(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の処理液が、過マンガン酸塩及び重クロム酸塩から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の配線基板のめっき方法。
前記第3の処理液が、25℃において、銅(0)を溶解する速度の2500倍以上の速度で酸化銀(I)を溶解する処理液であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の配線基板のめっき方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について詳述する。以下、窒化物セラミックス焼結体基板からめっきメタライズドセラミックス配線基板を製造する一連の流れを例示して、本発明について説明する。窒化物セラミックスは熱伝導率が高く、そのメタライズ工程において、少なくとも銀及び銅がメタライズ表面に共存するメタライズ層を形成する形態が好適に採用されることから、好適な実施の態様であるといえるが、本発明は当該態様に限定されるものではない。なお、以下においては、特に断らない限り、数値A、Bについて「A〜B」とはA以上B以下を意味する。
【0038】
<めっきメタライズドセラミックス配線基板200の製造方法>
本発明のめっき配線基板の製造方法は、配線基板を作製する(X)工程と、該配線基板の導電パターンにめっきを施す(Y)工程とを有する。
【0039】
<(X)工程>
(X)工程は、メタライズドセラミックス配線基板100を作製する工程である。
図1に、メタライズドセラミックス配線基板100の製造方法の概略を示す。(X)工程は、メタライズドセラミックス配線基板前駆体110を作製する(X1)工程と、該メタライズドセラミックス配線基板前駆体110からメタライズドセラミックス配線基板100を作製する(X2)工程とを有する。以下、順に説明する。
【0040】
<(X1)工程>
(X1)工程においては、窒化物セラミックス焼結体基板10上に第1ペースト層20を形成し、該第1ペースト層20上に第2ペースト層を形成することにより、メタライズドセラミックス配線基板前駆体110を作製する。
【0041】
(窒化物セラミックス焼結体基板10)
窒化物セラミックス焼結体基板10は、所定形状の窒化物セラミックスグリーンシートあるいは窒化物セラミックス顆粒を加圧成形した加圧成形体を焼成する公知の方法により作製することができる。その形状、厚み等は特に制限されない。焼結体原料には、通常用いられる希土類等の焼結助剤を含んでいてもよい。窒化物セラミックス焼結体基板10の表面は、必要に応じて研磨して表面を平滑にしてもよい。窒化物セラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化ジルコニウム、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ニオブ等が挙げられる。中でも、高熱伝導率等の特性を有する窒化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0042】
(第1ペースト層20及び第2ペースト層30)
窒化物セラミックス焼結体基板10上に、銅粉および水素化チタン粉を含む第1ペースト組成物を塗布することにより、第1ペースト層20を形成する。その後、第1ペースト層20上に、銀と銅との合金粉を含む第2ペースト組成物を塗布することにより、第2ペースト層30を形成する。このようにして、メタライズドセラミックス配線基板前駆体110が作製される。
第1ペースト層20および第2ペースト層30は、配線パターンを形成したい箇所に、以下において説明する第1ペースト組成物及び第2ペースト組成物をそれぞれ塗布することにより形成される。ペースト組成物の塗布は、精密配線を形成する観点から、印刷により行うことが好ましい。印刷としては、スクリーン印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷等を採用することができる。ペースト組成物は、採用する印刷法に応じて適宜最適な粘度に調整すればよいが、スクリーン印刷法を用いる場合には、操作性及びパターン再現性を考慮すると、25℃において、粘度が50〜400Pa・sとなるように各成分の量を調整したものを使用することが好ましい。第1ペースト層20を形成後にこれを乾燥させてから、第2ペースト層30を形成して、その後、第2ペースト層30を乾燥させてもよいし、第1ペースト層20および第2ペースト層30を形成後に、これらをまとめて乾燥させてもよい。乾燥方法は、特に限定されず、ペースト層中の溶媒を揮発させることができる方法であればよい。例えば、80〜120℃程度で1分から1時間程度乾燥させる方法を挙げることができる。
【0043】
水素化チタン粉を含む第1ペースト層20と、水素化チタン粉を含まない第2ペースト層30とを積層したメタライズドセラミックス配線基板前駆体110を、後述する(X2)工程で焼成することにより、窒化チタン層60および金属層50が形成される。この窒化チタン層60は、第1ペースト層20のチタン成分と、窒化物セラミックス焼結体基板10中の窒素成分とが反応することにより、窒化物セラミックス焼結体10と金属層50との界面に形成される。
また、水素化チタン粉を含まない第2ペースト層30が存在することにより、後述する(X2)工程においてチタン成分が金属層50の表面に移動することが抑制され、金属層50表面のメッキ性が良好なものとなり、かつ、金属層50の表面のクレーターを低減できる。また、チタン成分が金属層50の表面に移動することが抑制されることにより、窒化チタン層60が、窒化物セラミックス焼結体基板10と金属層50との界面において十分に形成されるため、金属層50と窒化物セラミックス焼結体基板10との密着性がより良好なものとなる。
【0044】
(X1)工程において銀と銅との合金粉を含む第2ペースト層30を形成することにより、金属層50中のボイドを低減することができる。すなわち、(X2)工程において焼成により、第2ペースト層30中の銀と銅との合金粉が、ロウ材として働き溶融し液体となって、第1ペースト層20内部へ浸透し、第1ペースト層20中におけるボイドを埋めることにより、金属層50中のボイドを低減することができる。ボイドの低減により、金属層50の密着性を向上させることができ、また、後述する(Y)工程において金属層50の表面にめっきを行う際に、変色やふくれといった不良の発生を抑制できる。
【0045】
また、第2ペースト層30の金属成分として銀と銅との合金のみを含むようにした場合は、焼成時に上層の第2ペースト層30がロウ材として溶融し、第1ペースト層20に吸収されてしまう(これにより、第一ペースト層20中のボイドが埋められる。)。よって、第2ペースト層30を第1ペースト層20により画定される領域からはみ出して形成した場合であっても、第1ペースト層20が形成されていないために窒化チタン層が形成されない部位において金属層50が窒化セラミックス焼結体基板10から浮く事態を抑制できる。したがって、後述する(Y)工程において、金属層の浮きを原因とするめっきのはみ出しや変色を抑制できる。また、第2ペースト層30のはみ出しを厳密に防止する目的で、第1ペースト層20が画定する領域よりも第2ペースト層30を小さく形成した場合においても、結局、第2ペースト層30は溶融して第1ペースト層20に吸収されてしまうので、形成される金属層50に段差は生じないので、有効利用面積が減少することはない。
【0046】
第1ペースト層20の厚さは、好ましくは3μm以上150μm以下、より好ましくは5μm以上70μm以下である。第2ペースト層30の厚さは、好ましくは3μm以上150μm以下、より好ましくは5μm以上70μm以下である。第1ペースト層20と第2ペースト層30の厚さの比は、好ましくは0.1以上10.0以下(第1ぺースト層/第2ペースト層)、より好ましくは0.2以上5.0以下である。
なお、上記第1ペースト層の厚みは、下記に説明する第1ペースト組成物を窒化物セラミックス焼結体基板10上に塗布し、乾燥することにより、ペースト層中の溶媒を揮発させた後のペースト層の厚みである。また、上記第2ペースト層の厚みも、下記に説明する第2ペースト組成物を第1ペースト層20上に塗布し、乾燥することによりペースト層中の溶媒を揮発させた後のペースト層の厚みである。
【0047】
(ペースト組成物)
第1ペースト層20を形成するための第1ペースト組成物は、銅粉、および、水素化チタン粉を含んでおり、その他、バインダー、分散剤、溶媒を含むものであることが好ましい。また、第2ペースト層30を形成するための第2ペースト組成物は、銀と銅との合金粉を含んでおり、同様に、その他、バインダー、分散剤、溶媒を含むものであることが好ましい。なお、上述したように第1ペースト層20が水素化チタン粉を含むことにより金属層50の密着性が向上するので、ペースト組成物にセラミック粉末を添加する必要はない。絶縁性成分であるセラミック成分をなくすことにより、形成される金属層50の導電性をより良好にできる。
【0048】
