(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
サセプタと該サセプタ上に載置されたウェーハを加熱するヒータとを有する気相成長装置を用いて前記ウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させるときの前記ウェーハの面内温度を調整する、気相成長装置の温度調整方法であって、
前記ヒータは載置された前記ウェーハの面内温度差を調整できるように複数の領域に分かれており、
前記ウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させる際に、成長中の該エピタキシャル層の膜厚と、前記ウェーハの面内温度差の相関である第1相関、及び前記ヒータの前記領域間の出力比と、前記ウェーハの面内温度差の相関である第2相関をあらかじめ求めておき、前記第1相関及び前記第2相関を用い、前記エピタキシャル層の膜厚による前記ウェーハの面内温度差を、前記エピタキシャル層の膜厚に応じて前記ヒータ出力比により相殺するように補正することを特徴とする気相成長装置の温度調整方法。
気相成長中における前記エピタキシャル層の膜厚において、随時前記ウェーハの外周部と中央部の温度差を前記第1相関に基づき推定し、その温度差を相殺する相殺温度差を与える前記ヒータ出力比を前記第2相関から求め、そのヒータ出力比となるように前記ヒータの出力を補正することを特徴とする請求項2に記載の気相成長装置の温度調整方法。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの一種として、シリコンウェーハの表面に、単結晶シリコンからなるエピタキシャル層を気相エピタキシャル成長させたエピタキシャルシリコンウェーハが開発されている。その製造方法としては、例えば枚葉式のエピタキシャル成長用のチャンバー(気相成長装置のチャンバー)に収納されたサセプタに、1枚のシリコンウェーハを水平配置する。その後、垂直な回転軸を中心にしてサセプタを回転させながらシリコンウェーハを、ハロゲンランプなどの熱源(ヒータ)により高温加熱(1000〜1200℃)し、成長ガスを流す。これにより、ウェーハ表面に反応ガスの熱分解(および還元)によって生成されたシリコンが析出し、ウェーハ表面に単結晶シリコンからなるエピタキシャル層が成長する。
【0003】
このようなエピタキシャルシリコンウェーハの製造を繰り返せば、エピタキシャル成長用チャンバーの内壁、特に成長ガスの出口部の内壁において、ポリシリコンやその副生成物である分解生成物が徐々に堆積する。これは、一般にウォールデポ(ウォールデポジション)と呼ばれる。このウォールデポは、放射熱を吸収するためにウェーハ面内の温度分布に悪影響を及ぼすためスリップの発生原因となる。
【0004】
ウォールデポの改善方法として、エピタキシャル成長工程では、定期的に、クリーニング温度(例えば1190℃程度)まで高めたチャンバー内に、塩化水素(HCl)ガスなどのエッチングガスを流し、サセプタ表面やチャンバー内壁に堆積した分解生成物をエッチングするクリーニングが行われている。
【0005】
また、ウェーハ面内温度の調整方法に関し、特許文献1には、基板保持具(サセプタ)の基板非保持部に堆積する結晶の成長膜厚が増加するにつれて結晶成長用基板(ウェーハ)の温度が低下するという課題を解決する発明が提案されている。具体的には、特許文献1の発明では、予め定義された基板温度評価関数を用いて、結晶成長工程における基板保持具の基板非保持部に堆積した半導体結晶の膜厚に応じた基板温度を求める。その基板温度と設定温度の温度差を求め、設定温度にその温度差を加えることにより、気相成長工程における温度を補正している。
【0006】
