、そのフラスコを55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌することにより、前述の各材料の反応処理を行った。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で4時間攪拌して共沸脱水させ、水分のみを除去した。その後、そのフラスコを室温まで冷却することにより、有機亜鉛触媒を含む反応液を得た。
【0078】
この反応液の一部を分取し、ろ過して得た有機亜鉛触媒について、IRを測定(サーモニコレージャパン株式会社製、商品名:AVATAR360)した。その結果、カルボン酸基に基づくピークは認められなかった。
【0079】
[製造例2](ポリプロピレンカーボネートの製造)
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1と同様の方法により得られた有機亜鉛触媒を含む反応液8.0mL(有機亜鉛触媒を1.0g含む)、ヘキサン131g(200mL)、及びプロピレンオキシド46.5g(0.80モル)を仕込んだ。次に、攪拌しながら二酸化炭素を加えることによって反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、そのオートクレーブを60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら6時間重合反応を行った。
【0080】
反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した。その後、減圧乾燥することによりポリプロピレンカーボネート(本願では、「PPC」ともいう)80.8gを得た。
【0081】
得られたポリプロピレンカーボネートは、下記の物性を有することから同定することができた。
IR(KBr)の吸収ピーク:1742,1456,1381,1229,1069,787(いずれも単位はcm−1
また、得られたポリプロピレンカーボネートの数平均分子量は、52000であった。
【0082】
[製造例3](酸化物半導体の前駆体の製造)
50mL容のナス型フラスコに、インジウムアセチルアセトナート2.06g及びプロピオン酸7.94gを仕込むことにより、10gの第1溶液を得た(0.5mol/kg)。同様にして、50mL容のナス型フラスコに、塩化亜鉛0.68g及び2−メトキシエタノールを仕込むことにより、10gの第2溶液を得た(0.5mol/kg)。その後、第1溶液と第2溶液を、撹拌しながら徐々に混合することにより、最終的にインジウム−亜鉛酸化物となる、インジウム−亜鉛含有溶液を得た。
【0083】
50mL容のナス型フラスコに、製造例2で得られたポリプロピレンカーボネートをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート中に溶解し、ポリプロピレンカーボネート溶液10gを得た(6.25wt%)。
次に、そのポリプロピレンカーボネートの溶液中に、上述のインジウム−亜鉛含有溶液を徐々に加え、重量比10:2の酸化物半導体の前駆体を得た。
【0084】
[製造例3の変形例](酸化物半導体の前駆体の製造)
なお、酸化物半導体の前駆体層(第1の実施形態におけるチャネル用前駆体層42)におけるポリプロピレンカーボネート(PPC)とインジウム−亜鉛含有溶液(本願では、「InZn溶液」ともいう)との重量比を異ならせた変形例を製造した。
具体的には、上記の製造例3の例と併せて、以下の(a)〜(c)に示す3種類の重量比を製造した。
(a)PPC:InZnO=10:1.5
(b)PPC:InZnO=10:2
(c)PPC:InZnO=10:1
【0085】
[製造例3に対する比較例(1)]
製造例3において、ポリプロピレンカーボネートを用いなかったことを除き、製造例3と同様に処理することにより、比較用の酸化物半導体の前駆体を得た。
【0086】
[薄膜トランジスタの製造例]
本製造例においては、まず、基板10の上にゲート電極20として、p−シリコン層を形成した。p−シリコン層は、公知のCVD法により形成された。本製造例では、基板10は、SiO/Si基板であり、SiO上に約10nm厚のTiO膜(図示しない)を備えている。なお、基板10がp−シリコン基板である場合は、この基板10がゲート電極の役割を果たし得る。
【0087】
次に、ゲート電極20上に、公知のスピンコーティング法により、ポリシラザンを溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。その後、第1の実施形態と同様に大気中でゲート絶縁層用前駆体層32を加熱することにより、ゲート電極20上に、シリコン酸化物の層であるゲート絶縁層34が形成される。なお、ゲート絶縁層34の厚みは、約109nmであった。
【0088】