第1ペースト層20は、上記した銅粉および水素化チタン粉以外に、銀粉、または、銀と銅との合金粉を含んでいてもよい。その場合、第1ペースト層20において、銅粉100質量部に対して、銀粉、または、銀と銅との合金粉を1質量部以上80質量部以下とすることが好ましい。第1ペースト層20が、銀粉、または、銀と銅との合金粉を含むことにより、金属層50中のボイドを減少させる、金属層50の抵抗値を下げるという効果がある。また、混合させる銀粉、または、銀と銅との合金粉の量が多すぎると、材料価格が高くなり、また、金属層中の液相量が多くなりすぎる為に形状を保持できず、精密な配線パターンを形成する上で支障をきたすおそれがある。また、第1ペースト層20に、上記した銅粉および水素化チタン粉以外に、銀粉および銀と銅との合金粉の両方を含有させてもよい。その場合の含有割合は、上記同様、銅粉100質量部に対して、銀粉および銀と銅との合金粉の合計を1質量部以上80質量部以下とすることが好ましい。
【0049】
第2ペースト層30は、金属成分として、銀と銅との合金粉を含んでなる。ここで、銀と銅との合金粉とは、個別に銀と銅の粉末が存在するのではなく、銀に銅を添加溶解した粉を指す。第2ペースト層30は、金属成分として、銀と銅との合金粉のみを含んでいることが好ましく、かかる構成により、第2ペースト層30は、焼成の際に溶融して、第一ペースト層20に吸収されるので、金属層の浮き及び有効利用面積の減少を抑制することが容易になる。銀と銅との合金粉としては、バインダーの分解温度よりも高い温度で、かつ、銅の融点(1083℃)よりも低い温度で溶融するものであれば、特に限定されないが、例えば、銅成分の含有割合が20〜35質量%であるものが好ましい。中でも、上述した利得を発揮し易く、操作性がよく、さらに、入手が容易なものとしては、Ag−Cuの共晶組成すなわち銅成分の含有割合が28質量%である銀と銅との合金粉を使用することが好ましい。
【0050】
また、第2ペースト層30は、銀と銅との合金粉以外に、銅粉を含んでいてもよい。その場合、第2ペースト層30において、銀と銅との合金粉100質量部に対して、銅粉を1質量部以上300質量部以下とすることが好ましい。第2ペースト層30が銅粉を含むことにより、金属層50の表面をより平滑にできるという効果がある。一方で、混合させる銅粉の量が多すぎると、合金量が相対的に少なくなるために、ボイドを埋める効果が不十分となり、金属層50中にボイドが残存する虞がある。また、第2ペースト層30に、銅粉を含ませる場合は、第2ペースト層30の厚みを、10μm以上とすることが好ましい。一般的に入手可能なロウ材として、粒径10μm程度のものを用いた場合、第2ペースト層30の厚みが薄すぎると、逆に、表面平滑性が悪くなる虞があるからである。なお、ロウ材として5μm以下の粒径の小さなものを用いる場合は、このような問題は生じない。
【0051】
第1ペースト組成物及び第2ペースト組成物は、第1ペースト層20および第2ペースト層30を形成する総てのペースト組成物における銅成分および銀成分の合計量を100質量部として、第1ペースト層20を形成するペースト組成物中の水素化チタン粉を1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。なお、銅成分および銀成分の合計とは、各ペースト組成物中の銀粉、銅粉、および、銀と銅との合金粉の合計をいう。水素化チタン粉の量が少なすぎると、後述する(Y)工程で焼成した後の金属層50の密着性が劣る虞がある。一方、水素化チタン粉の量が多すぎると、金属層50の密着性を向上させる効果が飽和すると共に、金属層50の抵抗が高くなる上に、焼成時に生成する液相の濡れ性が過度に向上するために配線パターンから液相成分がはみ出すため、精密な配線パターンを形成することが困難になる虞がある。なお、第1ペースト層20および第2ペースト層30を形成する総てのペースト組成物における銅成分および銀成分の合計量を基準としたのは、第2ペースト層30を厚く形成することができれば、第1ペースト層20中の水素化チタン粉の配合量を増加することができるからである。
【0052】
第1ペースト層20および第2ペースト層30の全体において、銀成分および銅成分の質量比は、0.15以上0.8以下(銀成分/銅成分)とすることが好ましい。銀成分の量が少なすぎると、金属層50の抵抗が高くなる虞があり、逆に銀成分の含有量が多すぎると、材料価格が高くなり、また、金属層50中の液相量が多くなりすぎる為に形状を保持できず、精密な配線パターンが形成できない虞がある。なお、上記範囲内において、銀成分の含有量を多くすれば、金属層50中のボイドを減少させる、金属層50の抵抗値を下げるという効果がある。
【0053】
具体的には、第1ペースト組成物は、銅粉100質量部に対して、水素化チタン粉を1.0質量部以上20.0質量部以下、好ましくは、2.0質量部以上15.0質量部以下含んでいることが好ましい。
また、第2ペースト組成物は、金属粉として、銀と銅との合金粉のみを用いることが好ましい。
【0054】
第1又は第2ペースト組成物中の銅粉の平均粒子径は、特に制限されるものではなく、従来のペーストに使用されるものと同様の粒子径であればよい。具体的には、該銅粉は、平均粒子径が0.1μm以上5.0μm以下のものを使用することができる。特に、該銅粉は、平均粒子径が好ましくは1.0μm以上5.0μm以下、より好ましくは1.5μm以上3.0μm以下のものを主成分として使用することが好ましい。平均粒子径が1.0μm以上5.0μm以下の銅粉を主成分とする場合には、全銅粉の50質量%未満の範囲で、平均粒子径が好ましくは0.1μm以上1.0μm未満、より好ましくは0.2μm以上0.6μm以下の銅粉を配合することもできる。
【0055】
また、銀粉の平均粒子径も、特に制限されるものではなく、メタライズ用ペーストに通常使用されるものと同様の粒子径であればよい。具体的には、銀粉は、平均粒子径が好ましくは0.1μm以上5.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上4.0μm以下のものが使用できる。
上記範囲の平均粒子径を満足する銅粉、銀粉を使用することにより、スクリーン印刷の印刷性がよくなり、パターン(金属層50)のはみ出しを抑制することができる。さらに、緻密な金属層50を形成できる。金属層50を緻密にできれば、金属層50上にメッキ層を形成する場合において、めっき液が金属層50に浸透しメタライズ層内に残留することによって発生する、メタライズの変色や加熱時のメッキ膜の膨れ等の不具合を防ぐことができる。
【0056】
また、第1又は第2ペースト組成物中の銀と銅との合金粉の平均粒子径も、特に制限されるものではなく、メタライズ用ペーストに通常使用されるものと同様の粒子径であればよい。具体的には、銀と銅との合金粉は、平均粒子径が好ましくは0.1μm以上20μm以下、より好ましくは0.5μm以上10μm以下のものが使用できる。
【0057】
また、第1ペースト組成物中の水素化チタン粉の平均粒径は、特に制限されるものではなく、メタライズ用ペーストに通常使用されるものと同様の粒子径であればよい。具体的には、平均粒子径が好ましくは0.1μm以上20.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上10.0μm以下のものが使用できる。尚、工業的に入手可能な水素化チタン粉は、一般的に粒度分布が広く、平均粒子径が上記範囲内であっても一部粗大粒子を含む場合がある。水素化チタン粉の粗大粒子がペースト組成物中に存在すると、後述するように金属層表面に凹凸が生じる虞があることから、水素化チタン粉は、好ましくは30μm超、より好ましくは20μm超の粒子を含まない粒度分布を有するものを使用することが好ましい。つまり、水素化チタン粉の厳密な意味での上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
なお、上記平均粒子径及び粒度分布は、日機装株式会社製マイクロトラックを用いてレーザー回折法によって測定した値(体積平均値)である。
【0058】
第1又は第2ペースト組成物に含有させるバインダーとしては、公知のものが特に制限無く使用可能である。たとえば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル樹脂、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート等のセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ボリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のビニル基含有樹脂などを使用できる。また、印刷性等を改善する目的で、二種以上の樹脂を混合して使用することもできる。これらの中でも、不活性雰囲気中の焼成において残渣が少ないことから、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0059】
