(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態における宝石10A(
図3(b)参照)は、不純物としてカルシウムを含有している領域(以下、不純物領域という)を一部に有する宝石である。このカルシウムを含有する前の状態の装飾材料としての宝石(処理前宝石10:
図3(a)参照)は、ルビー、サファイア、ダイヤモンド、ガーネット、スピネル、ルチル、水晶、エメラルド、アクアマリン、トパーズ、トルマリン、ジルコニアなど結晶質の無機物により構成される宝石であればよく、天然宝石のみならず、人工的に合成された合成宝石も含んでいる。この不純物領域においては、カルシウムの濃度が表面に近いほど高くなっている。この例においては、不純物として含有するカルシウムは、人の骨(以下、単に骨という)から得られたものを用いている。なお、骨は、人の骨に限らず、動物の骨であればよい。
以下、この宝石10Aの製造方法について説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態におけるカルシウムを含有する宝石10Aの製造方法および装飾品の製造方法を説明する図である。
図1に示すように、宝石10Aの製造方法は、骨焼成工程(ステップS100)、生成工程(ステップS200)、および侵入処理(ステップS300)を有する。さらに取付工程(ステップS400)の処理を行うことにより装飾品の製造方法となる。
【0020】
骨焼成工程(ステップS100)は、骨を焼成することにより、主成分であるリン酸カルシウムを抽出するとともに、骨を粉砕しやすい状態に移行させる工程である。この工程において、骨は横型管状炉に設置され、1000℃で12時間の焼成条件で焼成される。焼成においては、炉内に空気、窒素などのガスが、例えば1L/minの流量で流される。横型管状炉の排気ダクトには、活性炭などのフィルタが設置されていることが望ましい。このようにすると、蒸発物および臭気がフィルタにより浄化され、これらの流出を低減することができる。なお、上記の焼成条件および炉内雰囲気は、一例であって、骨に含まれるリン酸カルシウム以外の成分を減少させ、骨がより粉砕されやすい状態となれば、どのような条件であってもよい。
【0021】
生成工程(ステップS200)は、骨焼成工程(ステップS100)において焼成された骨に化学的処理を施すことにより、酸化カルシウムを含有するカルシウム材を生成する。この例においては、化学的処理は以下のように行われる。
まず、焼成された骨を粉砕することにより、主成分がリン酸カルシウムである粉末が得られる。この粉末を10%硫酸溶液に混入させることにより、沈殿が生じる。この沈殿物を濾過することにより、硫化カルシウム(硫化カルシウム水和物を含む)が得られる。得られた硫化カルシウム(硫化カルシウム水和物を含む)を、1300℃で焼成すると、酸化カルシウムを主成分としたカルシウム材が生成される。なお、上記の処理条件は、一例であって、カルシウム材が生成されればどのような条件であってもよい。
【0022】
侵入処理(ステップS300)は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材と侵入処理前の宝石(以下、処理前宝石10という)とを接触させて、処理前宝石10にカルシウムを侵入させる処理である。この処理方法を、以下、接触法という。侵入処理(ステップS300)の内容について
図2を用いて説明する。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態における侵入処理における各工程を説明する図である。
図3は、本発明の第1実施形態における接触法により処理前宝石10の表面全体にカルシウムを侵入させる場合を説明する図である。
図3は、各構成の断面を模式的に示している。侵入工程(ステップS300)は、接触工程(ステップS311)、焼成工程(ステップS312)、および取出工程(ステップS313)を有する。
【0024】
接触工程(ステップS311)は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材を処理前宝石10に接触させる工程である。この例においては、
図3(a)に示すように、焼成用の容器である坩堝50の内部において、処理前宝石10は、カルシウム材の粉末(以下、カルシウム材粉末20という)に覆われることにより接触状態となる。ここで用いられる処理前宝石10は、カルシウムを含有しない物質であり、予め、カット、研磨などが行われて、美観を与える形状に整えられたものとなっている。なお、
