(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、
前記酸化塔は酸素キャリアの流れに直列に配置された第1の酸化塔と第2の酸化塔で構成され、前記還元塔内で還元反応を受けた酸素キャリアが前記第1の酸化塔に流入し、前記第1の酸化塔内で酸化反応を受けた酸素キャリアが前記第2の酸化塔に流入し、前記第2の酸化塔内でさらに酸化反応を受けた酸素キャリアが前記還元塔へ流入するようにされており、
前記第1の酸化塔にはそこに存在する酸素キャリアのすべてが酸化するのに必要な酸素量以下の酸素を供給する量の空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が酸化剤として供給され、前記第2の酸化塔にはそこに存在する酸素キャリアのすべてが酸化するのに必要な酸素量以上の酸素を供給する量の空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が酸化剤として供給されるようになっていることを特徴とする窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置。
酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、
前記酸化塔は酸素キャリアの流れに直列に配置された第1の酸化塔と第2の酸化塔で構成され、前記還元塔内で還元反応を受けた酸素キャリアが前記第1の酸化塔に流入し、前記第1の酸化塔内で酸化反応を受けた酸素キャリアが前記第2の酸化塔に流入し、前記第2の酸化塔内でさらに酸化反応を受けた酸素キャリアが前記還元塔へ戻るようにされており、
前記第2の酸化塔にはそこに存在する酸素キャリアのすべてを酸化するのに必要な酸素量以上の酸素を供給する量の空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が酸化剤として供給され、前記第1の酸化塔には前記第2の酸化塔内で酸化反応に寄与した後の排ガスの一部が供給されるようになっていることを特徴とする窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置。
前記還元塔内で還元反応を受けた酸素キャリアの一部が前記第1の酸化塔をバイパスして前記第2の酸化塔に流入することのできる位置に第3の酸化塔がさらに配置されており、前記第3の酸化塔には水蒸気が酸化剤として供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置。
前記第1の酸化塔は酸素キャリアの流れに直列に配置された2個以上に酸化塔によって構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置。
少なくとも前記第1の酸化塔と第2の酸化塔からの排ガスの酸素濃度を測定できる酸素濃度計を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置。
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置を運転して前記第1の酸化塔からの排ガスから高濃度の窒素を取得することを特徴とする窒素製造方法。
請求項3に記載の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置を運転して前記第1の酸化塔からの排ガスから高濃度の窒素を取得し、前記第3の酸化塔からの排ガスから水素を取得することを特徴とする窒素および水素の製造方法。
【背景技術】
【0002】
酸化塔と還元塔を備え、金属粒子が酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置は、非特許文献1に記載のように知られている。また、金属粒子が酸化反応するときに生じる反応熱を収集して工業用に用いることも、特許文献2などに記載されている。
【0003】
ケミカルループ燃焼では、金属が酸化塔と還元塔との間を物理的に循環することにより、酸素を還元剤としての燃料へ供給する。したがって、酸素と燃料は直接的に混じることはない。上記の機能を果たす材料は、酸素キャリアと呼ばれており、本発明において、酸化塔と還元塔との間を物理的に循環して酸素を運搬する材料を「酸素キャリア」といっている。酸素キャリアとしては、[酸化反応を受けた金属/還元反応を受けた金属]の組み合わせとして、NiO/Ni、Fe
2O
3/Fe
3O
