(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の硬化性組成物は、
(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アルコール化合物、
(B)一般式(1)で表される含フッ素アルコール化合物中の水酸基と反応し得る加水分解性シリル基又はシラノール基を含有する化合物
を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の硬化性組成物には、(A)成分として、下記一般式(1)
【化4】
(式中、Rfはフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q
1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる(a+b)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。Q
2は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。Rfが一価のときにはcは1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rfが二価のときにはaは1であり、かつcは2である。bは1〜20の整数である。)
で表される含フッ素アルコール化合物を用いる。含フッ素アルコール化合物を配合することにより、硬化性組成物の硬化物表面に防汚性、耐指紋性、撥水性、撥油性を付与することができる。
【0010】
式(1)において、Rfはフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000、好ましくは500〜20,000の一価又は二価の基である。なお、本発明において、分子量は、
1H−NMR及び
19F−NMRに基づく末端構造と主鎖構造との比率から算出される数平均分子量である。
【0011】
Rfとしては、下記式
−C
hF
2hO−
(hは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜400個、更に好ましくは4〜200個含むものが好適である。
【0012】
Rfとして特に好ましい構造としては、下記一般式(3)又は(3’)で表すことができる。
−[Q
3−Rf’−Q
3−T]
v−Q
f−Rf’−Q
3− (3)
F−Rf’−Q
3− (3’)
【0013】
Rf’は二価の分子量300〜30,000、特に500〜20,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいてもよく、特に下記式(5)〜(7)で表される二価のパーフルオロポリエーテル基が好ましい。
【0014】
【化5】
(式(5)中、Yはそれぞれ独立にF又はCF
3基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0又は1〜200、好ましくは0又は1〜100の整数、但し、m+nは2〜200、好ましくは3〜150の整数である。sは0又は1〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0015】
【化6】
(式中、jは1〜3の整数、kは1〜200、好ましくは1〜60の整数である。)
【0016】
【化7】
(式中、YはF又はCF
3基、jは1〜3の整数、t、uはそれぞれ0又は1〜200、好ましくは2〜100の整数、但し、t+uは2〜300、好ましくは4〜200の整数である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてもよい。)
【0017】
Q
3は二価の有機基であり、好ましくは炭素数2〜20、特に3〜12の二価炭化水素基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造あるいは不飽和結合を有する基であってもよい。このようなQ
3としては、下記のものが例示される。なお、式中、Phはフェニル基を示す。
【0020】
これらの中でも特に
【化10】
が好ましい。
【0021】
また、Tは、下記式(4)
【化11】
(式中、Q
2、a、bは前述の通りであり、Q
4は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる(a+b)価の連結基であり、上記Q
1の(a+b)価のうち、二価分がQ
3との結合に使用されたシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる構造である。)
で表される二価の連結基である。
【0022】
Q
4としては、下記のものが例示される。但し、下記式中、実線で示される2価分の結合手は、Q
3と結合しているものであり、破線で示される(a+b−2)個分の結合手は、−Q
2−OH(式中、Q
2は上記の通りである。)で示される基と結合しているものである。なお、下記式(a)の場合は、両末端の単位の破線にも−Q