また、特許文献2には、サセプタの複数のゾーン毎にワークコイル(ヒータ)を設け、サセプタを均一加熱するために、サセプタと各ワークコイルとの距離を変えることができる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、定期的なクリーニングによりウォールデポを除去する方法では、エピタキシャルウェーハの生産性が低下してしまうという問題点がある。また、特許文献1の方法では、ウォールデポによるウェーハ全体の温度低下は改善できるものの、ウォールデポによってウェーハ面内の温度分布(温度差)に不均一が生じた場合にはその温度分布の適正化(均一化)を図ることができない。また、特許文献2の方法では、ウォールデポとの関係で具体的にどのようにしてウェーハ面内の温度分布を均一化するかについては何も開示されていない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みになされたものであり、エピタキシャルウェーハの生産性を低下させることなく、エピタキシャル成長中に発生するウォールデポによるウェーハ面内温度の適正化を図り、スリップを改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。エピタキシャル成長膜厚の増加に伴うウォールデポの影響により発生するウェーハ面内温度差を抑制することで、スリップを改善することができるのではないかと考え、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、サセプタと該サセプタ上に載置されたウェーハを加熱するヒータとを有する気相成長装置を用いて前記ウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させるときの前記ウェーハの面内温度を調整する、気相成長装置の温度調整方法であって、
前記ヒータは載置された前記ウェーハの面内温度差を調整できるように複数の領域に分かれており、
前記ウェーハ上にエピタキシャル層を気相成長させる際に、成長中の該エピタキシャル層の膜厚と、前記ウェーハの面内温度差の相関である第1相関、及び前記ヒータの前記領域間の出力比と、前記ウェーハの面内温度差の相関である第2相関をあらかじめ求めておき、前記第1相関及び前記第2相関を用い、前記エピタキシャル層の膜厚による前記ウェーハの面内温度差を、前記エピタキシャル層の膜厚に応じて前記ヒータ出力比により相殺するように補正することを特徴とする。
【0012】
成膜するエピタキシャル層の膜厚を増加させていくと、それにともなってウォールデポも増加していく。ウォールデポが増加していくと、それにともなってウェーハの面内温度差が大きくなるという知見を本発明者は得ている。つまり、本発明者は、エピタキシャル層の膜厚とウォールデポによるウェーハの面内温度差とは相関があるという知見を得ている。そこで、気相成長させる際には予めその相関(第1相関)を求める。この第1相関を参照することで、ウォールデポ(エピタキシャル層の膜厚)によるウェーハの面内温度差を推定できる。また、本発明で用いられる気相成長装置のヒータはウェーハの面内温度差を調整できるように複数の領域に分かれている。そして、気相成長させる際には、領域間のヒータ出力比を変えたときにウェーハの面内温度差がどのように変わるか(第2相関)も予め求めておく。この第2相関を参照することで、第1相関から推定した温度差を相殺するヒータ出力比を決定できる。そして、そのヒータ出力比に補正することで、ウォールデポによるウェーハの面内温度差を抑制できる。その結果、スリップの発生を抑制できる。また、ウォールデポの除去のためのクリーニングを行う必要がないので、エピタキシャルウェーハの生産性の低下を抑制できる。
【0013】
本発明者は、ウォールデポの増加(エピタキシャル層の膜厚の増加)により、ウェーハの外周部の温度が徐々に低下していくという知見を得ている。そこで、本発明に係る温度調整方法において、前記ヒータは前記ウェーハの外周部と中央部に該当する2つの領域に分かれており、
前記第1相関は、前記エピタキシャル層の膜厚と、前記ウェーハの外周部と中央部の温度差の相関であり、
前記第2相関は、前記2つの領域間の前記ヒータ出力比と、前記ウェーハの外周部と中央部の温度差の相関であり、
前記第1相関及び前記第2相関を用い、前記エピタキシャル層の膜厚による前記ウェーハの外周部と中央部の温度差を、前記エピタキシャル層の膜厚に応じて前記ヒータ出力比により相殺するように補正するのが好ましい。
