特許第5757303号(P5757303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757303
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】水中音響測位システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/74 20060101AFI20150709BHJP
   G01S 5/30 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   G01S15/74
   G01S5/30
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-102097(P2013-102097)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-222200(P2014-222200A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2014年2月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500548231
【氏名又は名称】株式会社エス・イー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】浅田 昭
(72)【発明者】
【氏名】中川 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 照喜
【審査官】 小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−160840(JP,A)
【文献】 特開平08−189969(JP,A)
【文献】 特開2001−289935(JP,A)
【文献】 特開昭63−256881(JP,A)
【文献】 特開昭54−115266(JP,A)
【文献】 米国特許第04229809(US,A)
【文献】 米国特許第03860900(US,A)
【文献】 佐藤まりこ,海底基準局の識別信号の追加について,海洋情報部研究報告,日本,2010年,41号,p.108−115
【文献】 冨山新一,海底地殻変動観測における音響解析,海洋情報部技報,日本,2003年,21号,p.67−72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 15/74
G01S 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上におけるGPS観測データを基準としたGPSを備えている船上局から一斉に送信した音響信号を海底に設置された複数の海底局でそれぞれ受信し、それぞれの海底局から前記音響信号を前記船上局へ送信することによって、前記海底局の位置データを収集することができる水中音響測位システムにおいて、
前記船上局からIDコード(S0)および測距信号(M)からなる音響信号を前記海底局のそれぞれに一斉に送信する船上局送信部と、
前記船上局送信部からの音響信号をそれぞれ受信するとともに、それぞれの海底局によって異なるIDコード(S1、S2、S3、S4、・・・)を付けた前記測距信号(M)をそれぞれの海底局から時間差を持って第1回目の送信を行うとともに、前記第1回目と第2回目の送信順序を逆転させ、前記IDコード(S4、S3、S2、S1、・・・)および測距信号(M)のそれぞれの送信に要するトータル時間が平均化されてほぼ同じになる時間差を持って海底局から第2回目の送信を行う海底局送受信部と、
前記それぞれの海底局からの第1回目および第2回目の送信信号それぞれの時間差を持って受信する船上局受信部と、
前記受信した第1回目および第2回目の受信信号と、GPSからの位置信号を基にして、前記海底局の位置を決める演算を行うデータ処理装置と、
から少なくとも構成されていることを特徴とする水中音響測位システム。
【請求項2】
前記IDコード(B系列コード)および測距信号(M系列コード)は、ビットが「0」から「1」、あるいは「1」から「0」に変わる場合、および同じビットが「0」、「0」、「0」・・・、および「1」、「1」、「1」、・・・、と連続する場合において、各ビットの間で出力が停止する時間を設けていることを特徴とする請求項1に記載された水中音響測位システム。
【請求項3】
陸上におけるGPS観測データを基準としたGPSを備えている船上局から一斉に送信した音響信号を海底に設置された複数の海底局でそれぞれ受信し、それぞれの海底局から前記音響信号を一斉に前記船上局へ送信することによって、前記海底局の位置データを収集することができる水中音響測位方法において、
前記船上局からIDコード(S0)および測距信号(M)からなる音響信号を前記海底局のそれぞれに一斉に送信し、
前記海底局において、前記音響信号をそれぞれ受信するとともに、それぞれの海底局によって異なるIDコードおよび測距信号(S1、M)、(S2、M)、(S3、M)、(S4、M)、・・・を付け、それぞれに対して所定の時間差を持って第1回目の送信を行うとともに、前記IDコードおよび測距信号(S4、M)、(S3、M)、(S2、M)、(S1、M)、・・・のそれぞれを海底局から時間差を持って2回目の送信を行い、前記第1回目および第2回目の送信順序を逆転させ、それぞれの送信に要するトータル時間が平均化されてほぼ同じになるようして、それぞれの海底局から送信し、