図3に示す処理前宝石10は、多面体形状であるが、一部に曲面を含んでいてもよいし、球状であってもよい。
【0025】
焼成工程(ステップS312)は、
図3(a)に示すように、坩堝50の内部において、処理前宝石10とカルシウム材粉末20とが接触して配置された状態で、箱型炉により焼成する工程である。焼成をするときの温度(以下、融点などの温度は全て摂氏換算であるものとする)は、処理前宝石10の融点より低く、かつ融点の30%以上(すなわち、融点が2000℃であれば、600℃(=2000℃×0.3)以上)であることが望ましく、温度の下限が融点の50%以上であるとさらに望ましい。焼成時間は、処理前宝石10の種類に応じて適宜調整すればよい。また、焼成雰囲気についても、処理前宝石10の種類に応じて適宜決定すればよい。焼成雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、空気などであればよく、また減圧(真空を含む)状態または加圧状態としてもよい。このように焼成されることにより、処理前宝石10は、カルシウム材粉末20が接触している部分、すなわち表面から一定範囲にわたって内部にカルシウムが侵入し、カルシウムを含有した宝石10Aとなる。
【0026】
取出工程(ステップS313)は、焼成工程(ステップS312)における処理後に、坩堝50から宝石10Aを取り出す工程である。このようにして取り出された宝石10Aは、
図3(b)に示すように、カルシウムを含有する不純物領域120と、カルシウムを含有しない未侵入領域110とを有する。不純物領域120は、宝石10Aの表面全体にわたって分布し、未侵入領域110は、不純物領域120に囲まれた内部に位置している。
【0027】
なお、カルシウムは、宝石10Aの表面側から侵入しているため、実際には
図3(b)に示すように、未侵入領域110と不純物領域120との境界が明確であるわけではない。すなわち、宝石10Aの表面に近づくほどカルシウムの濃度が徐々に高くなっているため、未侵入領域110と不純物領域120との境界は、カルシウムの濃度がある一定値以下となる領域を未侵入領域110として図示している。このように、未侵入領域110においてカルシウムを含有しないとは、カルシウムがある特定の濃度以下であることを示している。宝石10Aの大きさ、焼成工程(ステップS312)における焼成条件によっては、未侵入領域110の中央部においてカルシウムを全く含有しない領域を有する場合もある。このことは、以下の各図においても同じである。
【0028】
なお、取出工程(ステップS313)においては、宝石10Aの表面を洗浄するようにしてもよい。洗浄するときには、カルシウム材粉末20を溶解しつつ、宝石10Aを溶解しにくい洗浄液が用いられることが望ましい。
【0029】
このようにして得られた宝石10Aにおける不純物領域120のカルシウムの濃度は、表面からの非破壊の分析により検出可能な濃度となることが望ましい。非破壊の分析とは、例えば、XRF(蛍光X線分析)、XPS(X線光電子分光)、EDX(エネルギー分散型X線分析)などである。この濃度については、焼成工程(ステップS312)における焼成条件により調整可能である。非破壊の分析により検出可能とすることにより、宝石10Aの形状を維持したまま、宝石10Aが骨に含まれるカルシウムを含有していることを示すことができる。
【0030】
また、不純物領域120においては、カルシウムの含有により光学特性が変化する。そのため、不純物領域120におけるカルシウムの濃度、および不純物領域120の大きさ(表面からの深さ)を、焼成工程(ステップS312)における焼成条件により調整することにより、宝石10A全体としての色、透明度など、光学的な特徴を変化させることができる。なお、取出工程(ステップS313)において、宝石10Aを取り出した後、表面を不純物領域120が無くならない程度に研磨してもよい。このとき、非破壊の検査によりカルシウムが検出可能な濃度に維持されていることが望ましい。この場合、焼成前に予め研磨が行われていなくてもよい。このようにカルシウムを侵入させた後に研磨すると、不純物領域120の表面からの深さを浅くすることができるから、これによっても光学的な特徴を変化させることができる。 以上が、侵入処理(ステップS300)についての説明である。
【0031】
図1に戻って説明を続ける。取付工程(ステップS400)は、宝石10Aを台座などの支持部材に取り付けて装飾品とする工程である。装飾品とした場合の宝石10Aの取り付け例を
