(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二撹拌装置は、前記第二処理槽内の前記第一処理済み試料水と前記還元剤とに前記キャリアガスを供給してバブリングするバブリング装置であり、前記第二処理槽内の前記第一処理済み試料水と前記還元剤とを撹拌混合して前記第二混合液とするものであると共に、前記第一処理済み試料水と前記還元剤とを撹拌混合することで生じる塩素ガスを除外するものである請求項1又は2に記載の水溶性セレン分析システム。
前記第一送液ラインはキャピラリであり、このキャピラリの少なくとも一部が前記第一加熱装置に螺旋状に巻き付けられて備えられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性セレン分析システム。
前記第二送液ラインはキャピラリであり、このキャピラリの少なくとも一部が前記第二加熱装置に螺旋状に巻き付けられて備えられている請求項1〜5のいずれか1項に記載の水溶性セレン分析システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者等は、特許文献1及び2に記載の発明に基づき、自動化が容易なフロー方式による水溶性セレン分析について検討を行った。
【0011】
具体的には、第一処理槽と第二処理槽を第一送液ラインで接続し、第二処理槽と第三処理槽(反応槽)とを第二送液ラインで接続し、第一処理槽内における内容物が第二処理槽に向けて送液される過程で試料水の有機物分解処理を行い、第二処理槽内における内容物が第三処理槽に向けて送液される過程で試料水の6価セレンを4価セレンに還元する処理を行うようにして、水溶性セレン分析について検討を行った。その結果、フロー方式によって水溶性セレン分析を高精度に行うためには、さらなる改良が必要であることが本願発明者等の検討により明らかとなった。
【0012】
本発明は、石炭火力発電所における脱硫排水に代表される試料水に含まれる水溶性セレンを、フロー方式で高精度に分析することのできるセレン分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本発明のセレン分析システムは、試料水に含まれる有機物を分解する第一処理を行う第一処理部と、第一処理部から送液される第一処理済み試料水に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する第二処理を行う第二処理部と、第二処理部から送液される第二処理済み試料水に含まれる4価セレンをセレン化水素ガスに還元気化する還元気化部と、還元気化部からガス導入管を介して送り込まれるセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器で検出して得られる信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析部とを有するものとしている。
【0014】
第一処理部は、以下の(1a)〜(1f)を有している。
(1a)試料水を収容する第一処理槽
(1b)第一処理槽内に有機物分解剤として有機物を分解し得る量で且つ第二処理部における還元を阻害しない量の過マンガン酸カリウムを添加する有機物分解剤添加手段
(1c)第一処理槽内の試料水と有機物分解剤とを撹拌混合して第一混合液とする第一撹拌装置
(1d)第一混合液を第二処理部に向けて送液する第一送液装置を備える第一送液ライン
(1e)第一送液ラインを通過中の第一混合液を、有機物が分解される温度に加熱する第一加熱装置
(1f)第一混合液が通過した後の第一送液ラインに、洗浄剤として塩酸を供給する洗浄剤供給手段
【0015】
上記(1a)〜(1e)の構成により、試料水(第一混合液)に含まれる分析妨害成分である有機物が、第一送液ラインを介して第二処理部の第二処理槽に向けて送液される過程で加熱されて分解処理され、第一処理済み試料水となる。つまり、第一送液ラインを介して第一処理槽から第二処理槽に第一混合液をフローさせる過程で、試料水(第一混合液)に含まれる分析妨害成分である有機物が分解処理され、第二処理槽に分析妨害成分である有機物が分解された第一処理済み試料水が供される。
【0016】
また、上記(1f)の構成により、第一混合液が通過した後の第一送液ラインの内壁に析出して付着する二酸化マンガン等の付着物を除去することができる。したがって、二酸化マンガン等の付着物の蓄積による第一送液ライン内の閉塞を確実に防ぐことができる。
【0017】
第二処理部は、以下の(2a)〜(2e)を有している。
(2a)第一処理槽と第一送液ラインで接続され、第一処理済み試料水が送液されて収容される第二処理槽
(2b)第二処理槽内に6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加する還元剤添加手段
(2c)第二処理槽内の第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌混合して第二混合液とする第二撹拌装置
(2d)第二混合液を還元気化部に向けて送液する第二送液装置を備える第二送液ライン
(2e)第二送液ラインを通過中の第二混合液を、6価セレンの4価セレンへの還元反応が進行する温度に加熱する第二加熱装置
【0018】
上記(2a)〜(2e)の構成により、第一処理済み試料水(第二混合液)に含まれる6価セレンが、第二送液ラインを介して還元気化部の反応槽に向けて送液される過程で加熱されて4価セレンに還元され、第二処理済み試料水となる。つまり、第二送液ラインを介して第二処理槽から反応槽に第二混合液をフローさせる過程で、第一処理済み試料水(第二混合液)に含まれる6価セレンが4価セレンに還元され、反応槽に6価セレンが4価セレンに還元され(且つ有機物分解処理され)た第二処理済み試料水が供される。
【0019】
還元気化部は、以下の(3a)〜(3e)を有している。
(3a)第二処理槽と第二送液ラインで接続され、第二処理済み試料水が送液されて収容される密閉構造の反応槽
(3b)反応槽内に第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を供給する水供給手段
(3c)反応槽内とガス導入管内とガス導入管からセレン化水素ガス検知器のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するキャリアガス供給手段
(3d)反応槽内の水が供給された第二処理済み試料水を撹拌する第三撹拌装置
(3e)反応槽内とガス導入管内とガス流通経路とをキャリアガスで置換した後に、第三撹拌装置により撹拌されている反応槽内の水が供給された第二処理済み試料水に、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を、水が供給された第二処理済み試料水からの水素の発生を抑制し得る速度で添加するセレン化水素ガス生成剤添加手段
【0020】
上記(3b)の構成により、第二処理済み試料水からの分析妨害成分たる塩化水素ガスの発生を抑制できる。
【0021】
また、上記(3c)の構成により、第二処理済み試料水から発生する分析妨害成分たる塩素ガスを除外することができると共に、セレン化水素ガス検知器の信号値のベースラインを安定させることができる。
【0022】
さらに、上記(3e)の構成により、セレン化水素ガス検知器にて検出される信号値のピークに分裂が生じなくなる。
【0023】
したがって、上記(3a)〜(3e)の構成により、水溶性セレンの濃度を高精度に分析することが可能となる。
【0024】
分析部は、以下の(4a)〜(4c)を有している。
(4a)反応槽内のヘッドスペースのセレン化水素ガスをガス導入管を介してセレン化水素ガス検知器に送り込むため同伴ガスとしてのキャリアガスをヘッドスペースに供給する同伴ガス供給手段
(4b)ガス導入管全体を、ガス導入管の内壁に結露が生じない温度に加熱する第三加熱装置
(4c)セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析手段
【0025】
上記(4b)の構成により、ガス導入管の内壁に結露が生じるのを防ぐことができるので、結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことによる分析精度の低下を防ぐことができる。よって、上記(4a)〜(4c)の構成によって、反応槽内のヘッドスペースのセレン化水素ガスの全量を確実にセレン化水素ガス検知器に送り込んで、高精度な分析を可能なものとできる。
【0026】
ここで、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、第二処理部は、さらに以下の(1g)の構成を有することが好ましい。
(1g)第一処理槽内に、第一混合液の硫酸濃度を1.3〜3mol/Lとする量の硫酸を添加する硫酸添加手段
【0027】
脱硫排水等の試料水には、分析妨害成分として有機物だけでなく、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素が発生する種類の硫黄化合物が試料水に含まれる場合がある。このような硫黄化合物が試料水に含まれる場合、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって生じる硫化水素によりセレン化水素ガスの検出が妨害されて、分析精度を低下させる要因となり得る。そこで、このように、第一処理槽内に、第一混合液の硫酸濃度を1.3〜3mol/Lとする量の硫酸を添加する硫酸添加手段を設けることで、有機物分解剤である過マンガン酸カリウムの酸化力を増強して、分析妨害成分たる硫黄化合物を分解処理して硫化水素の発生を防ぎ、さらに高精度な分析を可能なものとできる。
【0028】
また、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、第二撹拌装置は、第二処理槽内の第一処理済み試料水と還元剤とにキャリアガスを供給してバブリングするバブリング装置であり、第二処理槽内の第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌混合して第二混合液とするものであると共に、第二混合液から塩素ガスを除外するものであることが好ましい。
