(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752170
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】風味の良い高SNFおよび/または低乳脂肪の発酵乳およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
A23C9/12
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-79109(P2013-79109)
(22)【出願日】2013年4月5日
(62)【分割の表示】特願2008-510997(P2008-510997)の分割
【原出願日】2007年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-150629(P2013-150629A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2013年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2006-110605(P2006-110605)
(32)【優先日】2006年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】堀内 啓史
(72)【発明者】
【氏名】矢野 朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 暢子
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−014708(JP,A)
【文献】
特開平06−014707(JP,A)
【文献】
特開2005−348703(JP,A)
【文献】
特開2005−176603(JP,A)
【文献】
特開2005−261303(JP,A)
【文献】
特許第3968108(JP,B2)
【文献】
特開平08−214774(JP,A)
【文献】
特開平08−322464(JP,A)
【文献】
特開昭63−263045(JP,A)
【文献】
「低脂肪タイプのLG21乳酸菌配合ヨーグルト」,化学工業日報,2006年 4月12日,P.5
【文献】
「低脂肪のプロビオヨーグルト」,熊本日日新聞,2006年 3月24日,P.7
【文献】
「新技術・食品開発賞 明治プロビオヨーグルトLG21低脂肪 明治乳業」,日本食糧新聞,2007年 2月26日,P.185
【文献】
堀内啓史、外3名,「「脱酸素低温発酵法」による新規なヨーグルトの開発」,農業水産技術研究ジャーナル,2007年 2月 1日,Vol.30, No.2,P.8-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無脂乳固形分(以下、SNFという)が11重量%以上である発酵乳の製造方法であって、(1)脱脂粉乳、(2)牛乳、脱脂乳および水から選択される1種または2種以上、ならびに、任意に(3)砂糖、糖類および香料からなる群から選択される1種または2種以上からなる高SNF化した発酵乳原料ミックスを調製し、発酵開始時における発酵乳原料ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、該発酵乳原料ミックスにスターターを添加し、30℃〜46℃で発酵してなる、前記製造方法(但し、乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%である場合を除く)。
【請求項2】
発酵乳原料ミックスが、脱脂乳を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
発酵乳がヨーグルトである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵温度が30℃〜40℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
発酵乳原料ミックスに添加するスターターの添加量が、溶存酸素低減処理を行っていない発酵乳ミックスを用い、発酵温度43℃、発酵時間3時間後に乳酸酸度0.7%を与える発酵を行う場合に用いられるスターターの添加量の50%〜25%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
発酵温度が38℃〜46℃である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される、SNFが11重量%以上である発酵乳。
【請求項8】
無脂乳固形分(以下、SNFという)が11重量%以上である発酵乳の風味および食感の改善方法であって、(1)脱脂粉乳、(2)牛乳、脱脂乳および水から選択される1種または2種以上、ならびに、任意に(3)砂糖、糖類および香料からなる群から選択される1種または2種以上からなる高SNF化した発酵乳原料ミックスを調製し、発酵開始時における発酵乳原料ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、該発酵乳原料ミックスにスターターを添加し、30℃〜46℃で発酵してなる、前記方法。
【請求項9】
発酵乳原料ミックスが、脱脂乳を含む、請求項8に記載の改善方法。
【請求項10】
