(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、十分な可塑性、アルコール系溶剤への溶解性、その溶液の低粘性及び安定性等を有し、他の成分と相分離を起こし難く、粒子の分散性やチキソトロピー性に優れたスラリーや、強度及び柔軟性に優れたシート等を得ることができるビニルアセタール系重合体を提供することを目的とする。また、これを含有する組成物、この組成物を用いて得られるセラミックグリーンシート、及びこのセラミックグリーンシートを用いて得られる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、
アルキル変性ビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られるアルキル変性ビニルアセタール系重合体であって、
上記アルキル変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、このアルキル変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下であるアルキル変性ビニルアセタール系重合体である。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1は炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基である。R
2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0013】
上記特徴を有する当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、ガラス転移点が低く可塑性に優れ、アルコール系溶剤への溶解性が高く、その溶液粘度は低く、溶液粘度の経時安定性にも優れる。また、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、組成物とした際に他の成分と相分離を起こし難く、セラミック粉末等の無機粒子の分散性にも優れ、特にスラリー状の塗料等の組成物とした際には、チキソトロピー性を付与することができる。さらに、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を加工して得られるフィルム、シート等は、強度及び柔軟性が高い。
【0014】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下であることが好ましい。当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、アセタール化度が上記特定範囲であることで、無機粒子等の分散性に十分優れると共に、これを加工して得られるフィルム、シート等の強度及び柔軟性も満足する。ここで、アセタール化度とは、アルキル変性ビニルアセタール系重合体を構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表し、該アルキル変性ビニルアセタール系重合体のDMSO−d
6(ジメチルスルホキサイド)溶液を試料としてプロトンNMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。
【0015】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、下記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下、上記単量体単位によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下である。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R
1は炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基である。R
2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0018】
上記特徴を有する当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、ガラス転移点が低く可塑性に優れ、アルコール系溶剤への溶解性が高く、その溶液粘度は低く、溶液粘度の経時安定性にも優れる。また、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、組成物とした際に他の成分と相分離を起こし難く、セラミック粉末等の無機粒子の分散性にも優れ、特にスラリー状の塗料等の組成物とした際には、チキソトロピー性を付与することができる。さらに、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を加工して得られるフィルム、シート等は、強度及び柔軟性が高い。
【0019】
本発明は、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有する組成物を含む。当該組成物は、強靱性及び柔軟性を兼ね備える当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有するため、フィルム、シート等を製造するための組成物として好適に用いられる。
【0020】
本発明の組成物は、セラミック粉末及び有機溶剤をさらに含有し、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いられることが好ましい。本発明の組成物は、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有することで、セラミック粉末等の無機粒子等の分散性に優れるため、セラミック粉末を凝集させることなく均一に分散させることができ、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として好適に用いることができる。また、当該組成物はチキソトロピー性が高いため、ハンドリング性にも優れる。
【0021】
本発明のセラミックグリーンシートは、当該組成物を用いて得られる。当該セラミックグリーンシートは、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有する組成物を用いて製造されるため、セラミック粒子がシート内に均一に分散されると共に、強度及び柔軟性をバランス良く備える。
【0022】
本発明の積層セラミックコンデンサは、当該セラミックグリーンシートを用いて得られる。当該セラミックグリーンシートは、セラミック粉末がシート内に均一に分散しているため、セラミック誘電体として高性能に機能する。このようなセラミックグリーンシートを積層して製造される本発明の積層セラミックコンデンサは、コンデンサとしての機能に優れ、信頼性も高い。
【0023】
本発明は、下記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、上記不飽和単量体によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下のアルキル変性ビニルエステル系重合体を得る工程、
上記アルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を得る工程、
上記アルキル変性ビニルアルコール系重合体のアセタール化により、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下のアルキル変性ビニルアセタール系重合体を得る工程
を有するアルキル変性ビニルアセタール系重合体の製造方法も含む。
【0024】
【化3】
【0025】
(式中、R
1は炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基である。R
2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0026】