4、Mn
3O
4/MnO、等が例示される。
【0004】
ケミカルループ燃焼では、酸化塔内に空気を酸化剤として投入すると、空気中の酸素は酸素キャリアとの酸化反応により消費される(金属をMとすると、例えば4M+2O
2→4MO)ことから、酸化塔からは通常の空気よりもN
2濃度が高くなった排ガスが排出される。酸化塔内に水蒸気を酸化剤として投入すると、水蒸気中の酸素は酸素キャリアとの酸化反応により消費されることから、酸化塔からは、H
2とH
2Oが排ガスとして排出される。また、還元塔内に都市ガスのような燃料を還元剤として投入すると、燃料中の炭化水素は酸化した酸素キャリアを還元するのに消費される(例えば4M+CH
4→4M+CO
2+2H
2O)ことから、高濃度のCO
2とH
2Oが排ガスとして排出される。そして、そのような排ガスからN
2およびCO
2を工業用用途等として回収することも行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケミカルループ式燃焼装置を用いたケミカルループ燃焼において、酸化塔からの排ガスとして高濃度に窒素を含むガスを取り出す(すなわち、排ガス中の残存酸素をほぼゼロにする)ためには、酸化塔内に酸化されていない酸素キャリアが、酸化剤として供給される空気に対して十分な量、存在しなければならない。しかし、酸化塔内に十分に酸化されていない酸素キャリアが多く存在すると、その一部がそのままで還元塔へ投入されることが起こり得る。十分に酸化されていない酸素キャリアが還元塔へ投入されると、次のような問題が発生する。
【0008】
(a)十分に酸化されていない酸素キャリアが、還元塔内で燃料と接触した際に、放出する酸素が殆どないために、酸素キャリアの表面に燃料中の炭素が析出してしまう。炭素が析出した酸素キャリアが酸化塔に流入すると、酸化塔側で二酸化炭素が発生したり、酸素キャリアの活性が低下するといった不都合が生じる。
【0009】
(b)酸素キャリアがFe系粒子の場合、Fe
2O
3→Fe
3O
4→FeO→Feと還元が進みすぎてしまい、結晶構造が大きく変化しすぎて、粒子が微粉化し易くなる。
【0010】
すなわち、1つの酸化塔から高濃度の窒素を含むガスを取り出そうとすると、十分に酸化されていない酸素キャリアが還元塔へ投入されやすくなり、逆に、酸化されていない酸素キャリアが還元塔へ投入されるのを防ごうとすると、排ガス中の窒素濃度が低下する。そのために、ケミカルループ式燃焼装置を実際に稼働させるに当たって、酸化塔から99.5%を超えるような高濃度に窒素を含むガスを連続的に得ることは極めて困難である。
【0011】
本発明は、上記の状に鑑みてなされたものであり、ケミカルループ燃焼を支障なく継続しながら、連続的に99.5%を超えるような高濃度に窒素を含む排ガスを確実に得られるようにした、窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置を提供することを第1の課題とする。また、稼働中に、窒素と同時に水素も得られるようにしたケミカルループ式燃焼装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行うことにより、ケミカルループ式燃焼装置において、酸化塔を2つ直列に配置して、一方の酸化塔からは高濃度に窒素を含むガスを排ガスとして得るようにし、他方の酸化塔では酸素キャリアの酸化反応を十分に行うようにすることで、上記の課題を解決した窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置が得られることを知見して本発明をなすに到った。
【0013】
すなわち、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第1の形態は、酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、前記酸化塔は酸素キャリアの流れに直列に配置された第1の酸化塔と第2の酸化塔で構成され、前記還元塔内で還元反応を受けた酸素キャリアが前記第1の酸化塔に流入し、前記第1の酸化塔内で酸化反応を受けた酸素キャリアが前記第2の酸化塔に流入し、前記第2の酸化塔内でさらに酸化反応を受けた酸素キャリアが前記還元塔へ流入するようにされており、前記第1の酸化塔にはそこに存在する酸素キャリアのすべてが酸化するのに必要な酸素量以下の酸素を供給する量の空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が酸化剤として供給され、前記第2の酸化塔にはそこに存在する酸素キャリアのすべてが酸化するのに必要な酸素量以上の酸素を供給できるだけの空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が酸化剤として供給されるようになっていることを特徴とする。