図4を用いて説明する。
【0032】
図4は、本発明の第1実施形態における宝石10Aを用いた装飾品100Aを説明する図である。
図4に示すように、装飾品100Aは、指輪であり、宝石10Aと、宝石10Aを支持する台座となる支持部材60Aと、支持部材60Aが取り付けられたリング部70Aを有する。このようにして、宝石10Aは、他の部材から支持されることにより、他の部材と共に装飾品100Aを構成することができる。なお、この例においては装飾品100Aとして指輪を例として示したが、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、時計、眼鏡など装身具の他、宝飾品、さらには置き時計、宝石箱、置物、家具などの身につけないものなど、どのような装飾品にも適用可能である。
【0033】
<実施例>
上記の実施例として、焼成工程(ステップS312)における焼成条件を変えた場合の蛍光X線分析の結果について説明する。ここでは、処理前宝石10として、ブルーサファイアを用いている。また、カルシウム材粉末20としては、酸化カルシウムを用いている。酸化カルシウムに接触させたブルーサファイアをアルミナ製の容器の上に置き、箱型電気炉に入れて焼成した。焼成条件は、大気圧、空気雰囲気であり、焼成温度は、1100℃、1150℃、1200℃、1400℃である。焼成時間は、1100℃、1150℃のものは2時間(2Hr)、1200℃、1400℃のものは6時間(6Hr)となっている。なお、焼成温度は、装置の設定温度であり、ブルーサファイアそのものの温度は、炉内の温度検出位置などにより若干異なる場合がある。また、焼成温度により焼成時間が異なっているが、同一の時間であっても分析結果に与える影響はほとんどない。
【0034】
図5は、本発明の第1実施形態における宝石の焼成条件別の蛍光X分析結果を示す図である。
図5(a)は、焼成前の処理前宝石10における蛍光X線分析結果である。一方、
図5(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、焼成温度が1100℃、1150℃、1200℃、1400℃における蛍光X線分析結果である。
この蛍光X線分析は、蛍光X線分析装置(SIIナノテクノロジー社製EDX5200A)を用い、焼成前の処理前宝石10、または焼成後に得られる宝石10Aの表面部分に励起用のX線を照射して、エネルギー分散型の分析を行った。
図5に示すように、焼成前、1100℃においては、3.5〜4eV付近に発生するカルシウムを示すピーク(CaKα、CaKβ)が発生していないが、1150℃以上とすることによりピークが発生している。この結果から、処理前宝石10の表面部分に蛍光X線分析により検出可能な濃度のカルシウムが侵入したことがわかる。
【0035】
ブルーサファイアの融点は約2000℃であることから、カルシウムが検出された焼成温度1150℃は、融点の57.5%であり、検出されていない焼成温度1100℃は融点の55%である。上述したように、焼成温度は、融点の30%以上、望ましくは50%以上としているが、この内容と矛盾するものではない。すなわち、この分析結果は、蛍光X線分析により検出可能な濃度として得られたものであるから、低い焼成温度であっても蛍光X線分析によっては検出できない程度の低い濃度ではカルシウムが処理前宝石10に侵入している。また、上記焼成時の圧力は大気圧であるが、圧力を変化させれば、例えば、高圧条件下によっては焼成温度がより低くても蛍光X線分析により検出可能な濃度になることもある。また、焼成時の雰囲気、カルシウム材粉末20に含まれる成分、処理前宝石10に含まれる成分などによっても、最適となる焼成温度は変化する。
【0036】
<第2実施形態>
第2実施形態においては、第1実施形態とは侵入処理(ステップS300)の内容が異なっている。そのため、侵入処理の内容について、
図6、
図7を用いて説明する。
【0037】
図6は、本発明の第2実施形態における侵入処理における各工程を説明する図である。
図7は、本発明の第2実施形態におけるイオン注入法により処理前宝石の表面の一部にカルシウムを侵入させる場合を説明する図である。
図7は、各構成の断面を模式的に示している。第2実施形態における侵入工程(ステップS300)は、配置工程(ステップS321)、イオン化工程(ステップS322)、イオン注入工程(ステップS323)、および取出工程(ステップS324)を有する。
【0038】
配置工程(ステップS321)は、