本発明の製造方法によると、可塑性及びアルコール系溶剤への溶解性に優れ、その溶液粘度が低く、溶液粘度の経時安定性にも優れ、組成物とした際に他の成分と相分離を起こし難く、セラミック粉末等の無機粒子の分散性にも優れ、特にスラリー状の塗料等の組成物とした際には、チキソトロピー性を付与することができるアルキル変性ビニルアセタール系重合体を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、ガラス転移点が低く十分な可塑性を有する。また、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、アルコール系溶剤への溶解度が高く、その溶液粘度は低く、溶液粘度の経時安定性も十分満足する。また、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を各種バインダーとして使用した組成物は、相分離を起こし難く、粒子等の高い分散性、及びチキソトロピー性を示す。さらに、本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は内部的に可塑化するため、可塑剤の使用量を少なくしても熱可塑的な加工が可能である。従って、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いることで、多量の可塑剤添加による物性の低下等の問題を回避することができ、強度及び柔軟性に優れるフィルム、シート等を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<アルキル変性ビニルアセタール系重合体>
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、アルキル変性ビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる。以下に、アルキル変性ビニルアルコール系重合体について説明する。
【0029】
<アルキル変性ビニルアルコール系重合体>
本発明に使用されるアルキル変性ビニルアルコール系重合体(以下、「アルキル変性PVA」ともいう)は、上記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下である。上記アルキル変性PVAが上記一般式(I)で示される単量体単位を含有することで、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有するスラリー組成物のチキソトロピー性がより一層向上する。これにより、高せん断速度域では容易に流動し、低せん断速度域では流動しにくい性質をスラリー組成物に与えることができ、高せん断速度域における粘度と低せん断速度域における粘度の比をより大きくすることができる。その結果、塗布したスラリー組成物が流動しにくくなり、シートアタックをより一層抑制することができる。
【0030】
上記アルキル変性PVAは、上記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、上記特性を満たしていればよい。
【0031】
上記一般式(I)中、R
1に含まれる炭素数は8〜29である必要があり、10〜25が好ましく、12〜24がより好ましく、18〜24がさらに好ましい。炭素数が8未満の場合、アルキル基同士の相互作用が発現せず、得られる変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑化効果も発現しないため、フィルムやシートに加工して使用した場合に柔軟性が低下する。一方、炭素数が29を超える場合、アルキル変性PVAの水溶性が低下し、後述するアセタール化反応を水溶液中で行うことが困難になる。なお、R
1は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0032】
上記一般式(I)中、R
2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、水素原子またはメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0033】
上記アルキル変性PVAのけん化度は、20モル%以上99.99モル%以下であり、40モル%以上99.9モル%以下がより好ましく、77モル%以上99.9モル%以下がさらに好ましく、80モル%以上99.9モル%以下が
特に好ましい。けん化度が20モル%未満の場合には、アルキル変性PVAの水溶性が低下し、アルキル変性PVAの水溶液の調製が困難であるため、アルキル変性ビニルアセタール系重合体の製造を水溶液中で行うことが困難になる。けん化度が99.99モル%を超えると、アルキル変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。なお、上記アルキル変性PVAのけん化度は、JIS K6726に準じて測定し得られる値である。
【0034】
上記アルキル変性PVAは、上記一般式(I)で示される単量体単位によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下である。ここで、アルキル変性率Sとは、PVAの主鎖メチレン基に対するアルキル基のモル分率である。上記アルキル変性PVAを構成する単量体単位は、通常、単量体単位一つにつき、主鎖メチレン基を一つ有する。すなわち、アルキル変性PVAのアルキル変性率Sとは、アルキル変性PVAを構成する全単量体単位のモル数に占める、上記一般式(I)で示される単量体由来の単位のモル数の割合(モル%)である。アルキル変性率Sが5モル%を超えると、アルキル変性PVA一分子あたりに含まれる疎水基の割合が高くなり、上記アルキル変性PVAの水溶性が低下し、後述するアセタール化反応を水溶液中で行うことが困難になる。アルキル変性率Sの上限としては、2モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、アルキル変性率Sが0.05モル%未満の場合、アルキル変性PVAの水溶性は優れているものの、アルキル変性PVA中に含まれるアルキル基の数が少ないため、アルキル基同士の相互作用が発現せず、得られるアルキル変性ビニルアセタール系重合体においてアルキル変性に基づく物性である内部可塑化効果が十分に発現しない。アルキル変性率Sの下限としては、0.1モル%がより好ましい。
【0035】
アルキル変性PVAのアルキル変性率Sは、アルキル変性PVAのプロトンNMRから求めることができる。また、アルキル変性ビニルエステル系重合体をけん化してアルキル変性PVAを得る場合、一分子中の全単量体単位のモル数に占める、上記一般式(I)で示される単量体由来の単位のモル数の割合(モル%)は、けん化前後及び後述するアセタール化の前後で変化しない。したがって、アルキル変性PVAのアルキル変性率Sは、その前駆体であるアルキル変性ビニルエステル系重合体又はそのアセタール化物である当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体のプロトンNMRから求めることもできる。
【0036】
アルキル変性PVAがビニルアルコール単位、ビニルエステル単位及び上記一般式(I)で示される単量体由来の単位のみからなり、R
1が直鎖状であり、さらにR
2が水素原子である場合、例えば、下記の方法により前駆体であるアルキル変性ビニルエステル系重合体を測定することにより、当該アルキル変性PVAのアルキル変性率を算出することができる。まず、n−ヘキサン/アセトンで変性ビニルエステルの再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用の変性ビニルエステルのサンプルを作成する。該サンプルをCDCl
3に溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定する。そして、ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)の面積とアルキル基R
1の末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)の面積とから下記式を用いてアルキル変性率Sを算出する。
アルキル変性率S(モル%)=[(ピークβの面積/3)/{ピークαの面積+(ピークβの面積/3)}]×100
【0037】
本発明に使用されるアルキル変性PVAの粘度平均重合度Pは、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、上記アルキル変性PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。アルキル変性PVAとして、2種以上のPVAを混合して用いる場合は、混合後のPVA全体の見掛け上の粘度平均重合度をその場合の粘度平均重合度Pとする。なお、粘度平均重合度を単に重合度と呼ぶことがある。
重合度P=([η]×10
3/8.29)
(1/0.62)
【0038】
