【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1:各果汁を用いた発酵乳固化試験
<使用する菌>
ラクトバチルス プランタルムの一種L. plantarum SN13T株又はL. plantarum SN35N株を用いた。
これらは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)へ、ラクトバチルスプランタルムSN13T株(NITE P−7)及びラクトバチルス プランタルムSN35N株(NITE P−6)として寄託されているものである(寄託日:平成16(2004)年7月6日)。
<果汁の調製>
パイナップル果汁として、沖縄産パイナップル果実由来の果汁(果汁100%:株式会社パイナップルワイナリー製)〔以下、「パイナップル果汁1」と云う〕、又はコスタリカ産パイナップル果実由来の果汁(果汁100%)〔以下、「パイナップル果汁2」と云う〕を用いた。これらは、パイナップル科パイナップル属植物のパイナップルの果実を搾汁した液汁である。何れの果汁も果汁由来の混濁が認められたが、コスタリカ産パイナップル果汁の方が沖縄産パイナップル果汁より、濁っていた。
このとき、パイナップル果汁1又は2(50mL)を凍結乾燥すると、平均8gであった。
パイナップル果汁1又は2にクエン酸Naを添加してpHを5〜6に調整したものを、100〜104℃で5〜10分加熱殺菌して殺菌済パイナップル果汁1又は2(全量中のパイナップル果実の含有量は、乾燥物換算で16%(w/v))とした。
また、オレンジ、キウイ又はナシの果肉についてもパイナップルの果実に準じて、殺菌済オレンジ果汁、殺菌済キウイ果汁、又は殺菌済ナシ果汁を調製した。
【0029】
<スターターの調製>
無菌下で、スターター培地5mLに、乳酸菌を植菌し、37℃で24時間種培養を行い、スターターを調製した。スターター培地として、上記殺菌済パイナップル果汁1をそのまま用いた。
【0030】
<乳培地の調製>
脱脂粉乳(PM)13%(w/v)水溶液(pHをクエン酸ナトリウム溶液で5.0〜5.5に調整したもの)を121℃、15分間高圧滅菌し、殺菌済乳培地を調製した。
【0031】
〔はっ酵乳固化試験〕
上記<スターターの調製>に従って、スターター(ラクトバチルス プランタルムSN13T株)を調製した。
上記<果汁の調製>に記載の殺菌済パイナップル果汁1又は2を用い、無菌下で、パイナップル果汁の最終濃度が、培地1L中、0%又は1.0%(w/v)(全量中、パイナップル果実が、乾燥物換算で、0.16%(w/v))になるように乳培地に添加し、パイナップル果汁無添加の乳培地又は1.0%(w/v)パイナップル果汁乳培地を本培養培地として調製した。
調製した各本培養培地1mLを各1.5mL容ポリエチレン製マイクロチューブに入れた。更に、上述の調製したスターター(種菌)が1.0%(w/v)となるように、各マイクロチューブに入れ、マイクロチューブを密閉後、37℃、40時間振とう培養し、はっ酵乳を製造した。
また、殺菌済パイナップル果汁を上記の殺菌済オレンジ果汁、殺菌済キウイ果汁、又は殺菌済ナシ果汁に代えた以外は、上記と同様にして、振とう培養を行い、はっ酵乳を製造した。
各はっ酵乳の固化状況を確認した。
【0032】
【表1】
【0033】
パイナップル果汁1を用いると、はっ酵乳は70%程度固化し、また、パイナップル果汁2を用いると、培養40時間経過後にははっ酵乳が完全固化した。これに対し、キュウイ果汁やナシ果汁を用いるとはっ酵乳は50%程度の固化、オレンジ果汁でははっ酵乳は20%程度の固化にとどまっていた。すなわち、パイナップル果汁を用いれば、乳酸菌の増殖を促進すると共にはっ酵乳を固化させることができることが確認された。
【0034】
実施例2:パイナップル果汁又は酒粕を用いたはっ酵乳固化試験
<酒粕及び酒粕乳培地の調製>
酒粕として、市販品の酒粕を噴霧乾燥したものを用いた。
酒粕噴霧乾燥品(以下「酒粕SD」とも云う)を最終濃度1.5%(w/v)になるように、上記の乳培地に添加し、酒粕1.5%(w/v)含有の本培養培地を調製した。
【0035】
〔はっ酵乳固化試験〕
スターター培地として上記<果汁の調製>に記載の殺菌済パイナップル果汁1を用い、乳酸菌として上記ラクトバチルス プランタルムSN13T株又はラクトバチルス プランタルムSN35N株を用いて、上記<スターターの調製>に従って、2種のスターターをそれぞれ調製した。
【0036】
乳培地に上記殺菌済パイナップル果汁2を添加した本培養培地、又は酒粕SDを添加した本培養培地を用い、実施例1の〔はっ酵乳固化試験〕に従って、上記各スターターを種菌として用いて37℃、48時間振とう培養を行い、はっ酵乳を製造し、この固化状態を確認した。
