(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電気化学反応システムの代表的なものとして、固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)(以下、SOFCと略称する)を用いた電気化学反応システムがある。SOFCとは、電解質としてイオン導電性を有する固体酸化物、電極に電子伝導性を有する固体酸化物を用いた燃料電池である。このSOFCのセルの基本構造は、通常、
図1(B)に示すように、アノード1(燃料極)、電解質2、カソード3(空気極)の3層により構成され、800〜1000℃の温度領域で使用される。
【0003】
SOFCのセルのアノード1側に燃料ガスとして水素、一酸化炭素、炭化水素等を供給し、カソード3側に空気、酸素等を供給すると、カソード3側の酸素分圧とアノード1側の酸素分圧との間に差が生じることから、ネルンストの式に従う電圧がカソード3、アノード1間に生じる。酸素はカソード3においてイオンとなり、電解質2内を通ってアノード1側に移動し、アノード1に達した酸素イオンは燃料ガスと反応して電子を放出する。そのため、アノード1及びカソード3に負荷を接続すれば、直接電気を取り出すことができる。
【0004】
SOFCの普及のためにはSOFCの作動温度の低温化(650℃以下)が求められており、そのためには電解質の薄膜化及び高イオン伝導率を有する電解質材料を用いるのが効果的である。また、電極材料による支持体(以下、サポートと略称する)を用いることで、電解質の薄膜化が可能になるため、特にアノードサポート型セルが広く研究されている。
【0005】
作動温度を500〜650℃に下げることで安価な材料の使用と運転コストの低減が期待でき、SOFCの汎用性が高まることが期待される。これまでに、新しいアノード材料、カソード材料を提案することで低温域(600℃)においても0.8〜1W/cm
2と高い電力出力を有する平板タイプのSOFCが報告されている(非特許文献1、2)。
【0006】
これまでに報告されている高い電力出力を有するアノードサポート型セルは、平板型であって、急激な運転サイクルの条件下ではセルの破壊を引き起こすことが問題となっている。これは一般的に使用されるニッケルサーメットが酸化還元雰囲気のサイクルや温度変化によって大きな体積変化を生じるため、セルが歪み、破壊に至ることがその理由である。
【0007】
それらを回避するためにはサポート材としてのアノードを薄くしていくことが効果的であるものの、機械的強度が保てなくなるなど、平板型セルの性能を保ちながら大型化、スタック化していくことは非常に大きな技術的課題となっている。アノードサポート型基材の電極構造制御も性能向上の点で重要であるが、平板型において気孔率を上げていくことも機械的強度の観点から困難であった。そのため平板型セルに代わる構造としてマイクロチューブ状のセルからなるSOFC構造体などが研究されている(特許文献1)。
【0008】
一方、円筒平板型セルやハニカム型セルと呼ばれるタイプのセルについても検討がなされており、平板型セルと同様に単セルの大面積化が比較的容易で、かつ構造体の壁厚を薄くしていっても、高い機械的強度が保てることから、それらのセルを利用したSOFCの実用化展開が期待されている(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、提案されているハニカム型セルについては、縁周部の発電部に対して、燃料通路が過剰に存在し、燃料ガスの効率的な利用が困難であることが容易に考えられ、また円筒平板型(燃料流路内蔵型)セルについては、得られる性能は平板型セルと同等以下であり、さらなる高性能化、運転温度の低温化が望まれている。また、スタック構造においては最適ものが提案されず、コンパクトなモジュール作製が困難であることが指摘されていた(非特許文献6)。
【0010】
また、これまでの平板型セルの欠点を解決するものとして、セル径をミリからサブミリオーダーとするマイクロチューブ型セルを利用することが提案されており、従来になかった高い性能を600℃台で得られるものが見いだされている(非特許文献3)。
【0011】
また、チューブ径が1mm以下の高性能なマイクロチューブ型セルをカソード集積体に配設してマイクロチューブバンドルとして効率よく集積したセルスタックが報告されている(非特許文献4)。
【0012】
しかしながら上記のいずれの構造におけるセルも、