本発明に使用されるアルキル変性PVAの重合度Pは150以上5,000以下である。重合度Pが5,000を超えると、上記アルキル変性PVAの生産性が低下して実用的でない。また、重合度Pが150未満の場合、上記アルキル変性PVAを用いて得られるアルキル変性ビニルアセタール系重合体の内部可塑性が強くなり過ぎるため、それを使用して得られるシートやフィルムは、柔軟性は有するものの強度が十分でない。アルキル変性PVAの重合度Pの下限は、好ましくは180であり、より好ましくは200であり、さらに好ましくは500であり、特に好ましくは800であり、最も好ましくは1,000である。一方、アルキル変性PVAの重合度の上限は、好ましくは4,500であり、より好ましくは3,500である。
【0039】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、上述のアルキル変性PVAを従来公知の方法に従ってアセタール化することにより得られる重合体である。この際のアセタール化度は1モル%以上85モル%以下であることが好ましい。アセタール化度を上記範囲とすることで、より一層強靭性に優れるアルキル変性ビニルアセタール系重合体を容易に得ることができる。アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度としては、好ましくは10モル%以上85モル%以下、より好ましくは30モル%以上85モル%以下であり、さらに好ましくは35モル%以上85モル%以下であり、特に好ましくは55モル%以上80モル%以下である。アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度を調整するには、アルキル変性PVAに対するアルデヒドの添加量、及び、アルデヒドと酸触媒を添加した後の反応時間等を適宜調整すればよい。
【0040】
ここで、アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアセタール化度とは、アルキル変性ビニルアセタール系重合体を構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表し、該アルキル変性ビニルアセタール系重合体のDMSO−d
6(ジメチルスルホキサイド)溶液を試料としてプロトンNMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。
【0041】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体の粘度平均重合度Pは、150以上5,000以下である必要がある。アルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pが150未満であると、薄膜セラミックグリーンシート等のシートあるいはフィルムを作製する場合に、得られるシートまたはフィルムの機械的強度が不十分となる。一方、アルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pが5,000を超えると、有機溶剤に十分に溶解しないおそれや、溶液粘度が高くなりすぎることにより、塗工性や分散性が低下するおそれがある。アルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pの下限は、好ましくは200であり、より好ましくは500であり、さらに好ましくは800であり、特に好ましくは1,000である。一方、アルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pの上限は、好ましくは4,500であり、より好ましくは3,500である。
【0042】
なお、アルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度Pはアルキル変性ビニルアセタール系重合体の製造に用いられるアルキル変性PVAの重合度から求められる。つまり、アセタール化により重合度が変化することはないため、アルキル変性PVAの重合度と、それをアセタール化して得られるアルキル変性ビニルアセタール系重合体の重合度は同じである。
【0043】
アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sは、0.05モル%以上5モル%以下である。アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sとは、アルキル変性ビニルアセタール系重合体を構成する全単量体単位のモル数に占める、上記一般式(I)で示される単量体単位のモル数の割合(モル%)である。アルキル変性PVAをアセタール化しても、当該分子中の全単量体単位のモル数に占める、上記一般式(I)で示される単量体由来の単位のモル数の割合(モル%)は変わらないため、上述したアルキル変性PVAのアルキル変性率Sと、それをアセタール化して得られるアルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sは同じである。
【0044】
アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sの上限としては、2モル%が好ましく、1.5モル%がより好ましい。一方、アルキル変性率Sが0.05モル%未満の場合、アルキル変性ビニルアセタール系重合体中に含まれるアルキル基の数が少なく、アルキル変性に基づく物性が十分に発現しない。アルキル変性率Sの下限としては、0.1モル%が好ましい。
【0045】
アルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sは、該アルキル変性ビニルアセタール系重合体から求めてもよく、その前駆体であるアルキル変性PVAまたはアルキル変性ビニルエステル系重合体から求めてもよく、いずれもプロトンNMRで求めることができる。アルキル変性ビニルエステル系重合体からアルキル変性ビニルアセタール系重合体のアルキル変性率Sを求める場合、アルキル変性PVAのアルキル変性率Sを求める方法として上述した方法により求めることができる。
【0046】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体において、ビニルエステル系単量体単位の含有率は0.01モル%以上30モル%以下であることが好ましい。ビニルエステル系単量体単位の含有率を上記範囲とすることで、適度な粘度のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を容易に得ることが可能となり、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いて作製したセラミックグリーンシートのシートアタック現象をより一層抑制でき、さらには、ハンドリング性、機械的強度及び加熱圧着時の寸法安定性がより一層向上する。ビニルエステル系単量体単位の含有率の下限は、より好ましくは0.5モル%である。一方、ビニルエステル系単量体単位の含有率の上限は、より好ましくは23モル%、さらに好ましくは20モル%である。なお、ビニルエステル系単量体単位の含有率が0.01モル%以上30モル%以下であるアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、例えば、ビニルエステル系単量体単位の含有率が0.01モル%以上30モル%以下であるアルキル変性PVAをアセタール化することにより得られる。
【0047】
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体において、ビニルアルコール系単量体単位の含有率は14モル%以上70モル%以下であることが好ましい。ビニルアルコール系単量体単位の含有率を上記範囲とすることで、適度な粘度のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を容易に得ることが可能となり、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いて作製したセラミックグリーンシートの強度がより一層向上し、さらにはシートアタック現象をより一層抑制することができる。
【0048】
