特許第5749433号(P5749433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5749433
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】発酵乳及び多糖類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/12 20060101AFI20150625BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   A23C9/12
   A23C9/13
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-271065(P2009-271065)
(22)【出願日】2009年11月30日
(65)【公開番号】特開2011-109997(P2011-109997A)
(43)【公開日】2011年6月9日
【審査請求日】2012年11月13日
【審判番号】不服2014-2153(P2014-2153/J1)
【審判請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 悟
(72)【発明者】
【氏名】長岡 誠二
(72)【発明者】
【氏名】河合 良尚
【合議体】
【審判長】 千壽 哲郎
【審判官】 紀本 孝
【審判官】 山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−534315(JP,A)
【文献】 特開平4−104761(JP,A)
【文献】 特開平3−210146(JP,A)
【文献】 特開2005−137245(JP,A)
【文献】 特開2000−300175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳の発酵処理において、乳酸菌及び/又はビフィズス菌の菌数、酸度、pHのうちの1つ以上の数値と、前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌の産生する多糖類の濃度との間の一次式で近似できる比例関係を使用して、前記の多糖類の濃度を所定値に制御して前記原料乳の発酵を制御することにより前記多糖類の濃度が所定値となる発酵乳の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌及び/又は前記ビフィズス菌の菌数は1×10cfu/g〜50×10cfu/gの範囲、前記酸度は0.8%〜1.1%の範囲、前記pHは4.0〜5.0の範囲における前記比例関係を使用することを特徴とする請求項1に記載の発酵乳の製造方法
【請求項3】
前記乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌であることを特徴とする、請求項1又は2記載の発酵乳の製造方法。
【請求項4】
原料乳の発酵処理において、乳酸菌及び/又はビフィズス菌の菌数、酸度、pHのうちの1つ以上の数値と、前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌の産生する多糖類の濃度との間の一次式で近似できる比例関係を使用して、前記の多糖類の濃度を所定値に制御して前記原料乳の発酵を制御することにより所定の濃度になっている前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が産生する多糖類の製造方法。
【請求項5】
前記乳酸菌及び/又は前記ビフィズス菌の菌数は1×10cfu/g〜50×10cfu/gの範囲、前記酸度は0.8%〜1.1%の範囲、前記pHは4.0〜5.0の範囲における前記比例関係を使用することを特徴とする請求項4に記載の多糖類の製造方法。
【請求項6】
前記乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の多糖類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の産生する多糖類の濃度(産生量)の制御を可能にした発酵乳の製造方法に関する。より詳しくは、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度と関連する因子を解明し、その因子を制御することによって間接的に、多糖類の濃度を制御することを特徴とする発酵乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物自体や微生物の産生する物質には幾つかの生体機能の調整効果が知られている。例えば、特開2000−247895号公報(特許文献1)には、リン含有多糖類の生産能の有る乳酸菌を有効成分とする、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の予防用や治療用の組成物(発酵乳など)が記載されている。また、特開2005−194259号公報(特許文献2)には、乳酸菌の産生するリン酸化多糖類を有効成分とする、インフルエンザの感染予防などに有用なナチュラルキラー(NK)細胞活性化剤(発酵乳など)が記載されている。このように、多糖類を産生する乳酸菌などや乳酸菌などの産生する多糖類を利用することで、健康の維持や改善に貢献する医薬品や食品を提供できることとなる。
【0003】
