(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
旋光性は、入射された直線偏光の偏光面を回転させる物質の性質であり、旋光性を有する物質に直線偏光を入射した場合に偏光面が回転する角度は旋光度と呼ばれる。試料が溶液である場合、溶液の旋光度を、溶液を直線偏光が透過した長さ及び溶質の濃度で除した値は、比旋光度と呼ばれ、比旋光度は物質に固有の値である。比旋光度が未知の物質がある場合は、この物質を溶質として特定の濃度の溶液を作成し、作成した溶液の旋光度を測定し、濃度と測定した旋光度とから物質の比旋光度を求めることができる。逆に、比旋光度が既知の物質が溶質となった溶液がある場合は、溶液の旋光度を測定し、既知の旋光度と測定した旋光度とから、溶液中の物質の濃度を求めることができる。
【0003】
溶液試料の旋光度を測定する旋光計は、光源からの光を偏光子に通すことで直線偏光を発生させ、溶液試料に直線偏光を入射し、溶液試料を透過した直線偏光を検光子へ入射し、検光子を透過した光量を検出する。検光子を透過した光量を検出しながら検光子を回転させ、検光子を透過する光量がゼロとなる検光子の回転角度を求めることにより、直線偏光が溶液試料を透過する際に偏光面が回転した角度、即ち溶液試料の旋光度を求めることができる。
【0004】
従来、旋光計の光源として、ナトリウムランプが多く使用されてきた。ナトリウムランプを光源とした旋光計では、ナトリウムのD線の光(波長=約589.3nm)を用いて旋光度の測定を行っていた。近年では、光源の低コスト化又は小型化等の観点から、キセノンランプ又は発光ダイオード(LED)等のナトリウムランプ以外の光源を用いた旋光計も開発されている。特許文献1には、複数の波長で旋光度を測定できる旋光計が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、物質の旋光度には波長依存性があり、旋光度を測定するために使用する光の波長が変化した場合には、測定される旋光度及び比旋光度の値も変化する。LED等のナトリウムランプ以外の光源を用いた旋光計では、光源にナトリウムランプを用いた従来の旋光計に比べ、旋光度の測定に用いる光の波長が異なるので、測定される旋光度及び比旋光度の値も異なる。文献に記載された値等、過去に測定された比旋光度の値は、ナトリウムのD線の光を用いて測定されたものが多く、異なる波長の光を用いて新しく測定した比旋光度の値と過去に測定された比旋光度の値とを単純に比較することができないという問題がある。
【0007】
また、LED等のナトリウムランプ以外の光源を用いた旋光計では、測定に使用する光の波長を統一することが困難である。例えば、LEDを光源として使用する場合、旋光計は、LEDからの光の波長を更に干渉フィルタを用いて限定することにより、単色の光を生成している。LEDの発光波長と干渉フィルタが限定する光の波長とは、部品毎にばらつくので、測定に使用する光の波長は旋光計別にばらつくことになる。従って、同じ物質の比旋光度を測定したとしても、旋光計が異なれば測定した比旋光度の値が少しずつ異なり、測定した比旋光度を厳密に比較できないという問題がある。光源にナトリウムランプを用いた旋光計では、測定に使用するナトリウムのD線はナトリウム原子の輝線スペクトルであるので、波長は厳密に一定であり、波長に起因する旋光度の測定結果のばらつきは起こらない。このように、測定した比旋光度の値が旋光計別に異なるという問題は、LED等のナトリウムランプ以外の光源を用いた旋光計に特有の問題である。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、旋光計で測定した旋光度を、特定の波長の光を用いて測定した場合に得られるはずの旋光度へと変換することにより、過去に測定された比旋光度及び他の旋光計で測定された比旋光度と測定した比旋光度との比較を可能にする旋光計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る旋光計は、単色の
可視光の直線偏光を発生させる直線偏光発生手段を備え、試料を透過した直線偏光の偏光面が回転する角度に対応する試料の旋光度を測定する旋光計において、前記直線偏光発生手段が発生させる直線偏光の波長と
