特許第5750338号(P5750338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5750338
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/18 20060101AFI20150702BHJP
   B22D 23/00 20060101ALI20150702BHJP
   F27B 14/04 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   F27D1/18 N
   B22D23/00 H
   F27B14/04
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-177750(P2011-177750)
(22)【出願日】2011年8月15日
(65)【公開番号】特開2013-40712(P2013-40712A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】向江 一郎
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 洋一
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−083040(JP,U)
【文献】 実開昭63−123996(JP,U)
【文献】 特開2009−229020(JP,A)
【文献】 特開2010−223554(JP,A)
【文献】 実開昭57−125762(JP,U)
【文献】 実開昭50−020228(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/18
F27B 5/18
F27B 14/04
B22D 23/00
H01L 21/205
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室を区画する、開口部を有するチャンバ本体と、この開口部に対してOリングを介在させて圧接し、処理室内を気密保持する閉位置と、前記開口部から離間した開位置との間で移動自在な開閉扉と、前記開閉扉の閉位置で処理室内を真空引きする排気手段とを備える真空処理装置において、
前記処理室を真空引きした状態で、前記開閉扉に対し、当該開閉扉のチャンバ本体への圧接方向に引張力を加える引張手段を更に備え、
前記処理室内の圧力が上昇したとき、大気圧より高い所定圧力までは、前記引張手段が弾性変形して開閉扉を閉位置に保持し、前記所定圧力を超えると、前記引張手段が塑性変形して開閉扉がチャンバ本体から離間する運動エネルギーを吸収するように構成し、
前記引張手段は、開閉扉とチャンバ本体とに夫々立設した保持部材間に張設される、円環部材の複数を鎖状に連結してなるチェーン体を有し、前記円環部材は、オーステナイト系ステンレス鋼製であることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記保持部材の少なくとも一方とチェーン体とは、当該チェーン体に引張力を加え得る張力印加部材を介して連結されることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉扉を備えた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置には、半導体製造工程に用いられる成膜装置等の他、ニッケル水素電池の負極材として用いられるMM−Ni系合金(ミッシュメタル-ニッケル系合金)やNd系燒結磁石用の原料合金等、活性な希土類元素を多く含む合金の真空誘導溶解鋳造に用いられるもの、シリコンの精製、Ti、Zr等の活性な金属またはTa、W、Mo等の高融点金属の溶解、鋳造や金属成形体の焼結に用いられるものもある。例えば、特許文献1には希土類含有合金の真空誘導溶解鋳造装置が開示されている。このものでは、真空ポンプに通じる排気管が接続される処理室(密閉容器たる真空チャンバ)内に溶解炉と冷却ロールとが収納され、溶解炉から出湯される溶湯を冷却ロールにストリップキャストして冷却することで帯状の鋳造物が形成される。
【0003】
上記真空処理装置では、その内部のメンテナンス、原材料の供給や製品回収等のために、真空チャンバ(チャンバ本体)に開口部を形成すると共に、この開口部に対してOリングを介在させて圧接し、処理室内を気密保持する閉位置とチャンバ本体の開口部から離間した開位置との間で移動自在な開閉扉を設けておくことが一般である(特許文献1、例えば図1参照)。開閉扉としては、チャンバ本体の開口部に対して上下または左右方向にスライドして開閉するものや蝶番を用いて開閉するものがある。
