(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水系バインダが、ヨウ素価が0mg/100mg以上30mg/100mg以下のニトリル基含有重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用正極。
前記ニトリル基含有重合体が、前記ニトリル基含有重合体を構成する単量体を、乳化剤としてノニオン性界面活性剤を用いて乳化重合することにより得られたものであることを特徴とする請求項4に記載の二次電池用正極。
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体上に、請求項9に記載の二次電池用正極スラリー組成物を塗布する工程と、前記二次電池用正極スラリー組成物を乾燥する工程と、を含む二次電池用正極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の二次電池用正極は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体と、正極活物質層とを備え、該正極活物質層が、正極活物質、水系バインダ、有機ホスホン酸化合物及び多価金属化合物を含有してなるものである。
【0017】
まず、本発明の二次電池用正極の正極活物質層を構成する各成分について、説明する。
なお、本発明の二次電池用正極の正極活物質層は、通常、後述する各成分を含有し、水を分散媒とする二次電池用正極スラリー組成物を得て、得られた二次電池用正極スラリー組成物を、集電体上に塗布し、乾燥することにより形成される。
【0018】
(正極活物質)
本発明で用いられる正極活物質としては、特に限定されず種々の活物質が使用できるが、たとえば、本発明の二次電池用正極をリチウム系二次電池用の正極とする場合には、遷移金属を含有する化合物、具体的には、遷移金属を含有する酸化物、又はリチウムと遷移金属との複合酸化物を用いることができる。このような遷移金属の例としては、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄などを挙げることができるが、本発明においては、ニッケルを含有する化合物、特に、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好適に用いられる。特に、リチウムとニッケルを含有する複合酸化物は、従来よりリチウム系二次電池の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO
2)と比較して、高容量であるため、好適である。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
LiNi
1−x−yCo
xM
yO
2
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
【0019】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中における正極活物質の含有量は、好ましくは80〜99.5重量%であり、より好ましくは90〜99重量%である。正極活物質の含有量が少なすぎると、二次電池とした場合における電池容量が低下してしまう。一方、正極活物質の含有量が多すぎると、正極活物質層中におけるバインダの比率が小さくなってしまうため、正極活物質同士の結着性が低下し、サイクル特性が悪化するおそれがある。
【0020】
正極活物質は、平均粒子径が0.01〜30μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜20μmである。正極活物質の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質の導電性が低下し、二次電池とした場合における内部抵抗が大きくなる場合がある。一方、正極活物質の平均粒子径が大きすぎると、正極活物質層を形成するために、スラリー化した際に、スラリー中での分散性が低下してしまい、良好なスラリーを製造することが困難となる。
【0021】
(水系バインダ)
本発明に用いる水系バインダは、水を媒体とする水系スラリーで用いることができるバインダであり、水に溶解あるいは分散可能な高分子であればよく特に限定されないが、本発明では、ヨウ素価が0mg/100mg以上30mg/100mg以下のニトリル基含有重合体が好ましく用いられる。
【0022】
本発明で用いるニトリル基含有重合体としては、ヨウ素価が、0mg/100mg以上30mg/100mg以下、好ましくは0mg/100mg以上20mg/100mg以下、特に、0mg/100mg以上10mg/100mg以下のものが好ましい。ヨウ素価が高すぎると、二次電池用正極とした場合における電気特性が悪化するおそれがある。ヨウ素価はJIS K6235(2006)に従って求められる。
【0023】
このようなニトリル基含有重合体としては、たとえば、水系アクリル重合体または高飽和ニトリル重合体などが挙げられる。
【0024】
水系アクリル重合体としては、水に分散可能であり、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位を有し、かつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位が50重量%以上有する重合体であればよく、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位と、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位と、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位とを含むものが好ましい。水系アクリル系重合体として、上記重合単位を含むものを用いることにより、バインダの強度や結着力をより向上させることができる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、二次電池とした場合に、電解液に溶出せずに電解液に適度に膨潤することによりイオン伝導性を示すことから、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が6〜13のものが好ましく、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が8〜10のものが好ましく、2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0026】
水系アクリル重合体中における、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合は、好ましくは50〜95重量%、より好ましくは60〜90重量%である。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての柔軟性が低下してしまい、得られる二次電池用正極が硬くなってしまい、クラックが発生しやすくなる場合がある。一方、含有割合が高すぎると、バインダとしての機械強度が低下し、密着性が低下する場合がある。
【0027】
α,β−不飽和ニトリルモノマーとしては、機械的強度及び結着力の向上という観点から、アクリロニトリルやメタクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0028】
水系アクリル重合体中における、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての機械強度が低下し、密着性が低下する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、バインダとしての柔軟性が低下してしまい、得られる二次電池用正極が硬くなってしまい、クラックが発生しやすくなる場合がある。
【0029】
酸成分を有するビニルモノマーとしては、酸成分として、−COOH基(カルボン酸基)を有する単量体、−OH基(水酸基)を有する単量体、−SO
3H基(スルホン酸基)を有する単量体、−PO
3H
2基及び/又は−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体、及び低級ポリオキシアルキレン基を有する単量体が挙げられる。
【0030】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体、ならびに、ジカルボン酸、その酸無水物及びこれらの誘導体などが挙げられる。モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸などマレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
【0031】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH
2=CR
1−COO−(C
nH
2nO)
m−H(mは2ないし9の整数、nは2ないし4の整数、R
1は水素又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0032】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0033】
−PO
3H
2基及び/又は−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0034】
低級ポリオキシアルキレン基を有する単量体としては、ポリ(エチレンオキシド)等のポリ(アルキレンオキシド)などが挙げられる。
【0035】
これらの中でも、集電体への密着性に優れるという点より、カルボン酸基を有する単量体が好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸などの炭素数5以下のカルボン酸基を有するモノカルボン酸や、マレイン酸、イタコン酸などの炭素数5以下のカルボン酸基を2つ有するジカルボン酸が好ましい。さらには、水系アクリル重合体の保存安定性を高いものとすることができるという観点から、アクリル酸やメタクリル酸が好ましい。
【0036】
水系アクリル重合体中における、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合は、好ましくは1.0〜5.0重量%、より好ましくは1.5〜4.0重量%である。酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての結着性が不足し、サイクル特性が悪化する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、製造安定性及び保存安定性が低下する場合がある。
【0037】
本発明で用いる水系アクリル重合体は、上記した各重合単位に加えて、架橋性を有する単量体の重合単位を含んでいてもよい。架橋性を有する単量体としては、エポキシ基を含有する単量体、炭素−炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体、ハロゲン原子及びエポキシ基を有する単量体、N−メチロールアミド基を含有する単量体、オキセタニル基を含有する単量体、オキサゾリン基を含有する単量体、2以上のオレフィン性二重結合を持つ多官能性単量体などが挙げられる。架橋性を有する単量体の重合単位を含有させる場合における、含有割合は、好ましくは0.01〜0.5重量%、より好ましくは0.05〜0.3重量%である。含有割合を上記範囲とすることにより、電解液に対して、適度な膨潤性を示すことができ、レート特性及びサイクル特性をより向上させることができる。
【0038】
また、本発明で用いる水系アクリル重合体は、上記以外に他の重合単位を含んでいてもよい。他の重合単位としては、他のビニルモノマーに由来する重合単位が挙げられ、このような他のビニルモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、などの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;が挙げられる。
【0039】
本発明に用いる水系アクリル重合体は、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。水中に粒子状で分散している場合における、水系アクリル重合体の平均粒径(分散粒子径)は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜400nm、さらに好ましくは90〜250nmである。水系アクリル重合体の平均粒径がこの範囲であると、得られる二次電池用正極の強度及び柔軟性が良好となる。
【0040】