図1(B)に示す燃料ガス供給口71付近と燃料ガス排出口72付近での燃料濃度の差異によって実際に発電される電力は電極の場所によって異なり、その結果としてセル内に温度差が生じることが問題となっていた。
【0013】
このような電気化学セル内における温度差を緩和するためには電極表面全体に均一に燃料ガスを供給することが必要となるが、これまでのセル形状において、そのような構造は提案されてこなかったのが現状である。また、炭化水素燃料を使用する場合、一般的に改質器を燃料電池の全段に設置して、システムを構築するが、システムの低コスト化、システム効率向上のためには、改質器がセル内部に配置されることが望ましい。これまでにアノード表面において炭化水素燃料の直接改質を行うことが提案されているが、このような改質反応は一般に吸熱反応となり、セルの温度を下げる原因となる。一方、改質された燃料ガスは発熱反応による発電によって温度が上昇し、さらなる熱応力がセルにかかることが問題となっていた。そのため、内部直接改質を行うことが可能な信頼性の高い電気化学セルモジュールを得ることが困難となり、SOFCシステムの実用化展開を阻害する要因の1つになっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、電気化学セルにおいて、アノードへの均一な燃料ガス供給を可能とし、また、電気化学セル内に炭化水素系燃料の改質を可能とする改質部を有する燃料通路内蔵型電気化学セルを提供すること、更に、上記電気化学セルを用いた電気化学セルモジュール及び、SOFC等の電気化学反応システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の従来部材の問題点を確実に解決することが可能な電気化学セル及び、その新しい利用形態を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、電気化学セルの内部に燃料通路を仕切る多孔質壁を設けることで、電気化学セルにおける発電時の温度分布の均一化と効率的な炭化水素燃料の改質工程を同時に提供すること、また、該セルを利用して高性能な電気化学反応システムを提供できること等の新規知見を見出し本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のことを特徴としている。
【0018】
第1に、軸長方向に延伸する燃料通路の外周を囲って、アノード、電解質、カソードが順次積層されてなる発電部が、軸長方向に延設され
、前記燃料通路の内部に、軸長方向に延伸する多孔質体の壁からなる燃料導入路が配設された燃料通路内在型電気化学セル
であって、
前記燃料導入路が前記多孔質体の壁により一段複数列のハニカム形状に形成されており、その一端が開放されて燃料ガス供給口が設けられ、その他端が閉鎖されており、前記燃料導入路の外周を囲って、多孔質体により一段複数列のハニカム形状に形成された燃料通路が周設されており、この燃料通路の前記燃料ガス供給口側の一端が閉鎖され、その他端が開放されて燃料ガス排出口が設けられており、前記発電部が、前記燃料通路の外周を囲って周設され、前記燃料導入路に供給された燃料ガスが、前記多孔質体の壁を通過したのちに、燃料通路を横切るようにして
前記発電部に供給される。
【0020】
第
2に、上記
第1の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、発電部が、セラミック多孔質体をアノードとして、これを基材とし、この上に電解質、カソードが順次積層されてなる。
【0021】
第
3に、上記
第1の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、発電部が、セラミック多孔質体を基材として、この上に、アノード、電解質、カソードが順次積層されてなる。
第
4に、上記第1から第
3の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、多孔質体の壁が、燃料ガスを改質することが可能なNi、Cu、Fe、Sn、Pt、Pd、Au、Ru、Co、La、Sr、Ti、Mnのうちの一種又は2種以上の元素の酸化物で構成されているか、又は、多孔質体の壁に、前記元素のうちの一種又は2種以上の元素の酸化物がコーティングされている。
【0022】
第
5に、上記第1から第
4の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、アノードが、Ni、Cu、Fe、Sn、Pt、Pd、Au、Ru、Co、La、Sr、Ti、Mnのうちの1種又は2種以上の元素の酸化物からなる。
