【実施例1】
【0014】
図1は、高圧グラジエント溶出法向け液体クロマトグラフの主要な構成を示す構成図である。
図1に示す液体クロマトグラフは、2種類の溶離液2101,2102,2台の送液ポンプ2201,2202,合流コネクタ23,ミキサ24,オートサンプラ25,分離カラム26,検出器27,各構成要素を流体的に接続する配管28,各構成要素を制御するコントローラ29,各構成要素を電気的に接続する配線30を備える。
【0015】
ミキサ24は、ハウジング底1201と、ハウジングふた1202と、流路基板1401,1402,1403,1404と、流路基板の間もしくは流路基板とハウジング底1201もしくは流路基板とハウジングふた1202の間に挿入されるスペーサ1301,1302,1303,1304,1305、およびこれらの構成要素を締結するネジ1205からなる。
図1には、流路基板が4枚であるミキサの構成を示したが、流路基板の数は必ずしも4に限らない。
【0016】
ハウジング底1201およびハウジングふた1202の材質は、ステンレス,ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。このうち、配管との接続部での液漏れを防ぐためには、ステンレス製のハウジング底、およびハウジングふたと、ステンレス製の配管を接続するのが望ましい。
【0017】
スペーサ1301,1302,1303,1304,1305は、流路基板の間もしくは流路基板とハウジング底1201もしくは流路基板とハウジングふた1202の間のシールの機能を持つ。ハウジング底1201とハウジングふた1202をネジ1205で締結することによって、各面が密着し、流路以外への液体の漏れを防ぐ。スペーサ1301,1302,1303,1304,1305の材質は、移動相への溶出が小さく、締結時にある程度変形して各面をシールできるポリエーテルエーテルケトン,ポリテトラフルオロエチレンなどが望ましい。流路基板1401,1402,1403,1404に変形能の高いポリエーテルエーテルケトン,ポリテトラフルオロエチレンなどの材質を選択する場合は、流路基板1401とハウジング底1201,流路基板1404とハウジングふた1202、および流路基板1401,1402,1403,1404が密着するため、スペーサ1301,1302,1303,1304,1305は必ずしも必要でない。
【0018】
流路基板1401,1402,1403,1404には、流路ユニットが形成されている。流路基板の材質は、ステンレス,ポリエーテルエーテルケトン,ポリテトラフルオロエチレン,シリコン,ガラス,ポリジメチルシロキサン,紫外線硬化樹脂などが挙げられる。この中でも、ステンレス,ポリエーテルエーテルケトン,ポリテトラフルオロエチレンなどは溶離液への溶出の小さい点で有利である。流路基板への流路ユニットの加工方法は、機械加工,ウェットエッチング,ドライエッチング,ホットエンボス,射出成型,光造形などが挙げられる。
【0019】
図2は、ミキサの流路の構成を示す構成図である。
図2は、複数の流路ユニット101,102,103が、接続路1010,1020,1030によって接続された多段流路ユニット1001の模式図を示している。1つの流路ユニットは、導入路2,分岐部3,第1の分岐流路4,第2の分岐流路5,合流部6,導出路7を備える。流路ユニット103は第n段目を示し、段数は任意に設定される。
【0020】
多段流路ユニットの場合、上段の流路ユニットの導出路とその下段の流路ユニットの導入路を接続路によって接続する。接続路として特別な構成を用意する必要は必ずしもなく、上段の流路ユニットの導出路とその下段の流路ユニットの導入路と接続路を1つの流路で兼ねることもできる。また、必要に応じて、流路ユニットの前後に、一般的に知られている、流路に対して幅方向の混合を実現するミキサを、各流路ユニットの間に接続してもよい。多段流路ユニットは、一つの流路ユニットを形成された流路基板を、必要に応じて接続路に相当する流路を持つ構造体を挟んで、積層することで形成される。もしくは、多段流路ユニットは、一枚の流路基板に接続路を含む複数の流路ユニットを形成することによっても成り立つ。
【0021】
図3から
図9に、一つの流路ユニットが形成された流路基板の形状の例を示す。図中には明記していないが、流路ユニットの流路内部は、多孔質体などが充填されていてもよいし、空洞であってもよい。
図3から
図9に示した様々な溝の形状の流路基板14を、
図2に示したような必要な流路長になるように複数個組み合わせて、多段流路ユニットを構成する。
【0022】