水中に粒子状で分散している場合における、水系アクリル重合体の固形分濃度は、通常15〜70重量%、好ましくは20〜65重量%、より好ましくは30〜60重量%である。固形分濃度がこの範囲であると、二次電池用正極スラリー組成物を調製する際における作業性が良好である。
【0041】
水系アクリル重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50〜25℃、より好ましくは−45〜15℃、特に好ましくは−40〜5℃である。水系アクリル重合体のガラス転移温度が上記範囲にあることにより、得られる二次電池用正極を、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性を有するものとすることができる。なお、水系アクリル重合体のガラス転移温度は、各重合単位を構成するための単量体の組み合わせを変化させることにより、調整可能である。
【0042】
本発明に用いる水系アクリル重合体の製造方法は特に限定はされず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができるが、これらのなかでも、乳化剤を用いた乳化重合法が好ましい。
【0043】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びカチオン性界面活性剤のいずれも用いることができるが、二次電池用正極スラリー組成物とした際における保存安定性を向上させることができるという点より、ノニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。このようなノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。乳化剤の添加量は任意に設定でき、重合に用いる単量体の総量100重量部に対して通常0.01〜10重量部程度である。
【0044】
また、重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、又は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0045】
また、高飽和ニトリル重合体としては、水に分散可能であり、かつ、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位と、共役ジエンモノマーの重合単位とを含有する重合体を水素化したものであればよく、特に限定されない。
【0046】
α,β−不飽和ニトリルモノマーとしてはアクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0047】
高飽和ニトリル重合体中における、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合は、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての機械強度が低下し、密着性が低下する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、バインダとしての柔軟性が低下してしまい、得られる二次電池用正極が硬くなってしまい、クラックが発生しやすくなる場合がある。
【0048】
共役ジエンモノマーとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどが挙げられ、これらのなかでも、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0049】
高飽和ニトリル重合体中における、共役ジエンモノマーの重合単位の含有割合(水素化された重合単位も含む含有割合)は、好ましくは60〜97重量%、より好ましくは70〜95重量%である。共役ジエンモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての柔軟性が低下してしまい、得られる二次電池用正極が硬くなってしまい、クラックが発生しやすくなる場合がある。一方、含有割合が高すぎると、バインダとしての機械強度が低下し、密着性が低下する場合がある。
【0050】
また、本発明で用いる高飽和ニトリル重合体は、α,β−不飽和ニトリルモノマーの重合単位及び共役ジエンモノマーの重合単位以外に、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位を含有していることが好ましい。酸成分を有するビニルモノマーとしては、上述した水系アクリル重合体と同様のものを用いることができる。高飽和ニトリル重合体が、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位を含有していることにより、バインダの強度や結着力をより向上させることができる。
【0051】
高飽和ニトリル重合体中における、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合は、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜7重量%である。酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が低すぎると、バインダとしての結着性が不足し、サイクル特性が悪化する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、製造安定性及び保存安定性が低下する場合がある。
【0052】
また、本発明で用いる高飽和ニトリル重合体は、上記以外に他の重合単位を含有していてもよい。他の重合単位としては、エチレン、α−オレフィンモノマー、芳香族ビニルモノマー、α,β−不飽和カルボン酸エステルモノマー、α,β−不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマー、フッ素含有ビニルモノマーなどが挙げられる。
【0053】
本発明に用いる高飽和ニトリル重合体は、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。水中に粒子状で分散している場合における、重合体の平均粒径(分散粒子径)は、好ましくは50〜200nm、より好ましくは60〜185nm、さらに好ましくは70〜160nmである。高飽和ニトリル重合体の平均粒径がこの範囲であると、得られる二次電池用正極の強度及び柔軟性が良好となる。
【0054】
水中に粒子状で分散している場合における、高飽和ニトリル重合体の固形分濃度は、通常10〜60重量%、好ましくは20〜55重量%、より好ましくは30〜50重量%である。固形分濃度がこの範囲であると、二次電池用正極スラリー組成物を調製する際における作業性が良好である。
【0055】
高飽和ニトリル重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50〜25℃、より好ましくは−40〜10℃、特に好ましくは−35〜0℃である。高飽和ニトリル重合体のガラス転移温度が上記範囲にあることにより、得られる二次電池用正極を、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性を有するものとすることができる。なお、高飽和ニトリル重合体のガラス転移温度は、各重合単位を構成するための単量体の組み合わせを変化させることにより、調整可能である。
【0056】
本発明に用いる高飽和ニトリル重合体の製造方法は特に限定はされず、各単量体を重合し、得られた重合体を水素化(水素添加反応)することにより製造することができる。各単量体を重合する方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができるが、これらのなかでも、乳化剤を用いた乳化重合法が好ましい。また、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0057】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びカチオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。乳化剤の添加量は任意に設定でき、重合に用いる単量体の総量100重量部に対して通常0.01〜10重量部程度である。また、重合に用いる重合開始剤としては、上述した水系アクリル重合体と同様のものが挙げられる。
【0058】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中における水系バインダの含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは0.8〜3重量部である。水系バインダの含有量が少なすぎると、正極活物質同士の結着性が低下し、サイクル特性が悪化するおそれがあり、一方、多すぎると、得られる二次電池用正極を、リチウム系二次電池に適用した場合に、リチウムイオンの移動を阻害してしまい、電池抵抗を増大させてしまう場合がある。
【0059】
(有機ホスホン酸化合物)
本発明に用いる正極活物質層は、上述した正極活物質、及び水系バインダに加えて、有機ホスホン酸化合物を含有する。本発明においては、正極活物質層に、有機ホスホン酸化合物を、後述する多価金属化合物とともに含有させることにより、集電体上に正極活物質層を形成した際における、集電体の腐食の発生を防止することができ、これにより、得られる二次電池用正極を、初期容量が高く、レート特性及び高温サイクル特性に優れたものとすることができる。
【0060】
有機ホスホン酸化合物としては、その分子量とホスホン酸基との比を「分子量/ホスホン酸基」で表した場合に、分子量/ホスホン酸基=110未満のものが好ましく、分子量/ホスホン酸基=100未満のものがより好ましい。このような有機ホスホン酸化合物の具体例としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロピリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、メチルジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンビスメチレンホスホン酸、アミノトリスメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、シクロヘキサンジアミンテトラメチレンホスホン酸、カルボキシエチルホスホン酸、ホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2,3−ジカルボキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、ホスホノブチル酸、ホスホノプロピオン酸、スルホニルメチルホスホン酸、及びこれらの塩が挙げられる。これらのなかでも、二次電池用正極スラリー組成物とした場合における水への溶解性を良好なものとすることができるという観点より、カルボキシル基又はスルホン酸基を有するものが好ましく、カルボキシル基を有するものがより好ましい。
【0061】
また、本発明で用いる有機ホスホン酸化合物としては、高分子化合物に有機ホスホン酸基を導入してなる、有機ホスホン酸基含有高分子化合物であってもよい。特に、本発明においては、有機ホスホン酸化合物として、有機ホスホン酸基含有高分子化合物を用いることにより、二次電池用正極スラリー組成物及びバインダ組成物とした際における、保存安定性を向上させることができる。
【0062】
有機ホスホン酸基含有高分子化合物としては、ホスホン酸基含有単量体の単独重合体、あるいは、ホスホン酸基含有単量体及びホスホン酸基含有単量体と共重合可能な単量体との共重合体のいずれでもよいが、共重合体が好ましい。有機ホスホン酸基含有高分子化合物が、ホスホン酸基含有単量体及びホスホン酸基含有単量体と共重合可能な単量体との共重合体であることにより、二次電池用正極スラリー組成物とした際における、保存安定性をより向上させることができる。
【0063】
