特許第5755211号(P5755211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5755211
(24)【登録日】2015年6月5日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】基板の製造方法、射出成形基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/00 20060101AFI20150709BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20150709BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20150709BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20150709BHJP
   H01F 27/02 20060101ALI20150709BHJP
   H05K 3/20 20060101ALI20150709BHJP
   H02M 3/28 20060101ALN20150709BHJP
【FI】
   H05K3/00 W
   H01F41/04 B
   H01F15/00 C
   H01F17/00 B
   H01F15/02 L
   H05K3/20 Z
   !H02M3/28 Y
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-245187(P2012-245187)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-93508(P2014-93508A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2014年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】深井 寛之
【審査官】 井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−024601(JP,A)
【文献】 特開2011−146459(JP,A)
【文献】 特開2003−282344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
H01F 17/00
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 41/04
H05K 3/20
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回路素材を形成し、
前記回路素材同士の所定部位を接合して、コイル部を有する回路導体を形成し、
前記コイル部は、平板状のコイル素材が、中心から径が変化するように渦巻状に設けられ、
前記コイル素材の幅広方向が、前記コイル部の軸方向に略平行となるように形成され、
前記回路導体を射出金型内にセットする際に、コイル部のコイル導体部の一部を、前記射出金型に形成され、前記コイル部の形状に対応して所定の間隔で渦巻き状に形成された溝に挿入することで、前記コイル部の前記コイル導体部を保持し、
この状態で前記射出金型に対して樹脂を射出成型することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項2】
前記コイル部の渦巻形状は、略矩形形状であることを特徴とする請求項記載の基板の製造方法。
【請求項3】
前記コイル部は、略90°の折り曲げ部を有する複数の前記コイル素材が接合されて形成されることを特徴とする請求項記載の基板の製造方法。
【請求項4】
前記コイル部は、最内周の前記コイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の基板の製造方法。
【請求項5】
コイル部を有し、複数の回路素材同士の所定部位が接合された回路導体と、
前記回路導体の少なくとも一部を被覆する射出成形樹脂と、
を具備し、
前記コイル部は、平板状のコイル素材が、中心から径が変化するように渦巻状に形成され、前記コイル素材の幅広方向が、前記コイル部の軸方向に略平行となるように形成され、
前記コイル部に形成されたそれぞれのコイル導体部の幅方向の一部が、所定の間隔で渦巻状に前記射出成形樹脂から露出して、コイル露出部が形成されることを特徴とする射出成形基板。
【請求項6】
前記コイル露出部に絶縁樹脂を塗布することを特徴とする請求項5記載の射出成形基板。
【請求項7】
前記コイル部は、略矩形形状であり、略90°の折り曲げ部を有する複数の前記コイル素材が接合されて形成されることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の射出成形基板。
【請求項8】
