特許第5754855号(P5754855)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5754855非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754855
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20150709BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20150709BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20150709BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150709BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/133
   H01M4/134
   H01M4/36 E
   H01M4/36 C
   H01M4/62 Z
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-99822(P2012-99822)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-229163(P2013-229163A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 達彦
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 悟
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−164952(JP,A)
【文献】 特開2006−253126(JP,A)
【文献】 特開2011−233369(JP,A)
【文献】 特開2007−165078(JP,A)
【文献】 特開2006−339093(JP,A)
【文献】 特開平05−021068(JP,A)
【文献】 特開2003−017126(JP,A)
【文献】 特開2010−129363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質及び結着材を含んで構成される非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極活物質が、粒子からなる黒鉛系負極活物質及び粒子からなるシリコン系負極活物質を含み、
前記結着材として、
(A)スチレンブタジエンゴム、及び、
(B)塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸
を含み、
前記黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の合計質量を100としたときの前記結着材(A)の質量割合が0.5〜3.0であり、前記結着材(B)の質量割合が1.5〜15.0であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記シリコン系負極活物質は、その表面が前記結着材(B)により被覆処理されているものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
リチウムを吸蔵及び放出可能な正極と負極の組み合わせからなる非水電解質二次電池において、該負極として請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極を具備することを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池用の負極及びこれを用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年モバイル機器の急速な発達や電気自動車の台頭などに伴い、蓄電デバイスに対する容量の増大、小型軽量化、安全性向上といった要求が非常に強くなっている。リチウムイオン二次電池は軽量でかつ高電圧、大容量であるため、蓄電デバイスとして広く用いられている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池の負極材には黒鉛系材料が主として用いられている。しかし黒鉛系負極材は質量(重量)あたりの電池容量が小さく、先に述べたような電池容量の増加要求に対応しきれなくなってきていることが問題視されている。特に、2010年以降、スマートフォンが急速な普及を見せているが、ハードウェアの使用電力の増加に対するリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の増加が充分ではないため、電池容量の不足が殊に叫ばれるようになってきている。
【0004】
そこで、黒鉛とは異なる負極材への置き換え、あるいは黒鉛よりも質量あたりの容量が大きな活物質と黒鉛系負極材との併用が電池メーカー等により検討されている。中でもシリコン系負極活物質は、質量あたりの容量が黒鉛に比べて格段に大きいことからリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させるための負極材料として注目されている。
【0005】
負極にシリコン系負極活物質である酸化珪素を用いる方法としては、例えば特許文献1が知られている。また、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法としては、例えば、特許文献2が知られている。
【0006】
表面を炭素層で被覆した酸化珪素は黒鉛との真比重差が小さく、併用した際の分散性が良いため、黒鉛に対して容易に添加することができる。また、酸化珪素は、質量あたりの容量が黒鉛の5倍程度であり、少量の添加でもエネルギー密度の向上に大きく寄与する。少量の添加の場合、基本的な電池設計は黒鉛単独系とほとんど変わらないため、安全性対策等の障壁が小さいことも利点として挙げられる。そして、酸化珪素の欠点である初回効率の低さも、ほぼ可逆に動作する黒鉛に対して添加することにより、補うことができる。
【0007】
