(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フローティングコイル内には、前記内側コイルおよび前記外側コイルをそれぞれ流れる電流と周回方向で同じ向きの電流が流れる、請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置。
前記フローティングコイル内で流れる電流は、前記内側コイルおよび前記外側コイルをそれぞれ流れる電流の1/10以下の電流値を有する、請求項4に記載のプラズマ処理装置。
前記フローティングコイル内のコンデンサは、前記フローティングコイル内で直列共振を起こす静電容量よりも小さな値の静電容量を有する、請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
前記フローティングコイル内のコンデンサは可変コンデンサであり、その静電容量の可変範囲には前記フローティングコイル内で直列共振を起こす静電容量よりも小さい値が含まれる、請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
前記内側コイルおよび前記外側コイルをそれぞれ流れる電流よりも小さな電流が前記フローティングコイル内で流れるように、前記コンデンサの静電容量を選定または可変制御する、請求項14に記載のプラズマ処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[実施形態1]
【0026】
図1〜
図4につき、本発明の第1の実施形態を説明する。
【0027】
図1に、第1の実施形態における誘導結合型プラズマ処理装置の構成を示す。この誘導結合型プラズマ処理装置は、平面コイル形のRFアンテナを用いるプラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の有底円筒型真空チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は保安接地されている。
【0028】
先ず、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に直接関係しない各部の構成を説明する。
【0029】
チャンバ10内の下部中央には、被処理基板としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板状のサセプタ12が高周波電極を兼ねる基板保持台として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びる絶縁性の筒状支持部14に支持されている。
【0030】
絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の上部または入口に環状のバッフル板20が取り付けられるとともに、底部に排気ポート22が設けられている。チャンバ10内のガスの流れをサセプタ12上の半導体ウエハWに対して軸対象に均一にするためには、排気ポート22を円周方向に等間隔で複数設ける構成が好ましい。各排気ポート22には排気管24を介して排気装置26が接続されている。排気装置26は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内のプラズマ処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁の外には、半導体ウエハWの搬入出口27を開閉するゲートバルブ28が取り付けられている。
【0031】
サセプタ12には、RFバイアス用の高周波電源30が整合器32および給電棒34を介して電気的に接続されている。この高周波電源30は、半導体ウエハWに引き込むイオンのエネルギーを制御するのに適した一定周波数(13.56MHz以下)の高周波RF
Lを所望のパワーで出力できるようになっている。整合器32は、高周波電源30側のインピーダンスと負荷(主にサセプタ、プラズマ、チャンバ)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。その整合回路の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
【0032】
サセプタ12の上面には、半導体ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の半径方向外側に半導体ウエハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられる。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだものであり、電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40より印加される高圧の直流電圧により、静電力で半導体ウエハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
【0033】
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室44が設けられている。この冷媒室44には、チラーユニット(図示せず)より配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水が循環供給される。冷媒の温度によって静電チャック36上の半導体ウエハWの処理温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。また、半導体ウエハWのローディング/アンローディングのためにサセプタ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構(図示せず)等も設けられている。