データ処理装置により、前記受信した第1回目および第2回目の受信信号と、GPSからの位置信号を基にして、前記海底局の位置を決める演算を行うことを特徴とする水中音響測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の地殻変動を音響信号によって観測する水中音響測位システムおよび水中音響測位方法に関するものである。本発明は、船上局と海底局との間で海底地殻変動を観測し、観測したデータを船上局または陸上で演算処理することにより、前記海底地殻変動の程度を知ることができる水中音響測位システムおよび水中音響測位方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSの電波あるいは光は、海底に届かないため、海底における地殻変動の観測を行うことが困難であった。前記地殻変動の観測は、船上局の位置をGPSで決定し、前記海底地殻変動を船上局から海底局に向けて発射された音響信号を受信することによって測定することが可能である。しかし、音響信号の海中における音速は、海水温度、塩分濃度等によって、時々刻々と変化するため、時間的および空間的に正確に把握することが困難であった。一方、船上局に設置された観測装置は、船自体がローリング、ピッチング、およびヨーイングの少なくとも3方向の動きをしており、音響信号を発射する船上局の音響トランスデューサの位置を正確に決定することが困難であった。
【0003】
従来例を図6および図7によって説明する。図6は従来例で、決められたIDコードと測距信号をそれぞれの海上局に対して時間差を持って送受信する例を説明するための概略図である。図7は従来例で、図6の例を時系列的に示した概略図である。図6および図7において、船上局611は、海底局612の一つである(m1)に向けてIDコードS1および測距信号Mを送信する。海底局612(m1)は、応答信号として、IDコードS6および測距信号Mを船上局611に送信する。次ぎに、船上局611は、海底局612の一つである(m2)に向けてIDコードS2および測距信号Mを送信する。海底局612(m2)は、応答信号として、IDコードS6および測距信号Mを船上局611に送信する。船上局611は、同様にして、海底局612(m3、m4、・・・)と順次送受信をそれぞれ行う。
【0004】
前記IDコードS6および測距信号Mは、たとえば、10秒の時間差をもって各海底局612から前記船上局611に送信される。図7および図8に示す測距信号の送受信は、時間がかかるだけでなく、最初の海底局612(m1)で得たデータと、最後の海底局612(m4)で得たデータとが海水温度および塩分濃度と、船の位置および傾き(ピッチング等)等により異なる状態であるため、正確性を欠くという欠点があった。
【0005】
図8は従来例で、ビット信号の位相反転区間における歪み状態を説明するための図で、(イ)は1ビットが4波からなっている例で、(ロ)は位相が変わる場合の状態を説明するための図で、(ハ)は位相反転区間における歪みを説明するための図である。図8において、前記船上局611と海底局612との間で送受信する音響信号は、たとえば、1ビットが4波からなっている。図8(ロ)に示すように、ビットが「1」から「0」に変わる際の位相は、反転している。しかし、実際は、音響信号であるため、図8(ハ)に示すように、位相の反転区間が歪み、明瞭に区別できない場合があった。このようなビット信号は、船上局611と海底局612のIDコードおよび測距信号の信頼性にも問題があった。
【0006】
また、他の従来例として、たとえば、特開平8−189969号公報に記載されているトランスポンダーを用いた水中位置測定システムにおいて、受信信号読出部は、呼び出し信号が発射されると、読取時間内に接続された信号変換手段からのパルス信号を読み取る。制御演算部は、前記受信信号読出部が読み取ったパルス信号を各読出時間に対応してメモリ部に格納し、格納したパルス信号の中の所定数の最新の読取時間分のパルス信号を比較し、比較するパルス信号中に同じタイミングで存在するパルスを真の応答信号に基づくパルス信号と看做し、そのパルス信号が存在する期間を含む適宜期間に制御信号をアクティブにしてゲートスイッチ部が受信検出部からのパルス信号を通過させるようにさせ、前記複数のタイマーが時間積算を停止すると、各タイマーが積算した積算時間を取り入れ、取り入れた積算時間から水中位置を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−189969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年(東北大震災の後)、大地震の発生する確率が大きくなっている。前記大地震は、海底の地殻変動を正確に観察することにより、予想することが近い将来可能になって来ている。前記海底の地殻変動は、電波あるいは光による観測が不可能であるため、音響信号を使用する以外に手段が無かった。しかし、前記音響信号の速度は、海水温度、塩分濃度、船上局の状態によって変化するだけでなく、時間的および空間的に派生するいろいろな雑音を拾い易い状況にある。