【0029】
上記のように、還元気化部の(3c)において、キャリアガス供給手段によって反応槽内をキャリアガスで置換する過程で塩素ガスを除外するようにしてもよい。しかしながら、塩素ガスは、塩酸と第一処理済み試料水とを撹拌混合する過程で発生するものである。したがって、第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌混合をバブリングにより行うことで、撹拌混合過程において塩素ガスを同時に効率よく除外することができ、都合がよい。
【0030】
また、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、還元気化部は、さらに以下の(3f)の構成を有することが好ましい。
(3f)テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を0℃〜25℃に冷却して貯蔵する冷蔵庫
【0031】
25℃超、特に40℃以上の環境では、テトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解による劣化が生じ得る。そこで、このようにテトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を0℃〜25℃に冷却して貯蔵する冷蔵庫をさらに有するものとすることで、テトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解による劣化を防いで、セレン化水素ガス生成剤としてのテトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液の供給を長期に亘って安定に維持できる。
【0032】
さらに、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、第一送液ラインはキャピラリであり、このキャピラリの少なくとも一部が第一加熱装置に螺旋状に巻き付けられて備えられているものとすることが好ましい。これにより、第一混合液の加熱効率を高めて、分析妨害成分の分解処理をより効率的に行うことができると共に、フロー方式による水溶性セレン分析をコンパクトな形態で実現することができる。
【0033】
また、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、第二送液ラインはキャピラリであり、このキャピラリの少なくとも一部が第二加熱装置に螺旋状に巻き付けられて備えられているものとすることが好ましい。これにより、第二混合液の加熱効率を高めて、6価セレンをより効率よく4価セレンに還元処理することができると共に、フロー方式による水溶性セレン分析をコンパクトな形態で実現することができる。
【0034】
さらに、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、分析部は、さらに以下の(4d)の構成を有することが好ましい。
(4d)ガス流通経路を、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発しない温度に加熱する第四加熱装置
【0035】
セレン化水素ガス検知器のセンサ部に至るガス流通経路の内壁は、15℃以下の温度で結露が生じ、結露水にセレン化水素ガスが溶け込んで、分析精度を低下させることがある。そこで、このように、セレン化水素ガス検知器のセンサ部に至るガス流通経路を、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発しない温度に加熱する第四加熱装置をさらに有するものとすることで、セレン化水素ガス検知器のセンサ部に至るガス流通経路の内壁に結露が生じるのを防いで結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことによる分析精度の低下を防ぎながら、センサ部の電解液の蒸発による分析精度への影響を防ぐことができる。
【0036】
本発明の水溶性セレン分析システムは、特に脱硫排水の水溶性セレン濃度の分析に用いて好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明のセレン分析システムによれば、石炭火力発電所における脱硫排水に代表される試料水の水溶性セレン濃度を、フロー方式で高精度に分析することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0040】
本発明の水溶性セレン分析システムの実施形態の一例を
図1に示す。
図1に示す水溶性セレン分析システム1は、大まかには、試料水採取部と、試料水採取部から送液される試料水に含まれる分析妨害成分を分解する第一処理部と、第一処理部から送液される第一処理済み試料水に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する第二処理を行う第二処理部と、第二処理部から送液される第二処理済み試料水に含まれる4価セレンをセレン化水素ガスに還元気化する還元気化部と、還元気化部からガス導入管を介して送り込まれるセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器で検出して得られる信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析部とを有するものとしている。
【0041】
本発明の水溶性セレン分析システムは、石炭火力発電所の脱硫排水(排煙脱硫排水)の水溶性セレン濃度の分析に用いて特に好適であるが、脱硫排水以外の排水等における水溶性セレン濃度の分析、特に脱硫排水と同様に有機物さらには硫黄化合物を含み得る排水等の水溶性セレン濃度の分析に用いることも可能である。以下、本発明の水溶性セレン分析システムの各構成について、詳細に説明する。
【0042】
<試料水採取部>
試料水採取部は、2つの調整槽11及び12と、標準試料貯留槽13とを有し、バルブ11a、バルブ12a及びバルブ13aの開閉によって、いずれかの槽から試料水または標準試料が試料水送液装置15を備える試料水送液ライン16を介して第一処理槽21に送液されるものである。本実施形態のように、2つの調整槽を備えることで、例えば一方の槽にセレン除去処理前の脱硫排水を採取し、他方の槽にセレン除去処理後の脱硫排水を採取して、これらを連続測定することができ、セレン除去処理の状況を検討しやすくなる利点がある。但し、調整槽を2つ備えることは必須条件ではなく、調整槽を1つとしてもよいし、3つ以上としてもよい。
【0043】
調整槽11及び12では、試料水の採取量の調整、さらに必要に応じて採取した試料水を水で希釈する調整等が適宜行われて、第一処理槽21に送液される。
【0044】
試料水の採取量は、試料水の水溶性セレン濃度レベルに応じて適宜選択することができる。本発明の水溶性セレン分析システムによれば、試料水採取量5mLで概ね0.02〜0.3mg−Se/L、試料水採取量2.5mLで概ね0.2〜5.0mg−Se/Lの水溶性セレン濃度の分析が可能である。したがって、試料水採取量は、試料水の水溶性セレン濃度レベルに応じて、例えば0.5〜10mLの範囲内で適宜選択すればよい。但し、試料水採取量は、0.5〜10mLの範囲に限定されるものではない。
【0045】
尚、本発明の水溶性セレン分析システムにおいて、試料水を直接第一処理槽21に採取するようにして、試料水採取部を省略するようにしても構わない
【0046】
<第一処理部>
第一処理部は、以下の(1a)〜(1g)を有している。
(1a)試料水を収容する第一処理槽21
(1b)第一処理槽21内に有機物分解剤として有機物を分解し得る量で且つ第二処理部における還元を阻害しない量の過マンガン酸カリウムを添加する有機物分解剤添加手段22
(1c)第一処理槽21内の試料水と有機物分解剤とを撹拌混合して第一混合液とする第一撹拌装置24
(1d)第一混合液を第二処理部に向けて送液する第一送液装置25を備える第一送液ライン26
(1e)第一送液ライン26を通過中の第一混合液を、有機物が分解される温度に加熱する第一加熱装置27
(1f)第一混合液が通過した後の第一送液ライン26に、洗浄剤として塩酸を供給する洗浄剤供給手段28
(1g)第一処理槽21内に、第一混合液の硫酸濃度を1.3〜3mol/Lとする量の硫酸を添加する硫酸添加手段23
【0047】
第一処理槽21には、試料水採取部から試料水が送液されて、あるいは試料水が直接採取されて収容される。
【0048】
有機物分解剤添加手段22は、第一処理槽21内に、分析妨害成分である有機物を分解するための有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加するものである。試料水に有機物が含まれる場合、これが還元気化部においてセレン化水素ガスの生成を阻害し、分析精度が低下する要因となり得る。過マンガン酸カリウムは、試料水に含まれる有機物を分解して、分析精度の低下を回避する役割を有する。
【0049】
本実施形態において、有機物分解剤添加手段22は、有機物分解剤貯蔵タンク22a内に所定濃度の過マンガン酸カリウム水溶液を貯留しておき、例えばシリンジポンプ等の送液装置により、所定濃度の過マンガン酸カリウム水溶液が第一処理槽21内に所定量添加されるように制御されている。但し、過マンガン酸カリウムの添加形態は、これに限定されるものではない。
【0050】
ここで、過マンガン酸カリウムは、試料水に含まれる有機物を分解し得る量で、且つ余剰分が第二処理部における還元を阻害しない量で添加される。即ち、過マンガン酸カリウムの添加量が多すぎると、余剰分が第二処理部において還元剤である塩酸と以下のように反応し、塩酸の量が低下する。その結果、6価セレンの4価セレンへの還元反応が阻害され得る。
2KMnO
4+16HCl→2MnCl
2+2KCl+5Cl
2+8H
2O ・・・(1)
【0051】
過マンガン酸カリウムの具体的な添加量については、試料水のCOD量の3〜10倍量とすることが好適であり、5〜10倍量とすることがより好適である。COD濃度が16mg−O/Lの試料水を5mL採取した場合を例に挙げて説明すると、1g/L〜3g/Lの過マンガン酸カリウム水溶液を1mL添加すればよい。