【0023】
第
6に、上記第1から第
5の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、電解質が、Zr、Ce、Mg、Sc、Ti、Al、Y、Ca、Gd、Sm、Ba、La、Sr、Ga、Bi、Nb、W、Siのうちの2種以上の元素の酸化物からなる。
【0024】
第
7に、上記第1から第
6の発明の燃料通路内在型電気化学セルが複数集積されたセルスタックにより構成されていることを特徴とする電気化学セルモジュールである。
【0025】
第
8に、上記第
7の発明の電気化学セルモジュールを構成要素の一つとする、電気化学反応によって電流を取り出す電気化学反応システムであって、700℃以下で運転されることを特徴とする電気化学反応システムである。
【発明の効果】
【0026】
上記第1の発明によれば、軸長方向に延伸する燃料通路の外周を囲って、アノード、電解質、カソードが順次積層されてなる発電部が、軸長方向に延設された燃料通路内在型電気化学セルにおいて、燃料通路の内部に、軸長方向に延伸する多孔質体の壁からなる燃料導入路を配設することにより、燃料導入路に供給された燃料ガスが、多孔質体の壁を通過したのちに、燃料通路を横切るようにして発電部に供給されるので、燃料ガスを均一に発電部に供給することが可能となり、セルの発電時における温度勾配を最小にすることができる。
【0027】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、燃料導入路が多孔質体の壁により一段複数列に形成されており、その一端が開放されて燃料ガス供給口が設けられ、その他端が閉鎖されており、この燃料導入路の外周を囲って、多孔質体により一段複数列に形成された燃料通路が周設されていて、この燃料通路の前記燃料ガス供給口側の一端が閉鎖され、その他端が開放されて燃料ガス排出口が設けられており、発電部が、燃料通路の外周を囲って周設されているので、上記第1の発明の効果に加えて、上記第1の発明の構造を容易に実現することが可能となり、電気セルモジュールの作製コストを大幅に削減することができる。
【0028】
上記第3の発明によれば、上記第1又は第2の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、発電部が、セラミック多孔質体をアノードとして、これを基材とし、この上に電解質、カソードが順次積層されているので、セル基材を集電部材として使用することができ、省スペースで高性能な電気化学セルを工業的に汎用的なプロセスによって製造することが可能となる。
【0029】
上記第4の発明によれば、上記第1又は第2の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、発電部が、セラミック多孔質体を基材として、この上に、アノード、電解質、カソードが順次積層されているので、より安価な材料をセル基材として用いることが可能となり、低コストの電気化学セルを工業的に汎用的なプロセスによって製造することが可能となる。
【0030】
上記第5の発明によれば、上記第1から4の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、多孔質体の壁が、燃料ガスを改質することが可能なNi、Cu、Fe、Sn、Pt、Pd、Au、Ru、Co、La、Sr、Ti、Mnのうちの一種又は2種以上の元素の酸化物で構成されているか、又は、多孔質体の壁に、前記元素のうちの一種又は2種以上の元素の酸化物がコーティングされているので、発電部に燃料ガスが導入される際の多孔質壁において、効率的な燃料ガスの改質が可能となり、燃料改質部を内在し、かつ集電部と隔離された、高効率な電気化学セルを工業的に汎用的なプロセスによって製造することが可能となる。
【0031】
上記第6の発明によれば、上記第1から5の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、アノードが、Ni、Cu、Fe、Sn、Pt、Pd、Au、Ru、Co、La、Sr、Ti、Mnのうちの1種又は2種以上の元素の酸化物からなるので、高性能な電気化学セルを提供することが可能となる。
【0032】
上記第7の発明によれば、上記第1から4の発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、電解質が、Zr、Ce、Mg、Sc、Ti、Al、Y、Ca、Gd、Sm、Ba、La、Sr、Ga、Bi、Nb、W、Siのうちの2種以上の元素の酸化物からなるので、高性能な電気化学セルを提供することが可能となる。