一方、特開平07−255465号公報(特許文献3)には、多糖類を産生するビフィズス菌の培養物を有効成分とする、発酵乳の離水防止などに有用な保水安定剤が記載されている。また、特開平08−224060号公報(特許文献4)には、乳酸菌の産生するリン酸化多糖類を有効成分とする、発酵乳のホエイ分離防止などに有用な安定剤が記載されている。さらに、特開2000−270766号公報(特許文献5)には、多糖類を産生する乳酸菌を使用して、原料乳を発酵する際に、ゲル化剤を併用(混合)する餅様食感の発酵乳の製造方法が記載されている。このように、多糖類を産生する乳酸菌などや乳酸菌などの産生する多糖類を利用することで、品質や食感などを改良した食品(発酵乳など)を提供できることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−247895号公報
【特許文献2】特開2005−194259号公報
【特許文献3】特開平07−255465号公報
【特許文献4】特開平08−224060号公報
【特許文献5】特開2000−270766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多糖類を産生する乳酸菌などや乳酸菌などの産生する多糖類を利用することで、健康の維持や改善に貢献する医薬品や食品を提供できるし、品質や食感などを改良した食品(発酵乳など)を提供(開発)できることとなる。つまり、乳酸菌などの産生する多糖類を有効に活用することで、従来品と差別化された優れた医薬品や食品を提供できることとなる。ところで、乳酸菌などの産生する多糖類を有効に活用するためには、これら多糖類の必要量を効率的に安定して産生させると共に、これら多糖類の濃度(産生量)を簡便な手段で把握することが重要となる。ところが、例えば、先行技術では、これら多糖類の濃度を正確に把握するための手段について検討されていなかった。
【0006】
前記した通り、乳酸菌などの産生する多糖類を有効に活用するためには、これら多糖類の濃度(産生量)を簡便な手段で把握することが重要であり、そのためには、多糖類の濃度に影響する因子を解明する必要がある。そして、その因子を使用して、多糖類の濃度を簡便に制御(管理)することが必要である。一般的に、多糖類の濃度の測定には、試薬の調製、検定、計算といった煩雑な操作(手段)を必要とする。そのために、例えば、多糖類を産生する乳酸菌の培養中や培養直後、その乳酸菌を使用した発酵乳の製造中や製造直後などに、それら多糖類の濃度を把握するためには、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度よりも簡便に測定できる因子を解明し、その因子を使用して、乳酸菌などの産生する多糖類の産生条件や、多糖類を産生する乳酸菌を使用した発酵乳の製造条件などを簡便に制御することが要求されることとなった。
【0007】
一方、乳酸菌などの産生する多糖類を有効に活用するためには、これら多糖類の濃度(産生量)を高めることが重要であり、そのためには、多糖類の濃度を高めた発酵乳の製造条件などを設定する必要がある。このとき、多糖類の濃度を高めた発酵乳を製造するために、実験的に検討したところ、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態において、多糖類の濃度が高くなることを見出した。ただし、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態では、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまうこともあり、必ずしも風味の良好な発酵乳を製造できなかった。そこで、このように、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまう場合、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味を調整することになる。
【0008】
ところで、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際には、副原料と発酵乳とを混合しやすく(馴染みやすく)して、発酵乳食品の物性を安定化などするために、副原料のpHを発酵乳と同様のpHである酸性へ調整することが有効であることが判明した。このとき、副原料のpHを酸性へ調整するために、pH調整剤(酸味料)などを使用することになる。ただし、この副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度によっては、副原料と発酵乳とを混合して、発酵乳食品の風味を調整しようとしても、発酵乳食品の風味は酸っぱすぎるままとなり、発酵乳食品の風味を十分に調整や改良できなかったり、副原料のpHを適切に調整できないと、副原料と発酵乳とを混合しにくく(馴染みにくく)なり、発酵乳食品の物性を十分に安定化や改良できなかったりすることがあった。そのために、例えば、副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度として、発酵乳食品の風味や物性を十分に調整できるものが要求されることとなった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、微生物の産生する多糖類の濃度(産生量)の制御(管理)を可能にした発酵乳の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度と関連する因子を制御することによって間接的に、多糖類の濃度を制御することを特徴とする発酵乳の製造方法を提供することを別の目的とする。