【0052】
尚、試料水は、その出所に応じてCOD濃度の変動が一定範囲内に収まっていることが多い。例えば、脱硫排水の場合、COD濃度は概ね10〜30mg−O/Lである。したがって、試料水の出所に応じて、過マンガン酸カリウムの添加量を適切な値に設定することができる。勿論、試料水のCOD濃度を測定し、この測定値に基づいて過マンガン酸カリウムの添加量を分析毎に設定するようにしても構わない。
【0053】
硫酸添加手段23は、第一処理槽21内に、分析妨害成分となり得る硫黄化合物を分解するための硫酸を添加するものである。テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素が発生する種類の硫黄化合物が試料水に含まれる場合、これが還元気化部においてテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素となり、硫化水素によりセレン化水素ガスの検出が妨害されて、分析精度が低下する要因となり得る。硫酸は、試料水に含まれる硫黄化合物を分解して硫化水素の発生を防ぎ、分析精度の低下を回避する役割を有する。硫黄化合物の分解についてより詳細に説明すると、ジチオン酸やヒドロキシルアミンスルホン酸化合物(NS化合物)などの硫黄化合物は、硫酸により酸化力が増強された過マンガン酸カリウムによって酸化分解され、最終的に硫酸イオンとなる。硫酸イオンは化学的に安定であり、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加しても硫化水素ガスは発生しない。したがって、硫酸により酸化力が増強された過マンガン酸カリウムによって、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素ガスを発生し得る硫黄化合物、即ち、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとは反応しない安定な硫黄化合物(硫酸やペルオキソ二硫酸等)以外の硫黄化合物によるセレン化水素ガスの測定の妨害を排除して、精度良く分析することが可能となる。但し、このような硫黄化合物が含まれないことが明らかな試料水を分析対象とする場合には、硫酸添加手段23は省略しても構わない。
【0054】
本実施形態において、硫酸添加手段23は、硫酸貯蔵タンク23a内に所定濃度の硫酸を貯留しておき、例えばシリンジポンプ等の送液装置により、所定濃度の硫酸が第一処理槽21内に所定量添加されるように制御されている。但し、硫酸の添加形態は、これに限定されるものではない。
【0055】
ここで、硫酸は、第一混合液の硫酸濃度が1.3〜3.0mol/Lに調整される量で添加することが好適であり、2.3mol/Lに調整される量で添加することがより好適である。硫酸濃度が低すぎると、硫酸による過マンガン酸カリウムの酸化力を高める効果が低くなるため、有機化合物の分解を十分に行うことができず、分析精度が低下し得る。硫酸濃度が高めすぎると、硫酸の添加量が多くなりすぎて、第一混合液の総量が増加し、反応時間の増加を招くこととなる。具体例を挙げると、硫黄化合物を含む脱硫排水5mLを試料水とした場合、6〜18mol/Lの硫酸を1〜2mL添加して上記濃度とすればよく、9〜12mol/Lの硫酸を1〜2mL添加して上記濃度とすることが好適であり、9mol/Lの硫酸を2mL添加して上記濃度とすることがより好適である。
【0056】
ここで、第一処理槽21内に硫酸添加手段23から硫酸を添加する場合には、試料水→硫酸→過マンガン酸カリウムの順で、あるいは過マンガン酸カリウム→試料水→硫酸の順で、試料水と過マンガン酸カリウムと硫酸の添加タイミングを制御することが好ましい。あるいは、試料水と硫酸を第一撹拌装置24で十分に撹拌混合してから過マンガン酸カリウムを添加すること、または試料水と過マンガン酸カリウムを第一撹拌装置24で十分に撹拌混合してから硫酸を添加することが好ましい。これにより、硫酸の中和反応による試料の沸騰を抑制でき、かつ過マンガン酸カリウムと硫酸とが直接接触して固体生成が生じることによる有機物及び硫黄化合物の分解能の低下を防ぐことができる。
【0057】
第一撹拌装置24は、試料水と有機物分解剤と硫酸とを撹拌混合して第一混合液とするためのものである。本実施形態では、第一撹拌装置24を、第一処理槽21内にキャリアガス(空気)を供給してバブリングすることにより撹拌混合を行うキャリアガス供給手段としているが、これに限定されるものではなく、例えば撹拌翼等を用いるようにしてもよい。
【0058】
第一混合液は、第一処理槽21と第二処理槽31を接続する第一送液ライン26を介して、第一送液装置25により第一処理槽21から第二処理槽31に向けて送液され、その過程で第一加熱装置27により加熱されて分析妨害成分が分解処理される。これにより、フロー方式による分析妨害成分の分解処理が可能となる。
【0059】
本実施形態では、第一加熱装置27を円柱状のヒーターとし、このヒーターに第一送液ライン26としてキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けて備えるようにし、第一送液装置25(例えばペリスタルティックポンプ等)により、第一混合液の流量を制御するようにしている。これにより、第一送液装置25により設定された第一混合液の流量とヒーターに巻き付けられたキャピラリの長さとによって、第一混合液の分析妨害成分の分解処理時間を制御することができる。しかも、ヒーターにキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けることで、フローラインをコンパクトなものとして、システム全体をコンパクトなものとできる。
【0060】
第一加熱装置27による第一混合液の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度だと、有機物と硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高めすぎると、第一混合液が激しく沸騰し、析出した固形物等がキャピラリを閉塞したり、キャピラリ内に気泡が生じ易くなって、第一混合液の流量制御が難しくなったりする場合がある。したがって、加熱温度は、100〜120℃とすることが好適である。
【0061】
第一混合液の分析妨害成分の分解処理時間は、上記温度で15分以上とすることが好適である。これよりも短いと、有機物と硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、分解処理時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化に繋がる。したがって、分解処理時間は、上記温度で概ね15〜30分程度とすればよく、15分〜20分とすることが好適であり、分解処理の確実性を考慮すると、20分程度とすることがより好適である。尚、上記のように、キャピラリを用いることで、加熱効率を高くできるので、送液中の第一混合液を直ちに上記温度に到達させることができる。したがって、例えば第一混合液を容器内で一括して加熱する場合に必要となる上記温度へ到達させるための加熱時間を削減できることになる。
【0062】
尚、第一送液装置25、第一送液ライン26及び第一加熱装置27の構成は、上述の形態に限定されるものではない。例えば、第一送液装置25は、ペリスタルティックポンプ以外の流量制御可能な各種装置を用いるようにしてもよい。第一送液ライン26もキャピラリよりも大口径の配管等を用いるようにしてもよい。また、第一加熱装置27は、第一送液ライン26の外周面の一部又は全体に備えるようにして、第一送液ライン26の一部または全体が加熱されるようにしてもよい。
【0063】
第一混合液が通過した後の第一送液ライン26には、第一混合液に含まれる過マンガン酸カリウムに起因する二酸化マンガン等が析出して、第一送液ライン26を閉塞する、あるいは第一送液ライン26の径が狭まって、次回の分析の際に第一混合液のスムーズな流通が阻害され得る。そこで、本発明では、第一混合液が通過した後の第一送液ライン26に、洗浄液として塩酸を供給する洗浄剤供給手段28を備えるようにしている。塩酸を供給することで、以下に示す化学反応により、第一送液ライン26を閉塞し得る主要な析出物である二酸化マンガンが除去される。
MnO
2+4HCl → MnCl
2+H
2O+Cl
2 ・・・(2)
【0064】
洗浄剤供給手段28は、洗浄剤貯蔵タンク28a内に塩酸を貯蔵しておき、例えばシリンジポンプ等の送液手段を用いて、所定量の塩酸が第一送液ライン26内に添加されるように制御されている。但し、塩酸の添加形態は、これに限定されるものではない。
【0065】
ここで、本実施形態では、洗浄剤供給手段28から第一送液ライン26への洗浄剤の供給を第一処理槽21を介して行うようにしているが、洗浄剤の供給箇所は、これに限定されるものではない。例えば、第一処理槽21と第一送液ライン26との接続部に洗浄剤の供給ラインを設けて、そこから洗浄剤を供給するようにしてもよい。
【0066】
洗浄剤としての塩酸の濃度及び供給量は、第一送液ライン26内の二酸化マンガン等の析出物を除去できる条件であれば特に限定されるものではない。例えば、第一送液ライン26としてキャピラリを用いる場合には、濃塩酸(例えば12mol/L)を1〜5mL、好適には2.5mL供給すればよい。
【0067】
<第二処理部>
第二処理部は、以下の(2a)〜(2e)を有している。
(2a)第一処理槽21と第一送液ライン26で接続され、第一処理済み試料水が送液されて収容される第二処理槽31
(2b)第二処理槽31内に6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加する還元剤添加手段32
(2c)第二処理槽31内の第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌混合して第二混合液とする第二撹拌装置33
(2d)第二混合液を還元気化部に向けて送液する第二送液装置35を備える第二送液ライン36