【0009】
以上のような課題を解決するために、本発明は、船上局からのIDコードおよび測距信号をそれぞれの海底局へ一斉に送信し、これらの受信信号を前記船上局でそれぞれ受信した後、解析することにより、誤差の少ない地殻変動を調べることができる水中音響測位システムおよび水中音響測位方法を提供することを目的とする。また、本発明は、船上局からのIDコードおよび測距信号をそれぞれ海底局へ一斉に送信し、これらに対して2回に分けて船上局で受信信号を受信した後、解析することにより、誤差が更に少ない地殻変動を調べることができる水中音響測位システムおよび水中音響測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(第1発明)
第1発明の水中音響測位システムは、陸上におけるGPS観測データを基準としたGPSを備えている船上局から一斉に送信した音響信号を海底に設置された複数の海底局でそれぞれ受信し、それぞれの海底局から前記音響信号を前記船上局へ送信することによって、前記海底局の位置データを収集することができるものであり、前記船上局からIDコード(S0)および測距信号(M)からなる音響信号を前記海底局のそれぞれに一斉に送信する船上局送信部と、前記船上局送信部からの音響信号をそれぞれ受信するとともに、それぞれの海底局によって異なるIDコード(S1、S2、S3、S4、・・・)を付けた前記測距信号(M)をそれぞれの海底局から時間差を持って第1回目の送信を行うとともに、前記第1回目と第2回目の送信順序を逆転させ、前記IDコード(S4、S3、S2、S1、・・・)および測距信号(M)のそれぞれの送信に要するトータル時間が平均化されてほぼ同じになる時間差を持って海底局から第2回目の送信を行う海底局送受信部と、前記それぞれの海底局からの第1回目および第2回目の送信信号それぞれの時間差を持って受信する船上局受信部と、前記受信した第1回目および第2回目の受信信号と、GPSからの位置信号を基にして、前記海底局の位置を決める演算を行うデータ処理装置と、から少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0012】
(第発明)
発明の水中音響測位システムは、前記IDコード(B系列コード)および測距信号(M系列コード)は、ビットが「0」から「1」、あるいは「1」から「0」に変わる場合、および同じビットが「0」、「0」、「0」・・・、および「1」、「1」、「1」、・・・、と連続する場合において、各ビットの間で出力が停止する時間を設けていることを特徴とする。
【0013】
(第3発明)
第3発明の水中音響測位方法は、陸上におけるGPS観測データを基準としたGPSを備えている船上局から一斉に送信した音響信号を海底に設置された複数の海底局でそれぞれ受信し、それぞれの海底局から前記音響信号を一斉に前記船上局へ送信することによって、前記海底局の位置データを収集することができるものであり、前記船上局からIDコード(S0)および測距信号(M)からなる音響信号を前記海底局のそれぞれに一斉に送信し、前記海底局において、前記音響信号をそれぞれ受信するとともに、それぞれの海底局によって異なるIDコードおよび測距信号(S1、M)、(S2、M)、(S3、M)、(S4、M)、・・・を付け、それぞれに対して所定の時間差を持って第1回目の送信を行うとともに、前記IDコードおよび測距信号(S4、M)、(S3、M)、(S2、M)、(S1、M)、・・・のそれぞれを海底局から時間差を持って2回目の送信を行い、前記第1回目および第2回目の送信順序を逆転させ、それぞれの送信に要するトータル時間が平均化されてほぼ同じになるようして、それぞれの海底局から送信し、データ処理装置により、前記受信した第1回目および第2回目の受信信号と、GPSからの位置信号を基にして、前記海底局の位置を決める演算を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、船上局からのIDコードおよび測距信号は、それぞれの海底局に一斉に送信されると同時に、一斉に返信信号として返信されるため、短時間で、多くの観測点から地殻変動を知るための正確なデータを得ることができる。船上局が各観測点の中心に存在する場合であっても、FFT(高速フーリエ変換)を使用することにより、地殻変動を十分に解析することができる。
【0015】
本発明によれば、船上局からのIDコードおよび測距信号は、一斉に海底局に送信された後、前記海底局からの返信信号をそれぞれの時間差を持たせて2回に分けて前記船上局で受信することができるため、前記船上局が複数の海底局の中心位置にあるにもかかわらず、多くの観測点から地殻変動を知るためのデータをより正確に得ることができる。また、前記2回に分けて送る海底局からの返信信号は、それぞれ遅延時間が平均化するようにしている。
【0016】
本発明によれば、IDコード(B系列コード)および測距信号(M系列コード)は、ビット間で出力が停止されている時間を設けたため、波形の歪みによる影響を受け難く、ビット間の区別が明りょうになり、IDコードおよび測距信号として、良質なデータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の第1実施例で、同じIDコードを付けた測距信号を一斉に海底局に送信する例を説明するための概略図である。