【0011】
本発明は、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味や物性を調整する際に、副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度を適切に制御(選抜)することによって、多糖類の濃度を高めながら、風味や物性の良好に調整できる発酵乳食品の製造方法を提供することをさらに別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度(産生量)と関連する因子には、微生物の菌数、酸度、pHなどがあることを解明し、その因子を制御(管理)することによって間接的に、多糖類の濃度を制御できるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。さらに、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味や物性を調整する際に、副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度を適切に制御(選抜)することによって、発酵乳食品の多糖類の濃度を高めながら、その風味や物性を良好に調整できるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、次の内容からなる。
[1]原料乳の発酵処理において、乳酸菌及び/又はビフィズス菌の菌数、酸度、pHのうちの1つ以上の数値と、前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌の産生する多糖類の濃度との間の一次式で近似できる比例関係を使用して、前記の多糖類の濃度を所定値に制御して前記原料乳の発酵を制御することにより前記多糖類の濃度が所定値となる発酵乳の製造方法。
[2]前記乳酸菌及び/又は前記ビフィズス菌の菌数は1×10cfu/g〜50×10cfu/gの範囲、前記酸度は0.8%〜1.1%の範囲、前記pHは4.0〜5.0の範囲における前記比例関係を使用することを特徴とする前記[1]に記載の発酵乳の製造方法。
[3]前記乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌であることを特徴とする、前記[1]又は前記[2]に記載の発酵乳の製造方法。
[4]原料乳の発酵処理において、乳酸菌及び/又はビフィズス菌の菌数、酸度、pHのうちの1つ以上の数値と、前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌の産生する多糖類の濃度との間の一次式で近似できる比例関係を使用して、前記の多糖類の濃度を所定値に制御して前記原料乳の発酵を制御することにより所定の濃度になっている前記乳酸菌及び/又はビフィズス菌が産生する多糖類の製造方法。
[5]前記乳酸菌及び/又は前記ビフィズス菌の菌数は1×10cfu/g〜50×10cfu/gの範囲、前記酸度は0.8%〜1.1%の範囲、前記pHは4.0〜5.0の範囲における前記比例関係を使用することを特徴とする前記[4]に記載の多糖類の製造方法。
[6]前記乳酸菌がラクトバチルス属の乳酸菌であることを特徴とする、前記[4]又は前記[5]に記載の多糖類の製造方法。
【0014】
本明細書において「原料乳」とは、生乳、原乳、全脂乳、脱脂乳、ホエイなどの乳成分を含む液体である。本明細書において「発酵乳」とは、例えば、セットタイプやプレーンタイプのヨーグルトであり、「発酵乳食品」とは、例えば、発酵乳に糖液などの副原料を混合して調製した、ソフトタイプやドリンクタイプのヨーグルトである。
【0015】
本明細書において「酸度」とは、牛乳関係法令集(乳業団体衛生連絡協議会、平成十六年三月)の56頁の「5 乳及び乳製品の酸度の測定法」による測定値であり、詳細は以下の通りである。すなわち、試料10mlに同量の炭酸ガスを含まない水を加えて希釈し、指示薬としてフェノールフタレイン液0.5mlを加えて、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で30秒間、微紅色の消失しない点を限度として滴定し、その滴定量から試料100g当たりの乳酸のパーセント量を求め酸度とする。0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlは、乳酸9mgに相当する。指示薬は、フェノールフタレイン1gを50%エタノールに溶かして100mlとする。
【0016】
本明細書において「比例関係」とは、例えば、多糖類の濃度と酸度のような、2つの因子の相関関係が一次式で近似できることを意味する。
【発明の効果】
【0017】
乳酸菌などの産生する多糖類の生体機能の調整効果を確実に発揮させるためには、これら多糖類の濃度を所定値(規格値)に制御(管理)して、原料乳を発酵処理することが必須である。本発明者らは、これら多糖類の産生条件(濃度)を制御するために、原料乳を発酵処理しながら、その発酵処理の過程において、多糖類の濃度を測定したところ、非常に煩雑な操作(手段)を必要とし、例えば、発酵乳の製造現場などでは現実的に採用しにくいことが判明した。つまり、乳酸菌などの産生する多糖類を実用的に制御(管理)するためには、これら多糖類の濃度(産生量)を簡便な手段で把握することが必須であった。そして、そのためには、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度よりも簡便に測定できる因子(変数)を解明し、その因子を使用して、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度の生産条件や、多糖類を産生する乳酸菌を使用した発酵乳の製造条件などを簡便に制御することが必要であった。