ナトリウムのD線の波長とに依存する係数を、測定した旋光度に乗じることにより、旋光度を
ナトリウムのD線の波長での旋光度へ変換する手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、単色の直線偏光を用いて試料の旋光度を測定する旋光計は、試料の旋光度を測定し、旋光度の波長依存性に基づいて、測定した旋光度を、特定の波長での旋光度へ変換する。旋光度を変換することにより、旋光計の違いによる旋光度の値のばらつきが補正される。
【0011】
本発明に係る旋光計は、試料として溶液試料を用いる場合に、溶液試料の溶質の濃度の値を受け付ける手段と、受け付けた溶質の濃度の値を用いて、変換後の旋光度から溶質の比旋光度を計算する手段と、計算した比旋光度の値を出力する手段とを更に備えることを特徴とする。
【0012】
また本発明においては、試料が溶液試料であり、溶液試料の溶質の濃度が既知である場合に、旋光計は、濃度の値を受け付け、変換後の旋光度と溶液試料の溶質の濃度とから、溶質の比旋光度を計算する。変換後の旋光度から比旋光度を計算するので、旋光計の違いによる比旋光度の値のばらつきが発生しない。
【0013】
本発明に係る旋光計は、試料として溶液試料を用いる場合に、溶液試料の溶質の比旋光度の値を受け付ける手段と、受け付けた溶質の比旋光度の値を用いて、変換後の旋光度から溶質の濃度を計算する手段と、計算した濃度の値を出力する手段とを更に備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明においては、溶液試料の溶質の比旋光度が既知である場合に、旋光計は、比旋光度の値を受け付け、変換後の旋光度と溶液試料の溶質の比旋光度とから、溶液試料中の溶質の濃度を計算する。変換後の旋光度から濃度を計算するので、旋光計の違いによる溶質の濃度の値のばらつきが発生しない。
【0015】
本発明に係る旋光計は、前記直線偏光発生手段は、発光ダイオード及び偏光板を含んで構成してあることを特徴とする。
【0016】
また本発明においては、旋光計は、旋光度の測定に使用する単色の直線偏光を発生させるための光源として、LEDを用いる。
【0018】
更に本発明においては、旋光計は、測定した旋光度を特定の波長の直線偏光を用いて測定した場合に得られる旋光度へ変換する際に、従来の旋光計で光源として多く使用されてきたナトリウムのD線の波長を特定の波長として旋光度を変換する。
【発明の効果】
【0019】
本発明にあっては、測定する旋光度の値は旋光計によってばらつくものの、測定した旋光度を、特定の波長での旋光度へ変換することにより、旋光計の違いによる旋光度の値のばらつきが補正される。本発明では、溶液試料の溶質の比旋光度を、変換後の旋光度から計算するので、旋光計の違いによる比旋光度の値のばらつきは発生せず、計測した比旋光度と他の旋光計で計測した比旋光度との単純な比較が可能となる。
【0020】
また本発明にあっては、溶液試料の溶質の濃度を、変換後の旋光度から計算するので、旋光計の違いによる濃度の値のばらつきは発生せず、計測した濃度と他の旋光計で計測した濃度との単純な比較が可能となる。
【0021】
更に本発明にあっては、従来の旋光計で光源として多く使用されてきたナトリウムのD線の波長を特定の波長として旋光度を変換することにより、光源としてナトリウムランプを用いた従来の旋光計で測定した比旋光度に相当する比旋光度を計測することができる。従って、文献に記載された値等、光源にナトリウムランプを用いた旋光計で過去に測定された比旋光度の値と、本発明の旋光計で計測した比旋光度の値とを単純に比較することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の旋光計の内部構成を示す構成図である。図中の矢印は光路であり、旋光計は、光源31、干渉フィルタ32、レンズ33、偏光子11、サンプルセル12、ファラデーコイル13、中空モータ14、検光子15、レンズ34、受光素子16が光路に沿って並んで構成されている。光源31は、単色の光を発光するLEDであり、点灯回路30に接続されている。光源31は、点灯回路30から点灯用の電力を供給されて発光する。なお、光源31は、キセノンランプ等、LED以外の光源であってもよい。干渉フィルタ32は、旋光度の測定に用いる波長の光を通過させ、その他の波長の光を遮断するバンドパス光学フィルタである。
