【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)潤滑目的で使用されるグリースの再生方法において、使用済みグリースをそのグリースの最高使用温度以下に加熱し粘度を低下させた後、高圧二酸化炭素と混合することにより更に粘度を低下させ、分離器において、該グリースを磁石と薄膜状で接触させることにより、使用済みグリース中に含有される鉄粉を磁石に磁気分離し、グリース中の鉄粉濃度を低下させ、再使用可能な状態とすることを特徴とする使用済みグリースの再生方法。
(2)分離器において、筒状体とその内部に配設された円柱状磁石を有する分離器の前記筒状体内壁と円柱状磁石外面との隙間に形成される所定間隙の環状空間からなる環状部にグリースを導入し前記環状部の環状空間内に所定厚さの薄膜状に連続的に流して該グリースを磁石と薄膜状で接触させることにより、使用済みグリース中に含まれる鉄粉を磁石で磁気分離する、前記(1)記載の使用済みグリースの再生方法。
(3)加熱温度を、そのグリースの最高使用温度の20℃以下とする、前記(1)又は(2)記載の使用済みグリースの再生方法。
(4)高圧二酸化炭素をグリース加熱温度と同一温度まで加熱して混合する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(5)高圧二酸化炭素が、5MPa以上に加圧された状態である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(6)加熱後の使用済みグリースと磁石との接触を、2mm以下の薄膜状で行う、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(7)処理後の鉄粉濃度が許容値以下となるまで、磁気分離を繰り返す、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(8)処理後の鉄粉濃度の許容値が、0.05重量%である、前記(7)記載の使用済みグリースの再生方法。
(9)加熱後の使用済みグリースを高圧二酸化炭素と混合する前に、異物除去のための所定の目開きのフィルターによるろ過処理を行う、前記(1)〜(8)
のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(10)異物除去のためのろ過処理のフィルターの目開きが、150μm以上である、前記(9)記載の使用済みグリースの再生方法。
(11)磁石が、永久磁石である、前記(1)〜(10)
のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(12)永久磁石が、ネオジム磁石である、前記(11)記載の使用済みグリースの再生方法。
(13)磁石が、電磁石である、前記(1)〜(10)
のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(14)グリースのちょう度が、340以下(ちょう度番号1以上)である、前記(1)〜(13)
のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法。
(15)潤滑グリースを使用する潤滑グリース使用装置内に封入されているグリースの所定量を残しながら、又は残すことなく、前記(1)〜(14)
のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法による処理を行った後、鉄粉濃度を測定し、許容濃度以下であれば、そのまま潤滑グリース使用装置に注入して前記装置の健全化を図る潤滑グリース使用装置の健全化方法。
(16)前記(1)〜(14)のいずれかに記載の使用済みグリースの再生方法に使用する使用済みグリースの再生装置であって、
使用済みグリースを収容する使用済みグリースタンク、該タンクに収容されたグリースを加熱する加熱器、前記タンクから供給される使用済みグリース中の異物を除去するろ過装置、CO
2高圧ポンプ、CO
2加熱器、グリースとCO
2を混合する混合器、グリースを磁石と薄膜状で接触させ該グリースに含まれる鉄粉を分離するための磁気分離器、を備えたことを特徴とする使用済みグリースの再生装置。