ホスホン酸基含有単量体単位を構成するホスホン酸基を有する単量体としては、たとえば、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェート、3−ブテニルホスホン酸、モノ−3−ブテニルホスフェート、4−ビニルオキシブチルホスフェート、ホスホンオキシエチルアクリレート、ホスホンオキシエチルメタクリレート、モノ(2−ヒドロキシ−3−ビニルオキシプロピル)ホスフェート、(1−ホスホンオキシメチル−2−ビニルオキシエチル)ホスフェート、モノ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ホスフェート、モノ−2−(アリルオキシ−1−ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェート、2−ヒドロキシ−4−ビニルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホール、2−ヒドロキシ−4−アリルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールなどが挙げられる。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。これらのなかでも、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、又はアリルホスホン酸が好ましく、ビニルホスホン酸が特に好ましい。
【0064】
本発明に用いる有機ホスホン酸基含有高分子化合物における、ホスホン酸基含有単量体単位の含有割合は、下限は好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上であり、上限は好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。ホスホン酸基含有単量体単位の含有割合が低すぎると、その添加効果が小さくなる場合があり、一方、多すぎると、バインダ組成物及び二次電池用正極スラリー組成物とした場合における、保存安定性が悪化するおそれがある。
【0065】
また、ホスホン酸基含有単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、又は(メタ)アクリル酸エステル単量体〔「アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸単量体」の意。〕などが挙げられる。これらのなかでも、カルボキシル基含有単量体又はスルホン酸基含有単量体が好ましく、特に、カルボキシル基含有単量体が好ましい。共重合可能な単量体として、カルボキシル基含有単量体又はスルホン酸基含有単量体を用いることにより、有機ホスホン酸基を有する高分子化合物を、有機ホスホン酸基に加えて、カルボキシル基又はスルホン酸基を有するものとすることができ、これにより、本発明の作用効果をより一層顕著なものとすることができる。
【0066】
カルボキシル基含有単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにこれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。モノカルボン酸の誘導体の具体例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。ジカルボン酸の誘導体の具体例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステル;などが挙げられる。
これらの中でも、有機ホスホン酸基含有高分子化合物の水に対する分散性をより高めることができるという点より、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0067】
スルホン酸基含有単量体としては、イソプレン及びブタジエン等のジエン化合物の共役二重結合の1つをスルホン化した単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート等の、スルホン酸基含有単量体またはその塩;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等の、アミド基とスルホン酸基とを含有する単量体またはその塩;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)等の、ヒドロキシル基とスルホン酸基を含有する単量体またはその塩;などが挙げられる。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0068】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、たとえば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。なお、これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0069】
有機ホスホン酸基含有高分子化合物における、これら共重合可能な単量体の単位の含有割合は、下限は好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である、上限は好ましくは97重量%以下、より好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。
【0070】
有機ホスホン酸基含有高分子化合物の製造方法としては、たとえば、上述したホスホン酸基を有する単量体、及びこれと共重合可能な単量体を含む単量体混合物を、重合する方法が挙げられる。重合方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述した水系アクリル重合体と同様の方法が挙げられる。また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物を、水系溶媒を用いた懸濁重合法や乳化重合法により製造した場合には、得られる有機ホスホン酸基含有高分子化合物は、通常、水系溶媒に溶解した水溶液の状態で得ることができる。そして、この場合には、水溶液の状態で得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物を、水溶液の状態のまま用いて、バインダ組成物及び二次電池用正極スラリー組成物を製造することができる。
【0071】
有機ホスホン酸基含有高分子化合物の数平均分子量(Mn)は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜200,000、さらに好ましくは20,000〜100,000である。分子量が低すぎると、二次電池用正極スラリー組成物及びバインダ組成物とした際における、保存安定性の向上効果が得難くなる場合があり、一方、分子量が高すぎると、二次電池用正極スラリー組成物とした場合に、有機ホスホン酸基を有する高分子化合物が析出してしまう場合がある。なお、有機ホスホン酸基含有高分子化合物の数平均分子量は、たとえば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、アセトニトリルの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリエチレンオキサイド換算の値として求めることができる。
【0072】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中における有機ホスホン酸化合物の含有量は、正極活物質100重量部に対して、下限は好ましくは0.01重量部以上、0.03重量部以上、0.05重量部以上であり、上限は好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下、特に好ましくは0.5重量部以下である。有機ホスホン酸化合物の含有量が少なすぎると、その添加効果が得られない場合があり、一方、多すぎると、正極活物質層中における、正極活物質の比率が小さくなってしまうため、容量が低くなる傾向にある。
【0073】
(多価金属化合物)
また、本発明に用いる正極活物質層は、上述した正極活物質、水系バインダ、及び有機ホスホン酸化合物に加えて、多価金属化合物を含有する。本発明においては、上述したように、正極活物質層に、上述した有機ホスホン酸化合物とともに、多価金属化合物を含有させることにより、集電体上に正極活物質層を形成した際における、集電体の腐食の発生を防止することができる。
【0074】
多価金属化合物の具体例としては、多価無機金属化合物および多価有機金属化合物が挙げられるが、水溶性に優れ、これにより、二次電池用正極スラリー組成物及びバインダ組成物とした際における、保存安定性を優れたものとすることができるという点より、多価有機金属化合物が好ましい。
【0075】
特に、上述した有機ホスホン酸化合物と、多価有機金属化合物とを組み合わせて用いることにより、これらの配合量を比較的多くした場合でも、優れた水溶性により、二次電池用正極スラリー組成物及びバインダ組成物中において、有機ホスホン酸化合物及び多価有機金属化合物が析出してしまうことを有効に防止することができる。そのため、多価有機金属化合物を用いることにより、二次電池用正極スラリー組成物及びバインダ組成物の保存安定性を良好なものとしながら、これら有機ホスホン酸化合物、及び多価有機金属化合物の添加効果をより高めるために、これらの配合量を比較的多くすることが可能となる。
【0076】
多価有機金属化合物の具体例としては、多価金属のギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、シュウ酸塩などが挙げられ、これらのなかでも、多価金属の酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩が好ましく、水溶性に優れる点で酢酸塩が特に好ましい。
【0077】
多価無機金属化合物の具体例としては、多価金属の水酸化物、塩化物、硫化物、炭酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられ、これらのなかでも、多価金属の水酸化物、及び炭酸塩が好ましく、水酸化物が特に好ましい。
【0078】
また、多価金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、クロム、鉄、銅、マンガン、ニッケル、バナジウム、亜鉛、スズなどが挙げられ、これらのなかでも、二価の金属が好ましく、マグネシウム、カルシウム及びバリウムがより好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0079】
本発明の二次電池用正極の正極活物質層中おける、多価金属化合物の含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.03〜3重量部、さらに好ましくは0.05〜1重量部である。多価金属化合物の含有量が少なすぎると、その添加効果が得られない場合があり、一方、多すぎると、正極活物質層中における、正極活物質の比率が小さくなってしまうため、容量が低くなる場合がある。
【0080】
また、本発明の二次電池用正極の正極活物質層中おける、有機ホスホン酸化合物と、多価金属化合物との含有比率は、「有機ホスホン酸化合物:多価金属化合物」の重量比で、好ましくは1:0.1〜1:5であり、より好ましくは1:0.5〜1:3、さらに好ましくは1:0.8〜1:2である。有機ホスホン酸化合物の含有比率が高すぎても、また、低すぎても、集電体の腐食防止効果が不十分となるおそれがある。
【0081】
本発明に用いる正極活物質層には、上記成分のほかに、さらに導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤、その他結着剤等の、他の成分が含まれていてもよく、後述の二次電池用正極スラリー組成物中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0082】
導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の導電性カーボンや、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、二次電池とした場合における、放電負荷特性を改善することができる。導電性付与材を含有させることにより、二次電池用正極のレート特性を向上させることができる。正極活物質層中おける、導電性付与材の含有量は、正極活物質100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0083】
補強材としては、各種の無機及び有機の球状、板状、又は棒状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより、得られる二次電池用正極を強靭で柔軟なものとすることができ、これによりサイクル特性のさらなる向上が可能となる。正極活物質層中おける、補強材の含有量は、正極活物質100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0084】
