特許第5754875号(P5754875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5754875
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】筋再生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20150709BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61P21/00
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2008-509883(P2008-509883)
(86)(22)【出願日】2007年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2007057745
(87)【国際公開番号】WO2007116962
(87)【国際公開日】20071018
【審査請求日】2010年4月6日
【審判番号】不服2013-2923(P2013-2923/J1)
【審判請求日】2013年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2006-106445(P2006-106445)
(32)【優先日】2006年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501141312
【氏名又は名称】西本 憲弘
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(72)【発明者】
【氏名】西本 憲弘
(72)【発明者】
【氏名】大平 充宣
【合議体】
【審判長】 大宅 郁治
【審判官】 齋藤 恵
【審判官】 田村 明照
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/25174(WO,A1)
【文献】 J Clin Invest,1996,Vol.97,No.1,pp.244−249.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00-39/395
CAPlus、MEDLINE、BIOSIS、EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-6阻害剤であるIL-6受容体を認識する抗体を有効成分として含有する、筋再生促進剤。
【請求項2】
抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1に記載の筋再生促進剤。
【請求項3】
抗体がヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする請求項1または2に記載の筋再生促進剤。
【請求項4】
抗体が組換え型抗体であることを特徴とする請求項1または2に記載の筋再生促進剤。
【請求項5】
抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする請求項4に記載の筋再生促進剤。
【請求項6】
筋再生が、筋萎縮からの筋再生であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の筋再生促進剤。
【請求項7】
筋再生促進剤を製造するための、IL-6阻害剤であるIL-6受容体を認識する抗体の使用。
【請求項8】
抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
抗体がヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項10】
抗体が組換え型抗体であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項11】
抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する筋再生促進剤、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
微小重力環境である宇宙環境への滞在後、寝たきり状態後、またはギブス固定状態後に、傍脊柱筋および下肢ヒラメ筋等において筋萎縮が起こることが知られている。骨格筋の損傷・壊死は再生によって補われており、筋萎縮は筋繊維の壊死が再生によって補いきれない場合に、健在化するものと考えられている。骨格筋損傷後の再生過程には衛星細胞が動員されることがわかっている。衛星細胞は骨格筋内に通常、休止状態で存在する組織特異的幹細胞であり、骨格筋繊維上で増殖・分化し、筋繊維へ融合し、筋再生を促す。しかしながら、生体内において衛星細胞の動員・増殖・分化を促す因子はこれまでに明らかにされてこなかった。
IL-6はB細胞刺激因子2(BSF2)あるいはインターフェロンβ2とも呼称されたサイトカインである。IL-6は、Bリンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(非特許文献1)、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかになった(非特許文献2)。IL-6は、Tリンパ球系細胞の成熟化を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0003】
IL-6は、細胞上で二種の蛋白質を介してその生物学的活性を伝達する。一つは、IL-6が結合する分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質のIL-6受容体である(非特許文献4、5)。IL-6受容体は、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL-6受容体としても存在する。
もう一つは、非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kDの膜蛋白質gp130である。IL-6とIL-6受容体はIL-6/IL-6受容体複合体を形成し、次いでgp130と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞内に伝達される(非特許文献6)。
【0004】
IL-6阻害剤は、IL-6の生物学的活性の伝達を阻害する物質である。これまでに、IL-6に対する抗体(抗IL-6抗体)、IL-6受容体に対する抗体(抗IL-6受容体抗体)、gp130に対する抗体(抗gp130抗体)、IL-6改変体、IL-6又はIL-6受容体部分ペプチド等が知られている。
抗IL-6受容体抗体に関しては、いくつかの報告がある(非特許文献7、8、特許文献1〜3)。その一つであるマウス抗体PM-1(非特許文献9)の相捕性決定領域(CDR;complementarity determining region )をヒト抗体へ移植することにより得られたヒト化PM-1抗体が知られている(特許文献4)。
これまでに、インスリン様成長因子-I(非特許文献10)や、抗マイオスタチン抗体(非特許文献11)が、筋萎縮の抑制効果および筋再生の促進効果を示すことが知られている。しかしながら、筋再生に対して、IL-6等のサイトカインが影響を与えるか否かについては、これまで全く検討されてこなかった。
【0005】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】国際特許出願公開番号WO 95-09873
【特許文献2】フランス特許出願公開番号FR 2694767