負極活物質における黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質の併用は、上記のような利点をもつ一方で、シリコン系負極活物質は、充放電に伴う体積変化が非常に大きいため、結着材の選択が非常に難しい。黒鉛単独系で主に用いられる結着材である、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」と略記することがある)は、黒鉛・シリコン系負極活物質併用系においては、特性が著しく悪化し、シリコン系負極活物質の比率を上げるほどその現象は顕著になる。SBRは活物質粒子をゴムの粒子で結着し、極力活物質と電解質(電解液)を接触させるような電極設計となっているが、膨張収縮が黒鉛よりも大きなシリコン系負極活物質が入る場合、SBR単独では結着力が弱く、充放電サイクル初期にその結着が破られてしまう。
【0008】
他の活物質結合様式を取るものとして、溶剤に均一分散した結着材が挙げられる。SBRは水とのエマルションを一般に用いるため、ゴム粒子が点による活物質の結着を行っているのに対して、溶剤に均一分散した結着材は、結着材が活物質表面を広範に覆い、その表面樹脂層が活物質同士を結着している。溶剤に均一分散した結着材は活物質表面を絶縁性の樹脂が覆うため、電気的な接触を保つ意味で、電解液を樹脂の網目に内包し、膨潤するような性質をもつものが基本的に求められる。そのような結着材として黒鉛単独系で一般的に用いられているものがポリフッ化ビニリデン(PVdF)系の結着材である(特許文献3、4)。PVdFは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に均一に溶解させた形で使用される。
【0009】
活物質表面を広く覆う溶剤均一分散型の結着材は、SBRなどのエマルション型の結着材に比べて、充放電に伴う活物質の膨張収縮に柔軟に追従するため、シリコン系負極活物質を用いる際には、あまり結着を壊さずに済み、サイクル特性に対して有利な方向に働く。また、電解液を内包し膨潤することにより、SBRのような添加量増加に対する抵抗値の急激な増加が起こらないため、充放電後も結着を保持できるような充分な量の結着材を配合することができる。
【0010】
しかし、PVdFをシリコン系負極活物質に対して使用した場合、サイクル特性が著しく低下する。これは、PVdF分子中のフッ素原子とシリコン系負極活物質の反応や、活物質と結着材の接着力の低さなどに起因すると思われる。また、NMPなどの有機溶剤に溶解して使用するPVdFを用いる場合は、水中油滴エマルションであるようなSBRとの併用はできない。
【0011】
以上のことから、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質を用いる系において、SBRとの併用を考えた場合、水を溶剤とする均一分散結着材が求められることになる。水溶性ポリマーとしては、デンプンとその誘導体、セルロースとその誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど様々なものが存在するが、その中でも酸化珪素とポリアクリル酸、及びポリアクリル酸塩の組み合わせによるサイクル特性の向上について報告例がある(非特許文献1、2)。また、SBRとポリアクリル酸の併用については、黒鉛を負極活物質としたものについて特許文献5や特許文献6などがある。そして、シリコン系負極活物質とポリアクリル酸の併用については、特許文献7、特許文献8などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2997741号公報
【特許文献2】特開2002−42806号公報
【特許文献3】特許第3121943号公報
【特許文献4】特許第3966570号公報
【特許文献5】特許第3062304号公報
【特許文献6】特許第4441935号公報
【特許文献7】特許第3703667号公報
【特許文献8】特開平11−354125号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S.komaba et.al., J.Phys.Chem.C,115,13487(2011).
【非特許文献2】第52回 電池討論会 2C21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を併用した非水電解質二次電池用負極において、エネルギー密度及びサイクル特性が高い非水電解質二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、負極活物質及び結着材を含んで構成される非水電解質二次電池用負極であって、前記負極活物質が、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を含み、前記結着材として、(A)スチレンブタジエンゴム、及び、(B)塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸を含み、前記黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の合計質量を100としたときの前記結着材(A)の質量割合が0.5〜3.0であり、前記結着材(B)の質量割合が1.5〜15.0であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0016】
このように、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を併用した非水電解質二次電池用負極において、結着材(A)及び結着材(B)を所定範囲で用いることにより、エネルギー密度及びサイクル特性が高い非水電解質二次電池用負極を提供することができる。
【0017】
この場合、前記シリコン系負極活物質は、その表面が前記結着材(B)により被覆処理されているものであることが好ましい。
【0018】
このように、シリコン系負極活物質の表面を結着材(B)により被覆処理されているものとすれば、結着材(B)がシリコン系負極活物質のより近傍に高濃度に存在し、逆に結着材(A)は黒鉛系負極活物質近傍に高濃度に存在するような状態になり、活物質の膨張収縮に合わせた結着材の濃度勾配をもたせることができる。
【0019】