(2e)第二送液ライン36を通過中の第二混合液を、6価セレンの4価セレンへの還元反応が進行する温度に加熱する第二加熱装置37
【0068】
第二処理槽31には、第一処理部において得られた第一処理済み試料水、即ち試料水に含まれる有機物さらには硫黄化合物が分解処理された試料水が送液されて収容される。
【0069】
還元剤添加手段32は、第二処理槽31内に、第一処理済み試料水に含まれる6価セレン(第一処理部において酸化されて6価セレンとなった、試料水に元々含まれていた4価セレン、及び試料水に元々含まれていた6価セレン)を4価セレンに還元しうるための還元剤として塩酸を添加するものである。還元気化部において添加されるテトラヒドロホウ酸ナトリウムは、4価セレンと反応してセレン化水素ガスを生成させることはできるものの、6価セレンとは反応しない。そこで、還元剤添加手段32により、還元剤として塩酸を添加することで、6価セレンを4価セレンに還元して、第一処理済み試料水に含まれる水溶性セレンを全て4価セレンとして、水溶性セレンの全量を還元気化部において添加されるテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応に供することができる。
【0070】
本実施形態において、還元剤添加手段32は、洗浄剤貯蔵タンク28aから、例えばシリンジポンプ等の送液装置を用いて、所定濃度の塩酸が第二処理槽31内に所定量添加されるように制御されている。より具体的には、バルブ32aによって、洗浄剤貯蔵タンク28aからの塩酸の送液箇所を、第一処理槽21及び第二処理槽31のいずれか一方の槽に切り換え可能としている。このように、塩酸を洗浄剤貯蔵タンク28aから供給するようにすることで、第一処理部における洗浄剤供給手段28と第二処理部における還元剤添加手段32の塩酸貯蔵タンクを共通のものとでき、システム全体のコンパクト化を図ることができる。但し、還元剤添加手段32からの塩酸の添加形態はこれに限定されるものではなく、還元剤添加手段32用の塩酸貯蔵タンクを、洗浄剤貯蔵タンク28aとは別個に設けるようにしてもよい。
【0071】
ここで、塩酸は、第二混合液の塩酸濃度が4mol/L〜6.7mol/Lとなる量を添加することが好適であり、6.7mol/Lとなる量を添加することがより好適である。第二混合液の塩酸濃度が低すぎると、第二混合液に含まれる6価セレンの全量を4価セレンに還元できないことがある。試料水の塩酸濃度を高め過ぎると、塩酸の添加量が多くなりすぎて、第二混合液の総量が増加し、分析時間の長時間化を招くこととなる。具体例を挙げると、脱硫排水5mLを試料水とした場合、濃塩酸(12mol/L)を5mL程度添加することが好適である。
【0072】
第二処理槽31内への第一処理済み試料水及び還元剤の添加の順序は、特に限定されるものではなく、いずれを先に添加してもよいし、同時に添加してもよい。
【0073】
第二撹拌装置33は、本実施形態では、第二処理槽31内の第一処理済み試料水と還元剤にキャリアガス(空気)を供給してバブリングを行うキャリアガス供給手段としている。これにより、第一処理済み試料水と還元剤とが撹拌されて第二混合液となる。さらに、第一処理済み試料水と塩酸を接触させると塩素ガスが発生するので、バブリングにより塩素ガスの除外を行う。例えば、第一処理済み試料水と塩酸を接触させた後、キャリアガス流量を250〜500mL/分、好適には500mL/分として、2〜10分間、好適には2〜3分間、バブリングし続けて、塩素ガスの除外を行うことが好適である。これにより、セレン化水素ガス検知器において、塩素ガスに起因する負のピークの発生による分析の妨害を排除することができる。但し、第二撹拌装置33は、撹拌翼等を用いた撹拌手段とし、塩素ガスの除外を還元気化部において実施してもよい。
【0074】
第二混合液は、第二処理槽31と反応槽41を接続する第二送液ライン36を介して、第二送液装置35により第二処理槽31から反応槽41に向けて送液され、その過程で第二加熱装置37により加熱されて6価セレンが4価セレンに還元処理される。これにより、フロー方式による6価セレンの4価セレンへの還元処理が可能となる。
【0075】
本実施形態では、第二加熱装置37を円柱状のヒーターとし、このヒーターに第二送液ライン36としてキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けて備えるようにし、第二送液装置35(例えばペリスタルティックポンプ等)により、第二混合液の流量を制御するようにしている。これにより、第二送液装置35により設定された第二混合液の流量とヒーターに巻き付けられたキャピラリの長さとによって、第二混合液に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する還元処理時間を制御することができる。しかも、ヒーターにキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けることで、フローラインをコンパクトなものとして、システム全体をコンパクトなものとできる。
【0076】
第二加熱装置37による第二混合液の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度だと、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高めすぎると、分析用試料が激しく沸騰して析出した固形物等がキャピラリを閉塞する虞があったり、キャピラリ内に気泡が生じ易くなって、第二混合液の流量制御が難しくなる場合がある。したがって、加熱温度は、100〜120℃とすることが好適である。
【0077】
第二混合液の6価セレンを4価セレンに還元する時間は、上記温度で10分以上とすることが好適である。これよりも短いと、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下することがある。尚、6価セレンを4価セレンに還元する時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化につながる。したがって、6価セレンを4価セレンに還元する時間は、上記温度で概ね10分〜15分程度とすればよい。尚、上記のように、キャピラリを用いることで、加熱効率を高くできるので、送液中の第二混合液を直ちに上記温度に到達させることができる。したがって、例えば第二混合液を容器内で一括して加熱する場合に必要となる上記温度へ到達させるための加熱時間を削減できることになる。
【0078】
尚、第二送液装置35、第二送液ライン36及び第二加熱装置37の構成は、上述の形態に限定されるものではない。例えば、第二送液装置35は、ペリスタルティックポンプ以外の流量制御可能な各種装置を用いるようにしてもよい。第二送液ライン36もキャピラリよりも大口径の配管等を用いるようにしてもよい。また、第二加熱装置37は、第二送液ライン36の外周面の一部又は全体に備えるようにして、例えば第二送液ライン36の一部または全体が加熱されるようにしてもよい。
【0079】
また、第一処理部における第一加熱装置27による加熱温度と、第二処理部における第二加熱装置37による加熱温度は、一致しているので、第一加熱装置27と第二加熱装置37の熱源を共通としてもよい。あるいは、第一加熱装置27と第二加熱装置37を共通の加熱装置としてもよい。このような形態も本発明に含まれる。
【0080】
<還元気化部>
還元気化部は、以下の(3a)〜(3f)を有している
(3a)第二処理槽31と第二送液ライン36で接続され、第二処理済み試料水が送液されて収容される密閉構造の反応槽41
(3b)反応槽41内に第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を供給する水供給手段42
(3c)反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するキャリアガス供給手段43
(3d)反応槽41内の水が供給された第二処理済み試料水を撹拌する第三撹拌装置44
(3e)反応槽41内とガス導入管51内とガス流通経路とをキャリアガスで置換した後に、第三撹拌装置44により撹拌されている反応槽41内の水が供給された第二処理済み試料水に、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を、セレン化水素ガス検知器52にて検出される信号値のピークが分裂する速度未満で添加するセレン化水素ガス生成剤添加手段45
(3f)テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を0℃〜25℃に冷却して貯蔵する冷蔵庫45a
【0081】
反応槽41には、第二処理部において得られた第二処理済み試料水、即ち試料水に含まれる有機物さらには硫黄化合物が分解処理され、且つ6価セレンが4価セレンに還元処理された試料水が送液されて収容される。
【0082】
ここで、反応槽41は密閉構造としている。これにより、反応槽41内で発生したセレン化水素ガスを反応槽41から漏れ出させることなく、その全量をガス導入管51を介してセレン化水素ガス検知器52に送り込んで分析に供することができる。
【0083】
水供給手段42は、反応槽41内に、第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を供給するものである。これにより、第二処理済み試料水が水で希釈されて(以下、希釈された第二処理済み試料水と呼ぶこともある)、第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生が抑えられ、セレン化水素ガス検知器において異常ピークが生じることによる分析の妨害を排除できる。具体的な水の供給量としては、試料水中の塩酸濃度を2.5〜3.5mol/Lとすることが好適である。水の供給量がこれよりも少ないと、塩化水素ガスの発生を抑えきれず、セレン化水素ガス検知器において異常ピークが検出されて分析が妨害され得る。但し、水の供給量が多すぎると、塩化水素ガスの発生は確実に抑えられる反面、4価セレンの水素化が十分に行えず分析精度が低下し得る。したがって、水の供給量は、希釈された第二処理済み試料水の塩酸濃度を2.5〜3.5mol/Lとする量とすることが好適であり、2.6〜3.3mol/Lとすることがより好適であり、3mol/Lとすることがさらに好適である。
