(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明のTiO
2−SiO
2ガラスを説明する。
本発明のTiO
2−SiO
2ガラスは、熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度(クロスオーバー温度:Cross−over Temperature;COT)が23±4℃の範囲にあり、熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃となる温度幅ΔTが5℃以上であることを特徴とする。
TiO
2−SiO
2ガラスのCOTおよびΔTは、TiO
2−SiO
2ガラスの熱膨張係数(CTE)を公知の方法、例えば、レーザー干渉式熱膨張計を用いて−150〜+200℃の範囲で測定し、CTEと温度の関係を
図1に示すようにプロットすることにより求めることができる。
【0019】
EUVLを実施する際、ミラー等の光学系部材の温度変化による寸法形状変化を防ぐ目的から、EUVL用露光装置内に置かれる光学系部材は22±2℃で熱膨張係数が0±5ppb/℃、すなわち熱膨張係数がほぼゼロとなることが望ましい。より望ましくは、EUVL用露光装置内に置かれる光学系部材は22±3℃で熱膨張係数が0±5ppb/℃、すなわち熱膨張係数がほぼゼロである。但し、光学系部材の温度は、特に光源に近い部材においては、高エネルギーのEUV光が照射されるため、局所的に上昇することが示唆されている。
EUV光の照射条件にもよるが、EUVLを実施する際のEUV光の通常の照射条件では、光学系部材の温度は、4〜6℃程度局所的に上昇する場合がある。
【0020】
COTが23±4℃の範囲、すなわち、19℃(23−4℃)〜27℃(23+4℃)の範囲にあり、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度範囲ΔTが5℃以上であれば、EUV光照射時の光学系部材の温度条件下(22±2℃)において、該光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとなる。本明細書において、熱膨張係数がほぼゼロと言った場合、熱膨張係数が0±5ppb/℃であることを指す。
また、本発明のTiO
2−SiO
2ガラスにおいて、ΔTが6℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがより好ましい。ΔTが8℃以上になると、上記23±4℃といった温度範囲で±5ppb/℃となることが可能となるので、ΔTは8℃以上であることが特に好ましい。
【0021】
COTおよびΔTが上記を満たす本発明のTiO
2−SiO
2ガラスは、ガラス組成、もしくは仮想温度、またはその両方を調節することによって得ることができる。
【0022】
COTおよびΔTが上記を満たすTiO
2−SiO
2ガラスの一態様(以下、「TiO
2−SiO
2ガラス(1)」とする。)は、下記を満たす。
TiO
2含有量:3〜9質量%
仮想温度:850℃以下
OH濃度:100ppm以上
したがって、TiO
2−SiO
2ガラス(1)は、TiO
2およびSiO
2以外にOHを含有する。TiO
2−SiO
2ガラス(1)において、TiO
2およびOHを除いた残部はSiO
2であるが、TiO
2、SiO
2およびOH以外の成分を含有してもよい。
【0023】
TiO
2−SiO
2ガラスは、含有するTiO
2濃度により、熱膨張係数が変化することが知られている。(例えば、P.C.Schultz and H.T.Smyth, in: R.W.Douglas and B.Ellis, Amorphous Materials, Willey, New York, p.453(1972)参照)。
したがって、TiO
2−SiO
2ガラス(1)のTiO
2含有量を調節することによって、該TiO
2−SiO
2ガラス(1)のCOTを調節することができる。具体的には、TiO
2−SiO
2ガラス(1)の仮想温度をより低くした場合はTiO
2含有量を増やすことにより、該TiO
2−SiO
2ガラス(1)のCOTを調節することができる。また、TiO
2−SiO
2ガラス(1)のOH含有量をより多くした場合はTiO
2含有量を増やすことにより、該TiO
2−SiO
2ガラス(1)のCOTを調節することができる。
【0024】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)は、TiO
2含有量が3〜9質量%である。TiO
2含有量が3質量%未満、若しくは9質量%超だと、COTが23±4℃の範囲に存在しない。具体的には、TiO
2含有量が3質量%未満だと、COTが19℃未満となる。また、TiO
2含有量が9質量%超だと、COTが27℃超となる。TiO
2含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上である。また、TiO
2含有量は、好ましくは8質量%以下である。
【0025】
特許文献2で述べているように、本願発明者らは、仮想温度とゼロ膨張の温度範囲の広さに関連があること、すなわち、仮想温度とΔTに関連があること、より具体的には、仮想温度が高くなるとΔTが狭くなり、仮想温度が低くなるとΔTが広くなることを見出している。
TiO
2−SiO
2ガラス(1)は、仮想温度が850℃以下であることで、ΔTが5℃以上となる。仮想温度が850℃超だと、ΔTが5℃未満となり、TiO
2−SiO
2ガラス(1)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用した場合に、EUV光照射時の光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとならないおそれがある。
【0026】
仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラス(1)を得るためには、所定の形状に成形したTiO
2−SiO
2ガラス成形体を600〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法が効果的である。後述する実施例では、上記の方法に従って、TiO
2−SiO
2ガラス成形体を1100℃で10時間保持した後、5℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷したところ、得られたTiO
2−SiO