その後、ゲート絶縁層34上に、印刷法(具体的には、スクリーン印刷、凸版反転印刷、インプリント法等)により、製造例3及びその変形例において示す(a)〜(c)の3種類の酸化物半導体の前駆体層を形成する。第1予備焼成工程、第2予備焼成工程、及び焼成工程(本焼成)は、いずれも第1の実施形態と同様である。なお、チャネル44の厚みは約20nmである。
【0089】
また、上記のチャネルの形成とは別に、製造例3及びその変形例において示す(a)〜(c)の3種類の酸化物半導体の前駆体層に対して、焼成工程(本焼成)後に、第1の実施形態の変形例に示す低圧水銀ランプを用いて、30分間、紫外線を照射した製造例4((a)〜(c)の3種類)も製造した。
【0090】
[各製造例による酸化物半導体の前駆体、及び酸化物半導体層の評価]
上述の各製造例により得られた脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量、並びに、製造例及び比較例により得られたバインダー及び酸化物半導体の前駆体層の厚みおよび特性を以下の方法により測定し、評価した。
【0091】
(1)脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量
上述の脂肪族ポリカーボネート(製造例2におけるポリプロピレンカーボネート)濃度が0.5質量%のクロロホルム溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定した。測定後、同一条件で測定した数平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、分子量を算出した。また、測定条件は、以下の通りである。
機種:HLC−8020
カラム:GPCカラム
(東ソー株式会社の商品名:TSK GEL Multipore HXL−M)
カラム温度:40℃
溶出液:クロロホルム
流速:1mL/分
【0092】
(2)酸化物半導体層の評価
一例として、母材となる基板である熱酸化膜付きシリコン基板(幅:20mm、長さ:20mm、厚み:0.7mm)に対して、アセトンを用いて表面を洗浄した。その後、UV処理装置(SAMCO社製)を用いて、その熱酸化膜付きシリコン基板の表面処理を行い、試験用基板を作製した。
【0093】
この、試験用基板上に、スピンコート法により、回転数1500rpm、時間20秒間の条件下で、酸化物半導体の前駆体の層を作製し、その後150℃で3分間乾燥して溶媒を除去した。得られた酸化物半導体の前駆体の層の厚さは600nmであった。
【0094】
得られた酸化物半導体の前駆体層を、大気中、180℃で加熱し、さらにその温度で30分間保持した。この処理は、第1の実施形態における第2予備焼成工程に相当する。
【0095】
その後、焼成工程(本焼成)として、その酸化物半導体の前駆体層を、0.3分間で500℃まで昇温させて加熱し、さらにその温度で10分間保持した。その後、その酸化物半導体の前駆体層を25℃になるまで空冷することにより、酸化物半導体層を得た。
【0096】
(2−1)酸化物半導体層の厚み評価
上述の(a)〜(c)に示す3種類について、上記処理によって得られた酸化物半導体層の厚みの変化を、エリプソメトリ法を用いて測定した。図10は、酸化物半導体層の厚みの変化の示すグラフである。
【0097】
(2−2)酸化物半導体層の表面形状の評価
酸化物半導体層の表面を、光学顕微鏡を用いて観察することにより、クラックの有無が調べられた。ここで、クラックが視認されないものを「丸印(良好)」と評価し、クラックが顕著に認められるものを「NG」と評価した。評価結果を、以下の表1並びに図11及び図12に示す。なお、図11は、上述の製造例(3)における酸化物半導体層の表面の光学顕微鏡写真である。また、図12は、上述の比較例(1)における酸化物半導体層の表面の光学顕微鏡写真である。
【0098】
【表1】
【0099】
(2)TG−DTA(熱重量測定及び示差熱)特性
また、図13は、本実施例における薄膜トランジスタのチャネルを形成するための酸化物半導体の前駆体を構成するインジウム−亜鉛含有溶液(製造例3のInZn溶液)のTG−DTA特性を示すグラフである。また、図14は、本実施例(製造例3)における薄膜トランジスタのチャネル部を形成するためのバインダー溶液(製造例3におけるポリプロピレンカーボネート溶液)のTG−DTA特性を示すグラフである。なお、図13及び図14に示すように、各図中の実線は、熱重量(TG)測定結果であり、図中の点線は示差熱(DTA)測定結果である。
【0100】
図13における熱重量測定の結果から、120℃付近には、溶媒の蒸発と考えられる、重量の顕著な減少が見られた。また、図13の(X)に示すように、InZn溶液の示差熱測定のグラフにおける発熱ピークが330℃付近に確認された。従って、330℃付近でインジウム及び亜鉛が、酸素と結合している状態であることが確認される。従って、この330℃が、第1の実施形態における第2温度に対応する。
