【文献】
諏訪雅頼 他, 磁気泳動速度解析による単一微粒子の磁化率測定法の開発,分析化学,2010年,Vol.50 No.10,pp.895-902
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明による空隙率測定装置の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
図1に、本実施形態の空隙率測定装置10の模式図を示す。空隙率測定装置10は、磁場生成部20と、分散質測定部30と、演算部40とを備える。磁場生成部20の近傍には分散媒mに分散質sが分散された分散系Dが配置されている。分散系Dは、例えば、管状部材に入れられている。磁場生成部20によって分散系Dに磁場が生成される場合、分散質sは所定の方向に移動する。このような現象は磁気泳動とも呼ばれる。
【0021】
分散質測定部30は、磁場生成部20によって磁場が生成された状態で分散質sの動きを測定する。なお、以下の説明において、分散質測定部30を単に測定部30と呼ぶことがある。
【0022】
なお、
図1には、分散媒mに1つの分散質sが存在しているように示されているが、もちろん、分散媒mに複数の分散質sが存在していてもよい。分散媒mは液体であってもよく、気体であってもよい。例えば、分散媒mはアセトニトリルである。あるいは、分散媒mはメタノールであってもよく、水であってもよい。あるいは、分散媒mは、例えば空気であってもよい。また、分散質sは微粒子であってもよい。あるいは、分散質sは細胞(例えば、赤血球)であってもよい。分散質sの直径は10nm以上であり、100nm以上100μm以下であることが好ましい。なお、分散質sの比重が分散媒mの比重に対して2倍以上であると、分散質sの沈降が比較的早い。この場合、分散媒mを比重の比較的高いものに変更するか、または、ポンプ等によって分散媒mを流動させることが好ましい。また、ポンプでの流動に加えて、測定系(磁場生成部20による磁場泳動方向および分散系Dの延びている方向)を鉛直方向に設置することで分散質sの重力落下に対する磁場による速度変化を測定することが好ましい。
【0023】
分散質sの磁化率は分散媒mの磁化率とは異なるため、磁場の生成により、分散質sは所定の方向に移動する。分散質sの移動の程度は、磁場の大きさに応じて変化する。
【0024】
演算部40は、測定部30の測定結果に基づいて分散質sの空隙率を取得する。詳細は後述するが、例えば、演算部40は、測定部30の測定結果から分散質sの磁気泳動速度を取得する。この場合、演算部40は、測定部30によって測定された分散質sの位置を示す位置情報の時間的な変化から、分散質sの磁気泳動速度を取得してもよい。その一例として、測定部30は、所定の時間間隔ごとに分散質sを撮像し、演算部40は、それらの撮像結果から分散質sの磁気泳動速度を取得してもよい。
【0025】
その後、演算部40は、分散質sの磁気泳動速度から分散質sの空隙率を取得する。具体的には、演算部40は、分散質sの磁気泳動速度から分散質sの体積磁化率を取得し、分散質sの体積磁化率から分散質sの空隙率を取得する。演算部40として、例えば、パーソナルコンピュータが用いられる。
【0026】
空隙率測定装置10によれば、1つの分散質sの動きから、分散質sの空隙率を直接的に求めることができ、分散質s毎の空隙率を測定することができる。また、分散媒mに分散された複数の分散質sの空隙率の均一性を調べることができる。
【0027】
なお、空隙率測定装置10で測定される空隙率は、単純に分散質sの形状のみによって規定されるものではなく、分散質sと分散媒mとの関係をも示す指標である。例えば、仮に分散質sが同じものであっても、分散媒mが異なることにより、空隙率は異なる値を示すことがある。このため、空隙率により、分散質s内に浸透した分散媒mの状況を把握することができる。なお、分散質sは、分散媒mに分散されて膨潤してもよい。
【0028】
分散質sの動きは、分散質sおよび分散媒mの体積磁化率に応じて決定される。なお、体積磁化率は、電子状態に依存するパラメータであり、物理学的に信頼性の高い指標である。また、空隙率測定装置10によれば、分散質sを破壊することなく分散質sの内部および表面の情報を得ることができる。
【0029】