口溶けの悪さ、食感のざらつき、および、ボソボソ感の強さを改善する、請求項8または9に記載の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無脂乳固形分(milk solids-not-fat;以下、SNFという)を通常より高濃度で含有する、および/または乳脂肪分を通常より低濃度で含有する、発酵乳およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は健康食品の代表として広く食されている食品である。しかしながら健康食品の観点で見た場合、通常の発酵乳は3重量%程度の乳脂肪分を含むため、ダイエット志向の高まりから、より脂肪分が少なく低カロリーである発酵乳を求める声が多くなってきた。そのため、近年、低脂肪を謳った発酵乳が市場に数多く提供されている。しかしながら乳脂肪分は発酵乳の持つ良好な乳風味や食感に大きな影響を与えているため、乳脂肪分の少ない発酵乳を提供するに当たっては乳脂肪分を低減させることによって必然的に低下してしまう良好な乳風味や食感を何らかの方法で補うかあるいは改善する必要が生じていた。
【0003】
それらの方法のほとんどは乳脂肪を代替する低カロリーの添加物を加える方法であり、代替物として寒天、ゼラチン等が主に用いられている。これらは「なめらかな食感」を付与するために用いられており、擬似的に乳脂肪によって与えられている酸味の低減も含めた「まろやかな食感」を代替したものである。したがって低脂肪化に伴う乳風味の劣化、特に「味の濃厚さ(コク味)」の不足を補うものではない。この「味の濃厚さ(コク味)」の不足は特に乳風味の劣化に与える影響が大きいため、先の寒天やゼラチン等に加えて乳風味を増強するための乳風味付与剤が数多く報告されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また近時、発酵乳の新たな健康機能が喧伝され、ダイエット機能や花粉症等のアレルギーを軽減する機能等も報告されるようになってきた。ダイエット機能に関しては、市販されている発酵乳にさらに脱脂粉乳を加え、結果的にSNFを増量して食することで、その機能が高まるとの報告もなされている。
【0005】
発酵乳に脱脂粉乳を加えて高SNF化した場合、通常のSNF濃度の発酵乳に比べて風味・食感の低下が大きく、例えば口溶けが悪い、食感がざらつく、ボソボソ感が強い等、食品として重要な要素である「おいしさ」を維持することができない。特に、低脂肪発酵乳に脱脂粉乳を加えて、低脂肪かつ高SNFにする場合には、乳脂肪に由来する良好な風味が必然的に乏しくなるため風味はさらに低下する傾向があった。そのため、風味・食感の良い高SNF発酵乳、中でも低脂肪タイプでありながら風味・食感の良い高SNF発酵乳を提供するには、風味や食感を効果的に改善する方法が必要であった。
【0006】
通常、風味や食感の改善のために、フレーバーや増粘多糖類等の添加物を用いることで対応することが広く行われている(例えば、特許文献1)。しかしながら、より自然な健康機能を謳う食品として市場に提供するという観点からは、それら添加物の効果によって風味や食感を改善する方法は最善の方法とはいえず、添加物によって擬似的に風味を改善する手法を用いることなく、より自然な方法で前記問題を解決することが望まれていた。
【0007】
一方、本発明者らは、発酵乳にきめ細やかな食感を与え、さらに発酵乳組織の堅さを向上させる方法として本発明者らは発酵乳ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下に低減させた状態で30℃〜37℃(特許文献2)、38℃〜40℃(特許文献3)という通常より低い発酵温度で発酵を行う新規な発酵乳の製造技術を明らかにしている。しかしながら、低脂肪発酵乳や高SNF発酵乳の風味や食感を自然な方法で改善する技術はこれまで知られていない。
【特許文献1】特許第3706345号公報
【特許文献2】特許第3644505号公報
【特許文献3】特許第3666871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は前記の問題を解決し、乳脂肪分の低下や脱脂粉乳を高濃度で添加した高SNF化に起因する乳風味やまろやかな食感(以下、乳風味とまろやかな食感とを合わせて「乳脂肪感」という)の低下を、より自然な方法で改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、乳脂肪分を減じた発酵乳ミックスや高SNFの発酵乳ミックスに対し、ミックス中の溶存酸素濃度を低減させ、かつ発酵温度を通常より下げると、通常の方法で製造した脂肪分の少ない発酵乳と比べて乳脂肪感が明確に向上した発酵乳が得られること、またその場合、ミックスに添加するスターターの添加量を通常の添加量から大幅に減じても、発酵温度を通常の場合より下げて発酵を行うことで、同様に乳脂肪感が向上した発酵乳が得られることを見出し、かかる知見に基づきさらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、無脂乳固形分(以下、SNFという)が11重量%以上および/または乳脂肪分が0.1重量%〜2.0重量%である発酵乳の製造方法であって、発酵開始時における発酵乳原料ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、該発酵乳原料ミックスにスターターを添加し、30℃〜46℃で発酵してなる、前記製造方法に関する。
さらに本発明は、発酵温度が30℃〜40℃である、前記の製造方法に関する。
また本発明は、発酵乳原料ミックスに添加するスターターの添加量が、通常添加量の50%〜25%である、前記の製造方法に関する。
また本発明は、発酵温度が38℃〜46℃である、前記の製造方法に関する。