【0084】
尚、水供給手段42からの水の供給タイミングは、特に限定されるものではないが、第二処理済み試料水が反応槽41に送液される前とすることが好適である。この場合、第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を最も抑制し易い。
【0085】
キャリアガス供給手段43は、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するものである。これにより、セレン化水素ガス検知器52の信号のベースラインが安定し、安定した信号値に基づいて精度良く分析を行うことができる。
【0086】
本実施形態では、希釈された第二処理済み試料水にキャリアガス(空気)を供給してバブリングすることにより、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するようにしている。キャリアガス流量は、250〜500mL/分とすることが好適であり、500mL/分とすることがより好適である。バブリング時間は7〜20分間とすることが好適であり、7〜10分間とすることがより好適であり、7分間とすることがさらに好適である。
【0087】
但し、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで一気に置換せず、順に置換するようにしてもよい。例えば、バルブ49aを閉とし、バルブ49bを開として、まずは反応槽41内を十分にキャリアガスで置換し、次いでバルブ49aを開とし、バルブ49bを閉として、反応槽41内も含めてガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するようにしてもよい。この場合、バルブ49aを閉とし、バルブ49bを開として、反応槽41内を3〜10分間、好適には5分間キャリアガス置換(250〜500mL/分、好適には500mL/分)し、バルブ49aを開とし、バルブ49bを閉として、反応槽41内も含めてガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とを2〜10分間、好適には2分間キャリアガス置換(250〜500mL/分、好適には500mL/分)すればよい。尚、ガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路は、同伴ガス供給手段53からの反応槽41のヘッドスペース41aへのキャリアガスの供給により、あるいは、別途備えられたキャリアガス供給手段からのヘッドスペース41へのキャリアガスの供給により、キャリアガスで置換するようにしてもよい。
【0088】
第三撹拌装置44は、例えば撹拌翼であり、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換した後、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応をスムーズに進行させるべく、希釈された第二処理済み試料水を撹拌するために用いられる。
【0089】
セレン化水素ガス生成剤添加手段45は、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換した後、第三撹拌装置44により撹拌されている希釈された第二処理済み試料水に、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を添加して、4価セレンからセレン化水素ガスを生成するものである。
【0090】
本実施形態において、セレン化水素ガス生成剤添加手段45は、セレン化水素ガス生成剤貯蔵タンク45aから、例えばペリスタルティックポンプ等の送液手段を用いて、所定濃度のテトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液が反応槽41内に一定速度で添加されるように制御されている。但し、セレン化水素ガス生成剤添加手段45からのセレン化水素ガス生成剤の添加形態はこれに限定されるものではない。
【0091】
セレン化水素ガス生成剤としてのテトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液は、テトラヒドロホウ酸ナトリウムのみを含むアルカリ性の溶液としてもよいが、例えば、エチレンジアミン四酢酸、水酸化ナトリウムを含むものとしてもよい。テトラヒドロホウ酸ナトリウムは、還元剤として広く用いられている安価で入手し易い物質である反面、分解し易い性質がある。そこで、エチレンジアミン四酢酸を加えることによって、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に溶解させて室温で30日間安定に保存できることが知られている(A. D.Idowu, P. K. Dasgupta, Z. Genfa, and K. Toda: “A Gas-Phase Chemiluminescence -Based Analyzer for Waterborne Arsenic”, Anal. Chem., 78, 7088-7097 (2006))。
【0092】
ここで、セレン化水素ガス生成剤貯蔵タンク45aは、0℃〜25℃、好適には0℃〜10℃に冷却可能な冷蔵庫とすることが好適である。これにより、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を分析環境に影響されることなく、保存することができ、分解劣化していない安定なセレン化水素ガス生成剤を長期に亘って添加することができる。
【0093】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液は、希釈された第二処理済み試料水からの水素の発生を抑制し得る速度で添加される。これにより、希釈された第二処理済み試料水に含まれる塩酸とテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応による急激な水素発生に起因する、セレン化水素ガス検知器52における検出信号値のピーク分裂を回避することができ、セレン化水素ガス検知器52における検出信号値の信頼性を高めて、高精度な分析を可能とする。希釈された第二処理済み試料水からの水素の発生を抑制し得る速度は、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液のテトラヒドロホウ酸ナトリウム濃度と希釈された第二処理済み試料水の塩酸濃度により異なり、一概には規定できないが、希釈された第二処理済み試料水の塩酸濃度が2.5mol/L〜3.5mol/Lであり、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液のテトラヒドロホウ酸ナトリウム濃度が3g/Lである場合には、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液10mLを20秒よりも長時間かけて添加すればよく、40〜60秒間かけて添加することが好適である。添加速度に換算すると、30mL/分未満、好適には10〜15mL/分である。
【0094】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムの添加量については、希釈された第二処理済み試料水に存在していると考えられる4価セレンの全量をセレン化水素に還元しうる量以上の量が適宜選択される。1molのH
2SeO
3(SeO
32−)を還元させてセレン化水素を発生させるためには、3/4molのNaBH
4(BH
4−)が必要である。したがって、4価セレン1mgに対して最低でも0.38mgのNaBH
4が必要である。ここで、希釈された第二処理済み試料水に存在している4価セレンの全量を確実にセレン化水素に還元するためには、希釈された第二処理済み試料水に含まれていると考えられる4価セレンの全量に対して過剰量のテトラヒドロホウ酸ナトリウムの量を添加することが好ましい。即ち、希釈された第二処理済み試料水の4価セレン濃度が1mg/L以下であると仮定した場合には、希釈された第二処理済み試料水1Lに対して0.38mg〜6.7gのテトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加することが好ましく、3.8mg〜3.4gとすることがより好ましく、38mg〜2.0gとすることがさらに好ましい。6.7gを超える量のテトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加しても、セレン化水素の測定に影響を及ぼすことは無いが、セレン化水素発生反応には関与しないので、無駄である。
【0095】
反応槽41内で生成されたセレン化水素ガスは、反応槽41のヘッドスペース41aから分析部に送り込まれて分析に供される。
【0096】
<分析部>
分析部は、以下の(4a)〜(4c)を有している。
(4a)反応槽41内のヘッドスペース41aのセレン化水素ガスをガス導入管51を介してセレン化水素ガス検知器52に送り込むため同伴ガスとしてのキャリアガスをヘッドスペースに供給する同伴ガス供給手段53
(4b)ガス導入管51全体を、ガス導入管の内壁に結露が生じない温度に加熱する第三加熱装置54
(4c)セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析手段55
(4d)ガス流通経路を、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度に加熱する第四加熱装置55
【0097】
セレン化水素ガス検知器52は、セレン化水素ガスを検出することができる各種方式の検知器を用いることができるが、特に、隔膜ガルバニ方式又は濃淡電池方式のセンサ部を有するセレン化水素ガス検知器の使用が好適である。この方式の検知器は、センサ自身が電池を構成するために、検知対象ガスが存在しない場合には残余電流が極めて少なく、そのためゼロ点の安定性が高いと共に、ランニングコストも低いという利点を有している。このような検知器としては、例えばバイオニクス機器製の1GWA/V70等が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えばセンサ部が定電位電解方式である新コスモス電機製PS−7(セレン化水素専用センサユニットCDS−7)等を用いるようにしてもよい。