当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、上述したような、上記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位によるアルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下のアルキル変性PVAをアセタール化して得られる重合体である。また、このような製造方法以外の方法で製造された重合体であっても、上記一般式(I)で示される単量体単位を含有し、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下、アルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下のアルキル変性ビニルアセタール系重合体であれば、本発明の範囲に含まれる。
【0049】
<アルキル変性ビニルアセタール系重合体の製造方法>
当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、アルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下のアルキル変性ビニルエステル系重合体(共重合体)を得る工程(以下、工程(1)ともいう)、
上記アルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のアルキル変性PVAを得る工程(以下、工程(2)ともいう)、
上記アルキル変性PVAのアセタール化により、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下のアルキル変性ビニルアセタール系重合体を得る工程(以下、工程(3)ともいう)
を有する。なお、各工程の具体的な方法について以下に詳述する。
【0050】
[工程(1)]
本工程は、上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により、粘度平均重合度Pが150以上5,000以下、アルキル変性率Sが0.05モル%以上5モル%以下のアルキル変性ビニルエステル系重合体を得る工程である。
【0051】
上記一般式(II)中、R
1は炭素数8〜29の直鎖または分岐アルキル基である。R
2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。上記R
1及びR
2については、上記一般式(I)におけるR
1及びR
2についての説明を適用できる。
【0052】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体としては、具体的には、N−オクチルアクリルアミド、N−デシルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ヘキサコシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、N−オクタデシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が好ましく、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド及びN−オクタデシルメタクリルアミドがより好ましい。
【0053】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するアルキル変性率を有する変性PVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0054】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0055】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、・−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0056】
また、上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤をビニルエステル系単量体に対して1ppm以上100ppm以下程度添加してもよい。
【0057】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0058】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体と、ビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の効果を損なわない範囲で他の単量体を共重合してもよい。使用しうる他の単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらの単量体は、通常ビニルエステル系単量体に対して10モル%未満の割合で用いられる。
【0059】
さらに、他の単量体として、本発明の
効果を損なわない範囲で、α−オレフィン単位を与える単量体を共重合してもよい。上記α−オレフィン単位の含有率は、1モル%以上20モル%以下が好ましい。
【0060】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行ってもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられ、中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1質量%以上10質量%以下が望ましい。
【0061】
[工程(2)]
本工程は、上記アルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化により、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下のアルキル変性PVAを得る工程である。
【0062】
得られたアルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応又は加水分解反応を適用することができる。この反応に使用し得る溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0063】
[工程(3)]
本工程は、上記アルキル変性PVAのアセタール化により、アセタール化度が1モル%以上85モル%以下であるアルキル変性ビニルアセタール系重合体を得る工程である。
【0064】
本発明におけるアセタール化の手法としては、一般的に一段法と二段法とがあり、いずれを採用してもよい。
【0065】
上記二段法は、アルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化と生成したアルキル変性PVAのアセタール化を別々の反応器で行う手法である。上記二段法はさらに、沈殿法と溶解法に大別される。沈殿法としては、アルキル変性PVAの水溶液を用い、水を主体とした溶剤中、低温でアルキル変性PVAのアセタール化反応を行い、アルキル変性ビニルアセタール系重合体が析出した後、系の温度を上げて熟成反応(アセタール化反応の完結とアセタール化部分の再配列)させる方法が好ましい。溶解法においては、イソプロパノール等のアルコール系溶媒中、またはこれに水等を併用した混合溶液中、高温でアルキル変性PVAのアセタール化反応を行った後、系に水等を加えてアルキル変性ビニルアセタール系重合体を沈殿析出させる。一方、上記一段法においては、アルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化と、生成したアルキル変性PVAのアセタール化をワンポットで行う。
【0066】
上記のアセタール化の手法のうち、沈殿法をさらに具体的に説明する。3質量%以上15質量%以下のアルキル変性PVAの水溶液を、80℃以上100℃以下の温度範囲に調温した後に、10分以上60分以下かけて徐々に冷却する。温度が−10℃以上40℃以下まで低下したところで、アルデヒド及び酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、10分間以上300分間以下アセタール化反応を行う。このときのアルデヒドの使用量としては、アルキル変性PVA100質量部に対し、10質量部以上150質量部以下が好ましい。その後、反応液を30分以上200分以下かけて、15℃以上80℃以下の温度まで昇温し、その温度を0分以上360分間以下保持する熟成工程を含むことが好ましい。次に、反応液を、好適には室温まで冷却し、水洗した後、アルカリ等の中和剤を添加し、洗浄、乾燥することにより、目的とするアルキル変性ビニルアセタール系重合体が得られる。
【0067】