さらに本発明は、前記の製造方法によって製造される、SNFが11重量%以上および/または乳脂肪分が0.1重量%〜2.0重量%である発酵乳に関する。
また本発明は、乳脂肪代替物または乳風味付与剤を添加せずに、通常の製法で調製された少なくとも1重量%高い乳脂肪を有する発酵乳と同等の乳脂肪感を有する、前記の発酵乳に関する。
【0011】
なお、本件出願人は、別途、国際出願(PCT/JP2007/052042)をしており、該国際出願明細書において、通常量のSNFおよび0.1重量%〜2.0重量%の乳脂肪分を含む発酵乳について、その製造方法等を検討している。前記国際出願にかかる特許権が生じた場合、二重特許回避のため、必要に応じ、本発明にかかる製造方法から、「乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%であり、SNFが11重量%未満の発酵乳を製造する方法において、発酵開始時における発酵乳原料ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、30℃〜39℃で発酵する場合」および「乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%であり、SNFが11重量%未満の発酵乳を製造する方法において、発酵開始時における発酵乳原料ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、該発酵乳原料ミックスに通常添加量の50%〜25%のスターターを添加し、38℃〜46℃で発酵する場合」を除く。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、乳脂肪分0.1重量%から2.0重量%という乳脂肪分の少ない低乳脂肪発酵乳に、乳脂肪代替物または乳風味付与剤を添加せずとも、通常の製法で調製された、前記乳脂肪分より少なくとも1重量%高い乳脂肪分を有する発酵乳と同等の乳脂肪感を与えるという効果を有する。例えば、乳脂肪分0.1重量%、1.0重量%、2.0重量%の低乳脂肪発酵乳を本発明の製造方法で得た場合、夫々、通常の製法で調製された1.1重量%、2.0重量%、3.0重量%の乳脂肪分を有する発酵乳と同等またはそれ以上の乳脂肪感が与えられる。特に乳脂肪分が1.0重量%から1.5重量%の間の本発明による低乳脂肪発酵乳の場合、乳脂肪代替物や乳風味付与剤等の添加剤を用いずとも、通常品(3重量%)と同等またはそれ以上の乳脂肪感を得ることができることから「低脂肪」の強調表示と「添加物不使用」の強調表示を合わせて付すことが可能となる。
【0013】
さらに本発明は、発酵乳に通常より多くの脱脂粉乳等を加えて高SNF化することに伴って発生する1)口溶けが悪い、2)食感がざらつく、3)ボソボソ感を解消できるので、高タンパク質、低脂肪、高カルシウム、低カロリーというバランスの良い栄養食品となり得る高SNF発酵乳において風味や食感の改善された発酵乳を提供することができる。とくに本発明は、SNFが11重量%以上である高SNF発酵乳において、風味改善剤等の添加剤等を用いなくともSNFの増加に伴って必然的に低下してしまう風味や食感を効果的に改善することができる。したがって本発明によれば、高SNFでありながら風味や食感の低下が少なくおいしい高SNF発酵乳を提供することができる。
【0014】
さらにSNFが11重量%以上であり、かつ乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%である高SNF低脂肪発酵乳において、SNFの増加に伴なう風味・食感の低下を改善するのと同時に、乳脂肪分の少なさに起因する風味の低下をも改善することができる。したがって本発明によれば、高SNFかつ低脂肪でありながら、高SNFと低脂肪に由来する風味食感の低下の改善されたおいしい高SNF低脂肪発酵乳を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における発酵乳とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令で定義される「発酵乳」を示し、乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、またはこれを凍結したものをいう。発酵乳は、二つのタイプに大別できる。一つは前発酵タイプ、もう一つは後発酵タイプである。前者は容器に詰める前のタンク内で発酵・冷却を完了させた発酵乳を破砕して流通用個食容器に充填したものである。後者は一定量のスターターを添加した発酵乳原料ミックス(以下、ミックスまたは原料ミックスという)を紙容器等の流通用個食容器に充填した後、発酵室にて所定の乳酸酸度に到達するまで発酵させてプリン状に固化させた後、冷却したものである。前発酵は、果肉入りのフルーツヨーグルトや飲むヨーグルト等の製造に多く用いられ、後発酵は、いわゆるハードタイプやプレーンタイプと呼ばれるヨーグルト等の製造に多く用いられる。
【0016】
前発酵および後発酵のどちらの発酵タイプの場合でも、発酵工程は殺菌したミックスにスターターを所定の温度で添加して所定の酸度になるまで発酵を行い、冷却して発酵を止め製品としている。この際の発酵温度や発酵時間は製品の生産効率に影響を与えるばかりでなくその風味や品質にも大きな影響を与えるため、それらの影響を考慮しながら発酵温度、発酵時間を適宜設定する必要がある。
【0017】