2ガラス(1)の仮想温度が840℃となることが示されている。より遅い平均降温速度で降温すれば、より低い仮想温度が達成される。例えば、1℃/hrの速度で降温すれば、仮想温度は800℃以下に成りえる。
【0027】
TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度は公知の手順で測定することができる。後述する実施例では、以下の手順でTiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を測定した。
鏡面研磨されたTiO
2−SiO
2ガラスについて、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm
-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm
-1付近に観察されるピークがTiO
2−SiO
2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm
-1付近に観察されるピークがTiO
2−SiO
2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。なお、ガラス組成の変化によるピーク位置のシフトは、検量線の組成依存性から外挿することが可能である。
【0028】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用するときに、ガラス中におけるTiO
2/SiO
2組成比を均一にすることは、ガラス内での熱膨張係数のばらつきを小さくするという点で重要である。
TiO
2−SiO
2ガラス(1)は、仮想温度のばらつきが50℃以内であることが好ましく、より好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが上記範囲を超えると、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。
本明細書では、「仮想温度のばらつき」を少なくとも1つの面内における50mm×50mm内での仮想温度の最大値と最小値の差と定義する。
仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。所定のサイズに成形した透明TiO
2−SiO
2ガラス体をスライスし、50mm×50mm×2.0mmのTiO
2−SiO
2ガラスブロックとする。このTiO
2−SiO
2ガラスブロックの50mm×50mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行うことで、成形TiO
2−SiO
2ガラス体の仮想温度のばらつきを求める。
【0029】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)は、仮想温度を850℃以下とするため、OH濃度が100ppm以上であることが好ましい。
OHの添加により、ガラスの構造緩和が促進され、仮想温度が低いガラス構造が実現しやすくなる。よって、OHの含有は、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を低くするのに有効な手段である。TiO
2−SiO
2ガラス(1)のOH濃度を100ppm以上とし、段落[0026]に記載の手順を実施することにより、仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラス(1)を得ることができる。OH濃度が100ppm未満だと、仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラスを得るには非常に長い時間を要する。
ガラスの仮想温度を低くするためには、OH濃度を200ppm以上とすることが好ましく、400ppm以上とすることがより好ましい。より効果的に仮想温度さげる、例えば、段落[0026]に記載の手順で平均降温速度を下げずに仮想温度を下げるためには、OH濃度は900ppm以上であることが好ましく、1000ppm以上であることがより好ましい。
【0030】
TiO
2−SiO
2ガラスのOH濃度は公知の方法を用いて測定することができる。例えば、赤外分光光度計による測定を行い、2.7μm波長での吸収ピークからOH濃度を求めることができる(J.P.Williams et.al.,American Ceramic Sciety Bulletin,55(5),524,1976)。本法による検出限界は0.1ppmである。
【0031】
OHを含有させたTiO
2−SiO
2ガラスの製造方法としては以下のようないくつかの方法がある。ひとつに、スート法により、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子(スート)を堆積、成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を得る。得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を水蒸気含有雰囲気にて処理した後、水蒸気含有雰囲気中で緻密化温度以上まで加熱し、さらに透明ガラス化温度以上まで加熱してOHを含有させたTiO
2−SiO
2ガラスを得る製造方法がある。スート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などがある。
【0032】
本明細書では、緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。また、透明ガラス化温度とは、光学顕微鏡で結晶が確認できなくなり、透明なガラスが得られる温度をいう。
【0033】
また、直接法により、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を1800〜2000℃の酸水素火炎中で加水分解・酸化させることで、OHを含有させたTiO
2−SiO
2ガラス体を得る製造方法がある。このとき、火炎温度やガス濃度を調整することで、OH濃度が調整される。
【0034】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)において、仮想温度のばらつきが50℃以内、OH濃度のばらつきが50ppm以内であれば、熱膨張係数分布を少なくとも1つの面内における50mm×50mm内で30ppb/℃以内となし得、EUVL用露光装置の光学系部材として適している。
TiO
2−SiO