【0014】
これによって、ウォールデポによるウェーハの面内温度差(ウェーハ中央部と外周部の温度差)を効果的に抑制できる。
【0015】
また、本発明の温度調整方法のより具体的な態様として、気相成長中における前記エピタキシャル層の膜厚において、随時前記膜厚での前記ウェーハの外周部と中央部の温度差を前記第1相関に基づき推定し、その温度差を相殺する相殺温度差を与える前記ヒータ出力比を前記第2相関から求め、そのヒータ出力比となるように前記ヒータの出力を補正する。これによって、ウォールデポによるウェーハ中央部と外周部の温度差を抑制できる。
【0016】
本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法は、本発明の気相成長装置の温度調整方法を適用してエピタキシャルウェーハを製造することを特徴する。これによって、スリップの発生を抑えたエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る気相成長装置の温度調整方法及びエピタキシャルウェーハの製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明で用いられる枚葉式の気相成長装置を示す概略図(側面図)である。
図1に示す気相成長装置10は、気相成長(エピタキシャル成長)が行われるチャンバー(反応容器)12を有している。そのチャンバー12は、チャンバー12の側壁を構成する筒状のチャンバーベース11と、そのチャンバーベース11を上下から挟む透明石英部材13、14とから構成されている。上側の透明石英部材13はチャンバー12の上壁を構成し、下側の透明石英部材14はチャンバー12の底壁を構成している。
【0019】
チャンバー12内には、シリコン単結晶基板Wを上面のウェーハ載置面(座繰り部)19で水平に支持するサセプタ17が水平配置されている。このサセプタ17には、例えば3つ以上の貫通孔16が設けられ、この貫通孔16に挿入されて上下動することでシリコン単結晶基板Wの載置、離間を行うリフトピン15が配置されている。サセプタ17はウェーハ回転機構18に接続されている。このウェーハ回転機構18は、エピタキシャル成長中にサセプタ17を回転させることで、載置されたシリコン単結晶基板Wを回転させる。これにより、シリコンエピタキシャル層をシリコン単結晶基板W上に膜厚均一に成長させるようにしている。
【0020】
チャンバー12(チャンバーベース11)には、チャンバー12内に原料ガスおよびキャリアガス(例えば、水素)を含む気相成長ガスを導入して、サセプタ17上に載置されたシリコン単結晶基板Wの表面上に原料ガスとキャリアガスを供給するガス導入管20が接続されている。なお、
図1には、ガス導入管20からチャンバー12内に導入されたガスの流れを矢印Pで示している。また、チャンバー12(チャンバーベース11)のガス導入管20が接続された側の反対側には、チャンバー12内からガスを排出するガス排出管21が接続されている。
【0021】
図1には図示していないが、気相成長装置10には、
図2に示すように、シリコン単結晶基板W上にエピタキシャル層を気相成長させる際に、ウェーハ100(シリコン単結晶基板W+エピタキシャル層)を加熱するランプ60(ヒーター)が設けられている。そのランプ60として例えばハロゲンランプが用いられる。ランプ60は、チャンバー12(透明石英部材13、14)の上下に配置されている。ランプ60は複数のゾーン(領域)に分かれており、詳細には、チャンバー12に対して、上側ゾーン31、下側ゾーン32、上側Outerゾーン41、上側Innerゾーン42、下側Outerゾーン51、下側Innerゾーン52の6つのゾーンに分かれている。なお、上側ゾーン31は、上側Outerゾーン41と上側Innerゾーン42を合体させたゾーンである。下側ゾーン32は、下側Outerゾーン51と下側Innerゾーン52とを合体させたゾーンである。ランプ60のうち、Outerゾーン41、51は、ウェーハ100のウェーハ外周部101に対峙するゾーンとされている。そのため、ランプ60のうちOuterゾーン41、51に配置されたランプ61(以下、外側ランプという)はウェーハ外周部101の加熱に奇与する。他方、Innerゾーン42、52は、ウェーハ100のウェーハ中央部102に対峙するゾーンとされている。そのため、ランプ60のうちInnerゾーン42、52に配置されたランプ62(以下、内側ランプという)はウェーハ中央部102の加熱に奇与する。