【0034】
次に、この誘導結合型プラズマエッチング装置においてプラズマ生成に関係する各部の構成を説明する。
【0035】
チャンバ10の天井または天板はサセプタ12から比較的大きな距離間隔を隔てて設けられており、この天板としてたとえば石英板からなる円形の誘電体窓52が気密に取り付けられている。この誘電体窓52の上にはアンテナ室15がチャンバ10と一体に設けられており、このアンテナ室15内で通常はチャンバ10またはサセプタ12と同軸にコイル状のRFアンテナ54が水平に配置される。このRFアンテナ54は、好ましくは、たとえばスパイラルコイル(
図46A)または各一周内で半径一定の同心円(円環状)コイル(
図46B)の形体を有しており、絶縁体からなるアンテナ固定部材(図示せず)によって誘電体窓52の上に固定されている。なお、
図46Bに示す円環状コイルは複巻きであるが、単巻き(1ターン)であってもよい。
【0036】
RFアンテナ54の一端には、プラズマ生成用の高周波電源56の出力端子が整合器58および高周波給電導体60を介して電気的に接続されている。RFアンテナ54の他端は、アース線55を介して電気的にグランド電位に接続されている。
【0037】
高周波電源56は、高周波放電によるプラズマの生成に適した一定周波数(13.56MHz以上)の高周波RF
Hを所望のパワーで出力できるようになっている。整合器58は、高周波電源56側のインピーダンスと負荷(主にRFアンテナ、プラズマ、フローティングコイル)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。
【0038】
チャンバ10内の処理空間に処理ガスを供給するための処理ガス供給部は、誘電体窓52より幾らか低い位置でチャンバ10の側壁の内部(または外)に設けられる環状のマニホールドまたはバッファ部62と、円周方向に等間隔でバッファ部62からプラズマ生成空間に臨む多数の側壁ガス吐出孔64と、処理ガス供給源66からバッファ部62まで延びるガス供給管68とを有している。処理ガス供給源66は、流量制御器および開閉弁(図示せず)を含んでいる。
【0039】
この誘導結合型プラズマエッチング装置は、チャンバ10内の処理空間に生成される誘導結合プラズマの密度分布を径方向で可変制御するために、チャンバ10の天井壁(天板)の上に設けられた大気圧空間のアンテナ室15内に、RFアンテナ54と電磁誘導により結合可能な可変コンデンサ付きのフローティングコイル70と、このフローティングコイル70の静電容量(より正確には可変コンデンサの静電容量)を可変制御するための容量可変機構72とを備えている。フローティングコイル70および容量可変機構72の詳細な構成および作用は後に説明する。
【0040】
主制御部75は、たとえばマイクロコンピュータを含み、このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置26、高周波電源30,56、整合器32,58、静電チャック用のスイッチ42、処理ガス供給源66、容量可変機構72、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)を制御する。
【0041】
この誘導結合型プラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ28を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック36の上に載置する。そして、ゲートバルブ28を閉めてから、処理ガス供給源66よりガス供給管68、バッファ部62および側壁ガス吐出孔64を介してエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置26によりチャンバ10内の圧力を設定値に調整する。さらに、高周波電源56をオンにしてプラズマ生成用の高周波RF
Hを所望のRFパワーで出力させ、整合器58,給電導体60を介してRFアンテナ54に高周波RF
Hの電流を供給する。一方、高周波電源30をオンにしてイオン引き込み制御用の高周波RF
Lを所望のRFパワーで出力させ、この高周波RF
Lを整合器32および給電棒34を介してサセプタ12に印加する。また、伝熱ガス供給部より静電チャック36と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を供給するとともに、スイッチ42をオンにして静電チャック36の静電吸着力により伝熱ガスを上記接触界面に閉じ込める。
【0042】
側壁ガス吐出孔64より吐出されたエッチングガスは、誘電体窓52の下の処理空間に拡散する。RFアンテナ54を流れる高周波RF
Hの電流によって、磁力線が誘電体窓52を貫通してチャンバ内のプラズマ生成空間を通過するようなRF磁界がRFアンテナ54の周りに発生し、このRF磁界の時間的な変化によって処理空間の方位角方向にRF誘導電界が発生する。そして、この誘導電界によって方位角方向に加速された電子がエッチングガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状にプラズマが生成される。このドーナツ状プラズマのラジカルやイオンは広い処理空間で四方に拡散し、ラジカルは等方的に降り注ぐようにして、イオンは直流バイアスに引っぱられるようにして、半導体ウエハWの上面(被処理面)に供給される。こうしてウエハWの被処理面にプラズマの活性種が化学反応と物理反応をもたらし、被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