図7(a)に示すように、予めカット、研磨などが行われた処理前宝石10をイオン注入装置のステージ40に配置する工程である。
イオン化工程(ステップS322)は、イオン注入装置において、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材を用いて、カルシウムイオンを発生させる工程である。イオン注入工程(ステップS323)は、発生させたカルシウムイオンを電気的に加速し、処理前宝石10に注入する工程である。
【0039】
取出工程(ステップS324)は、カルシウムイオンが注入されることにより得られる宝石10Bを取り出す工程である。このようにして取り出された宝石10Bは、
図7(b)に示すように、表面部分のうちカルシウムイオンが注入される面(ステージ40に対向していない面)側のカルシウムを含有する不純物領域120と、カルシウムを含有しない未侵入領域110とを有する。
【0040】
取出工程(ステップS324)においては、宝石10Bの表面を洗浄するようにしてもよい。また、宝石10Bを融点より低い温度で焼成することにより、イオン注入のダメージによりアモルファス化した領域を再結晶化するようにしてもよい。
【0041】
第1実施形態における場合と同様に、不純物領域120においては、カルシウムの含有、アモルファス化の程度などにより光学特性が変化する。そのため、不純物領域120におけるカルシウムの濃度、および不純物領域120の大きさ(表面からの深さ)を、イオン注入工程(ステップS323)における注入条件(カルシウムイオンの加速電圧、ドーズ量、ステージ40の温度など)により調整することにより、宝石10B全体としての色、透明度など、光学的な特徴を変化させることができる。加速電圧によっては、宝石10Bの最表面においてカルシウムが最大濃度とならない場合もあるが、最大濃度となる部分より内部側においては、濃度が少なくなる。このように、不純物領域120には、表面に近づくほど濃度が高くなる領域が少なくとも一部に存在することになる。
【0042】
<第3実施形態>
第1、第2実施形態においては、カルシウムを含有しない処理前宝石10に対して、カルシウムを侵入させて、カルシウムを含有する宝石10A、10Bを構成していた。第3実施形態では、宝石を生成するための原料の結晶化において、不純物となるカルシウムを原料と混合してから溶融して結晶化することにより、カルシウムを含有する宝石を製造する方法を説明する。
【0043】
図8は、本発明の第3実施形態におけるカルシウムを含有する宝石の製造方法および装飾品の製造方法を説明する図である。
図3に示すように、第3実施形態における宝石の製造方法は、骨焼成工程(ステップS100)、生成工程(ステップS200)、および結晶化処理(ステップS500)を有する。さらに加工工程(ステップS600)および取付工程(ステップS400)の処理を行うことにより装飾品の製造方法となる。第3実施形態における骨焼成工程(ステップS100)、生成工程(ステップS200)および取付工程(ステップS400)は、第1、第2実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0044】
結晶化処理(ステップS400)は、宝石の組成(以下、母物質という)に対応した原料と、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材とを混合、溶融して結晶化する工程である。この例においては、母物質として酸化アルミニウムを用い、浮遊帯域法(Floating Zone法)を用いた結晶化を行うものとする。結晶化処理(ステップS400)について、
図9を用いて説明する。
【0045】
図9は、本発明の第3実施形態における結晶化処理における各工程を説明する図である。結晶化処理は、混合工程(ステップS511)、原料焼成工程(ステップS512)、および結晶化工程(ステップS513)を有する。
混合工程(ステップS511)は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材と酸化アルミニウムとを乳鉢などを用いて混合する工程である。この例においては、カルシウム材と酸化アルミニウムの混合比は、モル比で0.8:99.2である。このモル比は一例であって、様々に変更することができるが、カルシウム材のモル比の上限は、コランダムとして結晶化することが可能な範囲とすることを要する。また、カルシウム材のモル比の下限については、結晶化後、もしくは、後述する加工工程(ステップS600)において加工された後に非破壊の分析で不純物としてコランダムに含まれるカルシウムの検出が可能な濃度になるように決められていることが望ましい。