第1又は第2ペースト組成物に含有させる溶媒としては、公知のものが特に制限無く使用可能である。たとえば、トルエン、酢酸エチル、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール等を使用できる。また、印刷適性や保存安定性等を向上する目的で、公知の界面活性剤、可塑剤等を添加することができる。好適に使用できる分散剤としては、リン酸エステル系、ポリカルボン酸系などを例示することができる。
【0060】
(第3ペースト層40)
図2(a)、(b)に示すように、(X1)工程においては、第1ペースト層20と第2ペースト層30との間(
図2(a))、あるいは、第2ペースト層30上に(
図2(b))、銅粉を含む第3ペースト層40をさらに形成してもよい。このように第3ペースト層40を形成する場合、焼成前のメタライズドセラミックス配線基板前駆体の形態は、
図2(a)の「窒化物セラミックス焼結体基板10/第1ペースト層20/第3ペースト層40/第2ペースト層30」と、
図2(b)の「窒化物セラミックス焼結体基板10/第1ペースト層20/第2ペースト層30/第3ペースト層40」の二つの形態がある。第3ペースト層40の形成方法(ペースト組成物の塗布、ペースト粘度など)については、上記した第1ペースト層20における場合と同様である。また、
図2(c)に示したように、第3ペースト層40を第1ペースト層20および第2ペースト層30の間、ならびに、第2ペースト層30の上の、両方に形成してもよい。
【0061】
第3ペースト層40は、上記したように、第1ペースト層20と第2ペースト層30との間、若しくは第2ペースト層30の上、又はその両方に形成される。いずれの場合においても、第3ペースト層40は水素化チタン粉を含む第1ペースト層20の上に形成される。この銅粉を含んでなる第3ペースト層40が第1ペースト層20の上に存在することにより、第1ペースト層中の水素化チタン粉由来の金属層50の表面粗さを低減できる。
【0062】
第3ペースト層40の厚みは、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm以下、さらに好ましくは8μm以上30μm以下である。第3ペースト層40を
図2(c)のように二箇所形成する場合は、合計の層厚が上記範囲内であればよい。第3ペースト層40が薄すぎると、表面を平滑にする効果が薄れ、逆に、厚すぎると表面を平滑にする効果が飽和するほか、第3ペースト層40を第1ペースト層20および第2ペースト層30の間に形成した場合は、焼成の際に溶解した第2ペースト層30が第1ペースト層20中のボイドを埋める作用を阻害する虞がある。
また、第3ペースト層40の第1ペースト層20に対する厚さの比は、好ましくは0.1以上10.0以下(第3ペースト層/第1ペースト層)、より好ましくは0.2以上5.0以下である。
なお、本発明において、第3ペースト層40の厚みは、下記に詳述する第3ペースト組成物を第2ペースト層上に塗布し、乾燥することにより、ペースト層中の溶媒を揮発させた後のペースト層の厚みである。
【0063】
第3ペースト層40を形成するための第3ペースト組成物は、銅粉を含んでおり、その他、バインダー、分散剤、溶媒を含むものであることなどは、上記第1ペースト組成物と同様である。第3ペースト層40には、銅粉以外に、銀粉、銀と銅との合金粉や水素化チタン粉を含んでいてもよいが、表面の平滑性を付与する観点からすると、第3ペースト組成物の金属粉全体を基準(100質量%)として、銅粉の割合を70質量%以上100質量%以下とすることが好ましい。
【0064】
また、第1ペースト層20、第2ペースト層30、および、第3ペースト層40を併せた銅成分と銀成分の合計質量を100質量部として、第一ペースト層20に含まれる水素化チタン粉を1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。第3ペースト層40中の金属粒子の平均粒径については、上記の第1ペースト層20の場合と同様である。また、第1ペースト層20および第2ペースト層30、および、第3ペースト層40を併せた全体における、銅成分に対する銀成分の質量比(銀成分/銅成分)は、0.15以上0.8以下とすることが好ましい。
【0065】
<(X2)工程>
(X2)工程においては、上記(X1)工程において作製したメタライズドセラミックス配線基板前駆体110を焼成することにより、メタライズドセラミックス配線基板100を作製する。焼成により、窒化物セラミックス焼結体基板10上に窒化チタン層60および金属層50が形成される。焼成は、非酸化性雰囲気下、耐熱性容器内で行うことが好ましい。
【0066】
非酸化性雰囲気としては、真空下、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、または水素ガス雰囲気を例示できる。また、不活性ガス、および水素ガスの混合雰囲気であってもよい。これら非酸化性雰囲気の中でも、真空下、または不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気を採用することが好ましい。真空下で焼成を行う場合、雰囲気中の酸素や窒素等の反応性ガスがチタンと反応するのを防ぐ目的から真空度ができるだけ高い方がよく、好ましくは、1.33×10
−1Pa以下、より好ましくは1.33×10
−2Pa以下である。なお、真空度の上限は、特に制限されるものではないが、工業的な生産を考慮すると1.33×10
−4Pa以上である。
【0067】
耐熱性容器は、メタライズドセラミックス配線基板前駆体110を焼成する際の温度に十分耐え得る材質で形成されるものであればよく、焼成時の高温下においても、ガスを透過せず、容器自体からガス発生が無く、且つ気密性の高いものであることが好ましい。この耐熱性容器に好適に使用できる材質を具体的に例示すれば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物焼結体、アルミナ、マグネシア、ジルコニア等の酸化物焼結体、インコロイ、ハステロイ等の耐熱合金類、又は石英ガラス等を例示できる。このうち、焼成時の容器内の均熱性を確保するという点で、熱伝導性に優れる窒化物焼結体が好ましい。
【0068】
耐熱性容器は、焼成工程におけるメタライズドセラミックス配線基板前駆体110近傍の雰囲気を他の焼成炉内の雰囲気から遮断し、ペースト中のバインダーが分解・飛散して炉壁等に再付着した分解物やその他の汚染源が、焼成炉内の温度上昇に伴い再飛散して第1ペースト層20中のチタン成分と反応するのを抑制する役割を果しているものと考えられる。そのため、この耐熱性容器は、焼成工程におけるメタライズドセラミックス配線基板前駆体110近傍の雰囲気を他の焼成炉内の雰囲気から遮断できるように蓋ができる構造のものを使用することが好ましい。また、耐熱性容器は、完全な密閉状態にできるものでもよいが、第1ペースト層20、第2ペースト層30、および、第3ペースト40中のバインダーが熱分解して発生するガスを容器外へ放出するできる程度の隙間を有するものであってもよい。
また、耐熱性容器の形状は、焼成炉内において、耐熱性容器内の温度分布がないような大きさのものが好ましい。このことからも、耐熱性容器は、熱伝導性に優れる窒化物焼結体からなる容器であることが好ましい。
【0069】
焼成は、第2ペースト組成物が銀成分を含んでいることから、銅の融点(1083℃)以下の温度で実施することができる。なお、高い精度の精密配線パターンを形成するためには、800℃以上950℃以下の温度で焼成することが好ましい。上記焼成温度範囲の中で焼成温度を高くすると、金属層50中のボイドが減少するという効果がある。また、焼成時間は、配線パターン、膜厚等に応じて適宜決定すればよく、上記温度範囲で数十秒以上1時間以下保持すれば十分である。
【0070】
このようにして形成された金属層50は、銀と銅との合金相のみからなるのではなく、銀豊富な組成を有する部分と、銅豊富な組成を有する部分とを有する。焼成による金属層50の形成の際には、加熱により一度溶融混合した金属成分が、冷却に伴って固化する。この固化のプロセスにおいて銀成分と銅成分との間で容易に分相が起きる結果、金属層50中には、銀豊富な組成を有する部分と、銅豊富な組成を有する部分とがランダムに分かれて存在する。
本発明の配線基板のめっき方法は、このように分相した金属層の表面に、良好なめっき層を形成することを可能にするものである。以下、(Y)工程について詳述する。
【0071】
<(Y)工程>
(Y)工程においては、上記(X)工程において作製したメタライズドセラミックス配線基板100(以下において、単に「配線基板100」ということがある。)の金属層50(以下において、「導電パターン50」ということがある。)に、めっき処理を施す。
図3に、配線基板100の断面の概略を示す。
図3に示すように、配線基板100の、導電パターン50が存在する表面には、導電パターン50によって覆われている部分と、導電パターン50によって覆われておらず、窒化セラミックス焼結体基板10が露出している部分70、70、…(以下において、「パターン間部分70、70、…」ということがある。)とが存在する。上述したように、導電パターン50は少なくとも銀及び銅を含んでいる。
