【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施例では、La
4-XPr
XBaCu
5O
13で表わされる導電性材料の調製およびその評価を行ったので以下に説明する。
【0035】
出発原料として、La
2O
3、BaCO
3、CuOおよびPr
2O
3を用いた。これらの出発原料を、目的とする組成比になるように秤量、混合し、空気中で900℃、24時間、仮焼きを行った。仮焼後、得られた生成物を粉砕混合し、さらにこれをペレットに成型後、空気中で1000℃、48時間、本焼きを行った。本実施例では、試料の組成がLa
4-XPr
XBaCu
5O
13で表わされる式中、X=0.1、0.2、0.4、0.6となるように、原料を秤量、混合して上記条件により作製した。
【0036】
また、比較のために、La
2O
3、BaCO
3、CuOを出発原料として、同様の条件で本発明の母体材料(母物質)であるLa
4BaCu
5O
13の合成も行った。
【0037】
まず、参照試料として作製したLa
4BaCu
5O
13のX線回折パターンを
図1に示す。なお、
図1には、La
4BaCu
5O
13について、その構造から計算(シミュレーション)したX線回折パターンもあわせて示す。
【0038】
これによると、測定したX線回折パターンは計算によるものとほぼ一致しており、上記条件により目的の生成物であるLa
4BaCu
5O
13が得られることが分かる。
【0039】
次に
図2に、La
3.6Pr
0.4BaCu
5O
13の、つまり、上記式でX=0.4の試料についてX線回折パターンを示す。これによると、
図1に示したLa
4BaCu
5O
13とほぼ同じ位置に回折線を有しており、他のピークはほとんど見られなかったことから、ペロブスカイト型結晶構造の単一相であることが分かる。従って、この試料は、Laサイトの一部がPrによって置換されているものといえる。得られたX線回折パターンから格子定数を求めたところ、置換していない材料(La
4BaCu
5O
13)と比較して、a軸、c軸方向共に減少していた。また、その結果、体積Vも減少していた。
【0040】
得られた試料について電気特性の評価を行ったので、その結果を
図3に示す。測定は四端子法により行い、0Kから600K程度まで評価を行った。また、比較のため、X=0の材料、すなわち、Pr添加を行っていない母物質であるLa
4BaCu
5O
13の結果もあわせて示す。
【0041】
さらに、Prの添加効果を確認するため、
図4〜
図6に、
図3のデータから作成したPr添加量変化に伴う各パラメータの変化を示す。
図4はPrの添加量、すなわち、La
4-XPr
XBaCu
5O
13で表わされる式中のXをX軸にとり、Pr添加量変化に伴う200Kにおける電気抵抗率変化を示している。
図5には、同様にX軸にPr添加量をとり、Pr添加量変化に伴う500Kにおける電気抵抗率の変化を示している。そして、
図6には、同様にX軸にPrの添加量をとり、抵抗温度係数の変化について示している。
【0042】
図3〜5に示すように、Pr添加を行うことにより、La
4-XPr
XBaCu
5O
13で表わされる本酸化物の電気抵抗率(比抵抗)は極低温から室温までの温度領域において、X=0である母物質よりも3割程度減少していることが分かる。
【0043】
例えば、500Kにおける電気抵抗率は、Prを添加していない母物質の場合、1.6mΩcm程度であるのに対して、今回検討を行った試料はいずれも、1.2mΩcm以下となっており大幅に減少している。さらに、添加量によっては、1.0mΩcm以下となっている試料も確認できた。
【0044】
次に、
図6に示すように今回検討した試料はいずれも、Pr添加によって抵抗温度係数が2.5×10
−3mΩcm/K以下となっており、X=0である母物質よりも3割程度低下していた。また、添加量によっては、2.0×10
−3mΩcm/K以下となっている場合もあり、大幅な低下が確認された。このことから、Pr添加が抵抗温度係数の低下、すなわちTCR特性の改善に効果を有することも認められる。
【0045】
以上のように、PrによりLa
4BaCu
5O
13の一部を置換することによって、電気抵抗率が低減し、TCR特性が向上することを確認することができた。
[実施例2]
本実施例では、La
4BaCu
5−YCo
YO
13で表わされる導電性材料の調製およびその評価を行ったので以下に説明する。
【0046】
出発原料として、La
2O
3、BaCO
3、CuOおよびCoOを用いた。これらの出発原料を、目的とする組成比になるように秤量、混合し、空気中で900℃、24時間、仮焼きを行った。仮焼後、得られた生成物を粉砕混合し、さらにこれをペレットに成型後、空気中で1000℃、48時間、本焼きを行った。本実施例では、試料の組成がLa
4BaCu
5−YCo
YO
13で表わされる式中、Y=0.05、0.1、0.15、0.25、0.35となるように、原料を秤量、混合して上記条件により作製した。
【0047】
また、実施例1の場合と同様に、比較のために、La
2O
3、BaCO
3、CuOを出発原料として、同様の条件で本発明の母体材料(母物質)であるLa
4BaCu
5O
13の合成も行った。
【0048】
図7に、La
4BaCu
4.75Co
0.25O
13の、つまり、上記式でY=0.25の試料についてX線回折パターンを示す。これによると、
図1に示したLa
4BaCu
5O
13とほぼ同じ位置に回折線を有しており、他のピークはほとんど見られなかったことから、ペロブスカイト型結晶構造の単一相であることが分かる。従って、この試料は、Cuサイトの一部がCoによって置換されているものと推測される。得られたX線回折パターンから格子定数を求めたところ、置換していない材料(La