【0101】
一方、図14における熱重量測定の結果から、140℃付近から190℃付近にかけて、製造例3のポリプロピレンカーボネート溶液の溶媒の消失とともに、バインダーであるポリプロピレンカーボネート自身の一部の分解ないし消失による重量の顕著な減少が見られた。なお、この分解により、ポリプロピレンカーボネートは、二酸化炭素と水に変化していると考えられる。また、図14に示す結果から、190℃付近において、該バインダーが90wt%以上分解され、除去されていることが確認された。従って、この190℃が、第1の実施形態における第1温度に対応する。なお、さらに詳しく見ると、250℃付近において、該バインダーが95wt%以上分解され、260℃付近において、該バインダーがほぼ全て(99wt%以上)分解されていることが分かる。
【0102】
上述のように、製造例3におけるInZn溶液と製造例2におけるバインダーであるポリプロピレンカーボネートとの関係では、該バインダーが90wt%以上分解される温度を第1温度とした場合、図13及び図14より、第1温度と第2温度との差は、約140℃である。このように、第2温度以上の温度によって焼成工程(本焼成)を行うことにより、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存が確度高く抑えられることになる。換言すれば、第1温度と第2温度との差が十分(例えば、100℃以上)あれば、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存が確度高く抑えられることになる。その結果、表1に示すように、層状にしたときにクラックが視認されず、かつ後述する薄膜トランジスタとしての良好な電気的特性が得られる。なお、さらに研究と分析を重ねた結果、既に述べた各種のバインダー(脂肪族ポリカーボネート)及びInZn溶液に代表される、最終的に酸化物半導体となる各種の金属含有ペーストについて、第1温度と第2温度との差が10℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上であることによって、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される不純物の残存が抑えられることになる。
【0103】
[薄膜トランジスタの製造例による電気的特性の評価]
上述の各製造例により得られた酸化物半導体の前駆体層をチャネルに採用した薄膜トランジスタの特性が調べられた。
【0104】
(1)第1の実施形態に対応する薄膜トランジスタの電流−電圧特性
図16は、第1の実施形態に相当する実施例(製造例3及び製造例3の変形例における(b))の薄膜トランジスタのチャネルのVg−Id特性を示すグラフである。また、この特性の測定及び後述する図17に示すVg−Id特性の測定は、図15に示す簡易的なVg−Id特性測定システムを用いて行われた。なお、図15におけるVgはゲート電圧に相当する電圧を印加する端子であり、Vd及びVsはそれぞれドレイン電極及びソース電極に相当する電極として、電流値を検出するための端子である。
【0105】
図16に示すように、本実施例(製造例3)の酸化物半導体層を採用した薄膜トランジスタのチャネルが半導体であることを示す特性が確認された。従って、本実施例(製造例3)の酸化物半導体層を採用した薄膜トランジスタにおいてもトランジスタとしての良好な電気的特性を備えることが確認できた。なお、製造例3及び製造例3の変形例における(b)以外の混合比の例、すなわち、(a)及び(c)については、現時点において薄膜トランジスタとしてのスイッチング特性が確認できなかった。
【0106】
(2)第1の実施形態の変形例に対応する薄膜トランジスタの電流−電圧特性
また、図17は、第1の実施形態の変形例に相当する3つの実施例(製造例4における(a)〜(c))の、図16に相当するVg−Id特性を示すグラフである。
【0107】
図17に示すように、本実施例(製造例4)の3つの種類の酸化物半導体層を採用した薄膜トランジスタのチャネルが、いずれも半導体であることを示す特性が確認された。従って、焼成工程(本焼成)後に、紫外線を照射する照射工程を行うことにより、少なくとも製造例3において示した範囲において、ポリプロピレンカーボネート(PPC)とInZn溶液との重量比に依存せず、良好な電気的特性が得られることが確認された。これは、焼成工程後の酸化物半導体層に対して紫外線を照射することにより、酸化物半導体層中の炭素不純物に代表される微量と考えられる不純物の分解ないし蒸発をさらに促進し、その残存量をさらに低減させる、又は該不純物を消滅させることができたためと考えられる。
【0108】
上述のとおり、本実施例のチャネルの良好な電気的特性が確認されたことから、本実施例の各チャネルを備えた薄膜トランジスタは、良好な電気的特性を備えることが分かった。