アセタール化反応に使用できるアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ピバルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ドデシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;シクロペンタンアルデヒド、メチルシクロペンタンアルデヒド、ジメチルシクロペンタンアルデヒド、シクロヘキサンアルデヒド、メチルシクロヘキサンアルデヒド、ジメチルシクロヘキサンアルデヒド、シクロヘキサンアセトアルデヒド等の脂環族アルデヒド;シクロペンテンアルデヒド、シクロヘキセンアルデヒド等の環式不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド、クミンアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントラアルデヒド、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレインアルデヒド、7−オクテン−1−アール等の芳香族あるいは不飽和結合含有アルデヒド;フルフラール、メチルフルフラール等の複素環アルデヒド等が挙げられる。
【0068】
これらの中でも、炭素数2〜8のアルデヒドを用いることが好ましい。炭素数2〜8のアルデヒドとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、3−メチルブタナール、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素数4〜6のアルデヒドが好ましく、特にn−ブチルアルデヒドが好ましい。
【0069】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、ヒドロキシアセトアルデヒド、ヒドロキシプロピオンアルデヒド、ヒドロキシブチルアルデヒド、ヒドロキシペンチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、ジヒドロキシベンズアルデヒド等の水酸基含有アルデヒド;グリオキシル酸、2−ホルミル酢酸、3−ホルミルプロピオン酸、5−ホルミルペンタン酸、4−ホルミルフェノキシ酢酸、2−カルボキシベンズアルデヒド、4−カルボキシベンズアルデヒド、2,4−ジカルボキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒド2−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2,4−ジスルホン酸、4−ホルミルフェノキシスルホン酸、3−ホルミル−1−プロパンスルホン酸、7−ホルミル−1−ヘプタンスルホン酸、4−ホルミルフェノキシホスホン酸等の酸含有アルデヒド、その金属塩あるいはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0070】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、アミノ基、シアノ基、ニトロ基または4級アンモニウム塩等を官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、アミノアセトアルデヒド、ジメチルアミノアセトアルデヒド、ジエチルアミノアセトアルデヒド、アミノプロピオンアルデヒド、ジメチルアミノプロピオンアルデヒド、アミノブチルアルデヒド、アミノペンチルアルデヒド、アミノベンズアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、エチルメチルアミノベンズアルデヒド、ジエチルアミノベンズアルデヒド、ピロリジルアセトアルデヒド、ピペリジルアセトアルデヒド、ピリジルアセトアルデヒド、シアノアセトアルデヒド、α−シアノプロピオンアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、トリメチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムイオダイン、トリエチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムイオダイン、トリメチル−2−ホルミルエチルアンモニウムイオダイン等が挙げられる。
【0071】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、ハロゲンを官能基として有するアルデヒドを使用してもよい。このようなアルデヒドとしては、例えば、クロロアセトアルデヒド、ブロモアセトアルデヒド、フルオロアセトアルデヒド、クロロプロピオンアルデヒド、ブロモプロピオンアルデヒド、フルオロプロピオンアルデヒド、クロロブチルアルデヒド、ブロモブチルアルデヒド、フルオロブチルアルデヒド、クロロペンチルアルデヒド、ブロモペンチルアルデヒド、フルオロペンチルアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、ジクロロベンズアルデヒド、トリクロロベンズアルデヒド、ブロモベンズアルデヒド、ジブロモベンズアルデヒド、トリブロモベンズアルデヒド、フルオロベンズアルデヒド、ジフルオロベンズアルデヒド、トリフルオロベンズアルデヒド、トリクロロメチルベンズアルデヒド、トリブロモメチルベンズアルデヒド、トリフルオロメチルベンズアルデヒド及びそのアルキルアセタール等が挙げられる。
【0072】
アルキル変性PVAのアセタール化に際して、上記のアルデヒドの他に、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の多価アルデヒドを併用してもよい。しかしながら、アルキル変性PVAを多価アルデヒドでアセタール化した場合、架橋部位と未架橋部位の応力緩和力が異なるため、フィルム等の成形物とした際に反りが生じることがある。従って、使用するアルデヒドはモノアルデヒドのみであることが好ましく、多価アルデヒド基を使用する場合であっても、使用量はアルキル変性PVAのビニルアルコール単位に対して、0.005モル%未満、より好ましくは0.003モル%以下であることが好ましい。
【0073】
なお、アセタール化に際しては、上記に例示したアルデヒドのアルキルアセタールも同様に使用することができる。
【0074】
アセタール化に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸及び無機酸のいずれも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硫酸及び硝酸が好ましく、塩酸及び硝酸がより好ましい。
【0075】
<組成物>
本発明のアルキル変性ビニルアセタール系重合体の用途は特に限定されないが、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有する組成物は、セラミックグリーンシートや積層セラミックコンデンサの内部電極のバインダーの他、例えば、塗料、インク、接着剤、粉体塗料等コーティング材料、熱現像性感光材料等として広く用いることができる。
【0076】
本発明の組成物は、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を含有するが、用途に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、接着性改良剤、熱線吸収剤、着色剤、フィラー、流動性改良剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤、解膠剤、湿潤剤、消泡剤等の添加剤、有機溶媒等の溶媒を含有することが好ましい。これらの添加剤及び溶媒は、アルキル変性ビニルアセタール系重合体の製造時に添加しても良いし、製造後、各種用途に供する前に添加しても良い。上記添加剤のうち、可塑剤及びフィラーが好ましい。
【0077】
上記可塑剤としては、ビニルアセタール系重合体との相溶性に優れているものであれば特に限定されないが、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(以下、DOPと略称することがある)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)等のフタル酸系可塑剤;アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(以下、DOAと略称することがある)等のアジピン酸系可塑剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系可塑剤;トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)等のグリコールエステル系可塑剤;リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリエチル等のリン酸系可塑剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0078】