【0018】
この状況について実験的な検討を進め、発酵乳における多糖類の濃度と各種の因子との比較を試みた結果、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度と関連する因子には、微生物の菌数、酸度、pHなどがあることを解明した。そして、その因子を制御することによって間接的に、多糖類の濃度を制御できるとの知見を見出し、多糖類の濃度が所定値(規格値)となる発酵乳を安定して製造することが可能となった。
【0019】
一方、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度(産生量)を高めるために、多糖類の濃度を高めた発酵乳の製造条件などを実験的に検討したところ、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態において、多糖類の濃度が高くなることを見出した。ただし、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態では、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまう(酸味が強すぎる)こともあり、必ずしも風味の良好な発酵乳を製造できなかった。そこで、このように、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまう場合、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味を調整することが必要であった。
【0020】
この状況についても実験的な検討を進め、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際には、副原料と発酵乳とを混合しやすく(馴染みやすく)して、発酵乳食品の物性を安定化などするために、pH調整剤(酸味料)などを使用して、副原料のpHを3〜4程度とし、発酵乳と同様のpHである酸性へ調整することが有効であることが判明した。また、副原料のpHを3〜4程度とすることで、細菌の繁殖などを確実に抑制できるので、より衛生的に副原料を管理する観点からも望ましいこととなる。ただし、この副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度によっては、発酵乳食品の風味は酸っぱすぎるままとなり、発酵乳食品の風味を十分に調整できなかったり、副原料と発酵乳とを混合しにくく(馴染みにくく)なり、発酵乳食品の物性を十分に安定化できなかったりすることがあった。そこで、さらなる実験的な検討を進め、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、副原料へ使用するpH調整剤として、一般的なクエン酸などではなく、主にフィチン酸を使用することによって、多糖類の濃度を高めながら、発酵乳食品の風味や物性を良好に調整できるとの知見を見出し、多糖類の濃度が所定値(規格値)となる発酵乳食品を安定して製造することが可能となった。また、発酵乳食品や副原料へ砂糖などの甘味料や香料などを幾らか多めに添加・混合して、発酵乳食品の風味を自由に設計できるような状況では、副原料へ使用するpH調整剤として、主に乳酸を使用することによって、発酵乳食品の安定化効果を得られやすくなった。つまり、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、副原料へ使用するpH調整剤として、一般的なクエン酸などではなく、主に乳酸を使用することによって、多糖類の濃度を高めながら、発酵乳食品の風味や物性を良好に調整できるとの知見を見出し、多糖類の濃度が所定値(規格値)となる発酵乳食品を安定して製造することが可能となった。
【0021】
本発明によれば、微生物の産生する多糖類の濃度(産生量)の制御を可能にした発酵乳の製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明によれば、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度と関連する因子を制御することによって間接的に、多糖類の濃度を制御することを特徴とする発酵乳の製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明によれば、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味や物性を調整する際に、副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度を適切に制御(選抜)することによって、多糖類の濃度を高めながら、風味や物性の良好に調整できる発酵乳食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)と微生物(多糖を産生する乳酸菌)の菌数の関係を示したグラフ(1)である。
図2】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)と酸度の関係を示したグラフ(1)である。