分散剤としては、たとえば、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は用いる正極活物質や導電性付与材に応じて選択すればよい。分散剤を含有させることにより、二次電池用正極スラリー組成物とした場合における、スラリー組成物の安定性を向上させることができ、これにより、得られる二次電池用正極の平滑性を向上させることができ、これにより高容量化が可能となる。正極活物質層中における分散剤の含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0085】
レベリング剤としては、たとえば、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を配合することにより、二次電池用正極スラリー組成物とし、これを集電体上に塗工した際に、はじきが発生してしまうことを防止することができるとともに、得られる二次電池用正極の平滑性を向上させることができる。正極活物質層中におけるレベリング剤の含有割合は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0086】
酸化防止剤としては、たとえば、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、その重量平均分子量は、好ましくは200〜1000、より好ましくは600〜700である。酸化防止剤を含有させることにより、二次電池用正極スラリー組成物とした場合における、スラリー組成物の安定性を向上させることができるとともに、二次電池とした場合における電池容量及びサイクル特性を向上させるこができる。正極活物質層中における酸化防止剤の含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.05〜5重量部である。
【0087】
増粘剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびに、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩;変性又は未変性のポリ(メタ)アクリル酸、ならびに、これらのアンモニウム塩及びアルカリ金属塩;変性又は未変性のポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールとの共重合体、無水マレイン酸、マレイン酸又はフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。増粘剤を、含有させることにより、二次電池用正極スラリー組成物とした際における、スラリー粘度を良好なものとすることができ、これにより、集電体への塗工性を良好なものとすることができる。正極活物質層中における増粘剤の含有量は、正極活物資部100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0088】
電解液添加剤としては、たとえば、ビニレンカーボネートを用いることができる。電解液添加剤を含有させることにより、二次電池とした場合における、サイクル特性及び高温特性を向上させることができる。正極活物質層中における電解液添加剤の含有割合は、正極活物物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0089】
また、上記以外にも、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子;アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤;などを含有させることができる。
【0090】
(集電体)
本発明に用いられる集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有し、電気化学的に安定であるとの観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金としては、たとえば、鉄、マグネシウム、亜鉛、マンガン及びケイ素よりなる群から選択される1種類以上の元素と、アルミニウムとの合金が挙げられる。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理されていてもよい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
【0091】
(二次電池用正極)
本発明の二次電池用正極を製造する方法としては、上記集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に正極活物質層を層状に結着させる方法であればよく、特に限定されないが、本発明では、二次電池用正極スラリー組成物を調製し、これを集電体に塗布、乾燥することにより、二次電池用正極を製造することができる。二次電池用正極スラリー組成物を集電体へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0092】
本発明の二次電池用正極は、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理され、これにより、空隙率が低減されたものであることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5〜15%、より好ましくは7〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量を得ることが困難であり、正極活物質層が剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。
【0093】
本発明の二次電池用正極の厚みは、通常5〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0094】
(二次電池用正極スラリー組成物)
本発明の二次電池用正極スラリー組成物は、上述した二次電池用正極を製造するために用いられるスラリー組成物であり、正極活物質と、水系バインダと、有機ホスホン酸化合物と、多価金属化合物と、分散媒としての水とを含む。正極活物質、水系バインダ、有機ホスホン酸化合物、及び多価金属化合物としては、上述したものを用いることができる。また、正極活物質層に、上述した導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤、その他結着剤等の、他の成分を含有させる場合には、これらの成分を含有させておくことが好ましい。
【0095】
本発明の二次電池正極用スラリー組成物の固形分濃度は、塗布、浸漬が可能な程度でかつ、流動性を有する粘度になる限り特に限定はされないが、一般的には10〜80重量%程度である。
【0096】
本発明の二次電池用正極スラリー組成物の製造方法は、特に限定されないが、まず、二次電池用正極スラリー組成物を構成することなる各成分のうち、水系バインダと、有機ホスホン酸化合物と、多価金属化合物と、水とを混合することによりバインダ組成物を得る。そして、得られたバインダ組成物に、正極活物質及び必要に応じて添加されるその他の成分を添加して、混合することにより、二次電池用正極スラリー組成物を得ることができる。なお、水系バインダが、水系アクリル重合体または高飽和ニトリル重合体である場合には、上述したように、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。そのため、バインダ組成物及び二次電池用正極スラリー組成物中においては、水系アクリル重合体または高飽和ニトリル重合体は、分散媒である水中に分散された状態で含有されることとなる。混合装置としては、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定されず、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどを使用することができるが、中でも高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーを好ましく用いることができる。
【0097】
二次電池用正極スラリー組成物の粘度は、均一塗工性、スラリー経時安定性の観点から、好ましくは10〜100000mPa・s、より好ましくは100〜50000mPa・sである。上記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0098】
また、本発明の二次電池用正極スラリー組成物のpHは、好ましくは7〜13であり、より好ましくは8〜13.2、さらに好ましくは10〜12.5である。pHが上記範囲にあるときに、スラリー組成物の分散安定性が向上し、本発明の効果が顕著に奏されるという利点がある。一方、pHが7未満の場合は、スラリー組成物中における活物質の分散が不安定となり、スラリー中に凝集物が発生するという問題が生じる。
【0099】
本発明の二次電池用正極スラリー組成物は、正極活物質、水系バインダ、及び分散媒としての水に加えて、有機ホスホン酸化合物と、多価金属化合物とを含むものである。本発明の二次電池用正極スラリー組成物は、有機ホスホン酸化合物及び多価金属化合物を含有することにより、該スラリー組成物を、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体上に塗布した際における、集電体の腐食(たとえば、アルミニウムの溶解等に起因する腐食)を防止することができる。たとえば、従来においては、正極活物質として、ニッケルを含有する化合物を用い、これにより、高容量化を図った場合において、ニッケルを含有する化合物を含むスラリー組成物を、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体上に塗布した場合に、ニッケルを含有する化合物の影響により、スラリー組成物のpHが高くなってしまい、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる集電体の腐食が顕著になり、そしてその結果として、得られる二次電池の初期容量、レート特性及び高温サイクル特性が劣化してしまうという問題があった。これに対し、本発明では、二次電池用正極スラリー組成物中に、有機ホスホン酸化合物及び多価金属化合物を含有させることにより、上記問題を有効に解決できるものである。
【0100】
(二次電池)
本発明の二次電池は、上述した本発明の二次電池用正極、負極、セパレータ及び電解液を備えてなる。
【0101】
二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等挙げられるが、長期サイクル特性の向上・出力特性の向上等性能向上が求められていることから、リチウムイオン二次電池が好ましい。以下、本発明の二次電池を、リチウムイオン二次電池とする場合を例示して説明する。
【0102】
本発明の二次電池の電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。これらのなかでも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くすることができる。
【0103】
また、有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであればよく、特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。また、これらの有機溶媒は、混合して用いてもよい。これらの中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いという観点より、カーボネート類が好ましい。
【0104】
また、電解液には添加剤を含有させてもよく、添加剤としては、たとえば、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が挙げられる。
【0105】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。
【0106】
上記した電解液に代えて、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質や、該ポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、Li
3Nなどの無機固体電解質を用いてもよい。
【0107】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜又は不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜又は不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜又はポリオレフィン系の繊維を織ったもの、又はその不織布、絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の活物質比率を高くし、体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0108】