以下、
図2を参照して本実施形態の空隙率測定方法を説明する。
【0030】
まず、
図2(a)に示すように、磁場を生成した状態で、分散媒mに分散された分散質sの動きを測定する。例えば、分散質sの動きから、分散質sの磁気泳動速度が求められる。
【0031】
次に、
図2(b)に示すように、分散質sの動きの測定結果に基づいて分散質sの空隙率を取得する。例えば、分散質sの動きの測定結果から分散質sの体積磁化率を取得し、その後、分散質sの体積磁化率から分散質sの空隙率を取得する。
【0032】
このようにして、分散質sの磁気泳動を利用して分散質sを破壊することなく分散質sの空隙率を測定できる。なお、分散質sはインクトナーに用いられる磁性粒子であってもよい。また、分散質sは化粧品(例えば、ファウンデーション)に用いられる材料であってもよく、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に適用される材料であってもよい。なお、上述したように、分散質sは細胞であってもよい。分散質sが細胞の場合、分散質sの形状が時間とともに変化することがある。
【0033】
以下、
図3を参照して、分散質sの動きを説明する。例えば、磁場生成部20はポールピースによって強い磁場および大きな磁場勾配を生成することが好ましい。
【0034】
図3(a)に示すように、分散質sの体積磁化率が分散媒mの体積磁化率よりも小さい場合、分散質sは磁場から遠ざかる方向に移動する。なお、分散質sは磁石の端部の近傍において力を受ける。例えば、分散質sは磁石の端部の近傍から±200μm程度の範囲で力を受ける。
【0035】
図3(b)に示すように、分散質sの体積磁化率が分散媒mの体積磁化率よりも大きい場合、分散質sは磁場に近づく方向に移動する。
【0036】
図4に、本実施形態の空隙率測定装置10の模式図を示す。
図4に示した空隙率測定装置10において分散系Dの入れられたキャピラリCは磁場生成部20の近傍に配置されている。例えば、キャピラリCは、軸方向に直交する断面が約100μmのほぼ正方形状に構成されている。
【0037】
測定部30は、拡大部32および撮像部34を有している。例えば、拡大部32は対物レンズを含み、撮像部34は電荷結合素子(Charge Coupled Device:CCD)を含む。なお、撮像部34は一般に分散質sの位置だけでなく大きさも併せて測定可能であるが、撮像部34は分散質sの大きさを測定しなくてもよい。例えば、撮像部34は分散質sから散乱する光を検出することによって分散質sの位置を測定してもよい。
【0038】
図5に、空隙率測定装置10における分散質の動きの測定結果の一例を示す。ここでは、分散質sはポリスチレン粒子であり、各点は0.3秒間隔で撮像した画像を重ねて示している。
【0039】
例えば、演算部40は、測定部30の測定結果に基づいて磁気泳動速度vを求める。分散質sの磁気泳動速度vは以下のように表される。
v={2(χ
s−χ
m)r
2}/(9ημ
o)×B(dB/dx)
ここで、χ
sは分散質sの体積磁化率であり、χ
mは分散媒mの体積磁化率であり、rは分散質sの半径であり、ηは分散媒mの粘性率であり、μ
oは真空の透磁率であり、Bは磁束密度であり、(dB/dx)は磁束密度の勾配である。なお、上記式は、キャピラリCの軸方向に受ける分散質sおよび分散媒mの磁気力の差と、粘性抵抗力とがほぼ等しいことから導かれる。
【0040】
上述したように、分散質sの泳動方向は、分散質sの体積磁化率χ
sと分散媒mの体積磁化率χ
mの大きさに応じて決定される。また、上記の式から理解されるように、分散質sの磁気泳動速度vは磁束密度Bおよび/または磁束密度の勾配(dB/dx)に依存して変化する。
【0041】
演算部40は、測定部30の測定結果から求めた磁気泳動速度vを利用して、分散質sの体積磁化率χ
sを取得する。例えば、
図6に示すように、分散質sには分散媒mの充填された空隙部分pがあり、分散質sは、本体部分bと、空隙部分pとに分けられる。
【0042】
この場合、空隙率Pは、
P=V
p/V
s=V
p/(V
b+V
p)
と表される。ここで、V
sは分散質sの体積であり、V
bは分散質sの本体部分bの体積であり、V
pは分散質sの空隙部分pの体積である。このように、分散質sの体積V