図3】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)とpHの関係を示したグラフ(1)である。
図4】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)と微生物(多糖を産生する乳酸菌)の菌数の関係を示したグラフ(2)である。
図5】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)と酸度の関係を示したグラフ(2)である。
図6】発酵乳における多糖量(多糖類の濃度)とpHの関係を示したグラフ(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の発酵乳の製造方法は、原料乳の発酵処理において、微生物の菌数、酸度、pHのうちの1つ以上の数値と、微生物の産生する多糖類の濃度との相関関係を使用して、前記の多糖類の濃度を制御(管理)することを特徴とする。ただし、微生物の産生する多糖類の濃度と相関関係にある因子であれば適用することが可能であり、例えば、微生物による糖質(乳糖など)の消費量(減少量)、培養時間、発酵時間などを例示できる。なお、微生物の菌数や酸度の測定には、幾らか手間が掛かるため、多糖類を産生する乳酸菌の培養中や培養直後、その乳酸菌を使用した発酵乳の製造中や製造直後などに、多糖類の濃度を制御するためには、pHのような簡便に測定できる因子を使用することが望ましい。実際にpHは汎用的なpH計(センサー)を使用して、簡便に短時間で測定できるため、発酵乳の製造工程から試料を採取し、その場で数値を確認することができる。発酵乳の製造装置の運転状態が適切か否かを断続的に判断しながら、pHを所定値まで安定的に運転することで間接的に、多糖類の濃度を規格内に制御することが可能となる。さらに、例えば、pHの増減やその増減の傾向をコンピューターなどで処理することにより、pHを自動的に制御(管理)し、その結果として、多糖類の濃度も自動的に制御することが可能となる。
【0026】
ところで、原料乳を構成する全脂乳や脱脂乳などの組成は季節や地域などでも変動し、乳酸菌などの微生物の活性(活力)も菌種や培養条件などでも変動するため、微生物の産生する多糖類の濃度と、微生物の菌数、酸度、pHなどとの相関関係は、原料乳や微生物などによって異なり、必ずしも一定しない。そのため、数種類の原料乳や微生物などについて、多糖類の濃度と、微生物の菌数、酸度、pHなどを予め測定し、これらの相関関係を求めておく。そして、多糖類の濃度が所定値(規定値)から外れない、安微生物の菌数、酸度、pHなどで、多糖類の濃度を制御(管理)することが望ましい。
【0027】
本発明の発酵乳の製造方法において、微生物の産生する多糖類の濃度と、微生物の菌数、酸度、pHなどとの相関関係は比例関係であることを特徴とする。本発明において、2つの因子の相関関係は一次式で近似できる。
【0028】
本発明の発酵乳の製造方法において、微生物の種類は特に限定されないが、微生物の産生する多糖類として、生体機能の調整効果を科学的に実証されている場合が多いなどの観点から、微生物として、乳酸菌やビフィズス菌であることが望ましい。このとき、微生物として、乳酸菌やビフィズス菌を単独で使用しても良いし、2種類以上の微生物を任意に混合して使用しても良いこととなる。
【0029】
本発明の発酵乳の製造方法において、乳酸菌やビフィズス菌の種類は特に限定されないが、実施例で実証されている通り、乳酸菌であることが望ましく、さらに、ラクトバチルス属の乳酸菌であることが望ましい。このとき、乳酸菌として、ラクトバチルス属の乳酸菌とストレプトコッカス属の乳酸菌を併用しても良いし、さらに、乳酸菌として、ブルガリア菌とサーモフィラス菌を併用しても良いこととなる。また、必要に応じて、プロバイオティクスの乳酸菌やプレバイオティクスの素材などを併用しても良いこととなる。
【0030】
本発明の発酵乳食品の製造方法は、発酵乳とpHを3〜4に調整した副原料とを混合することを特徴とする。糖液などの副原料を発酵乳に混合する際には、副原料と発酵乳とを混合しやすく(馴染みやすく)して、発酵乳食品の物性を安定化などするために、pH調整剤(酸味料)などを使用して、副原料のpHを3〜4程度とし、発酵乳と同様のpHである酸性へ調整することが有効であることが判明した。このとき、副原料と発酵乳とを混合しやすくする観点から、副原料のpHとして、3.0〜3.8が好ましく、3.1〜3.5がより好ましく、3.2〜3.4がさらに好ましい。なお、糖液などの副原料のpHを3〜4に調整できれば、副原料へ使用するpH調整剤の濃度は特に限定されないが、pH調整剤の濃度として、あくまで発酵乳食品の風味や物性を良好に設定(設計)することが優先される。
【0031】
本発明の発酵乳食品の製造方法において、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、発酵乳の種類は特に限定されないが、実施例で実証されている通り、多糖類を産生する乳酸菌を使用した発酵乳を使用することが望ましい。このとき、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態において、多糖類の濃度(産生量)は高くなり、このような状態において、副原料のpHも低い状態(例えば、pHを3〜4)に調整すると、副原料と発酵乳とを混合しやすく(馴染みやすく)する効果は高くなることとなる。そのため、これらの観点から、例えば、発酵乳の酸度として、0.75〜1.8%が好ましく、0.8〜1.7%がより好ましく、0.85〜1.6%がさらに好ましく、0.9〜1.5%が最も好ましい。また、発酵乳のpHとして、3〜5が好ましく、3.5〜5がより好ましく、3.8〜4.8がさらに好ましく、3.8〜4.6が最も好ましい。