本発明で用いられる原料ミックスは、牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、その他乳原料、砂糖、糖類、香料、水等、発酵乳の製造に常用される原料を加温・溶解し、乳脂肪代替品等を使用する場合には、予め加温・溶解したゼラチン液、寒天液、ペクチン等を加え混合することで得られる。ただし本発明の場合、例えば、乳脂肪1.0重量%〜2.0重量%程度の場合には乳脂肪代替品等を添加していない状態で通常濃度(3重量%程度)の乳脂肪を有する製品と同等かさらに乳脂肪感に富んだ製品を提供することが可能であるため、先の濃度範囲においてはゼラチン等を添加しない態様が本発明のより望ましい実施態様といえる。したがって本発明に係る方法の場合、実際上乳脂肪代替物等の添加は乳脂肪分が0.5重量%以下となる「無脂肪」領域の製品を提供する場合に考慮すればよい。
【0018】
なお、本発明の発酵乳を製造する際に乳脂肪分を0.1重量%から2.0重量%間にコントロールすることはミックスにおける生乳と脱脂粉乳の配合比を変えることで行うことができる。ここで通常流通している脱脂粉乳を用いて生乳を用いずに脱脂粉乳のみを用いた場合、脱脂粉乳中の残存脂肪によりSNFを通常発酵乳と同様の値となるよう調節すると乳脂肪分は0.1重量%程度となる。
【0019】
以上のようにして得られた乳脂肪濃度を調節した原料ミックスは均質化し、殺菌後、所定温度(発酵温度)程度まで冷却する。この状態で後に述べる溶存酸素濃度を低減させる処置を行っても良いが、窒素置換等により溶存酸素濃度を低減させる場合にはこの時に溶存酸素低下処置を行わなくても良い。次いで通常添加量もしくは通常添加量から減じた乳酸菌スターターを接種し、前発酵の場合はタンク内に充填して発酵を開始し、後発酵の場合は流通用個食容器に充填して発酵を開始する。また、発酵終了後これらミックスに糖液等を加えても良い。
【0020】
本発明でミックスに接種する乳酸菌スターターは、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)、ラクトバチルス・ラクティス(L.lactis)の他、発酵乳の製造に一般的に用いられる乳酸菌や酵母の中から1種又は2種以上を選んだものを用いることが可能であるが、本発明においては、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)の混合スターターをベースとするスターターを好適に用いることができる。このヨーグルトスターターをベースとして、目的とする発酵乳の発酵温度や発酵条件を勘案した上で、さらにラクトバチルス・ガッセリ(L.gasseri)やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)等の他の乳酸菌を加えても良い。
【0021】
発酵温度条件は、乳脂肪分の量、SNFの量、およびスターターの添加量に関係なく、通常の発酵温度より低い温度、例えば、30℃〜46℃の範囲で行なうことができる。
乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%の低脂肪条件の場合も、発酵は前記温度範囲で行なうことができるが、30℃〜39℃の範囲が好ましい。低脂肪条件の場合、発酵時間、乳脂肪感の向上の効果の観点から、とくに好ましい温度条件は32℃〜38℃、より好ましい条件は34℃〜37℃である。
通常の乳脂肪含量を有し、高SNF(SNFが11重量%以上)である発酵乳ミックスの場合も、発酵は30℃〜46℃の範囲で行なうことができるが、30℃〜40℃の範囲が好ましく、とくに好ましくは32℃〜39℃、より好ましくは34℃〜38℃である。
またスターター添加量を低減した場合も、発酵は30℃〜46℃の範囲で行なうことができるが、例えば、発酵温度38℃〜46℃において添加量を通常添加量の50%〜25%とすることで乳脂肪感の向上した発酵乳が得られる。これは乳脂肪分が0.1重量%から2.0重量%の低脂肪条件の場合に顕著である。
いずれの場合も、発酵時間は発酵工程が1日内に終了する3時間から7時間程度に調整することが好ましい。
【0022】
高SNFで乳脂肪分を低減させた場合、本発明に係る方法における発酵温度は高すぎると通常の乳脂肪分を有する場合と比べて下がる傾向があり、乳脂肪分を低減しない場合、40℃を超えると乳脂肪感向上の効果が次第に減衰することがある。通常のSNF量で乳脂肪分を低減させた場合のより好ましい発酵温度は38℃以下である。同様に、SNF量の多少に拘らず、乳脂肪分を低減させない場合のより好ましい発酵温度は39℃以下である。
【0023】
本発明に係る方法では、発酵温度の低下に伴って発酵時間が大幅に延長する場合がある。30℃未満の発酵温度では、30℃以上の場合に比べて乳酸菌の生育速度が著しく低下するために発酵時間が延長することになる。本発明に係る方法の場合、通常の方法に比べて発酵温度低下に伴う乳酸菌の生育速度の低下は少ないので発酵温度を通常より下げることが可能となる。それでも発酵温度を30℃以上とした場合、工業的に大量生産を行う条件として合理的な発酵時間とすることができる。本発明に係る方法を用いた場合、発酵温度30℃での発酵時間は6時間程度であるが通常の方法の場合は10〜11時間を要する。
【0024】
先の発酵時間の設定を行う場合、発酵終点の目安は通常の場合は、乳酸酸度を測定することで行っている。例えばSNFが10重量%の発酵乳の場合、乳酸酸度が0.7%に到達した時点を発酵終点としている(この時のpHは4.4〜4.7)。しかしながら本発明に係る方法の場合SNFの増加に伴う緩衝作用のため、乳酸酸度以外の目安が必要となる。そこで本発明に係る方法の場合は乳酸酸度に代わって発酵乳ミックスのpH値を発酵終点の目安として用いpHが4.4〜4.7となった時点を発酵終了時点とした。