2ガラスの熱膨張係数分布は公知の方法を用いて測定することができる。例えば、所定のサイズに成形した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を切断し、15mm×15mm×1mmのTiO
2−SiO
2ガラス小片となるよう分割し、この各小片について、前述の方法に従い、熱膨張係数の測定を行うことで、成形TiO
2−SiO
2ガラスブロックの熱膨張係数のばらつきを求める。
【0035】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)を製造するためには、下記(a)〜(e)工程を含む製法が採用できる。
(a)工程
ガラス形成原料であるSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、Si前駆体としては、SiCl
4、SiHCl
3、SiH
2Cl
2、SiH
3Clなどの塩化物、SiF
4、SiHF
3、SiH
2F
2などのフッ化物、SiBr
4、SiHBr
3などの臭化物、SiI
4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またR
nSi(OR)
4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられ、またTi前駆体としては、TiCl
4、TiBr
4などのハロゲン化チタン化合物、またR
nTi(OR)
4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、Si前駆体およびTi前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特公昭63−24973号公報記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0036】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を水蒸気含有雰囲気にて緻密化温度まで昇温して、OHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を得る。緻密化温度は、通常は1250〜1550℃であり、特に1300〜1500℃であることが好ましい。OHの含有量が600ppm以上の場合は、ガラスの粘性が低下し、緻密化温度が低下するため、1250〜1450℃が好ましく、特に1300〜1400℃であることが好ましい。この水蒸気含有雰囲気としては、水蒸気分圧(p
H2O)が10000〜200000Paとなる不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムが好ましい。このような雰囲気下、圧力10000〜200000Pa程度で処理を行うことが好ましい。
【0037】
OH濃度を200ppm未満としたい場合は、水蒸気分圧が10000〜30000Paとなる不活性ガス雰囲気にて、OH濃度を200〜400ppmとしたい場合は、水蒸気分圧が20000〜50000Paとなる不活性ガス雰囲気にて、OH濃度を400〜600ppmとしたい場合は、水蒸気分圧が30000〜80000Paとなる不活性ガス雰囲気にて、OH濃度を600ppm超としたい場合は、水蒸気分圧が50000Pa以上となる不活性ガス雰囲気にて処理を行えばよい。なお、本明細書における「Pa」は、ゲージ圧ではなく絶対圧を意味する。
【0038】
また(b)工程においては、TiO
2−SiO
2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、不活性ガスおよび水蒸気を含有する不活性ガス、あるいは水蒸気を所定の水蒸気分圧になるまで導入し、水蒸気含有雰囲気とすることが好ましい。
【0039】
さらに(b)工程においては、TiO
2−SiO
2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を水蒸気含有雰囲気下、室温、あるいは緻密化温度以下の温度にて保持した後に、緻密化温度まで昇温することが好ましい。
【0040】
(c)工程
(b)工程で得られたOHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を、透明ガラス化温度まで昇温して、OHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得る。透明ガラス化温度は、通常は1350〜1800℃であり、特に1400〜1750℃であることが好ましい。OHの含有量が600ppm以上の場合は、ガラスの粘性が低下し、透明ガラス化温度が低下するため、1350〜1750℃が好ましく、特に1400〜1700℃であることが好ましい。
【0041】
雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。
【0042】
(d)工程
(c)工程で得られたOHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、OHを含有した成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、OHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO
2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO
2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1800℃超では、SiO
2の昇華が無視できなくなる。
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。
【0043】
(e)工程
(d)工程で得られた成形TiO
2−SiO
2ガラス体を、600〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、1200℃以上の(d)工程で得られた成形TiO
2−SiO
2ガラス体を500℃まで60℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を制御する。500℃以下まで降温した後は放冷できる。この場合の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で、圧力は減圧または常圧が好ましい。
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い冷却速度で冷却することが有効である。
