(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記音波入力部が入力した音波を示す時間領域の信号を周波数領域に変換して、前記音波の周波数毎の音圧及び前記音圧の時間微分及び前記音圧の空間微分を取得する音波信号処理部を更に備え、
前記共分散処理部は、前記周波数毎の音圧及び前記音圧の時間微分及び前記音圧の空間微分に基づいて、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを計算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の他移動体位置検出装置。
前記対象パラメータ算出部は、前記第1パラメータを算出する前記音波より前の時間に入力された前記音波により算出された第2パラメータを用いて前記第3パラメータを算出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の他移動体位置検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の実施の形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、例えば、車両等の移動体(自移動体)に搭載され、移動体の周囲に存在する対象から発生する対象(他移動体)発生音に基づいて、対象の相対位置を検出する。検出される対象は移動体であり、例えば、移動体に接近する車両等である。
【0011】
第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、
図1に示すように、周囲の音波を入力し、入力した音波を離散信号に変換して出力する音波入力部10と、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置が行う種々の演算を処理する処理部20と、プログラムファイル等を含む種々のデータを記憶する記憶部30と、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置が搭載される移動体の状態(走行状態)を検出する走行状態検出部40とを備える。
【0012】
音波入力部10は、
図2に示すように、音波を検出するセンサ部11-1,11-n(n:正の整数)と、センサ部11-1,11-nが検出した音波を示す信号を増幅する増幅器12と、増幅器12が増幅した信号をA/D変換して離散化するAD変換器13とを備える。センサ部11-1,11-nは、例えば、マイクロフォン、ハイドロフォン等の音響デバイスから構成される。センサ部11-1,11-nは、
図3に示すように、検出する音波の音圧の勾配(音圧の空間微分)を得るため、複数設けられる。
図3に示すように音源の方向を示す方位角θを考えると、方位角θは、θ=sin
−1(n
x)と表すことができる。信号処理により音圧の勾配を得ることができれば、センサ部11-1,11-nの数は、複数である必要はなく、単数であって構わない。
【0013】
音波入力部10が入力する音波は、定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む。音波入力部10は、入力した音波を示す電気信号である音波信号を処理部20に出力する。
【0014】
処理部20は、音波入力部10から出力された音波信号を処理する音波信号処理部21と、音波信号処理部21により処理された音波信号に基づいて、音波入力部10が入力した音波が定常状態であるか否かを判定する定常判定部22と、音波入力部10が入力した音波の音圧、音圧の時間微分、音圧の空間微分に基づく共分散行列の要素を、定常判定部22が定常状態でないと判定した音波について第1パラメータ、定常判定部22が定常状態であると判定した音波について第2パラメータとして計算する共分散処理部23と、第1パラメータから第2パラメータを減算することで、対象発生音の音圧、音圧の時間微分、音圧の空間微分に基づく共分散行列の要素を第3パラメータとして計算する対象パラメータ算出部24と、第3パラメータから対象の方向を検出する方向検出部25と、記憶処理部26と、読出処理部27を備える。処理部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の演算処理装置からなる。
【0015】
共分散処理部23が算出する第1パラメータは、移動体自身から発生する音等の定常的な雑音と、非定常的な対象発生音とを含む音波に基づくパラメータとなる。第2パラメータは、移動体自身から発生する音等の定常的な雑音に基づくパラメータとなる。
【0016】
記憶部30は、共分散処理部23が計算した第2パラメータを記憶する共分散行列記憶部31と、移動体が車両の場合におけるタイヤの情報等、移動体に関する情報を記憶する移動体情報記憶部32と、地図上の現在位置に応じた環境を記憶する地図情報記憶部33とを備える。記憶部30は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク装置等の記憶装置から構成される。
【0017】