また、コントロールとして、乳培地に何も添加しないものを本培養培地として同様にはっ酵乳を製造した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、パイナップル果汁を用いると、何れのラクトバチルス プランタルム菌株でも乳酸菌の増殖能が促進され、はっ酵乳が固化された。
従来、植物乳酸菌は、動物乳酸菌に比べて増殖能が低く、植物乳酸菌で固形タイプはっ酵乳を得ることは非常に困難で、ドリンクタイプのはっ酵乳が主流であった。この結果から、植物乳酸菌のように増殖能が低いものであっても、パイナップル果汁を用いれば非常に乳酸菌の増殖能が高まると共に、はっ酵乳が固化できることが確認された。
また、ポジティブコントロールとして、酒粕を乳培地中0.15%(w/v)で用いたが、酒独特の臭いがあり、はっ酵乳の匂いや風味が損なわれていたのに対し、パイナップル果汁を用いた場合には、はっ酵乳に優れた風味やパイナップル特有の香気が付与されるので、商品的価値の高いはっ酵乳を製造することができた。
【0039】
実施例3:スターター培地としてパイナップル果汁又はパイナップル果汁・酒粕混合物を用いた乳酸菌増殖促進効果試験
<パイナップル果汁・酒粕混合物の調製>
上記酒粕SDを最終濃度1.0%(w/v)になるように、上記殺菌済パイナップル果汁1に添加し、パイナップル果汁1・酒粕混合物を調製した。このとき、パイナップル果汁:酒粕の質量比は、乾燥物換算で16:1であった。
【0040】
〔乳酸菌増殖促進効果試験〕
スターター培地として、上記実施例1に記載の殺菌済パイナップル果汁1又は上記パイナップル果汁1・酒粕混合物をそのままの状態で使用した。
上記実施例1の<スターターの調製>に従って、上記各スターター培地に上記ラクトバチルス プランタルムSN13T株を接種した後、菌を培養し、このときの菌数を測定した。
【0041】
【表3】
【0042】
ラクトバチルス プランタルムSN13T株を、パイナップル果汁1で培養すると、培地1mL当たり150億の乳酸菌数となったことから、パイナップル果実そのものに乳酸菌増殖促進効果があることが確認された。複数回の実験により、培地1mL当たり、20億以上は恒常的に増えることを確認している。また、パイナップル果汁に酒粕を添加したパイナップル果汁1・酒粕混合物で培養すると、チャンピオンデータとしては培地1mL当たり700億の乳酸菌数となったことから、更に酒粕を併用することによって乳酸菌増殖促進効果がより高まることも見出した。すなわち、何れもスターター培地として良好であるが、特にパイナップル果汁・酒粕混合物が好ましいと考えられた。
【0043】
実施例4:スターター培地として各果汁、各果汁・酒粕混合物を用いた乳酸菌増殖促進効果試験
<果汁、果汁・酒粕混合物の調製>
パイナップル果汁として、濃縮果汁(野村乳業製)を100%果汁に希釈した濃縮還元果汁を用いた。濃縮還元果汁に、炭酸水素ナトリウムを添加してpHを5.7に調整したものを、100℃で8分加熱殺菌して殺菌済パイナップル果汁3とした。
上記酒粕SDを最終濃度1.0%(w/v)になるように、上記殺菌済パイナップル果汁3に添加し、パイナップル果汁3・酒粕混合物を調製した。このとき、パイナップル果汁:酒粕の質量比は、乾燥物換算で16:1であった。
また、人参果汁、リンゴ果汁及びバナナ果汁についてもパイナップル果汁3に準じて、濃縮果汁からそれぞれ殺菌済果汁と、各果汁・酒粕混合物を調製した。
【0044】
〔乳酸菌増殖促進効果試験(1)〕
スターター培地として、上記それぞれの殺菌済果汁又は各果汁・酒粕混合物をそのままの状態で使用した。
上記実施例1の<スターターの調製>に従って、各スターター培地に、あらかじめMRS培地にて培養したラクトバチルス プランタルムSN13T株(L.p.13T)の培養液(これを前前培養液と呼ぶ)を各スターター培地100mLに対して1mL接種した(最終濃度で1(V/v)%)後、37℃で24時間菌を培養した。各スターター培地から1mLを採取し、0.85%Naclで・10倍から10
10倍までの希釈系列を作製して希釈後、BCPアガー培地(日水製薬株式会社)に1mL接種して嫌気的条件下で培養後、菌数を測定した。結果を
図1に示す。
【0045】
図1より、パイナップル果実にラクトバチルス プランタルムの増殖促進効果があることが確認された。これに対し、人参果汁、リンゴ果汁及びバナナ果汁では、ラクトバチルス プランタルムに対する増殖促進効果が弱かった。
【0046】
〔乳酸菌増殖促進効果試験(2)〕