セパレータの厚さは、通常0.5〜40μm、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは1〜10μmである。この範囲であると電池内でのセパレータによる抵抗が小さくなり、また電池作成時の作業性に優れる。
【0109】
負極としては、負極活物質、及びバインダを含む負極活物質層が、集電体上に積層されてなるものを用いることができる。
【0110】
負極活物質としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物や硫酸塩;金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン;などを用いることができる。また、本発明においては、負極活物質として、機械的改質法により表面に導電性付与材を付着させたものも使用できる。負極活物質の粒径は、二次電池を構成する他の要素との兼ね合いで適宜選択すればよいが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、好ましくは1〜50μm、より好ましくは15〜30μmである。
【0111】
また、負極活物質層中の負極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9重量%、より好ましくは95〜99重量%である。負極活物質層中の負極活物質の含有量を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0112】
負極活物質層中には、上記成分のほかに、さらに前述の二次電池用正極中に使用される分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0113】
負極活物質層に用いられるバインダとしては、特に制限されず公知のものを用いることができる。バインダとしては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0114】
集電体としては、たとえば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料を用いることができるが、高い電気導電性を有し、かつ電気化学的に安定であるという観点より、銅が特に好ましい。
【0115】
負極の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0116】
負極は、上述した二次電池用正極と同様に製造することができる。
【0117】
本発明の二次電池は、上述した本発明の二次電池用正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造される。電池内部の圧力上昇、過充放電の発生を防止をするために、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0118】
このようにして得られる本発明の二次電池は、上述した本発明の二次電池用正極を用いて得られるものであるため、初期容量が高く、レート特性及び高温サイクル特性に優れるものである。
【実施例】
【0119】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0120】
<バインダ組成物の保存安定性>
各実施例及び比較例で得られたバインダ組成物を用いて、保存安定性の評価を行った。具体的には、得られたバインダ組成物を静置し、静置したバインダ組成物を所定の間隔で観察し、バインダ組成物から沈殿物が生成するまでの日数を測定することにより、保存安定性を評価した。なお、保存安定性についての評価は、以下の基準にしたがって行なった。
A:1年以上にわたり沈殿物の生成が確認されない。
B:1ヶ月以上、1年未満の間に沈殿物の生成が確認された。
C:2週間以上、1ヶ月未満の間に沈殿物の生成が確認された。
D:2週間未満の期間に、沈殿物の生成が確認された。
【0121】
<集電体の腐食性>
各実施例及び比較例で得られた二次電池用正極スラリー組成物を、厚み20μmのアルミニウム箔集電体上に乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗布し、50℃にて20分乾燥を行うことで、正極サンプルを得た。そして、得られた正極サンプルの10cm×10cmの範囲について、目視にて観察を行い、0.5mm以上の塗工不良が発生している箇所の数を確認することにより、集電体の腐食性についての評価を行った。なお、集電体の腐食性についての評価は、以下の基準にしたがって行なった。塗工不良の発生箇所が多いほど、集電体の腐食が進行しており、そのため、好ましくないと判断することができる。
A:塗工不良の発生箇所がなく、全体がなめらか
B:塗工不良の発生箇所が1箇所以上、5箇所未満
C:塗工不良の発生箇所が5箇所以上、10箇所未満
D:塗工不良の発生箇所が10箇所以上
【0122】
<初期容量>
各実施例及び比較例で得られた二次電池について、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行ない、次いで、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.1C放電時の電池容量を求めた。そして、得られた電池容量から、正極活物質層の単位重量当たりの容量を算出し、これを初期容量とした。初期容量の評価は、以下の基準にしたがって行なった。初期容量が高いほど、二次電池の電池容量が高くなるため、好ましい。
A:170mAh/g以上
B:150mAh/g以上、170mAh/g未満
C:130mAh/g以上、150mAh/g未満
D:100mAh/g以上、130mAh/g未満
E:100mAh/g未満
【0123】
<レート特性>
各実施例及び比較例で得られた二次電池について、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.1C放電時の電池容量を求めた。次いで、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート2Cにて、3.0Vまで放電することにより、2C放電時の電池容量を求めた。そして、同様の測定を10個のセルについて行い、10個のセルについて、0.1C放電時及び2C放電時の電池容量の平均値を求め、0.1C放電時の平均電池容量Cap
0.1Cと、2C放電時の平均電池容量Cap
2Cとの比((Cap
2C/Cap
0.1C)×100%)である2C放電時容量維持率を求めた。そして、得られた2C放電時容量維持率に基づき、以下の基準にて、レート特性を評価した。なお、2C放電時容量維持率が高いほど、ハイレート(2C)放電時の放電容量が高く、レート特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:2C放電時容量維持率が95%以上
B:2C放電時容量維持率が85%以上、95%未満
C:2C放電時容量維持率が75%以上、85%未満
D:2C放電時容量維持率が60%以上、75%未満
E:2C放電時容量維持率が60%未満
【0124】
<高温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られた二次電池について、温度60℃の条件にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を100回繰り返した。そして、1回目の充放電試験における放電容量Cap
1stと、100回目の充放電試験における放電容量Cap
100thとの比((Cap
100th/Cap
1st)×100%)である100サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた100サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、高温サイクル特性を評価した。なお、100サイクル時容量維持率が高いほど、高温でのサイクル試験を行った際の100サイクル目における劣化が少なく、高温サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:100サイクル時容量維持率が95%以上
B:100サイクル時容量維持率が85%以上、95%未満
C:100サイクル時容量維持率が75%以上、85%未満
D:100サイクル時容量維持率が60%以上、75%未満
E:100サイクル時容量維持率が60%未満
【0125】
まず、有機ホスホン酸化合物として、低分子量の有機ホスホン酸化合物(すなわち、有機ホスホン酸基含有高分子化合物に該当しない有機ホスホン酸化合物)を用いた実施例及び比較例、ならびにこれらに関連する製造例について説明する。
【0126】
(製造例1−1)水系アクリル重合体(A1)の製造
重合缶Aに、イオン交換水130部を入れ、ここに、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.8部、及びイオン交換水10部を加え80℃に加温した。次いで、上記とは別の重合缶Bに、アクリロニトリル20部、2−エチルヘキシルアクリレート78部、メタクリル酸2部、乳化剤としての末端疎水基ポリビニルアルコール(クラレ社製、MP102、ノニオン性界面活性剤)10部、及びイオン交換水377部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製し、作製したエマルジョンを、約240分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約30分攪拌して、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、水系アクリル重合体(A1)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A1)の水分散液のpHは2.5、水系アクリル重合体(A1)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、得られた水系アクリル重合体(A1)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位78重量%、アクリロニトリル単位20重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であり、ヨウ素価は、5mg/100mg以下であった。
【0127】
(製造例1−2)水系アクリル重合体(A2)の製造
アクリロニトリルの配合量を40部、2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を58部とした以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A2)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A2)の水分散液のpHは2.5、水系アクリル重合体(A2)の、ガラス転移温度は−12℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A2)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0128】
(製造例1−3)水系アクリル重合体(A3)の製造
アクリロニトリルの配合量を5部、2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を93部とした以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A3)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A3)の水分散液のpHは2.5、水系アクリル重合体(A3)の、ガラス転移温度は−52℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A3)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0129】
(製造例1−4)水系アクリル重合体(A4)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を76部、メタクリル酸の配合量を4部とした以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A4)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A4)の水分散液のpHは2.0、水系アクリル重合体(A4)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A4)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0130】