【0109】
<第2の実施形態>
1.薄膜トランジスタ200の製造方法
図18乃至図21は、それぞれ、薄膜トランジスタ200の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、図22は、本実施形態における薄膜トランジスタ200の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。なお、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。また、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0110】
(1)ゲート電極の形成
まず、図18に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法、フォトリソグラフィー法、及びエッチング法により基板10上に形成される。なお、本実施形態のゲート電極20の材料は、白金(Pt)である。
【0111】
(2)ゲート絶縁層の形成
次に、基板10及びゲート電極20上に、第1の実施形態と同様に、低エネルギー製造プロセスにより、ポリシラザン(polysilazane)を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層を形成した後、大気中(水蒸気を含む)で、80℃以上250℃未満に加熱することにより、予備焼成が行われる。
【0112】
本実施形態では、その後、ゲート絶縁層用前駆体層を、例えば、大気中で、所定時間(例えば、2時間)、400℃で加熱する焼成工程が行われる。その結果、図19に示すように、ゲート電極20上に、シリコン酸化物の層であるゲート絶縁層34が形成される。
【0113】
(3)チャネルの形成
第1の実施形態における第2予備焼成工程を行ったチャネル用前駆体層42に対して、型押し加工を施す。まず、ゲート絶縁層34及び基板10上に、第1の実施形態と同様にチャネル用前駆体層42を形成する。その後、第1の実施形態と同様に第1予備焼成工程及び第2予備焼成工程を行う。
【0114】
次に、図20に示すように、80℃以上300℃以下に加熱した状態で、チャネル用型M1を用いて、0.1MPa以上20MPa以下(代表的には、1MPa)の圧力でチャネル用前駆体層42に対して型押し加工を施す。
【0115】
その後、本実施形態では、大気圧下においてプラズマを照射し、チャネル用前駆体層42全体をエッチングする。具体的には、エッチング処理チャンバー内に、酸素(O)が50mL/分、アルゴン(Ar)が0.1L/分、ヘリウム(He)が9L/分導入された状態で、500Wの電力が印加される条件で形成されたプラズマによりチャネル用前駆体層42のエッチングが行われる。その結果、パターンが形成されない領域(除去対象領域)のチャネル用前駆体層42が除去される一方、パターンが形成される領域のチャネル用前駆体層42は一定以上の厚みを残すため、最終的にパターニングが可能となる。その後、所定時間、330℃以上550℃以下の範囲で焼成工程(本焼成)を行うことにより、図21に示すように、チャネル44が形成される。
【0116】
なお、第2予備焼成工程が行われた後に上述の大気圧下におけるプラズマエッチングを行うことは、型押し加工が施されたチャネル用前駆体層42の残膜(不要な部分)の除去をより確度高く、容易に実現する観点から好適な一態様である。このエッチング工程により、最終的なチャネル44の薄層化(例えば、10nm〜30nm程度)をより確度高く実現することになる。なお、焼成工程(本焼成)後に、上述のように、チャネル用前駆体層42に対して全体的にエッチングする工程が行われることも、採用し得る一態様である。
【0117】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
次に、第1の実施形態と同様、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜が形成された後、チャネル44及びレジスト膜上に、公知のスパッタリング法により、ITO層を形成する。その後、レジスト膜が除去されると、図22に示すように、チャネル44上に、ITO層によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0118】
本実施形態では、高い塑性変形能力を得た前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力が0.1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0119】