【0033】
上記第8の発明によれば、上記第1から第7の発明の電気化学セル内に炭化水素系燃料の改質を可能とする改質部を有する燃料通路内蔵型電気化学セルを複数集積したセルスタックにより構成した電気化学セルモジュールであるので、発電時の温度分布の均一化と効率的な炭化水素燃料の改質工程を同時に満足する高性能な電気化学セルモジュールとすることができる。
【0034】
上記第9の発明によれば、上記第8の発明の燃料通路内在型電気化学セルにより構成され、電気化学反応によって電流を取り出す電気化学反応システムであり、700℃以下で運転されることを特徴とする電気化学反応システムを提供することが可能となる。
【0035】
本発明の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、燃料ガスは多孔質壁によって燃料極表面に同時に供給することが可能になることから、セル構造内における温度分布の均質化が可能となる。また、炭化水素燃料の改質部と発電部を同一のセル構造内に設計しながら、かつ、セル内で分離できることから、吸熱反応である改質反応が、発電反応を妨げることなく効率よくすることができるようになり、セルの高効率化に寄与し、低コストで、コンパクトな電気化学反応システムの構築が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明の一実施形態に係る燃料通路内在型電気化学セル及びこれから構成される電気化学モジュールについて図を用いて詳細に説明する。
【0038】
まず、本発明の燃料通路内在型電気化学セルの構成について詳述する。
図2は本発明に係る燃料通路内在型電気化学セルの一実施形態を示す概略図である。
【0039】
図2に示す実施形態の燃料通路内在型電気化学セルは、3段のハニカム形状を有するセル成形体Sからなり、セル成形体S表面に発電部6を有する構造となっている。本発明におけるハニカム形状とは、六角形や四角形等が隙間なく束ねられた構造を意味し、本実施形態では四角形のハニカム形状となっている。
【0040】
発電部6は、アノード1(燃料極)の表面に電解質2を配設し、該電解質2の外側にカソード3(空気極)を配設した構成となっている。また、アノード1には電解質2、カソード3が積層されていないアノード集電部11が形成され、このアノード集電部11はアノード1の外部引き出し電極として機能する。
【0041】
3段のハニカム形状を有するセル成形体Sの中段は、多孔質壁4からなる燃料導入路73が形成され、燃料導入路73の一端には燃料ガスを導入するための燃料ガス供給口71が設けられ、燃料導入路73の他端部は封止部51により封止されている。
【0042】
3段のハニカム形状を有するセル成形体Sの上下段は、多孔質壁4及びアノード1からなる燃料通路74が形成され、燃料通路74の燃料ガス供給口71側には封止部52が設けられ、燃料通路74の他端部には燃料ガス排出口72が設けられている。
【0043】
なお、この実施形態では、多孔質壁4とアノード1とは同じ材料により形成されている。即ち、アノード1も多孔質壁4と同様に通気性を有する。この場合の多孔質壁4、アノード1の気孔率は特に限定されるものではないが、高速な燃料ガスの拡散や還元反応の促進のために30%以上あることが好ましい。
【0044】
上記の構成の燃料通路内在型電気化学セルにおいて、ハニカム形状を構成するアノード1の壁厚み及び多孔質壁4の厚みは0.1〜0.5mmの範囲が好ましい。壁厚みを0.1〜0.5mmの範囲にすることにより、最適なアノード電極性能及び好適なガス拡散を得ることができる。
【0045】
アノード1の表面に形成される電解質2は緻密であり、厚みは燃料通路74の径や、電解質2自体の抵抗などを考慮し適宜定めることができるが、1〜50μmの範囲であることが好ましく、1〜20μmであることが電解質2の電気抵抗を抑えるためにも特に好ましい。
【0046】
電解質2の表面形成されるカソード3の厚みは5〜50μmの範囲であることが好ましい。厚みが5〜50μmの範囲であれば、十分な触媒活性点を確保することができ、ガス拡散による抵抗を適正なものとすることができるためセル性能を低下させることがない。
【0047】
アノード1の表面に形成されたアノード集電部11の露出量は、特に限定されるものではなく、ガスシール部材、電極の集電方法、燃料ガス排出口72の流路等を考慮して適宜設定することができる。
【0048】