4BaCu
5O
13)と比較して、a軸方向は減少し、c軸方向に関しては増加していた。また、その結果、体積Vには変化が見られなかった。
【0049】
得られた試料について電気特性の評価を行ったので、その結果を
図8に示す。実施例1の場合と同様に、四端子法により測定、評価を行った。また、比較のため、Y=0の材料、すなわち、Pr添加を行っていない母物質であるLa
4BaCu
5O
13の結果もあわせて示す。
【0050】
また、Coの添加効果を確認するため、
図9に横軸にCoの添加量、すなわち、La
4BaCu
5−YCo
YO
13で表わされる式中のYをX軸にとり、各組成における200Kにおける電気抵抗率を示す。また、同様にCoの添加量をX軸にとり、
図10には各組成における500Kにおける電気抵抗率を、
図11には
図8の結果から算出した抵抗温度係数についてそれぞれ示す。
【0051】
図8〜11に示すように、Co添加を行うことにより、電気抵抗率(比抵抗)は極低温では一部、Coを添加していない母物質よりも増加しているケースがあるものの、いずれの試料においても、温度域によっては母物質よりも電気抵抗率が低下していた。
【0052】
例えば、500Kにおける電気抵抗率は、Coを添加していない母物質は1.6mΩcm程度であるのに対して、今回検討を行った試料は概ね1.2mΩcm以下となっており大幅に低下が確認できた。さらに、添加量によっては、1.0mΩcm以下となっている試料も確認できた。
【0053】
次に、
図11に示すように今回検討した試料はいずれも、Pr添加によって抵抗温度係数が2.0×10
−3mΩcm/K以下、さらには1.5×10
−3mΩcm/K以下となっており、大幅な低下が確認された。このことから、Co添加が抵抗温度係数、すなわち電気抵抗率の温度依存性を減らす効果を有することも認められる。
【0054】
以上のように、CoによりLa
4BaCu
5O
13の一部を置換することによって、電気抵抗率が低減し、TCR特性が向上することを確認することができた。
[実施例3]
本実施例では、La
4BaCu
5−YCo
YO
13で表わされる導電性材料を含有する薄膜の調製およびその評価を行ったので、以下に説明する。
【0055】
本実施例においては、スパッタ法によって目的とする組成の薄膜を調製した。
【0056】
ターゲットとしては、基本組成がLa
4BaCu
5O
13であるペロブスカイト酸化物からなる直径が100mmのスパッタターゲット上に、直径11mmの酸化コバルト(Co
3O
4)のペレットを置換量に応じた数だけ載せたものを用いた。例えば、酸化コバルトのペレットを1個用いてスパッタを行うと、計算上CoはCuサイトの2.5%置換することとなり、La
4BaCu
4.875Co
0.125O
13が得られる。本実施例では、ペレットの数を1個の場合(La
4BaCu
4.875Co
0.125O
13)と2個の場合(La
4BaCu
4.75Co
0.25O
13)について行った。なお、酸化コバルトのペレットは4つに切断して、それらが略等間隔になるようにLa
4BaCu
5O
13からなるスパッタターゲット上に配置してスパッタ処理に供した。
【0057】
スパッタ処理の際の条件としては、基板温度は350℃として、Arガス放電によりスパッタを行い、膜厚が500nm程度になるように製膜(成膜)した。
【0058】
そして、スパッタ蒸着後、大気中600℃で4時間の熱処理を行い、その後さらに大気中800℃で4時間熱処理を行うことにより目的とする薄膜試料を得た。
【0059】
まず、基板の違いによる薄膜の電気伝導度(導電率)への影響を調べるため、参照例として、Co添加を行っていない試料、すなわち、La
4BaCu
5O
13の薄膜を石英基板及びSrTiO
3単結晶基板上にそれぞれ製膜し、これを評価した。基板温度、熱処理条件等の条件は、上記したものと同じ条件で行った。得られた試料について、電気伝導率(導電率)の温度依存性を四探針法で評価した。結果を
図12に示す。
【0060】
図12によると、石英基板を用いた場合、室温付近の低温領域で電気伝導率が低く、SrTiO
3単結晶基板を用いた場合に比べて、温度による電気伝導率の変化が大きいことが分かる。これは、得られた薄膜の配向性が悪かったためだと推認される。
【0061】
これに対して、SrTiO
3単結晶基板を用いた場合、結晶の配向性がよく、温度による電気伝導率の変化が少なかった。
【0062】
以上の結果から、本実施例では基板としてSrTiO
3単結晶基板を用いることとした。
【0063】
図13に、SrTiO
3単結晶基板を用いて、上述した条件により製膜、熱処理されたLa
4BaCu
5−YCo
YO
13(Y=0.125またはY=0.25)の試料について四探針法により電気伝導率およびゼーベック係数の温度依存性を評価した結果を示す。なお、
図13中には、比較のために同様の条件で成膜したLa
4BaCu
5O
13の試料、すなわち、Coによる置換を行っていない試料の電気伝導率の温度依存性についてもあわせて示す。
【0064】
これによれば、Co置換することによって、電気伝導率が大幅に改善していることがわかる。また、温度変化による電気伝導率の変化も小さく、測定した温度域においては安定した性能を有することが分かる。
【0065】
以上のように、La
4BaCu
5O
13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料は、実施例1、2に示したバルク試料の場合と同様に、薄膜試料についても、電気伝導率特性、TCR特性に優れていることがわかる。このため、電子部品等の用途において好ましく使用することが可能となる。