【特許文献3】米国特許番号US 5216128
【特許文献4】国際特許出願公開番号WO 92-19759
【非特許文献1】Hirano, T. et al., Nature (1986) 324, 73-76
【非特許文献2】Akira, S. et al., Adv. in Immunology (1993) 54, 1-78
【非特許文献3】Lotz, M. et al., J. Exp. Med. (1988)167, 1253-1258
【非特許文献4】Taga, T. et al., J. Exp. Med. (1987) 166, 967-981
【非特許文献5】Yamasaki, K. et al., Science (1988) 241, 825-828
【非特許文献6】Taga, T. et al., Cell (1989) 58, 573-581
【非特許文献7】Novick, D. et al., Hybridoma (1991) 10, 137-146
【非特許文献8】Huang, Y. W. et al., Hybridoma (1993) 12, 621-630
【非特許文献9】Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906
【非特許文献10】Barton-Davis, E. R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1998) 95, 15603-15607
【非特許文献11】Bogdanovich, S. et al., Nature (2002) 420, 418-421
【非特許文献12】Dangott B. et al., Int J. Sports Med. (2000) 21, 13-16
【非特許文献13】Darr KC. and Schultz E., J. Appl. Physiol. (1989) 67, 1827-1834
【非特許文献14】Garry DJ. et al., PNAS (2000) 97, 5416-5421
【非特許文献15】Garry DJ. et al., Dev. Biol. (1997) 188, 280-294
【非特許文献16】Jejurikar SS. et al., Plast Reconstr Surg (2002) 110, 160-168
【非特許文献17】Mauro A., J. Biochem Cytol. (1961) 9, 493-498
【非特許文献18】McCormick KM and Schultz E., Dev. Dyn. (1994) 199, 52-63
【非特許文献19】Moss FP. and Leblond CP., Anat. Rec. (1971) 170, 421-435
【非特許文献20】Mozdziak PE. et al., Biotech. Histochem. (1994) 69, 249-252
【非特許文献21】Mozdziak PE. et al., J. Appl. Physiol. (2000) 88, 158-164
【非特許文献22】Mozdziak PE. et al., J. Appl. Physiol. (2001) 91, 183-190
【非特許文献23】Mozdziak PE. et al., Eur. J. Appl. Physiol. Occup. Physiol. (1998) 78, 136-40
【非特許文献24】Schultz E., Dev. Biol. (1996) 175, 84-94
【非特許文献25】Schultz E. et al., J. Appl. Physiol. (1994) 76, 266-270
【非特許文献26】Schultz E. et al., Muscle Nerve. (1985) 8, 217-222
【非特許文献27】Snow MH., Anat. Rec. (1977) 188, 181-199
【非特許文献28】Snow MH., Anat. Rec. (1990) 227, 437-446
【非特許文献29】Wang XD., Am. J. Physiol. Cell Physiol. (2006) 290, C981-C989
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する筋再生促進剤を提供することにある。
さらに本発明は、IL-6阻害剤を、筋萎縮を起こしている対象に投与する工程を含む、対象において筋肉の再生を促進させる方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、IL-6シグナル経路の阻害による、筋肉細胞成長への効果を検討した。
まず、MR16-1(抗マウスIL-6受容体モノクローナル抗体)を様々な濃度で含有する分化培地中でC2C12細胞を培養し、筋再生に関与するタンパク質:MyoD、ミオゲニン、ミオゲニン調節因子タンパク質、およびミオシン重鎖を免疫組織化学的に検出した。さらに、筋肉分化マーカーであるM−カドヘリン、蛍光体-p38およびMyoDの発現を、ウェスタンブロット分析により確認した。
【0008】
その結果、C2C12細胞の増殖はMR16-1の添加により抑制されたが、MyoD、ミオゲニン、ミオゲニン調節因子タンパク質、およびミオシン重鎖を発現するC2C12細胞のパーセント分布は増加することが明らかとなった。さらに、M−カドヘリンおよび蛍光体-p38、さらにMyoDの発現レベルはMR16-1処理を行った細胞において増加した。これらの結果より、免疫系がIL-6シグナル経路を介して、筋肉繊維の発達および/または成長に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0009】
次に、雄マウス(C57BL/6J Jcl)において、MR16-1を添加することにより、負荷または非負荷に対するヒラメ筋の全単一筋繊維における衛星細胞の反応に、どのような変化が現れるかを検討した。
その結果、MR16-1処理を行っても、非負荷における繊維萎縮および衛星細胞数の減少に、特異的な効果は現れなかった。しかしながら、再負荷に反応して増殖活性化した衛星細胞の数は、MR16-1処理を行うことにより増加することが明らかとなった。衛星細胞は筋肉繊維量の調節に重要な役割を果たすことから、IL-6を阻害することは筋肉再生を促進する一つの手法になり得ることが示唆された。
即ち、本発明者らは、IL-6阻害剤を投与することにより、衛星細胞の接着・増殖・分化を促進させること、および、その結果として筋肉再生または筋繊維の肥大を促進させることが可能であることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔23〕を提供するものである。
〔1〕IL-6阻害剤を有効成分として含有する、筋再生促進剤。
〔2〕IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔1〕に記載の筋再生促進剤。
〔3〕IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔1〕に記載の筋再生促進剤。
〔4〕抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の筋再生促進剤。
〔5〕抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の筋再生促進剤。
〔6〕抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔2〕または〔3〕に記載の筋再生促進剤。