前記コイル部は、最内周の前記コイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成され、他の前記コイル素材よりも上部に位置する部位が基板側素材との接合部となることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の射出成形基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等に用いられるDC−DCコンバータ等の基板の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられるDC−DCコンバータは、電圧変換用のトランスや平滑化用のチョークコイル等の複数の部品から構成される。これらの部品のうち、高電圧・大電流が負荷される部品については、それぞれのパーツを別々に製造後、それらを基板の外部に接続する必要があった。しかし、このような構成は、装置の大型化を招くため、よりコンパクトなDC−DCコンバータが要求されていた。
【0003】
これに対し、プレスにより複数の回路素材を成形し、回路素材を接合した状態で、射出成形によって基板を一体成形する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−146459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法によれば、高電圧・大電流にも耐え得るように、回路素材として、例えば400μm以上の厚銅を用いることが可能であり、また、回路素材間の絶縁部には、射出成形樹脂が充填されるため、基板の絶縁性能を低下させることもない。
【0006】
一方、基板に設けられるコイル部は、例えば、複数の回路素材が積層されて形成される。通常、このようなコイルを構成する回路素材間の間隔は狭い。したがって、射出成形時における樹脂の圧力によって回路素材が変形し、回路素材同士が接触する恐れがある。
【0007】
図8は、従来の射出成形基板を製造する際における、回路導体101を金型107に設置した状態を示す図である。前述したように、複数の回路素材を接合することで、回路導体101が構成される。また、回路導体101には、コイル導体103a、103bが設けられる。コイル導体103a、103bは、複数のコイル導体が積層されて構成される。
【0008】
従来は、射出成形時において、コイル導体同士を接触させず、絶縁を保つために、コイル導体同士の間に絶縁材105が挟まれる。絶縁材105を挟み込むことで、射出成形の際に、コイル導体に樹脂の圧力が加わっても、コイル導体が変形して、コイル導体同士が接触することを防止することができる。
【0009】
しかし、絶縁材を用いることにより、部品数が増加し、また、絶縁材を配置するための工数やスペースが必要となる。したがって、より低コストで、よりコンパクトな基板を得ることが困難となっていた。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、コイルを有する射出成型基板に対し、絶縁材を用いることなく、確実に絶縁性を確保することが可能な基板の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために第1の発明は、複数の回路素材を形成し、前記回路素材同士の所定部位を接合して、コイル部を有する回路導体を形成し、前記コイル部は、平板状のコイル素材が、中心から径が変化するように渦巻状に設けられ、前記コイル素材の幅広方向が、前記コイル部の軸方向に略平行となるように形成され、前記回路導体を射出金型内にセットする際に、コイル部のコイル導体部の一部を、前記射出金型に形成され、前記コイル部の形状に対応して所定の間隔で渦巻き状に形成された溝に挿入することで、前記コイル部の前記コイル導体部を保持し、この状態で前記射出金型に対して樹脂を射出成型することを特徴とする基板の製造方法である。
【0013】
この場合、前記コイル部の渦巻形状は、略矩形形状であってもよい。前記コイル部は、略90°の折り曲げ部を有する複数の前記コイル素材が接合されて形成されてもよい。
【0014】
前記コイル部は、最内周の前記コイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成されてもよい。
【0015】
第1の発明によれば、コイル導体部の一部が、金型の溝に嵌められた状態で射出成形されるため、射出成形時においても、コイル導体部同士の間隔を確実に維持することができる。したがって、コイル導体同士が接触して導通することがなく、互いの絶縁性を確保することができる。この際、絶縁材等を挟み込む必要もない。
【0016】
また、電流は最短経路を流れる性質があるため、コイルの中心側に偏って流れる。平板状のコイル素材の幅広方向が、コイル部の軸方向に略平行となるように、中心から径が変化するように渦巻状に設けてコイル部を構成することで、コイルの中心側にコイル素材の平面部を向けることができる。したがって、これと垂直な向きにコイル素材を配置する場合と比較して、コイル内部で実質的に電流が流れる電流集中部の断面積を大きくすることができる。したがって、電気抵抗が低減するので、熱損失等を抑制することができる。
【0017】
特に、コイルの渦巻き形状を略矩形とすることで、回路素材の曲げ加工が容易となる。例えば、コイル素材を円形に丸めて渦巻き形状とする場合と比較して、折り曲げ加工は、より形状が安定するため、例えば、コイル素材同士の間隔を寸法精度良く加工することができる。この際、90°の折り曲げ部を有する複数のコイル素材を接合してコイル部を構成することで、長いコイル素材を用いる必要がなく、短いコイル素材を組み合わせて構成することができる。したがって、板材の歩留まりが良く、生産性が高い。
【0018】