また、本発明は、リチウムを吸蔵及び放出可能な正極と負極の組み合わせからなる非水電解質二次電池において、該負極として上記の非水電解質二次電池用負極を具備することを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0020】
このような非水電解質二次電池であれば、エネルギー密度及びサイクル特性が高い負極を具備する非水電解質二次電池とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る非水電解質二次電池用負極であれば、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を併用することでエネルギー密度を高くした非水電解質二次電池用負極において、結着材としてスチレンブタジエンゴム、及び、塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸を所定範囲で用いることにより、サイクル特性を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0023】
現在市販されているリチウムイオン二次電池の負極のほとんどは、黒鉛系の負極活物質をスチレンブタジエンゴム(SBR)で結着する構造となっている。黒鉛系負極活物質の質量を100とした際のSBRの量は約1〜3%という極少量である。しかし、電池容量の増加のためにシリコン系負極活物質を添加する場合、粒子が黒鉛の場合とシリコン系負極活物質の場合で膨張率が大きく異なることになる。そのため、少量のSBRだけで粒子を結着してしまうと、塗布・乾燥後に結着された活物質どうしのネットワークが速やかに破壊されてしまう。
【0024】
本発明は、黒鉛系負極活物質を水中油滴エマルションのSBRで結着するという基本的な電極作製のシステムを維持したまま、水溶性ポリマーとシリコン系負極活物質の添加、又は水溶性ポリマーを被覆処理したシリコン系負極活物質を添加することのみにより、エネルギー密度とサイクル特性を向上することが可能な負極、並びにその負極を具備した非水電解質二次電池を提供することを課題とした。
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、非水電解質二次電池における、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質を併用した負極の結着材として、(A)スチレンブタジエンゴム、及び、(B)塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸(以下、この「塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸」を単に「ポリアクリル酸」と表記する。中和処理がなされたものは「ポリアクリル酸塩」であり、本発明の説明で用いる「ポリアクリル酸」の意味とは区別される。)を所定の質量の範囲で用いることにより、サイクル特性を向上することができることを見出した。また、結着材(B)を用いる方法としては、負極ペーストに対しての添加以外に、シリコン系負極活物質に対する表面被覆処理によっても効果を発現することが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0026】
〔黒鉛系負極活物質〕
本発明においては、負極活物質として、上記シリコン系負極活物質に加えて、黒鉛系負極活物質を併用する。黒鉛の種類としては、リチウムイオンを吸蔵、放出できれば特に限定されないが、天然黒鉛や人造黒鉛の分類の他、粒子形状として、鱗片状黒鉛や、鱗片状黒鉛を造粒して充放電特性を向上させた球状造粒黒鉛など、一般にリチウムイオン二次電池用負極材として使用されているものはいずれのものをも用いることが可能である。
【0027】
〔シリコン系負極活物質〕
また、本発明においては、負極活物質としてシリコン系負極活物質を用いる。本発明におけるシリコン系負極活物質とは、充放電でリチウムイオンと反応するシリコン及びシリコン化合物を活物質として利用する負極材の総称である。
【0028】
そのようなシリコン系負極活物質としては、例えば、二酸化珪素を炭素で還元して作製される所謂冶金グレードシリコンや、冶金グレードシリコンを酸処理や一方向凝固などで不純物を低減した工業グレードシリコン、そしてシリコンを反応させて得られたシランから作製される高純度の単結晶、多結晶、アモルファスなど結晶状態の異なる高純度シリコンや、工業グレードシリコンをスパッタ法やEB蒸着(電子ビーム蒸着)法などで高純度にすると同時に、結晶状態や析出状態を調整したシリコンなどが挙げられる。
【0029】
また、シリコンと酸素の化合物である酸化珪素や、シリコンと各種合金及びそれらの結晶状態を急冷法などで調整したシリコン化合物も挙げられる。中でも、外側がカーボン皮膜で被覆された、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有するシリコン系負極活物質は、充放電に伴う膨張収縮が抑えられ、かつサイクル特性も優れていることから特に好ましい。
【0030】
〔結着材(A)及び(B)〕
本発明においては、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質併用系の結着材として、(A)スチレンブタジエンゴム(SBR)に加えて、(B)塩基性物質によって中和がなされていないポリアクリル酸を加える。
【0031】
(A)SBR
SBRについては、水中油滴エマルションであれば、一般に黒鉛系負極の結着材として用いられているものを使用することが可能である。
【0032】
SBRを使用する量については、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の合計質量を100とした場合、SBRの割合が固形分換算で0.5〜3.0、好ましくは1.0〜2.0である。SBRの使用量が少なすぎる場合、黒鉛系負極活物質粒子の結着が充分に行えず、逆に多すぎる場合は、電極抵抗の急激な増加に伴う充放電特性の悪化が発生する。
【0033】
(B)ポリアクリル酸