【0014】
本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置では、還元塔で還元反応を受けた酸素キャリアは、最初に、第1の酸化塔内に流入する。第1の酸化塔には、そこに存在する酸素キャリアのすべてが酸化するのに十分な量の酸化剤は供給されないので、空気または、酸素富化空気、窒素富化空気である酸化剤が、第1の酸化塔に流入し、そこで酸素キャリアの酸化反応に寄与した後、第1の酸化塔から排出されるときは、その排ガスは前記酸化剤から酸素がほぼ除去された大部分が窒素からなる混合ガスとなっている。
【0015】
その際に、第1の酸化塔からは十分に酸化されていない酸素キャリアが流出するが、その酸素キャリアは、還元塔ではなく、第2の酸化塔内に流入し、そこで十分な量の酸化剤による再度の酸化処理を受ける。そして、十分な酸化反応を受けた後の酸素キャリアが還元塔に戻されるので、前記(a)(b)に記載した十分に酸化されていない酸素キャリアが還元塔へ投入されることによる不都合は生じない。
【0016】
したがって、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置では、ケミカルループ燃焼は従来知られたケミカルループ式燃焼装置と同じ程度の効率で行いながら、高い窒素製造効率を上げることが可能となる。
【0017】
本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第2の形態は、上記第1の形態のケミカルループ式燃焼装置において、前記第1の酸化塔には、酸化剤として空気または、酸素富化空気、窒素富化空気が供給されるのではなく、前記第2の酸化塔内で酸化反応に寄与した後の排ガスの一部が供給されるようになっていることを特徴とする。
【0018】
第2の形態の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置において、第2の酸化塔からの排ガス中に含まれる酸素量は、第2の酸化塔内で酸素キャリアの酸化反応に寄与したことにより、第2の酸化塔に供給される空気または、酸素富化空気、窒素富化空気である酸化剤よりも酸素の濃度が薄くなっている。したがって、その酸素の濃度が薄くなった第2の酸化塔からの排ガスの一部を第1の酸化塔に酸化剤として投入することで、第1の酸化塔内では、第1の形態の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置と同様の酸化反応、すなわち酸素不足状態での酸化反応が進行し、第1の酸化塔からの排ガスとして、前記酸化剤から酸素がほぼ除去された大部分が窒素からなる混合ガスを得ることができる。第2の酸化塔からの排ガス中の酸素濃度は、第2の酸化塔内に投入する酸化剤の量を調整することで、適宜設定することができる。
【0019】
なお、第1の酸化塔および第2の酸化塔内に投入する空気または、酸素富化空気、窒素富化空気である酸化剤の適切な量は、例えば、第1の酸化塔および第2の酸化塔に単位時間内で流入する酸素キャリア量を求め、その量の酸素キャリアを酸化するのには不十分な量、あるいは十分量を超える量として、演算により求めることができる。例えば、都市ガス(発熱量45MJ/m
3)を還元剤として1000m
3/hで投入する場合、還元される酸素キャリアをすべて酸化するには、少なくても、約10700m
3/h(1000m
3×都市ガスの理論空気量10.7)の空気が必要である。したがって、窒素ガスを高濃度で取出す酸化塔には、この10700m
3/hの空気に対して、より少ない量の空気を投入することで、還元されている酸素キャリアに対して、酸化する空気量が少なくなり、投入した空気の酸素濃度を低下させることができる。
【0020】
本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の他の態様では、前記還元塔内で還元反応を受けた酸素キャリアの一部が前記第1の酸化塔をバイパスして前記第2の酸化塔に流入することのできる位置に第3の酸化塔がさらに配置されており、前記第3の酸化塔には水蒸気が酸化剤として供給されることを特徴とする。