(17)磁気分離器本体の筒状体と、その内側に所定の間隙で配設された円柱状磁石とを備え、前記筒状体の内壁と円柱状磁石外面との隙間に形成される所定の環状空間からなる環状部にグリースを導入し、前記環状部の環状空間内に所定厚さの薄膜状に連続的に流して該グリースを磁石と薄膜状で接触させるようにした、前記(16)記載の使用済みグリースの再生装置。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、使用済みグリースの連続再生方法であって、使用済みグリースをそのグリースの最高使用温度以下に加熱し粘度を低下させた後、高圧二酸化炭素と混合することにより更に粘度を低下させ、分離器において、該グリースを磁石と薄膜状で接触させることにより使用済みグリース中に含有される鉄粉を磁石に磁気分離し、グリース中の鉄粉濃度を低下させ、再使用可能な状態とすることを特徴とするものであり、本発明では、特に、筒状体とその内部に配設された円柱状磁石を有する分離器の前記筒状体内壁と円柱状磁石外面との隙間に形成される所定間隙の環状空間からなる環状部にグリースを導入し、前記環状部の環状空間内に所定厚さの薄膜状に連続的に流して該グリースを磁石と薄膜状で接触させることにより、使用済みグリース中に含まれる鉄粉を磁石で磁気分離すること、を好ましい実施態様としている。
【0017】
本発明では、加熱温度をそのグリースの最高使用温度の20℃以下とすること、高圧二酸化炭素をグリース加熱温度と同一温度まで加熱して混合すること、高圧二酸化炭素が、5MPa以上に加圧された状態であること、加熱後の使用済みグリースと磁石との接触を2mm以下の薄膜状で行うこと、処理後の鉄粉濃度が許容値以下となるまで磁気分離を繰り返すこと、が好ましい。
【0018】
更に、本発明では、処理後の鉄粉濃度の許容値が0.05重量%であること、加熱後の使用済みグリースを高圧二酸化炭素と混合する前に、異物除去のための所定の目開きのフィルターによるろ過処理を行うこと、異物除去のためのろ過処理のフィルターの目開きが150μm以上であること、磁石が、永久磁石であること、永久磁石が、ネオジム磁石であること、磁石が、電磁石であること、グリースのちょう度が、340以下(ちょう度番号1以上)であること、が好ましい。
【0019】
前述したように、グリースは、鉱油や合成油などの潤滑油(基油)を増ちょう剤(石鹸基、非石鹸基)で保持し、各種の添加剤(酸化防止剤、極圧添加剤、防せい剤、腐食防止剤)を加えたものである。基油の潤滑性能によって、グリースの潤滑性能が定まり、一般的に、低粘度基油のグリースは、低温特性、高速性能に優れ、高粘度基油のグリースは、高温特性、高荷重特性に優れている。
【0020】
増ちょう剤は、グリースを半固体状に保つための材料であり、リチウム、ナトリウム、カルシウムなどの金属石鹸のほか、シリカゲル、ベントナイトなどの無機材料及びウレア、フロロカーボンなどの有機材料よりなる非石鹸基増ちょう剤がある。増ちょう剤の形状は、繊維状であることが多く、大きい場合は100μmになることもある。
【0021】
グリースの使用限界温度や機械的安定性は、主として増ちょう剤によって定まる。グリースの硬さ、流動性は、ちょう度と呼ばれる指標で表され、その数値が大きいほど軟らかい。ちょう度は、増ちょう剤の量と基油の粘度により定まる。ちょう度の範囲により、グリースの分類(NLGIちょう度番号)が決まっており、その関係を以下の表1に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
一般的に、ロボットの潤滑には、ちょう度番号0,00,000の流動性の良いグリースが用いられることが多いが、用途に応じて、ちょう度番号1、2、3までのグリースも使用される。ちょう度番号00のグリース(モリホワイトRE No.00、協同油脂製)の粘度の温度依存性を
図1に示す。
【0024】
本グリースは、基油85〜95%、増ちょう剤としてリチウム石鹸を10%以下、添加剤15%以下(極圧剤としてモリブデン化合物5%以下、酸化防止剤として2,6−ジ−ターシャリ−ブチル−4−クレゾール5%以下、防錆剤5%以下)の構成であり、半流動状態のグリースである。使用限界温度は130℃である。
図1の粘度は、キャピラリーを通過する時の圧力損失を測定し、ハーゲンポアズィユの式から求めた粘度である。
【0025】