具体的には、(e)工程の冷却プロファイルにおいて、最も遅い冷却速度が5℃/hr以下であることが好ましく、4℃/hr以下であることがより好ましく、2.5℃/hr以下であることがさらに好ましく、2℃/hr以下であることが特に好ましく、1.5℃/hr以下であることが最も好ましい。
但し、TiO
2−SiO
2ガラスのF含有量が1000ppm未満である場合は、最も遅い冷却速度が2.0℃/hr以下であることが好ましく、1.5℃/hr以下であることがより好ましく、1.0℃/hr以下であることがさらに好ましい。
ここで、(e)工程は温度保持工程を有してもよい。本明細書において、±5℃以内の温度変化に要する時間が100時間以上かかる工程を温度保持工程とする。
(e)工程において、上記した温度保持工程を除いた場合に、5℃を超える温度低下とその温度低下に要する時間から求められる平均降温速度を冷却速度と定義する。このように定義した冷却速度のうち、最も小さい冷却速度のことを最も遅い冷却速度とする。
【0044】
COTおよびΔTが上記を満たす本発明のTiO
2−SiO
2ガラスの一態様(以下、「TiO
2−SiO
2ガラス(2)」とする。)は、下記を満たす。
TiO
2含有量:3〜9質量%
仮想温度:850℃以下
F濃度:1000ppm以上
したがって、TiO
2−SiO
2ガラス(2)は、TiO
2およびSiO
2以外にFを含有する。TiO
2−SiO
2ガラス(2)において、TiO
2およびFを除いた残部はSiO
2であるが、TiO
2、SiO
2およびF以外の成分を含有してもよい。
【0045】
TiO
2−SiO
2ガラス(1)と同様に、TiO
2−SiO
2ガラス(2)の場合もTiO
2含有量を調節することによって、該TiO
2−SiO
2ガラスのCOTを調節することができる。具体的には、TiO
2−SiO
2ガラス(2)の仮想温度をより低くした場合はTiO
2含有量を増やすことにより、該TiO
2−SiO
2ガラス(2)のCOTを調節することができる。また、TiO
2−SiO
2ガラス(2)のOH含有量をより多くした場合はTiO
2含有量を増やすことにより、該TiO
2−SiO
2ガラス(2)のCOTを調節することができる。
【0046】
TiO
2−SiO
2ガラス(2)は、TiO
2含有量が3〜9質量%である。TiO
2含有量が3質量%未満、若しくは9質量%超だと、COTが23±4℃の温度範囲にないおそれがある。具体的には、TiO
2含有量が3質量%未満だと、COTが19℃(23−4℃)未満となる。また、TiO
2含有量が9質量%超だと、COTが27℃(23+4℃)超となる。TiO
2含有量は好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、TiO
2含有量は好ましくは8質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは7.0質量%以下である。
【0047】
TiO
2−SiO
2ガラス(2)は、仮想温度が850℃以下であり、かつF濃度が1000ppm以上であることにより、ΔTが5℃以上となる。仮想温度が850℃超だと、ΔTが5℃未満となり、ガラスのCOTにもよるが、TiO
2−SiO
2ガラス(2)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用した場合に、EUV光照射時の光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとならないおそれがある。仮想温度が低くなるほど、ΔTが広くなることを考慮すると、仮想温度が830℃以下であることが好ましく800℃以下であることがより好ましい。ΔTをさらに広げるには、仮想温度を780℃以下にすることが好ましい。
【0048】
仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラス(2)を得るためには、所定の形状に成形したTiO
2−SiO
2ガラス成形体を600〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で500℃まで降温する方法が効果的である。後述する実施例では、上記の方法に従って、TiO
2−SiO
2ガラス成形体を1000℃で10時間保持した後、5℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷したところ、得られたTiO
2−SiO
2ガラス(2)の仮想温度が750℃となることが示されている。
TiO
2−SiO
2ガラス(2)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用するときに、ガラス中におけるTiO
2/SiO
2組成比を均一にすることは、ガラス内での熱膨張係数のばらつきを小さくするという点で重要である。
【0049】
TiO
2−SiO
2ガラス(2)は、仮想温度のばらつきが50℃以内であることが好ましく、特に好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが上記範囲を超えると、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。
【0050】
TiO
2−SiO
2ガラス(2)は、仮想温度を850℃以下とするため、F濃度が1000ppm以上である。
Fの添加がガラスの構造緩和に影響を及ぼすことは以前から知られており(Journal・of・Applied・Physics・91(8)、4886(2002))、これによればFの添加により構造緩和時間が促進され、仮想温度が低いガラス構造が実現しやすくなる(第1の効果)。よってFの添加は、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を低くするのに有効な手段である。また、Fの添加は、ΔTの範囲を広げる効果(第2の効果)があると考えられる。
TiO
2−SiO
2ガラス(2)のF濃度を1000ppm以上とし、段落[0048]に記載の手順を実施することにより、仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラス(2)を得ることができる。F濃度が1000ppm未満の条件で段落[0048]に記載の手順を実施した場合、仮想温度が850℃以下のTiO
2−SiO
2ガラスを得ることが困難であり、TiO
2−SiO
2ガラスのΔTが5℃以上とならない。