【0021】
この窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置では、前記第3の酸化塔内に供給された水蒸気は、第3の酸化塔内の酸素キャリアと酸化反応して酸素を失い、排ガスとして水素(と未反応の水蒸気)を排出する。一方、第1の酸化塔からは高濃度に窒素を含む排ガスが発生する。したがって、この態様のケミカルループ式燃焼装置は窒素および水素の製造に適したケミカルループ式燃焼装置となり、この態様のケミカルループ式燃焼装置を用いてケミカル燃焼を継続することにより、アンモニアの合成に必要な原料、すなわち窒素と水素を同時に連続的に入手することが可能となる。入手した窒素と水素を用いて、定法により、アンモニアを合成することができる。第3の酸化塔内に供給する水蒸気は、ケミカルループ式燃焼装置の運転中に発生する水蒸気、または運転中に発生する熱と熱交換して発生した水蒸気を用いることもできる。
【0022】
本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置において、第1の酸化塔と第2の酸化塔はそれぞれ1個であってもよく、第1の酸化塔を酸素キャリアの流れに直列に配置された2個以上に酸化塔によって構成してもよい。
【0023】
上記したいずれの形態の窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置においても、各酸化塔に流入する酸素キャリア量に対して適切な量の酸化剤が供給されているかどうかを装置の運転中に把握できることは、望ましい態様である。そのために、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の好ましい態様では、少なくとも前記第1の酸化塔と第2の酸化塔からの排ガスの酸素濃度を測定できる酸素濃度計を備えることを特徴とする。酸素濃度計の計測値を基礎として、酸化剤の供給量を適切に制御することにより、例えば、窒素を高濃度で取り出す前記第1の酸化塔からの排ガス中の酸素濃度をほぼゼロとし、また、酸素キャリアを十分に酸化させるための前記第2の酸化塔からの排ガス中の酸素濃度が数パーセント以上となるようにして運転することが容易かつ確実にできるようになる。
【0024】
本発明は、さらに、上記したいずれかの窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置を運転して前記第1の酸化塔からの排ガスから高濃度の窒素を取得することを特徴とする窒素製造方法も開示する。また、前記第3の酸化塔を備える窒素および水素製造に適したケミカルループ式燃焼装置を運転して前記第1の酸化塔からの排ガスから高濃度の窒素を取得し、前記第3の酸化塔からの排ガスから水素を取得することを特徴とする窒素および水素の製造方法をも開示する。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、ケミカル燃焼の燃焼効率を低下させることなく、高濃度の窒素を連続的に入手できる窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。
[第1の形態]
図1は、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第1の形態を説明するためのブロック図である。
図1において、太線は酸素キャリア(M)の流れを示しており、細線の矢印は、燃料および空気等の酸化剤の流れを示している。ケミカルループ式燃焼装置A1は、第1の酸化塔10、第2の酸化塔20、および還元塔30を備える。還元塔30は、酸素(O)を伴って流入する酸素キャリアから酸素を奪う場、すなわち酸化した酸素キャリア(MO)に還元作用を施す場であり、還元剤としてのメタン等を含む燃料(都市ガス、LPGガス、副生ガス、石炭、水素等)が流入する。還元塔30内では、例えば、4MO+CH
4→4M+CO
2+2H
2Oの反応が進行し、還元塔30からは、排ガスとして二酸化炭素と水(水蒸気)が排出される。
【0028】