【0032】
本発明の発酵乳食品の製造方法において、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、副原料へ使用するpH調整剤の種類は特に限定されないが、実施例で実証されている通り、一般的なクエン酸などではなく、主にフィチン酸や乳酸を使用することが望ましい。このとき、pH調整剤として、フィチン酸や乳酸を単独で使用しても良いし、一般的なクエン酸などとフィチン酸や乳酸とを併せて、2種類以上のpH調整剤を任意に混合して使用しても良いこととなる。なお、糖液などの副原料のpHを3〜4に調整できれば、副原料へ使用するフィチン酸や乳酸の濃度は特に限定されないが、例えば、フィチン酸の濃度として、糖液などの副原料(砂糖の濃度で約16重量%)を基準とすれば、30〜120mg%が好ましく、50〜100mg%がより好ましく、70〜90mg%がさらに好ましい。また、フィチン酸の濃度として、発酵乳食品(全固形分の濃度で約18重量%)を基準とすれば、0.5〜1.5mg%が好ましく、0.7〜1.2mg%がより好ましく、0.9〜1.0mg%がさらに好ましい。また、例えば、乳酸の濃度として、糖液などの副原料(砂糖の濃度で約3重量%と、液糖の濃度で約6重量%)を基準とすれば、0.5〜2.5mg%が好ましく、1〜2mg%がより好ましく、1.2〜1.7mg%がさらに好ましい。また、乳酸の濃度として、発酵乳食品(全固形分の濃度で約18重量%)を基準とすれば、0.2〜1mg%が好ましく、0.4〜0.8mg%がより好ましく、0.5〜0.7mg%がさらに好ましい。
【0033】
乳酸菌などの産生する多糖類の濃度(産生量)を高めるために、多糖類の濃度を高めた発酵乳の製造条件などを実験的に検討したところ、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態において、多糖類の濃度が高くなることを見出した。ただし、発酵乳の酸度が高い状態やpHが低い状態では、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまう(酸味が強すぎる)こともあり、必ずしも風味の良好な発酵乳を製造できなかった。そこで、このように、発酵乳の風味が酸っぱくなりすぎてしまう場合、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品の風味を調整することが必要であった。ただし、この副原料へ使用するpH調整剤の種類や濃度によっては、発酵乳食品の風味は酸っぱすぎるままとなり、発酵乳食品の風味を十分に調整できなかったり、副原料と発酵乳とを混合しにくく(馴染みにくく)なり、発酵乳食品の物性を十分に安定化できなかったりすることがあった。そこで、さらなる実験的な検討を進め、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、副原料へ使用するpH調整剤として、一般的なクエン酸などではなく、フィチン酸を使用することによって、多糖類の濃度を高めながら、発酵乳食品の風味や物性を良好に調整できるとの知見を見出し、多糖類の濃度が所定値(規格値)となる発酵乳食品を安定して製造することが可能となった。また、発酵乳食品や副原料へ砂糖などの甘味料や香料などを幾らか多めに添加・混合して、発酵乳食品の風味を自由に設計できるような状況では、副原料へ使用するpH調整剤として、主に乳酸を使用することによって、発酵乳食品の安定化効果を得られやすくなった。つまり、糖液などの副原料を発酵乳に混合する際に、副原料へ使用するpH調整剤として、一般的なクエン酸などではなく、主に乳酸を使用することによって、多糖類の濃度を高めながら、発酵乳食品の風味や物性を良好に調整できるとの知見を見出し、多糖類の濃度が所定値(規格値)となる発酵乳食品を安定して製造することが可能となった。
【実施例】
【0034】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0035】
[実施例1](発酵乳における多糖類の濃度と微生物の菌数の関係(1))
脱脂粉乳を12.4重量%、無塩バターを0.4重量%、砂糖を5.4重量%となるように、約60℃の水と混合し、原料乳を調製した。この原料乳(ヨーグルトミックス)を約70℃で均質化処理し、95℃、2分間で殺菌処理してから、40℃に冷却した。そして、この殺菌処理した原料乳へスターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059との混合スターター)を0.15重量%で添加し、40℃で発酵処理して、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。所定の発酵時間(4、4.5、5、5.5、6時間など)で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、乳酸菌の菌数を測定し、この相関関係を図1に示した。このとき、多糖類の濃度は、グルコースを標準物質として、フェノール・硫酸法により検出・定量した。
【0036】