走行状態検出部40は、移動体の移動状態を検出する移動状態検出部41と、移動体の周囲の環境を検出する移動環境検出部42と、移動体の位置を検出する位置検出部43とを備える。移動状態検出部41は、例えば、CAN(Controller Area Network)等に接続され、例えば移動体が自動車の場合、速度、エンジンの回転数、ギヤ比等、移動体の移動状態を示す情報を検出する。移動環境検出部42は、移動体の周囲にある壁、高架等、環境を示す情報を検出する。位置検出部43は、例えば全地球測位システム(GPS)受信器等から構成される。移動環境検出部42は、例えば、位置検出部32が検出した移動体の現在位置情報を用いて、地図情報記憶部33を参照することにより、移動体の周囲の環境に関する情報を検出する。
【0018】
処理部20の記憶処理部26は、共分散処理部23が計算した第2パラメータを共分散行列記憶部31に記憶させる。共分散記憶部31が記憶する第2パラメータは、移動体の移動中に随時計算、記憶されるようにしても良く、予め、移動体の状態に応じた複数の種類の第2パラメータを記憶するようにしても良い。読出処理部27は、共分散行列記憶部31に記憶された第2パラメータを読み出す。対象パラメータ算出部24は、読出処理部27が共分散行列記憶部31から読み出した第2パラメータを用いて第3パラメータを計算する。
【0019】
図1に示す処理部20、記憶部30、走行状態検出部40は、それぞれ論理構造としての表示であり、処理部20、記憶部30、走行状態検出部40それぞれを構成する各部は、同一のハードウェアである演算処理装置により構成されて良く、別個のハードウェアにより構成されても構わない。
【0020】
<時空間勾配法の原理>
音圧をf(t)、音圧の時間微分をf
t(t)とすると、音圧の空間微分f
x(t),f
y(t),f
z(t)は、以下の式(1)〜(3)のように表される。
【0022】
n
x,n
y,n
zは、観測点となるセンサ部11の中心から音源となる対象方向の単位ベクトルの要素である。Rは観測点から音源までの距離、Cは温度の関数である音速を示す。式(1)〜式(3)は、音源が1つの点音源であれば、音圧と、音圧の時間微分及び音圧の空間微分とは、従属関係にある。以下、式(1)〜式(3)を「波源拘束偏微分方程式」という。
【0023】
観測点の任意の時間における音圧、音圧の時間微分、音圧の空間微分を取得し、波源拘束偏微分方程式を適用することで、音源となる対象の位置を算出することができる。例えば、入力された時間領域の音波信号を、適当な時間間隔の窓関数を適用してフレームに分解する。その後、短時間フーリエ変換によって、周波数領域に変換した音波信号を用いて、音源の方向を推定する。
【0024】
任意の周波数における音圧をF(ω)、音圧の時間微分をF
t(ω)とすると、音圧の空間微分F
x(ω),F
y(ω),F
z(ω)は、以下の式(4)〜式(6)のように表される。
【0026】
式(4)〜式(6)について、方向毎に独立して最小二乗法を適用することで、ベクトルの3軸方向の要素を得ることができる。ここで、対象の水平面の位置を除外すれば、ベクトルnの要素であるn
x,n
y,n
xのいずれか1つが求まればよい。
以下、n
xの解法を例として説明する。式(4)を変形して、式(7)の二乗誤差が最小となるようなn
x及び距離Rを求める。
【0027】
【数7】
式(8)〜式(13)のようにS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtを定める。
【0028】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
このとき、ベクトルnの要素、及び距離Rは、式(14)、式(15)から求めることができる。
【0030】
なお、式(8)〜式(13)は、短時間フーリエ変換によって、得られたすべての周波数帯域について総和を計算しており、任意の時間区間に対し唯一の方向推定結果を計算している。式(14)、式(15)の結果は、式(8)〜式(13)を総和でなく周波数毎に計算することで、周波数毎に方位推定結果を得ることも可能である。
【0031】
<他移動体位置検出装置の基本原理>
以下、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置の基本原理を説明する。第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、短時間フレームについて時空間勾配法の処理を行う過程で、加法性の雑音を取り除くアルゴリズムを用いる。
式(7)について、窓関数を用いた短時間フーリエ変換の時間周波数フレームについて計算した結果は、式(16)のように表すことができる。
【0033】
式(16)は、周波数ωの関数であるだけでなく積分を行う時間区間にも依存する。すなわち、波源拘束偏微分方程式の時間周波数領域での表現と見ることができる。同様に、式(8)〜式(13)によって計算されるパラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtは、任意の区間に設定されたフレームτについて、式(17)〜式(22)のように表すことができる。
【0034】
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【0035】