還元された酸素キャリア(M)は、第1の酸化塔10に流入する。第1の酸化塔10には、空気1あるいは酸素富化空気、窒素富化空気等の酸化剤が送り込まれており、流入した酸素キャリア(M)は酸化反応を受けて酸化した酸素キャリア(MO)となる。ただし、第1の酸化塔10には、第1の酸化塔10に流入する酸素キャリア(M)の一部のみが酸素の供与を受けて酸化した酸素キャリア(MO)となるだけ量の空気1等の酸化剤が送り込まれるだけであり、第1の酸化塔10には酸化を受けない酸素キャリア(M)が残存する。送り込まれる空気等の酸化剤の量が少ないことから、第1の酸化塔10に送り込まれた空気1等の酸化剤中の酸素はすべて酸化反応によって消費され、酸化反応後に第1の酸化塔10から排出される排ガスは、空気1等の酸化剤から酸素がほぼ除去された大部分が窒素からなる混合ガスとなっている。排ガスは、酸化反応による発熱より800〜1200℃に昇温している。
【0029】
好ましくは第1の酸化塔10からの排ガス配管には酸素濃度計S1が取り付けられる。酸素濃度計S1で酸素濃度を継続的に測定し、その値がゼロとなるように空気1等の酸化剤の供給量を制御することで、所期通りの大部分を窒素からなる混合ガスを排ガスとして得ることができる。
【0030】
第1の酸化塔10内で酸化反応を受けた酸化した酸素キャリア(MO)とまだ酸化していない酸素キャリア(M)は、第2の酸化塔20に流入する。第2の酸化塔20には、十分な量の空気2等の酸化剤が送り込まれており、流入した酸素キャリアMは再度酸化反応を受け、すべての酸素キャリアMは酸化した酸素キャリア(MO)となる。空気2等の酸化剤量に対して酸化反応を受ける酸素キャリアMの量が少ないので、第2の酸化塔20からは、主成分が酸素と窒素とからなる排ガスが排出する。酸素を多く含むことから、この排ガスから窒素を得るためには、窒素の抽出処理が必要となり、窒素の入手には適しない。この排ガスも、酸化反応による発熱より800〜1200℃に昇温している。
【0031】
好ましくは第2の酸化塔20からの排ガス配管には酸素濃度計S2が取り付けられる。酸素濃度計S2で酸素濃度を継続的に測定し、酸素濃度が数パーセント以上となるように空気2等の酸化剤の供給量を制御することで、第2の酸化塔20内において酸素キャリアMのほぼすべてが酸化した酸素キャリア(MO)となったことを確認することができる。
【0032】
酸素キャリア(M)は、第2の酸化塔20で再度酸化処理を受けることで、ほぼすべてが酸化した酸素キャリア(MO)となり、再び、還元塔30内に流入する。以下、この循環サイクルを繰り返すことで、第1の酸化塔10から空気等の酸化剤から酸素がほぼ除去された大部分を窒素からなる混合ガスである排ガスを連続的に得ることができる。このために、
図1に示す形態のケミカルループ式燃焼装置A1は、窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置となる。
【0033】
[第2の形態]
図2は、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第2の形態を説明するためのブロック図である。ここでも、太線の矢印は酸素キャリア(M)の流れを示しており、細線の矢印は、燃料および空気等の酸化剤の流れを示している。このケミカルループ式燃焼装置A2は、第1の酸化塔10に供給される酸化剤が、外部から供給される空気等の酸化剤ではなく、第2の酸化塔20から排出される排ガスである点で、
図1に示したケミカルループ式燃焼装置A1と相違している。酸素キャリア(M)の循環サイクルは同じであり、詳細な説明は省略する。
【0034】
ケミカルループ式燃焼装置A1の場合と同様、第2の酸化塔20には、まだ酸化していない酸素キャリア(M)を酸化するのに必要な量以上の空気等の酸化剤が送られており、第2の酸化塔20からの排ガスには、酸素と窒素が含まれている。ただし、排ガスに含まれる酸素の量は第2の酸化塔に供給される空気等の酸化剤より酸素濃度が薄くなっている。排ガス中の酸素濃度をどの程度とするかは、第2の酸化塔20に送り込む空気等の酸化剤の量を調整することで制御可能であり、その制御は、第2の酸化塔20からの排ガス配管に取り付けた酸素濃度計S2の計測値を基礎として容易に行うことができる。
【0035】
第2の酸化塔20からの排ガスを第1の酸化塔10に送り込むことは、当量の酸化剤であっても、酸素濃度の薄い、つまりより窒素富化された酸化剤を第1の酸化塔10に送り込むことを意味しており、第1の酸化塔10を通過するときに、酸素の全量を第1の酸化塔10内での酸化反応で消費することが可能となる。また、酸素の全量を第1の酸化塔10内での酸化反応で消費されたかどうかは、第1の酸化塔10からの排ガス配管に取り付けた酸素濃度計S1によって知ることができる。それにより、この形態でも、酸化反応後に第1の酸化塔10から排出される排ガスとして、空気等の酸化剤から酸素がほぼ除去された大部分が窒素からなる混合ガスを得ることができる。また、第2の酸化塔20からの排ガスは酸化反応による発熱により800〜1200℃に昇温しており、また、量的にも十分であることから、第1の酸化塔10内で酸素キャリア(M)を浮揚させながら酸化反応を迅速に進行させることができる。