図3は、流路基板の構成を示す斜視図であり、第1の分岐流路4が直線状であり、第2の分岐流路5が3か所屈折している流路ユニットを示している。導入路2は、流路基板14の下面に形成された溝201,流路基板14の下面と上面を貫通する貫通孔202,流路基板14の表面に形成された溝203を備える。第1の分岐流路4,第2の分岐流路5,導出路7は、流路基板14の上面に溝として形成されている。液体は、導入路2を通って、分岐部3で分岐し、第1の分岐流路4または第2の分岐流路5を通って、合流部6で合流し、導出路7を通って、流路ユニットから排出される。
【0023】
図4は、流路基板の構成を示す斜視図であり、第1の分岐流路4と第2の分岐流路5が円をなす流路ユニットである。導入路2は、流路基板14の下面に形成された溝201,流路基板14の下面と上面を貫通する貫通孔202を備える。第1の分岐流路4,第2の分岐流路5,導出路7は、流路基板14の上面に溝として形成されている。液体の流れは、導入路2を通って、分岐部3で分岐し、第1の分岐流路4または第2の分岐流路5を通って、合流部6で合流し、導出路7を通って、流路ユニットから排出される。
【0024】
図5は、流路基板の構成を示す断面図である。流路基板14は、流路基板14の下面の溝41,下面と上面を貫通する貫通孔42,上面の溝43を備える第1の分岐流路4と、流路基板14の下面の溝51,下面と上面を貫通する貫通孔52,上面の溝53を備える第2の分岐流路5とを有する。
【0025】
図6は、流路基板の構成を示す斜視図であり、
図5に示した上面の溝43と、上面の溝53の形状を示すものである。これらの上面の溝がらせん状に形成されている。下面も同様の構成に形成されている。
【0026】
図7は、流路基板の構成を示す斜視図であり、
図5に示した上面の溝43と、上面の溝53の形状を示すものである。これらの上面の溝が波線状に形成されている。下面も同様の構成に形成されている。
【0027】
図8は、流路基板の構成を示す断面図である。流路基板14は、流路基板14の下面と上面を貫通する貫通孔42を備えた第1の分岐流路4と、流路基板14の下面の溝51,下面と上面を貫通する貫通孔52,上面の溝53を備えた第2の分岐流路5とを有する。
【0028】
図9は、流路基板の構成を示す斜視図であり、
図8に示した貫通孔42と、上面の溝53の形状を示すものである。上面の溝53がらせん状に形成されている。下面も同様の構成に形成されている。
【0029】
図5から
図9に示した流路ユニットの構成では、流路基板14の下面と上面の溝、および下面と上面の貫通孔として流路を形成できるために、同じ体積の流路を形成する場合に、
図3や
図4に示したような流路基板の下面か上面のどちらかのみに流路を溝として形成する構成に比べて、基板面積を小さくすることができる。このとき、
図1に示すように、ハウジングふた1201とハウジング底1202によって、流路基板14を押さえつけて液圧をシールする構成の場合、流路基板14に加わる面圧が大きくなるため、より高い液圧をシールすることができる。また、ハウジングふた1201とハウジング底1202の外形も小さくすることができ、ミキサ全体の外形を小さくすることが可能で、液体クロマトグラフにおける部品配置の自由度を高めることができる。
【0030】
図10,
図11は、流路基板の構成を示す斜視図であり、多段流路ユニットを形成した流路基板の形状の例を示す。
図10に示すように形成された多段流路ユニットは、導入路2,第1段の流路ユニット101,第2段の流路ユニット102,第3段の流路ユニット103,第4段の流路ユニット104,各段の流路ユニットを接続する接続路1010,1020,1030、および、導出路7を備える。導入路2は、流路基板14の下面に形成された溝201,流路基板14の下面と上面を貫通する貫通孔202を備える。流路ユニット101,102,103,104は、それぞれ分岐部,第1の分岐流路,第2の分岐流路,合流部を備え、これらは、流路基板14の上面に溝として形成されている。流路ユニット101,102,103,104は、それぞれの第1の分岐流路が直線状、それぞれの第2の分岐流路が3か所屈折する流路ユニットである。導出路7は、流路基板14の上面に溝として形成されている。
【0031】