ガラスの仮想温度を低くし、ΔTを広くするためには、F濃度を3000ppm以上とすることが好ましく、5000ppm以上とすることがより好ましい。特に好ましくは7000ppm以上である。
【0051】
F濃度は公知の方法を用いて測定することができ、例えば、以下の手順で測定することができる。TiO
2−SiO
2ガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水および塩酸を融液に対する体積比でそれぞれ1ずつ加えて試料液を調整する。
試料液の起電力をフッ素イオン選択性電極および比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945−220およびNo.945−468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、フッ素イオン標準溶液を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、フッ素含有量を求める(日本化学会誌、1972(2),350)。なお本法による検出限界は10ppmである。
【0052】
フッ素を含有するTiO
2−SiO
2ガラスは、上記したOHを含有するTiO
2−SiO
2ガラスと同様にスート法または直接法を用いて製造することができる。但し、スート法において、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にフッ素を含むものを用いたり、Si前駆体とTi前駆体をフッ素含有雰囲気にて火炎加水分解もしくは熱分解させてフッ素を含有する多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を得て、フッ素を含有するTiO
2−SiO
2ガラス体を得る。また、直接法において、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にフッ素を含むものを用いたり、Si前駆体とTi前駆体をフッ素含有雰囲気にて1800〜2000℃の酸水素火炎中で加水分解・酸化させることで、フッ素を含有するTiO
2−SiO
2ガラス体を得る。
【0053】
TiO
2−SiO
2ガラス(2)の製造には上記した(a)〜(e)工程を含む製造方法を採用できる。但し、(b)工程において、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を緻密化温度以下の温度にて、フッ素含有雰囲気下にて保持し、フッ素を含有した多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を得る。このフッ素含有雰囲気としては、含フッ素ガス(例えばSiF
4、SF
6、CHF
3、CF
4、C
2F
6、C
3F
8、F
2)を0.1〜100体積%含有する不活性ガス雰囲気が好ましい。これらの雰囲気下、圧力10000〜200000Paで数十分〜数時間の処理を、後述する緻密化温度以下の高温で行うことが好ましい。また、同じフッ素ドープ量を得る場合において処理温度を下げたい時は、処理時間を延ばし5〜数十時間保持するようにすればよい。得られるガラスの透過率を上げるためには、熱処理雰囲気に酸素ガスを混ぜることが好ましい。
【0054】
緻密化温度よりも高い温度を用いた場合、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体の緻密化が進行し、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体内部にまでフッ素を含有させることが困難になるため好ましくない。
例えば、フッ素含有雰囲気としてSiF
4を用いる場合、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体にドープさせたいフッ素量に合わせ、以下のように処理温度、処理時間を設定すればよい。
【0055】
フッ素ドープ量を1000ppm以上3000ppm未満としたい場合は、含フッ素ガスを2〜10体積%含むガス雰囲気にて、500〜1000℃で2〜数十時間保持すればよい。フッ素ドープ量を3000〜7000ppmとしたい場合は、水蒸気を5〜数十体積%含む不活性ガス雰囲気にて、800〜1100℃で2〜数十時間保持すればよい。フッ素ドープ量を7000ppm超としたい場合は、水蒸気を5〜数十体積%含む不活性ガス雰囲気にて、1000℃以上で2〜数十時間保持すればよい。得られるガラスの透過率を上げるためには、熱処理雰囲気に酸素ガスを混ぜることが好ましい。あるいは、酸素を含む雰囲気にて、ガラス体を緻密化しない程度に、300〜1300℃で5〜数十時間保持する。これはその後の熱処理においてガラスの着色を防ぐためである。雰囲気中の酸素は、1〜100%であることが好ましく、より確実にガラスの着色を防ぐためには、20〜100%であることがより好ましい。
【0056】
従来のようにスート法で合成された合成石英ガラスにフッ素をドープする場合は、高温でフッ素をドープすると酸素欠乏欠陥が生じて光透過率低下の原因になることが指摘されている。しかしながら、反射光学系に用いる光学部材に使用する場合は光透過率の低下は問題にならない。よって、透明ガラス化温度以下の高温で処理することにより、極めて多いフッ素を含有させることが可能になり、フッ素ドープ量は最大で数千ppm以上とすることができる。
【0057】
さらに(a)工程と(b)工程との間においては、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体へ均一に短時間でフッ素をドープできることから、TiO
2−SiO
2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、含フッ素ガスと不活性ガスの混合ガスを常圧になるまで導入し、フッ素含有雰囲気とすることが好ましい。
【0058】
また、(e)工程において、成形TiO
2−SiO
2ガラス体を、600〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、60℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、1200℃以上の(d)工程で得られた成形TiO
2−SiO
2ガラス体を500℃まで60℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO
2−SiO