【0022】
ランプ60の出力はランプ制御部25(
図2参照)によって制御されている。ランプ制御部25は、各種処理を実行するCPU、ランプ60の電力を供給する電力供給回路等から構成されている。ランプ制御部25は、ランプ60に供給する電力を調整することで、気相成長中のウェーハ100面内の温度調整を実施する。具体的には、ランプ制御部25は、(1)上側ゾーン31の配置されたランプ60と下側ゾーン32に配置されたランプ60の出力比(以下、(1)のゾーンのランプ出力比という)、(2)上側Outerゾーン41に配置された外側ランプ61と上側Innerゾーン42に配置された内側ランプ62の出力比(以下、(2)のゾーンのランプ出力比という)、(3)下側Outerゾーン51に配置された外側ランプ61と下側Innerゾーン52に配置された内側ランプ62の出力比(以下(3)のゾーンのランプ出力比という)、の3対の出力比を適宜調整することによってウェーハ100面内の温度調整を実施している。
【0023】
ここで、
図3は、外側ランプ61と内側ランプ62の出力比を変化させたときのウェーハ100の面内温度差の実験例を示した図である。なお、
図3では、ある一定の濃度の不純物が注入されたサンプルとなるウェーハ100をアニールし、そのときのウェーハ面内の抵抗率を測定し、得られた抵抗率を温度換算して面内温度差を算出した。
図3の縦軸は、ランプ出力比として、全体パワー(外側ランプ61に割り振られるパワー+内側ランプ62に割り振られるパワー)に対する外側ランプ61に割り振られるパワー割合(%)を示している。なお、ここでは、(2)のゾーンのランプ出力比と(3)のゾーンのランプ出力比の双方を
図3の各プロット点72のランプ出力比となるように変化させている。
図3の横軸は、ウェーハ100のウェーハ中央部102とウェーハ外周部101の温度差(ウェーハ中央部102の温度−ウェーハ外周部101の温度)を示している。横軸の温度差がプラス側では、ウェーハ中央部102の温度に対してウェーハ外周部101の温度が低くなっていることを示している。反対に、横軸の温度差がマイナス側では、ウェーハ中央部102の温度に対してウェーハ外周部101の温度が高くなっていることを示している。
【0024】
図3に示すように、外側ランプ61と内側ランプ62の出力比に応じてウェーハ100の面内温度差(ウェーハ中央部102とウェーハ外周部101の温度差)が変化することが分かる。具体的には、外側ランプ61の出力比を小さくするほど、ウェーハ外周部101の温度が低下していく(ウェーハ中央部102とウェーハ外周部101の温度差がプラス側に大きくなっていく)。また、
図3には、各プロット点72を最小二乗法等で直線近似して得られたライン(近似直線)71を図示している。近似直線71は、y=−1.714x+51.959の直線となっている。近似直線71の決定係数R
2は0.998、つまり1に非常に近い値となっている。そのため、
図3の例では、ランプ出力比とウェーハ100の面内温度差とはほぼ比例関係であると言える。
【0025】
以上に説明した気相成長装置10を用いてエピタキシャルシリコンウェーハの製造が行われる。このとき、ウェーハの製造を繰り返せば、チャンバー12の内壁、特にガス排出管21付近の内壁121(
図1参照)に堆積するウォールデポが増加していく。そのウォールデポにより、ランプ60からの放射熱が吸収されるので、エピタキシャル成長の際にはウェーハの面内温度分布が不均一になる。その結果、スリップが発生することがある。ウェーハの面内温度差を抑制(スリップの発生量を抑制)するために、本発明では、エピタキシャル成長中の外側ランプ61と内側ランプ62の出力比を、エピタキシャル層の膜厚に応じて補正している。以下では、その補正の詳細を実施例として説明する。