(製造例1−5)水系アクリル重合体(A5)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を79部、メタクリル酸の配合量を1部とした以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A5)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A5)の水分散液のpHは3.0、水系アクリル重合体(A5)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A5)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0131】
(製造例1−6)水系アクリル重合体(A6)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を75部に変更するとともに、メタクリル酸2部の代わりに、イタコン酸5部を使用した以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A6)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A6)の水分散液のpHは2、水系アクリル重合体(A6)の、ガラス転移温度は−25℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A6)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0132】
(製造例1−7)水系アクリル重合体(A7)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を77部に変更するとともに、メタクリル酸2部の代わりに、アクリル酸3部を使用した以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A7)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A7)の水分散液のpHは3、水系アクリル重合体(A7)の、ガラス転移温度は−30℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A7)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0133】
(製造例1−8)水系アクリル重合体(A8)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を79部に変更するとともに、メタクリル酸2部の代わりに、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)1部を使用した以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A8)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A8)の水分散液のpHは1.5、水系アクリル重合体(A8)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A8)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0134】
(製造例1−9)水系アクリル重合体(A9)の製造
2−エチルヘキシルアクリレートの配合量を80部に変更するとともに、メタクリル酸を配合しなかった以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A9)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A9)の水分散液のpHは6、水系アクリル重合体(A9)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A9)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0135】
(製造例1−10)水系アクリル重合体(A10)の製造
乳化剤として、末端疎水基ポリビニルアルコール10部の代わりに、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤)10部を使用した以外は、製造例1−1と同様にして、水系アクリル重合体(A10)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A10)の水分散液のpHは2.5、水系アクリル重合体(A10)の、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、水系アクリル重合体(A10)の組成及びヨウ素価は表1に示すとおりであった。
【0136】
(製造例1−11)水系アクリル重合体(A11)の製造
重合缶Aに、2−エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.2部、及び、イオン交換水10部を加え、60℃に加温し90分攪拌した。次いで、上記とは別の重合缶Bに、2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.7部、及び、イオン交換水46部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製し、作製したエマルジョンを、約180分かけて、重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌し、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後、4%NaOH水溶液でpH調整し、水系アクリル重合体(A11)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A11)の水分散液は、pHが10.5、ガラス転移温度が−32℃、分散粒子径が0.10μmであった。また、得られた水系アクリル重合体(A11)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位77.75重量%、アクリロニトリル単位20.25重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であり、ヨウ素価は、5mg/100mg以下であった。
【0137】
(製造例1−12)高飽和ニトリル重合体(A12)の製造
撹拌機付きの金属製容器に、イオン交換水180部、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(アニオン性界面活性剤)25部、アクリロニトリル25部、メタクリル酸4部及び分子量調整剤(t一ドデシルメルカプタン)0.4部を、この順に仕込み、容器内部の気体を窒素で3回置換した後、ブタジエン71部を仕込んだ。次いで、金属製容器を50℃に保ち、重合触媒(クメンハイドロパーオキサイド)0.1部を仕込み、撹拝しながら16時間重合反応を行った。そして、重合停止剤(濃度10%のハイドロキノン水溶液)0.1部を加えて重合反応を停止させた後、水温60℃のロータリーエバポレーターを用いて残留単量体を除去することで、ニトリル重合体(アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体)の水分散液(固形分濃度約30%)を得た。なお、得られたニトリル重合体の組成を、
1H−NMRで測定したところ、アクリロニトリル単位含有量25%、ブタジエン単位含有量71%、メタクリル酸単位含有量4%であった。
【0138】
次いで、上記とは別に、酢酸パラジウム(その使用量は、Pd金属/ニトリルゴムの比で、2,500ppm)にパラジウムの5倍モル当量の硝酸を添加してパラジウム触媒酸性水溶液を得て、得られたパラジウム触媒酸性水溶液300リットルに、重量平均分子量5,000のポリビニルピロリドンをパラジウムに対して5倍添加し、さらに、水酸化カリウム水溶液を添加することで、pH9.0の触媒水溶液を調製した。
【0139】
そして、上記にて得られたニトリル重合体 400リットル(固形分120kg)及び上記にて得られた触媒水溶液の全量を、撹拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した。次いで、系内を2回水素ガスで置換した後、3MPaの水素で加圧した。次いで、内容物を500℃に加温して6時間反応させることにより、水分散液状態のニトリル重合体水素化反応混合物を得た。
【0140】
次いで、上記にて得られた水分散液状態のニトリル重合体水素化反応混合物へ30%過酸化水素水 24リットルを加え、800℃で2時間撹拝することにより、酸化処理を行なった。次いで、酸化処理を行なった水分散液状態のニトリル重合体水素化反応混合物のpHを9.5に調整し、触媒水溶液に含まれるパラジウムの5倍モル量に相当するジメチルグリオキシムを粉末のまま添加し、800℃に加温し5時間撹拝し、水分散液中に不溶物を析出させた。次いで、得られた不溶物をろ過することにより除去し、得られた白色のろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮することにより、固形分濃度40%の高飽和ニトリル重合体(A12)の水分散液を得た。得られた高飽和ニトリル重合体(A12)の水分散液のpHは3、高飽和ニトリル重合体の、ガラス転移温度は−20℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、高飽和ニトリル重合体(A12)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、ブタジエン単位における二重結合が大部分水素化されていた以外は、上記ニトリル重合体と同様であり、ヨウ素価は、10mg/100mg以下であった。
【0141】
(製造例1−13)高飽和ニトリル重合体(A13)の製造
アクリロニトリルの配合量を30部、メタクリル酸の配合量を4部、ブタジエンの配合量を66部に変更した以外は、製造例1−12と同様にして、高飽和ニトリル重合体(A13)の水分散液を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(A13)の水分散液のpHは2.5、高飽和ニトリル重合体(A13)の、ガラス転移温度は−20℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、高飽和ニトリル重合体(A13)の組成及びヨウ素価は表3に示すとおりであった。
【0142】
(製造例1−14)高飽和ニトリル重合体(A14)の製造
アクリロニトリルの配合量を10部、メタクリル酸の配合量を4部、ブタジエンの配合量を86部に変更した以外は、製造例1−12と同様にして、高飽和ニトリル重合体(A14)の水分散液を得た。得られた高飽和ニトリル重合体(A14)の水分散液のpHは2.0、高飽和ニトリル重合体(A14)の、ガラス転移温度は−40℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、高飽和ニトリル重合体(A14)の組成及びヨウ素価は表3に示すとおりであった。
【0143】
(製造例1−15)高飽和ニトリル重合体(A15)の製造
水素化反応を行う際における、触媒水溶液の使用量を製造例1−12における使用量の3/4倍とした以外は、製造例1−12と同様にして、高飽和ニトリル重合体(A15)の水分散液を得た。得られた高飽和ニトリル重合体(A15)の水分散液のpHは3.0、高飽和ニトリル重合体(A15)の、ガラス転移温度は−30℃、分散粒子径は0.15μmであった。また、高飽和ニトリル重合体(A15)の組成及びヨウ素価は表3に示すとおりであった。
【0144】
(実施例1−1)
(A)バインダ組成物の調製
有機ホスホン酸化合物としてのカルボキシエチルホスホン酸3部に、酢酸カルシウム2部、及び水35部を添加し、次いで、ここに、製造例1−1で得られた水系アクリル重合体(A2)の水分散液50部(固形分濃度20%)を加えることで、バインダ組成物を調製した。
【0145】
(B)二次電池用正極スラリー組成物の調製
正極活物質としてのLiNiO