液体の流れは、導入路2を通って、第1段の流路ユニット101の分岐部1013で分岐し、第1の分岐流路1014または第2の分岐流路1015を通って、合流部1016で合流し、接続路1010を通って、第2段の流路ユニット102の分岐部1023で分岐し、第1の分岐流路1024または第2の分岐流路1025を通って、合流部1026で合流し、接続路1020を通って、第3段の流路ユニット103の分岐部1033で分岐し、第1の分岐流路1034または第2の分岐流路1035を通って、合流部1036で合流し、接続路1030を通って、第4段の流路ユニット104の分岐部1043で分岐し、第1の分岐流路1044または第2の分岐流路1045を通って、合流部1046で合流し、導出路7を通って、流路ユニットから排出される。
【0032】
図11に示すように形成された多段流路ユニットは、導入路2,第1段の流路ユニット101,第2段の流路ユニット102,第3段の流路ユニット103,第4段の流路ユニット104,各段の流路ユニットを接続する接続路1010,1020,1030、および、導出路7を備える。導入路2は、流路基板14の下面に形成された溝201,流路基板14の下面と上面を貫通する貫通孔202を備える。流路ユニット101,102,103,104は、それぞれ分岐部,第1の分岐流路,第2の分岐流路,合流部を備え、これらは、流路基板14の上面に溝として形成されている。流路ユニット101,102,103,104は、第1の分岐流路4と第2の分岐流路5が円をなす流路ユニットである。
【0033】
上述のように、
図5から
図9に、流路基板1枚に1つの流路ユニットが形成された例を示し、
図10と
図11に、流路基板1枚に複数の流路ユニットが形成された例を示した。これら以外の流路基板での流路ユニットの形成方法として、例えば、複数の流路基板で1つの流路ユニットを構成したり、複数の流路基板の間にスペーサを配置して1つの流路ユニットを構成し、
図5から
図11に示したような流路を形成させるようにしてもよい。
【0034】
図12は、流れ方向の濃度ムラの低減性能を示すグラフである。Tは濃度ムラ周期、Δtは第1の分岐流路の液体通過時間t1と、第2の分岐流路の液体通過時間t2との差、Mは後述の数13で表される流れ方向濃度ムラの低減性能である。
【0035】
本発明の実施態様に基づくミキサを用いて流れ方向濃度ムラを低減する原理について、説明する。はじめに、流路内部の流速が一様である場合の、一つの流路ユニットによる流れ方向濃度ムラの低減の原理について説明する。
【0036】
例えば、
図4に示した流路ユニットの第1の分岐流路4の液体通過時間t1,第2の分岐流路5の液体通過時間t2は、それぞれの流量Q1,Q2と体積V1,V2を用いて次式で表される。
t1=V1/Q1 …(数1)
t2=V2/Q2 …(数2)
【0037】
このとき、分岐部の濃度Cinが、中心部の濃度C0,濃度の振幅Ca,濃度の周期Tの正弦波状に時間変化するとした場合、時間をtとして、次式で表される。
Cin=C0+Ca・sin(2πt/T) …(数3)
【0038】
第1の分岐流路の出口の濃度C1out,第2の分岐流路の出口の濃度C2outは、それぞれ次式となる。
C1out=C0+Ca・sin(2π(t−t1)/T) …(数4)
C2out=C0+Ca・sin(2π(t−t2)/T) …(数5)
【0039】
ここで、単位時間あたりにある流路断面を通過する物質量をフラックスと呼ぶと、第1の分岐流路の出口のフラックスJ1,第2の分岐流路の出口のフラックスJ2は、次式で表される。
J1=C1out・Q1
=C0・Q1+Ca・Q1・sin(2π(t−t1)/T)
…(数6)
J2=C2out・Q2
=C0・Q2+Ca・Q2・sin(2π(t−t2)/T)
…(数7)
【0040】
したがって、合流部の濃度Coutは、次式で求められる。
Cout=(J1+J2)/(Q1+Q2)
=C0+(Ca/(Q1+Q2))・(A・sin(2πt/T)
−B・sin(2πt/T)) …(数8)
【0041】
ここで、tanα=B/Aとする。
A=Q1・cos(2πt1/T)+Q2・cos(2πt2/T) …(数9)
B=Q1・sin(2πt1/T)+Q2・sin(2πt2/T) …(数10)
Cout=C0+(Ca/(Q1+Q2))・(√(A
2+B
2)・sin(2πt
/T−α))
=C0+(Ca/(Q1+Q2))・√(Q1
2+Q2
2+2Q1・Q2
・(cos(2πt1/T−2πt2/T)))・sin(2πt/T−α)
…(数11)
【0042】
ここで、Δt=t2−t1とする。
Cout=C0+(Ca/(Q1+Q2))・√(Q1
2+Q2
2+2Q1・Q2
・cos(2πΔt/T))・sin(2πt/T−α) …(数12)
【0043】
ここで、合流部の濃度の時間変化の振幅、すなわち濃度ムラの大きさを、Cb=(Ca/(Q1+Q2))・√(Q1
2+Q2
2+2Q1・Q2・cos(2πΔt/T))とする。