結着材として用いるポリアクリル酸については、特に限定はされず、市販の一般的なものを使用することができる。ポリアクリル酸の分子量についても特に限定はされないが、ペーストに対する添加を行う場合、塗工の際に適度な粘性をもたせるため、好ましくは重量平均分子量が50,000〜1,000,000のものを使用する。重量平均分子量が50,000以上であれば、適度な粘性とすることができ、逆に分子量が1,000,000以下であれば、イオン交換水への溶解性が著しく低下することもない。
【0034】
また、ポリアクリル酸は、カルボキシル基の中和処理がなされることによって、対イオン凝縮という現象を発生し、水溶液粘度が著しく上昇する。水溶液粘度の上昇によって、特に、以下に述べる(b)シリコン系負極活物質表面への被覆処理のハンドリング性が悪くなることに加え、結着材がペースト作製時の水分を、乾燥工程を経ても微量ながら保持することが懸念される。本発明においては、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質を併用するため、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用いた場合、電池セル内部の微量水分がLiPFを分解し、生じたフッ化水素がシリコン系負極活物質と反応し、水の再生成を起こすことが考えられる。そのため、ポリアクリル酸は中和処理のなされていないものを使用する。
【0035】
本発明の非水電解質二次電池用負極におけるポリアクリル酸の使用については、下記(a)、(b)の方法が可能である。2種類の手法のうち、少なくとも1種類を適用する。
(a)負極ペーストに対する添加
(b)シリコン系負極活物質表面への被覆処理
【0036】
<(a)負極ペーストに対する添加>
ポリアクリル酸(結着材(B))を負極ペーストに対して添加する。負極ペーストに添加する場合は、イオン交換水に溶解させた形で使用する。ポリアクリル酸を固体のままではなく、イオン交換水に溶解させた形で使用すれば、負極ペーストへ添加した場合、負極ペーストの分散性が著しく低下することはない。また、SBR(結着材(A))のエマルションを予めペースト内で充分に分散させた状態でポリアクリル酸の水溶液の添加を行うのが望ましい。これにより、ポリアクリル酸の水溶液に対してSBRのエマルションを添加した場合のような、ポリアクリル酸の酸性によってエマルションの分散が妨げられ、ペーストの均一分散性の低下を防止することができる。
【0037】
<(b)シリコン系負極活物質表面への被覆処理>
ポリアクリル酸(結着材(B))をシリコン系負極活物質の表面に被覆処理し、シリコン系負極活物質−ポリアクリル酸の複合粉体として、ペーストへの添加を行う。シリコン系負極活物質に対してポリアクリル酸を処理する方法としては、ポリアクリル酸溶液とシリコン系負極活物質のスラリーを作製し、溶剤の乾燥・粉砕・篩を行うことが挙げられる。しかしスラリー乾燥時に、ポリアクリル酸の不均一分布を発生する可能性が想定されるので、スプレードライ装置を用いたスラリーの乾燥や、スプレーコート法による活物質表面へのポリアクリル酸溶液の均一被覆を採用するのがより望ましい。
【0038】
このように、シリコン系負極活物質の表面をポリアクリル酸(結着材(B))により被覆処理されているものとすれば、ポリアクリル酸がシリコン系負極活物質のより近傍に高濃度に存在し、逆にSBR(結着材(A))は黒鉛系負極活物質近傍に高濃度に存在するような状態になり、それぞれの活物質の膨張収縮に合わせた結着材の濃度勾配をもたせることができる。特に、表面がカーボンによって導電化されたシリコン系負極活物質に対して、ポリアクリル酸の表面被覆処理を行う場合、ポリアクリル酸のカルボキシル基と表面カーボン層との脱水を伴う化学結合を生じることが期待できる。その場合、特に結着材(B)がシリコン系負極活物質のより近傍に高濃度に存在させることができる。
【0039】
ポリアクリル酸(結着材(B))の使用量については、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質の合計質量を100とした場合、ポリアクリル酸の割合が固形分換算で1.5〜15.0、好ましくは3.0〜10.0である。少なすぎる場合、シリコン系負極活物質の膨張収縮を、膨潤したポリアクリル酸結着材が緩和しきれず、SBRの結着が容易に破壊される。逆に多すぎる場合は、負極材の総質量あたりの容量の低下や、抵抗増加が懸念される。
【0040】
〔その他添加剤〕
本発明では、負極ペーストを混錬したり、分散したりする際に、各種分散剤、界面活性剤、及び安定剤等を必要に応じて添加することも可能である。
【0041】
〔非水電解質二次電池〕
上記(a)(b)の(B)ポリアクリル酸添加方法のうち、少なくともどちらか一方を選択し、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質を併用した負極を作製する。そして、リチウムを吸蔵、及び放出可能な正極、並びに非水電解液を公知の手法によって組み合わせることで、サイクル特性の向上した非水電解質二次電池を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
<酸化珪素負極活物質の調製>
シリコン系負極活物質として、以下のように酸化珪素負極活物質を準備した。平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m/gの珪素酸化物SiO(x=1.01)100gをバッチ式加熱炉内に仕込んだ。油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ炉内を1,100℃に昇温し、1,100℃に達した後にCHガスを0.3NL/min流入し、5時間のカーボン被覆処理を行った。なお、この時の減圧度は800Paであった。処理後は降温し、97.5gのSiO中にSiが分散した粒子をカーボン被覆した黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が6.5m/gで、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。
【0043】
<電解液調製>
非水電解質として、LiPFをエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶液に1.0mol/Lとなるよう溶解させた溶液を調製し、充放電試験に用いる電解液とした。なお、電解液を調製する作業は、大気中の水分が電解液内に拡散するのを防ぐためアルゴンガスを充填したグローブボックス内で行った。