2ガラスの仮想温度を制御する。500℃以下まで降温した後は放冷できる。この場合の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で、圧力は減圧または常圧が好ましい。
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い冷却速度で冷却することが有効である。具体的には、(e)工程の冷却プロファイルにおいて、最も遅い冷却速度が5℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは4℃/hr以下、さらに好ましくは2.5℃/hr以下、特に好ましくは2℃/hr以下、最も好ましくは1.5℃/hr以下である。
但し、TiO
2−SiO
2ガラスのOH含有量が100ppm未満である場合は、最も遅い冷却速度が2.0℃/hr以下であることが好ましく、1.5℃/hr以下であることがより好ましく、1.0℃/hr以下であることがさらに好ましい。
また、TiO
2−SiO
2ガラス(1)の場合と同様に、(e)工程は温度保持工程を有してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1、6は参考例であり、例2は実施例であり、その他は比較例である。
【0060】
[例1]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、基材から外した。
【0061】
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、水をガラス製のバブラー内で大気圧100℃で沸騰させ、Heガスと共に水蒸気を炉内に導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、OHドープを行った。
その後、同じ雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しOHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を得た((b)工程)。
【0062】
得られたOHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1700℃に加熱して、OHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((c)工程)。
得られたOHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1750℃)に加熱して所望の形状に成形し、OHを含有した成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得る((d)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、5℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
なお、例1においては、(c)工程でガラス体にOHを含有させ、かつ、(e)工程の徐冷によりガラス体の仮想温度を低くしているため、OHを含有せず仮想温度がより高いガラス体に比べ、(a)工程でのTiCl
4量を増やし、ガラス体のTiO
2含有量を多くすることにより、COTを調整している。
【0063】
[例2]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
【0064】
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、He/SiF
4=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて1100℃、常圧下4時間保持し、フッ素ドープを行った。
その後、O
2100%雰囲気下にて1050℃、常圧下4時間保持した後、He100%雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しフッ素を含有したTiO
2−SiO
2緻密体を得た((b)工程)。
【0065】
得られたフッ素を含有したTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1650℃に加熱して、フッ素を含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((c)工程)。
得られたフッ素を含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1700℃)に加熱して所望の形状に成形し、フッ素を含有した成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((d)工程)。
得られたガラスを1000℃にて10時間保持し、5℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
なお、例2においても、(e)工程の徐冷によりガラス体の仮想温度を低くしていることおよび(c)工程でガラス体にフッ素を含有させていることを考慮して、(a)工程でガラス体のTiO
2含有量を調整することによりCOTを調整している。
【0066】
[例3]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、He/SiF
4=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて900℃、常圧下4時間保持し、フッ素ドープを行った。
その後、O
2100%雰囲気下にて1050℃、常圧下4時間保持した後、He100%雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しフッ素を含有したTiO
2−SiO
2緻密体を得た((b)工程)。
得られたフッ素を含有したTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1700℃に加熱して、フッ素を含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((c)工程)。
得られたフッ素を含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1750℃)に加熱して所望の形状に成形し、フッ素を含有した成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((d)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、150℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