Cout=C0+Cb・sin(2πt/T−α) …(数13)
【0044】
流路ユニットの流れ方向濃度ムラの低減性能は、分岐部の濃度の振幅Caに対する合流部濃度の振幅Cbの比Mと定義し、次式で表される。
M=Cb/Ca=(1/(Q1+Q2))・√(Q1
2+Q2
2+2Q1
・Q2・cos(2πΔt/T)) …(数14)
【0045】
例えば、流れ方向濃度ムラの低減性能Mが1のときは、流れ方向の濃度ムラは低減されていないことを意味する。また、Mが0のときは、流れ方向の濃度ムラは完全に低減されており、合流部において濃度ムラがないことを意味する。
【0046】
濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と、第2の分岐流路の液体通過時間t2との差Δtの比Δt/Tが、整数(0,1,2,…)でないとき、M<1であり、流路ユニットによって流れ方向の濃度ムラが低減する。例えば、
図12中の、a点は、濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と、第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtの比Δt/Tが、0と1/2との間の値であり(0<(Δt/T)<1/2)、かつ、第1の分岐流路の流量Q1と第2の分岐流路の流量Q2とが異なる(Q1≠Q2)。
【0047】
特に、濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtの比Δt/Tが、整数と1/2との和(1/2,3/2,5/2,…)で、かつ、第1の分岐流路の流量Q1と第2の分岐流路の流量Q2が等しいとき(Q1=Q2)、Mは0であり、流れ方向の濃度ムラは完全に低減されており、合流部において流れ方向の濃度ムラはない。例えば、
図2中の、b1点,b2点,b3点,b4点,b5点は、濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtの比Δt/Tが、それぞれ1/2,3/2,5/2,7/2,9/2であり、かつ、第1の分岐流路の流量Q1と第2の分岐流路の流量Q2とが等しい(Q1=Q2)。
【0048】
濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtの比Δt/Tが、整数(0,1,2,…)のとき、M=1であり、流路ユニットによって流れ方向の濃度ムラは低減しない。例えば、
図2中の、c0点,c1点,c2点,c3点,c4点,c5点は、濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtの比Δt/Tが、それぞれ0,1,2,3,4,5である。
【0049】
次に、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の液体通過時間t2とが異なるための、流路構造の条件を説明する。前述の(数1)と(数2)において、t1≠t2より次式が成り立つ。
V1/Q1≠V2/Q2 …(数15)
【0050】
したがって、流量比は次式となる。
Q1/Q2≠V1/V2 …(数16)
【0051】
流路の圧力損失をΔP、流量をQとすると、流路の流体抵抗Rは次式となる。
【0052】
R=ΔP/Q …(数17)
したがって、第1の分岐流路の流体抵抗をR1、第2の分岐流路の流体抵抗をR2として、第1の分岐流路と第2の分岐流路の合成流体抵抗Rは次式となる。
R=R1・R2/(R1+R2) …(数18)
【0053】
また、第1の分岐流路の流量Q1と、第2の分岐流路の流量Q2は、次式となる。
Q1=(R2/R)・(Q1+Q2) …(数19)
Q2=(R1/R)・(Q1+Q2) …(数20)
【0054】
したがって、流量比は次式となる。
Q1/Q2=R2/R1 …(数21)
【0055】
ここで、第1の分岐流路の断面積をA1、長さをL1、単位断面積単位長さ当たりの流体抵抗をρ1、第2の分岐流路の断面積をA2、長さをL2、単位断面積単位長さ当たりの流体抵抗をρ2とすると、それぞれの分岐流路の流体抵抗R1,R2は次式で表される。
R1=ρ1・L1/A1 …(数22)
R2=ρ2・L2/A2 …(数23)
【0056】
したがって、流量比は次式となる。
Q1/Q2=ρ2・L2・A1/(ρ1・L1・A2) …(数24)
【0057】
次に、第1の分岐流路の空隙率をφ1、第2の分岐流路の空隙率をφ2とすると、それぞれの体積V1,V2は、次式で表される。
V1=φ1・A1・L1 …(数25)
V2=φ2・A2・L2 …(数26)
【0058】