(Y)工程は、酸化剤を含有する第1の処理液で配線基板100を処理する(A)工程と、酸化銅を溶解する第2の処理液で配線基板100を処理することにより、導電パターン50の表面から酸化銅を除去する(B)工程と、25℃における酸化銀(I)を溶解する速度が25℃における銅(0)を溶解する速度の1000倍以上である第3の処理液で配線基板100を処理することにより、導電パターン50の表面から酸化銀を除去する(C)工程と、導電パターン50に無電解めっきを施す(D)工程と、をこの順に有する。以下、各工程について順に説明する。
【0072】
<(A)工程>
(A)工程は、配線基板100を、酸化剤を含有する第1の処理液で処理する工程である。
図3は、配線基板100の断面を模式的に説明する図である。配線基板において絶縁性基材が露出している部分には、汚染物質が付着していることがある。例えば
図4に示すように、上記(X)工程で作製した配線基板100において、窒化物セラミックス基板10が露出しているパターン間部分70、70、…には、汚染物質80、80、…が付着していることがある。上記(X)工程において厚膜法により作製したメタライズドセラミックス配線基板100においては、汚染物質80、80、…はしばしばペースト組成物の有機成分に由来する炭素性残渣である。汚染物質(80、80、…)がパターン間部分(70、70、…)に存在すると、無電解めっき処理を行った際に、絶縁性基材(10)が露出しているパターン間部分(70、70、…)における望まれないめっき析出の原因となる。
【0073】
なお、汚染物質80、80、…がパターン間部分70、70、…におけるめっき析出を誘発する機構について、本発明者らは次のように推定している。無電解めっきは、電解めっきとは異なり、電極からではなく還元剤(例えば次亜リン酸等。)から供給される電子でめっき用金属(例えばニッケルめっきであればニッケル)の陽イオンを還元することにより、めっき対象物に0価のめっき用金属を析出させる。そのため、実際にめっき用金属を析出させる反応を行うに先立って、めっき対象部分の表面に、還元剤の反応を促進する触媒(例えばパラジウム等)を付着させる処理が行われる。パターン間部分70、70、…に汚染物質80、80、…が付着している場合、該汚染物質80、80、…に触媒成分が残留(例えば吸着等)することがあり、該残留した触媒がパターン間部分70、70、…におけるめっき析出を引き起こす。加えて、めっき用金属が還元剤の反応を触媒する性質を有する金属(例えばニッケル等)である場合には、析出しためっき用金属がさらに還元反応を触媒するため、汚染物質80、80…は微量であってもパターン間部分70、70、…の大部分にめっき用金属が析出する事態が誘発され得る。
【0074】
本発明の配線基板のめっき方法によれば、(A)工程を行うことにより、汚染物質80、80、…をパターン間部分70、70、…から酸化除去できるので、無電解めっき処理を行った際に上記のようなパターン間部分70、70、…におけるめっき析出を抑制することができる。
【0075】
(第1の処理液)
第1の処理液は、溶媒と、該溶媒に溶解された酸化剤とを含んでなる。
溶媒の条件としては、酸化剤を溶解できることが要求される。また、該酸化剤と反応しない(又は反応速度が極めて遅い)こと、及び、配線基板100に対する濡れ性が良いことが好ましい。第1の処理液に使用可能な溶媒としては、例えば水を挙げることができる。
【0076】
使用可能な酸化剤としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸バリウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸アンモニウム等の過マンガン酸塩;重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウム、重クロム酸アンモニウム等の重クロム酸塩、および、クロム酸ナトリウム、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム等のクロム酸塩等の、酸化数が+IV価のクロムのオキソ酸並びにその塩;過塩素酸塩;過硫酸塩等の酸化剤を挙げることができる。これらの中でも、入手容易性等の観点からは過マンガン酸塩、重クロム酸塩、及びクロム酸塩が好ましく、環境影響及び安全性等の観点からは過マンガン酸塩がより好ましく、中でも過マンガン酸カリウムが特に好ましい。
【0077】
第1の処理液中の酸化剤の濃度は、上限が溶媒中への酸化剤の溶解度によって制限される他は、特に制限なく選択することができる。ただし、処理時間を短縮して時間効率を向上させる等の観点からは、ある程度以上の濃度とすることが好ましい。好ましい濃度は酸化剤によって異なるが、例えば溶媒が水であり、酸化剤が過マンガン酸カリウムである場合には、0.5質量%以上とすることが好ましく、1質量%以上とすることがより好ましい。また、反応進行の制御を容易にする等の観点からは、5質量%以下とすることが好ましく、3質量%以下とすることがより好ましい。
【0078】
第1の処理液の液性は、特に制限されるものではない。含有する酸化剤が過マンガン酸塩等のように反応に水素イオンを要する酸化剤である場合には、酸化力を向上させる観点から硫酸酸性とすることが一般的ではあるが、本発明においては、かかる場合であっても、塩基性の液性を採用してもよい。液性を塩基性とすることにより、導電パターン50を構成する金属元素、特に銅がエッチングされる速度を低減することが可能となるので、後述する(B)及び(C)工程において導電パターン50表面のめっき性を良好にすることが容易になり、したがって後述する(D)工程において良好なめっき層を形成することが容易になる。液性を塩基性とする場合、塩基としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができ、pHは例えば約12などとすることができる。
【0079】
第1の処理液として使用することのできる酸化剤含有処理液として市販のものとしては、例えばワールドメタル社製CR−11を挙げることができる。また、第1の処理液には、上記溶媒及び酸化剤の他、添加剤として安定剤等を含有させてもよい。
【0080】
(処理条件)
(A)工程は、第1の処理液を配線基板100に接触させることにより行うことができる。より具体的には、浸漬、塗布、噴霧等により第1の処理液を配線基板100の少なくともパターン間部分70、70、…、好ましくは少なくともパターン間部分70、70、…の全体に接触させる。工業的処理を容易にする観点から、第1の処理液は、配線基板100の全体に接触させてもよい。
(A)工程における処理温度は、特に制限されるものではない。ただし、反応速度を向上させることにより処理効率を向上させる等の観点からは、10℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがより好ましい。また、酸化反応の進行の制御を容易にする等の観点からは、40℃以下とすることが好ましく、30℃以下とすることがより好ましい。
(A)工程における処理時間(配線基板100と第1の処理液との接触時間)は、汚染物質80、80、…が十分に除去され、かつ、導電パターン50が過度の酸化を受けない範囲の処理時間とすることが好ましい。処理時間は、第1の処理液の組成及び反応温度に基づいて、適宜選択することができる。例えば溶媒が水であり、酸化剤が過マンガン酸カリウム(2質量%)であり、液性がpH=12であり、処理温度が25℃である場合には、1分以上10分以下の範囲とすることができる。
【0081】
なお、第1の処理液を配線基板100に接触させてから上記所定の処理時間が経過した後は、配線基板100表面における酸化反応を確実に終了させ、次工程への処理液の持込みを抑制するため、水等による洗浄等により配線基板100の表面から第1の処理液を除去することが好ましい。
【0082】
<(B)工程>
(B)工程は、(A)工程を経た配線基板100を、酸化銅を溶解する第2の処理液で処理することにより、導電パターン50の表面から酸化銅を除去する工程である。
【0083】
上記(A)工程を経た配線基板100の導電パターン50の表面は、第1の処理液に含まれる酸化剤の強力な酸化力により酸化されているため、該表面には少なくとも酸化銅及び酸化銀が生成している。そのため、(A)工程を経た後すぐにめっきを施しても、導電パターン50の表面に良好なめっき膜を形成することは困難である。よって、良好なめっき膜を形成するためには、導電パターン50の表面から上記酸化物を除去する必要がある。
しかし、本発明者が検討したところ、上記酸化物は厚い層をなして形成されているため、めっきの前処理に通常用いられるフッ化アンモニウム−塩酸系の処理液では上記酸化物を十分に除去することが極めて困難であることが判明した。また、上述したように、上記(X)工程で金属層50を形成した際に、一度溶融混合した銀成分と銅成分とが冷却に伴って固化する際に分相を起こし、その結果、銀豊富な組成を有する部分と、銅豊富な組成を有する部分とが、金属層50中においてランダムに分かれて存在することが判明した。上記分相の結果として、(A)工程を経た導電パターン50の表面には、酸化銀を主成分とする酸化物に覆われている部分と、酸化銅を主成分とする酸化物に覆われている部分とがランダムに分かれて存在することも判明した。