【0098】
同伴ガス供給手段53は、反応槽41のヘッドスペース41aに滞留するセレン化水素ガスを、キャリアガス(空気)に同伴させ、ガス導入管51を介してセレン化水素ガス検知器52に送り込むためのものである。キャリアガス流量は、反応槽41のヘッドスペース41aのセレン化水素ガスを同伴させてセレン化水素ガス検知器52に送り込める条件であれば特に限定されるものではないが、概ね250mL/分〜500mL/分程度、好適には250mL/分である。尚、本実施形態において、セレン化水素ガスの分析を行う際には、バルブ53aを開、バルブ53bを閉として、同伴ガス供給手段53からのキャリアガスの供給を可能としている。セレン化水素ガスの分析を行わない場合には、バルブ53aを閉、バルブ53bを開として、セレン化水素ガス検知器52のセンサ部をキャリアガスでパージするようにしている。キャリアガスは排気口から排出される。
【0099】
第三加熱装置54は、例えばコードヒーターであり、ガス導入管51の外周面全体を覆って、ガス導入管51の内壁が結露が生じない温度に加熱される。具体的には、加熱温度を80℃〜90℃とすることが好適であり、90℃とすることがより好適である。これにより、ガス導入管51の内壁に生じた結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことによる分析精度の低下を防止できる。
【0100】
ここで、分析環境が15℃を下回る場合には、セレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るガス流通経路を加熱する第四加熱装置55を備えることが好ましい。ガス導入管51から送り込まれるセレン化水素ガスは、セレン化水素ガス検知器52の台座部52aに設けられた貫通孔(ガス流通経路)を介してセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に導入される。分析環境が15℃を下回ると、この貫通孔の壁面に結露が生じて、結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことにより分析精度が低下し得る。そこで、本実施形態では、台座52aを加熱する第四加熱装置55を備えるようにして、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度に加熱するようにしている。具体的な加熱温度は、40℃〜70℃、好適には65℃である。セレン化水素ガス検知器52の台座部52aには、第三加熱装置54から熱が伝達して、ある程度温められているので、第三加熱装置54よりも低い加熱温度で、セレン化水素ガス検知器のセンサ部に至るガス流通経路の内壁の結露を防止できる。しかも、上記温度範囲であれば、センサ部の電解液が蒸発乾固することはなく、分析に悪影響を及ぼすこともない。
【0101】
分析手段55では、セレン化水素ガス検知器52により検出された信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度が分析される。具体的には、例えば検量線法により試料水の水溶性セレン濃度が分析される。検量線法に用いる検量線は、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料から予め求めた水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器52により検出された信号値との相関に基づいて作成されたものである。さらに具体的に説明すると、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料それぞれに対し、実際に試料水を分析する際と同じ条件で分析を行い、水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器52により検出された信号値との相関を例えば最小二乗法などの公知の手法によりフィッティングして検量線を得ることで、試料水を分析した際の信号値から、この検量線を利用して、試料水の水溶性セレン濃度を求めることができる。
【0102】
分析手段55は、コンピュータである。コンピュータは、制御部、記憶部、入力部、表示部、及びメモリを備え、バス等の信号回線により相互に接続されている。また、コンピュータにはデータサーバが通信回線等により接続されており、その通信回線等を介してデータや制御指令等の信号の送受信(入出力)が行われる。制御部は記憶部に記憶されている検量線の係数(傾きと切片)により、試料水から得られた信号値から、試料水の水溶性セレン濃度の解析に係る演算を行うものであり、例えばCPUである。記憶部は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。入力部は少なくとも作業者の命令をCPUに与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。表示部は制御部の制御により文字や図形等の表示を行うものであり、例えばディスプレイである。メモリは制御部が各種制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となる。データサーバはデータを少なくとも記憶可能なサーバである。セレン化水素ガス検知器により出力される信号値はデータサーバに一旦保存された後、コンピュータに送信される。尚、データサーバを備えることなく、セレン化水素ガス検知器52により出力される信号値を直接コンピュータに送信することも可能である。
【0103】
尚、
図1に示す水溶性セレン分析システムにおいて、分析終了後は、反応槽41内の液体が高濃度廃液として廃液タンク61に排出される。また、第一処理部、第二処理部、還元気化部において試料水が送液された槽及びラインには、洗浄水が送液され、送液された洗浄水が反応槽41に送液されて集められ、低濃度廃液として廃液ライン62から排水される。
【0104】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態ではキャリアガスとして空気を用いるようにしていたが、窒素ガス等の不活性ガスを用いてもよい。
【実施例】
【0105】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0106】
図1に示す水溶性セレン分析システムについて、基本条件を以下のように設定して各種実験を実施した。尚、この基本条件は、実施例1〜10における検討に基づいて導き出された条件である。
【0107】
(第一処理部)
試料水 :5mL
第一処理槽21の容量 :30mL
過マンガン酸カリウム水溶液 :1g/L、1mL
硫酸 :(1+1)、2mL
第一加熱装置27の加熱温度 :100℃
第一送液装置25の設定流量 :0.5mL/分
キャピラリ26 :PTFE製、内径1mm、長さ6m
第一混合液の加熱時間 :20分
第一撹拌装置24による撹拌 :空気500mL/分によるバブリング
※過マンガン酸カリウム水溶液→試料水→硫酸の順に添加
【0108】
(第二処理部)
第二処理槽31の容量 :30mL
塩酸 :12M、5mL
第二加熱装置37の加熱温度 :100℃
第二送液装置35の設定流量 :1.5mL/分
キャピラリ36 :PTFE製、内径1mm、長さ6m
第二混合液の加熱時間 :10分
第二撹拌装置による撹拌 :空気500mL/分によるバブリング
バブリング時間 :2〜3分
※第一処理済み試料水→塩酸の順に添加
【0109】
(還元気化部)
反応槽41の容量 :50mL
水供給手段42からの希釈水 :蒸留水、5mL
キャリアガス供給手段43 :空気で7分間バブリング
セレン化水素生成剤(テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液)
:テトラヒドロホウ酸ナトリウム(3g/L)
+EDTA(1.0mmol/L)
+NaOH(0.1mol/L)
セレン化水素生成剤添加速度 :15mL/分、添加量10mL
【0110】
(分析部)
セレン化水素ガス検知器52 :バイオニクス機器社製、型番1GWA/V70
ガス導入管51 :管内径4mm、長さ2m
同伴ガス供給手段53 :空気、250mL/分
第三加熱装置54の加熱温度 :90℃
第四加熱装置55の加熱温度 :65℃
【0111】
(実施例1)
第一処理部における過マンガン酸カリウムの添加量について検討した。
【0112】
試料水は、水溶性セレン濃度が0.055mg/LでCOD濃度が16mg−O/Lの脱硫排水とした。また、過マンガン酸カリウム水溶液の濃度(g/L)は、1.0、2.0、4.0、8.0とした。その他は上記基本条件として水溶性セレン分析を実施した。また、分析終了後の還元気化部の反応槽41内の残液を回収し、水溶性セレン濃度をJIS K0102により測定した。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
過マンガン酸カリウム濃度1.0g/L、2.0g/Lの場合には、セレン測定値に差は見られなかった。しかし、過マンガン酸カリウム濃度が4.0g/L、8.0g/Lの場合には、過マンガン酸カリウム濃度が高濃度になるに従ってセレン測定値が低下し、残液中セレンが増加する傾向が認められた。
【0115】
この原因は、余剰の過マンガン酸カリウムが第二処理部において還元剤である塩酸と反応してしまい、6価セレンの還元不足を引き起こしたことによるものと考えられた。
【0116】
ここで、6価セレンの還元処理には濃塩酸(12M)を用いているため、塩酸濃度を上げることは困難である。また、塩酸の添加量の増加は6価セレン還元処理時間の増加に繋がり、システム全体としての分析時間の増加を引き起こすこととなる。
【0117】