なお、本発明において、ブルガリア菌 OLL1073R-1(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1073R-1)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受領番号:FERM P-17227(識別のための表示: Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus OLL1073R-1、寄託日(受領日):平成 11年 2月19日)で寄託されているものである。
【0037】
また、本発明において、サーモフィルス菌 OLS3059(Streptococcus thermophilus OLS3059)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受領番号:FERM P-15487(識別のための表示: Streptococcus thermophilus OLS3059、寄託日(受領日):平成8年 2月 29日)で寄託されているものである。
【0038】
今回の実験において、図1では、乳酸菌の菌数をX[×10-7 cfu/g]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = 0.7801 X + 35.04 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約35mg/kg以上に設定(設計)した場合、乳酸菌の菌数を1×10 7 cfu/g以上に設定すれば十分となる。
【0039】
[実施例2](発酵乳における多糖類の濃度と酸度の関係(1))
実施例1と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。実施例1と同様にして、所定の発酵時間で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、発酵乳の酸度を測定し、この相関関係を図2に示した。
【0040】
今回の実験において、図2では、発酵乳の酸度をX[%]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = 86.265 X − 29.862 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約35mg/kg以上に設定(設計)した場合、発酵乳の酸度を0.75 %以上に設定すれば十分となる。
【0041】
[実施例3](発酵乳における多糖類の濃度とpHの関係(1))
実施例1と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。実施例1と同様にして、所定の発酵時間で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、発酵乳のpHを測定し、この相関関係を図3に示した。
【0042】
今回の実験において、図3では、発酵乳のpHをX[−]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = −54.04 X + 302.1 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約35mg/kg以上に設定(設計)した場合、発酵乳のpHを4.94以下に設定すれば十分となる。
【0043】
[実施例4](発酵乳食品の製造(1))
実施例1と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約50mg/kgに設定(設計)した場合、発酵乳の酸度を約0.90〜1.0 %、pHを約4.5〜4.7に設定する必要がある。つまり、砂糖などの甘味成分を添加した発酵乳の酸度として、0.8〜1.3%が好ましく、0.8〜1.2%がより好ましく、0.9〜1.1%がさらに好ましく、0.9〜1.0%が最も好ましい。また、このような発酵乳のpHとして、3〜5が好ましく、3.5〜4.8がより好ましく、4〜4.7がさらに好ましく、4.5〜4.7が最も好ましい。このような発酵乳では、酸味が強めとなるため、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品(ソフトタイプのヨーグルト)の風味を調整することを試みた。まず、副原料として、砂糖を16.0重量%、甘味料を0.02重量%、増粘剤を1.5重量%、香料を1.0重量%となるように、約50℃の水と混合し、糖液(a)を調製した。そして、糖液(a)に、クエン酸を0.08重量%で添加して、糖液(b)を調製し、糖液(a)に、フィチン酸を0.08重量%で添加して、糖液(c)を調製した。糖液(a)のpHは約7.5、糖液(b)のpHは約3.5、糖液(c)のpHは約3.3であった。
【0044】
発酵乳を撹拌しているところへ、それぞれ糖液(a)〜(c)を添加・混合して、発酵乳食品(ソフトタイプのヨーグルト)(a)〜(c)を調製した。発酵乳と糖液の混合の比率は、約85:約15とした。発酵乳食品(a)では、発酵乳と糖液とが均一に混合されにくく(馴染みにくく)、糖液の衛生的な管理の観点から完全とは言えなかったが、酸味は弱められていた。発酵乳食品(b)では、発酵乳と糖液とが均一に混合されやすかった(馴染みやすかった)が、酸味は弱められず、酸味が強めのままであった。発酵乳食品(c)では、発酵乳と糖液とが均一に混合されやすく(馴染みやすく)、酸味は弱められていた。つまり、発酵乳と糖液(c)とを混合することで、風味と物性と品質の良好な発酵乳食品を製造できた。
【0045】
[実施例5](発酵乳における多糖類の濃度と微生物の菌数の関係(2))