銀と銅とは異なる酸化特性を有し、また、酸化銀と酸化銅とは異なる溶解特性を有するため、一の処理液で全ての酸化物を除去することは困難であることが知見された。どちらか一方の酸化物の層が導電パターン50表面に残存する場合、上記分相のために、導電パターン50表面で一様にではなく局所的にめっき性が著しく悪化する。その結果、仮にめっき層を形成できたとしても、めっき性が悪化した部分(酸化物が残留している部分)ではめっき金属(例えばNi)の付着に支障が生じ、変色などの原因となる。また、該めっき金属より貴な電位を有する金属(例えばAu)でさらにめっきを施す場合には、当該めっき性が悪化した部分上において局所的な電池系(例えばNi/Au系局部電池)が形成されて下地のめっき金属(例えばNi)が侵食を受け、その結果めっき表面における変色や表面粗さの増大を招くことも判明した。
【0084】
そこで本発明者は、さらなる検討の結果、(A)工程の後に少なくとも2種類の処理液を所定の順に用いることにより、上記酸化物を確実に除去し、導電パターン50表面のめっき性を良好にして、上記問題を解決できることを見出した。すなわち、本発明の配線基板のめっき方法は、(A)工程の後に(B)工程及び後述する(C)工程をこの順に行うことにより、パターン間部分70、70、…におけるめっき析出を抑制しつつ、導電パターン50に良好なめっき膜を形成することを可能にするものである。
以下、引き続き、(B)工程について説明する。
【0085】
(第2の処理液)
(B)工程において用いる第2の処理液は、酸化銅を溶解除去できる処理液である。第2の処理液としては、銅単体のめっき前エッチング液として公知の処理液を特に制限なく使用可能である。例えば、硫酸−過酸化水素系の水溶液を好ましく用いることができる。
【0086】
第2の処理液として硫酸−過酸化水素系の水溶液を用いる場合には、硫酸の濃度は例えば1質量%以上10質量%以下とすることができる。また過酸化水素の濃度は例えば1質量%以上30質量%以下とすることができる。第2の処理液の液性は酸性であって、pHは例えば2以上5以下とすることができる。
第2の処理液として用いることのできる硫酸−過酸化水素系水溶液として市販のものとしては、例えば三菱瓦斯化学社製CPE−700を挙げることができる。また、硫酸及び過酸化水素の他に、添加剤として安定剤等を含有させてもよい。
【0087】
(処理条件)
(B)工程は、第2の処理液を配線基板100に接触させることにより行うことができる。より具体的には、浸漬、塗布、噴霧等により第2の処理液を配線基板100の少なくとも導体パターン50、好ましくは少なくとも導体パターン50の全体、より好ましくは配線基板100の全体に接触させる。
(B)工程における処理温度は、特に制限されるものではない。ただし、反応速度を向上させることにより処理効率を向上させる等の観点からは、15℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがより好ましい。また、第2の処理液の安定性等の観点からは、特に第2の処理液が硫酸−過酸化水素系である場合には、40℃以下とすることが好ましく、35℃以下とすることがより好ましい。
(B)工程における処理時間(配線基板100と第2の処理液との接触時間)は、導電パターン50表面の酸化銅が十分に除去される程度の時間とすることが好ましく、酸化銅が完全に除去される時間とすることがより好ましい。処理時間は、第2の処理液の組成及び反応温度に基づいて適宜選択することができる。例えば第2の処理液が硫酸−過酸化水素系の水溶液(硫酸2質量%、過酸化水素2.5質量%)であり、処理温度が25℃である場合には、10秒以上300秒以下の範囲とすることができる。
【0088】
なお、第2の処理液を配線基板100に接触させてから上記所定の処理時間が経過した後は、配線基板100表面における酸化銅の除去を確実に終了させ、次工程への処理液の持込みを抑制するため、水等による洗浄等により配線基板100の表面から第2の処理液を除去することが好ましい。
【0089】
<(C)工程>
(C)工程は、(B)工程を経た配線基板100を、酸化銀を溶解する速度が銅を溶解する速度より速い第3の処理液で処理することにより、導電パターン50の表面から酸化銀を除去する工程である。
【0090】
本発明においては、(A)(B)(C)の3工程の順序が極めて重要である。(B)又は(C)工程の後に(A)工程を行った場合、先の(B)又は(C)工程で除去した酸化物が再び導電パターン50上に形成されてしまうので、良好なめっき膜を形成することが困難となる。よって(A)工程は3工程のうち最初に行う必要がある。また、(C)工程を(B)工程より先に行った場合には、(C)工程で酸化銀を除去していても(B)工程で再び酸化銀が生成されてしまい、導電パターン50表面に局所的にめっき性の悪い部分が発生するので、この場合も良好なめっき膜を形成することが困難となる。よって、(C)工程は(B)工程の後に行う必要がある。
【0091】
(第3の処理液)
第3の処理液は、25℃における酸化銀(I)を溶解する速度が25℃における銅(0)を溶解する速度の1000倍以上であることを特徴とする処理液である。第3の処理液は、25℃において、酸化銀(I)を溶解する速度が銅(0)を溶解する速度の2500倍以上であることが好ましく、10000倍以上であることがより好ましい。第3の処理液の酸化銀及び銅に対する溶解速度の関係を上記範囲内とすることにより、導電パターン50表面の銅豊富な組成を有する部分のめっき性を悪化させることなく、銀豊富な組成を有する部分のめっき性を向上させることが容易になるので、後述する(D)工程において導電パターン50表面全体に良好なめっき層を形成することが一層容易になる。
【0092】
また、第3の処理液は、25℃における酸化銀(I)の溶解速度が、1×10
−16mol/s・m
2以上であることが好ましく、2.5×10
−15mol/s・m
2以上であることがより好ましく、また、1×10
−12mol/s・m
2以下であることが好ましい。また、25℃における銅(0)の溶解速度が、1×10
−17mol/s・m
2以下であることが好ましく、5×10
−18mol/s・m
2以下であることがより好ましい。酸化銀(I)の溶解速度を上記下限値以上とすることにより、後述する(C)工程における時間効率を向上させることが容易になる。また、酸化銀(I)の溶解速度を上記上限値以下とすることより、後述する(C)工程における処理条件に対する許容度を向上させることが容易になるので、反応の進行度を制御することが容易になる。また、銅(0)の溶解速度を上記上限値以下にすることにより、(B)工程においてエッチングされた銅(0)の表面状態を良好に維持することが容易になるので、後述する(D)工程において均一なめっき層を形成することが容易になる。
【0093】
第3の処理液としては、溶解速度に関する上記条件を満たすことが容易である観点からは、例えば、過酸化水素及びアンモニアを含有する水溶液(以下において、「過酸化水素−アンモニア系水溶液」ということがある。)を特に好適に採用することができる。
【0094】
第3の処理液として過酸化水素−アンモニア系水溶液を用いる場合には、上記条件を満たす観点から、次のような組成を有することが好ましい。すなわち、過酸化水素の濃度は1質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、23質量%以下が特に好ましい。
【0095】
また、溶液のpHは7.3以上とすることが好ましく、7.8以上とすることがより好ましい。また、10以下とすることが好ましく、9.5以下とすることがより好ましい。pHを上記下限値以上とすることにより、酸化銀の溶解反応(例えばアンモニアとの錯イオン([Ag(NH
3)
2]
+)の形成反応)の速度を高めることが容易になるので、酸化銀及び銅の溶解速度に関する上記条件を満たすことが容易になる。また、pHを10以下にすることにより、過酸化水素の自己分解反応の反応速度を低減することが容易になり、また、pHを9.5以下にすることにより、銅(0)のエッチング速度を低減することが容易になる。なお、溶液中のアンモニア濃度は、溶液のpHが上記範囲内の値をとる濃度とすることが好ましい。
【0096】
第3の処理液が過酸化水素−アンモニア系水溶液である場合には、過酸化水素及びアンモニアに加えて、過酸化水素分解防止等の観点から、リン酸を含有させてもよい。その場合には、リン酸の濃度は例えば0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、また2質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とすることができる。
【0097】
(処理条件)
(C)工程は、第3の処理液を配線基板100に接触させることにより行うことができる。より具体的には、浸漬、塗布、噴霧等により第3の処理液を配線基板100の少なくとも導体パターン50、好ましくは少なくとも導体パターン50の全体、より好ましくは配線基板100の全体に接触させる。