【0046】
原料焼成工程(ステップS512)は、混合工程(ステップS511)において得られた混合物質に圧力をかけて棒状に成形し、横型管状炉などにより焼成する工程である。この焼成条件としては、母物質の融点より低く、かつ融点の30%以上であることが望ましく、温度の下限が融点の50%以上であるとさらに望ましい。焼成時間は、母物質の種類に応じて適宜調整すればよい。また、焼成雰囲気についても、母物質の種類に応じて適宜決定すればよい。以下、棒状に成形され焼成されたものを原料棒という。
【0047】
結晶化工程(ステップS513)は、原料焼成工程(ステップS512)において得られた原料棒を溶融し、徐冷して結晶化させる工程である。この結晶化工程(ステップS513)においては、上述したようにハロゲンランプからの放射される赤外線を集光して加熱する浮遊帯域法を実現させる装置を用いて、原料棒の結晶化が行われる。この例においては、原料棒が結晶化されると、不純物としてカルシウムを含有した宝石(コランダム)が得られる。このコランダムは、光透過性のある山吹色の結晶であり、宝石の一例である。
なお、混合工程(ステップS511)において、さらに、遷移金属または遷移金属化合物など遷移金属元素を含む材料を、モル比で0.01%から5%の範囲となるように混合する(相対的に酸化アルミニウムのモル比を減少させる)ことにより、様々な色に調整することができる。例えば、遷移金属としてクロムを用いれば赤色(ルビー)とすることができ、遷移金属として鉄またはチタンを用いれば青色(サファイア)とすることができる。
【0048】
図8に戻って説明を続ける。加工工程(ステップS600)は、結晶化工程(ステップS513)において得られた宝石(コランダム)をカット、研磨して、美感を与える形状に加工する工程である。このように加工されたコランダムは、上述した取付工程(ステップS400)により支持部材に支持されて装飾品となる。
【0049】
<変形例>
以上、本発明の実施形態およびその実施例について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
[変形例1]
上述した第1実施形態においては、宝石10Aの表面全体にカルシウムを含有する不純物領域120が存在する構成であったが、表面の一部に不純物領域120が存在し、残りの部分はカルシウムを含有しない(または、不純物領域120よりカルシウムの濃度が低い)構成であってもよい。この場合には、接触工程(ステップS311)において、処理前宝石10の表面の一部にカルシウムを含有しない物質(以下マスク部材という)を接触させて覆い、その周りからカルシウム材粉末20と接触させればよい。この構成について
図10を用いて説明する。
【0050】
図10は、本発明の変形例1における接触法により処理前宝石10の表面の一部にカルシウムを侵入させる場合を説明する図である。接触工程(ステップS311)において、
図10(a)に示すように、処理前宝石10の表面の一部にマスク部材30を接触させ、その周りからカルシウム材粉末20を接触させる。マスク部材30としては、カルシウムを含有せず、焼成工程(ステップS312)において溶解しないものであればよい。取出工程(ステップS313)において取り出された宝石10Cは、
図10(b)に示すように、表面の一部に不純物領域120が存在し、その他の部分に未侵入領域110が存在する構成になる。
この例においては、取出工程(ステップS313)は、さらにマスク部材30を除去する工程を含んでいてもよい。
図10(b)では、マスク部材30を除去した場合を示し、マスク部材30が存在した部分を破線で示している。このようにマスク部材30を除去する場合には、薬液などにより溶解させればよい。このとき、マスク部材30を溶解しやすく、宝石10Cを溶解しにくい薬液を用いることが望ましい。すなわち、マスク部材30は、ある薬液に対して宝石10Cよりも溶解しやすい部材であることが望ましい。
【0051】
このように、マスク部材30を用いて宝石10Cの表面に不純物領域120と未侵入領域110とが存在することになる。したがって、未侵入領域110の光学特性と不純物領域120の光学特性とが異なる場合には、視覚的にこれらの領域を区別することができるから、マスク部材30の形状により、宝石10Cの表面に絵柄を形成することもできる。この場合、各領域による視覚的な違いにより、宝石10Cが骨に含まれるカルシウムを含有していることを示すことができる。