【0044】
<電極作製>
まず、重量平均分子量が1,000,000のポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社)12.0gに対して、イオン交換水を加え、100.0gの12.0%ポリアクリル酸水溶液を調製した。
【0045】
次いで増粘剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)(株式会社ダイセル製 CMC−Na#2200)3.0gに対して、イオン交換水を加え、100.0gの3.0%CMC−Na水溶液を調製した。
【0046】
上記のように作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、黒鉛系負極活物質としての球状造粒黒鉛(粒子径D50=10μm 日本黒鉛工業株式会社 CGB−10)95.0質量部に対して、SBRエマルション(JSR株式会社 TRD−102A)を1.5質量部(固形分換算)と、上記のように調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0047】
上記のように調製した重量平均分子量1,000,000のポリアクリル酸水溶液を1.5質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0048】
このペーストを幅200mm、厚さ11μmの電解銅箔の片面に対してドクターブレード(塗布幅100mm、塗布厚125μm)を用いて塗布し、85℃30分の真空予備乾燥に付した後、130℃5時間の真空乾燥を行った。こうして得られた電極を、直径15.858mmの円形に打ち抜き、負極とした。
【0049】
また、コバルト酸リチウム93.0質量部とアセチレンブラック3.0質量部、ポリフッ化ビニリデン4.0質量部を混合し、さらにN−メチル−2−ピロリドンを加えてペーストとし、このペーストを厚さ16μmのアルミ箔に塗布し、85℃30分の真空予備乾燥に付した後、ローラープレスにより電極を加圧成形した。この電極を130℃5時間の真空乾燥に付し、直径15.858mmの円形に打ち抜き、正極とした。
【0050】
作製した負極及び正極と、調製した非水電解質、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔質フィルムのセパレータを用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0051】
<充放電試験>
作製したコイン型リチウムイオン二次電池を、2日室温で放置した後、25℃の恒温乾燥機中で、二次電池充放電試験装置(アスカ電子株式会社製)を用いた充放電を行った。コインセルの電圧が4.2Vに達するまで0.5CmA相当の定電流で充電を行い、セル電圧が4.2Vに達した後は電圧を保ちながら電流を減少させて充電を行い、電流値が0.1CmA相当を下回った時点で充電を終了した。放電は0.5CmA相当の定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了した。以上の充放電試験を50回繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する、50サイクル目の放電容量維持率を表1に記載する。
【0052】
(実施例2)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0053】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0054】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0055】
(実施例3)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0056】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を10.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0057】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0058】
(実施例4)
まず、ポリアクリル酸水溶液として、重量平均分子量が250,000のポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社)30.0gに対して、イオン交換水を加え、100.0gの30.0%ポリアクリル酸水溶液を得た。
【0059】
次に、実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0060】
分子量250,000のポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0061】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0062】
(実施例5)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質25.0質量部と、球状造粒黒鉛75.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0063】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を10.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0064】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0065】
(実施例6)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質50.0質量部と、球状造粒黒鉛50.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0066】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を15.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0067】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0068】