2−OHが連結し、これら両末端の単位と(a+b−4)の単位とで、(a+b−2)個分の結合手に−Q
2−OHで示される基を結合する。また、実線で示される2価分の上記ユニット、(a+b−2)個のユニット及びp個のユニットの並びはランダムである。a、bは、好ましくはa、b共に1〜4の整数であり、かつa+bは3〜6、特に3〜5の整数である。pは0又は1以上の整数であり、pの上限は12以下、特に6以下であることが好ましい。
【0024】
ここで、Q
5は(a+b)価の連結基であり、例えば以下のものが例示される。
【化13】
【0025】
Q
fはQ
3、又はv=0の場合、フッ素原子である。
また、vは0又は1〜5の整数、特に0又は1、とりわけ0であるが、Q
fがフッ素原子のときvは0であり、Rfは下記構造(3’)となる。
F−Rf’−Q
3− (3’)
【0026】
Rfの具体例としては、下記のものが挙げられる。
【化14】
【0027】
【化15】
(上記式中、j、k、m、n、r、s、t、uは上述した通りである。)
【0028】
式(1)において、aは1〜6、好ましくは1〜4の整数であり、bは1〜20、好ましくは1〜4の整数であり、cは1又は2であるが、Rfが一価の場合、aは1〜6の整数、かつcは1であり、Rfが二価の場合、aは1、かつcは2である。bは1〜20の整数であり、特に1〜6の整数が好ましく、a+bは3〜6、特に3〜5の整数が好ましい。
【0029】
式(1)において、Q
1は少なくとも(a+b)個のSi原子を有するシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる(a+b)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、具体的には以下の構造が示される。
但し、下記式中、a、bは前述の定義通りであり、好ましくはa、b共に1〜4の整数であり、かつa+bは3〜6、特に3〜5の整数である。pは0又は1以上の整数であり、a個及びb個、更にp個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf−又は−Q
2−OH(式中、Rf、Q
2は上記の通りである。)で示される基のいずれか一方の基と結合する。なお、pの上限は12以下、特に6以下であることが好ましい。
【0031】
なお、a+bのユニットは、aのユニットとbのユニットにそれぞれ分離して表すことができ、aのユニットの結合手にはRfが連結し、bのユニットの結合手には−Q
2−OHが連結する(Rf、Q
2は上記の通りである。)。式(b)の場合は、両末端の単位の破線にそれぞれRf又は−Q
2−OHが連結し、これら両末端の単位と(a+b−2)の単位とで(a+b)個のユニットを構成する。
【0032】
また、Q
5は前述の通りであり、Q
5としては上記と同様のものを例示することができる。
【0033】
Q
1としては、下記式(2)で表される構造がより好ましい。
【化17】
[式中、a、bは上記と同じであり、破線は結合手を示し、aの繰り返し単位を有するユニットは上記Rfと結合し、bの繰り返し単位を有するユニットは下記式
−Q
2−OH
(式中、Q
2は上記と同じである。)
で示される基と結合する。また、2種類の繰り返し単位の並びはランダムである。]
【0034】
式(1)において、Q
2は炭素数1〜20、好ましくは2〜15の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(−O−)又はエステル結合(−COO−)を含んでいてもよい。具体的には、下記構造のものが挙げられる。
−CH
2CH
2CH
2−
−CH
2CH
2CH
2CH
2−
−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−
−CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2−
−CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2−
−CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2−
【化18】
【0035】
以上のような一般式(1)で示される含フッ素アルコール化合物は、例えば次のような方法で合成することが可能である。
まず初めに、末端にオレフィン基を有する含フッ素化合物(i)に対して、多官能Si−H化合物(例えば、分子中に2個以上、好ましくは3個以上のSi−H基を有するシロキサン、シルアルキレン、シルアリーレン又はこれらの2種以上の組み合せからなる有機ケイ素化合物)(ii)をSi−H基が過剰の条件下でヒドロシリル化付加反応させ、含フッ素多官能Si−H化合物(iii)を合成する。
【0036】
このような化合物(i)のうち、特に望ましい構造を一般化した例として、下記式(8)を示すことができる。
Rf
0−(CH=CH
2)
x (8)
【0037】
ここで、Rf
0は下記式
−[Q
6−Rf’−Q
3−T]
v−Q
f−Rf’−Q
6−
F−Rf’−Q
6−
で表される。上記式中、Rf’、T、Q