sは、分散質sの本体部分bの体積V
bと、空隙部分pの体積V
pとの和で表される。
V
s=V
b+V
p
【0043】
なお、分散質sの磁化率は、分散質sの本体部分bの磁化率と、分散質sの空隙部分pの磁化率との和で表される。
図6に示すように、分散質sの空隙部分pに分散媒mが充填されている場合、磁化の関係は、
χ
sV
s=χ
bV
b+χ
pV
p
と表される。この場合、上述した式は、
P=V
p/(V
b+V
p)=(χ
s−χ
b)/(χ
p−χ
b)
と表される。なお、分散質sの空隙部分pに分散媒mが充填されている場合、分散質sの空隙部分pの体積磁化率χ
pは分散媒mの体積磁化率χ
mに等しい。
【0044】
なお、化学分析においてしばしば用いられる液体クロマトグラフィーでは、充填剤として一般にシリカゲルが用いられる。本実施形態の空隙率測定装置10を用いてシリカゲルの構成を調べることができる。
【0045】
例えば、分散質sとして直径約5μmのシリカゲル粒子を用い、分散媒mとしてアセトニトリルを用いた測定の結果、磁気泳動速度vが27.4μms
-1である場合、この磁気泳動速度vから、χ
sは−7.20±0.02×10
-6と求められる。また、上述したように、分散質sがシリカゲルであり、分散媒mがアセトニトリルである場合、χ
bは−1.36×10
-5であり、χ
mは−6.76×10
-6である。この場合、空隙率Pは93.3%である。また、シリカゲル粒子の体積V
sから、V
pは4.65×10
-11cm
3と求められる。
【0046】
なお、分散質sは、大きさの既知の材料を用いてもよく、あるいは、分散質sの直径を測定してもよい。例えば、分散質sの直径は測定部30を用いて測定してもよい。なお、測定部30が分散質sの直径を直接的に測定する場合、
図7に示すように、空隙率測定装置10は光源50を有することが好ましい。
【0047】
あるいは、凸レンズと平板ガラスとの間、または、平板ガラスと平板ガラスとの間に形成される空隙によって分散質sをトラップさせた状態で2つの光学部材に間における光の干渉を利用して分散質sの直径を測定してもよい。あるいは、ブラウン運動を行う分散質sからの散乱光を利用して分散質sの直径を測定してもよい。
【0048】
なお、
図4および
図7に示した空隙率測定装置10では、分散系Dの入れられたキャピラリCは垂直に配置されていたが、本発明はこれに限定されない。
図8に示すように、空隙率測定装置10において、分散系Dの入れられたキャピラリCは水平に配置されてもよい。例えば、磁場生成部20は磁束密度3Tの磁場を生成する。
【0049】
図9に、本実施形態の空隙率測定装置10において、分散媒としてアセトニトリルを用い、分散質として多孔質シリカゲル粒子を用いた場合の空隙率の測定結果を示す。
図9に示した測定結果において平均空隙率は69.7%である。ここでは、多孔質シリカゲル粒子の空隙率は、多孔質シリカゲル粒子の全体体積に対して、多孔質シリカゲル粒子の細孔に侵入したアセトニトリルの体積の割合を示している。なお、従来の窒素ガス吸着による多孔質シリカゲル粒子の空隙率を測定したところ、平均空隙率は70%であり、
図9の測定結果とほぼ一致している。これは、窒素ガスと同じ程度の量のアセトニトリルが多孔質シリカゲル粒子の細孔へ侵入したことを示しており、分散質sの体積磁化率から分散質sの空隙率を取得する本実施形態の手法の妥当性が理解される。
【0050】
また、本実施形態の空隙率測定装置10では、粒子ごとの空隙率を測定できるため、空隙率分布が容易に取得される。典型的には、1つの平均空隙率の取得には、約1000個の粒子の測定が必要であり、これに要する時間はおおよそ約20分である。ほぼ一定の粒径を有する粒子を用いた場合、空隙率の分布が広いと、粒子の細孔体積にバラツキがあることがわかる。
【0051】
表1に、本実施形態の空隙率測定装置10において、分散媒としてアセトニトリル以外に、メタノールおよびエタノールを用いた場合の多孔質シリカゲル粒子の空隙率の測定結果を示す。
【表1】
表1から理解されるように、これら3種類の有機溶媒では、ほぼ同じ結果が得られている。このように、異なる溶液を用いても、分散質sの空隙率を測定できる。
【0052】