【0024】
偏光子11は、単一の透過軸に平行な直線偏光成分のみを透過させる偏光板であり、光源31が発光して干渉フィルタ32及びレンズ33を通過して入射された光を直線偏光に変換する。これにより、直線偏光が発生する。偏光子11は旋光計内で固定されており、偏光子11に固有の透過軸の方向も固定されるので、偏光子11により発生される偏光の偏光面は一定である。光源31、点灯回路30、レンズ33、及び偏光子11により、本発明における直線偏光発生手段が構成される。光源31の発光波長及び干渉フィルタ32が通過させる光の波長により、旋光度の測定に使用する光の波長が定まり、偏光子11によって直線偏光の偏光面が定まる。
【0025】
サンプルセル12は、溶液試料が注入される透明セルであり、溶液試料内を光路が通る位置に配置されている。ファラデーコイル13は、内部を光路が通る位置に配置されており、交流電流を発信する発振器22に接続されている。発振器22は、所定の振動数の交流電流をファラデーコイル13へ供給し、ファラデーコイル13は、交流電流を供給されることによって内部に振動磁場を発生させる。ファラデーコイル13を通過する直線偏光は、振動磁場により、交流電流に応じた振幅及び振動数で偏光面が揺動振動する。なお、ファラデーコイル13とサンプルセル12とが並ぶ順番は逆であってもよい。
【0026】
中空モータ14は、中空の筒状に形成した電動モータであり、中空部分を光路が通る位置に配置されている。中空モータ14の回転子には、中空モータ14の開口部を塞ぐ位置で検光子15が固定されている。検光子15は、単一の透過軸を有する偏光板である。サンプルセル12及びファラデーコイル13を通過した直線偏光は、中空モータ14の中空部分を通過し、検光子15へ入射される。検光子15に入射された直線偏光の内、透過軸に平行な直線偏光成分のみが検光子15を透過する。また中空モータ14は、モータドライバ23に接続されており、モータドライバ23から駆動電流を供給されて回転子を回動させる構成となっている。中空モータ14の回転子が回動することにより、回転子に固定された検光子15が回動する。検光子15が回動することにより、検光子15に固有の透過軸の方向が変化し、検光子15を透過する直線偏光の強度が変化する。
【0027】
検光子15を透過した直線偏光は、レンズ34を経て受光素子16へ入射される。受光素子16は、フォトダイオード等で構成されており、直線偏光を受光し、受光量を電圧で示す受光信号を増幅部24へ出力する。受光素子16が出力する受光信号の強度は、受光素子16が受光した受光量に対応する。
【0028】
本発明の旋光計は、更に、受光素子16が出力した受光信号に基づいて、旋光計の動作を制御するための信号処理を行う信号処理部21を備えている。信号処理部21には、発振器22、モータドライバ23及び増幅部24が接続されており、増幅部24は受光素子16が出力した受光信号を増幅して信号処理部21へ入力し、信号処理部21は、発振器22及びモータドライバ23を動作させるための制御信号を出力する。中空モータ14及びモータドライバ23は、本発明における回動手段に対応する。信号処理部21は、各種の信号を入出力するための入出力インタフェース、各種の演算処理を実行するマイクロプロセッサ又は集積回路等の演算部、信号処理に必要な一時的な情報を記憶するメモリを含んで構成されている。また信号処理部21には、旋光度の測定結果等の情報を表示する表示部4と、使用者の操作により旋光度の測定開始等の各種の指示を受け付ける操作部25と、信号処理に必要な処理プログラム及びデータを記憶する不揮発性の記憶部26とが接続されている。信号処理部21は、記憶部26で記憶する処理プログラムに従って、各部の動作を制御するための信号処理を行う。
【0029】