上述したマスク部材30を用いた方法は、第1実施形態における接触法に限らず、第2実施形態におけるイオン注入法においても用いることができる。
【0052】
図11は、本発明の変形例1におけるイオン注入法により処理前宝石10の表面の一部にカルシウムを侵入させる場合を説明する図である。
図11(a)に示すように、マスク部材30は、処理前宝石10のカルシウムイオンが注入される側に設けられている。このようにイオン注入法による侵入処理が行われると、
図11(b)に示すように、宝石10Dは、イオンが注入される面のうちの一部に不純物領域120が存在し、その他の部分に未侵入領域110が存在する構成になる。
【0053】
[変形例2]
上述した第1実施形態においては、宝石10Aの表面全体にカルシウムを含有する不純物領域120が存在する構成であったが、表面の一部に不純物領域120が存在し、残りの部分はカルシウムを含有しない構成であってもよい。この構成は、上述の変形例1におけるマスク部材30を用いる方法においても実現可能であるが、変形例2においては、マスク部材30を用いない別の方法により実現する。この方法について、
図12を用いて説明する。
【0054】
図12は、本発明の変形例2における接触法により処理前宝石10の表面の一部にカルシウムを侵入させる場合を説明する図である。接触工程(ステップS311)において、
図12(a)に示すように、処理前宝石10の一部をカルシウム材粉末20に埋め込むようにして、処理前宝石10の表面の一部をカルシウム材粉末20に接触させる。取出工程(ステップS313)において取り出された宝石10Eは、
図12(b)に示すように、表面の一部に不純物領域120が存在し、その他の部分に未侵入領域110が存在する構成になる。なお、接触工程(ステップS311)において、処理前宝石10の一部に絵柄を形成するようにカルシウム材粉末20を載せて接触させ、宝石10Eの表面に絵柄が形成されるようにしてもよい。
【0055】
[変形例3]
上述した第2実施形態において、宝石10Bの未侵入領域110側にさらにイオン注入法でカルシウムを侵入させて、
図3に示す宝石10Aのように、表面全体に不純物領域120が存在するようにしてもよい。
【0056】
[変形例4]
上述した第1、第2実施形態においては、処理前宝石10に侵入させるカルシウムは、骨に含まれていた骨由来のカルシウムであったが、骨に含まれているものでないカルシウム(骨由来以外のカルシウム)であってもよい。すなわち、動物、植物などの生体、また生体に限らずその他様々なものに含まれるカルシウムであれば、どのようなものであってもよい。このようして、本発明は、思い出のものを宝石に含有させて身近に置いておきたいという要求を満たすこともできる。なお、第3実施形態において宝石に含有されるカルシウムについても同様に適用できる。
【0057】
[変形例5]
上述した第1、第2実施形態における未侵入領域110、第3実施形態において得られる宝石は、光透過性を有することが望ましい。ここでの光透過性とは、可視光に含まれる波長の少なくとも一部の波長の光に対して透過性を有していることをいう。なお、不純物領域120についても光透過性を有することが望ましい。
【0058】
[変形例6]
上述した第1、第2実施形態において、生成工程(ステップS200)は、焼成された骨に化学的処理が施され酸化カルシウムが生成されていたが、他の化学的処理を用いてもよい。例えば、以下の方法である。
まず、焼成された骨を粉砕して得られる主成分がリン酸カルシウムの粉末を、10%クエン酸溶液に溶解させる。この溶液に炭酸アンモニウムを加えると沈殿が生じ、濾過すると炭化カルシウムなどが得られる。このとき、反応熱などにより炭酸アンモニウムからアンモニアが抜けないように、保冷しておくことが望ましい。
この炭化カルシウムを1300℃で焼成すると、酸化カルシウムを主成分としたカルシウム材が生成される。このように他の化学的処理を用いてカルシウム剤が生成されるようにしてもよい。
【0059】
また、生成工程においては、化学的処理を用いずに他の処理によりカルシウム材を生成してもよい。例えば、電気的処理により、カルシウム材を生成してもよい。例えば、焼成された骨を粉砕して得られる主成分がリン酸カルシウムである粉末を溶融させ、白金箔などを用いた正負の電極が溶融塩中に挿入された状態とする。そして、電極間に直流電流を流して電気分解をすることにより、カルシウム、酸化カルシウムが電極上に析出される。電気分解における処理条件は、ファラデーの第二法則にしたがって決定されればよい。