【0004】
処理室内を真空引きして所定の処理を実施する際、開閉扉を閉位置に移動し、例えばチャンバ本体に付設したクランプにて開閉扉をチャンバ本体にOリングを介して仮圧接させ、この状態で真空ポンプを起動して処理室内を真空引きして減圧する。これにより、開閉扉には大気圧(1m当たり約10tの荷重)が作用し、Oリングが圧縮されて開閉扉がチャンバ本体の開口部に圧接し、完全に気密保持される(つまり、開閉扉が全閉位置に到達する)。
【0005】
ところで、上記種の真空処理装置では、処理中に何らかの原因で大量のガスが発生し、処理室内圧力が急激に上昇する場合がある。例えば、Nd系焼結磁石用合金の真空誘導溶解炉では、アルミナ等の耐火物製のルツボが破損し溶湯が漏れ、さらに水冷誘導コイルを溶かし、水が噴き出し、さらに水蒸気となり急激に体積が増加した場合である。また、TiやZr等の活性金属の真空アーク溶解炉や、Ta等の高融点金属のEB溶解炉において、水冷銅ルツボが溶解損傷し水漏れが起きた場合も、同様に、水蒸気の発生による急激な圧力上昇が起こりうる。このような急激な圧力上昇により真空チャンバが破損するのを防ぐため、これらの真空処理装置では真空排気後、通常、開閉扉のクランプは外した状態とする。すなわち、急激な圧力上昇をともなった場合、扉が自由に開くようにして、チャンバ内の圧力上昇を避けることができるようにしている。
【0006】
また、活性金属や活性金属を含む合金の溶解や加熱時に、水漏れを起こした場合、水や水蒸気と活性金属との反応により、水素が発生する。このような水漏れにともなう水素の発生を抑制するためにはチャンバ内にアルゴンガス等の不活性ガスを導入することが最も効果的であるが、クランプを外した状態でアルゴンガスを導入したのでは、扉は自重やOリングの反発力等により、大気圧に達する前に開き始めてしまう。
【0007】
そこで、処理室を減圧した後、チャンバ本体に対して開閉扉を閉方向に押し付けることが可能なクランプによって、この開閉扉に閉方向の一定の力を加えておくことが考えられる。然し、クランプとして従来のような高剛性のクランプを用いたのでは、処理室内の圧力が大気圧より高い所定圧力まで、処理室内を気密保持することも可能となるものの、例えば、水漏れ等のトラブルにより、急激な水蒸気発生により体積膨張した場合、その圧力上昇に耐え切れず、真空処理装置のチャンバ本体、開閉扉または開閉扉とチャンバ本体との取付部が破損する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−192466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、処理室内の圧力が上昇しても、大気圧より高い所定圧力までは確実に処理室内が気密保持される一方で、この所定圧力を超えて圧力上昇した場合に真空処理装置自体の破損を防止することができるようにした真空処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、処理室を区画する、開口部を有するチャンバ本体と、この開口部に対してOリングを介在させて圧接し、処理室内を気密保持する閉位置と開口部から離間した開位置との間で移動自在な開閉扉と、前記開閉扉の閉位置で処理室内を真空引きする排気手段とを備える真空処理装置において、前記処理室を真空引きした状態で、前記開閉扉に対し、当該開閉扉のチャンバ本体への圧接方向に引張力を加える引張手段を更に備え、前記処理室内の圧力が上昇したとき、大気圧より高い所定圧力までは、前記引張手段が弾性変形して開閉扉を閉位置に保持し、前記所定圧力を超えると、前記引張手段が塑性変形して開閉扉がチャンバ本体から離間する運動エネルギーを吸収するように構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、開閉扉の閉位置で処理室内を真空引きして減圧した後、引張手段を取り付け、処理室内で所定の処理が開始される。そして、処理中に何らかの原因で大量のガスが発生し、処理室内の圧力が上昇しても、引張手段を備えるため、大気圧より高い所定圧力までは、引張手段により開閉扉が閉位置に保持されて処理室内が気密保持され、処理室内への空気の流入を防止することができる。このため、処理室内に例えば水素が発生したような場合に、不活性ガスで希釈し、その後、温度が低下した後に処理室内を大気開放し、水素の発生原因を特定し、対策を講じた後に、処理室内での処理を復帰させることが可能となる。そして、所定圧力以上に圧力が上昇した場合には、引張手段が塑性変形し、開閉扉を開放して処理室内の圧力を逃がすと同時に、開閉扉がチャンバ本体から離間する運動エネルギーを吸収する。そのため、真空処理装置自体の破損を防止することが可能となる。