数16を、数24,数25,数26を用いて書き換えると次式になる。
ρ2・L2・A1/(ρ1・L1・A2)≠φ1・A1・L1/(φ2
・A2・L2) …(数27)
【0059】
それぞれの分岐流路に対応させて書き換えると、次式となる。
ρ1/(φ1・L1
2)≠ρ2/(φ2・L2
2) …(数28)
【0060】
数28によれば、それぞれの分岐流路の単位断面積単位長さ当たりの流体抵抗ρ,空隙率φ,長さLで決まる値ρ/(φ・L
2)が異なるとき、それぞれの液体通過時間t1,t2が異なることがわかる。特に、第1の分岐流路と第2の分岐流路において、流路内部に同質の多孔質体を充填した場合などで、流体抵抗と空隙率が同一のときは(ρ1=ρ2,φ1=φ2)、それぞれの長さが異なる場合に(L1≠L2)、第1の分岐流路,第2の分岐流路の液体通過時間t1,t2が異なっている。
【0061】
次に、流路内部の流速が一様である場合の、流路ユニットが多段に接続されている場合の、流れ方向濃度ムラの低減の原理について説明する。この構成によって、上段の流路ユニットによって低減された濃度ムラが、下段の流路ユニットによってさらに低減される。したがって、単段の流路ユニットよりも、流れ方向濃度ムラの低減性能が向上する。
【0062】
図2において、多段流路ユニット1001を構成するn個の流路ユニット101,201,301が同一形状の場合、流れ方向濃度ムラの低減性能Mは、全て等しい。このとき、多段流路ユニット1001の流れ方向濃度ムラの低減性能Mtは、次式で表される。
Mt=M
n …(数29)
【0063】
したがって、流路ユニットの段数nを大きくすることで、流れ方向濃度ムラの低減性能Mtが向上する。ただし、濃度ムラ周期Tに対する、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差の比Δt/Tが、整数(0,1,2,…)のとき(
図12中の、c0点,c1点,c2点,c3点,c4点,c5点が該当)、流路ユニットの段数によらずMt=1であり、流れ方向の濃度ムラは低減しない。
【0064】
図2において、多段流路ユニット1001を構成するn個の流路ユニット101,201,301のそれぞれにおいて、第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δtが、それぞれ異なる場合を考える。流路ユニット101,201,301の流れ方向濃度ムラの低減性能をM1,M2,Mnとすると、多段流路ユニット1001の流れ方向濃度ムラの低減性能Mtは、次式で表される。
Mt=M1・M2・…・Mn …(数30)
【0065】
各段の流路ユニットの液体通過時間の差Δtが異なり、
図12中のc1点,c2点,c3点,c4点,c5点に相当する、流れ方向の濃度ムラが低減しない濃度ムラ周期が各段の流路ユニットで異なる。したがって、すべての濃度ムラ周期Tにおいて、Mt<1となり、流れ方向濃度ムラMtを低減することができる。
【0066】
多段流路ユニット1001において、接続されるn個全ての流路ユニットにおいて、第1の分岐流路の流量Q1と第2の分岐流路の流量Q2とが等しく(Q1=Q2)、第k段の流路ユニットの第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δt(k)が、その一つ上段の流路ユニットの第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δt(k−1)の半分である場合を考える。このときの条件は次式となる。
Δt(R−1)/2=Δt(R) …(数31)
【0067】
この場合、条件0<Δt(1)/T<2
n-1において、上段の流路ユニットの流れ方向濃度ムラの低減性能Mが1である濃度ムラの周期Tでは、それよりも下段の流路ユニットの流れ方向濃度ムラの低減性能Mが0である。このとき、濃度ムラの周期Tが条件0<1/T<2
n-1/Δt(1)を満たす範囲において、Mt<1であり、流れ方向の濃度ムラを低減することができる。特に、第1段の第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δt(1)の比Δt(1)/Tが整数と1/2との積(1/2,1,3/2,2,5/2,…)においてMt=0であり、流れ方向の濃度ムラは完全に低減されており、最下段の流路ユニットの合流部において流れ方向の濃度ムラをなくすことができる。
【0068】