このとき、和は近接した局所的な時間周波数領域内でとられるものとする。パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtは、周波数毎(即ちフーリエ変換に用いるFFT長の半分の周波数ビン毎)に求めることができる。また、パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtは、更に短く分割した時間を設定し、短時間フレーム毎に求めても良く、また、短時間フレームの時間周波数全体に対して1つの値を平均値として計算しても良い。
ここで、音圧、音圧の時間微分、音圧の空間微分は、以下のようなベクトルで表現することができる。
【0037】
式(23)を用いると、時空間勾配に関するパラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtは、式(24)のように、共分散行列の各要素として表すことができる。
【0039】
なお、文字右上の添え字に関して、hはエルミート転置、*は共役転置であることを示している。パラメータの上に「〜」が付いているものは複素数、付いていないものはパラメータ中の複素共役積の実数部だけを用いる。
【0040】
移動体に接近する対象から発生する波動(音波)を検出するとき、対象から輻射される音波と、自移動体等から発生する定常的な音波とが加算された信号として検出される。このとき検出される信号は、対象から到来する音圧成分F(τ,ω)と雑音成分U(τ,ω)とが加算された信号となっている。このときの短時間相関は、式(25)のように表すことができる。
【0041】
【数25】
ここで、音圧成分と雑音成分が無相関であれば、十分な時間周波数局所領域を選んで和をとることにより、式(26)のように見なすことができる。
【0042】
【数26】
よって、式(25)は、式(27)の用に表すことができる。
【0044】
同様に他の時空間勾配に関するパラメータの結果を示すと、対象からの信号と雑音信号との相関項は、すべて近似的に0に見なせることから、式(28)〜式(32)を得る。
【0045】
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【0046】
第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、式(27)〜式(32)に示すパラメータを第1パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtとして用いる。第1パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtは、時空間勾配共分散領域において、対象から発生する音波に基づく信号と定常的な雑音に基づく信号とが加法的に重畳していることを意味する。
【0047】
定常的な雑音の第2パラメータを既知と仮定すると、第2パラメータN,N
tt,N
xx,N
t,N
x,N
xtは、式(33)〜式(38)のように表すことができる。
【0048】
【数33】
【数34】
【数35】
【数36】
【数37】
【数38】
このとき、共分散領域での演算操作は、式(39)〜式(44)のように表すことができる。
【0049】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【数44】
式(39)〜式(44)は、雑音を除外した第3パラメータが推定できることを意味している。
【0050】
雑音が定常的であれば、雑音信号に基づく第2パラメータは、ほぼ一定の値をとると考えられるので、予め移動状態毎に雑音信号を推定しておくことにより、位置が時間により変化する音源に対して、時間区間毎に得られる共分散行列から、音源の方向、距離を検出することができる。或いは、第1パラメータを計算するフレームτより1つ前のフレームτ−1で、かつ、主として雑音だけが観測できる時間において計算された第2パラメータを用いて第3パラメータを算出するようにしても良い。
【0051】
第1の実施の形態に係る他移動体位置検出方法の基本原理となるこれら一連の雑音成分除去のアルゴリズムを共分散サブトラクション法と呼ぶ。この手法においては、雑音信号は定常的でさえあれば良く、必ずしも波源拘束偏微分方程式を満たす必要はない。即ち、拡散雑音や大面積領域から生じるような点音源でない雑音に対しても有効な場合がある。
【0052】
<他移動体位置検出方法>
図4のフローチャートを用いて、本発明の第1の実施の形態に係る他移動体位置検出方法の一例について説明する。
【0053】
先ず、ステップS10において、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は初期化され、ステップS20において、音波信号処理部21は、音波入力部10が入力した音波を離散的な音波信号として音波入力部10から入力し、信号処理する。
【0054】
ステップS20における信号処理として、音波信号処理部21は、例えば、