(C)工程における処理温度は、特に制限されるものではない。ただし、反応速度を向上させることにより処理効率を向上させる等の観点からは、15℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがより好ましい。また、第3の処理液の安定性等の観点からは、特に第3の処理液が過酸化水素−アンモニア系である場合には、40℃以下とすることが好ましく、30℃以下とすることがより好ましい。
(C)工程における処理時間(配線基板100と第3の処理液との接触時間)は、導電パターン50表面の酸化銀が十分に除去される程度の時間とすることが好ましく、酸化銀が完全に除去される時間とすることがより好ましい。処理時間は、第3の処理液の組成及び反応温度に基づいて適宜選択することができる。例えば第3の処理液が過酸化水素−アンモニア系水溶液(過酸化水素20質量%、リン酸1質量%、30質量%アンモニア水を加え、pH=9.23に調整した液)であり、処理温度が25℃である場合には、10秒以上120秒以下の範囲とすることができる。
【0098】
なお、第3の処理液を配線基板100に接触させてから上記所定の処理時間が経過した後は、配線基板100表面における酸化銀の除去を確実に終了させ、次工程への処理液の持込みを抑制するため、水等による洗浄等により配線基板100の表面から第3の処理液を除去することが好ましい。
【0099】
<(D)工程>
(D)工程は、上記(A)〜(C)工程を経た配線基板100の導電パターン50に、無電解めっきを施す工程である。(D)工程は、無電解ニッケルめっきを施す(D1)工程と、無電解貴金属めっきを施す(D2)工程とをこの順に有する。かかる構成を有する(D)工程とすることにより、貴金属めっき層の存在によって導電パターンの耐蝕性を向上させることが可能となる。また最表層である貴金属めっき層を構成する貴金属を適宜選択することができるので、電子部品の実装に用いるハンダや、ボンディングワイヤ等との親和性を高めることが容易になる。また、ニッケルめっき層の存在により、貴金属めっき層の密着強度を向上させること、導電パターンの硬さを調整すること、及び、金属層50が含有する銅成分の表層方向へ向けたマイグレーションを防止することが容易になる。以下、順に説明する。
【0100】
<(D1)工程>
(D1)工程においては、上記(A)〜(C)工程を経た配線基板100の導電パターン50に、無電解ニッケルめっきを施す。無電解ニッケルめっきに用いる還元剤としては、無電解ニッケルめっきに使用可能な公知の還元剤を特に制限なく用いることができる。ただし、後述する(D2)工程での無電解貴金属めっき時の耐食性の観点からは、次亜リン酸を還元剤として用いる無電解ニッケルめっき(以下において、「Ni−Pめっき」ということがある。)が好ましい。以下においては、Ni−Pめっきを例にとって説明する。
【0101】
(触媒)
上述したように、導電パターン50の表面には、銅豊富な組成を有する部分と、銀豊富な組成を有する部分とが細かく分かれて存在している。銅豊富な組成を有する部分にはNi−Pめっきによってニッケルを析出させることが比較的難しいので、ニッケルを析出させる前に、導電パターン50表面に触媒を付与することが好ましい。触媒を付与することにより、導電パターン50表面に均一にニッケルを析出させることが容易になる。
次亜リン酸に対しては、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウム等の各種金属元素が触媒作用を有することが知られているが、導電パターン50表面のみに触媒を付与することが容易である観点からは、パラジウムを好ましく用いることができる。パラジウムを触媒として用いる場合には、配線基板100に対してパラジウム含有溶液で処理することにより、配線基板100表面のうち、導電パターン50の表面のみに触媒であるパラジウムを付与することができる。
処理に用いるパラジウム含有溶液はパラジウムイオン(例えばPd
2+)又はパラジウムの錯イオンを含有していればよく、そのようなめっき液として市販のものとしては、例えば上村工業社製MSR28を挙げることができる。触媒としてのパラジウムは、ごく少量付着させるだけで十分である。処理条件は例えば、処理温度を30℃、処理時間を1分とすることができる。
なお、次工程への処理液の持込みを抑制するため、水等による洗浄等により配線基板100の表面からパラジウム含有溶液を除去することが好ましい。
【0102】
(ニッケル析出)
触媒を付与したら、配線基板100をNi−Pめっき液に浸漬等により接触させることにより、導電パターン50上にニッケルを析出させる。Ni−Pめっき液としては、ニッケル(+II)及び次亜リン酸を含有する公知のNi−Pめっき液を特に制限なく用いることができる。使用可能なNi−Pめっき液として市販のものとしては、例えば上村工業社製KPRを挙げることができる。処理温度は、例えば75℃〜85℃などとすることができる。また、処理時間は、めっき配線基板の用途に応じて必要とされるニッケル層の厚さに基づいて適宜決定することができる。
なお、次工程への処理液の持込みを抑制するため、水等による洗浄等により配線基板100の表面からめっき液を除去することが好ましい。
【0103】
<(D2)工程>
(D2)工程においては、上記(D1)工程で形成したニッケルめっき層の表面に、無電解めっきにより貴金属めっき層を形成する。めっき層を形成する貴金属として好ましいものとしては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)を挙げることができる。貴金属めっき層は、単層で構成してもよく、金属元素の異なる複数のめっき層で構成してもよい。複数の貴金属めっき層を有するめっき層構成として特に好ましいものとしては、例えばパラジウムめっきを施してから金めっきを施した、Ni/Pd/Auのめっき層構成を挙げることができる。なお、最表層を構成する貴金属は、実装する素子、ハンダの組成、ボンディングワイヤの素材等に対応して、適宜選択することができる。
以下においては、Ni/Auのめっき層構成を得る形態を第1形態、Ni/Pd/Auのめっき層構成を得る形態を第2形態として、それぞれ説明する。
【0104】
第1形態は、上記(D1)工程で形成したニッケルめっき層の表面に直接金めっきを施す形態であり、公知の金メッキ液を特に制限なく使用可能である。例えば、金ストライクめっきに使用可能な市販の金メッキ液としては、上村工業社製TSB−72(処理温度70℃〜90℃、処理時間2分〜20分)を、厚付金めっきに使用可能な市販の金メッキ液としては、上村工業製TMX−22(処理温度40℃〜55℃、処理時間2分〜60分)を挙げることができる。処理時間は、必要な金の膜厚に応じて適宜選択することができる。
【0105】
第2形態は、上記(D1)工程で形成したニッケルめっき層の表面に無電解パラジウムめっきを施してから、パラジウムめっき層の上に無電解金めっきを施す形態であり、公知のパラジウムめっき液、金めっき液を特に制限なく使用することができる。市販のパラジウムめっき液としては、例えば上村工業社製TPD−30(処理温度40℃〜65℃、処理時間2〜30分)が挙げられる。また、金メッキ液としては、たとえば上記のめっき液を使用することができる。
【0106】
本発明に関する上記説明では、ペースト組成物の印刷等により導電パターンの形状を画定した配線基板にめっき処理を行う形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。エッチングによって導電パターンの形状を画定した配線基板(例えば、銀及び銅を含む金属層を基板の片面全面に有する基板に対してフォトリソグラフィー法によりエッチングを行って導電パターンの形状を画定した配線基板。)にめっき処理を行う形態とすることも可能であり、そのような配線基板のめっき方法、及び、めっき配線基板の製造方法もまた、本発明の配線基板のめっき方法、及び、めっき配線基板の製造方法の技術的範囲に含まれるものである。上記のようにエッチングで導電パターンを形成した場合には、例えばレジストの残渣が絶縁性基材の露出部に汚染物質として付着することがあり、このような汚染物質もパターン間部分におけるめっき析出の原因となり得る。本発明によれば、このようにエッチングで導電パターンを形成した場合にも、絶縁性基材が露出した部分におけるめっき析出を抑制しつつ、導電パターン上に良好なめっき層を形成するという本発明の利得を得ることが可能である。
【0107】
本発明に関する上記説明では、ポストファイア法で作製したメタライズドセラミックス配線基板にめっき処理を行う形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。コファイア法で作製したメタライズドセラミックス配線基板に対して本発明のめっき方法によりめっき処理を行うことも可能であり、そのようなめっき配線基板の製造方法もまた本発明のめっき配線基板の製造方法の技術的範囲に含まれるものである。
【0108】
本発明に関する上記説明では、メタライズドセラミックス配線基板にめっき処理を行う形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。銀及び銅を含む金属層を最外層に有する導電パターンを有する配線基板であれば、セラミックス以外の材料で構成される絶縁性基材を有する配線基板に対して本発明のめっき方法によりめっき処理を行う形態とすることも可能である。セラミックス以外の材料で構成される絶縁性基材を有する配線基板を作製し、該配線基板に本発明のめっき方法によりめっき処理を行う形態もまた、本発明のめっき配線基板の製造方法の技術的範囲に含まれるものである。