【0025】
ミックス中の溶存酸素濃度を低下させる方法としては不活性ガスによるガス置換処理による方法、脱酸素膜を用いた膜分離方法等、特に方法を選ばずに行うことができる。重要なことはあくまでもミックス中の溶存酸素濃度を低下させて5ppm以下とすることだからである。以上の内、不活性ガス置換による方法は先に述べたようにスターター添加後も行うことが可能であり、工程上の制約が膜分離等の方法と比べると少ない。
【0026】
以下、不活性ガス置換による方法について述べるが置換処理は原料ミックスを調合する段階からスターターを接種後、発酵を開始するまでの間に行えばよく、その製造工程における置換時期は任意である。しかしながら発酵開始時に溶存酸素濃度が低減された状態で維持されていることが重要であることから、ミックスの不活性ガス置換処理はスターターを接種する直前から直後の間に行うことが望ましい。
【0027】
発酵開始時のミックスの溶存酸素濃度は、これまでの検討でその濃度が低いほど良好な結果が得られた。例えばミックスの温度が40℃程度の際に5ppm以下、好ましくは3ppm以下である。
【0028】
先の溶存酸素濃度を低下させる方法として不活性ガス置換を行う場合には不活性ガスとして、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができるが、中でも窒素ガスは食品に通常用いられている不活性ガスとしてより好適に用いることができる。溶存酸素と不活性ガスとの置換方法としては、これら不活性ガスをミックス中に直接バブリングする方法や、スタティックミキサーを用いる方法、ミックスと共にミキサーにガスを入れて撹拌するなどの公知の方法を用いることができる。
【0029】
溶存酸素濃度を低下させる方法として膜分離法を行う場合には脱酸素膜として中空糸膜(三菱レイヨン社MHF304KM等)を用いることができる。その用い方は膜の使用方法を参考にして用いればよく、スターター添加前のミックスに適用してその溶存酸素濃度を低減させる場合に、膜分離法の実施が可能となる。
【0030】
本発明において発酵乳ミックス中の溶存酸素を低減する方法と組み合わせる、発酵温度を下げることとスターター添加量を減じることは、それぞれを単独で溶存酸素低減法と組み合わせても、両者の条件を組み合わせ、その上で溶存酸素低減法と組み合わせても実施することが可能である。しかしながら、それぞれの条件におけるメリットを享受するためにはそれぞれを単独で溶存酸素低減法と組み合わせた方が工程管理上より望ましい。
【0031】
次に、スターター添加量を減じることを溶存酸素低減法と単独で組み合わせる場合、スターターの添加量は通常条件の50%〜25%の量が用いられる。また、この条件下で発酵温度は、例えば、30〜46℃とすることができるが、38℃〜46℃の範囲を用いることが好ましい。温度が高い条件ではよりスターター添加量を減らすことで乳脂肪感を確保することができる。しかしながら、46℃を超えると、乳脂肪感の向上の効果を奏しにくくなる。この場合の好ましい温度条件は38℃〜45℃、より好ましくは39℃〜43℃である。この方法を採用した場合のメリットは通常用いられる発酵温度で発酵を行うことができることで、通常の発酵温度を用いた場合、温度管理が通常品と同様で楽であることに加えて、雑菌の発生等の危険性を大幅に減じることができるというメリットも有している。
【0032】
以上に説明した本発明のスターター添加量の基準となる通常のスターター添加量とは、溶存酸素低減処理を行っていない発酵乳ミックスを用い、発酵温度43℃、発酵時間3時間後に乳酸酸度0.7%を与える発酵を行う場合に用いられるスターターの添加量を通常のスターター添加量とし、その量を100%としたものである。
【0033】
本発明の場合、発酵温度を下げることと、スターター添加量を下げることはその両者を組み合わせて各種の条件(例えば発酵温度34℃、スターター添加量を通常の60%とする等)を用いることも可能であるが、組合せが複雑になること、個々の条件のメリットが希釈されてしまう等の問題があるため推奨されるものではない。例えば、スターター添加量を大幅に下げる方法では、通常添加量の50%から25%で発酵温度を38℃から46℃で実施することができるが、これをメリットとして低温発酵ではなく例えば40℃以上の通常温度での発酵を行う場合にスターター添加量を下げる方法を用いるとした方が合理的である。
【0034】
ただし、特にそれぞれの条件の臨界域においては発酵温度とスターター添加量という2つのファクターを組み合わせることで、得られる製品の歩留まりを単独の場合より良好にすることができるため、両者を組み合わせる必然性が生じる。例えば、発酵温度39℃を超えると、温度条件単独では乳脂肪感が向上の効果が奏しにくくなる場合がある。そこでスターター添加量を減じる条件を組み合わせることで製品の歩留まりを向上させることが可能となる。以上のメリットがあるため、スターター添加量を減じる方法の場合、適用温度範囲を発酵温度のみによる条件と一部重なる38℃以上が好ましい。
【0035】
本発明に係る方法の場合、発酵温度やスターター添加量は1日で発酵工程全体を終了できる時間内に発酵を終了させるという観点から設定されたものである。したがって、長時間発酵を考慮すると、異なった温度範囲、スターター添加量を用いる場合もあるものと考えられる。しかしながらその基本的な考え方として発酵乳ミックス中の溶存酸素濃度を5ppm以下とし、発酵温度を通常の発酵条件から下げて発酵を行うことであればその技術は本発明の範疇にある技術であることは明白なことである。
【0036】