f、Q
3、vは上述した通りであり、Q
6は二価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜20、特に1〜10の二価炭化水素基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。xはRf
0が一価のとき1、二価のとき2である。
【0038】
Q
6としては、下記のものが挙げられる。なお、下記例中、Phはフェニル基を示す。
【化19】
【0040】
化合物(i)の特に好ましいものとして、以下のものが例示できる。
【化21】
【0041】
【化22】
(上記式中、j、k、m、n、r、sは上述した通りである。)
【0042】
また、化合物(ii)は、下記式(9)のような形で一般式として表現できる。
Q
1−(H)
a+b (9)
(式中、Q
1、a、bは前述の通りであり、かっこ内に示されたHはQ
1構造中のSi原子に直接結合した水素原子である。)
【0043】
このようなもののうち、好ましい化合物(ii)としては、以下のものが例示できる。
【化23】
【0044】
【化24】
(上記式中、a、bは前述の通りであり、pは0又は1以上の整数である。)
【0045】
以上のような化合物(i)及び化合物(ii)を任意の組み合せで、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度60〜150℃、好ましくは70〜120℃で付加反応を行うことで含フッ素多官能Si−H化合物(iii)を得ることができる。
【0046】
例えば、化合物(i)が1官能性の場合(式(8)においてx=1)、化合物(ii)1分子に対して付加させる化合物(i)の数は(a+b)個未満であれば1個でも、複数個でも問題なく、例えばa個付加させた場合に得られる化合物(iii)は次のような一般式(10)で表すことができる。
(Rf
0−C
2H
4)
a−Q
1−(H)
b (10)
(Rf
0、Q
1、a、bは上記の通りであり、かっこ内に示されたHはQ
1構造中のSi原子に直接結合した水素原子である。)
【0047】
一方、化合物(i)が2官能性の場合には(式(8)においてx=2)、化合物(i):化合物(ii)=v+1:v+2の比率(モル比)で付加させることが望ましく(vは前述の通りである。)、得られる化合物(iii)は、例えば式(11)のように表現でき、v=0のときは、化合物(i)の両末端に1分子ずつの化合物(ii)が導入された構造となる。
【化25】
(式中、T
2は
【化26】
で示される基であり、Q
1、Q
4、Rf
0、a、b、vは上記の通りであり、かっこ内に示されたHはQ
1又はQ
4構造中のSi原子に直接結合する水素原子である。)
【0048】
上記の付加反応は溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する化合物(iii)が反応温度において可溶であることが好ましい。例えば、m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm−キシレンヘキサフロライドが好ましい。
【0049】
付加反応触媒は、例えば白金、ロジウム又はパラジウムを含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金−シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金−オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。触媒の配合量は、化合物(i)に対し、含まれる金属量が0.1〜5,000質量ppmとなることが好ましく、より好ましくは1〜1,000質量ppmである。
【0050】
付加反応において、各成分の仕込み順序は特に制限されないが、例えば化合物(i)、化合物(ii)及び触媒の混合物を室温から徐々に付加反応温度まで加熱する方法、化合物(i)、化合物(ii)及び希釈溶剤の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(ii)と触媒の混合物に化合物(i)を滴下する方法、目的とする反応温度まで加熱した化合物(ii)に化合物(i)と触媒の混合物を滴下する方法等をとることができる。この中でも、化合物(i)、化合物(ii)及び希釈溶剤の混合物を目的とする反応温度にまで加熱した後に触媒を添加する方法、あるいは、目的とする反応温度まで加熱した化合物(ii)に化合物(i)と触媒の混合物を滴下する方法が特に好ましい。これらの方法は、各成分あるいは混合物を必要に応じて溶剤で希釈して用いることができる。上記反応は、乾燥雰囲気下で、空気あるいは不活性ガス(N
2、Ar等)中、反応温度50〜150℃、好ましくは60〜120℃で、0.5〜96時間、好ましくは1〜48時間行うことが望ましい。
【0051】