図2図2は本発明の第1実施例で、それぞれの海底局に異なるIDコードを付けた測距信号を船上局に一斉に返信する例を説明するための概略図である。
図3図3は本発明の第2実施例で、海上局から送信した測距信号を船上局で2回に分けて受信する例を説明するための図である。
図4図4は本発明の第3実施例で、ビットの発信区間と発信区間との間に休止区間を入れた例を説明するための図である。
図5図5は本発明の第3実施例において、実際に出る波形の例を説明するための図である。
図6図6は従来例で、決められたIDコードと測距信号をそれぞれの海上局に対して時間差を持って送受信する例を説明するための概略図である。
図7図7は従来例で、図6の例を時系列的に示した概略図である。
図8図8は従来例で、ビット信号の位相反転区間における歪み状態を説明するための図で、(イ)は1ビットが4波からなっている例で、(ロ)は位相が変わる場合の状態を説明するための図、(ハ)は位相反転区間における歪みを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水中音響測位システムは、船上局の音響トランスデューサから発振された音響信号を海底局で受信した後、前記音響信号を前記海底局から前記船上局にほぼ一斉に返信する。前記返信された音響信号は、たとえば、前記船上局に設けられているGPSによって、前記海底局の正しい位置を算出する。なお、前記GPSは、陸上におけるGPS観測データを基準としている。前記算出された結果は、前記海底局の位置がどの様に変化したかを地上で判断することができるものである。
【0019】
本発明の水中音響測位システムは、前記GPSを備えている船上局から海底に設置された複数の海底局に向かって、前記音響トランスデューサから一斉に音響信号(IDコードS0、測距信号M)を送信する。その後、前記音響トランスデューサからの音響信号を受信した海底局は、船上局に向かってそれぞれ返信信号(IDコードS1、S2、S3、S4、・・・、および測距信号M)を送る。前記船上局で受信した各海底局の音響信号は、それぞれ収集され、データ処理装置により処理することにより、前記海底局の位置情報を正確に得ることができる。本発明の水中音響測位システムは、一回の呼び出しで測定結果がほぼ一斉に戻って来るため、海水温度および塩分濃度の変化等に左右されことが少なく、正確で、しかもデータの収集効率が良い。
【0020】
前記音響信号は、それぞれの海底局に付けられたIDコード(B系列コード)と、前記船上局と海底局の位置を決めるための測距信号(M系列コード)とからなる。船上局送信部は、前記IDコード(B系列コード)および測距信号(M系列コード)からなる音響信号を前記海底局のそれぞれに一斉に送信する。前記音響信号は、前記海底局送受信部でそれぞれ受信される。前記海底局送受信部は、前記それぞれの位置により返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)を前記船上局に向けて送信する。
【0021】
船上局受信部は、前記海底局送受信部からそれぞれ送られて来た返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)を受信する。前記船上局受信部は、前記返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)、およびGPSからの位置信号をデータとして記憶する。前記返信信号は、前記船上局受信部において、前記それぞれの海底局の位置により時間差をもって受信されるため、前記それぞれの海底局の位置を確定することができる。前記データは、船上局において、またはデータとして地上に持ち帰り、データ処理装置によって、前記海底局の位置を決める演算を行う。第1発明の水中音響測位システムは、一斉に音響信号を送り、ほぼ一斉に返信されたデータを処理するため、海水温度および塩分濃度の変化等が少ない短時間に効率的にデータを多く収集することができる。なお、一般的に、船上局送信部と船上局受信部とは、船上局に設けられた一体の送受信装置であり、説明の都合上別々にして記載している。
【0022】
本発明の前記IDコード(B系列コード−256bit )および測距信号(M系列コード−512bit )は、予め決められた異なるビット数から構成されているため、船上局で受信したIDコードおよび測距信号が混信することなく、正確なデータを数多く得ることができる。また、本発明の水中音響測位システムは、音響信号の伝播速度が遅い(海中で、1500m/sec )にもかかわらず、信号の送信から受信までに入る雑音を少なくすることができる。
【0023】
(第発明)
発明の水中音響測位システムは、GPSを備えている船上局と、海底に設置された複数の海底局との間で行う際の送受信を2回に分けるとともに、それぞれに時間差を持たせて複数の海上局から船上局に送信している。第発明における第1回目のデータと第2回目のデータは、海底局から送信されるデータの遅延時間がトータルで同じ時間になるようにしているため、それぞれのデータの誤差を少なくすることができる。また、第発明は、データに誤差が少ないため、データ解析において、たとえ、複数の海底局の中心上に船上局が存在していたとしても、より正確なデータを得ることができる。