また記憶部26は、旋光度の測定に用いる直線偏光の波長の値と、サンプルセル12に注入された溶液試料中を直線偏光が透過する長さの値とを記憶している。旋光度の測定に用いる直線偏光の波長の値は、光源31の発光波長及び干渉フィルタ32が通過させる光の波長によって定まる。旋光度の測定に用いる直線偏光の波長の値は、旋光計が製造される際に実測され、実測された値が記憶部26に記憶される。溶液試料中を直線偏光が透過する長さの値は、サンプルセル12の溶液試料が注入される部分の光路に沿った大きさであり、サンプルセル12の大きさの規格によって定まる。記憶部26には、規格によって定まった値が予め記憶されている。更に記憶部26には、後述する旋光度を変換する式に必要なパラメータの値を記憶している。
【0030】
旋光度の測定開始前の段階では、検光子15の回動位置は、偏光子11及び検光子15の透過軸が直交する初期回動位置に定められる。偏光子11及び検光子15の透過軸が直交する状態は、クロスニコル状態と呼ばれる。クロスニコル状態では、サンプルセル12内に溶液試料がない場合は、検光子15へ入射される直線偏光の偏光面は検光子15の透過軸と直交するので、光は全て検光子15で遮蔽され、受光素子16は光を受光できない。
【0031】
旋光性を有する溶液試料がサンプルセル12に注入された場合、溶液試料によって直線偏光の偏光面が回転し、検光子15の透過軸に平行な直線偏光成分が検光子15を透過し、受光素子16は光を検出する。信号処理部21は、発振器22に交流電流を発生させるための制御信号を出力する処理を行い、発振器22は、所定の振動数fの交流電流をファラデーコイル13へ供給する。ファラデーコイル13は、所定の振動数fの交流電流を供給されることによって、振動数fで振動する振動磁場を発生させる。ファラデーコイル13を通過する直線偏光は、振動磁場によって、振動数fで偏光面が揺動振動する。このとき、直線偏光の偏光面は、ファラデーコイル13が発生させる振動磁場の振幅に応じた振動角幅で、振動数fの揺動振動を行う。
【0032】
図2は、直線偏光の偏光面の変化を示す概念図である。図中に示す矢印は、直線偏光の偏光面に平行で進行方向に直交する偏光方向を示す。また角度0の方向は、偏光子11の透過軸の方向であり、角度90°の方向は、初期回動位置に配置された検光子15の透過軸の方向である。
図2(a)は、偏光子11を透過した直線偏光の偏光面を示し、偏光方向は検光子15の透過軸に直交している。
図2(b)は、サンプルセル12中の溶液試料を透過した直線偏光の偏光面を示す。直線偏光の偏光面は、溶液試料の旋光性によって回転し、偏光面と角度0の方向とのなす角度が溶液試料の旋光度αである。
図2(c)は、更にファラデーコイル13を通過した直線偏光の偏光面を示す。偏光面は、角度0の方向とのなす角度が角度αを中心にして振動角幅δで周期的に変動する揺動振動を行う。
図2(c)には、α>δである例を示している。
【0033】
信号処理部21は、中空モータ14を回動させるためのパルス信号をモータドライバ23へ出力する処理を行う。モータドライバ23は、信号処理部21からのパルス信号に応じた駆動電流を中空モータ14へ供給し、中空モータ14は、検光子15を回動させる。信号処理部21が出力するパルス信号の種類によって中空モータ14の回動方向が定まり、またパルス信号の数によって回動角度が定まる。中空モータ14は、信号処理部21からの信号に応じた方向に、パルス信号に応じた回動角度だけ検光子15を回動させ、その後停止する。また信号処理部21は、出力したパルス信号の数に基づいて、クロスニコル状態の初期回動位置から検光子15を回動させた中空モータ14の回動角度を計測する処理を行う。中空モータ14の回転子を1ステップ回動させるためのパルス信号を現在の回動位置まで回動するまでに出力した数に、1ステップで回転子が回動する角度を乗ずることにより、中空モータ14の回動角度を計測することができる。
【0034】
図3は、回動した検光子15の透過軸と直線偏光の偏光面との関係を示す概念図である。中空モータ14によって初期回動位置から回動した検光子15の回動角度をβとする。図中には、回動後の検光子15の透過軸を示しており、角度90°の方向と回動後の検光子15の透過軸とのなす角が回動角度βである。また図中には、検光子15の透過軸に直交する方向を破線で示している。直線偏光の偏光面が揺動振動することにより、検光子15へ入射される直線偏光の偏光面と検光子15の透過軸とのなす角は、振動数fで振動する。このときの振動角幅δは、ファラデーコイル13が発生させる振動磁場の振幅に応じた振動角幅となる。回動した検光子15へ入射された直線偏光は、検光子15の透過軸に平行な直線偏光成分のみが検光子15を透過する。検光子15を透過した光は、受光素子16で受光される。