【実施例】
【0026】
先ず、これから製造しようとするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法について説明すると、不純物としてボロンを含有した抵抗率が8.0〜12.0Ω・cm、直径が200mmのシリコン基板を用意する。そして、そのシリコン基板上に、成長温度1130℃、ドーパントガスにBH3、成膜ガスにトリクロロシラン(TCS)を用いて抵抗率10.0Ω・cm、膜厚5〜200μmのエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル成長(CVD法)を行うとする。
【0027】
本実施例では、そのエピタキシャル成長の前(正式のエピタキシャルシリコンウェーハを製造する前)にあらかじめ、上記のエピタキシャルシリコンウェーハを製造するときの条件と同一条件で、エピタキシャル層の膜厚が5〜200μmの複数のサンプルなるエピタキシャルウェーハを製造する。このとき、各ウェーハを製造するときのランプ出力比は、外側ランプ61の出力比=50%、内側ランプ62の出力割合=50%で固定とする。つまり、ランプ出力比の補正を行わないで、各ウェーハを製造する。そして、製造したウェーハごとの(エピタキシャル層の膜厚ごとの)ウェーハの面内温度差、具体的にはウェーハの中央部と外周部の温度差を測定する。ここでは、
図3の面内温度差の測定と同様の方法、つまりウェーハ面内の抵抗率を測定し、その抵抗率を温度換算して、ウェーハの面内温度差を測定した。
図4はその測定結果を示している。
図4の横軸はエピタキシャル層の膜厚を示し、縦軸はウェーハの面内温度差(中央部の温度−外周部の温度)を示している。
図4では、各ウェーハの測定結果をプロット点74で示している。
【0028】
図4に示すように、エピタキシャル層の膜厚が大きくなるほど、ウェーハの面内温度差が大きくなっている(ウェーハの外周部の温度が低下していく)。また、
図4には、各プロット点74を最小二乗法等で直線近似して得られたライン(近似直線)73を図示している。近似直線73は、y=0.296x−2.182の直線となっている。近似直線73の決定係数R
2は0.978、つまり1に非常に近い値となっている。そのため、
図4の例では、エピタキシャル層の膜厚とウェーハの面内温度差とは比例関係となっている。このように、正式にエピタキシャルシリコンウェーハを製造する前に、
図4の近似直線73(第1相関)をあらかじめ求めておく。
【0029】
また、
図4の相関に加えて、正式にエピタキシャルシリコンウェーハを製造する前にあらかじめ、外側ランプ61と内側ランプ62の出力比を変えたときのウェーハの面内温度差(中央部の温度−外周部の温度)を求めておく。つまり、先に説明した
図3に示すような相関をあらかじめ求めておく。この実施例では、
図3の相関、つまり近似直線71(第2相関)が得られた。
【0030】
近似直線73(第1相関)及び近似直線71(第2相関)を予め求めた後、上記の製造条件で、エピタキシャルシリコンウェーハの製造を開始する。このとき、近似直線73及び近似直線71を用いて、エピタキシャル層の膜厚に応じてランプ出力比を補正する。ここで、
図5は、その補正の手順を示したフローチャートである。
【0031】
先ず、エピタキシャル成長の際のウェーハの目標温度(この実施例では1150℃)を設定し、その目標温度に応じたランプパワー(ランプ60の総パワー)を設定する(S1)。次に、S1で設定したランプパワーを、
図2の各ゾーン31、32、41、42、51、52に割り振る(S2)。具体的には、各ゾーンのランプ出力比が、上側ゾーン31:下側ゾーン32=50%:50%、上側Outerゾーン41:上側Innerゾーン42=50%:50%、下側Outerゾーン51:下側Innerゾーン52=50%:50%となるように設定する(S2)。つまり、エピタキシャル成長の開始時では、外側ランプ61の出力比=50%、内側ランプ62の出力比=50%に設定する。その後、そのランプ出力比となるように各ランプ60に電力供給されて、シリコン基板上にエピタキシャル層の成膜を開始する。