また、燃料通路内在型電気化学セルの全体の厚さは2〜20mmの範囲が好ましい。厚さを2〜20mmの範囲とすることにより、壁厚みが0.1〜0.5mmの範囲であっても強度を保ちながら、空孔率の高い電極構造を持つハニカム成形体Sを得ることができる。更に、セルの幅は1〜3cmにすることが集電の観点から好ましい。
【0049】
また、燃料通路内在型電気化学セルの長さ、すなわちアノード1の長さは、
図2に示すようにアノード集電部11がセル末端にある場合についてはアノード1の長さは1〜5cmであることが好ましい。この範囲であれば、集電ロスを最小化したセルが構築できる。一方、アノード集電部11をセル側面に設けた構成にすることで制限なく設定することができる。これによりセルスタック設計上、必要とされる電気化学セルモジュールの全体の大きさを任意に定めることが可能となる。
【0050】
以下に、アノード1、電解質2、カソード3を構成する各材料について詳述する。
【0051】
本発明のアノード1は、以下に説明するアノード材料と電解質の材料の混合物から構成することができる。
【0052】
アノード1の材料としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Au、Ru、Co、La、Sr、Tiから選ばれる金属及び/又はこれらの元素1種類以上から構成される酸化物であって、また、触媒として機能するもので、具体的にはニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)等が好適なものとして挙げられる。このうち、ニッケル(Ni)は、他の金属に比べて安価であり、かつ、水素等の燃料ガスとの反応性が十分に大きいことから、好適に用いることができる。また、これらの元素や酸化物を混合した複合物を用いることも可能である。
【0053】
電解質の材料としては、高いイオン伝導が実現される材料を使用することが必要であり、これらに用いられる材料としては、Zr、Ce、Mg、Sc、Ti、Al、Y、Ca、Gd、Sm、Ba、La、Sr、Ga、Bi、Nb、Wから選ばれる2種類以上の元素を含む酸化物化合物であることが好ましい。
【0054】
その中でも、イットリア(Y
2O
3)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc
2O
3)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb
2O
3)、エルビア(Er
2O
3)等の安定化剤で安定化された安定化ジルコニアやイットリア(Y
2O
3)やガドリニア(Gd
2O
3)、サマリア(Sm
2O
3)などをドープしたセリア(CeO
2)などを好適なものとして挙げることができる。なお、安定化ジルコニアは、1種または2種以上の安定化剤により安定化されていることが好ましい。
【0055】
具体的には、安定化剤として5〜10mol%のイットリアを添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ドープ剤として5〜10mol%のガドリニアを添加したガドリニアドープセリア(GDC)等を好適なものとして挙げることができる。また、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の場合、イットリア含有量が5mol%未満であるとアノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。また、イットリア含有量が10mol%を超えると、同様にアノードの酸素イオン導電率が低下するので好ましくない。ガドリニアドープセリア(GDS)の場合も同様である。
【0056】
本発明のアノード1を構成する上記アノード材料と電解質材料との複合物において、アノード材料と電解質材料の混合比率は、90:10重量%〜40:60重量%の範囲が好ましく、80:20重量%〜45:55重量%の範囲がより好ましい。この混合比率とすることにより、電極活性や熱膨張係数の整合性等のバランスに優れたアノード1とすることができる。
【0057】
カソード3の材料としては、酸素のイオン化に活性の高い材料が好ましく、特にAg、La、Sr、Mn、Co、Fe、Sm、Ca、Ba、Ni、Mgの元素及びこれらの酸化物化合物1種類以上から構成される材料が好適である。その中でも、例えば遷移金属ペロブスカイト型酸化物、遷移金属ペロブスカイト型酸化物と上記電解質材料との複合物を好適に用いることができる。遷移金属ペロブスカイト型酸化物としては、具体的には、LaSrMnO