【0012】
本発明において、前記引張手段は、開閉扉とチャンバ本体とに夫々立設した保持部材間に張設される、円環部材の複数を鎖状に連結してなるチェーン体であることが好ましい。これによれば、上記機能を持つ引張手段を簡単な構成で実現できてよい。この場合、円環部材は、オーステナイト系ステンレス鋼製とすればよい。また、この場合、前記保持部材の少なくとも一方とチェーン体とは、当該チェーン体に引張力を加え得る張力印加部材を介して連結しておけば、引張手段を簡単な操作で取り付けることができてよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の真空処理装置を、開閉扉の全閉位置で示す模式平面図
図2】開閉扉の閉位置で示す真空処理装置の模式平面図。
図3】開閉扉の開位置で示す真空処理装置の模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の真空処理装置を説明する。なお、本発明は、減圧下で実施される処理によって、ガスが発生して意図しない圧力上昇が生じるものであれば、どのような真空処理装置であっても適用できるため、処理に応じて設けられる部品等、その内部構造の詳細な説明は省略する。
【0015】
図1図3を参照して、Mは、本発明の実施形態の真空処理装置であり、真空処理装置Mは、内部に処理室1aを画成する、略直方体状のチャンバ本体1を備える。チャンバ本体1の一側(図1では、下側)には、開口部1bが形成され、開口部1bの周縁部にはその全周に亘って外側に張り出すフランジ11が形成されている。また、チャンバ本体1には、真空ポンプ(排気手段)Pからの排気管が接続される接続部12が設けられている。
【0016】
また、真空処理装置Mは、チャンバ本体1の一側に蝶番2を介して取り付けられた開閉扉3を備える。開閉扉3の周縁部には、チャンバ本体1のフランジ11にその全面に亘って面接触する他のフランジ31が形成され、このフランジ31には、特に図示して説明しないが、無端の環状溝が形成され、この環状溝にOリング4が圧入されている(図2参照)。そして、蝶番2の支軸21周りに開閉扉3を回動させると、チャンバ本体1のフランジ11面に開閉扉31のフランジ31面がその全面に亘って圧接し、処理室1a内を気密保持する閉位置と(図2に示す状態)、チャンバ本体1の開口部1bから離間した開位置(例えば、図3に示す状態)との間で開閉扉3が移動される。なお、特に図示して説明しないが、チャンバ本体1には、公知の構造のクランプが設けられ、クランプにて開閉扉3をチャンバ本体1にOリング4を介して仮圧接させて、開閉扉3を閉位置に保持できるようになっている。そして、開閉扉3の閉位置でその内部を真空引きして減圧でき、このとき、Oリング4が圧縮されて開閉扉3のフランジ31がチャンバ本体1のフランジ11に圧接される。(図1に示す状態)。このとき、クランプのクランプ力の一部あるいは全てが解放される。
【0017】
チャンバ本体1と開閉扉3とには、蝶番2を設けた位置に対向させて、その外側に向けて水平にのびる保持部材5、5が夫々立設されている。そして、開閉扉3の全閉位置で、両保持部材5、5間には、開閉扉3に対し、当該開閉扉3のチャンバ本体1への圧接方向に引張力を加える引張手段6が張設される。引張手段6は、同一形態の円環部材61の複数を鎖状に連結してなるチェーン体で構成される。この場合、円環部材61は、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼製の棒材を円形に成形し溶接したものが用いられる。
【0018】
ここで、円環部材61を用いるのは、当該円環部材61に引張荷重を加えたとき、引張荷重に応じて上記円環部材61が弾性変形し、更に引張荷重を加えると、塑性変形するが、加わる引張荷重に対する変形量が大きく、急激な圧力上昇による開閉扉の運動エネルギーを吸収する能力が大きいからである。なお、本実施形態では、同一形態の円環部材6を連結してチェーン体6としているが、その半数以上がオーステナイト系ステンレス鋼製の棒材を円形に成形し溶接したものであればよい。このような場合、その残りのものは、他の材料製のものであってもよく、また、平面視長円形状等他の形状のものであってもよい。