図5のステップS110-1,S110-nに示すように、音波入力部10が備えるセンサ部11-1,11-nにおいてそれぞれ検出された音波について信号処理を行う。音波信号処理部21は、例えば、音波信号にハン窓等の窓関数を適用することにより短時間毎に分解したフレームに対し、短時間フーリエ変換を行い、フレーム毎に周波数領域の信号(全体として時間周波数領域の信号)に変換する。
【0055】
次に、
図4のステップS311において、定常判定部22は、音波入力部10が入力した音波が定常状態か否かを判定する。定常判定部22は、例えば、音波入力部10が入力する音波の音圧、音圧の勾配、周波数毎の音圧、周波数勾配等を取得し、それらの分散に対して所定の閾値を設定することにより定常性を測定し、定常状態か否かを判定するようにすればよい。
【0056】
また、定常判定部22は、方向検出部25による方向検出結果の分散の大きさに対して所定の閾値を設定することで接近車の有無を推定し、定常状態か否かを判定するようにしても良い。或いは、方向検出結果の加算平均に対して閾値を設定し、定常状態か否かを判定するようにしても良い。
【0057】
ステップS311において定常判定部22が定常状態であると判定する場合、ステップS312において、共分散処理部23は、式(33)〜式(38)に示すように、定常的な雑音に基づく第2パラメータN,N
tt,N
xx,N
t,N
x,N
xtを計算する。
【0058】
ステップS313において、記憶処理部26は、共分散処理部23が計算した第2パラメータを共分散行列記憶部31に記憶させる。記憶処理部26は、例えば、演算する1つ前のフレームから計算した第2パラメータを保存する。
【0059】
また、記憶処理部26は、信号が定常的な雑音である(周囲に接近する対象がない)時間フレームτを用いて計算した第2パラメータを保存するようにしても良い。その他、記憶処理部26は、速度、ギヤ比、タイヤ情報、移動環境等の移動体の状態に対応する雑音のパターンすべてに対応して第2パラメータを保存しておくようにしても良い。或いは、地図情報として、予め壁、高架等の位置を地図情報記憶部33に記憶しておき、記憶された壁にあった環境で測定した自車走行雑音及び反射音を含む雑音信号を元に計算された第2パラメータを保存しておくようにしても良い。このとき、ラベルとしてGPS等により一意に定まる地図位置を用いることが有効である。
【0060】
ステップS311において定常判定部22が定常状態でないと判定する場合、ステップS314において、共分散処理部23は、式(27)〜式(32)に示すように、定常的な雑音と、非定常的な対象発生音とからなる音波に基づく第1パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtを計算する。
【0061】
共分散処理部23による第1パラメータ及び第2パラメータの算出は、
図5のステップS120に示すように、音波信号処理部21により処理された音波信号から、音圧(ステップS121)、音圧の時間微分(ステップS122)、音圧の空間微分(ステップS123)を算出してから行われる。
【0062】
次に、
図4のステップS315において、読出処理部27は、共分散行列記憶部31から、第2パラメータを読み出す。
【0063】
また、読出処理部27は、走行状態検出部40が検出した移動体の状態に応じて共分散行列記憶部31に記憶された第2パラメータを読み出すようにしても良い。
【0064】
次に、ステップS40において、対象パラメータ算出部24は、共分散処理部23が計算した第1及び第2パラメータから、式(39)〜式(44)に示すように、対象発生音に基づく第3パラメータS
C,S
Ctt,S
Cxx,S
Ct,S
Cx,S
Cxtを計算する。
【0065】
次に、ステップS50において、方向検出部25は、対象パラメータ算出部24が算出した第3パラメータを、式(14)、式(15)に代入して算出ことにより、対象の方向と対象までの距離が検出される。
【0066】
<方向検出結果検証>
他移動体位置検出装置が搭載されたデモンストレーション車の公道走行中に測定したデータに対して、上述の共分散サブトラクション法を適用した。センサ部となるマイクロフォンの間隔は2cmである。サンプリング周波数は、44.1kHz、フーリエ変換のフレーム長は48点、フレームシフトは24点とし、共分散行列に関するパラメータ(第1パラメータ及び第3パラメータ)は、隣接する50フレームについて平均して求めた。また、車内から同時にビデオカメラで周囲を撮影することにより、収録時の他の走行車の環境を確認した。
【0067】
図6〜
図11は、それぞれ、2〜7kHz周波数毎の、通常の時空間勾配法を適用した場合の方向検出結果を示す。
図12〜
図17は、共分散サブトラクション法による処理を追加した場合の方向検出結果を示す。縦軸のn
xは、音源方向の単位ベクトルのx成分を示し、1が後方、−1が前方を示す。横軸はデータを測定した時間を示す。プロットの後方から前方への推移は、隣接車線を他の車が追い越していったことを表している。
【0068】
図6〜
図11と、
図12〜
図17とを比較すると、時空間勾配法を用いた測定結果によれば、25−28秒付近に、n