したがって、この問題を解決するためには、試料水の採取量を少なくするか、排水のCOD濃度に適した過マンガン酸カリウム濃度となるように過マンガン酸カリウムの添加量を調整するのがよいと考えられた。
【0118】
ここで、KMnO
4による酸化反応は以下の式で表される。
MnO
4−+8H
++5e
− → Mn
2++4H
2O ・・・(a)
3Mn
2++2MnO
4−+2H
2O → 5MnO
2+4H
+ ・・・(b)
被酸化性物質に対してKMnO
4が過剰に存在する場合、(a)及び(b)式が逐次進行し、MnO
2が生成される。
次に、酸素による酸化反応は以下の式で表される。
O
2+4H
++4e
− → 2H
2O ・・・(c)
(a)式と(c)式より、1molのMnO
4−は、(c)式における酸素一原子の2.5倍の被酸化性物質を酸化することがわかる。つまり、158g(1mol)のKMnO
4は40g−O相当の被酸化性物質を酸化することになる。
ここで、排水の被酸化性物質に必要な酸素量は、COD濃度16mg−O/Lの排水5mLを酸化する場合、0.08mg−Oとなる。
KMnO
4が供給できる酸素量は、例えば4g/LのKMnO
4水溶液1mLを添加する場合、1.0mg−Oとなる。つまり、4g/LのKMnO
4水溶液1mLを添加する場合、有機物分解処理に必要な酸素原子量の12.5倍(1.0/0.08)となる。
同様の計算を行うと、1g/Lでは3.1倍、2g/Lでは6.3倍、8g/Lでは25倍となる(添加量はすべて1mL)。
【0119】
上記計算結果から、排水のCOD量の3〜10倍量、好適には5〜10倍量とすれば、第二処理部における還元反応を阻害することなく、試料水中の有機物を分解処理できるものと考えられた。
【0120】
(実施例2)
実施例1において、
図2に示すように、第一送液ライン(キャピラリ)26内に二酸化マンガンが析出することが確認された。そこで、二酸化マンガンの析出傾向と除去法について検討した。
【0121】
過マンガン酸カリウムの濃度と析出したマンガン(Mn)の割合を表2に示す。尚、析出したマンガンの割合は、添加した過マンガン酸カリウム中のマンガン量と析出したマンガン量を比較して求めた。
【0122】
【表2】
【0123】
過マンガン酸カリウム濃度が1〜4g/Lまで増加するに従って、析出するマンガン(二酸化マンガン)が増加する傾向が見られ、その後一定となった。
【0124】
二酸化マンガンの析出によりキャピラリ26内が詰まる可能性があることから、第一混合液(試料水と過マンガン酸カリウム、さらには硫酸の混合液)がキャピラリ26を通過した後に、キャピラリ26内を洗浄する必要があると考えられた。
【0125】
そこで、濃塩酸(12M)をキャピラリ26に通過させて洗浄を行ったところ、析出物を除去できることが確認された。また、濃塩酸の量は、1〜5mLが好適であり、2.5mLがより好適であった。
【0126】
(実施例3)
第二処理部において第一処理済み試料水に塩酸が接触すると塩素ガスが発生し、この塩素ガスが分析の妨害成分となることを突き止めた。そこで、この塩素ガスを除外する方法としてバブリングが有効と考え、有効なバブリング時間について検討した。
【0127】
試料水はブランク(蒸留水)5mLとし、第一処理槽に試料水を収容して、上記基本条件に従い、実験を実施した。バブリング時間は、5秒、1分、2分とした。
【0128】
セレン化水素ガス検知器52による信号強度の経時変化を
図3に示す。図中点線がベースラインである。バブリング時間が5秒の場合には負のピークが観察され、バブリング時間を長くするにつれて負のピークは減少した。そして、バブリング時間が2分の場合には負のピークは認められなくなった。
【0129】
したがって、第二処理槽31に塩酸を添加した後、空気で2〜10分、好適には2〜3分バブリングすることが好ましいと考えられた。
【0130】
また、空気(キャリアガス)の流量について検討した結果、250〜500mL/分とすることが好適であり、500mL/分とすることがより好適であることがわかった。
【0131】
(実施例4)
フロー方式の水溶性セレン分析システムについて種々検討した結果、分析時にセレン化水素ガス検知器52のベースラインが安定せず、このことが分析精度を低下させる要因となることを突き止めた。そこで、その対策として、反応槽41内をキャリアガス供給手段43によりバブリングして反応槽41内とガスライン(ガス導入管51とセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るガス流通経路)をキャリアガス置換することが有効と考え、反応槽41内とガスラインのキャリアガス置換時間について検討した。
【0132】
試料水は0.1mg/Lのセレン標準溶液5mLとした。
【0133】
反応槽41内のキャリアガス置換は、バルブ49aを閉じ、バルブ49bを開けて実施した。ガスラインのキャリアガス置換は、バルブ49bを閉じ、バルブ49aを開けて実施した。
【0134】
結果を
図4に示す。反応槽41を300秒(5分間)置換し、ガスラインを300秒(5分間)置換することで、ベースラインが安定することが確認された。
【0135】
また、ガスライン置換の時間を振ってベースラインの安定について検討した結果、0分、1分ではベースラインは安定しなかったが、2分、3分、5分ではベースラインが安定した。
【0136】
以上の結果から、反応槽41内のキャリアガス置換時間は、3〜10分、好適には5分程度であり、ガスラインのキャリアガス置換時間は、2〜10分、好適には2分であること考えられた。
【0137】
尚、以上の結果から、反応槽41内をキャリアガス供給手段43によりバブリングして反応槽41内とガスラインを一気にキャリアガス置換する場合には、キャリアガス置換時間を7〜20分間とすることが好適であり、7分間とすることがさらに好適であると考えられた。
【0138】
また、空気(キャリアガス)の流量について検討した結果、250〜500mL/分とすることが好適であり、500mL/分とすることがより好適であることがわかった。
【0139】
(実施例5)
フロー方式の水溶性セレン分析システムについて種々検討した結果、反応槽41において、第二処理済み試料水から塩化水素ガスが発生し、これが分析を妨害することを突き止めた。そこで、セレン測定を妨害する塩化水素ガスの発生を抑制する方法について、水による希釈が有効と考え、検討を行った。
【0140】
試料水は0.1mg/Lのセレン標準溶液5mLとした。反応槽41に予め希釈水として蒸留水を0,1,2.5、5、10mL添加し、セレン化水素ガス検知器52による信号値への影響を検討した。尚、第二処理済み試料水を希釈水で希釈した場合の塩酸濃度は、0mL(添加無し)で4.6mol/L、1mL希釈で4.2mol/L、2.5mL希釈で3.9mol/L、5mL希釈で3.3mol/L、10mL希釈で2.6mol/Lである。
【0141】
蒸留水を2.5mL、5.0mLとした場合の結果を
図5に示す。蒸留水を2.5mLとした場合には、第二処理済み試料水が反応槽31に送液されると異常な極大ピークが検出された。これは、第二処理部で塩酸を添加して加熱処理を行ったことで、塩化水素ガスが発生したことに起因すると考えられた。
【0142】
一方、蒸留水を5.0mLとした場合には、塩化水素の妨害による異常な極大ピークは見られず、セレン検出ピークははっきりと認められた。
【0143】
また、蒸留水を0,1,2.5、5、10mLとした場合の塩化水素ガスによる妨害の有無を表3に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
蒸留水を5、10mLとした場合には、塩化水素の妨害による異常な極大ピークは見られず、セレン検出ピークははっきりと認められた。
【0146】
以上の結果から、試料水を5mLとした場合には、希釈水としての蒸留水を5〜10mL添加することが好適であり、液量を少なくしてテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応性を高めるためには、5mLとすることがより好適であることが明らかとなった。この実験結果を考慮すると、第二処理済み試料水を希釈水で希釈した場合の塩酸濃度を2.5〜3.5mol/Lとすることが好適であり、2.6〜3.3mol/Lとすることがより好適であり、3mol/Lとすることがさらに好適であることが明らかとなった。
【0147】
(実施例6)
テトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解抑制について検討した。
【0148】
具体的には、上記基本条件に示したセレン化水素ガス生成剤(テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液)を4℃、25℃、40℃で保管し、塩酸(6M)と混合させて発生する水素(化学反応式(3)を参照)の量から、テトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解状況を検討した。
BH
4−+H
++3H
2O → 4H
2+B(OH)
3 ・・・(3)
【0149】
結果を
図6に示す。保管温度を40℃とした場合には、テトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解が著しく、30日後には3%以下に減少することが明らかとなった。これに対し、保管温度を25℃とすることでテトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解を抑えることができ、保管温度を0℃とすることでテトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解を完全に抑えることができることが明らかとなった。
【0150】
尚、各保管温度における反応速度定数は以下の通りであった。
・0℃ :0.0015 1/日
・25℃:0.011 1/日
・40℃:0.094 1/日
【0151】