化合物(i)に対する、化合物(ii)の配合量は、化合物(ii)1分子に対して、付加させる化合物(i)の数は(a+b)個未満で、かつ化合物(iii)におけるvが0又は1〜5の整数となる条件であればどのような配合量であってもよいが、三次元架橋を防ぐため、化合物(i)のアリル基等の末端オレフィン基に対し、化合物(ii)を過剰量用いて付加反応を行った後に、未反応の化合物(ii)を減圧留去等により除去することが望ましく、化合物(i)のアリル基等の末端オレフィン基1当量に対し、化合物(ii)を1〜10当量、特に2〜6当量の存在下で反応させるのが好ましい。また必要に応じて、vが小さい中間体を合成してから、段階的に付加反応を行ってもよい。例えば、式(8)におけるx=2の化合物(i)を用いて、式(11)におけるv=0の化合物(iii)を合成した後に、該化合物(iii)2モルに対して、式(8)におけるx=2の化合物(i)1モルを再度反応させることでv=3の化合物(iii)を得ることができる。あるいは、化合物(iii)において、vの異なる混合物中から任意の分離手段により目的とするvの値を持つ成分を分離することもできる。例えば、化合物(iii)におけるv=0〜3の混合物から、分取クロマトグラフ等の手段によりv=1の成分のみを取り出してもよい。
【0052】
本発明で用いられる含フッ素アルコール化合物は、以上のようにして得られる化合物(iii)のSi−H基と、1分子中に末端オレフィン基とアルコール性水酸基を有する化合物(iv)との付加反応を行うことで得ることができる。このような化合物(iv)としては、特に以下のものが好ましい。これらの化合物(iv)は1種単独で又は任意の2種以上を組み合せて用いることができる。
【0053】
CH
2=CHCH
2OH
CH
2=CHCH
2CH
2OH
CH
2=CHCH
2CH
2CH
2OH
CH
2=CHCH
2OCH
2CH
2OH
CH
2=CHCH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OH
CH
2=CHCH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OCH
2CH
2OH
【化27】
【0054】
化合物(iii)と化合物(iv)の付加反応は、前述した化合物(i)と化合物(ii)の付加反応と同様の手法で行うことができる。即ち、上述した付加反応触媒存在下、乾燥雰囲気下で、空気あるいは不活性ガス(N
2、Ar等)中、反応温度は、通常50〜150℃、好ましくは60〜120℃で0.5〜96時間、好ましくは1〜48時間、必要に応じて希釈を行い任意の添加順序での反応を実施することができる。
【0055】
化合物(iii)に対する、化合物(iv)の配合量は任意の量とすることができるが、化合物(iii)のSi−H基に対して、化合物(iv)を等モルもしくは過剰量用いて付加反応を行った後に、未反応の化合物(iv)を減圧留去等により除去することが望ましく、特には化合物(iii)のSi−H基1当量に対し、化合物(iv)を1.0〜5.0当量、好ましくは1.0〜2.0当量存在下で反応を行うことが望ましい。
【0056】
本発明において、含フッ素アルコール化合物(A)は、上記手法以外に、下記式
(Rf)
a−[Q
1−(H)
b]
c
(Q
1、b及びRfは上述した通りである。)
で示される含フッ素有機ケイ素化合物(v)と化合物(iv)との付加反応を行うことで得ることもできる。この場合、反応条件等は上述した化合物(iii)と化合物(iv)との反応条件と同様とすることができる。
【0057】
このようにして得られる式(1)で示される含フッ素アルコール化合物(A)として、特に好ましい構造としては、例えば以下のものが例示できる。
【化28】
【0058】
【化29】
(上記式中、n、j、t、uは上記と同じである。)
【0059】
本発明の硬化性組成物は、以上のようにして得られる含フッ素アルコール化合物を配合することを特徴とし、該組成物を硬化させることにより、硬化物表面に防汚性、耐指紋性、撥水性、撥油性を付与することができる。
上記含フッ素アルコール化合物の配合量は、後述する(B)成分(固形分)100質量部に対して0.005〜20質量部であり、好ましくは0.01〜10質量部であり、更に好ましくは0.05〜5質量部である。上記の上限値を超える値では含フッ素アルコール化合物量が多くなりすぎ、硬化物としての性能を損なう可能性があり、下限値未満ではフッ素成分が少なくなり、ハードコート層の表面を十分に覆うことができなくなる場合がある。
【0060】
本発明の硬化性組成物には、(B)成分として、上記含フッ素アルコール化合物中の水酸基と反応し得る加水分解性シリル基又はシラノール基を含有する化合物を配合する。
加水分解性基として、具体的には、アルコキシ基、オキシム基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基等が挙げられ、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等が好適である。
【0061】