295.7部、アセチレンブラック(デンカブラックHS−100、電気化学工業株式会社製)2部、上記にて調製したバインダ組成物10部(カルボキシエチルホスホン酸0.3部、酢酸カルシウム0.2部、水系アクリル重合体(A2)1部)、増粘剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分濃度2%)を、適量の水とともに、プラネタリーミキサーにて攪拌することにより、二次電池用正極スラリー組成物を調製した。なお、得られた二次電池用正極スラリー組成物のpHを、pHメータで測定したところ、12.5であった。
【0146】
(C)二次電池の作製
上記にて得られた二次電池用正極スラリー組成物を、コンマコーターを用いて、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上に、乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗布し、50℃で20分間乾燥し、その後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。そして、得られた電極原反をロールプレスで圧延し、密度が2.1g/cm
3、アルミニウム箔及び電極活物質層からなる厚みが65μmに制御された二次電池用正極を作製した。
【0147】
次いで、上記にて得られた二次電池用正極を直径16mmの円盤状に切り抜き、正極活物質層の形成面側に、直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、負極としての金属リチウム、及び、エキスパンドメタルを、この順に積層し、得られた積層体をポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼の厚さ0.25mm)中に収納した。そして、この容器中に、電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型の二次電池を作製した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0148】
そして、上記にて得られたバインダ組成物を用いて、保存安定性の評価を、また、上記にて得られた二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を用いて、集電体の腐食性、初期容量、レート特性、及び高温サイクル特性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0149】
(実施例1−2〜1−10)
水系アクリル重合体(A2)の代わりに、製造例1−2〜1−10で得られた水系アクリル重合体(A2)〜(A10)をそれぞれ使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0150】
(実施例1−11)
正極活物質として、LiNiO
2の代わりに、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0151】
(実施例1−12,1−13)
有機ホスホン酸化合物として、カルボキシエチルホスホン酸の代わりに、ホスホノブタントリカルボン酸(実施例1−12)、及びニトロスチレンホスホン酸(実施例1−13)を、それぞれ使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0152】
(実施例1−14〜1−17)
多価金属化合物として、酢酸カルシウムの代わりに、クエン酸カルシウム(実施例1−14)、乳酸カルシウム(実施例1−15)、マレイン酸カルシウム(実施例1−16)、及び酢酸マグネシウム(実施例1−17)を、それぞれ使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0153】
(実施例1−18)
LiNiO
2の配合量を94.2部に、カルボキシエチルホスホン酸の配合量を2部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0154】
(実施例1−19)
LiNiO
2の配合量を95.9部に、カルボキシエチルホスホン酸の配合量を0.05部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0155】
(実施例1−20)
LiNiO
2の配合量を94.1部に、酢酸カルシウムの配合量を2部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0156】
(実施例1−21)
LiNiO
2の配合量を95.8部に、酢酸カルシウムの配合量を0.05部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0157】
(実施例1−22)
有機ホスホン酸化合物として、カルボキシエチルホスホン酸0.3部の代わりに、ニトロトリスメチレンスルホン酸0.1部を使用し、多価金属化合物として、酢酸カルシウム0.2部の代わりに、水酸化カルシウム0.1部を使用するとともに、LiNiO
2の配合量を96部に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0158】
(比較例1−1)
LiNiO
2の配合量を96部に変更するとともに、有機ホスホン酸化合物としてのカルボキシエチルホスホン酸を配合しなかった以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0159】
(比較例1−2)
多価金属化合物としての酢酸カルシウムを配合しなかった以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0160】
(比較例1−3)
有機ホスホン酸化合物としてのカルボキシエチルホスホン酸の代わりに、ベンゼンスルホン酸0.3部を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0161】
(比較例1−4)
多価金属化合物としての酢酸カルシウムの代わりに、水酸化ナトリウム0.2部を使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0162】
(実施例1−23〜1−26)
水系アクリル重合体(A2)の代わりに、製造例1−12〜1−15で得られた高飽和ニトリル重合体(A12)〜(A15)をそれぞれ使用した以外は、実施例1−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
【表3】
表中、「AMPS」は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を示す。
【0166】
表1〜表3に示すように、二次電池用正極スラリー組成物に、有機ホスホン酸化合物と、多価金属化合物(酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、水酸化カルシウム)とを配合した場合には、集電体の腐食の発生を防止することができ、また、二次電池とした場合における、初期容量、レート特性及び高温サイクル特性に優れ、しかも、バインダ組成物の保存安定性を良好なものとすることが可能であった(実施例1−1〜1−26)。
【0167】
一方、有機ホスホン酸化合物を使用しなかった場合や、有機ホスホン酸化合物の代わりに、ベンゼンスルホン酸を使用した場合、さらには、多価金属化合物を使用しなかった場合には、得られる二次電池は、初期容量、レート特性及び高温サイクル特性に劣るものであった(比較例1−1〜1−4)。
【0168】
次いで、有機ホスホン酸化合物として、有機ホスホン酸基含有高分子化合物を用いた実施例及び比較例、ならびにこれらに関連する製造例について説明する。
【0169】
(製造例2−1)水系アクリル重合体(A16)の製造
重合缶Aに、イオン交換水130部を入れ、ここに、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.8部、及びイオン交換水10部を加え80℃に加温した。次いで、上記とは別の重合缶Bに、2−エチルヘキシルアクリレート78部、アクリロニトリル20部、メタクリル酸2部、乳化剤としての末端疎水基ポリビニルアルコール(クラレ社製、MP102、ノニオン性界面活性剤)18部、及びイオン交換水377部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製し、作製したエマルジョンを、約240分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約30分攪拌して、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、水系アクリル重合体(A16)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A16)の水分散液は、pHが2.5、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.10μmであった。また、得られた水系アクリル重合体(A16)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位77.75重量%、アクリロニトリル単位20.25重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であり、ヨウ素価は、5mg/100mg以下であった。
【0170】
(製造例2−2)水系アクリル重合体(A17)の製造
乳化剤として、末端疎水基ポリビニルアルコール18部の代わりに、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王社製、エマルゲン120、ノニオン性界面活性剤)2部を使用した以外は、製造例2−1と同様にして、水系アクリル重合体(A17)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A17)の水分散液は、pHが2.5、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.10μmであった。また、得られた水系アクリル重合体(A17)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位77.75重量%、アクリロニトリル単位20.25重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であり、ヨウ素価は、5mg/100mg以下であった。
【0171】
(製造例2−3)水系アクリル重合体(A18)の製造
乳化剤として、末端疎水基ポリビニルアルコール18部の代わりに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(花王社製、エマールD3D、アニオン性界面活性剤)2部を使用した以外は、製造例2−1と同様にして、水系アクリル重合体(A18)の水分散液を得た。得られた水系アクリル重合体(A18)の水分散液は、pHが2.5、ガラス転移温度は−32℃、分散粒子径は0.10μmであった。また、得られた水系アクリル重合体(A18)の組成を、
1H−NMRで測定したところ、2−エチルヘキシルアクリレート単位77.75重量%、アクリロニトリル単位20.25重量%、及びメタクリル酸単位2重量%であり、ヨウ素価は、5mg/100mg以下であった。
【0172】
(製造例2−4)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の製造
重合缶Aに、ビニルホスホン酸39部、アクリル酸61部、イオン交換水10部、及び3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部を加え、窒素パージした後に90℃に加温し、22時間保持した。なお、この22時間の保持中において、7.33時間ごとに3回に分けて、イオン交換水10部(3回の合計で30部)を、また、2時間ごとに11回に分けて、3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部(11回の合計で2.42部)を、それぞれ添加した。そして、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、イオン交換水を適宜加えて、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)中の、残留モノマー量測定から求めたビニルホスホン酸単位の重量比率は39%、アクリル酸単位の重量比率は61%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の数平均分子量(Mn)は70,000であった。