同一温度において、流量の違いで粘度が変わるのは、ずり速度によりずり応力が変化するからであり、非ニュートン流体と考えられる。図より明らかなように、常温での粘度は1000cP付近であったが、80℃まで加熱すると、200cP近辺まで粘度が低下しており、その中に鉄粉が含まれている場合、その磁気分離による移動性は格段に良好となったと考えられる。
【0026】
一方、ちょう度番号2のグリース(アルバニアEP2、昭和シェル石油製)の粘度の温度依存性を
図2に示す。本グリースは、基油85〜90%、増ちょう剤としてリチウム石鹸を5〜10%、添加剤10%以下の構成であり、軟硬状態は中間的なグリースである。使用限界温度は110℃である。常温での粘度は10万cP以上と非常に高く、80℃に加熱しても2万〜4万cPと磁気分離に適した粘度までは低下していない。
【0027】
ちょう度番号00のグリース(モリホワイト、協同油脂製)及びちょう度番号2のグリース(アルバニアEP2、昭和シェル石油製)の粒度分布を
図3に示す。測定は、石油系溶剤(ナフサ)でグリースを希釈し、レーザ回折・光散乱法(日機装製・マイクロトラックMT3000II)により測定した。その結果、両グリース中の粒子径は10〜100μm内にあることが分かった。
【0028】
これらは、前述したグリース構成成分の増ちょう剤や各種の添加剤に起因するものである。従って、100μm以下の目開きのフィルターによるろ過操作を行うと、グリース構成成分が分離されて、そのグリースの機能を発揮できなくなる可能性が高い。使用済みグリースの再生処理に際して、何らかの原因で混入した粗大粒子を除去するためには、100μm以上、好ましくは150μm以上の目開きのフィルターによるろ過操作が必要である。
【0029】
本発明は、使用済みグリースの再生装置であって、使用済みグリースを収容する使用済みグリースタンク、該タンクに収容されたグリースを加熱する加熱器、前記タンクから供給される使用済みグリース中の異物を除去するろ過装置、CO
2高圧ポンプ、CO
2加熱器、グリースとCO
2を混合する混合器、グリースを磁石と薄膜状で接触させ該グリースに含まれる鉄粉を分離するための磁気分離器、を備えたことを特徴とするものであり、本発明では、特に、磁気分離器本体の筒状体と、その内側に所定の間隙で配設された円柱状磁石とを備え、前記筒状体の内壁と円柱状磁石外面との隙間に形成される所定の環状空間からなる環状部にグリースを導入し、前記環状部の環状空間内に所定厚さの薄膜状に連続的に流して該グリースを磁石と薄膜状で接触させるようにしたこと、を好ましい実施態様としている。
【0030】
次に、添付図面を参照し、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
図4、5に示す装置は、本発明に係わる使用済みグリース再生装置の実施形態の一例である。図中の符号は、1:ロボット、2:使用済みグリースタンク、3:グリース高圧ポンプ、4:加熱器、5:フィルター、6:混合器、7:CO
2ボンベ、8:CO
2冷却器、9:CO
2高圧ポンプ、10:CO
2加熱器、11:磁気分離器、12:保圧弁、13:鉄粉濃度計、を各示す。
【0031】
図4は、各ロボットから一定時間毎にグリースを抜き出し、鉄粉濃度計の測定値によりグリースが使用可能かどうかの判断を行い、許容値以上となった使用済みグリースを再生装置により処理して許容値以下とし、この再生グリースを再度ロボットに戻して使用することを表している。
【0032】
一方、
図5に示す装置は、ロボットで使用されているグリースの一部を常時引き出し、再生装置で処理した後、鉄粉濃度を連続的に測定し、許容値以下であることを確認後、そのままロボットの駆動部へ戻してグリースを使用するロボットの健全化概念を表している。これらのうち、始めに、
図4を詳細に説明する。
【0033】
図4において、各ロボット(1−1〜4)から集められた使用済みグリースは、使用済みグリースタンク2に集められ、必要に応じて、タンクが加熱されることにより流動性があげられ、また、必要に応じて、窒素ガスなどによって加圧されて、グリース高圧ポンプ3のサクションに導入される。グリース高圧ポンプ3としては、色々な種類のポンプが選定可能であるが、定量ポンプが望ましく、例えば、ギアポンプ、ピストンポンプ、ネジポンプ、プランジャー・ダイヤフラムポンプなどが用いられる。
【0034】
このポンプ3により、使用済みグリースは、高圧下、一定流量で押し出される。この時の圧力は、グリースにCO