なお、分散質sを化学的に変化させて分散質sの体積磁化率が変化することにより、分散媒mの流れに対する分散質sの磁気泳動方向が変化することがある。例えば、化学変化によって分散質s全体がラジカル化すると、分散質sは常磁性化するため、分散媒mの体積磁化率に対する分散質sの体積磁化率の大きさが反転することがある。この場合、分散質sの変化により、分散質sの磁気泳動方向が反転する。一方、分散質sの多くの箇所で化学変化することなく、一部の箇所でのみラジカル化が起きる場合、分散質s全体としては反磁性のままであり、分散質sの磁化率が減少することがある。このため、分散質sの磁気泳動の動き、すなわち、分散質sの磁化率の変化により、分散質sのラジカル化の進行の程度をモニタすることができる。
【0053】
なお、厳密には、分散質sの磁気泳動方向の反転は、分散質sの密度が大きく変化して分散質sの体積磁化率および分散媒mの体積磁化率の大きさが反転する場合にも起きることがある。ただし、分散質sの密度が大きく変化したか否かは、測定部30が分散質sの変化をモニタすることにより、調べることができる。
【0054】
このように、本実施形態の空隙率測定装置10により、分散質sのラジカル化のタイミングを特定できるとともにラジカルへの変化を可視化できる。なお、分散質sの変化(例えば、化学変化)は、空隙率測定装置10を設置した状態で行われてもよく、空隙率測定装置10の外部で行われてもよい。
【0055】
なお、上述した説明では、分散質sは、本体部分bおよび空隙部分pの2つの部分に分けられたが、本発明はこれに限定されない。分散質sは、3以上の部分に分けられてもよい。例えば、分散質sには、親水性を向上させるために、分散質sに表面処理を行うことがあり、この場合、分散質sの表面に、分散質sの本体部分とは異なる部分が形成される。
【0056】
図10に示すように、分散質sは、本体部分bと、表面部分cと、空隙部分pの3つの部分に分けられる。このような3つの部分を有する分散質sは、例えば、空隙の設けられたシリカゲルの表面がオクタデシルシリル(Octa Decyl Silyl:ODS)基(C
18H
37Si)で修飾されたものに相当する。この場合、分散質sの体積は、
V
s=V
b+V
c+V
p
と表される。ここで、V
sは分散質sの体積であり、V
bは分散質sの本体部分bの体積であり、V
cは分散質sの表面部分cの体積であり、V
pは分散質sの空隙部分pの体積である。
【0057】
また、分散質sの磁化率は、分散質sの本体部分bの磁化率と、分散質sの表面部分cの磁化率と、分散質sの空隙部分pの磁化率との和で表される。
χ
sV
s=χ
bV
b+χ
cV
c+χ
pV
p
ここで、χ
sは分散質sの体積磁化率であり、χ
bは分散質sの本体部分bの体積磁化率であり、χ
cは分散質sの表面部分cの体積磁化率であり、χ
pは分散質sの空隙部分pの体積磁化率である。
【0058】
なお、上述の体積の関係は、
V
c=V
s−V
b−V
p
と表される。V
bは測定値を用いることができる。
【0059】
また、空隙率Pは、
P=V
p/V
s=V
p/(V
b+V
c+V
p)
と表される。この空隙率Pは、また、上述の磁化の関係を用いて、
P=(χ
c−χ
s)/(χ
c−χ
m)−(χ
c−χ
b)×V
b/((χ
c−χ
m)×V
s)
と表される。
【0060】
例えば、ODS基で表面修飾した直径5μmのシリカゲル粒子をアセトニトリルに分散させた場合、分散質sの磁気泳動速度から、χ
sは−7.82×10
-6と求められる。分散質sの空隙部分pの体積磁化率χ
pは分散媒mの体積磁化率χ
mに等しく−6.76×10
-6であり、また、文献の値から、χ
bは−1.56×10
-5であり、χ
cは−8.43×10
-6である。また、同様のシリカゲルを表面未修飾で用いた結果、分散質sの本体部分bの体積V
bは6.06×10
-11cm
3であり、分散質sの体積V
sは9.04×10
-10cm
3である。以上から、空隙率P(=V
p/V
s)は0.64(64%)と求められる。この結果から、表面修飾された分散質sの表面部分cの体積V
cは2.66×10
-10cm
3、分散質sの空隙部分pの体積V
pは5.83×10
-10cm
3と決定される。なお、
図6および