【0173】
(製造例2−5)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B2)の製造
ビニルホスホン酸の使用量を3部とし、アクリル酸の使用量を97部とした以外は、製造例2−4と同様にして、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B2)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B2)中の、残留モノマー量測定によるビニルホスホン酸単位の重量比率は3%、アクリル酸単位の重量比率は97%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B2)の数平均分子量(Mn)は70,000であった。
【0174】
(製造例2−6)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B3)の製造
ビニルホスホン酸の使用量を14部とし、アクリル酸の使用量を86部とした以外は、製造例2−4と同様にして、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B3)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B3)中の、残留モノマー量測定によるビニルホスホン酸単位の重量比率は14%、アクリル酸単位の重量比率は86%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B3)の数平均分子量(Mn)は70,000であった。
【0175】
(製造例2−7)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B4)の製造
ビニルホスホン酸の使用量を60部とし、アクリル酸の使用量を40部とした以外は、製造例2−4と同様にして、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B4)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B4)中の、残留モノマー量測定によるビニルホスホン酸単位の重量比率は60%、アクリル酸単位の重量比率は40%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B4)の数平均分子量(Mn)は70,000であった。
【0176】
(製造例2−8)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B5)の製造
重合缶Aに、ビニルホスホン酸39部、アクリル酸61部、イオン交換水10部、及び3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部を加え、窒素パージした後に100℃に加温し、10時間保持した。なお、この10時間の保持中において、3.33時間ごとに3回に分けて、イオン交換水10部(3回の合計で30部)を、また、0.91時間ごとに11回に分けて、3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部(11回の合計で2.42部)を、それぞれ添加した。そして、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、イオン交換水を適宜加えて、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B5)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B5)中の、残留モノマー量測定によるビニルホスホン酸単位の重量比率は39%、アクリル酸単位の重量比率は61%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B5)の数平均分子量(Mn)は20,000であった。
【0177】
(製造例2−9)有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B6)の製造
重合缶Aに、ビニルホスホン酸39部、アクリル酸61部、イオン交換水10部、及び3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部を加え、窒素パージした後に80℃に加温し、30時間保持した。なお、この30時間の保持中において、10時間ごとに3回に分けて、イオン交換水10部(3回の合計で30部)を、また、2.73時間ごとに11回に分けて、3−ブチルーペルオキシ−2−エチル−ヘキサノエート0.22部(11回の合計で2.42部)を、それぞれ添加した。そして、モノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、イオン交換水を適宜加えて、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B6)の20%水溶液を得た。得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B6)中の、残留モノマー量測定によるビニルホスホン酸単位の重量比率は39%、アクリル酸単位の重量比率は61%であり、また、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B6)の数平均分子量(Mn)は150,000であった。
【0178】
(製造例2−10)アクリル酸重合体の製造
ビニルホスホン酸を使用せず、アクリル酸の使用量を100部とした以外は、製造例2−4と同様にして、アクリル酸重合体の20%水溶液を得た。得られたアクリル酸重合体中の数平均分子量(Mn)は70,000であった。
【0179】
(実施例2−1)
(A)バインダ組成物の調製
製造例2−4で得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の水溶液5部(固形分濃度20%)に、酢酸カルシウム1部、及び水4部を添加し、次いで、ここに、製造例2−1で得られた水系アクリル重合体(A16)の水分散液50部(固形分濃度20%)を加えることで、バインダ組成物を調製した。
【0180】
(B)二次電池用正極スラリー組成物の調製
正極活物質としてのLiNiO
2100部、アセチレンブラック(デンカブラックHS−100、電気化学工業株式会社製)2部、上記にて調製したバインダ組成物6部(有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)0.1部、水系アクリル重合体(A16)1部)、増粘剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分濃度2%)を、適量の水とともに、プラネタリーミキサーにて攪拌することにより、二次電池用正極スラリー組成物を調製した。なお、得られた二次電池用正極スラリー組成物のpHを、pHメータで測定したところ、12.5であった。
【0181】
(C)二次電池の作製
上記にて得られた二次電池用正極スラリー組成物を用いた以外は、上述した実施例1−1と同様にして、二次電池用正極を作製し、得られた二次電池用正極を用いて、同様にして、コイン型の二次電池を作製した。
【0182】
そして、上記にて得られたバインダ組成物を用いて、保存安定性の評価を、また、上記にて得られた二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を用いて、集電体の腐食性、初期容量、レート特性、及び高温サイクル特性の各評価を行った。結果を表4に示す。
【0183】
(実施例2−2,2−3)
多価金属化合物として、酢酸カルシウムの代わりに、水酸化カルシウム(実施例2−2)、及び炭酸バリウム(実施例2−3)を、それぞれ使用した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0184】
(実施例2−4,2−5)
多価金属化合物としての酢酸カルシウムの配合量を、0.05部(実施例2−4)及び0.5部(実施例2−5)に、それぞれ変更した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0185】
(実施例2−6〜2−10)
有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の代わりに、製造例2−5〜2−9で得られた有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B2)〜(B6)を、それぞれ使用した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0186】
(実施例2−11,2−12)
バインダ組成物を調製する際における、有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)の水溶液の配合量を2.5部(実施例2−11)、及び25部(実施例2−12)にそれぞれ変更することで、二次電池用正極スラリー組成物中における、有機ホスホン酸基を有する高分子化合物(B1)の配合量を、0.05部(実施例2−11)、及び0.5部(実施例2−12)とした以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0187】
(実施例2−13,2−14)
バインダ組成物を調製する際における、水系アクリル重合体(A16)の水分散液の配合量を40部(実施例2−13)、及び150部(実施例2−14)に、それぞれ変更することで、二次電池用正極スラリー組成物中における、水系アクリル重合体(A16)の配合量を、0.8部(実施例2−13)、及び3.0部(実施例2−14)とした以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0188】
(実施例2−15,2−16)
水系アクリル重合体(A16)の代わりに、製造例2−2で得られた水系アクリル重合体(A17)(実施例2−15)、及び、製造例2−3で得られた水系アクリル重合体(A18)(実施例2−16)を、それぞれ使用した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0189】
(実施例2−17)
正極活物質として、LiNiO
2の代わりに、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2を使用した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0190】
(比較例2−1)
酢酸カルシウムを使用しなかった以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0191】
(比較例2−2)
有機ホスホン酸基含有高分子化合物(B1)を使用しなかった以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0192】
(比較例2−3)
有機ホスホン酸基を有する高分子化合物(B1)の代わりに、製造例2−10で得られたアクリル酸重合体を使用した以外は、実施例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0193】
(比較例2−4)
有機ホスホン酸基を有する高分子化合物(B1)の代わりに、製造例2−10で得られたアクリル酸重合体を使用した以外は、比較例2−1と同様にして、バインダ組成物、二次電池用正極スラリー組成物、及び二次電池を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5】
【0196】
表4,5に示すように、二次電池用正極スラリー組成物に、有機ホスホン酸基含有高分子化合物と、多価金属化合物(酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸バリウム)とを配合した場合には、集電体の腐食の発生を防止することができ、また、二次電池とした場合における、初期容量、レート特性及び高温サイクル特性に優れ、しかも、バインダ組成物の保存安定性を良好なものとすることが可能であった(実施例2−1〜2−17)。
【0197】
一方、有機ホスホン酸基含有高分子化合物を使用しなかった場合や、有機ホスホン酸基含有高分子化合物の代わりに、アクリル酸重合体を使用した場合、さらには、多価金属化合物を使用しなかった場合には、得られる二次電池は、初期容量、レート特性及び高温サイクル特性に劣るものであった(比較例2−1〜2−4)。