【0032】
エピタキシャル成長中においては、エピタキシャル層の膜厚を随時把握する(S3)。エピタキシャル層は一定の成長速度で成膜していくので、成長時間を計測することで、随時膜厚を把握することができる。
【0033】
次に、
図4の近似直線73を用いて、S3で把握した膜厚でのウェーハの面内温度差を随時推定する(S4)。具体的には、例えばある時点での膜厚が50μmのときには、近似直線73のxに50を代入してy(面内温度差)を求める。この場合、y=12.62となる。つまり、膜厚が50μmのときには、ウェーハの中央部に対して外周部は約12℃低下していると推定できる。
【0034】
次に、S4で推定した面内温度差を相殺する温度差(相殺温度差)を与えるランプ出力比を
図3の近似直線71から求める(S5)。具体的には例えば膜厚が50μmのときには、相殺温度差=−12.62℃となり、その相殺温度差(−12.62)を近似直線71のxに代入してy(ランプ出力比)を求める。この場合、y=73.59となる。つまり、外側ランプ61の出力比=74%、内側ランプ62の出力比=26%となる。
【0035】
次に、S5で求めたランプ出力比となるように、各ランプ60の出力を補正する(S6)。膜厚が50μmのときには、外側ランプ61の出力比=74%、内側ランプ62の出力比=26%に補正されることになる。なお、S6では、上側ゾーン31と下側ゾーン32のランプ出力比を50%:50%で固定で、上側Outerゾーン41と上側Innerゾーン42のランプ出力比及び下側Outerゾーン51と下側Innerゾーン52のランプ出力比のそれぞれを、S5で求めたランプ出力比に補正している。これによって、その時点での膜厚でのウォールデポによるウェーハの面内温度差を解消(相殺)することができる。
【0036】
S6の後、S3に戻って、次の時点での膜厚を把握し(S3)、その膜厚でのウェーハの面内温度差を近似直線73を用いて推定する(S4)。なお、S4で推定される面内温度差は、先のS6による補正で面内温度差を解消させた場合には、その解消させた状態を基準とした面内温度差ではなく、これまでにランプ出力比(面内温度差)を補正しなかったとしたときの面内温度差である。その後、S5、S6により、ランプ出力比を再度補正する。
【0037】
このように、エピタキシャル成長中では、S3〜S6が繰り返し実施されて、随時エピタキシャル層の膜厚に応じて繰り返しランプ出力比が補正される。その後、エピタキシャル層の膜厚が目標値になった場合に、
図5の補正を終了する。なお、
図5のS3の膜厚の把握、S4の面内温度差の推定、S5のランプ出力比の算出は作業員自らが定期的に(例えばエピタキシャル層が50μm成膜される時間間隔ごとに)行っても良いし、ランプ制御部25(
図2参照)が行っても良い。作業員自らS3〜S5を行った場合には、S6において、作業員は、S5で算出したランプ出力比をランプ制御部25に入力すれば良い。
【0038】
図5の温度制御を適用して得られた、エピタキシャル層の膜厚が5〜200μmの複数のエピタキシャルウェーハに対してスリップ発生量を測定した。なお、スリップ発生量の測定は、SP−1(KLA−Tencor社製)を用いて行った。具体的には、レーザー光をウェーハ表面に当ててウェーハからの反射強度を測定し、その反射強度からスリップ長を判別した。
図6のライン81は、その測定結果を示している。なお、
図6では、エピタキシャル層の膜厚(横軸)に対するスリップ発生量(縦軸)の図となっている。ライン81で示すように、エピタキシャル層の膜厚の増加に伴い、ランプ出力比を調整することでウェーハの面内温度差を抑制することができ、スリップ発生量を改善(この例では、スリップ発生量=0mm)できることが示された。
【0039】