図10を参照した上述した説明の比較から理解されるように、分散質sは、本体部分bと空隙部分p以外に別の部分を有してもよい。
【0061】
また、表面修飾後の分散質sの空隙率分布と、表面修飾前の分散質sの空隙率分布とを比較することにより、表面修飾の均一性を調べることができる。具体的には、表面修飾後の分散質sの空隙率分布の分散が表面修飾前の分散質sの空隙率分布の分散とほぼ同程度であると、表面修飾がほぼ均一に行われたと考えられる。これに対して、表面修飾後の分散質sの空隙率分布の分散が表面修飾前の分散質sの空隙率分布の分散よりもかなり大きいと、表面修飾は不均一に行われたと考えられる。
【0062】
なお、分散質sは磁化率または空隙率に応じて分別可能である。ここで、
図11〜
図13を参照して、磁化率または空隙率に応じて分散質sを分別可能な空隙率測定装置10の実施形態を説明する。
【0063】
図11に、本実施形態の空隙率測定装置10の模式図を示す。この空隙率測定装置10は、磁場生成部20と、分散質測定部30と、演算部40とを備えており、分散質測定部30は、拡大部32と、撮像部34とを有している。
図11に示した空隙率測定装置10は、磁場形成部20が分散質sの体積磁化率に応じて分散媒mに分散される分散質sの位置が異なるように磁場を生成する点を除いて、
図1および
図4を参照して上述した空隙率測定装置10と同様の構成を有しており、冗長を避ける目的で重複する説明を省略する。
【0064】
磁場生成部20の近傍において、分散媒mに分散質sが分散された分散系DがキャピラリCの中に入っている。ここでは、分散質sの体積磁化率は分散媒mの体積磁化率よりも小さい。例えば、分散質sはポリスチレン粒子であり、分散媒mはMnCl
2溶液である。
【0065】
磁場生成部20は、ポールピース20a、20bを有している。ポールピース20a、20bはキャピラリCを挟んでおり、キャピラリCは、ポールピース20a、20bによって規定される空間を横切るように配置されている。
【0066】
ポールピース20a、20bはキャピラリC内に磁場を形成する。ポールピース20a、20bにより、キャピラリCの幅方向(y方向)に沿った位置に応じて異なる強度の磁場が形成される。ここでは、ポールピース20a、20bはそれぞれ三角形状を有しており、両者の形状および大きさはほぼ等しい。ポールピース20a、20bとキャピラリCとの重なる面積は、キャピラリCの幅方向に沿ってほぼ単調に変化する。
【0067】
図12に、
図11に示した空隙率測定装置10の一部を拡大した模式図を示す。キャピラリCは、分散媒導入管Caおよび分散質導入管Cbと封止部Ccを介して連結している。キャピラリCの径は、分散媒導入管Caおよび分散質導入管Cbの径よりも大きく、また、典型的には、分散媒導入管Caの径は分散質導入管Cbよりも大きい。分散質導入管Cbは、キャピラリCの幅方向において、ポールピース20a、20bとキャピラリCとの重なる面積が比較的大きい領域と対応するように配置されている。
【0068】
ポールピース20a、20bは、直角を規定する2つの辺の一方の辺がキャピラリCの長手方向(分散媒mの流れ方向:x方向)に平行で、かつ、直角を規定する2つの辺の他方の辺がキャピラリCの幅方向に平行になるように配置されている。ポールピース20a、20bは、垂直方向(キャピラリCの幅方向)に沿った位置に応じて異なる大きさの磁場を印加する。例えば、キャピラリCの径(幅方向の長さ)は300μmであり、ポールピース20a、20bは、それぞれ、3mm、4mm、5mmの辺を有する直角三角形である。
【0069】
分散媒mは分散媒導入管CaからキャピラリCに移動し、キャピラリCの長手方向(x方向)に沿って流れる。分散質sは分散質導入管CbからキャピラリCに移動する。分散質導入管Cbを介してキャピラリCに流れる分散質sは、分散媒導入管Caを介してキャピラリCに流れる分散媒mと合流する。その後、分散質sは分散媒mとともに移動し、ポールピース20a、20bによって形成される磁場形成領域の近傍に到達する。
【0070】
図13に、
図11および
図12に示した空隙率測定装置10の一部を拡大した模式図を示す。
図13には、キャピラリCの内部において、ポールピース20a、20bによって形成される磁場形成領域MRを模式的に示している。
【0071】