〔7〕抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする〔6〕に記載の筋再生促進剤。
〔8〕筋再生が、筋萎縮からの筋再生であることを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の筋再生促進剤。
〔9〕IL-6阻害剤を対象に投与する工程を含む、対象において筋肉の再生を促進させる方法。
〔10〕対象が筋萎縮を起こしていることを特徴とする、〔9〕に記載の方法。
〔11〕IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔9〕または〔10〕に記載の方法。
〔12〕IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔9〕または〔10〕に記載の方法。
〔13〕抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔14〕抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔15〕抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔16〕抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする〔15〕に記載の方法。
〔17〕筋再生促進剤を製造するための、IL-6阻害剤の使用。
〔18〕IL-6阻害剤がIL-6を認識する抗体であることを特徴とする〔17〕に記載の使用。
〔19〕IL-6阻害剤がIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔17〕に記載の使用。
〔20〕抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔21〕抗体がヒトIL-6またはヒトIL-6受容体を認識する抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔22〕抗体が組換え型抗体であることを特徴とする〔18〕または〔19〕に記載の使用。
〔23〕抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする〔22〕に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】C2C12細胞におけるタンパク質の発現をウェスタンブロッティング法で確認した結果を示す写真である。2%のウマ血清を含有する分化培地において3日間培養したC2C12細胞の成長に対する、MR16-1添加の効果を検討した。
図2A】負荷または非負荷が、雄マウス(C57BL/6J Jcl)のヒラメ筋の全単一筋繊維における衛星細胞の特性に対する、MR16-1添加の効果を示す図である。図2Aは、各群の腱から腱までの筋線維における全BrdU陽性(分裂活性化)衛星細胞数を示す図である。 以下図2の全ての図で、各記号は次の状態の群を示す。Pre:後肢懸垂前の群、C:年齢適合対照群、CMR: 年齢適合対照群にMR16-1処理した群、S:後肢懸垂群、SMR:後肢懸垂にMR16-1処理した群。また以下図2の全ての図で、R+0で示された4つの群は7日間の非負荷またはケージ内飼育直後の群を示し、R+7で示された4つの群は再負荷7日後の群を示す。以下図2の全ての図で、データは平均±SEMである。* and †P < 0.05、PreおよびC、およびR+0におけるSおよびSMRとの比較。
図2B】各群の腱から腱までの筋線維における全M-カドヘリン陽性(休止)衛星細胞数を示す図である。
図2C】各群の腱から腱までの筋線維における総衛星細胞数を示す図である。
図2D】BrdU陽性(分裂活性化)衛星細胞/衛星細胞の値(%)を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、抗IL-6受容体抗体を投与することにより、筋肉の再生を促進させることが可能であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、IL-6阻害剤を有効成分として含有する、筋再生促進剤に関する。
本発明において「IL-6阻害剤」とは、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害する物質である。IL-6阻害剤は、好ましくはIL-6、IL-6受容体及びgp130のいずれかの結合に対する阻害作用を有する物質である。
【0013】
本発明のIL-6阻害剤としては、例えば抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体あるいはIL-6又はIL-6受容体の部分ペプチドおよび、これらと同様の活性を示す低分子物質が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明のIL-6阻害剤としては、好ましくはIL-6受容体を認識する抗体を挙げることが出来る。
本発明における抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
【0014】
本発明で使用される抗IL-6抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MH166(Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1988) 18, 951-956)やSK2抗体(Sato, K. et al., 第21回 日本免疫学会総会、学術記録(1991)21, 166)等が挙げられる。
【0015】
抗IL-6抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL-6抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550 、J. Immunol.(1988)140, 1534-1541 、あるいはAgr. Biol. Chem.(1990)54, 2685-2688に開示されたIL-6遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0016】
IL-6の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0017】
このような抗体としては、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体あるいはAUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられる。
【0018】
抗IL-6受容体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、抗IL-6受容体抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0019】
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用され得る限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0020】