次に、ミキサの流路内部の流速が非一様である場合について説明する。実際の流路では、流路壁面の摩擦,流路の曲がり,分岐,合流などでの二次流れや流れの剥離によって、流路内の流速は完全に一様とはならない。また、流路内部に多孔質体などの一様な構造がない場合は、液体の粘性によって、流路の中心付近が最大、流路の壁面近傍は最小となるような流速分布を持つ。そのため、非一様の流速分布が生じる場合と、一様の流速分布が生じる場合で、流れ方向の低減性能は異なる。
【0069】
図13は、流れ方向の濃度ムラの低減性能を示すグラフであり、流路ユニットを3段で、接続される3個全ての流路ユニットで第1の分岐流路の流量Q1と第2の分岐流路の流量Q2とが等しく(Q1=Q2)、第k段の流路ユニットの第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δt(k)が、その一つ上段の流路ユニットの第1の分岐流路の液体通過時間t1と第2の分岐流路の液体通過時間t2の差Δt(k−1)の半分である場合の、流路内の流速分布が一様である場合と流路内の流速分布が非一様である場合の、流れ方向濃度ムラの低減を計算した結果を示す。
【0070】
図13において、点線は流速分布を一様としてシミュレーションした結果であり、実線は流速分布を非一様としてシミュレーションした結果である。流路内の流速分布が非一様でも、流れ方向の濃度ムラは、Mt<1となり、濃度ムラを低減できることがわかる。
【0071】
以上は、流路ユニットの分岐流路が2本の流路ユニットの場合の、流れ方向濃度ムラの低減の原理を説明したが、この原理は、分岐流路が3本以上においても同様に成り立ち、各分岐流路の液体通過時間が異なれば、分岐流路が2本の場合と同様の効果を得ることができる。
【0072】
図1に示す液体クロマトグラフにおいて、多段流路ユニット1001の流れ方向濃度ムラの周期Tに対する流れ方向濃度ムラの低減性能Mtの特性を、送液ポンプ2201,2202による流れ方向濃度ムラの性質に合わせて適切に選択することで、以下のような効果を得ることができる。
【0073】
例えば、送液ポンプ2201,2202の仕様が同一で、一定の周期で送液する場合、1つの流路ユニットからなるミキサを準備することによって、流れ方向濃度ムラの低減を実現できる。
【0074】
また、例えば、送液ポンプ2201,2202がそれぞれ異なる一定の周期で送液する場合、流れ方向の濃度ムラは、それら2つの周期の重ね合わせとなる。それら2つの周期の濃度ムラ変化それぞれに対して、その周期を低減できる流路ユニットを含む多段流路ユニットを備えたミキサを準備することによって、流れ方向濃度ムラを低減することができる。
【0075】
また、例えば、送液ポンプ2201,2202が送液流量などによって変化する周期で送液する場合、全ての濃度ムラ周期を低減できるように、複数の流路ユニットを組み合わせた多段流路ユニットを備えたミキサを準備することによって、流れ方向濃度ムラを低減することができる。
【0076】
また、例えば、送液ポンプ2201,2202による流れ方向濃度ムラの変化が、複数の周期の重ね合わせである場合、それぞれの周期の濃度ムラ変化を低減できるような流路ユニットを組み合わせた多段流路ユニットを備えたミキサを準備することによって、この構成が含む全ての周期の流れ方向濃度ムラを低減することができる。
【0077】
以上述べたようなミキサの構成と動作により、移動相の流れ方向の濃度ムラを低減することができる。その結果、吸光度測定器を検出器として用いる液体クロマトグラフにおいては、検出される吸光度の変動が小さくなるという効果がある。また、蛍光検出器を検出器として用いる液体クロマトグラフにおいては、検出される蛍光光度の変動が小さくなるという効果がある。また、示差屈折検出器を検出器として用いる液体クロマトグラフにおいては、検出される屈折率の変動が小さくなるという効果がある。以上の効果によって、より微小量のサンプルを検出できるようになり、液体クロマトグラフの感度を向上させることができる。また、サンプルピークの面積をより正確に測定できるため、定量測定の精度が向上するという効果がある。
【0078】
また、本実施例によれば、ミキサの流路体積を小さくすることができる。そのため、ミキサに移動相が流入してから排出されるまでの時間が短くなり、1回の分析に必要な時間が短くなる。また、グラジエント溶出法による分析の場合には、理想に近い移動相の濃度変化を生成できるという効果をもたらす。
【0079】
また、本実施例によれば、ミキサは、移動相の流れ方向の濃度ムラの低減性能が最大となる周期を有する。周期が短くなるほど流路体積は小さくてよいため、濃度ムラの周期が最小となるように送液ポンプを駆動する液体クロマトグラフのシステムによって、流路体積が小さいことによる効果を最大限に発揮することができる。