【0067】
[例4]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
【0068】
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Torrまで減圧した後、He100%の雰囲気にて1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しTiO
2−SiO
2緻密体を得た((b)工程)。
【0069】
得られたTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1750℃に加熱して、透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((c)工程)。
得られた透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1750℃)に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((d)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、150℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
【0070】
[例5]
ゼロ膨張TiO
2−SiO
2ガラスとして知られるCorning社ULE#7972である。
【0071】
[例6]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Pa(7.50Torr)まで減圧した後、水をガラス製のバブラー内に入れ、大気圧100℃で沸騰させ、Heガスでバブリングを行い、Heガスと共に水蒸気を炉内に導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、OHドープを行った。
その後、同じ雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しOHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を得た((b)工程)。
得られたOHを含有したTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1700℃に加熱して、OHを含有した透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((c)工程)。
得られた透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1750℃)に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得た((d)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、10℃/hrの速度で900℃まで降温後、1℃/hrの速度で700℃まで降温、さらに10℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
なお、例6においては、(c)工程でガラス体にOHを含有させ、かつ、(e)工程の徐冷によりガラス体の仮想温度を低くしているため、OHを含有せず仮想温度がより高いガラス体に比べ、(a)工程でのTiCl
4量を増やし、ガラス体のTiO
2含有量を多くすることにより、COTを調整している。
【0072】
[例7]
TiO
2−SiO
2ガラスのガラス形成原料であるTiCl
4とSiCl
4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO
2−SiO
2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を形成する((a)工程)。
得られた多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、基材から外す。
その後、多孔質TiO
2−SiO
2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて10Paまで減圧した後、そのまま真空雰囲気にて1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しTiO
2−SiO
2緻密体を得る((b)工程)。
得られたTiO
2−SiO
2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1750℃に加熱して、透明TiO
2−SiO
2ガラス体を得る((c)工程)。
得られた透明TiO
2−SiO
2ガラス体を、軟化点以上の温度(1750℃)に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO
2−SiO
2ガラス体を得る((d)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、3℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷する((e)工程)。
なお、例7においては、(e)工程の徐冷によりガラス体の仮想温度を低くしているため、OHを含有せず仮想温度がより高いガラス体に比べ、(a)工程でのTiCl
4量を増やし、ガラス体のTiO
2含有量を多くすることにより、COTを調整する。
【0073】
上記例1〜例7で得られるガラスの熱膨張係数の温度変化を
図2、
図3に示す。なお、ガラスの熱膨張係数は、レーザー干渉式熱膨張系(ULVAC理工社製レーザー膨張計LIX−1)を用いて測定する。
また、各物性の測定結果を表1にまとめる。なお、評価方法については、それぞれ前述の測定方法に従って行う。また、表1のCOTは、
図2および
図3の曲線から熱膨張係数が0ppb/℃となる温度を求め、導出する。表1のΔTは、
図2および
図3の曲線から熱膨張係数が−5〜5ppb/℃となる温度の範囲を求め、導出する。
【表1】
表1から明らかなように、COTが23±4℃の範囲内にあり、ΔTが5℃以上である例1、2および6は、EUVL実施時の露光装置内の温度条件下(22±2℃)において、熱膨張係数がほぼゼロとなるため、EUVL用露光装置の光学系部材に好適である。