本発明で使用される抗gp130抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗gp130抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はgp130と結合することにより、IL-6/IL-6受容体複合体のgp130への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、AM64抗体(特開平3-219894)、4B11抗体および2H4抗体(US 5571513)B-S12抗体およびB-P8抗体(特開平8-291199)などが挙げられる。
【0021】
抗gp130モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、gp130を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるgp130は、欧州特許出願公開番号EP 411946に開示されたgp130遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0022】
gp130の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のgp130蛋白質を公知の方法で精製し、この精製gp130蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、gp130を発現している細胞やgp130蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0023】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0024】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
【0025】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0026】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0027】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602、WO 94/25585、WO 96/34096、WO 96/33735参照)。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0028】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。PM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5%BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM培地(GIBCO-BRL製)、PFHM-II培地(GIBCO-BRL製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0029】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNA を調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0030】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0031】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0032】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
【0033】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C 領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0034】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、両者はヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
本発明に使用されるヒト化抗体の好ましい具体例としては、ヒト化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0035】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0036】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
【0037】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0038】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0039】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0040】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
【0041】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
【0042】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 497-515 、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137参照)。
【0043】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0044】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0045】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0046】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1 μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0047】
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。
具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56 )を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
【0048】
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93 、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367 、WO 96-18648 、WO96-17869に開示されている。
本発明で使用されるIL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、各々IL-6受容体あるいはIL-6との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体又はIL-6に結合し、これらを捕捉することによりIL-6のIL-6受容体への結合を特異的に阻害する。その結果、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
【0049】
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その特定した領域の一部又は全部のアミノ酸配列に基づいて通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