3、LaCaMnO
3、LaMgMnO
3、LaSrCoO
3、LaCaCoO
3、LaSrFeO
3、LaSrCoFeO
3、LaSrNiO
3、SmSrCoO
3等の複合酸化物を好適なものとして挙げることができる。
【0058】
遷移金属ペロブスカイト型酸化物と電解質材料の複合物を用いる場合には、カソードに必要な特性である電子導電性及び酸素イオン導電性のうち、酸素イオン導電性が向上するため、カソード3で生じた酸素イオンが電解質2へ移行し易くなり、カソード3の電極活性が向上する利点がある。
【0059】
遷移金属ペロブスカイト型酸化物と電解質材料との複合物の混合比率は90:10重量%〜60:40重量%の範囲が好ましく、90:10重量%〜70:30重量%の範囲がより好ましい。この範囲とすることにより電極活性や熱膨張係数の整合性等のバランスの優れたカソード3とすることができる。
【0060】
以下に上記の構成及び材質の、本発明の燃料通路内在型電気化学セルにおける発電部6への燃料ガスの均一な供給の機序について詳述する。
【0061】
本発明の燃料通路内在型電気化学セルを機能させる際には、燃料ガス供給口71から水素、一酸化炭素、メタン等の燃料ガスを導入し、また、カソード3側には空気、酸素等を供給する。
【0062】
燃料ガス供給口71より導入された燃料ガスは、
図2に示す矢印で示すように燃料導入路73から多孔質壁4を通過して燃料通路74に送られ燃料通路72を横切るようにアノード1に供給される。
【0063】
この際、通常、燃料導入路73内の気圧は燃料通路74の気圧よりも高くなるように設定される。この燃料導入路73内の気圧は、多孔質壁4の気孔率と燃料ガス供給口71より供給される燃料ガスの供給量等により適宜設定することができる。
【0064】
一方、カソード3側の空気、酸素等は、カソード3において酸素イオンとなり、電解質2内を通ってアノード1側に移動する。アノード1に達した酸素イオンは、燃料導入路73から燃料通路74に送られた燃料ガスと反応して電子を放出し発電する。また、酸素イオンと反応しきれなかった燃料ガスは燃料ガス排出口72から排出される。
【0065】
本発明の燃料通路内在型電気化学セルは、上記のように多孔質壁4を通過した燃料ガスをアノード1全体の表面に均一の濃度で到達させることができるので、発電時における燃料供給口71側及び燃料ガス排出口72付近での部分的な温度勾配を最小化することが可能となる。
【0066】
なお本発明の燃料通路内在型電気化学セルの構成は、
図2に示す実施形態に限定されるものではなく種々の構成の変更が可能である。例えば、
図4〜
図6のようにハニカム形状であっても基材となる材料が燃料ガス透過のみを行うセラミック部材等の材料で構成された多孔質体9であってもよい。その構成の場合は基材である多孔質体9の表面に発電部6が構築される。
【0067】
また、燃料ガスとして炭化水素燃料を用いる場合には、
図3、
図5、
図6に示すように、これらを改質するための触媒からなる改質機能層8を多孔質壁4又は多孔質体9に設けることで、改質機能部を内包しつつ、発電部と分離した構造を実現することもできる。この方法によって炭化水素燃料の直接改質におけるセル発電部の温度分布を均一にすることが可能となる。
【0068】
また、
図6に示すように、1つの燃料通路内在型電気化学セルの長手方向の中間部にカソード3とアノード1を接続するインターコネクト10を設ける構成とすることもできる。
【0069】
さらに、本発明の燃料通路内在型電気化学セルの構成はハニカム形状に限らず、
図7に示すような円筒形であってもよい。
【0070】
次に、上記の各材料を用いた本発明に係る燃料通路内在型電気化学セルの製造方法について詳述する。
【0071】
本発明に係る燃料通路内在型電気化学セルは基本的には以下に示すような工程によって作製することができる。
(1)アノード材料、電解質材料、バインダー、水を混合し、押し出し成型法によってハニカム形状に成形した後、乾燥又は仮焼してハニカム成形体Sを作成する工程。
(2)得られたハニカム成形体Sのアノード集電部11、燃料ガス供給口71、燃料ガス排出口72をマスクし、電解質材料、有機高分子、溶媒を混合した電解質スラリーをハニカム成形体S表面にコートした後、1200〜1600℃でハニカム成形体Sと電解質2を同時焼成して電解質3付ハニカム成形体Sを作成する工程。
(3)得られた電解質3付ハニカム成形体Sにカソード材料をコートした後、ハニカム成形体Sの両端の各所をガラス・セラミック部材によって封止し、800〜1300℃で焼成して燃料通路内在型電気化学セルとする工程。