(実施例7)
まず、ポリアクリル酸の表面処理液として、重量平均分子量が1,000,000のポリアクリル酸5.0gにイソプロピルアルコール(IPA)を加えて50.0gとし、10.0%ポリアクリル酸IPA溶液を調製した。
【0069】
次に、上記ポリアクリル酸IPA溶液20.0gと、実施例1で作製した酸化珪素負極活物質18.0gとを混合してスラリーを作製した。このスラリーを80℃で真空乾燥し、黒色の固体を得た。この固体を、解砕及び目開き25μmの篩に掛けることで、酸化珪素負極活物質に対して10.0%のポリアクリル酸を表面処理した酸化珪素負極活物質粉体を15.1g得た。
【0070】
上記で得た処理粉体15.0質量部(酸化珪素の分が15.0質量部を占めるという意味であり、表面のポリアクリル酸は1.5質量部になる)と、球状造粒黒鉛85.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、負極ペーストを作製した。
【0071】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0072】
(実施例8)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを0.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0073】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0074】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0075】
(実施例9)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを3.0質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0076】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0077】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0078】
(比較例1)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質50.0質量部と、球状造粒黒鉛50.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、負極ペーストを得た。
【0079】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0080】
(比較例2)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質50.0質量部と、球状造粒黒鉛50.0質量部に対して、結着材として、PVdF(株式会社クレハ PVdF#9210)10.0質量部(固形分換算)とNMPを加えて撹拌し、負極ペーストを得た。
【0081】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0082】
(比較例3)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0083】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を1.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0084】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0085】
(比較例4)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを1.5質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0086】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を20.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0087】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0088】
(比較例5)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを0.3質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0089】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0090】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0091】
(比較例6)
実施例1で作製した酸化珪素負極活物質5.0質量部と、球状造粒黒鉛95.0質量部に対して、SBRエマルションを5.0質量部(固形分換算)と、実施例1で調製したCMC−Na水溶液を1.5質量部(固形分換算)加えた後、イオン交換水を加えて混合することにより、ペーストを作製した。
【0092】
実施例1で作製したポリアクリル酸水溶液を5.0質量部(固形分換算)上記ペーストに対して加え、再度撹拌し、負極ペーストを得た。
【0093】
上記負極ペーストを用いた以外は実施例1と同じ条件により負極を作製し、電池試験を行った。結果を表1に記載する。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例1〜9及び比較例1〜6からわかるように、黒鉛系負極活物質とシリコン系負極活物質を併用した負極を作製する際、従来の黒鉛系負極活物質を使用した負極の作製条件に対して、ポリアクリル酸を規定の量だけ添加することで、サイクル特性を向上することができる。
【0096】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。