【0050】
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC末端に対応するアミノ酸を結合させ、α-アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC末端からN末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα-アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc法とFmoc法に大別される。
【0051】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFAを通常用いることができる。Boc法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
【0052】
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水-アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
IL-6部分ペプチド及びIL-6受容体部分ペプチドの具体例は、特開平2-188600、特開平7-324097、特開平8-311098及び米国特許公報US5210075に開示されている。
【0053】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0054】
本発明のIL-6阻害剤は、筋再生を促進させる際に使用することが可能である。
本発明において「筋再生」とは、損傷を受けた筋肉、または萎縮した筋肉が元の状態に回復ことを意味する。筋肉が元の状態に回復するとは、筋繊維の容積、筋繊維の数、または筋組織の性質(発揮張力・持久性・代謝特性・伸縮性・柔軟性)が、損傷を受ける前または筋萎縮する前の数値・状態に回復することを意味する。本発明において「筋萎縮」としては、重力刺激が無い状態で生じる筋萎縮、廃用性筋萎縮(筋肉を使わないことによる筋萎縮)、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に伴う筋萎縮、先天性筋疾患における筋萎縮を好ましい例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、「筋肉・筋組織」とは特に種類が限定されるものではなく、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、筋上皮細胞のいずれであっても良い。
【0055】
以下に衛星細胞が関与する筋再生の過程を説明する。成体筋組織中の衛星細胞は、通常細胞分裂を休止しているか、またはゆっくり分裂しているものと考えられている。骨格筋等の筋肉が損傷を受けると活性化され、増殖を開始する。増殖後、基底膜を通り抜けた衛星細胞は、筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞に分化し、活発に分裂・増殖を繰り返しながら、損傷部位へと遊走する。筋芽細胞は損傷を受けた筋繊維周囲の基底膜に沿って配向し、やがて基底膜の内側へ侵入し、互いにあるいは残存する筋繊維と細胞融合して、筋管細胞(myotube)を形成する。筋管細胞はさらに構造的成熟を遂げ、成体筋組織となる。
本発明において、「筋再生」とは、上記過程により成体筋組織が生成されることを意味していてもよい。
本発明において「筋再生が促進される」とは、上記の筋再生の進行が早められることを意味する。また、筋再生に関与する衛星細胞の賦活化が促進された場合にも、筋再生が促進されたことと同等であるとみなすことが出来る。「衛星細胞の賦活化を促進させる」とは、衛星細胞の動員、増殖、または分化を促進させることを意味する。
【0056】
本発明において、筋再生が促進されたか否かの確認は、筋繊維の容積または数を測定することにより行うことが出来る。本発明の薬剤を投与することにより、筋繊維の容積または数の増加が促進された場合に、筋再生が促進されたとみなすことが出来る。筋繊維の容積または数の計測は公知の方法により行うことが出来、実施例に記載の方法によっても行うことができる。
また、筋再生が促進されたか否かの確認は、賦活化された衛星細胞の量(筋組織における賦活化された衛星細胞の割合)を測定することによっても行うことができる。本発明の薬剤を投与することにより、賦活化された衛星細胞の量が増加した場合(筋組織における賦活化された衛星細胞の割合が増加した場合)に、筋再生が促進されたとみなすことが出来る。賦活化された衛星細胞の量の測定は公知の方法により行うことが出来、実施例に記載の方法によっても行うことができる。
【0057】
本発明で使用されるIL-6阻害剤のIL-6シグナル伝達阻害活性は、通常用いられる方法により評価することができる。具体的には、IL-6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45,KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3、あるいはIL-6依存性細胞MH60.BSF2を培養し、これにIL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を共存させることによりIL-6依存性細胞の3H-チミジン取込みを測定すればよい。また、IL-6受容体発現細胞であるU266を培養し、125I標識IL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を加えることにより、IL-6受容体発現細胞に結合した125I標識IL-6を測定する。上記アッセイ系において、IL-6阻害剤を存在させる群に加えIL-6阻害剤を含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL-6阻害剤のIL-6阻害活性を評価することができる。
【0058】
後述の実施例に示されるように、抗IL-6受容体抗体の投与により、筋再生が促進されることが認められたことから、抗IL-6受容体抗体等のIL-6阻害剤は筋再生促進剤として有用であることが示唆された。
本発明の筋再生促進剤が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0059】
本発明の筋再生促進剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり1〜1000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、たとえば抗IL-6受容体抗体の場合には、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、投与後状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
【0060】
本発明において筋再生促進剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容し得る担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の筋再生促進効果を有する材料であってもよいし、当該筋再生促進効果を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な材料を意味する。また、筋再生促進効果を有さない材料であっても、IL-6阻害剤と併用することによって相乗的もしくは相加的な効果を有する材料であってもよい。