【0109】
本発明のめっき配線基板の製造方法に関する上記説明では、メタライズドセラミックス配線基板を製造するにあたり、2層〜4層のペースト層を重ねて形成する形態を例示したが、本発明のめっき配線基板の製造方法は当該形態に限定されない。銀及び銅を含む金属層を最外層に有する導電パターンを有する配線基板を形成する限り、ペースト層を1層だけ形成する形態とすることも可能である。また、ペースト層を5層以上形成する形態とすることも可能である。
【0110】
本発明のめっき配線基板の製造方法に関する上記説明では、銀、銅、及びチタンを含む金属層を形成する形態を例示したが、本発明のめっき配線基板の製造方法は当該形態に限定されない。銀及び銅を含む金属層を最外層に有する導電パターンを有する配線基板を形成する限り、ペースト組成物の組成には関わりなく本発明のめっき配線基板の製造方法の技術的範囲に含まれる。
【0111】
本発明に関する上記説明では、最表層が金であるめっき層を形成する形態を例示したが、本発明の配線基板のめっき方法及びめっき配線基板の製造方法は当該形態に限定されない。最表層のめっき層を構成する金属は、金に限定されず、例えば銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム等、用途に応じて適宜選択することができる。
【0112】
また、本発明に関する上記説明では、ニッケルめっきを施した後に貴金属めっきを施す形態を例示したが、本発明の配線基板のめっき方法及びめっき配線基板の製造方法は当該形態に限定されない。無電解めっきであれば、めっき層の層構成は適宜変更可能であり、例えばニッケル以外の卑金属めっきを下地として貴金属めっきを行う形態、貴金属めっきを行わない形態、また、ニッケル等の卑金属めっきを行わずに直接貴金属めっきを施す形態等も、本発明の配線基板のめっき方法及びめっき配線基板の製造方法の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに詳述する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0114】
<実施例1及び比較例1〜10>
以下の手順により、メタライズドセラミックス配線基板の作製を行い、めっき処理を試みた。
(実施例1)
(第1ペースト組成物の作製)
平均粒子径が0.3μmである銅粉末15質量部、平均粒子径が2μmである銅粉末82質量部及び平均粒子径が5μmである水素化チタン粉末3質量部と、ポリアルキルメタクリレートをターピネオールに溶解させたビヒクルとを乳鉢を用いて予備混合した後、3本ロールミルを用いて分散処理することにより、第1ペースト組成物を作製した。
【0115】
(第2ペースト組成物の作製)
平均粒子径が6μmであるAg−Cu合金粉末(BAg−8、組成:銀72wt%−銅28wt%)と、ポリアルキルメタクリレートをターピネオールに溶解させたビヒクルとを乳鉢を用いて予備混合した後、3本ロールミルを用いて分散処理することにより、第2ペースト組成物を作製した。
【0116】
(メタライズドセラミックス配線基板の製造)
作製した上記第1ペースト組成物をスクリーン印刷法にて厚さ0.64mm、縦横の幅が10mm×15mmの窒化アルミニウム焼結体基板(トクヤマ社製、商品名SH−30)上に印刷し(パターンは最小スペース100μm、最小ライン200μmのテストパターン)、100℃で10分間乾燥させ第1ペースト層を形成した(第1ペースト層の厚みは15μmであった)。この際、第1ペースト層形成前後の基板の質量変化より、基板上に形成された第1ペースト層の質量を算出した。次いで、上記第2ペースト組成物をスクリーン印刷法にて第1ペースト層上に重ねて印刷し、100℃で10分間乾燥させ第2ペースト層を形成した(第2ペースト層の厚みは10μmであった)。この際、第2ペースト層形成前後の基板の質量変化より、基板上に形成された第2ペースト層の質量を算出した。バインダーとして使用したポリアルキルメタクリレートの質量を除いた第1ペースト層と第2ペースト層の質量比(金属成分のみの質量比:第2ペースト層/第1ペースト層)は、0.68であった。この第1ペースト層と第2ペースト層の質量比より、第1ペースト層および第2ペースト層を併せた銅粉と合金粉末の合計量を100質量部としたときの水素化チタン粉の量を算出したところ、1.8質量部であった。また、第1ペースト層および第2ペースト層を併せた銀成分と銅成分の質量比は、0.42(銀成分/銅成分)であった。
【0117】
次いで、真空中(真空度4×10
−3Pa〜8×10
−3Pa)、850℃にて30分間焼成することにより、メタライズドセラミックス配線基板を得た。この際、窒化アルミニウム製のセッター内(密閉容器内)に基板を収容した状態にて基板の焼成をおこなった。得られたメタライズド基板のメタライズ表面の色調は、淡橙色であった。メタライズ層(金属層)の厚みは20μmであった。
なお、金属層の最外層に銀及び銅が存在していることをSEM/EDS(走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)により確認した。
【0118】
((A)工程:第1の処理液で処理)
上記で得られた配線基板を、酸化剤を含有する第1の処理液で処理した。第1の処理液としては、ワールドメタル社製CR−11(過マンガン酸カリウム含有量:2質量%、pH:12)を用いた。配線基板を第1の処理液に25℃にて5分間浸漬した後、配線基板を第1の処理液から引き上げ、水で洗浄した。
【0119】
((B)工程:第2の処理液で処理)
(A)工程を経た配線基板を、硫酸−過酸化水素系の第2の処理液で処理した。第2の処理液としては、三菱瓦斯化学社製CPE−700(硫酸含有量:2質量%、過酸化水素含有量:2.5質量%)を用いた。配線基板を第2の処理液に25℃にて40秒間浸漬した後、配線基板を第2の処理液から引き上げ、水で洗浄した。
【0120】
((C)工程:第3の処理液で処理)
(B)工程を経た配線基板を、第3の処理液で処理した。第3の処理液としては、後述する実施例4に係る過酸化水素−アンモニア系水溶液(過酸化水素含有量:20質量%、リン酸1質量%、pH:8.2、酸化銀溶解速度(25℃):6.9×10
−15mol/s・m
3、銅溶解速度(25℃):1.8×10
−19mol/s・m
3)を用いた。配線基板を第3の処理液に25℃にて40秒間浸漬した後、配線基板を第3の処理液から引き上げ、水で洗浄した。
【0121】
((D)工程:めっき処理)
(C)工程を経た配線基板に、パラジウム触媒付与処理を行い、導電パターン表面に触媒量のパラジウムを付着させた。パラジウム触媒付与処理は、上村工業社製MSR28をめっき液として用い、30℃にて1分間配線基板を浸漬することにより行った。
置換パラジウムめっきの後、Ni−Pめっきを行い、導電パターン上にニッケルめっき層を形成した。Ni−Pめっきは、上村工業社製KPRをめっき液として用い、82℃にて15分間配線基板を浸漬することにより行った。
Ni−Pめっきの後、Pd−Pめっきを行い、ニッケルめっき層の上にパラジウムめっき層を形成した。Pd−Pめっきは、上村工業社製TPD−30をめっき液として用い、50℃にて10分間配線基板を浸漬することにより行った。
Pd−Pめっきの後、Auストライクめっきを行い、パラジウムめっき層の表面に金めっき層を薄く形成した。Auストライクめっきは、上村工業社製TSB−72をめっき液として用い、80℃にて10分間配線基板を浸漬することにより行った。
Auストライクめっきの後、厚付Auめっきを行い、パラジウムめっき層の上に金めっき層を形成した。厚付Auめっきは、上村工業社製TMX−22を用い、50℃にて10分間配線基板を浸漬することにより行った。
上記のようにして、Ni/Pd/Auの層構成を有するめっき層をメタライズドパターン上に有するめっきメタライズドセラミックス配線基板を製造した。
【0122】
(比較例1)
(A)〜(C)工程の代わりに、配線基板を酸性フッ化アンモニウム水溶液(フッ化アンモニウム10g/L、塩酸10質量%)に60℃にて5分間浸漬することにより処理した他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0123】
(比較例2)
(B)工程及び(C)工程を行わなかった他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0124】
(比較例3)
(B)工程及び(C)工程を、配線基板を塩酸酸性フッ化アンモニウム水溶液(フッ化アンモニウム10g/L、塩酸10質量%)に60℃にて5分間浸漬することによる処理に代えた他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0125】
(比較例4)
酸性フッ化アンモニウム水溶液による処理条件を60℃で20分とした他は、比較例3と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0126】