本発明において、高SNFとした発酵乳ミックス中の溶存酸素濃度を種々の溶存酸素低減法で5ppm以下とした上で、通常濃度、すなわち3重量%程度の乳脂肪分を有する発酵乳の場合は30℃から40℃で、また乳脂肪の減じた発酵乳の場合は30℃から39℃の発酵温度で発酵を行うと、特許文献2および3で風味食感の目安とした発酵乳組織の硬さとはならない場合でも、総体として風味や食感が明確に改善された。したがって、本発明に於ける風味や食感の改善は特許文献2および3で得られた緻密な組織の形成によるものとは違う要因を有することが推察された。
【0037】
通常、市販されている発酵乳のSNFの濃度は、ソフトタイプ、ハードタイプを問わず9重量%〜10重量%程度である。SNFの濃度として11重量%を超えた場合、1)口溶けが悪い、2)食感がざらつく、3)ボソボソ感が強い、等の問題点の内どれかの問題点が濃度等に応じて顕在化してくるということはなく、3つの問題点がそれぞれ認められるようになってくる。11重量%を超えた段階で、ほとんどのパネラーに風味食感の劣化が認められ、12重量%では全てのパネラーが風味食感の劣化を明確に認める状態となる。一方、乳脂肪分の低減による風味の低下は先の3つの問題点とは独立したものである。低脂肪発酵乳の場合、SNFの増加は人により「コク」が増したと感じる場合があり、通常の乳脂肪分を有する発酵乳のSNFを増加させた場合とは風味等の劣化の状態は異なるものとなる。つまり乳脂肪濃度が通常濃度の発酵乳と低脂肪発酵乳を高SNF化した場合、それぞれの風味劣化と捉えられる状況は異なっているといえる。しかしながら、それぞれの発明未実施品に対して本発明に係る方法実施品は総体として風味の改善を果たしており、いずれの場合でも本発明に係る方法の効果を認めることができる。
【0038】
本発明で用いられる高SNFの濃度は、商品性を考慮しなければSNFが20重量%以上であっても本発明に係る方法を実施しない場合と比べた場合には本発明に係る方法の効果があるものと推察される。その根拠はSNF18重量%での検討において明確に本発明に係る方法の効果が認められたことによる。
【0039】
本発明の適用可能な低脂肪域での乳脂肪濃度範囲は、0.1重量%から2.0重量%である。
また、本発明において、スターター添加量を通常より大幅に下げた上で発酵乳ミックス中の溶存酸素を低減することで、高SNF化に伴う風味の劣化を軽減させる効果がある。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明に係る方法を実施例、試験例に基づき、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1] 本発明法による低脂肪発酵乳の製造(発酵温度38℃)
牛乳35.7kg、脱脂粉乳6.8kg、水53.5kgを混合したミックスを調製した。ミックス組成は、日本食品標準成分五訂を参照し、牛乳の組成:SNF8.8%、乳脂肪3.8%、脱脂粉乳の組成:SNF95.2%、乳脂肪1.0%として計算した。次に、調合したミックスを95℃、5分間加熱殺菌した後、38℃まで冷却し、乳酸菌スターター{ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus JCM 1002T)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus ATCC 19258)の混合培養物}2.0%の接種を行った。このミックスにパイプを通して窒素ガスを混合分散させ、溶存酸素濃度を5ppm以下となるように調整した。これを容器に充填し、38℃で発酵させ、乳酸酸度が0.7%に到達した後(発酵時間3時間)、10℃以下に冷却して発酵を停止させ最終製品とした。この場合の最終製品の組成はSNF10.0%、乳脂肪分1.5%である。
同時に通常濃度(3.0%)の乳脂肪を有する発酵乳ミックスを43℃3時間で通常の発酵を行って得た発酵乳(コントロール品:Q)を比較例として先の本発明品と乳脂肪感を比較したところ、本発明品はコントロール品よりも明確に強い乳脂肪感を示した。(試験例1、表1参照)
【0041】
なお、各実施例、試験例での各乳脂肪含量調整品のSNFは10.0%で固定している。そのため、全固形分は乳脂肪分が少ない配合ほど低くなる。例えば、乳脂肪分が1.5%の発酵乳の場合、全固形分は11.5%となるのに対して、乳脂肪分が0.5%の発酵乳の全固形分は10.5%である。しかし、減じた乳脂肪分と同等の固形分をSNFで補うことはしていない。これは、SNFを増加させるとそのことによるコク味を補う効果が発生するためである。したがって、今回得られた本発明法の効果は明確に本発明法によってもたらされたものであると評価することができる。
また乳酸酸度は、0.1規定NaOHを用い、フェノールフタレインを指示薬として滴定し、算出した。
【0042】
[試験例1]本発明低脂肪発酵乳と通常品との乳脂肪感比較
実施例1の製造方法を各種乳脂肪濃度の発酵乳ミックスに適用し、乳脂肪分1.5%、1.3%、1.0%、0.9%となるように本発明発酵乳を調製し、同時に調製した乳脂肪分3.0%の通常発酵法(従来法)による発酵乳に対する8名または9名の専門パネル者を用いた2点強度試験法による官能評価試験を行った。評価項目は、「舌触りのなめらかさ」、「味のまろやかさ」、「味の濃厚さ(コク)」の3つに、参考として「酸味の程度」を加えた4種類について行った。また特に、「味の濃厚さ(コク)」の結果を乳脂肪感を表す官能評価としてより優位に評価した。