これら加水分解性シリル基又はシラノール基を含有する化合物としては、上記含フッ素アルコール化合物中の水酸基と反応する加水分解性シリル基又はシラノール基を含有するものであれば特に限定されず、皮膜を形成することが可能なものを使用することができ、下記シラン化合物や、その部分加水分解縮合物、これらから得られるシリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等汎用的な樹脂が挙げられる。これらは、1種類だけでなく、2種類以上を組み合せて使用することも可能である。それらの中でも、含フッ素アルコール化合物との相溶性に優れるシリコーン樹脂が好適である。
【0062】
シリコーン樹脂としては、アルコキシシランやクロロシラン等の加水分解性基含有シラン、これらの部分(共)加水分解物から選ばれる1種又は2種以上の縮合物が挙げられる。使用する原料(加水分解性基含有シラン)としては、加水分解性基の種類が塩素原子あるいはアルコキシ基、オキシム基、イソプロペノキシ基、アセトキシ基等であり、該加水分解性基を1個、2個、3個又は4個含有し、上記条件を満たすシラン化合物であればいかなるものも使用可能である。
【0063】
このようなシラン化合物として、具体的には、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルイソプロペノキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、プロピルメチルジクロロシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジクロロシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、及びこれらの部分加水分解物などが挙げられる。
【0064】
その他、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、5−ヘキセニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン、3−(4−ビニルフェニル)プロピルトリメトキシシラン、4−ビニルフェニルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどの反応性官能基を有するシランを使用してもよい。
【0065】
操作性、副生物の留去のし易さから、メトキシ基含有シランあるいはエトキシ基含有シランを使用するのがより好ましい。使用可能なシラン化合物はこれらに限定されるものではない。また、これらシラン化合物の1種を単独で、又は2種以上の混合物を使用してもよい。
更に、本発明においては、上記原料として例示した、硬化してシロキサン骨格を形成するシラン化合物を直接(B)成分として使用することも可能である。
【0066】
上記加水分解性シラン化合物を加水分解、縮合して、本発明に使用可能なシリコーン樹脂を得る方法としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタンなどの炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系化合物、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系化合物、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類から選ばれる有機溶剤中で加水分解、縮合することにより、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を含有するシリコーン樹脂を得ることができる。
ここで、加水分解時に、使用する水の添加量を原料のアルコキシ基の全てを加水分解するために必要な量よりも少なくすることで、縮合後の最終的に得られるシリコーン樹脂は加水分解性シリル基である、メトキシ基やエトキシ基を多く含むシリコーン樹脂となる。また、得られたシリコーン樹脂のアルコキシ基の全てを加水分解するために、該シリコーン樹脂に、更に必要な量よりも多く水を添加することで、シラノール基を多く含むシリコーン樹脂となる。
【0067】
加水分解、縮合を実施するに際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、その水溶液がpH2〜7の酸性を示すものを使用するのがよい。特に酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、酸性あるいは弱酸性の無機塩、イオン交換樹脂などの固体酸などが好ましい。例としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、マレイン酸に代表される有機カルボン酸、メチルスルホン酸、表面にスルホン酸基又はカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂などが挙げられる。加水分解触媒の量は、ケイ素原子上の加水分解性基1モルに対して0.001〜10モル%の範囲内であることが好ましい。
反応温度は通常0〜120℃であり、反応時間は反応が進行するのに十分な時間であればよいが、通常30分〜24時間程度である。
【0068】