スターター培地として、上記殺菌済パイナップル果汁3又はパイナップル果汁3・酒粕混合物をそのままの状態で使用した。各スターター培地にペディオコッカス・ペントサセウスLP28株を接種した以外は、上記乳酸菌増殖促進効果試験(1)と同様にして菌を培養後、菌数を測定した。なお、ペディオコッカス・ペントサセウスLP28株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)へ、NITE P−700として寄託されているものである(寄託日:平成21(2009)年1月27日)。
その結果、ペディオコッカス・ペントサセウスLP28株を、パイナップル果汁3で培養すると、培地1mL当たり22億の乳酸菌数となったことから、パイナップル果実そのものにペディオコッカス・ペントサセウスの増殖促進効果があることが確認された。また、パイナップル果汁に酒粕を添加したパイナップル果汁3・酒粕混合物で培養すると、培地1mL当たり24億の乳酸菌数となったことから、更に酒粕を併用することによって乳酸菌増殖促進効果がより高まることも見出した。
【0047】
実施例5:パイナップル果汁、パイナップルピューレ状又はパイナップル果汁・酒粕含有乳培地を用いた乳酸菌増殖促進効果試験
<ピューレ状の調製>
パイナップル果実をミキサーで摩砕したもの(ピューレ状)を得た。このとき、ピューレ状50mLを乾燥すると、8mgであった。
パイナップルピューレ状にクエン酸Naを添加してpHを5〜6に調整したパイナップルピューレ状を、100〜104℃で5〜10分加熱殺菌して殺菌済パイナップルピューレ状(全量中のパイナップル果実の含有量は、乾燥物換算で16%(w/v))とした。
【0048】
〔はっ酵乳固化試験〕
上記実施例3記載の2種のスターター(パイナップル果汁1又はパイナップル果汁1・酒粕混合物をスターター培地として使用)を用いた。
上記実施例1に記載の殺菌済パイナップル果汁1、上記実施例3に記載のパイナップル果汁1・酒粕混合物、上記殺菌済パイナップルピューレ状を、それぞれ乳培地に添加して、本培養培地とした。このとき、各本培養培地の調製法は、実施例1の方法に準じて行い、各本培養培地中のパイナップル果汁の含有量は、培地1L中、0%、5%(w/v)(全量中のパイナップル果実の含有量は、乾燥物換算で0.8%(w/v))、10%(w/v)(全量中のパイナップル果実の含有量は、乾燥物換算で1.6%(w/v))とした。
上記実施例1のはっ酵乳の製造法に従って、上記各スターターを各本培養培地に接種後36時間培養し、はっ酵乳を製造し、この固化状態を確認した。なお、コントロールとして、乳培地のみの本培養培地を用いた。
【0049】
【表4】
【0050】
パイナップル果汁をスターター培地として調製したスターターを、パイナップル果汁1を10%(w/v)で含有する本培養培地に接種し、16時間培養するとはっ酵乳の固化率が100%となった。なお、36時間培養後のはっ酵乳の固化状態を
図2に示す。
一方、パイナップル果汁1に酒粕を1%(w/v)添加した混合物をスターター培地とした場合、16時間培養するとはっ酵乳の固化率が100%となった。このとき、本培養培地中の酒粕の含有量は0.01%(w/v)と微量になるので、はっ酵乳の固化は本培養培地に含まれるパイナップル果実によるものと考える。また、このスターターで製造されたはっ酵乳に酒独特の臭いはなく、しかもパイナップル特有の香りや風味が付与されていた。
更に、ピューレ状を5%(w/v)になるように乳培地に添加した場合、16培養すると、はっ酵乳の固化率が100%となったのに対し、パイナップル果汁1を5%(w/v)になるように乳培地に添加した場合、24時間〜36時間で、はっ酵乳の固化率が100%となった(
図2参照)。このことから、果汁よりも、食物繊維質を多く含むようなピューレ状の方が、乳酸菌の増殖性を高めると共に、はっ酵乳の固化も良好になると考えた。
また、植物乳酸菌は増殖が遅く、しかも発酵乳を固化することが困難であったが、パイナップルの果汁又はピューレ状を用いれば、植物乳酸菌による乳酸発酵を促進させて16〜24時間で発酵乳を固化させることができたので、発酵時間も短縮することも可能となると考えた。
【0051】
このようにパイナップル果実には乳酸菌、特に植物乳酸菌の増殖促進作用があるため、パイナップル果実を乳培地に添加し、乳酸発酵をすることによって風味や香りが良好な固形タイプのはっ酵乳を製造することが可能となった。
更に、スターター調製の際、パイナップル果実に酒粕を0.5〜1.5%程度添加したスターター培地を用いた方が、乳酸菌の増殖促進効果がより高くなると共に、これを用いても酒独特の臭いがなく、パイナップルの風味や香りのある固形タイプのはっ酵乳を製造することも可能となった。