【0035】
光を受光した受光素子16は、受光量を電圧で示す受光信号を出力し、増幅部24は受光信号を増幅して信号処理部21へ入力する。
図3に示すように、検光子15へ入射される直線偏光の偏光面と検光子15の透過軸とのなす角が振動数fで振動しているので、直線偏光に含まれる検光子15の透過軸に平行な直線偏光成分の大きさも振動数fで振動する。検光子15を透過する直線偏光成分の大きさが振動数fで振動するので、検光子15を透過した光を受光した受光素子16の受光量は振動数fで振動する。従って、受光素子16での受光量を電圧で示す受光信号は、電圧が振動数fで振動する交流信号となる。
【0036】
直線偏光の偏光面と検光子15の透過軸との交差する角度が直角に近いほど検光子15を透過する直線偏光成分が小さくなり、受光素子16での受光量は減少し、受光信号の出力も小さくなる。β=αとなった場合、検光子15の透過軸は偏光面の振動中心と直交し、揺動振動する偏光面と透過軸との交差する角度の範囲が直角に最も近くなるので、受光信号は最小となる。受光信号を入力された信号処理部21は、受光信号から、ファラデーコイル13へ供給する交流電流と同一の振動数fで振動する交流成分を抽出し、抽出した交流成分の強度がより小さくなるように中空モータ14の回動をフィードバック制御する。信号処理部21は、フィードバック制御により、受光信号の振動数fで振動する交流成分が最小となる検光子15の回動角度βを定め、定めた回動角度βを計測する。受光信号の振動数fで振動する交流成分が最小となる状態では、β=αであるので、回動角度βの計測値が、溶液試料の旋光度αである。以上の処理により、旋光計は、溶液試料の旋光度αを測定する。
【0037】
図4は、本発明の旋光計の外観を示す模式図である。旋光計は筐体5を備え、筐体5内に、
図1で示した内部構成が設けられている。筐体5には、開口部が形成されており、開口部には開閉可能な蓋51が設けられている。蓋51を開放することにより、筐体5内に設けられたサンプルセル12に溶液試料を注入することができる。また筐体5の上面には、表示部4が備えられている。表示部4は、操作部25と一体となって、液晶パネル又はEL(エレクトロルミネセンス)パネル等を用いたタッチパネルで構成されている。なお、表示部4をディスプレイで構成し、操作部25をキーボード等で構成することにより、表示部4と操作部2とを個別に構成する形態であってもよい。
【0038】
次に、本発明の旋光計が行う比旋光度計測及び濃度計測の処理を説明する。旋光計は、溶液試料の旋光度を計算し、液体試料の溶質の濃度を用いた溶質の比旋光度の計測、及び溶質の比旋光度を用いた溶質の濃度の計測を行うことができる。
【0039】
図5は、本発明の旋光計が行う比旋光度計測の処理の手順を示すフローチャートである。サンプルセル12に溶液試料が注入されていない状態で、使用者が操作部25に対して所定の操作を行うことにより、操作部25は、初期設定の開始の指示を受け付ける(S101)。初期設定の開始の指示に応じて、信号処理部21は、受光信号の強度が最小になるように中空モータ14をフィードバック制御することにより、クロスニコル状態になる検光子15の初期回動位置を決定し、検光子15の回動角度を回動角度0°に初期化する初期設定の処理を行う(S102)。ステップS102が終了した後、信号処理部21は、溶液試料の注入を促すメッセージを表示部4に表示する処理を行ってもよい。
【0040】
旋光計は、次に、使用者が蓋51を開けてサンプルセル12に溶液試料を注入することにより、溶液試料を受け入れる(S103)。信号処理部21は、次に、濃度の値を入力するための入力画面を表示部4に表示し、使用者が操作部25を操作して濃度の値を入力することにより、受け入れた溶液試料の溶質の濃度の値を受け付ける(S104)。信号処理部21は、次に、使用者が操作部25に対して所定の操作を行うことにより、比旋光度の計測開始の指示を受け付ける(S105)。