【0019】
また、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼を用いるのは、もともと延性が優れている上に、衝撃力が加わった時の破壊靭性も優れており、円形の円環部材を用いることと相俟ってさらに信頼性を高めることができるからである。なお、円環部材61の線材の径や円環部材61の内径並びにこの円環部材61を連結する個数は、開閉扉3の面積や重量等を考慮して適宜設定される。
【0020】
本実施形態では、処理室1a内の圧力が上昇し、大気圧より高い所定圧力(例えば、5KPa)までは、引張手段6が弾性変形して開閉扉3が閉位置、つまり、Oリング4がチャンバ本体1のフランジ11の面にその全面に亘って接触し、処理室1aが気密保持され、この所定圧力を超えると、さらに弾性変形量が増し、開閉扉3を閉位置から開位置に移動を開始し、内部の圧力を逃がす。さらに、急激な圧力上昇をともなった場合は、引張手段6が塑性変形して開閉扉3がチャンバ本体1から離間する運動エネルギーを吸収するように、引張手段6が設計されている。
【0021】
また、引張手段6の一端は、チャンバ本体1側の保持部材5に、他方の保持部材5に向けて突設した舌片51にボルトBを介して固定され、その他端は、開閉扉3側の保持部材5に設けたハンドル付きねじを備えたフック部材52にボルトBを介して固定されている。そして、ハンドルを一方向に回転させると、開閉扉3側の保持部材5に対してフック部材52が、引張手段6の張設方向に相対移動することで、この引張手段が引っ張られて張設される。この場合、これらの部品が該チェーン体に引張力を加え得る張力印加部材7を構成する。
【0022】
以上によれば、開閉扉3の閉位置で処理室1a内を真空引きして減圧した後、引張手段6が上記の如く取り付けられ、処理室1a内で所定の処理が開始される。そして、処理中に何らかの原因で大量のガスが発生し、処理室1a内の圧力が上昇しても、引張手段6を備えるため、大気圧より高い所定圧力までは、図2に示すように、引張手段6により開閉扉3が閉位置に保持されて処理室1a内が気密保持され、処理室1a内への空気の流入を防止することができる。しかも、このとき、引張手段6は変形しても弾性変形内にとどまる。そのため、例えば、処理室1a内に水素が発生した場合でも、アルゴンガス等で希釈した後、さらに、温度が低下した後に処理室1a内を大気に開放することができる。そして、水素の発生原因を特定し、対策を講じた後に復帰させることが可能となる。そして、万が一、所定圧力以上に圧力が上昇した場合は、引張手段6がさらに弾性変形し扉の内圧を逃がす。この場合も、処理室1a内への空気の流入を防止することができる。さらに、急激な圧力上昇した場合は、引張手段6が塑性変形し、開閉扉3を開放し、圧力を逃がすと同時に、開閉扉3がチャンバ本体1から離間する運動エネルギーを吸収する。そのため、真空処理装置のチャンバ本体1、開閉扉3や蝶番2等の破損を防ぐことができる。また、張力印加部材7を設けたことで、引張手段6を簡単な操作で取り付けることができる。
【0023】
以上、本実施形態の真空処理装置について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、チャンバ本体1と開閉扉3とに設けた保持部材5、5間に一本の引張手段6を設けたものを例に説明したが、当該開閉扉3のチャンバ本体1への圧接方向に引張力を加えられるものであれば、その取付位置や引張手段の数は上記のものに限定されるものではなく、例えば、開閉扉の両側に、平行に2本の引張手段を設けることができる。
【0024】
また、上記実施形態では、開閉扉3として、蝶番2を用いて開閉するものを例に説明したが、チャンバ本体1の開口部1bに対して上下または左右方向にスライドして開閉するものであっても、本発明を適用して、所定圧力を超えると、引張手段6がさらに弾性変形して、処理室1a内の圧力を逃がし、さらに圧力が上急激に上昇した場合、引張手段6が塑性変形して開閉扉3がチャンバ本体1から離間する運動エネルギーを吸収するように構成できる。
【符号の説明】
【0025】
M…真空処理装置、1…チャンバ本体、1a…処理室、1b…開口部、3…開閉扉、4…Oリング、5、5…保持部材、6…チェーン体(引張手段)、61…円環部材、7…張力印加部材、P…真空ポンプ(排気手段)。
図1
図2
図3