以上の結果から、空調の効かない場所に本発明の水溶性セレン分析システムを設置する場合、夏季の猛暑等によるテトラヒドロホウ酸ナトリウムの分解を抑制するためには、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を冷却保管するための冷蔵庫を備えることが望ましいことがわかった。冷却温度は、0℃〜25℃とすることが好適であり、0℃〜10℃とすることがより好適であると考えられた。
【0152】
(実施例7)
テトラヒドロホウ酸ナトリウムの添加速度について検討した。
【0153】
試料水は0.1mg/Lセレン標準試料とした。そして、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液の添加速度を15mL/分、30mL/分として、合計10mL添加し、セレン化水素ガス検知器52で検出される信号値の形状を観察した。
【0154】
結果を
図7に示す。30mL/分(20秒間添加)の場合、セレン化水素ガス検知器52で検出される信号値のピーク形状が分裂した。これに対し、15mL/分(40秒間)の場合には、ピーク形状が分裂することなく検出された。
【0155】
以上の結果から、テトラヒドロホウ酸ナトリウムの添加速度をコントロールすることで、セレン化水素ガス検知器52で検出される信号値形状のピーク分裂を回避できることが明らかとなった。
【0156】
具体的には、30mL/分未満、好適には15mL/分以下で、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加するのがよいと考えられた。
【0157】
(実施例8)
上記基本条件にて脱硫排水5mLの分析を実施していたところ、ガス導入管51の内壁に結露が生じ、分析精度が低下した。つまり、結露水にセレン化水素ガスがトラップされ、分析精度が低下するものと考えられた。そこで、その対策として、除湿剤の配置を検討したが、セレン化水素ガスが除湿剤に吸着されてしまうことが明らかとなった。そこで、結露対策として、ガス導入管51の加熱について検討した。
【0158】
水溶性セレン濃度が0.097mg/Lの脱硫排水5mLを試料水とし、ガス導入管51の外周全面をラバーヒーターで覆って、ヒーターの温度を25℃、70℃、80℃、90℃として実験を実施した。
【0159】
結果を
図8と表4に示す。
【0160】
【表4】
【0161】
加熱温度25℃、70℃では、分析値は低く評価された。したがって、これらの温度では、結露の発生を抑えられないと考えられた。これに対し、80℃、90℃では、仕込み濃度と同等の分析値が得られ、結露が十分に抑えられると考えられた。
【0162】
以上の結果から、ガス導入管51の全体を、ガス導入管21の内壁にて結露が生じない温度である80℃〜90℃、好適には90℃に加熱することが好ましいことが明らかとなった。
【0163】
(実施例9)
上記基本条件にて脱硫排水5mLの連続測定を実施していたところ、15℃を下回る気温でセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るガス流通経路の内壁(台座52aのセレン化水素ガスが流通する貫通孔の壁面)に結露が認められた。そこで、環境温度10〜15℃における台座52aの加熱の有無について、
図15に示す公定法により得られる分析値と比較検討を行った。結果を
図9と
図10、表5と表6に示す。加熱温度は65℃とした。
【0164】
【表5】
【0165】
【表6】
【0166】
台座52aを加熱しない場合、結露水の影響により、本発明の水溶性セレン分析システムによる分析値は公定法分析値よりも低い値となった(
図9及び表5)。これに対し、台座52aを加熱した場合、本発明の水溶性セレン分析システムによる分析値は公定法分析値と高い相関が得られた(
図10及び表6)。
【0167】
また、加熱温度についてさらに検討した結果、台座52aの加熱温度は、40〜70℃が好適であり、65℃がより好適であることが明らかとなった。
【0168】
(実施例10)
排水には、硫黄化合物が含まれる場合があり、硫黄化合物の一部がテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して還元されることによって、硫化水素ガスが発生することが文献1及び2において報告されている。硫化水素ガスはセレン化水素ガス検知器52によるセレン化水素ガスの検出を妨害する成分である。脱硫排水にもテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素を発生してセレン化水素ガスの測定を妨害する種類の硫黄化合物が含まれる可能性があることから、硫黄化合物の影響を排除する方法について検討した。
・文献1:W.kijowski and P.A.Steudler, "Determination of total reduced sulfur in natural waters", Limnol.Oceanogr., 27(5),975-978,(1982)
・文献2:J.F.Tysona and C.D.Palmerb, "Simultaneous detection of selenium by atomic fluorescence and sulfur by molecular emission by flow-injection hydride generation with on-line reduction for the determination of selenate, sulfate and sulfite", Anal. Chim. Act.,652(1-2),251-258,(2009)
【0169】
試料水を脱硫排水5mLとした。また、第一処理部における硫酸添加条件は以下の通りとした。
(1)硫酸添加なし
(2)3mol/L、1mL
(3)3mol/L、2mL
(4)6mol/L、1mL
(5)6mol/L、2mL
(6)9mol/L、1mL
(7)9mol/L、2mL
(8)12mol/L、1mL
(9)12mol/L、2mL
(10)18mol/L、1mL
(11)18mol/L、2mL
【0170】
過マンガン酸カリウム水溶液の濃度は2g/L(1mL添加)とした。
【0171】
結果を
図11及び表7に示す。硫酸を添加しない場合、3mol/Lの硫酸を1mLまたは2mL添加した場合、6mol/Lの硫酸を1mL添加した場合には、硫化水素による妨害(異常ピーク)が確認された。これに対し、6mol/Lの硫酸を2mL添加した場合、硫酸濃度を9mol/L以上とした場合には、異常ピークは確認されなかった。
【表7】
【0172】
この結果から、第一混合液の硫酸濃度を1.3〜3.0mol/Lとすれば、硫黄化合物を分解して、硫黄化合物に起因する異常ピークを回避できることが明らかとなった。
【0173】
次に、ブランク試料、セレン標準試料、脱硫排水試料に硫黄化合物8種を100mg/Lとなるように標準添加し、硫化水素発生によるセレン化水素ガス検知器52に対する妨害について検討した。結果を表8に示す。尚、表8中、HAOSはヒドロキシルアミン−O−スルホン酸である。また、HABSはヒドロキシルアミン−N,O−ビススルホン酸である。また、前処理なしとは、第一処理部による第一処理を省略したことを意味している。前処理10分とは、第一処理部において100℃で10分間加熱したことを意味している。前処理20分とは、第一処理部において100℃で20分間加熱したことを意味している。
【0174】
【表8】
【0175】
前処理20分の場合は、どの試料においても異常ピークは認められなかった。
【0176】
前処理10分の場合は、ジチオン酸イオンを添加した試料において異常ピークが認められた。
【0177】
前処理なしでは、亜硫酸、チオ硫酸、ジチオン酸、HAOS、イミドジスルホン酸、HABSイオンを添加した6試料において異常ピークが認められた。
【0178】
次に、脱硫排水5種において排水中の硫黄化合物濃度を測定した。結果を表9に示す。
【0179】
【表9】
【0180】
5種試料全てにおいてジチオン酸イオンが100mg/L以上含まれ、HABSイオンが4種で0.9〜58mg/L含まれていた。
【0181】
5種試料全てについて、第一処理部において100℃で20分間加熱したところ、異常ピークは認められなかった。但し、10分間加熱では異常ピークが認められた。
【0182】
次に、セレン標準試料(0.1mg/L)に100mg/Lのジチオン酸を添加した試料水5mL(標準試料と呼ぶ)、脱硫排水試料(Se:0.042mg/L、ジチオン酸イオン:160mg/L)に100mg/Lのジチオン酸イオンを添加した試料水5mL(排水試料)について、第一処理部における加熱時間を各種変更して異常ピークの有無を検討した。結果を表10に示す。
【表10】
【0183】
加熱時間が10分、12分の場合には、いずれの試料においても異常ピークが検出されたのに対し、15分以上とした場合には、いずれの試料においても異常ピークは検出されなかった。
【0184】
また、加熱時間15分の場合について、セレン濃度を分析した結果、標準試料で0.115mg/L、排水試料で0.04mg/Lであり、試料のセレン濃度とほぼ一致していた。
【0185】
以上の結果から、第一処理部における加熱時間は、15〜30分、好適には20分であることがわかった。
【0186】
(実施例11)
上記基本条件に基づいてセレン標準試料により検量線を作成した。試料水を5mLとした場合を
図12に示し、試料水を2.5mLとした場合を
図13に示す。
【0187】
試料水5mLの場合、得られたデータ及び検量線から、定量下限(10σ)〜定量上限(上限1000mVより算出)は、0.017mg−Se/L〜0.35mg−Se/Lであることがわかった。
【0188】
また、試料水2.5mLの場合、得られたデータ及び検量線から、定量下限(10σ)〜定量上限(上限1000mVより算出)は、0.2mg−Se/L〜5.3mg−Se/Lであることがわかった。
【0189】
(実施例12)
1ヶ月間にわたり、石炭火力発電所の脱硫排水A及びBの連続分析試験を行った。脱硫排水A及びBは交互に分析に供した。測定頻度は、本発明の水溶性セレン分析システムを用いた場合は8回/日、
図15に示す公定法を用いた場合は5回/週とした。
【0190】
結果を
図14に示す。公定法測定値と相関性の高い結果(r=0.93)が得られた。