2が十分溶解すれば良く、通常は5MPa以上、好ましくは10MPa以上、更に好ましくは20MPaである。高圧吐出された使用済みグリースは、加熱器4で加熱される。この時の温度は、使用限界温度までの加熱が可能であるが、局部的な加熱などを考慮すると、好ましくは使用限界温度から20℃低い温度までとするほうが良い。加熱源は限定されないが、電気ヒータなどは局部的な加熱が起こることもあるので、熱媒体による加熱が好ましい。この場合、100℃以下であれば、温水が使用できる。
【0035】
一定温度に加熱され、粘度が低下した使用済みグリースは、混合器6へ導入される。一方、CO
2ボンベ7の下部から液体CO
2が冷却器8へと導かれ、過冷却により完全な液体状態のCO
2がCO
2高圧ポンプ9のサクションに導入され高圧状態の液体CO
2となる。CO
2高圧ポンプ9としては、定量ポンプが好ましく、通常、プランジャー・ダイヤフラムポンプなどが用いられる。圧力は、前述のグリース高圧ポンプ3の吐出圧と同等である。液体高圧CO
2は、CO
2加熱器10で、グリース加熱温度まで加熱され、混合器6へ導入される。
【0036】
使用済みグリースが混合器6に導入される前に、フィルター5を通過させることも行われる。これは、使用済みグリースが回収されていく過程で大きな異物の混入があった場合を考慮し、磁気分離器の閉塞を防止するために行われるものである。ただし、前述したように、ここでのフィルター目開きが小さすぎると、グリースに本来入っていなければならない増ちょう剤や各種の添加物が分離されてしまう危険性があるため、その目開きは100μm以上、好ましくは150μm以上とするべきである。
【0037】
混合器6としては、スタティックミキサーなどのインラインミキサーが使用されるが、高粘性の使用済みグリースに低粘性のCO
2を効率的に混合するには、両流体の拡散距離をあらかじめ短くすることが有効であり、多段分注型マイクロ混合器などが好ましく用いられる。混合器6では、使用済みグリース中にCO
2が溶解することにより粘度が著しく低下し、グリースは、磁気分離器11に導入され、薄膜状で流され、グリース中の鉄粉が磁石に引き寄せられて該鉄粉の分離が行われる。
【0038】
磁石としては、永久磁石、電磁石のどちらでも使用が可能であり、グリース処理量や鉄粉濃度許容値などの関係で選択される。永久磁石の場合、強い磁力を持つということでネオジム磁石の使用が有利である。電磁石は、強い磁力を発生することができ、かつ通電を止めることで消磁することができるため、回収した鉄粉を磁石から外すという観点から有利であるが、発熱などに対する対策が必要であり、装置が大型化するというデメリットを合わせ持つ。使用条件の制約などを含め判断する必要がある。
【0039】
磁気分離器の一例を
図6に示す。この分離器は、分離器本体を筒状体とし、その内部に円柱状の永久磁石(ネオジム)を配置したものである。使用済みグリースは、本体の端部において十字の4方向から流入し、筒状体内壁と円柱状磁石外面との環状部を薄膜状に流れ、鉄粉が分離される機構である。分離後の鉄粉を除去しやすくするため、円柱状磁石の外面を薄膜フィルムで被覆することもある。
【0040】
磁気分離後の処理グリース(CO
2溶解)は、圧力を保圧弁12で大気圧まで低下させる。この時、グリース中に溶解していたCO
2は、ほぼ全量が気体CO
2となって、グリースからは分離される。減圧後の処理グリースは、磁気バランス式電磁誘導法などにより鉄粉濃度を測定し、その数値が許容値以上であれば、再度、使用済みグリースタンクに戻され、再処理が行われる。鉄粉濃度が許容値以下であれば、ロボットの潤滑用グリースとして再使用される。
【0041】
次に、
図5について説明する。ここでは、ロボット毎にグリース再生装置が設置されており、常時一定量のグリースが引き抜かれ、連続的に上述した方法で磁気分離処理が行われ、インラインで鉄粉濃度を測定して、許容値であれば、そのまま連続的にグリースをロボット駆動部にもどしていく構成を示している。この構成では、新品のグリース状態から再生処理を受けることになり、常に理想的な潤滑が行われ、ロボット自身の健全化、機械寿命の延命化が大いに期待できる。鉄粉濃度が許容値以上を示した場合は、警報を発するとともに、再生装置が停止し、磁気分離器11内の磁石の交換、或いは分離鉄分の除去が行われ、再度、運転モードとなる。