また、最内周のコイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成されることで、他のコイル素材よりも上部に位置する部位がコイル素材と基板側素材との接合部となる。このようにすると、基板側素材が他のコイル素材と接触することを防止することができる。
【0019】
第2の発明は、コイル部を有し、複数の回路素材同士の所定部位が接合された回路導体と、前記回路導体の少なくとも一部を被覆する射出成形樹脂と、を具備し、前記コイル部は、平板状のコイル素材が、中心から径が変化するように渦巻状に形成され、前記コイル素材の幅広方向が、前記コイル部の軸方向に略平行となるように形成され、前記コイル部に形成されたそれぞれのコイル導体部の幅方向の一部が、所定の間隔で渦巻状に前記射出成形樹脂から露出して、コイル露出部が形成されることを特徴とする射出成形基板である。
【0020】
前記コイル露出部に絶縁樹脂を塗布してもよい。前記コイル部は、略矩形形状であり、略90°の折り曲げ部を有する複数の前記素材が接合されて形成されてもよい。前記コイル部は、最内周の前記コイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成され、他の前記コイル素材よりも上部に位置する部位が基板側素材との接合部となってもよい。
【0021】
第2の発明によれば、コイル導体部の一部が射出成形樹脂から露出するため、コイル部の放熱性に優れる。また、平板状のコイル素材の幅広方向が、コイル部の軸方向に略平行となるように、中心から径が変化するように渦巻状に設けてコイル部を構成することで、前述したように、実質的に電流が流れる断面積が大きくなることにより熱損失等を抑制することができる。
【0022】
このとき、コイル露出部に絶縁樹脂を塗布すれば、コイル露出部の絶縁性を確保することができる。また、コイルの渦巻き形状を略矩形とすることで、寸法精度良く加工することができる。この際、90°の折り曲げ部を有する複数のコイル素材を接合してコイル部を構成することで、長いコイル素材を用いる必要がなく、短い回路素材を組み合わせて構成することができるため、板材の歩留まりが良く、生産性が高い。さらに、コイル部は、最内周のコイル素材の端部が他の部位よりも幅が広く形成され、他のコイル素材よりも上部に位置する部位が基板側素材との接合部となれば、基板側素材が他のコイル素材と接触することを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コイルを有する射出成型基板に対し、絶縁スペーサを用いることなく、確実に絶縁性を確保することが可能な基板の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】基板1を示す斜視図。
図2】基板1を示す平面図。
図3】基板1を示す断面図で、図2のA−A線断面図。
図4】(a)は金型19を示す図、(b)は回路導体15を金型19に設置した状態を示す図。
図5】(a)は平板状のコイル導体4の幅広方向が、コイル部の軸方向に略平行となるように、中心から径が変化するように渦巻状に設けられた状態を示す断面図、(b)は平板状のコイル素材の幅広方向が、コイル部の軸方向に略垂直となるように複数層に螺旋状に形成された状態を示す断面図。
図6】(a)はコイル導体4bを示す平面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
図7】回路導体を金型19aに設置した他の状態を示す図。
図8】従来の回路導体101を金型107に設置した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、基板1を示す斜視図であり、図2は平面図である。基板1は、トランス3、チョークコイル5を有する例えば自動車用のDC−DCコンバータとして用いられる基板である。基板1は、電子部品搭載部7、接続部8a、8b、8cおよび、コイル露出部2等において内部の導体部が外部に露出し、その他の部位が射出樹脂9によって被覆される。
【0026】
基板1に設けられるトランス3は、電圧変換用のコイルであり、外部より入力された電流をトランス3で降圧し、降圧された電流をチョークコイル5によって平滑化して外部に出力する。電子部品搭載部7は、電子部品等を搭載する部位であり、例えば接続部8b等によって基板1と電気的に接続される。
【0027】
図3は、図2のA−A線断面図である。電子部品搭載部7の裏面側には放熱部11が形成される。放熱部11は、搭載される電子部品や基板の回路導体に通電することにより発生する熱を外部に放出する。なお、本発明にかかる基板は、図に示すような配置および形状に限られることはなく、その他の部品等を適宜搭載することや、配置および形状を適宜変更することが可能なことは言うまでもない。
【0028】
基板1は、内部に複数の回路素材からなる回路導体15が設けられ、それぞれの回路素材が必要に応じて電気的に接続される。なお、以下の説明においては、回路導体15の形状については簡易的に示すが、基板1に要求される性能を確保できるように、各回路素材の形状及び配置、また、これと接続される各電子部品等は適宜設定される。このように回路導体が適切に組み立てられた状態で、周囲に射出樹脂9が射出される。
【0029】
トランス3、チョークコイル5は、それぞれ、コイル導体4、4aにより構成される。コイル導体4、4aは、例えば複数のコイル素材によって構成される。コイル素材は、例えば平板状である。
【0030】