【0036】
[第3の形態]
図3は、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第3の形態を説明するためのブロック図である。ここでも、太線の矢印は酸素キャリア(M)の流れを示しており、細線の矢印は、燃料および空気等の酸化剤の流れを示している。このケミカルループ式燃焼装置A3は、さらに第3の酸化塔40を備える点で、
図1に示したケミカルループ式燃焼装置A1と相違している。他の構成は同じであり、同じ符号を付している。
【0037】
図示されるように、前記第3の酸化塔40は、還元塔30内で還元反応を受けた酸素キャリア(M)の一部が、第1の酸化塔10をバイパスして第2の酸化塔20に流入する経路に位置している。そして、第3の酸化塔40には酸化剤として、空気または、酸素富化空気、窒素富化空気ではなく、水蒸気が供給される。還元塔30から第1の酸化塔10を通り第2の酸化塔に流入する酸素キャリア(M、MO)の挙動は、ケミカルループ式燃焼装置A1と同じである。
【0038】
ケミカルループ式燃焼装置A3において、第3の酸化塔40内に流入する酸素キャリア(M)は、水蒸気中の酸素による酸化作用を受ける。すなわち、M+H
2O→MO+H
2の反応をして、第3の酸化塔40からの排ガスには、水素と未反応の水蒸気(H
2O)が含まれる。排ガスから水を凝縮させて排除することで、水素を連続的に入手することができる。一方、ケミカルループ式燃焼装置A1において説明したように、第1の酸化塔10からは高濃度の窒素を連続的に得ることができるので、ケミカルループ式燃焼装置A3を稼働することにより、アンモニアの原料である窒素と水素とを、二酸化炭素を効率的に回収しながら、同時に連続的に入手することができる。この原料を用いて、定法により、アンモニアを合成することができる。
【0039】
[第4の形態]
図4は、本発明による窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置の第4の形態を説明するためのブロック図である。ここでも、太線の矢印は酸素キャリア(M)の流れを示しており、細線の矢印は、燃料および空気等の酸化剤の流れを示している。このケミカルループ式燃焼装置A4は、第3の形態において説明したと同じ第3の酸化塔40をさらに備える点で、
図2に示したケミカルループ式燃焼装置A2と相違している。他の構成は同じであり、同じ符号を付している。
【0040】
ケミカルループ式燃焼装置A4でも、第3の酸化塔40の排ガスから水を凝縮させて排除することで、水素を連続的に入手することができ、一方、第1の酸化塔10からは高濃度の窒素を連続的に得ることができるので、ケミカルループ式燃焼装置A4を稼働することにより、アンモニアの原料である窒素と水素とを、二酸化炭素を効率的に回収しながら、同時に入手することができる。この原料を用いて、定法により、アンモニアを合成することができる。
【0041】
[第1の形態のケミカルループ式燃焼装置を配管系と共に示す第1の態様]
次に、
図1に示した第1の形態のケミカルループ式燃焼装置A1を実際に稼働するときの第1の態様をその配管系と共に
図5を参照して説明する。図示の装置において、還元塔30には、配管31から、還元剤としてのメタンガスあるいは都市ガス等の炭化水素が還元剤として供給される。還元塔30内には、酸化した酸素キャリア(例えば、Fe
2O
3)が存在しており、酸化した酸素キャリアは還元剤による還元反応を受けて還元した酸素キャリア(例えば、Fe
3O
4)となる。還元塔30からの排ガスはサイクロンのような固気分離器32によって固気分離された後、配管33を通って排気される。燃料ガス中の炭化水素は還元反応により消費されており、還元塔30からの排ガスは、CO
2と水蒸気である。この例において、配管33には熱交換器34が備えてあり、下流の熱交換器16、25への給水予熱としての熱交換で気水分離され、CO
2は分離回収される。
【0042】