【0060】
また、生成されるカルシウム材はカルシウム、酸化カルシウムに限らず、炭酸カルシウムであってもよい。
【0061】
[変形例7]
上述した第1、第2、第3実施形態において、カルシウム材は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウムまたは酸化カルシウムであったが、カルシウム化合物であれば、他の物質であってもよい。例えば、リン酸カルシウムをカルシウム材として用いてもよい。また、カルシウム材としては、骨焼成工程(ステップS100)において焼成された骨を粉砕したものであってもよいし、焼成される前の骨を粉砕したものであってもよい。
また、第1、第2実施形態における接触工程(ステップS311)においては、カルシウム材を粉末として処理前宝石10と接触させていたが、接触させるときには、粉末状でなくてもよく、例えば、塊状であってもよいし、溶剤に溶けた状態の液状であってもよいし、気体状として焼成工程(ステップS312)における焼成雰囲気として炉内に導入してもよい。
【0062】
[変形例8]
上述した第1、第2実施形態における処理前宝石10は、カルシウムを含有しない物質であったが、カルシウムを含有していても、蛍光X線分析などの非破壊の分析で検出されない濃度であればよい。また、このような分析により検出されるものであっても、処理前宝石10と宝石10A、10Bとでカルシウム濃度が増加していることを測定すれば、骨に含まれるカルシウムが含まれる状態になったことを確認することができる。
【0063】
[変形例9]
上述した第1、第2実施形態における処理前宝石10は、結晶質の無機物により構成される天然宝石または人工宝石であったが、ガラス(クリスタルガラスを含む)、オパールなどの非晶質の無機物により構成される宝石であってもよい。このように、本発明における装飾材料とは、結晶質または非晶質の無機物で構成される宝石を示す。なお、非晶質の無機物で構成される宝石を用いた場合、第1実施形態における焼成工程(ステップS312)において、焼成温度は、その宝石の軟化点(摂氏換算)の70%以上であることが望ましい。また、上限温度としては、その宝石の軟化点(摂氏換算)を超える温度であってもよく、宝石の形状が維持できる程度の温度とすることが望ましい。
また、装飾材料は宝石などに限らず、装飾品に用いられる結晶質または非晶質の金属化合物を含む。また、所定の光学特性を有する光学材料(酸化マグネシウム、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム、臭化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化ホウ素、硫化亜鉛、セレン化亜鉛など)に本発明を適用してもよい。この場合、光学材料にカルシウムを侵入させる程度により、光学特性を変化させればよい。
【0064】
[変形例10]
上述した第3実施形態においては、酸化アルミニウムを母物質としたコランダムを宝石の例としていたが、他のものであってもよい。例えば、母物質をスピネル型結晶構造AB
2O
4(例えば、MgAl
2O
4、NiFe
2O
4など)としてもよいし、ガーネット型結晶構造(例えば、Fe
3Al
2(SiO
4)
3、Y
3(CrAl
5)O
12など)としてもよいし、トパーズといわれるケイ酸塩鉱物としてもよい。このような場合には、カルシウム材と母物質との混合比は、例えば、モル比で1:99とすればよい。
【0065】
[変形例11]
上述した第3実施形態においては、原料棒の一部にのみカルシウム材が分布するようにしてもよい。また、原料棒は、棒状に加工された母物質の周囲にカルシウム材を接触させて焼成したものとしてもよい。
【0066】
[変形例12]
上述した第3実施形態においては、浮遊帯域法を用いて宝石を製造したが、その他の方法を用いてもよい。例えば、フラックス添加型浮遊帯域法(Traveling Solvent Floating Zone法)を用いることが望ましい。或いは、通常、鉛直方向に結晶が育成できる方法であり坩堝を用いる方法、例えば、坩堝降下法(Bridgman法)、垂直型帯溶融法、単純引き上げ法(Nacken法)、下方引き出し法、回転引き上げ法(Czochralski法)などを用いてもよい。さらには、坩堝を使わない方法、例えば、ベルヌーイ法(Verneuil法)、スカルメルト法(Skull Melt法)、ぺデスタル(Pedestal法)、浸設アーク法などを用いてもよい。