図示した例においては、トランス3は、平板状のコイル素材の幅広方向が、トランス3の軸方向(図3の左右方向)に略平行となるように、中心から径が変化するように渦巻状(平面視)に設けられる。また、チョークコイル5は、平板状のコイル素材の幅広方向が、トランス3の軸方向(図3の左右方向)に略垂直となるように、複数層に螺旋状に形成される。なお、各コイルの構成(コイルの軸方向に対するコイル素材の幅広方向)は、図示した例に限られず、何れの方向であってもよい。
【0031】
図に示す例では、トランス3のコイル導体4の一部が、コイル露出部2において、射出樹脂9から露出する。したがって、コイル導体4の放熱性が優れる。なお、コイル露出部2は、射出樹脂9から露出する部位であるが、射出成形後、他の樹脂等で被覆しても良い。例えば、熱伝導の絶縁樹脂等で被覆してもよい。
【0032】
射出樹脂9は、回路導体15を被覆するように、または各回路素材同士の間隔を保持するために、回路導体15の表面、および回路導体15の層間に射出される。射出樹脂9としては、絶縁性があり、射出成型が可能であればよく、例えば、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフタルアミド等が使用できる。
【0033】
次に、基板1の製造方法について詳細を説明する。まず、必要な回路素材をプレスにより打ち抜き、必要な曲げ加工を施して所望の形状に形成する。なお、この際、プレス金型の表面に凹凸形状を設けておき、各回路素材表面に細かな凹凸形状を形成してもよい。表面の粗度を上げることでアンカー効果により樹脂との密着性を向上することができる。また、プレス金型による凹凸形成の他にも、ブラスト処理による表面処理や、銅メッキ粗化、ニッケルメッキ粗化等により回路素材表面を粗面化してもよい。
【0034】
次に、各回路素材同士を接合し、または所定の位置に配置して、回路導体15を形成する。接合は例えば溶接により行われる。回路導体は平面のみではなく、複数層に層状に形成されてもよい。
【0035】
図4(a)は、射出成形に用いられる金型19を示す断面図である。なお、図4(a)は、図2の基板1のA−A線断面に対応する断面図である。金型19には、射出樹脂9を射出するためのキャビティ21が設けられる。また、キャビティ21には、所定の位置にピン25が設けられる。金型19のコイル部(コイル露出部2)に対応する部位には、溝部23が設けられる。溝部23は、コイルの形状に対応する。すなわち、溝部23の溝間隔は、コイル導体4におけるコイル周間の間隔に対応する。
【0036】
図4(b)に示すように、回路導体15は、所定位置のピン25により金型19に固定される。また、コイル導体4を構成するコイル素材の幅方向の一部が、溝部23に挿入される。この状態で、金型19内に射出樹脂9を射出することで、基板1が形成される。なお、図に示すように、全てのコイル部に対して、金型19に溝を形成する必要はない。例えば、チョークコイルに対応する部位(図中下部)は、従来通り、絶縁材を設けても良い。
【0037】
コイル導体4は、溝部23に嵌められるため、射出成形時に、射出樹脂9の圧力が付与されても、コイル素材同士の間隔が保持される。したがって、コイル素材同士が接触することを防止することができる。
【0038】
次に、コイルの形態について説明する。図5(a)は、前述したトランス3(図1図3)と同様のコイルを示す。すなわち、コイル導体4は、平板状のコイル素材の幅広方向が、コイルの軸方向(図中上下)に略平行に配置され、平面視(図5の例えば上方から)においては渦巻き状に形成されるものである。
【0039】
このような状態で、コイル導体4に高周波交流電流を流すと、コイル導体4のコイル中心27側の表面に電流が集中する。すなわち、コイル素材の一方の平面部(幅広面)が電流集中部29となる。
【0040】
一方、図5(b)は、図5(a)に対して。コイル素材の方向が90°異なるものである。すなわち、コイル導体4は、平板状のコイル素材の幅方向が、コイルの軸方向(図中上下)に略垂直に配置され、コイル素材が螺旋状に積層するように形成されるものである。
【0041】
このような状態で、コイル導体4に高周波交流電流を流すと、コイル導体4のコイル中心27側の表面に電流が集中する。すなわち、コイル素材の一方の幅方向端部が電流集中部29となる。
【0042】
したがって、図5(a)のように平面部に電流集中部29が形成される方が、図5(b)のように幅方向端部に電流集中部29が形成される場合と比較して、電流集中部29の断面積が大きくなる。したがって、図5(a)の方が、電流集中に伴う熱損失を抑制することができる。なお、電気自動車等においては、通常100A〜数百A程度の電流でコイルが用いられる。この場合、実質的に電流が流れる断面積が大きくなることによって熱損失は、図5(a)の場合、図5(b)の場合と比較して2〜3割程度削減することができる。
【0043】
なお、図5(a)の場合、電流値100A程度の3ターンのコイルを想定し、例えば、厚み1mm、幅5mmのコイル素材を用い、コイル素材間を1mm、コア内径dとすると、コイルの外径は、d+2×(3ターン×1mm+絶縁層2×1mm)=d+10mmとなる。一方、図5(b)の場合には、同様の素材を用いると、d+2×5mm幅=d+10mmとなる。したがって、3ターン程度までは、図5(a)と図5(b)のコイルは、略同等のサイズとなる。なお、2ターンまでであれば、図5(a)のコイルの方がサイズを小さくできる。また、前述した電流集中を考慮すれば、図5(a)のコイルは、より小さなコイル素材を用いることもできる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の基板1によれば、回路素材をプレスで形成するため、厚銅基板を形成することができ、さらに射出樹脂9を射出成型により形成するため、製造性に優れ、大電流にも耐えうる基板1を得ることができる。