x=0のあたりにプロットが集中している。これらの表示は、周囲に車両が存在しなかったことから自車の雑音の影響と考えられる。一方、共分散サブトラクション法を用いた推定結果によれば、同じ時間帯の方位推定結果の分散が大きく雑音の影響が除去されていることが分かる。このことから、共分散サブトラクション法により自車ノイズのような加法性の定常的な雑音の影響が低減されていることが明らかになった。
【0069】
このように、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出方法位置検出方法は、方向検出結果の分散の大きさを観測し、分散が所定の閾値より大きければ周囲に車両が存在しないと見なす、周囲の接近する対象の存在判定に利用できる。よって、定常判定部22による定常状態か否かの判定に方向検出部25による方向検出結果を用いても良い。
【0070】
また、方向検出可能な角度(単位ベクトルの要素)の範囲についても、時空間勾配法のみを用いた検出結果より、共分散サブトラクション法を用いた検出結果の方が広い範囲であることが分かる。よって、共分散サブトラクション法を用いることにより、加法性雑音の影響が低減され、検出のダイナミックレンジが向上し、結果として方向検出可能な角度が増大することが分かる。
【0071】
第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、加法性雑音を共分散行列の領域において減算することにより、雑音の影響を低減して対象の位置を高精度に検出できる。
【0072】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、走行状態検出部40を備えることにより、移動体の状態に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0073】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、移動状態検出部41を備えることにより、移動体の移動有情体に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0074】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、移動環境検出部42を備えることにより、移動体の周囲の環境に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0075】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、位置検出部43を備えることにより、移動体の位置に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0076】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、音波信号処理部21が音波信号を周波数領域に変換することにより、音波信号の信号処理の方法を変更することができる。
【0077】
また、第1の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、第1パラメータの算出に用いられた音波信号より前の時間に入力された音波信号により算出された第2パラメータを用いて第3パラメータを算出することにより、予め記憶された第2パラメータを用いて第3パラメータを算出することができる。
【0078】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、
図18に示すように、記憶部30が音波信号記憶部34を備え、記憶処理部26及び読出処理部27が、音波信号記憶部34に対する動作を行う点で、第1の実施の形態と異なる。第2の実施の形態において説明しない他の構成は、第1の実施の形態と実質的に同様であるので重複する説明を省略する。
【0079】
第1の実施の形態では、共分散処理部23により計算された第2パラメータを記憶処理部26が共分散行列記憶部31に記憶させ、第3パラメータ算出の為、読出処理部27が共分散行列記憶部31から第2パラメータを読み出す場合について説明した。以下、
図19のフローチャートを用いて、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出方法として、記憶処理部26が、定常的な雑音に基づく音波信号を音波信号記憶部34に対して記憶させ、読出処理部27が音波信号記憶部34から音波信号を読み出した後、共分散処理部23が第1及び第2パラメータを計算する場合について説明する。
図19に示すステップS32以外の処理は、
図4に示すステップS31以外の処理と実質的に同様であるので、重複する説明を省略する。
【0080】
ステップS321において、定常判定部22は、音波入力部10が入力した音波が定常状態か否かを判定する。定常判定部22は、例えば、音波入力部10が入力する音波の音圧、音圧の勾配、周波数毎の音圧、周波数勾配等を取得し、それらの分散に対して所定の閾値を設定することにより定常性を測定し、定常状態か否かを判定するようにすればよい。
【0081】
また、方向検出部25による方向検出結果の分散の大きさに対して所定の閾値を設定することで接近車の有無を推定するようにしても良い。或いは、方向検出結果の加算平均を取るようにしても良い。