ここで、上記の圧力を「0.1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が0.1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて各前駆体層を型押しすることができなくなる場合があるからである。なお、バインダーとしてポリプロピレンカーボネートを採用する場合は、ポリプロピレンカーボネートが比較的柔らかい材料であることから、0.1MPa程度であっても、型押し加工が可能となる。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分に前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、上述の第2の実施形態における型押し工程においては、0.5MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことが、より好ましい。
【0120】
上述のように、本実施形態では、チャネル44に対して型押し加工を施すことによって型押し構造を形成する、「型押し工程」が採用されている。この型押し工程が採用されることにより、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス、あるいは紫外線の照射プロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を必要とするプロセスが不要になる。
【0121】
<その他の実施形態>
上述の第2の実施形態における型押し工程において、予め、型押し面が接触することになる各前駆体層の表面に対する離型処理及び/又はその型の型押し面に対する離型処理を施しておき、その後、各前駆体層に対して型押し加工を施すことが好ましい。そのような処理を施すことにより、各前駆体層と型との間の摩擦力を低減することができるため、各前駆体層に対してより一層精度良く型押し加工を施すことが可能となる。なお、離型処理に用いることができる離型剤としては、界面活性剤(例えば、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)、フッ素含有ダイヤモンドライクカーボン等を例示することができる。
【0122】
また、上述の各実施形態においては、いわゆる逆スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタが説明されているが、上述の各実施形態はその構造に限定されない。例えば、スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタのみならず、ソース電極、ドレイン電極、及びチャネルが同一平面上に配置される、いわゆるプレーナ型の構造を有する薄膜トランジスタであっても、上述の各実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。さらに、上述の各実施形態のチャネル(すなわち、酸化物半導体層)が基板上に形成されることも採用し得る他の一態様である。
【0123】
また、上述の実施例の1つとして開示されている図13においては、第2温度を示す(X)が示すピークの数が1つであるが、示差熱測定のグラフにおける発熱ピークが1つであるとは限らない。上述の各実施形態の酸化物半導体の前駆体を構成する溶液に含まれる溶質、すなわち前駆体の材料が異なれば、示差熱測定のグラフにおける発熱ピークが2つ以上形成され得る。但し、その場合、第2温度は、少なくとも第1温度よりも高くなければならないため、より複数ある発熱ピークのうち、より低い温度側のピークが示す温度を第2温度とすることが好ましい。
【0124】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、クラックの生成が低減されるとともに、電気的特性及び安定性に優れた酸化物半導体層、及びその酸化物半導体層を備えた半導体素子や電子デバイスを提供することにより、幅広い産業分野に適用され得る。
【要約】
【課題】クラックの生成が低減され、電気的特性及び安定性に優れる酸化物半導体層、及びその酸化物半導体層を備えた半導体素子並びに電子デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の1つの酸化物半導体層の製造方法は、酸化されたときに酸化物半導体となる金属の化合物を脂肪族ポリカーボネートからなるバインダーを含む溶液中に分散させた酸化物半導体の前駆体を、基板上又はその上方に層状に形成する前駆体層の形成工程と、その前駆体層を、そのバインダーを90wt%以上分解させる第1温度によって加熱した後、その第1温度よりも高く、かつ前述の金属と酸素とが結合し、示差熱分析法(DTA)における発熱ピーク値の第2温度(Xで示す温度)以上の温度によってその前駆体層を焼成する焼成工程とを含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図11
図12