【0072】
以下、上記(1)〜(3)の各工程についてさらに詳細に説明する。
【0073】
(1)の工程では、アノード1をアノード材料と電解質材料の混合物、バインダー及び水を用いて作製する。具体的には、アノード材料の金属元素あるいは酸化物の粉末と、電解質材料の酸化物化合物粉末にバインダーを加えて水で練り、得られた塑性混合物を押し出し成形法等を用いて、所定の壁厚さ、孔の数、長さのハニカム形状の成形体を成形する。バインダーとしてはセルロース系有機高分子を好適に用いることができる。バインダーの添加量はアノード材料100gに対して1〜30gが好ましく、3〜20gがより好ましい。なお、必要に応じて炭素粉末等の気孔生成剤を加えることもできる。
【0074】
得られたハニカム形状の成形体は常温で乾燥するか、必要に応じて1000℃まで仮焼することができる。この工程によって焼成後30%以上の空孔率を有するハニカム成形体Sを得ることができる。
【0075】
(2)の工程では、(1)で得られたハニカム成形体S表面に電解質材料を含む電解質スラリーを付着させた後、乾燥、焼成して電解質2付のハニカム成形体Sを作成する。電解質スラリーは、例えば電解質材料粉体、有機高分子、溶媒等を混合して作製する。ここで用いる有機高分子はビニル系高分子であることが好ましく、必要に応じて分散剤などを添加することができる。溶媒としては有機化合物、例えばアルコール、アセトン、トルエン等を用いることができ、電解質スラリーの濃度を制御することでコーティング厚を制御することができる。
【0076】
このとき、得られた電解質2付のハニカム成形体Sの外側側面に、アノード集電部11のための、固体電解質を含むスラリーが付着されることのないアノード1の露出部を形成させることが重要である。
【0077】
そのための上記電解質スラリーの付着方法としては、例えば、ハニカム成形体Sの両端の孔を樹脂系接着剤等により封止し、アノード集電部11とする部分をマスキングした後、このハニカム成形体Sを、電解質スラリー中に浸漬してディップコーティングする方法等が好適な一例として挙げられる。なお、ディッピング法以外にも、例えば、ハケ塗り法、スプレー法等の種々の付着方法を用いることができる。
【0078】
上記コーティング工程後の乾燥方法は特に制限されるものではなく、適宜の方法及び手段を用いることができる。次にこれを所定の温度で焼成して、電解質2付のハニカム成形体Sとする。このハニカム成形体Sの焼成温度は、特に制限されるものではなく、ハニカム成形体Sの材質、多孔度等を考慮して電解質2の層が緻密になる温度であればよく1200〜1600℃程度の温度で焼成するのが好ましい。
【0079】
(3)の工程では、(2)で得られた電解質2付のハニカム成形体Sの電解質2の表面にカソード3を形成する。まず、カソード材料を含むカソードスラリーを作製し、上記電解質2の調製と同様の方法により、カソード3の層を電解質2表面に形成する。
【0080】
カソード3の層を形成した電解質2付のハニカム成形体Sを、所定の温度で焼成して、ガラス等の材料にて成形体両端を封止することで燃料通路内在型電気化学セルとする。焼成温度は特に限定されるものではなく、カソード材料の種類、ガラス材料等を考慮して種々調節することができるが、通常800〜1200℃の温度で焼成するのが好ましい。
【0081】
以上の工程により、
図2に示すようなアノード1の外側面に電解質2が成形され、さらに電解質2の外側にカソード3が積層された燃料通路内在型電気化学セルを作製することができる。
【0082】
なお、必要に応じて、得られた燃料通路内在型電気化学セルのカソード3またはアノード1の部分を機械加工して面出しや寸法調整を行っても良い。また、アノード集電部11についてもマスキングを利用して、アノード集電部11を形成する方法を説明したが、電解質2付のハニカム成形体Sとした後に研磨等によって電解質2部分を削り、アノード集電部11を設けてもよい。
【0083】
次に、上記本発明に係る燃料通路内在型電気化学セルをスタックとして構成する方法について説明する。
【0084】
図8に示す構成例は、燃料通路内在型電気化学セルを、インターコネクト10を介して電気的に直列に接続をすることによりスタックが構成されている。この構成では、各セルとインターコネクト10を金属ペーストなどで接合することにより、さらに良好な電気的接続とすることができる。
【0085】