上記シリコーン樹脂は、上記溶剤に均一に溶解した溶液として調製することもできる。この場合、均一溶液が得られる範囲であれば溶液中のシリコーン樹脂の濃度は特に制限されないが、好ましくは5〜100質量%、より好ましくは20〜60質量%程度である。
【0069】
このようにして得られる(B)成分のシリコーン樹脂は、キャノン・フェンスケにより測定した25℃における粘度が通常1〜1,000mm
2/s、好ましくは、1〜100mm
2/sである。
【0070】
また、加水分解性シリル基又はシラノール基量は、通常0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。
【0071】
本発明の硬化性組成物には、シリコーン樹脂を硬化させるための硬化触媒や、皮膜形成性を向上する目的でレベリング剤を使用することも可能である。硬化触媒としては、無機あるいは有機酸、アミン化合物あるいはアルカリ物質、有機スズ、チタン、アルミニウム化合物等の有機金属化合物、塩化白金酸等のヒドロシリル化触媒、UV硬化剤等、従来公知の各種材料を応用することができる。レベリング剤としては、ポリエーテル変性オイル、フッ素含有界面活性剤等を使用することができる。
触媒の添加量としては、通常、シリコーン樹脂の0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0072】
更に本発明の硬化性組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、フィラー、染顔料、レベリング剤、反応性希釈剤、非反応性高分子樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、帯電防止剤、チキソトロピー付与剤が挙げられる。
【0073】
本発明の硬化性組成物は、任意の溶剤で希釈して使用することもできる。特に好ましい溶剤としては、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、フッ素系溶剤等が挙げられる。
【0074】
本発明の硬化性組成物は、基材表面に塗布硬化、あるいは単体で硬化させることにより、硬化物表面に防汚性、撥水性、撥油性、耐指紋性等を付与することができる。これによって、指紋、皮脂、汗等の人脂、化粧品等により汚れ難くなり、汚れが付着した場合であっても拭き取り性に優れた硬化物表面を与える。このため、本発明の硬化性組成物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される塗装膜もしくは保護膜を形成するために使用されるハードコート材料として特に有用である。
【0075】
このような基材表面が処理される物品としては、例えば、光磁気ディスク、CD・LD・DVD・ブルーレイディスク等の光ディスク、ホログラム記録等に代表される光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、光ファイバーや光カプラー等の光学部品・光デバイス;CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションプロジェクションディスプレイ、トナー系ディスプレイ等の各種画面表示機器;特にPC、携帯電話、携帯情報端末、ゲーム機、電子ブックリーダー、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、自動車用等のナビゲーション装置、セキュリティーシステム端末等の画像表示装置、及びその操作も行うタッチパネル(タッチセンサー、タッチスクリーン)式画像表示入力装置;携帯電話、携帯情報端末、電子ブックリーダー、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機、リモートコントローラ、コントローラ、キーボード等、車載装置用パネルスイッチなどの入力装置;携帯電話、携帯情報端末、カメラ、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機等の筐体表面;自動車の外装、ピアノ、高級家具、大理石等の塗装及び表面;美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、広告用カバー、フォトスタンド用のカバー、腕時計、自動車用フロントガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプ等の透明なガラス製又は透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネート等)部材;各種ミラー部材等が挙げられる。これら用途において、本発明の硬化性組成物は、ただ単に目的物の表面への塗工によるものだけでなく、インモールド成形等で広く用いられている転写型ハードコートにも使用することができる。
【0076】
本発明の硬化性組成物を基材表面に塗布する場合、その塗布方法としては、グラビアコーター、ロールコーター、ロッド(バー)コーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ダイコーター、含浸コーター、スクリーンコーター、スピンコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