【0024】
船上局の送信部は、前記音響トランスデューサから一斉に音響信号(IDコードS0、測距信号M)を送信する。前記それぞれの海底局は、返信信号として、所定の時間差をもって送信される(S1、M)、(S2、M)、(S3、M)、(S4、M)、・・・。次に、それぞれの海底局は、返信信号として、所定の時間差を持って送信される(S4、M)、(S3、M)、(S2、M)、(S1、M)・・・。2回に分け、それぞれ時間差を持たせ海底局のデータは、よ正確なデータを得ることができた。特に、海底局の中心に船上局がある場合、有利である。前記時間差は、任意に設定できるものである。
【0025】
(第発明)
発明の水中音響測位システムは、第1発明において、優れたデータを得るためのものである。音響信号は、機械的振動であるため、振動が0になるまでに時間がかかる。前記機械的振動は、連続した振動と振動の間、および位相の異なる振動に変わる時期を検出することが困難な場合がある。そこで、第発明は、ビットが「0」から「1」、あるいは「1」から「0」に変わる場合、および同じビットが「0」、「0」、「0」・・・、「1」、「1」、「1」、・・・、と連続する場合において、各ビットの間で出力が停止する時間を設けている。前記各ビットの停止時間は、ビットとビットの境が明りょうに識別できるため、正確なデータとすることができる。なお、前記ビットを形成する波の数は、2波から4波、あるいはそれ以上とすることも可能である。
【0026】
(第発明)
発明の水中音響測位方法は、海底局で受信した音響信号を2回に分けて送信している。第1回目の送信信号は、m1からm4の海底局に予め決められた時間差を持たせている。次ぎに、第2回目の送信信号は、m4からm1の海底局に所定の時間差をもたせて逆に返信される。第1回目と第2回目の送信信号は、それぞれの海底局からの船上局への遅延時間が平均化されているため、全体の誤差を少なくすることができる。
【実施例】
【0027】
図1は本発明の第1実施例で、同じIDコードを付けた測距信号を一斉に海底局に送信する例を説明するための概略図である。図2は本発明の第1実施例で、それぞれの海底局から異なるIDコードを付けた測距信号を船上局に一斉に返信する例を説明するための概略図である。図1および図2において、水中音響測位システムは、GPSを備えている船上局11の船底にトランスジューサ111が設けられており、海底に複数の海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)が敷設されている。船上局11は、少なくとも船の位置を正確に知るためのGPSと前記海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)に向かって信号を受信するトランスジューサ111を備えている。前記船上局11は、トランスジューサ111から発振された音響信号を海底局12に送信した後、前記音響信号を前記海底局12から前記船上局11で受信するシステムとなっている。
【0028】
前記海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)から前記返信された音響信号は、前記音響トランスデューサ111によって受信された後、前記船上局11に設けられているGPSによって、前記海底局12の位置を算出する。なお、前記GPSは、陸上におけるGPS観測データを基準としているものとする。前記観測は、たとえば、数カ月置きに行うことにより、前記海底局12の位置がどの様に変化したかを判断することができるものである。
【0029】
本実施例の水中音響測位システムは、前記GPSを備えている船上局11から海底に設置された複数の海底局12に向かって、前記音響トランスデューサ111から一斉に音響信号(IDコードS0および測距信号M)を送信する。その後、前記トランスデューサ111からの前記音響信号を受信した海底局12は、船上局11に向かってほぼ一斉に応答データを送る。前記船上局11で受信した各海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)の音響信号(S1、S2、S3、S4、・・・およびM)は、それぞれの位置(距離)により少し違う時間差をもってそれぞれ収集される。前記各データは、図示されていないデータ処理装置により処理することにより、前記海底局12の位置情報を正確に得ることができる。本実施例の水中音響測位システムは、船上局11からの一回の呼び出しで、各海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)から測定結果がほぼ一斉に戻って来るため、海水温度、塩分濃度等の条件が時々刻々と変わる前の正確なデータを効率良く得ることができる。
【0030】
前記音響信号は、それぞれの海底局12に付けられたIDコード(B系列コード)と、前記船上局11と海底局12の位置を決めるための測距信号(M系列コード)とからなる。船上局11の送信部は、前記IDコード(B系列コード)および測距信号(M系列コード)からなる音響信号を前記海底局12のそれぞれに一斉に送信する。前記音響信号は、前記海底局送受信部(図示されていない)でそれぞれ受信される。前記海底局送受信部は、前記それぞれの位置により返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)を送信する。