インターコネクト10を構成する材料としては、十分な電気伝導性を有するものであれば特に限定されるものではなく、このようなものとしては金属、例えば、銀、ニッケル、鉄、及び、これらの合金などを好適に用いることができる。
【0086】
また、アノード1の露出部分に金属ペーストなどで前処理を施しておくと、より接触抵抗を低減でき効果的である。
【0087】
本発明の燃料通路内在型電気化学セルの場合、1セルが約1Vの電圧出力を有し、接続した個数×1Vの電圧出力を有するスタックの構築が可能となる。
図8に示す構成は3連スタックの構成例であり、理論上約3Vの出力が得られる。
【0088】
空気はスタックの面方向に流れるため、圧力損失は充分に低減が可能となる。接続するセルの個数は特に限定されるものではなく、必要出力と装置サイズ等に応じて適宜決定することができる。
【0089】
具体的には、例えば2cm幅、10mm厚で長さが5cmのセルを用いて構築する場合、得られる電極面積は約30cm
2となり、単セルで十数Wの出力を得ることが可能となる。
【0090】
本発明におけるインターコネクト10を利用したスタックはさまざまな構成が考えられ、上記に示した構成に限定されることはない。
【0091】
本発明では、上記のような本発明のセルをインターコネクト10により接続したスタックを基本要素として集積化した電気化学セルモジュールとすることができる。
【0092】
本発明の電気化学セルモジュールの運転温度は、運転時のセルからの発熱量に対して、ユニットからの放熱及び空気等の入口温度、流量によって制御することが可能である。すなわち、この電気化学セルモジュールにおけるセル間の距離、空気流量、空気の入口温度モジュール温度によって適宜決定すればよく、限定されるものではない。セル間距離及び空気流量は容易に変更が可能であり、所望の運転温度になるようにこれらを設定すればよい。
【0093】
なお、上記説明においては、本発明に係る燃料通路内在型電気化学セルのスタックを電気化学セルモジュールとして作動させる一作動方法について説明したが、上記作動方法に限定されるものではない。
【0094】
さらに、本発明では、上記の電気化学セルモジュールに対して、
図9に示すように原料ガスを供給するためのマニホールド13を装着したユニットを構成要素とした電気化学反応システムを構築することができる。この本発明の電気化学反応システムは、本発明の燃料通路内在型電気化学セルを基本構成要素としているので、700℃以下で運転した場合であっても、電気化学反応によって十分に実用の電流を取り出すことができる電気化学反応システムとすることができる。
【0095】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
実施例として
図2に示す構成の燃料通路内在型電気化学セルを作成した。まず、以下の手順に従い電解質付きハニカム成形体Sを作製した。NiO(住友金属鉱山製)とZrO
2−16mol%Y
2O
3(YSZ)組成を有する粉末(東ソー製)に結合剤としてニトロセルロースを加えて水で練り、粘土状にした後、押し出し成形法により成形し、ハニカム成形体Sを作製した。ハニカム成形体Sは3×6チャンネルとした。
【0097】
次いで、得られたハニカム成形体Sの一端の開口をシール用テープで封止した後、このハニカム成形体Sを、スカンジウム安定型ジルコニアの固体電解質を含むスラリー中に浸漬して電解質2をディップコーティングし、乾燥後、1350℃で2時間焼成し、電解質2付のハニカム成形体Sを得た。このハニカム成形体Sの大きさは3.45×1.25×0.65cm、壁厚みは0.5mmであった。電解質2の厚さは約10μmであり、緻密で欠陥のないものであった。このような電解質2付のハニカム成形体Sに、従来の方法でカソード3を形成し、燃料通路内在型電気化学セルを作成した。この燃料通路内在型電気化学セルの外観写真を
図10に示す。
【0098】
得られた単一ユニットの燃料ガスを水素として、
図9に示すようなマニホールド13を装着して燃料ガスをセル内に供給し、600〜700℃における発電評価試験を実施した。このときのカソード3の長さは1cmであり、有効電極面積としては3.8cm
2である。発電結果を
図11に示す。理論起電力に近い1V以上の電圧を確認し、1ユニットで650℃において1W以上の出力を得られた。
【0099】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例の形態では、単一ユニットのみについて実施例を示したが、ユニットをさらに積層したモジュールを構築する場合にも同様の手順で作製することができる。