還元塔30で還元作用を受けた酸素キャリアは、ループシール11を通過して、第1の酸化塔10内に流入する。第1の酸化塔10には、コンプレッサー12からの空気(酸化剤の一例である)が配管13を通して供給され、流入してくる酸素キャリアは空気中の酸素と酸化反応して、酸化された酸素キャリアとなる。配管13には流量調整弁14が備えてあり、第1の酸化塔10への空気の供給量を調整することができる。ケミカルループ式燃焼装置A1の運転に当たっては、流量調整弁14を調整し、第1の酸化塔10内に還元塔30から流入してくる酸素キャリアの一部のみが酸化を受けるだけの量の空気が第1の酸化塔10内に供給される。
【0043】
供給された空気は第1の酸化塔10内で酸素キャリアの酸化反応に寄与した後、配管15から排気されるが、酸素キャリアと空気の量的関係から、排ガスは、酸素キャリアとの酸化反応によって酸素がほぼ除去された、大部分(99.9%程度)が窒素とアルゴンからなるガスとなる。前記配管15には酸素濃度計S1が取り付けられており、排ガス中の酸素濃度が継続的に測定される。制御装置は、排ガス中の酸素濃度がゼロとなるように流量調整弁14の流量を制御する。
【0044】
排ガスの温度は酸化反応による発熱より800〜1200℃に昇温している。配管15には熱交換器16が備えてあり、高温の排ガス(窒素ガス)は、前記した熱交換器34により一度熱交換したボイラへの給水と熱交換することで低温の窒素ガスとなり、図示しない回収手段により、回収される。
【0045】
第1の酸化塔10内で部分的に酸化処理を受けた酸素キャリアは、すべてが第2の酸化塔20内に流入する。第2の酸化塔20にはコンプレッサー12からの空気(酸化剤の一例である)が下方から上方に向けて供給されており、この空気により、流入した酸素キャリアは上方に飛翔しながら再度の酸化処理を受ける。コンプレッサー12は、流入する酸素キャリアの全量が酸化を受けるに必要な量を超える空気を第2の酸化塔20に供給できるように設定されており、それにより、第2の酸化塔20内で、ほぼすべての酸素キャリアは十分な酸化を受ける。酸化された酸素キャリアと排ガスは、サイクロンのような固気分離器21によって固気分離され、酸化された酸素キャリアは配管22を通って、前記した還元塔30に戻される。なお、配管22にはループシール23が配置されている。
【0046】
固気分離器21によって分離された第2の酸化塔20からの排ガスは、酸化反応により酸素の一部を消失した空気であり、主に酸素と窒素の混合ガスである。この排ガスも酸化反応による発熱より800〜1200℃に昇温している。排ガスは配管24を通って排気される。前記配管24には酸素濃度計S2が取り付けられており、排ガス中の酸素濃度が継続的に測定される。制御装置は、コンプレッサー12の稼働状態を制御して、排ガス中の酸素濃度が数パーセント以上なるように第2の酸化塔20への空気供給量を制御する。
【0047】
配管24には熱交換器25が備えてあり、高温の排ガスは、前記した熱交換器34、16により二度熱交換したボイラへの給水と再度熱交換した後、大気に放出される。三度の熱交換で蒸気化したボイラへの給水は、図示しない熱消費機器へ送られる。
【0048】
なお、上記したループシール11、23は、酸化塔30に供給されるメタンガスあるいは都市ガス等の炭化水素と第1および第2の酸化塔10、20に供給される空気(酸化剤)が直接接触して燃焼反応を起こすのをシールするためのものであり、好ましくは適宜の不活性ガスがシールガスとして送り込まれる。不活性ガスとして、第1の酸化塔10からの排ガスを用いることもできる。
【0049】
上記のように、
図5に示すケミカルループ式燃焼装置A1は、還元塔30に投入したメタンガスあるいは都市ガス等の炭化水素の持つ熱量と等しいエネルギーを、ボイラ用の給水を蒸気化するエネルギーとして、排ガスから取り出すことができるばかりでなく、酸素キャリアの流れ方向に2つの酸化塔10、20を配置するようにしたことで、第1の酸化塔10からの排ガスとして高濃度の窒素ガスを得ることができ、また、十分に酸化されていない酸素キャリアが還元塔30に送り込まれるのも阻止することができる。したがって、上記のケミカルループ式燃焼装置A1は、単に熱発生源としてばかりではなく、窒素製造に適したケミカルループ式燃焼装置として、好適に用いることができる。
【0050】
[第1の形態のケミカルループ式燃焼装置を配管系と共に示す第2の態様]
次に、
図1に示した第1の形態のケミカルループ式燃焼装置A1を実際に稼働するときの第2の態様をその配管系と共に
図6を参照して説明する。
図6に示す装置は、還元塔30で還元を受けた酸素キャリアが最初に流入する第1の酸化塔10の排気側が位置的に最も高い位置に位置している点で、