上記フィラーとしては、セラミック粉末が好ましい。セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、結晶化ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の粉末が挙げられる。これらのセラミック粉末は単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。上記セラミック粉末に、MgO−SiO
2−CaO系、B
2O
2−SiO
2系、PbO−B
2O
2−SiO
2系、CaO−SiO
2−MgO−B
2O
2系またはPbO−SiO
2−B
2O
2−CaO系等のガラスフリットが添加されてもよい。
【0079】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、α−テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコール系、テルペン系が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
当該組成物としては、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体、セラミック粉末及び有機溶剤を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物が好ましい。当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体は、セラミックグリーンシートの製造工程において、一般に用いられるエタノールとトルエンとの1:1混合溶剤またはエタノール等のアルコール類に溶解した場合、溶液粘度が高くなり過ぎない。そのため、セラミック粉末を凝集させることなく、組成物中に均一に分散させることができる。また、当該組成物は塗工性にも優れる。この点で上記スラリー組成物は特に有用である。
【0081】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いられる当該組成物中の当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体の含有量は、当該組成物全量に対して3質量%以上30質量%以下であることが好適である。当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体の含有量を上記範囲とすることで、得られるセラミックグリーンシートの成膜性能がより一層向上する。当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体のより好ましい含有量は、3質量%以上20質量%以下である。
【0082】
また、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物は、バインダー樹脂として当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体のほかにアクリル系重合体、セルロース系重合体を含有してもよい。バインダー樹脂としてアクリル系重合体、セルロース系重合体等を含有する場合、バインダー樹脂全体に占める当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体の含有量の好ましい下限は、得られるセラミックグリーンシートの機械的強度、加熱圧着性の観点から30質量%である。
【0083】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対するセラミック粉末の含有量の上限は80質量%であることが好ましく、下限は17質量%であることが好ましい。セラミック粉末の含有量を上記範囲とすることで、セラミックグリーンシートを容易に成形することができる。
【0084】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物に含有される有機溶剤としては、本発明の組成物に用いられる有機溶剤として上述したものが挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でもハンドリング性が良好であることから、トルエンとエタノールの混合溶媒、エタノール、α−テルピネオール、ブチルセルソルブアセテートまたはブチルカルビトールアセテートが好適である。
【0085】
セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対する有機溶剤の含有量の上限は80質量%であることが好ましく、下限は17質量%であることが好ましい。有機溶剤の含有量を上記範囲とすることで、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物に適度な混練性を与えることができる。
【0086】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物に添加する可塑剤としては、揮発性が低く、シートの柔軟性を保ちやすいことから、DOP、DOA、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)が好適である。これらは単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせて用いることも可能である。可塑剤の使用量は特に限定されないが、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物の全量に対して0.1質量%以上10質量%以下使用することが好ましく、より好適には1質量%以上8質量%以下である。
【0087】
<組成物の調製方法>
当該組成物は、当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体、可塑剤等の添加剤を有機溶媒等の溶媒中に溶解、分散等させることにより調製することができる。具体的には、例えばセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物を調製する方法として当該アルキル変性ビニルアセタール系重合体を少なくとも含有するバインダー樹脂、セラミック粉末、有機溶剤及び必要に応じて添加する各種添加剤を混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。上記混合機としては、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機が挙げられる。
【0088】
<セラミックグリーンシート>
上述のセラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物は上記のような性能を有することから、十分な機械的強度及び柔軟性を有する薄膜のセラミックグリーンシートを製造することができる。本発明の組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートが本発明の好適な実施態様のひとつである。
【0089】
当該セラミックグリーンシートの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができる。例えば、セラミックグリーンシート用スラリー組成物として用いる当該組成物を、必要に応じて脱泡処理した後、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に塗膜状に塗布し、加熱等により溶剤等を留去した後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。
【0090】
<積層セラミックコンデンサ>
本発明のセラミックグリーンシートを用いて得られる積層セラミックコンデンサもまた、本発明の好適な実施態様のひとつである。当該積層セラミックコンデンサは、当該セラミックグリーンシートと、導電ペーストを用いて得られるものであることが好ましく、当該セラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層したものであることがより好ましい。