分散媒mはキャピラリCの長手方向(x方向)に沿って流れており、分散質sは分散媒mからの流体駆動力F
fを受けている。分散質sは流速V
fで移動し、ポールピース20a、20bの近傍まで移動する。なお、厳密には、キャピラリC内の分散媒mの流れは層流と考えることが好ましい。
【0072】
分散質sは、ポールピース20a、20bの近傍に達すると、ポールピース20a、20bによる磁気力を受ける。ここでは、分散質sの体積磁化率は分散媒mの体積磁化率よりも小さいため、磁気力は、分散媒mの流れに対して分散質sを押し戻す方向に作用する。分散質sの受ける磁気力は、キャピラリCの幅方向の位置に応じて異なる。磁気力のx方向の成分F
mxは以下のように表される。
F
mx=−{4(χ
s−χ
m)πr
3}/(3μ
o)×B(dB/dx)
【0073】
図13に示した空隙率測定装置10の磁場形成領域MRにおいて、B(dB/dx)の大きさは、キャピラリCの幅方向の位置に応じて異なる。このため、キャピラリCの幅方向において、ポールピース20a、20bとキャピラリCとの重なる面積が大きい位置では、B(dB/dx)の値は大きく、ポールピース20a、20bとキャピラリCとの重なる面積が小さい位置では、B(dB/dx)の値は小さい。したがって、同一の分散質sであっても、キャピラリCの幅方向において、ポールピース20a、20bとキャピラリCとの重なる面積が大きい位置ほど、磁気力のx方向の成分F
mxは大きく、キャピラリCとの重なる面積が小さくなるほど、磁気力のx方向の成分F
mxは小さくなる。
【0074】
分散質sは、ポールピース20a、20bによって形成された磁場形成領域MRの近傍に到達し、流体駆動力F
fよりも大きい磁気力を受ける。厳密には、分散質sは、磁場形成領域MRから、磁場形成領域MRの斜辺に対して直交する方向に磁気力を受け、分散質sは、流体駆動力F
fと磁気力とのベクトルの和で表される方向に進む。典型的には、ベクトルの和の方向はポールピース20a、20bの斜辺とほぼ平行であり、分散質sはポールピース20a、20bの斜辺とほぼ平行に斜め方向に移動する。
【0075】
分散質sが斜めに移動していくほど、分散質sの受ける磁気力のx方向の成分F
mxは減少する。分散質sの受ける磁気力F
mxが分散媒mからの流体駆動力F
fとほぼ等しくなると、分散質sは、ポールピース20a、20bによって形成された磁場形成領域MRを通過する。
【0076】
例えば、分散質sの体積磁化率が比較的小さい場合、すなわち、分散媒mの体積磁化率と分散質sの体積磁化率との差が比較的大きい場合、磁気力F
mxが比較的大きくなるため、分散質sが、キャピラリCの幅方向に比較的長い距離移動しないと、磁場形成領域MRを通過できない。反対に、分散質sの体積磁化率が比較的大きい場合、すなわち、分散媒mの体積磁化率と分散質sの体積磁化率との差が比較的小さい場合、磁気力F
mxが比較的小さいため、分散質sは、キャピラリCの幅方向に移動する距離が比較的短くても、磁場形成領域MRを通過できる。なお、ここでは図示していないが、キャピラリCには、分別された分散質sを分離して取り出すための少なくとも1本の分散質取出管が連結していてもよい。
【0077】
このように、空隙率測定装置10は、分散質sの体積磁化率に応じて分散質sをキャピラリCの幅方向に移動させて分散質sを分別する。この場合、ポールピース20a、20bによって形成される磁場形成領域MRが分散質sの選別領域として機能する。本実施形態の空隙率測定装置10によれば、キャピラリCの幅が比較的短くても分散質sを効率的に分別することができる。また、本実施形態の空隙率測定装置10によれば、分散質sは分散媒mとともに移動するため、比較的多くの分散質sを簡便に分別することができる。
【0078】
なお、上述したように、分散質sの体積磁化率は分散質sの空隙率と関連している。このため、体積磁化率に応じて分散質sを分別することにより、分散質sは空隙率に応じて分別することができる。例えば、同じ組成でほぼ同じ粒径の分散質sを分別する場合、分散質sが分散質sの体積磁化率で分別された結果、分散質sは、空隙率に応じてキャピラリC内の幅方向の異なる位置に分別されることになる。したがって、キャピラリC内の幅方向の異なる位置に応じて、所望の空隙率を有する分散質sを取得することができる。