【0031】
前記B系列コードおよびM系列コードは、人工的な規則に基づいて生成された疑似ランダム信号である。これらの信号は、自己相関値が鋭いピークを示すと同時に自分以外との相関値が極めて低いという性質を持っている。そのため、前記信号は、周辺雑音等により受信信号が不明瞭な場合であっても、相関処理により伝搬時間を判別することができるという利点を有している。
【0032】
前記船上局11の受信部(図示されていない)は、前記海底局12(m1、m2、m3、m4、・・・)の送受信部(図示されていない)からそれぞれ送られて来た返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)を受信する。前記船上局11の受信部は、前記返信信号(S1、S2、S3、S4、・・・、およびM)、およびGPSからの位置信号をデータとして記憶する。前記データは、船上局11において、またはデータとして地上に持ち帰り、データ処理装置(図示されていない)によって、前記海底局12の位置を決めるための演算処理が行われる。第1実施例の水中音響測位システムは、一斉に音響信号を送り、ほぼ一斉に返信されたデータを処理するため、海水温度、塩分濃度が変化しない短時間に効率的で、正確なデータを多く収集することができる。なお、一般的に、本実施例の船上局における送信部と、船上局における受信部とは、船上局に設けられた一体の送受信装置であり、説明の都合上別々にして記載している。
【0033】
本実施例におけるIDコード(S0、B系列コード−256bit )および測距信号(M、M系列コード−512bit )は、予め決められた異なる系列およびビット数から構成されているため、船上局11で受信したIDコードおよび測距信号が混信することなく、正確なデータを数多く得ることができる。また、本実施例の水中音響測位システムは、音響信号の海中での伝播速度が遅い(海中で、1500m/sec )にもかかわらず、信号の送信から受信までに入る雑音を少なくすることができる。
【0034】
図3は本発明の第2実施例で、海上局から送信した測距信号を船上局で2回に分けて受信する例を説明するための図である。第2実施例の海底局12は、船上局11の水中音響測位システムから一斉に送信され音響信号(IDコードS0および測距信号M)を受信する。前記音響信号(IDコードS0および測距信号M)をそれぞれ受信した海底局12は、第1回目の送信信号として、時間差を持った音響信号(S1、M)、(S2、M)、(S3、M)、(S4、M)が返信される。次に、前記それぞれの海底局12は、第2回目の送信信号として、時間差を持った音響信号(S4、M)、(S3、M)、(S2、M)、(S1、M)が返信される。
【0035】
前記例の音響信号(S1、M)および(S4、M)、(S2、M)および(S3、M)、(S3、M)および(S2、M)、(S4、M)および(S1、M)は、トータルでクロック時間の遅延時間が平均化されるため、測定誤差を少なくすることができ、第1回目と第2回目に分けることにより、第1発明より正確なデータを得ることができる。特に、海底局の中心に船上局がある場合、有利である。なお、前記時間差は、任意に設定できるものである。
【0036】
図4は本発明の第3実施例で、ビットの発信区間と発信区間との間に休止区間を入れた例を説明するための図である。図5は本発明の第3実施例において、実際に出る波形の例を説明するための図である。図4(イ)において、「1」ビットと「0」ビットの間で、位相が変わる部分において、従来は、音響装置の歪みにより図4(イ)の下のように明りょうに区別できない場合があった。しかし、図4(ロ)に示すように波形の休止期間を設けることにより、図4(ハ)に示すように、位相反転区間で、多少の歪みがあったも、波形を区別することが容易になる。
【0037】
図5(イ)は、同じビットが「0」、「0」、「0」・・・、あるいは「1」、「1」、「1」、・・・、と連続している場合である。前記のような場合、本発明は、ビット間で出力が停止する時間を設けている。前記各ビットの停止時間は、図5(ロ)に示すように、ビットとビットの境が明りょうに識別できるため、正確なデータとすることができる。音響信号は、機械的振動であるため、振動が0になるまでに時間がかかるが、ビットが「0」から「1」、「1」から「0」、「1」の連続、および「0」の連続のような場合であっても、出力が休止する区間をも受けることで、明りょうに識別することができる。なお、図4および図5において、1ビットを4波の例を示しているが、波の数に関係することがなく、2波ない4波以上とすることができる。
【0038】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。本発明の船上局および海底局、送受信装置、あるいはデータ処理装置等は、公知の通信工学および音響工学技術から構成されるもので、特許請求の範囲を逸脱しないがぎり変形することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
11・・・船上局
111・・・トランスジューサ
12・・・海上局
図1
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