比較例として、ランプ出力比の補正以外は、実施例と同一条件でエピタキシャルウェーハを製造した。つまり、不純物としてボロンを含有した抵抗率が8.0〜12.0Ω・cm、直径が200mmのシリコン基板を用意した。そのシリコン基板上に、成長温度1130℃、ドーパントガスにBH3、成膜ガスにトリクロロシラン(TCS)を用いて抵抗率10.0Ω・cm、膜厚5〜200μmとなるようなエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル成長(CVD法)行うことによってサンプルとなるエピタキシャルウェーハを製造した。このとき、外側ランプ61の出力比=50%、内側ランプ62の出力比=50%で固定して(ウェーハの面内温度差の補正を行わないで)、エピタキシャルウェーハを製造した。なお、この比較例のエピタキシャルウェーハは、
図4の相関を求めるときに製造したエピタキシャルウェーハと同じである。
【0040】
比較例でのエピタキシャルウェーハの面内温度差は先に説明した
図4で示される。
図4に示すように、ランプ出力比の補正を行わないと、エピタキシャル層の膜厚の増加にともなって面内温度差が大きくなるという結果が得られた。
【0041】
比較例のエピタキシャルウェーハのスリップ発生量を測定した。
図6のライン82はその測定結果を示している。ライン82で示すように、ランプ出力比の補正を行わないと、エピタキシャル層の膜厚の増加にともなって、スリップ発生量が増加してしまうという結果が得られた。
図6の例では、エピタキシャル層の膜厚が200μmのときにスリップ発生量は912mmとなった。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、エピタキシャル成長の際には、エピタキシャル層の膜厚に応じて面内温度差が相殺されるようにランプ出力比が補正されるので、ウェーハの面内温度差を抑制でき、その結果、スリップの発生を抑制できる。また、ウォールデポの除去のためのクリーニングの頻度を低減できるので、エピタキシャルウェーハの生産性を向上できる。
【0043】
なお、上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。例えば、上記実施形態では、シリコンウェーハの例について説明したが、GaPウェーハ等、他の半導体ウェーハのエピタキシャル成長にも本発明の温度調整方法を適用できる。また、上記実施形態では、ランプを配置するゾーンとしてウェーハの径方向に2つのゾーン(Outerゾーン、Innerゾーン)を設定していたが、ウェーハの径方向に3つ以上のゾーン(例えば、ウェーハの外周部に該当するゾーン、中央部に該当するゾーン、外周部と中央部の間の中間部に該当するゾーン)を設定して、それらゾーン間のランプ出力比を膜厚に応じて調整するようにしても良い。これによれば、より精密に、ウェーハの面内温度の均一化を図ることができる。また、上記実施形態では、各ランプの位置は固定でランプに供給する電力を変えることでランプ出力比を調整していたが、サセプタ(ウェーハ)とランプとの垂直方向の距離を変更できるようにし、一方のゾーンでのその距離と、他方のゾーンでのその距離との比をランプ出力比に換算しても良い。
【0044】
また、上記実施形態では、上側ゾーンのランプ出力比と下側ゾーンのランプ出力比の双方をエピタキシャル層の膜厚に応じて補正していたが、どちらか一方のランプ出力比をエピタキシャル層の膜厚に関わらず固定とし、他方のランプ出力比だけを膜厚に応じて補正しても良い。この場合、
図3に対応する相関として、補正する方のゾーンのランプ出力比とウェーハの面内温度差の相関を予め求めておき、その相関に基づきランプ出力比の補正を行えば良い。
【0045】
また、上記実施形態では、上側ゾーンと下側ゾーンの間のランプ出力比を同じ(50%:50%)としていたが、異ならせても良い。例えば、上側ゾーンを70%、下側ゾーンを30%のランプ出力比となるように総パワーを割り振った場合、そのランプ出力比用の
図3、
図4に対応する相関を予め求めておく。そして、その相関に基づき、上側Outerゾーン、上側Innerゾーン間のランプ出力比と、下側Outerゾーン、下側Innerゾーン間のランプ出力比の双方又は一方をエピタキシャル層の膜厚に応じて補正する。