(比較例5)
(C)工程を行わなかった他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0127】
(比較例6)
(B)工程の処理時間を2分とした他は、比較例5と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0128】
(比較例7)
(B)工程を行わなかった他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0129】
(比較例8)
(B)工程と(C)工程の順序を逆にした以外は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0130】
(比較例9)
(C)工程において、第3の処理液として、25℃における酸化銀(I)を溶解する速度が25℃における銅(0)を溶解する速度の9倍である、後述する比較例11に係る過酸化水素−アンモニア系水溶液を用いた他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0131】
(比較例10)
(C)工程において、第3の処理液として、25℃における酸化銀(I)を溶解する速度が25℃における銅(0)を溶解する速度の432倍である、後述する比較例12に係る過酸化水素−アンモニア系水溶液を用いた他は、実施例1と同様にして、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた。
【0132】
(評価方法)
実施例1、及び、比較例1〜10について、200個の試料を作製し、パターン間部分(セラミック露出部)におけるめっき析出の発生率、及び、メタライズドパターン上のめっき膜での変色発生率を算出した。結果を表1に示す。表1において、メタライズドパターン上にめっき膜を形成することができなかった場合の変色発生率の値は「―」で表わしている。
【0133】
【表1】
【0134】
(評価結果)
実施例1:実施例1で作製しためっきメタライズドセラミックス配線基板においては、セラミック露出部におけるめっきの析出は観察されなかった。また、メタライズドパターン上には変色のない良好なめっき皮膜が形成された。
比較例1:(A)〜(C)工程を酸性フッ化アンモニウム水溶液による処理に代えた比較例1で作製しためっきメタライズドセラミックス配線基板においては、メタライズドパターン上には変色のない良好なめっき皮膜が形成されたものの、セラミック露出部におけるめっき析出を防止することができなかった。
比較例2:(B)及び(C)工程を行わなかった比較例2においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかったものの、メタライズドパターン上にめっき膜を形成することができなかった。
比較例3:(B)及び(C)工程を、酸性フッ化アンモニウム水溶液による処理に代えた比較例3においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかったものの、メタライズドパターン上にめっき膜を形成することができなかった。
比較例4:比較例3において、酸性フッ化アンモニウム水溶液による処理時間を延長しても、メタライズドパターン上にめっき膜を形成することはできなかった。
比較例5:(C)工程を行わなかった比較例5においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかった。また、メタライズドパターン上のめっき膜形成も可能ではあった。しかし、メタライズドパターン上のめっき膜には変色が発生した。
比較例6:比較例5において、(B)工程の処理時間を延長しても、めっき膜の変色発生を防止することはできなかった。
比較例7:(B)工程を行わなかった比較例7においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかったものの、メタライズドパターン上にめっき膜を形成することができなかった。
比較例8:(B)工程と(C)工程の順序を逆にした比較例8においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかった。また、メタライズドパターン上のめっき膜形成も可能ではあった。しかし、メタライズドパターン上のめっき膜には変色が発生した。
比較例9:(C)工程において第3の処理液として酸化銀溶解速度が銅溶解速度の1000倍未満(9倍)である処理液を用いた比較例9においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかった。また、メタライズドパターン上のめっき膜形成も可能ではあった。しかし、酸化銀除去の効果が不十分であり、メタライズドパターン上のめっき膜には変色が発生した。
比較例10:(C)工程において第3の処理液として酸化銀溶解速度が銅溶解速度の1000倍未満(432倍)である処理液を用いた比較例10においては、セラミック露出部におけるめっき析出は観察されなかった。また、メタライズドパターン上のめっき膜形成も可能ではあった。しかし、酸化銀除去の効果が不十分であり、メタライズドパターン上のめっき膜には変色が発生した。
【0135】
実施例1の回路部分の断面のSEM(走査電子顕微鏡)像、及び、めっき膜に変色が発生した比較例5の、変色が発生した回路部分の断面のSEM(走査電子顕微鏡)像を、それぞれ
図5及び
図6に示す。なお、Pd層は極めて薄いため、
図5及び
図6では視認できない。
図5に示すように、実施例1では良好なめっき層が形成されていた。これに対し、
図6に示すように、比較例5では、変色部の下部のNiめっきが、めっき下地であるメタライズ層のAg豊富な組成を有する部分を起点に腐食していた。これは、比較例5においては、Ni−Pめっきの前に、Ag豊富な組成を有する部分上に酸化膜が残っていたため、Niめっきが正常に析出せず、その結果、Auめっき時にNiが侵食され変色が発生したものである。
【0136】
以上、実施例1及び比較例1〜8の結果から、本発明によれば、少なくとも銀及び銅を含む金属層が外表面に露出した導電パターンを有する配線基板をめっき処理するにあたって、導電パターン以外の部分におけるめっき析出を抑制でき、かつ、導電パターン表面に良好なめっき層を形成できる、配線基板のめっき方法を提供できることが示された。また、該めっき方法によりめっきを施す工程を含むめっき配線基板の製造方法を提供できることが示された。
【0137】
<実施例2〜5、比較例11〜13>
本発明の第3の態様に係る銀エッチング液について、以下の手順により試験を行った。
【0138】
(評価方法)
過酸化水素20質量%水溶液に、リン酸を1質量%溶解させた液を調製した後、表2に示すpHになるよう、30質量%アンモニア水を添加して、エッチング液を調製した。エッチング液を25℃に保ち、銅板、および銀板を酸化させたもの(空気中300℃で60分間加熱処理したもの)を1分間浸漬してエッチングした。エッチング後のエッチング液中の銅、および銀濃度をICP発光分析法で測定し、結果をエッチングレート(溶解速度)に換算した。結果を表2に併せて示す。
【0139】
【表2】
【0140】
(評価結果)
実施例2〜5に係るエッチング液においては、AgのエッチングレートがCuのエッチングレートの1000倍以上、特に2500倍以上であり、めっき前処理用銀エッチング剤として有用に使用できることが分かる。Agのエッチングレートは、pHが大きくなると早くなる傾向にあり、pH=7.3以上で、1×10
−16mol/s・m
2以上の好適なエッチングレートを得ることができた。pHが7.3未満の比較例11及び12に係るエッチング液においては、Agのエッチングレートが遅く、AgとCuのエッチングレート比が1000倍未満であった。一方、CuのエッチングレートはpH=7.5〜8.22で極小値をとり、その結果AgとCuのエッチングレート比はpH=8.2で極大をとる。pHが10を超える比較例13においては、Cuのエッチングレート上昇の影響でエッチングレート比が低くなることが予想されたが、エッチングレートの測定前に過酸化水素が自己分解を始めたため、測定自体ができなかった。
また、上述したように、比較例11及び12に係るエッチング液は、めっきメタライズドセラミックス配線基板の製造を試みた上記比較例9及び10において第3の処理液として使用したが、銀エッチングの効果が十分ではないため、変色発生率を0%にすることはできなかった。
【0141】
以上、実施例2〜5及び比較例11〜13の結果から、本発明の銀エッチング液によれば、25℃において、銅(0)を溶解する速度の1000倍以上の速度で酸化銀(I)を溶解でき、したがって本発明の配線基板のめっき方法及びめっき配線基板の製造方法におけるめっき前処理液のうち第3の処理液として好適に採用できることが示された。
【0142】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う配線基板のめっき方法、めっき配線基板の製造方法、及び銀エッチング液もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。