【0045】
また、トランス等のコイル部を射出成形により成形する際に、コイル導体4が金型19の形成された溝部23に挿入される。溝部23は、コイル形態に対応して、所定の間隔で渦巻き状に形成されるため、溝部23に挿入されたコイル導体4の絶縁間隔が保持される。したがって、射出成型の際に、コイル導体4が変形して、各周のコイル素材同士が接触することを防止することができる。なお、これによって、コイル露出部2が形成される。コイル露出部2によって、コイルの放熱性を高めることができる。また、コイル露出部2の絶縁性を確保するためには、射出成形後、射出樹脂9の外部に、別途絶縁樹脂等を塗布することもできる。
【0046】
また、コイル部を、平板状のコイル素材で構成し、コイル素材の幅広方向が、コイル部の軸方向に略平行となるように、コイル中心から径が変化する渦巻状にすることで、電流集中部29を、コイル素材の平面部に形成することができる。したがって、コイル素材をコイル部の軸方向に略垂直となるようにする場合と比較して、熱損失を抑制することができる。
【0047】
次に、他のコイル導体について説明する。図6(a)はコイル導体4bの平面図である。コイル導体4bは、コイル導体4のように円形ではなく、略矩形の形状である。なお、この場合でも、中心から径が変化するような渦巻状であると称する。
【0048】
コイル導体4bは、互いにサイズの異なる複数のコイル素材13a〜13dから構成される。コイル素材13a〜13dは、平板状の素材である。各コイル素材13a〜13dは、略90°の折り曲げ部を有する。また、コイル素材13a〜13dは、互いに接合部31で接合される。なお、最外周のコイル素材13aの端部は、基板側素材17aと接合される。また、最内周のコイル素材13dの端部は、基板側素材17bに接合される。基板側素材17a、17bは、他の回路素材と接合されて回路導体を構成する。
【0049】
図6(b)は、図6(a)のB−B線断面図である。接合部31では、例えば、半田や溶接によって各コイル素材同士が接合される。また、最内周のコイル素材13dの端部は、他の部位よりも幅が広く(高さが高く)、他のコイル素材よりも上部に位置する部位が、接合部33となる。接合部33で、コイル素材13dと基板側素材17bとが接合される。このようにすることで、基板側素材17bが、他のコイル素材と接触することを防止することができる。
【0050】
コイル導体4bのように、コイルの形態を略矩形とすることで、コイル導体4bの加工が容易となる。これは、コイル素材を円形に丸めて加工する場合と比較して、プレスによって矩形に加工する方が、寸法精度が高いためである。
【0051】
また、一本のコイル素材を曲げ加工するのではなく、複数の折り曲げ部を有するコイル素材を接合することで、個々のコイル素材を小さくすることができる。したがって、板材からの歩留まりが良く、生産性を向上することができる。
【0052】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えば、前述の例では、トランス3のみについて説明したが、チョークコイル5に対しても、同様に適用が可能である。例えば、コイル素材の幅方向が、コイルの軸方向に略垂直な場合であっても本発明は適用可能である。図7は、回路導体15を金型19aに配置した状態を示し断面図である。金型19aでは、コイル導体4aに対応する位置に、溝部23aが設けられる。溝部23aは、コイル導体4aの形態に対応し、溝部23aの溝間隔は、コイル導体4aにおける各層間の間隔に対応する。
【0054】
この状態で、金型19aに射出樹脂9を射出することで、基板を成形することができる。なお、この場合も、チョークコイル5の一部にコイル露出部2が形成されるが、絶縁が必要な場合には、射出樹脂9から露出するコイル導体4aに、絶縁樹脂等を塗布すればよい。このように、コイルの向きによらず、金型に溝部を形成することで、コイル素材同士の接触を防止する絶縁材等を用いることなく、確実に、各ターンのコイル素材同士の絶縁を確保することができる。
なお、前述した例では、コイル導体4、4aは、複数周に導体が設けられる例を示したが、1周であっても良く、この場合、位置決めの効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1………基板
2………コイル露出部
3………トランス
4、4a、4b………コイル導体
5………チョークコイル
7………電子部品搭載部
8a、8b、8c………接続部
9………射出樹脂
11………放熱部
13a、13b、13c、13d………コイル素材
15………回路導体
17a、17b………基板側素材
19、19a………金型
21………キャビティ
23、23a………溝部
25………ピン
27………コイル中心
29………電流集中部
31、33………接合部
101………回路導体
103a、103b………コイル導体
105………絶縁材
107………金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8