図5に示したケミカルループ式燃焼装置A1と相違している。具体的には、第1の酸化塔10の上端から排出される一部が酸化した状態の酸素キャリアは、第1の酸化塔10の上端に取り付けたサイクロンのような固気分離器16によって固気分離され、分離したすべての酸素キャリアは配管17を通って第2の酸化塔20内に流入する。流入した酸素キャリアは第2の酸化塔20に供給される十分な量の空気によってすべてが酸化された後、配管18を通って還元塔30に流入する。この例でも、配管18にはループシール11と同様のループシール19が配置されている。
【0051】
また、第1の酸化塔10からの排ガス用の配管15には酸素濃度計S1が取り付けられ、第2の酸化塔20からの排ガス用配管24には酸素濃度計S2が取り付けられている。その他の配管系や給水の流れ等は、
図5に示したケミカルループ式燃焼装置A1と同じであり、同じ符号を付すことで説明は省略する。
【0052】
[第3の形態のケミカルループ式燃焼装置を配管系と共に示す態様]
次に、
図3に示した第3の形態のケミカルループ式燃焼装置A3を実際に稼働するときの態様を、その配管系と共に
図7を参照して説明する。この態様のケミカルループ式燃焼装置A3の基本的形態は、
図6に説明した態様のケミカルループ式燃焼装置A1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付すことで、詳細な説明は省略する。
図7に示す装置においては、
図6に示した装置に、さらに第3の酸化塔40が付加されている点で相違している。
【0053】
すなわち、還元塔30内で還元反応を受けた酸素キャリアの一部が、配管41およびループシール42を通って第3の酸化塔40内に流入する。第3の酸化塔40には、水蒸気が酸化剤として供給されており、流入してくる酸素キャリアは水蒸気(H
2O)中の酸素(O)と酸化反応して、酸化された酸素キャリアとなる。十分に酸化した酸素キャリアおよび十分には酸化していない酸素キャリアは、第3の酸化塔40の頂部から配管43およびループシール44を通り、第2の酸化塔20内に流入する。第3の酸化塔40からは、サイクロンのような固気分離器45によって固気分離されて、水素(H
2)水蒸気(H
2O)が排ガスとして排出される。
【0054】
第2の酸化塔20内に流入した酸素キャリアは、第3の酸化塔からの部分的に酸化処理を受けた酸素キャリアに加えて、
図6に示した装置の場合と同様に、第1の酸化塔10からの部分的に酸化処理を受けた酸素キャリアが流入する。そして、すべての酸素キャリアは第2の酸化塔20においてほぼ完全に酸化した酸素キャリアとなり、配管18を通って還元塔30に流入する。
【0055】
第3の酸化塔40から排出される水素は、図示しない適宜のタンク内に貯留されて、必要時に水素として使用される。図示の装置では、前記したように、第1の酸化塔10からの排ガスとして高純度の窒素ガスが得られるので、装置から連続的に排出される水素と窒素とをアンモニアの原料として有効に利用することができる。また、第3の酸化塔40に供給する水蒸気には、熱交換器25、16等を通過することで蒸気となったボイラ用の給水の一部を用いることも可能であり、装置としての自己完結性も達成できる。
【0056】
[第4の形態のケミカルループ式燃焼装置を配管系と共に示す態様]
次に、
図4に示した第4の形態のケミカルループ式燃焼装置A4を実際に稼働するときの態様を、その配管系と共に
図8を参照して説明する。ケミカルループ式燃焼装置A4では第1の酸化塔10に供給される酸化剤としての空気が、コンプレッサー12からの流量が制御された空気ではなく、第2の酸化塔20からの排ガスの一部である点でのみ、
図7に示した装置と相違している。他の部材は同じであるので、同じ符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0057】
すなわち、第2の酸化塔20からの排ガスの一部が、分岐移管26を通って、第1の酸化塔10の底部から第1の酸化塔10内に供給される。第1酸化塔10内に滞留する酸素キャリアは該排ガス中に含まれる酸素と酸化反応して、一部が酸化した酸素キャリアとなる。一方、排ガス中の酸素は酸素キャリアとの酸化反応によりすべてが消費されるので、第1の酸化塔10からは、高濃度の窒素ガスのみが排ガスとして排気される。第3の酸化塔40から水素と水蒸気が排出されることは、
図7に示した装置と同じである。