【0041】
計測開始の指示に応じて、信号処理部21は、溶液試料の旋光度を測定する処理を行う(S106)。ステップS106では、信号処理部21は、中空モータ14のフィードバック制御を行うことにより、受光信号の強度がより小さくなるように中空モータ14に検光子15を回動させ、受光信号が最小となった段階で検光子15の回動を停止させる。信号処理部21は、検光子15の最終的な回動角度の値を、測定した旋光度の値として取得する。
【0042】
信号処理部21は、次に、測定した旋光度を、特定の基準波長での旋光度へ変換する処理を行う(S107)。旋光度は測定に使用する直線偏光の波長によって変化し、基準波長の直線偏光での旋光度は、基準波長の直線偏光を用いて測定した場合に得られるはずの旋光度である。旋光計で旋光度測定に使用している直線偏光の波長をλ1、旋光計で測定した旋光度をα(λ1)、基準波長をλ0、基準波長での旋光度をα(λ0)とすると、旋光度の波長依存性は、下記の(1)式で表現することができる。
α(λ0)={1.0+A×(λ1−λ0)}×α(λ1) …(1)
【0043】
(1)式中のAは、定数であり、実験によって求められた値が用いられる。(1)式は、実験によって得られた直線偏光の波長と旋光度との関係を近似した近似式である。(1)式中の係数{1.0+A×(λ1−λ0)}は、旋光計で使用する直線偏光の波長λ1を基準波長λ0へ変化させたときに溶液試料の旋光度α(λ1)が変化する割合を示す。λ0の値としては、例えばナトリウムのD線の波長の値を用い、この場合はλ0=589.3nmである。λ1の値は、旋光計が備える光源31の発光波長及び干渉フィルタ32が通過させる光の波長により定まり、旋光計の製造時に実測される。A、λ0及びλ1の値は、予め記憶部26が記憶している。
【0044】
ステップS107では、信号処理部21は、(1)式に基づいて基準波長での旋光度α(λ0)を計算する処理を行う。即ち、信号処理部21は、記憶部26に記憶しているA、λ0及びλ1を読み出し、λ1からλ0を差し引いた値にAの値を乗じ、更に1.0を足して得られた値を、測定した旋光度α(λ1)に乗じることにより、基準波長での旋光度α(λ0)を計算する。
【0045】
なお、信号処理部21は、係数{1.0+A×(λ1−λ0)}の値を予め計算して記憶部26に記憶しておき、記憶している係数の値を旋光度α(λ1)に乗じる計算を行ってもよい。また、基準波長λ0の値は589.3nmに限るものではなく、旋光計はその他のλ0の値を用いて基準波長での旋光度α(λ0)を計算する形態であってもよい。また、旋光計は、複数種類のλ0の値を記憶部26に記憶しておき、複数の基準波長での旋光度α(λ0)を計算する形態であってもよい。また、旋光計は、使用者の操作によりλ0の値を入力され、入力されたλ0の値を用いて基準波長での旋光度α(λ0)を計算する形態であってもよい。更に、ステップS107で用いる式は(1)式に限るものではなく、旋光計は、実験的又は理論的に得られた、旋光度の波長依存性を表す(1)式以外の関係式又はルックアップテーブル等に基づいて基準波長での旋光度α(λ0)を計算する形態であってもよい。
【0046】
ステップS107が終了した後、信号処理部21は、測定した旋光度の値を表示部4に表示する処理を行う(S108)。信号処理部21は、次に、基準波長での旋光度とステップS104で受け付けた溶液試料の溶質の濃度の値とから、溶質の比旋光度を計算する処理を行う(S109)。比旋光度を[α]、旋光度の測定時に溶液試料を直線偏光が透過する長さをL、溶質の濃度をCとすると、比旋光度[α]は、下記の(2)式で表すことができる。
[α]=α(λ0)/(L×C) …(2)
【0047】
(2)式は、基準波長λ0の直線偏光を用いて測定した場合に得られる比旋光度の定義式である。Lの値は、旋光計が備えるサンプルセル12の大きさにより定まる値であり、予め記憶部26が記憶している。ステップS109では、信号処理部21は、(2)式に基づいて比旋光度[α]を計算する処理を行う。即ち、信号処理部21は、記憶部26に記憶しているLを読み出し、読み出したLに受け付けたCを乗じた値で基準波長での旋光度α(λ0)を除することにより、比旋光度[α]を計算する。なお、旋光計は、複数種類の大きさのサンプルセル12の使用を可能とし、使用者の操作により使用するサンプルセル12の大きさに応じたLの値を受け付け、受け付けたLの値に応じて比旋光度[α]を計算する形態であってもよい。