【0082】
ステップS321において定常判定部22が定常状態であると判定する場合、ステップS322において、記憶処理部26は、定常状態であると判定されたフレームの音波信号を音波信号記憶部34に記憶させる。
【0083】
また、記憶処理部26は、定常状態であると判定されたフレームの1つ前のフレームの音波信号を記憶させるようにしても良い。その他、記憶処理部26は、速度、ギヤ比、タイヤ情報、移動環境等の移動体の状態に対応する雑音のパターンすべてに対応した種類の音波信号を保存しておくようにしても良い。或いは、地図情報として、予め壁、高架等の位置を地図情報記憶部33に記憶しておき、記憶された壁にあった環境で測定した自車走行雑音及び反射音を示す音波信号を記憶しておくようにしても良い。このとき、ラベルとしてGPS等により一意に定まる地図位置を用いることが有効である。
【0084】
ステップS321において定常判定部22が定常状態でないと判定する場合、ステップS323において、読出処理部27は、音波信号記憶部34から音波信号を読み出す。読出処理部27は、走行状態検出部40が検出した移動体の状態に応じて音波信号記憶部34に記憶された音波信号を読み出すようにしても良い。
【0085】
ステップS324において、共分散処理部23は、定常的な雑音と、非定常的な対象発生音とからなる音波に基づく第1パラメータS,S
tt,S
xx,S
t,S
x,S
xtと計算する。また、共分散処理部23は、ステップS323において読出処理部27が読み出した音波信号に基づいて、第2パラメータN,N
tt,N
xx,N
t,N
x,N
xtを計算する。
【0086】
第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置は、加法性雑音を共分散行列の領域において減算することにより、雑音の影響を低減して対象の位置を高精度に検出できる。
【0087】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、走行状態検出部40を備えることにより、移動体の状態に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0088】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、移動状態検出部41を備えることにより、移動体の移動有情体に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0089】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、移動環境検出部42を備えることにより、移動体の周囲の環境に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0090】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、位置検出部43を備えることにより、移動体の位置に応じて適切に雑音の影響を低減できる。
【0091】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、音波信号処理部21が音波信号を周波数領域に変換することにより、音波信号の信号処理の方法を変更することができる。
【0092】
また、第2の実施の形態に係る他移動体位置検出装置によれば、第1パラメータの算出に用いられた音波信号より前の時間に入力された音波信号により算出された第2パラメータを用いて第3パラメータを算出することにより、予め記憶された第2パラメータを用いて第3パラメータを算出することができる。
【0093】
特願2011−248370号(出願日:2011年11月14日)の全内容は、ここに援用される。
【0094】
(その他の実施の形態)
上記のように、第1及び第2の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0095】
既に述べた第1及び第2の実施の形態においては、他移動体位置検出装置が搭載される移動体は、車両に限るものでなく、ヘリコプター、船、潜水艦等にも適用可能である。
【0096】
また、既に述べた第1及び第2の実施の形態においては、共分散行列のパラメータを用いて対称の位置を検出する手法について説明したが、パラメータは、必ずしも行列式を用いて計算される必要はなく、方向検出結果が実質的に等価と見なせる程度に計算の省略等がされて良い。
【0097】
また、既に述べた第1及び第2の実施の形態においては、移動環境検出部42は、方向検出部25の検出結果により、移動体の周囲にある壁、高架等、環境を示す情報を検出するようにしても良い。例えば、移動体の移動方向に平行に壁がある場合、方向検出部25による方向検出結果は、所定の範囲の方向(角度)に定位する。これらのデータを予め移動環境検出部42に設定することにより、方向検出部25による方向検出結果から、移動体の周囲の環境を示す情報を検出することができる。
【0098】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。