官能評価試験の結果、乳脂肪分1.0%の本発明発酵乳は「味の濃厚さ(コク)」と「舌触りのなめらかさ」において通常品とほぼ同等の評価が与えられた。乳脂肪分1.5%(表1)及び1.3%(表2)の本発明品は「舌触りのなめらかさ」が同等で、「味のまろやかさ」、「味の濃厚さ(コク)」の2点において通常品より明確に「強い」との評価が与えられた。また、乳脂肪分が低いと酸味を強く感じる傾向にあるが、本発明発酵乳は、乳脂肪分が低いにもかかわらず、酸味が弱かった。以上から本発明品は乳脂肪分が1.0%以上の状態であれば通常品(乳脂肪分3%)と同等もしくは同等以上の乳脂肪感を有する「おいしい低脂肪発酵乳」となっていることが確認できた。
なお、各表におけるPの評価点およびQの評価点は、後述する乳脂肪感の評価方法によって算出された評価点を示す(後記の表3〜5も同じ)。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
[実施例2]本発明法による低脂肪発酵乳の製造(スターター低減法)
乳酸菌スターターの添加量を0.8%(通常添加量の40%)とし、発酵温度を43℃とすること以外は実施例1と同様の製造を行った。得られた製品の風味・食感を乳脂肪3.0%の通常品(従来法による発酵乳)と比較したところ、表3に示すように乳脂肪濃度3.0%の通常品とほぼ同様の乳脂肪感を示すことが確認された。
【0046】
【表3】
【0047】
[試験例2]低脂肪通常発酵品(乳脂肪1.5%)と無脂肪本発明品(乳脂肪0.5%、0.1%)の官能評価試験
乳脂肪分1%以下では、通常濃度(3%)の乳脂肪分を有する発酵乳との官能評価試験は一方的な評価結果となる懸念があったため、1.5%に乳脂肪を減じて通常の発酵を行った発酵乳(コントロール品:Q)と乳脂肪濃度0.5%、0.1%の本発明発酵乳を試験例1同様の官能評価試験に供した。得られた結果を表4、表5に示す。乳脂肪0.5%の本発明発酵乳は「味の濃厚さ(コク)」において通常の製法で調製された乳脂肪分1.5%の発酵乳より「強い」との結果が得られた(表4)。また0.1%の本発明発酵乳は「味の濃厚さ(コク)」においてコントロール品と「同等」との結果が得られた(表5)。一方「舌触りのなめらかさ」はどちらもコントロール品(Q)に劣っており全ての評価軸を考慮した全体的な乳脂肪感については乳脂肪代替物等の添加を検討する必要のあることが判明した。しかしながら、「無脂肪」表示が可能な領域においても本発明発酵乳は乳脂肪感が明確に向上していることを確認することができた。また本発明の方法を用いることで、乳脂肪分0.5%、0.1%の低乳脂肪発酵乳において夫々、通常の製法で調製された1.5%、1.1%の発酵乳と同等以上、すなわち少なくとも1重量%高い乳脂肪分を有する発酵乳と同等の乳脂肪感を有する低乳脂肪発酵乳とすることができた。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
[試験例3]発酵温度と乳脂肪感等との関係検討
乳脂肪分1.5%における、発酵温度が乳脂肪感、組織の堅さに与える影響の検討を行った。発酵温度、発酵時間が変動する以外は実施例1の製造方法にしたがって製造を行い乳脂肪感等の比較対象は乳脂肪3%の通常の発酵を行った発酵乳を用いた。その際、発酵温度の検討範囲は発酵が7時間以内に終了することを目安として設定した。また本発明の適用製品の例として、得られた発酵乳の組織の堅さを目安として前発酵(主にデザートタイプ)、後発酵(主にハードタイプ)の各発酵乳に適用した場合の適合性についても評価した。結果を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
[試験例4]風味の劣化を感じる乳脂肪濃度の検討
本発明の適用範囲を評価するために乳脂肪濃度の異なる通常発酵乳同士での官能評価試験を行った。表7に通常の乳脂肪濃度(3.0%)と2.0%に乳脂肪分を減じた各通常発酵乳間の官能検査結果を示す。その結果、2.0%まで乳脂肪濃度が低下すると「味の濃厚さ(コク)」の評価は若干ぶれているものの「舌触りのなめらかさ」「味のまろやかさ」「味の濃厚さ(コク)」の3つの評価軸共に乳脂肪2.0%発酵乳の評価は低下していることが確認された。したがって総合的に見て2.0%まで乳脂肪濃度が低下すると明確に乳脂肪感の低下を感じ取れることから、本発明の適用対象製品を2.0%以下の乳脂肪分を有する発酵乳製品と設定した。
【0053】
【表7】
【0054】
栄養成分表示基準上は「低脂肪」を謳えるのは食品100g当たりの脂肪含量が3g(乳脂肪分3%)以下のものである。しかしながら発酵乳の場合は通常品自体の脂肪含量が3%程度であるため「低脂肪」の強調表示は脂肪含量1.5%以下の製品に付されている。また「無脂肪」の強調表示は脂肪含量0.5%以下の製品に付されている。本発明の効果はこの「低脂肪」領域から「無脂肪」領域で顕著であるが、2%程度に乳脂肪濃度を減じた製品から発明の効果を明確に確認することができることから、本発明の対象を「低脂肪」や「無脂肪」表示のできる発酵乳に限定せず、通常より乳脂肪含量の少ない発酵乳として乳脂肪含量2.0%以下の製品を対象とできることがわかった。つまり官能評価の結果から、通常品の乳脂肪分が3%程度の時、従来の製造方法では乳脂肪分が2.0%まで低下すると明確に乳脂肪感の低下を感じ取ることができたため(表7)、本発明を適用する乳脂肪感の改善を必要とする発酵乳を乳脂肪分2%以下の発酵乳とできることが明らかとなった。
【0055】
[実施例3] 本発明に係る方法による高SNF低脂肪発酵乳の製造