【0048】
ステップS109が終了した後、信号処理部21は、計算した比旋光度[α]の値を表示部4に表示し(S110)、比旋光度計測の処理を終了する。なお、旋光計は、図示しないパーソナルコンピュータ(PC)又はプリンタ等に接続され、PC又はプリンタ等を用いて、計測した比旋光度を出力する形態であってもよい。
【0049】
図6は、本発明の旋光計が行う濃度計測の処理の手順を示すフローチャートである。サンプルセル12に溶液試料が注入されていない状態で、操作部25は、初期設定の開始の指示を受け付け(S201)、信号処理部21は、初期設定の処理を行う(S202)。旋光計は、次に、溶液試料を受け入れる(S203)。信号処理部21は、溶液試料の溶質の比旋光度の値を入力するための入力画面を表示部4に表示し、使用者が操作部25を操作して比旋光度の値を入力することにより、受け入れた溶液試料の溶質の比旋光度の値を受け付ける(S204)。信号処理部21は、次に、使用者が操作部25に対して所定の操作を行うことにより、濃度の計測開始の指示を受け付け(S205)。計測開始の指示に応じて、信号処理部21は、溶液試料の旋光度を測定する処理を行う(S206)。信号処理部21は、次に、測定した旋光度を、基準波長での旋光度へ変換する処理を行う(S207)。信号処理部21は、次に、変換後の旋光度の値を表示部4に表示する(S208)。
【0050】
ステップS208が終了した後、信号処理部21は、変換後の基準波長での旋光度とステップS204で受け付けた溶液試料の溶質の比旋光度の値とから、溶質の濃度を計算する処理を行う(S209)。前述の(2)式を変形することにより、溶質の濃度Cは下記の(3)式で表すことができる。
C=α(λ0)/(L×[α]) …(3)
【0051】
ステップS209では、信号処理部21は、(3)式に基づいて溶液試料の溶質の濃度を計算する処理を行う。即ち、信号処理部21は、記憶部26に記憶しているLを読み出し、読み出したLに受け付けた比旋光度[α]を乗じた値で基準波長での旋光度α(λ0)を除することにより、溶質の濃度Cを計算する。ステップS209が終了した後、信号処理部21は、計算した濃度Cの値を表示部4に表示し(S210)、濃度計測の処理を終了する。なお、旋光計は、図示しないPC又はプリンタ等を用いて、計測した濃度を出力する形態であってもよい。
【0052】
以上詳述した如く、本発明の旋光計は、溶液試料の旋光度を測定し、測定した旋光度を、基準波長λ0の直線偏光を用いて測定した場合に得られるはずの基準波長での旋光度α(λ0)へ変換する。溶液試料の溶質の濃度が既知である場合には、旋光計は、基準波長での旋光度と溶液試料の溶質の濃度とから、溶質の比旋光度を計算する。旋光度の測定に使用する光の波長のばらつきのため、測定する旋光度の値は旋光計によってばらつくものの、旋光度を基準波長での旋光度へ変換することにより、旋光度の値のばらつきは補正される。本発明で求める比旋光度は、基準波長での旋光度から計算するので、旋光計の違いによる比旋光度のばらつきは発生せず、他の旋光計で計測した比旋光度との単純な比較が可能となる。特に、基準波長λ0=589.3nmとした場合は、文献に記載された値等、光源にナトリウムランプを用いた旋光計で過去に測定された比旋光度の値と、本発明の旋光計で計測した比旋光度の値とを単純に比較することが可能となる。
【0053】
また本発明の旋光計は、同様に、溶液試料の溶質の比旋光度が既知である場合には、変換後の基準波長での旋光度と溶液試料の溶質の比旋光度とから、溶液試料中の溶質の濃度を計算する。本発明で得られる濃度は、基準波長での旋光度から計算するので、旋光計の違いによるばらつきは発生せず、他の旋光計で計測した濃度の値、及び過去に求められた濃度の値と、本発明の旋光計で計測した濃度の値とを単純に比較することが可能となる。また光源31をLEDとすることにより、旋光計の小型化及び低コスト化を図ることができる。