脱脂粉乳を14.1重量%、無塩バターを0.9重量%となるように、約60℃の水と混合し、原料乳を調製した。この原料乳(ヨーグルトミックス)を約70℃で均質化処理し、95℃、2分間で殺菌処理してから、40℃に冷却した。そして、この殺菌処理した原料乳へスターター(ブルガリア菌 OLL1073R-1とサーモフィルス菌 OLS3059との混合スターター)を0.15重量%で添加し、40℃で発酵処理して、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。所定の発酵時間(4、5、6、7、8時間など)で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、乳酸菌の菌数を測定し、この相関関係を図4に示した。このとき、多糖類の濃度は、グルコースを標準物質として、フェノール・硫酸法により検出・定量した。
【0046】
今回の実験において、図4では、乳酸菌の菌数をX[×10-7 cfu/g]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = 0.5612 X + 22.75 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約50mg/kg以上に設定(設計)した場合、乳酸菌の菌数を5×10 8 cfu/g以上に設定すれば十分となる。
【0047】
[実施例6](発酵乳における多糖類の濃度と酸度の関係(2))
実施例5と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。実施例5と同様にして、所定の発酵時間で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、発酵乳の酸度を測定し、この相関関係を図5に示した。
【0048】
今回の実験において、図5では、発酵乳の酸度をX[%]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = 44.069 X + 0.6445 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約50mg/kg以上に設定(設計)した場合、発酵乳の酸度を1.15 %以上に設定すれば十分となる。
【0049】
[実施例7](発酵乳における多糖類の濃度とpHの関係(2))
実施例5と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。実施例5と同様にして、所定の発酵時間で発酵乳を採取し、乳酸菌の産生する多糖類の濃度、発酵乳のpHを測定し、この相関関係を図6に示した。
【0050】
今回の実験において、図6では、発酵乳のpHをX[−]、多糖類の濃度(多糖量)をY[mg/kg]とし、互いの関係を一次式で近似すると、Y = −36.36 X + 212.7 となった。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約50mg/kg以上に設定(設計)した場合、発酵乳のpHを4.4以下に設定すれば十分となる。
【0051】
[実施例8](発酵乳食品の製造(2))
実施例5と同様にして、発酵乳(プレーンタイプのヨーグルト)を調製した。このとき、発酵乳における多糖類の濃度の成分規格を、例えば、約50mg/kgに設定(設計)した場合、発酵乳の酸度を約1.2〜1.5 %、pHを約4.0〜4.4に設定する必要がある。つまり、砂糖などの甘味成分を添加しない発酵乳の酸度として、0.9〜1.8%が好ましく、1.0〜1.7%がより好ましく、1.1〜1.6%がさらに好ましく、1.2〜1.5%が最も好ましい。また、このような発酵乳のpHとして、3〜5が好ましく、3.5〜4.8がより好ましく、3.8〜4.6がさらに好ましく、4.0〜4.4が最も好ましい。このような発酵乳では、酸味が強めとなるため、糖液などの副原料を発酵乳に混合して、発酵乳食品(ドリンクタイプのヨーグルト)の風味を調整することを試みた。まず、副原料として、砂糖を3.2重量%、ブドウ糖果糖液糖を5.5重量%、安定剤を0.25重量%、香料(数種類の混合物)を0.04重量%、乳酸を1.5mg%となるように、約50℃の水と混合し、糖液(d)を調製した。
【0052】
発酵乳を均質化処理した後に、その撹拌しているところへ、糖液を添加・混合して、発酵乳食品(ドリンクタイプのヨーグルト)(d)を調製した。発酵乳と糖液の混合の比率は、約60:約40とした。発酵乳食品(d)では、発酵乳と糖液とが均一に混合されやすく(馴染みやすく)、酸味は弱められていた。つまり、発酵乳と糖液(d)とを混合することで、風味と物性と品質の良好な発酵乳食品を製造できた。なお、発酵乳を均質化処理してから、糖液を添加・混合することで、発酵乳の粒子を細かく(微粒化)した状態で、砂糖や安定剤などと混合されることになるため、発酵乳食品の安定化効果を得られやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
微生物の産生する多糖類の濃度(産生量)の制御を可能にした発酵乳の製造方法を提供することができる。具体的には、原料乳の発酵処理において、乳酸菌などの産生する多糖類の濃度と関連する因子を制御することによって間接的に、多糖類の濃度を制御することを特徴とする発酵乳を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6