【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
[水素貯蔵材料の作製]
室温(15℃)にて、0.040モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)と0.020モルの塩化ニッケル(II)(NiCl
2)に0.040モルの水酸化ナトリウム(NaOH)を混合し、遊星回転ボールミル装置(伊藤製作所社製、LP−1)を用いて、ジルコニア製ボールミル容器80ml、ジルコニア製φ10mmのボールを30個使用し、容器内をAr雰囲気下にして回転数350rpmで5時間メカノケミカル処理し、水素貯蔵材料を得た。
【0039】
[TG/QMS測定]
作製した水素貯蔵材料をアルミセルに充填し、四重極型質量分析計(QMS)(ULVAC社製、Qulee)を連結させた熱重量測定(TG)測定装置(ULVAC理工社製、TGD−9000)の試料室にセットした。そして、昇温速度0.5℃/minで20℃から600℃まで加熱して、重量減少と全圧及び各質量数(マスナンバー)の分圧を同時測定した。なお、試料室は1.0×10
−3Paに真空排気して測定した。TG測定結果を
図2に、QMS測定結果を
図3に示す。M/z=2はH
2、M/z=24はB
2H
2、M/z=26はB
2H
4である。
【0040】
この結果、
図2のTG測定結果と
図3のQMS測定結果に示すように、190℃、370℃及び450℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0041】
[XRD測定]
作製した水素貯蔵材料について、Bruker axs社製X線回折装置で、X線源にCu線を使用し25℃で粉末X線回折パターンを求めた。結果を
図4に示す。
【0042】
この結果、
図4に示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0043】
[水素貯蔵量の測定]
作製した水素貯蔵材料を水素にさらして、水素圧力を0.1MPa、1MPa、3MPa、5MPa、7MPa、5MPa、3MPa、1MPa、0.1MPaに順に変化させた時の、水素貯蔵材料の質量を測定した。この測定を、100℃、150℃、200℃及び250℃の各温度で行った。測定された質量から水素にさらす前の水素貯蔵材料の質量を引いた値を、原料とした水素化ホウ素ナトリウムの質量及び水酸化ナトリウムの質量の合計で割った値を水素吸蔵量(wt%)として、
図5に示す。各水素圧力において、水素吸蔵量が多い方が水素圧力を上昇させた時の結果であり、水素吸蔵量が少ないものが水素圧力を下降させた時の結果である。なお、塩化ナトリウムは、水素を吸蔵・放出しないとして計算しているため、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの質量のみで割っている。
【0044】
この結果、
図5の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなり、例えば7MPa下、100℃では2.6質量%以上であり、水素吸蔵量が多かった。
【0045】
ここで、一般的に、水素圧力を高くしていくと、水素が水素貯蔵材料の表面に吸着するためか水素吸蔵量が上昇していき、その後水素化するため水素吸蔵量がほぼ一定値になった後、再び水素吸蔵量が増加するという挙動を示す。
図5を見ると、7MPaまで上昇し続けているため、水素圧力を7MPaよりも上げると水素吸蔵量がさらに上昇することが強く示唆されており、本発明の水素貯蔵材料の水素吸蔵量は非常に多いといえる。
【0046】
また、通常水素貯蔵材料に水素を吸蔵させる際の水素圧力は例えば35MPa以上の高圧で行なうが、本発明の水素貯蔵材料においては、7MPaでも例えば2.6質量%の水素吸蔵量とすることができるため、通常よりも低い水素圧力で、水素を吸蔵させることができる。
【0047】
(実施例2)
塩化ニッケルのかわりに塩化マグネシウム(MgCl
2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図6に、QMS測定結果を
図7に示す。
【0048】
この結果、
図6のTG測定結果と
図7のQMS測定結果に示すように、300℃、320℃及び500℃で水素を放出しており、水素放出温度は300℃以下となった。また、比較例2において観察される60℃〜340℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0049】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0050】
(実施例3)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図8に、QMS測定結果を
図9に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を
図10に示す。
【0051】
この結果、
図8のTG測定結果と
図9のQMS測定結果に示すように、120℃及び240℃で水素を放出しており、水素放出温度は120℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0052】
また、
図10のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0053】
(実施例4)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図11に、QMS測定結果を
図12に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を
図13に示す。
【0054】
この結果、
図11のTG測定結果と
図12のQMS測定結果に示すように、180℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0055】
また、
図13のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0056】
(実施例5)
塩化ニッケルを0.020モル添加するかわりに、塩化マグネシウム0.013モル及び塩化ニッケル0.007モルを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図14に、QMS測定結果を
図15に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を
図16に示す。
【0057】
この結果、
図14のTG測定結果と
図15のQMS測定結果に示すように、145℃及び400℃で水素を放出しており、水素放出温度は150℃以下と低かった。また、比較例1及び2において観察される100℃〜250℃付近及び60℃〜340℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0058】
また、
図16のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0059】
(実施例6)
水酸化ナトリウムを0.040モル添加するかわりに、水酸化ナトリウムを0.0006モル添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図17に、QMS測定結果を
図18に示す。
【0060】
この結果、
図17のTG測定結果と
図18のQMS測定結果に示すように、140℃及び200℃で水素を放出しており、水素放出温度は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0061】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0062】
(比較例1)
水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図19に、QMS測定結果を
図20に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を
図21に、また、水素貯蔵量の測定結果を
図22に示す。水素貯蔵量の測定は水素圧力を実施例1と同様な変化をさせた時の、水素貯蔵材料の質量を測定したが、温度は100℃、120℃及び140℃で行った。
【0063】
この結果、
図19のTG測定結果と
図20のQMS測定結果に示すように、110℃で水素を放出しており、水素放出温度は低かった。しかし、100℃〜250℃付近にB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いといえる。
【0064】
また、
図21のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0065】
そして、
図22の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなったが、例えば温度100℃、水素圧力7MPaで水素吸蔵量0.7質量%程度であり、実施例1と比較して、水素吸蔵量が非常に低かった。
【0066】
(比較例2)
塩化ニッケルの代わりに塩化マグネシウムを添加し、水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図23に、QMS測定結果を
図24に示す。
【0067】
この結果、
図24のQMS測定結果に示すように、220℃及び340℃で水素を放出しており、水素放出温度は220℃であった。しかし、60℃〜340℃付近にB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例2と比較して、比較例2は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。
【0068】
(比較例3)
塩化ニッケルを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図25に、QMS測定結果を
図26に示す。
【0069】
この結果、
図25のTG測定結果と
図26のQMS測定結果に示すように、310℃で水素を放出しており、水素放出温度は高かった。また、比較例1の
図20で観察された100℃〜250℃付近のピークよりも低かったが、240℃〜340℃付近にB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。
【0070】
(比較例4)
塩化ニッケル及び水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を
図27に、QMS測定結果を
図28に示す。
【0071】
この結果、
図27のTG測定結果と
図28のQMS測定結果に示すように、500℃で水素を放出しており、水素放出温度は非常に高かった。また、200℃〜500℃付近にB
2H
2やB
2H
4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、比較例4は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。