また、本発明の硬化性組成物の硬化条件としては、通常室温〜200℃、30分〜24時間である。
なお、本発明の硬化性組成物を塗布硬化して得られる硬化膜の厚さは、好ましくは1μm〜3mm、より好ましくは5μm〜1mmである。
【実施例】
【0077】
以下、合成例、配合例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0078】
(A)成分
下記、本発明の化合物群(F−1〜F−3)
【化30】
【0079】
【化31】
[Rf’:−CF
2(OCF
2CF
2)
y(OCF
2)
zOCF
2−
(y/z=0.9、y+z≒45)]
【0080】
【化32】
[Rf’:−CF
2(OCF
2CF
2)
y(OCF
2)
zOCF
2−
(y/z=0.9、y+z≒45)]
及び、
本発明(A)成分に相当しない化合物
HOCH
2Rf’CH
2OH (F−4)
[Rf’:−CF
2(OCF
2CF
2)
y(OCF
2)
zOCF
2−
(y/z=0.9、y+z≒45)]
【0081】
(B)成分
[合成例1]
攪拌装置、リービッヒ冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのフラスコに、平均組成式がCH
3(OCH
3)
2SiOSi(OCH
3)
2CH
3で表される化合物96.1質量部、(CH
3)
2Si(OCH
3)
2で表される化合物18.0質量部及びトルエン76.9質量部を仕込み、メタンスルホン酸3.4gを攪拌しながら投入した後、更に水27.0質量部を1時間掛けて滴下し、30℃で12時間熟成させた。
得られた液を炭酸水素ナトリウムで中和し、副生したアルコールを留去し、水洗し、脱水・濾過した後、105℃×3時間に放置後測定した不揮発分が40質量%となるようにトルエンを用いて希釈し、キャノン・フェンスケにより測定した25℃における粘度が8mm
2/sで、グリニヤール法により測定した水酸基の量が2.2質量%のシラノール基を含有するシリコーン樹脂を得た。
【0082】
[配合例1]
(CH
3)(CH
3O)
2SiOSi(CH
3)(OCH
3)
250質量部、(CH
3)
2Si(OCH
3)
240質量部、(C
4H
9O)Al(−OC(CH
3)=CHCOOC
2H
5)
210質量部を混合し、アルコキシ基を含有するシリコーン混合物を得た。
【0083】
[実施例1]
(A)成分として(F−1)を1質量部、(B)成分として合成例1で得たシリコーン樹脂を250質量部(有効成分100質量部)、硬化触媒として(C
4H
9O)Al(−OC(CH
3)=CHCOOC
2H
5)
2を1質量部、及び溶剤としてメチルイソブチルケトンを150質量部混合し、組成物を調製した。
得られた組成物をガラス板上でギャップ24μmのワイヤーバーで塗工し、150℃で1時間加熱した。加熱終了後、室温に戻し、硬化した塗工表面の特性を下記に示す方法により測定した。結果を表1に示す。
【0084】
〔外観〕
目視により塗膜の透明性、欠損の有無を確認した。
〔水接触角〕
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて測定した。
〔オレイン酸接触角〕
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて測定した。
〔動摩擦係数〕
動摩擦係数は、神東科学社製HEIDON TRIBOGEAR TYPE HSS2000にて測定した。
〔マジックはじき性〕
マジックはじき性は、寺西化学社製 マジックインキ No.500 黒を用いて、硬化皮膜表面に線を引いたときのはじき具合を目視により確認した。
〔指紋拭き取り性〕
指紋を付着させた後、ティシュペーパーで拭き取った後の外観を目視で判定した。
【0085】
[実施例2,3、比較例1,2]
(A)成分を表1に示すように変更し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に併記する。
比較例1(化合物(F−4))については配合物が相溶せず、平滑な表面が得られなかった。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例4]
(A)成分として(F−1)を1質量部、(B)成分として配合例1で得たシリコーン混合物を100質量部混合し、組成物を得た。
得られた組成物をガラス板上でギャップ24μmのワイヤーバーで塗工し、25℃、24時間放置した。硬化した塗工表面の特性を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0088】
[実施例5,6、比較例3,4]
(A)成分を表2に示すように変更し、実施例4と同様に評価を行った。結果を表2に併記する。
比較例3(化合物(F−4))については配合物が相溶せず、平滑な表面が得られなかった。
【0089】
【表2】