【0091】
当該積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができる。例えば、当該セラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去した後(脱脂処理)、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0093】
<PVAの製造方法>
[製造例1](PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、単量体滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、N−オクタデシルメタクリルアミド1.1gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてN−オクタデシルメタクリルアミドをメタノールに溶解して濃度5質量%とした単量体溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルとN−オクタデシルメタクリルアミドとの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えた単量体の総量は4.8gであった。また重合停止時の固形分濃度は29.9質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性酢酸ビニル系重合体(以下、アルキル変性PVAcと略称することがある)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液771.4g(溶液中のアルキル変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のアルキル変性PVAc濃度25質量%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、アルキル変性PVA(PVA1)を得た。PVA1の重合度Pは1,700、けん化度は98.5モル%、アルキル変性率Sは0.4モル%であった。製造条件を表1に、重合度P、けん化度及びアルキル変性率Sを表2にそれぞれ示す。
【0094】
[製造例2〜20及び22〜24](PVA2〜20及び22〜24の製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するアルキル基を有する不飽和単量体の種類(上記式(II)においてR
1及びR
2で表される基の種類)や添加量等の重合条件、けん化時におけるアルキル変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示す通りとした以外は、製造例1と同様の方法により各種のアルキル変性PVA(PVA2〜20、22〜24)を製造した。製造条件を表1に、重合度P、けん化度及びアルキル変性率Sを表2にそれぞれ示す。
【0095】
[製造例21](PVA21の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は31.0質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、無変性ポリ酢酸ビニル(無変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製した無変性PVAcのメタノール溶液771.1g(溶液中の無変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液の無変性PVAc濃度25質量%、無変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、無変性PVA(PVA21)を得た。PVA21の重合度Pは1,700、けん化度は98.5モル%であった。製造条件を表1に、重合度、けん化度及びアルキル変性率を表2に、それぞれ示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
<アルキル変性ビニルアセタール系重合体の合成>
[実施例1]
還流冷却器、温度計及びイカリ型撹拌翼を備えた内容積5Lのガラス製容器に、アルキル変性PVA(PVA1)193gと水2,900gとを加え、90℃以上で約2時間撹拌し、完全に溶解させた。このアルキル変性PVA溶液を撹拌しながら38℃に冷却し、これにアセタール化触媒として濃度35質量%の塩酸201gとn−ブチルアルデヒド112gとを添加し、液温を20℃以下に下げて、PVA1のアセタール化を開始した。この温度を15分間保持し、アルキル変性ビニルブチラール重合体を析出させた。その後、液温30℃まで昇温し、30℃にて5時間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をろ過後、樹脂に対して10倍量のイオン交換水で10回洗浄した後、中和のために0.3質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、70℃で5時間保持した後、さらに10倍量のイオン交換水で再洗浄を10回繰り返し、脱水した後、40℃、減圧下で18時間乾燥し、アルキル変性ビニルブチラール重合体を得た。得られたアルキル変性ビニルブチラール重合体において、ブチラール(アセタール)化度は70.0モル%、酢酸ビニル単位量は1.1モル%、ビニルアルコール単位量は28.5モル%であった。得られたアルキル変性ビニルブチラール重合体の各物性値を下記方法により測定し、ヘイズ、溶液粘性及び粘度安定性を、下記の方法によって評価した。アルキル変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。なお、ヘイズ測定用の試験片の作製に使用したアルキル変性ビニルブチラール系重合体及び可塑剤は、混合溶剤に良好に溶解した。
【0099】
[実施例2〜19、比較例1〜5]
PVA1に代えて、表1及び表2に示すアルキル変性PVA(PVA2〜24)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてアルキル変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。各アルキル変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。なお、各実施例において、ヘイズ測定用の試験片の作製に使用したビニルブチラール系重合体及び可塑剤は、混合溶剤に良好に溶解した。
【0100】
[実施例20〜23]
得られるアルキル変性ビニルブチラール重合体のブチラール(アセタール)化度が、それぞれ表3に示す数値になるように、アセタール化触媒である塩酸とn−ブチルアルデヒドの添加量を変更したこと以外は実施例1と同様にしてアルキル変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。各アルキル変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。なお、各実施例において、ヘイズ測定用の試験片の作製に使用したアルキル変性ビニルブチラール系重合体及び可塑剤は、混合溶剤に良好に溶解した。
【0101】
[比較例6]
PVA1に代えて、特許文献1(特開平06−263521号公報)に記載されている、下記一般式(III)で示される側鎖を有する変性PVA25(組成は表2に記載)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、変性ビニルブチラール重合体の合成、下記物性値の測定及び評価を行った。上記変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。
【0102】
【化4】
【0103】
[比較例7]
変性PVA1に代えて、特許文献3(特開2006−104309号公報)に記載されている、下記一般式(IV)で示される単量体単位を有する変性PVA26(組成は表2に記載)を用いたこと以外は実施例1と同様にして変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。上記変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。
【0104】
【化5】
【0105】
[比較例8]