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0061】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0062】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0063】
本発明の薬剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.003〜50mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2mg/mLである。
【0064】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。
また、本発明の薬剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0065】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0066】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0067】
本発明の薬剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる。また、該水溶液は適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0068】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0069】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明は、IL-6阻害剤を、対象に投与する工程を含む、対象において筋肉の再生を促進させる方法に関する。
本発明において「対象」としては、筋肉の萎縮を起こしている生物体、筋肉に損傷を受けた生物体、またはこれらの生物体の体内の一部分を挙げることが出来る。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくは筋肉組織、より好ましくは骨格筋または骨格筋の周辺部位を挙げることが出来る。
【0071】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明の阻害剤をコードするDNAの標的化遺伝子送達により投与することも可能である。公知の筋再生治療法と同時に又は時間を隔てて本発明の薬剤が投与されてもよい。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
宇宙環境への曝露中に免疫機構が低下調節されることは、宇宙飛行士にとって深刻な問題である。IL-6シグナル経路の阻害による、筋肉細胞成長への効果を検討するために、MR16-1(抗マウスIL-6受容体モノクローナル抗体)を、15, 150 ng/ml, 1.5, 15, 150 μg/ml phosphate-buffered saline (PBS)の濃度で含有する分化培地中でC2C12細胞を培養した。対照となる細胞は、MR16-1抜きの培地で培養した。
培養3日後に、半数の細胞を10%のホルマリンにより固定化し、筋再生に関与するタンパク質:MyoD、ミオゲニン(myogenin)、ミオゲニン調節因子タンパク質(the myogenic regulatory factor proteins)、およびミオシン(myosin)重鎖を免疫組織化学的に検出した。残りの細胞を1% tritonを含む溶解バッファーに溶かし、筋肉分化マーカーであるM−カドヘリン(cadherin)、蛍光体-p38およびMyoDのの発現を、ウェスタンブロット分析により確認した。
【0073】
その結果、C2C12細胞の増殖はMR16-1の添加により抑制された。一方、150 ng/ml以上の濃度のMR16-1により細胞を処理した場合、PBSにより処理した細胞と比較して、MyoD、ミオゲニン、ミオゲニン調節因子タンパク質、およびミオシン重鎖を発現するC2C12細胞のパーセント分布は増加した。さらに、筋肉分化マーカーであるM−カドヘリンおよび蛍光体-p38、さらにMyoDの発現レベルはMR16-1処理を行った細胞において増加した(図1)。これらの結果より、免疫系がIL-6シグナル経路を介して、筋肉繊維の発達および/または成長に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0074】
〔実施例2〕
次に、雄マウス(C57BL/6J Jcl)において、MR16-1を添加することにより、負荷または非負荷に対するヒラメ筋の腱から腱の全単一筋繊維における衛星細胞の特性に、どのような変化が現れるかを検討した。
7日間の後肢懸垂の前、7日間の再負荷の前それぞれの時期に、MR16-1またはPBSを2 mg/mouseの濃度で、マウスに腹腔内(i.p.)注射した。採取した筋をcellbanker (Nihon Zenyaku) に浸けて- 80℃に凍結した後、35℃下で解凍した。その後、20 μM 5’-bromo-2’-deoxyuridine (BrdU), 0.2 % type I collagenase, 1 % antibiotics, それに 10 % new-born calf serumを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium中(35°C)で4時間、コラゲナーゼを消化し、単一筋線維を採取した。これらの筋線維をM-カドヘリンまたはBrdU特異的な抗体でインキュベートし、それぞれfluoresceinまたはrhodaminで蛍光染色した。FV-300共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス)を使って、M-カドヘリン陽性〔休止期〕またはBrdU陽性(分裂期)衛星細胞を分析した。
【0075】
その結果、MR16-1処理を行っても、非負荷に関連する筋繊維萎縮および衛星細胞数の減少に、特異的な効果は現れなかった(図2)。しかしながら、再負荷に反応して分裂活性化した衛星細胞の数は、MR16-1処理を行うことにより増加した(図2)。
衛星細胞は筋肉繊維量の調節に重要な役割を果たすことから、IL-6を阻害することは筋肉再生を促進する一つの手法になり得ることが示唆された。
【0076】
〔実施例3〕
MR16-1投与による培養で増殖させた衛星細胞をGFPにより標識し、該細胞を損傷または萎縮筋を有する動物の筋組織または静脈中に注入する。当業者に公知の方法により、該細胞の投与による、対象動物の筋組織の回復または再生の効果を検討する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明者らは、重力刺激が無い状態で生じる筋萎縮あるいは廃用性筋萎縮を起こした筋組織において、IL-6受容体抗体を用いIL-6を特異的に阻害することで、筋肉再生を促進させることが出来ることを見出した。すなわち本発明の筋再生促進剤は、寝たきり状態やギブス固定時の筋萎縮、さらには宇宙旅行で生じる筋萎縮の予防や再生に適用できるものと思われる。また、筋損傷、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に伴う筋萎縮や先天性筋疾患の筋の再生にも適用できるものと思われる。
これまで、筋肉再生を促す治療剤は存在していなかったが、本発明の知見により、薬剤により筋再生促進が可能になるものと思われる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D