牛乳36.7kg、脱脂粉乳10.1kg、水51.2kgを混合したミックスを調製した。ミックス組成のSNFおよび乳脂肪は、日本食品標準成分五訂に記載の牛乳の組成(SNF8.8%、乳脂肪3.8%)および脱脂粉乳の組成(SNF95.2%、乳脂肪1.0%)を参照して計算した。次に、調合したミックスを95℃、5分間加熱殺菌した後、38℃まで冷却し、乳酸菌スターター{ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus JCM 1002T)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus ATCC 19258)の混合培養物}2.0%の接種を行った。このミックスにパイプを通して窒素ガスを混合分散させ、溶存酸素濃度を5ppm以下となるように調整した。これを容器に充填し、38℃で発酵させ、pHが4.6に到達した後(発酵時間3時間)、10℃以下に冷却して発酵を停止させ最終製品とした。この場合の最終製品の組成はSNF13.0%、乳脂肪分1.5%である。
【0056】
[試験例5] 本発明の高SNF低脂肪発酵乳と通常の高SNF低脂肪発酵乳との風味の比較
実施例3の製造方法にて本発明発酵乳を調製し、同時に調製した実施例3と同配合の発酵乳ミックスを通常発酵法で発酵した発酵乳に対する5名の専門パネル者を用いた2点強度試験法による官能評価試験を行った。評価項目は「口溶け」「食感のなめらかさ」の2点について行った。その結果、通常の製造方法による発酵乳(Q)に対して、本発明の発酵乳(P)は、それぞれの項目において専門パネル者5名全員が「より良い」と評価した(表8)。以上から本発明品は従来の高SNF低脂肪発酵乳の欠点を改善した「風味の良い高SNF低脂肪発酵乳」となっていることが確認できた。
【0057】
【表8】
【0058】
[実施例4] 本発明に係る方法による通常脂肪発酵乳の製造
牛乳77.2kg、脱脂粉乳6.3kg、水14.5kgを混合したミックスを調製した。ミックス組成のSNFおよび乳脂肪は、日本食品標準成分五訂に記載の牛乳の組成(SNF8.8%、乳脂肪3.8%)および脱脂粉乳の組成(SNF95.2%、乳脂肪1.0%)を参照して計算した。次に、調合したミックスを95℃、5分間加熱殺菌した後、38℃まで冷却し、乳酸菌スターター{ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus JCM 1002T)とストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus ATCC 19258)の混合培養物}2.0%の接種を行った。このミックスにパイプを通して窒素ガスを混合分散させ、溶存酸素濃度を5ppm以下となるように調整した。これを容器に充填し、38℃で発酵させ、pHが4.6に到達した後(発酵時間3時間)、10℃以下に冷却して発酵を停止させ最終製品とした。この場合の最終製品の組成はSNF13.0%、乳脂肪分3.0%である。
【0059】
[試験例6] 本発明の高SNF通常脂肪発酵乳と通常の高SNF通常脂肪発酵乳との風味の比較
実施例4の製造方法にて本発明に係る発酵乳を調製し、同時に調製した実施例4と同配合の発酵乳ミックスを通常の発酵法で発酵した発酵乳に対する5名の専門パネル者を用いた2点強度試験法による官能評価試験を行った。評価項目は「食感のなめらかさ」について行った。その結果、通常の発酵乳に対して、本発明発酵乳は、「食感のなめらかさ」について5名の専門パネル者全員が「より良い」と評価した。以上から本発明に係る発酵乳は従来の高SNF発酵乳の欠点を改善した「風味の良い高SNF発酵乳」となっていることが確認できた。
【0060】
[試験例7] SNF濃度と官能評価結果の関係検討
脂肪分を4.5%に固定し、本発明の高SNF高脂肪発酵乳と通常の高SNF高脂肪発酵乳との風味の比較を3点のSNF濃度で行った。SNF=18、16、13%にて本発明に係る方法と通常の方法で調製した発酵乳(通常品)の風味比較を行った。5名の専門パネル者を用いて「まろやかさ」、「酸味のマイルドな感じ方」を5段階で官能評価してもらった結果を表9に示す。本発明に係る方法で調製した発酵乳は通常の方法で調製した発酵乳に対して「食感のまろやかさ」、「酸味の感じにくさ」共に良い結果を示した。特に今回検討した最も高いSNF濃度であるSNF18%の場合でも本発明品は明確に通常品に比べて風味・食感が優れていると判定されていることから、さらに高いSNF濃度域でも本発明に係る方法により製造された発酵乳はおいしさの点で通常品に比して優れた結果を示すことを予想させる結果であった。
【0061】
【表9】
【0062】
以上より、本発明に係る方法は、風味食感等の改善剤を用いなくとも、高SNF化や低脂肪化に由来する発酵乳の風味食感の低下を製造工程上の工夫により無理なくしかも効果的に抑えることができ、従来無い、より自然な組成を持つ新規でおいしい低脂肪発酵乳、高SNF発酵乳、または高SNF低脂肪発酵乳を市場に提供することができるという顕著な効果を有している。
【0063】
(乳脂肪感の評価方法)
発酵乳Pおよび発酵乳Qの乳脂肪感を比較する場合、専門パネル者を用いた2点強度試験法による官能評価試験を行ない、「舌触りのなめらかさ」、「味のまろやかさ」、「味の濃厚さ(コク)」および「酸味の程度」について評価し、表10に示すA〜Lの専門パネル者の人数に基づき、PおよびQの評価点を下記計算式によって算出し、得られた評価点を比較して行なうことができる。値の大きい方を乳脂肪感が強いと評価できる。
【0064】
【表10】
【0065】
(計算式)
Pの評価点=(A+I)×0.5+(B+J)×1.0+(C+K)×2.0−(D+L)×1.0
Qの評価点=(E+I)×0.5+(F+J)×1.0+(G+K)×2.0−(H+L)×1.0