PVA1に代えて、特許文献4(特表2008−504415号公報)に記載されている、VeoVa10(Resolution Performance Products社製)を共重合した変性PVA27(組成は表2に記載)を用いたこと以外は実施例1と同様にして変性ビニルブチラール重合体を合成し、下記物性値の測定及び評価を行った。上記変性ビニルブチラール重合体の組成、物性値及び評価結果を表3に示す。
【0106】
[ビニルアセタール系重合体の物性値の測定及び評価]
(酢酸ビニル単位量、ビニルアルコール単位量及びアセタール化度)
各ビニルアセタール系重合体の酢酸ビニル単位量、ビニルアルコール単位量及びアセタール化度は、プロトン−NMRスペクトルより算出した。なお、アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0107】
(ガラス転移点(Tg))
各ビニルアセタール系重合体のガラス転移点の測定には、セイコーインスツル株式会社製「EXTAR6000(RD220)」を用いた。具体的には、窒素中、各ビニルアセタール系重合体を、30℃から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた後、30℃まで冷却し、再度150℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた。再昇温時の測定値をガラス転移点(℃)として採用した。
【0108】
(ヘイズ)
各ビニルアセタール系重合体10質量部及び可塑剤としてのジブチルフタレート2質量部を、トルエン10質量部及びエタノール10質量部からなる混合溶剤に加え、撹拌混合して溶解させた。厚さ50μmの透明ポリエステルフィルム(東洋紡績株式会社製「エステルA−4140」)上に、乾燥後の厚みが200μmとなるように上記の溶液をキャストし、熱風乾燥機を用いて60〜80℃で4時間乾燥させた。20℃で1日間静置した後、25mm×50mmにカットし試験片を得た。この試験片を用いて、JIS K7105に準じてヘイズ(%)を測定した。
【0109】
(溶液粘度及び粘度安定性)
各ビニルアセタール系重合体をエタノールに5質量%になるように溶解し、完溶したことを確認した後、ブルックフィールドタイプの回転粘度計を使用して、各溶液の20℃での溶液粘度を測定した。さらに、各溶液を20℃に調整された恒温室内で1ヶ月間密閉保管し、その後の各溶液粘度を同様の条件にて測定した。初期粘度をη
1、保管後の粘度をη
2として、粘度比η
2/η
1を求めた。
【0110】
<セラミックグリーンシート用スラリー組成物の調製>
実施例1〜23及び比較例1〜8の各ビニルアセタール系重合体(ビニルブチラール系重合体)をそれぞれ用いてセラミックグリーンシート用スラリー組成物を調製した。具体的には、各ビニルアセタール系重合体10質量部を、トルエン10質量部及びエタノール10質量部からなる混合溶剤に加え、撹拌混合して溶解させた。この溶液に可塑剤としてのジブチルフタレート2質量部を加え撹拌混合した。得られた溶液にセラミック粉末としてアルミナ粉末(平均粒子径1μm)100質量部を加え、ボールミルで48時間混合してアルミナ粉末を分散させたセラミックグリーンシート用スラリー組成物を得た。得られた各スラリー組成物について、以下の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0111】
[評価]
(分散性)
上記のようにして得られた各スラリー組成物から数滴を採取した後、エタノールとトルエンの1:1混合溶媒を用いて80倍に希釈し、測定サンプルを調製した。得られた測定サンプルについて、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製「LA−910」)を用いて粒度分布測定を行い、平均粒子径(μm)を測定した。なお、平均粒子径が1μm以下である場合を良好、1μmを超え、粒子の凝集が起こっている場合を不良と評価した。
【0112】
(チキソトロピー性)
上記のようにして得られた各スラリー組成物について、レオメーター(レオロジカインスツルメンツ社製:直径10mmのパラレルプレート使用)を用い、せん断速度500s
−1のプレシェアを1分間行った後、せん断速度100s
−1で粘度を測定し始め、測定開始から1分後の粘度(η
1)を測定した。その後、すぐにせん断速度0.1s
−1で粘度を測定し始め、測定開始から1分後の粘度(η’
2)を得た。測定温度は20℃とした。このようにして測定されたη’
1とη’
2との比(η’
2/η’
1)を求め、その値をチキソトロピー性の値とした。なお、このチキソトロピー性の値が5.0以上の場合を良好、5.0未満の場合を不良と評価した。
【0113】
<セラミックグリーンシートの作製>
上記のようにして得られた各セラミックグリーンシート用スラリー組成物を離型処理したポリエステルフィルム上に約50μm程度の厚さで塗布し、常温で30分間風乾し、さらに熱風乾燥器内にて60〜80℃で1時間乾燥させて有機溶剤を蒸発させ、厚さ30μmのセラミックグリーンシートを得た。得られた各セラミックグリーンシートについて、下記の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0114】
[評価]
(セラミックグリーンシートの分散性)
グラインドメーター(大佑機材社製、溝の深さ0〜25μm)を用いて各セラミックグリーンシート中のセラミック粒子の分散性を測定し、以下の3段階で評価した。
A:セラミックの凝集物が全く見られないもの
B:粒子径5μm以上のセラミックの凝集物が認められないもの
C:粒子径5μm以上のセラミックの凝集物が認められるもの
【0115】
(セラミックグリーンシートの強度)
JIS K6251に準拠した3号型ダンベル形状の試験片を用いて、引張試験機(株式会社島津製作所製、「オートグラフ」)を用い、測定温度20℃、引張速度10mm/分の測定条件で、セラミックグリーンシートの破断点強度(g/cm
2)を測定した。
【0116】
(セラミックグリーンシートの柔軟性)
各セラミックグリーンシートを5mmφの棒に巻いた時の、ひびや割れの状態を目視で判断し、以下の4段階で評価した。
A:ひび及び割れがない
B:若干ひびあり
C:若干割れあり
D:割れあり
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
表3及び4に示すように、実施例のアルキル変性ビニルアセタール系重合体は、ヘイズが小さく透明性に優れ、溶液粘度も十分に低く、粘度安定性にも優れていた。また、実施例のアルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いて調製したセラミックグリーンシート用スラリー組成物は、比較例と比べ、セラミック粒子の分散性、チキソトロピー性により優れていた。さらに、実施例のルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いて得られたセラミックグリーンシートは、比較例に比べ、セラミック粒子の分散性、強度及び柔軟性により優れていた。
【0120】
<セラミック焼成体(積層セラミックコンデンサ)の製造>
導電性粉末としてのニッケル粉末(三井金属鉱業株式会社製「2020SS」)100質量部、エチルセルロース(ダウケミカルカンパニー社製「STD−100」)5質量部、及び溶剤としてテルピネオール−C(日本テルペン株式会社製)60質量部を混合した後、3本ロールで混練して導電ペーストを得た。各セラミックグリーンシートの片面に、上記導電ペーストを、スクリーン印刷法により塗工し、乾燥させ厚みが約1.0μmである導電層を形成した。この導電層を有するセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚積重ねて、温度70℃、圧力150kg/cm
2で10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。得られた積層体を、窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、5時間保持した後、さらに、昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、10時間保持することにより、セラミック焼成体(積層セラミックコンデンサ)を得た。
【0121】
実施例のアルキル変性ビニルアセタール系重合体を用いて作成したセラミックグリーンシートを用いることでセラミック焼成体(積層セラミックコンデンサ)を問題なく製造することができ、得られたセラミック焼成体は、積層セラミックコンデンサとして問題なく作動した。