【0043】
この誘導結合型プラズマエッチング装置は、上記のようにRFアンテナ54に近接する誘電体窓52の下で誘導結合のプラズマをドーナツ状に生成し、このドーナツ状のプラズマを広い処理空間内で分散させて、サセプタ12近傍(つまり半導体ウエハW上)でプラズマの密度を平均化するようにしている。ここで、ドーナツ状プラズマのプラズマ密度は、誘導電界の強度に依存し、ひいてはRFアンテナ54に供給される高周波RF
Hのパワー(より正確にはRFアンテナ54を流れる電流)の大きさに依存する。すなわち、高周波RF
Hのパワーを高くするほど、ドーナツ状プラズマの密度が高くなり、プラズマの拡散を通じてサセプタ12近傍でのプラズマの密度は全体的に高くなる。一方で、ドーナツ状プラズマが四方(特に径方向)に拡散する形態はチャンバ10内の圧力に依存し、圧力を低くするほど、チャンバ10の中心部にプラズマが多く集まって、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布が中心部で盛り上がる傾向がある。また、RFアンテナ54に供給される高周波RF
Hのパワーやチャンバ10内に導入される処理ガスの流量等に応じてドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布が変わることもある。
【0044】
ここで「ドーナツ状のプラズマ」とは、チャンバ10の径方向内側(中心部)にプラズマが立たず径方向外側にのみプラズマが立つような厳密にリング状のプラズマに限定されず、むしろチャンバ10の径方向内側より径方向外側のプラズマの体積または密度が大きいことを意味する。また、処理ガスに用いるガスの種類やチャンバ10内の圧力の値等の条件によっては、ここで云う「ドーナツ状のプラズマ」にならない場合もある。
【0045】
このプラズマエッチング装置では、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で任意に制御するために、RFアンテナ54の発生するRF磁界に対して可変コンデンサ付きのフローティングコイル70により電磁界的な補正をかけるとともに、プロセスレシピで設定される所定のプロセスパラメータ(たとえば圧力、RFパワー、ガス流量等)に応じて容量可変機構72によりフローティングコイル70の静電容量を可変するようにしている。
【0046】
以下、このプラズマエッチング装置における主要な特徴部分であるフローティングコイル70および容量可変機構72の構成および作用を説明する。
【0047】
図2に、フローティングコイル70の基本構成およびRFアンテナ54との配置関係を示す。図示のように、基本的な配置関係として、フローティングコイル70は、電気的にフローティング状態に置かれる。ここで、本発明における電気的なフローティング状態とは、電源およびグランド(接地電位)のいずれからも電気的に浮遊または分離している状態であり、周囲の導体とは電荷または電流のやりとりが全然または殆どなく、専ら電磁誘導により当該物体で電流が流れ得る状態をいう。
【0048】
また、フローティングコイル70は、基本的な構造として、両端が切れ目(ギャップ)Gを挟んで開放した単巻コイル(または複巻コイル)からなり、その切れ目Gに可変コンデンサ74を設けている。
【0049】
可変コンデンサ74は、後述するように、たとえばバリコンまたはバリキャップのような市販の汎用タイプでもよく、あるいはフローティングコイル70に一体に作り込まれる特注品または一品製作品でもよい。
【0050】
フローティングコイル70は、好ましくは、RFアンテナ54に対して同軸に配置され、径方向においてコイル導体がRFアンテナ54の内周と外周との間(たとえばちょうど中間辺り)に位置するようなコイル径を有する。方位角方向におけるフローティングコイル70の配置の向きは、たとえば図示のように、可変コンデンサ74の位置(つまり切れ目Gの位置)がRFアンテナ54のRF入出力用の切れ目の位置と重なっている。フローティングコイル70のコイル導体の材質は、導電率の高い金属、たとえば銀メッキを施した銅が好ましい。
【0051】
なお、本発明において「同軸」とは、軸対称の形状を有する複数の物体(たとえばコイルまたはアンテナ)間でそれぞれの中心軸線が互いに重なっている位置関係であり、複数のコイルまたはアンテナ間においてはそれぞれのコイル面またはアンテナ面が軸方向または縦方向で互いにオフセットしている場合だけでなく同一面上で一致している場合(同心状の位置関係)も含む。
【0052】
容量可変機構72は、フローティングコイル70のループ内に設けられている上記可変コンデンサ74と、この可変コンデンサ74の静電容量を典型的にはメカニカル的な駆動機構または電気的な駆動回路により可変制御する容量制御部76とで構成される。
【0053】
容量制御部76は、可変コンデンサ74の静電容量に関して、主制御部75より容量設定値または容量設定値の基になるレシピ情報あるいはプロセスパラメータ等を制御信号S
Cを通じて受け取る。さらに、容量制御部76は、コイル容量可変制御用のモニタ信号またはフィードバック信号として、V
PP検出器78(
図1)からはRFアンテナ54に入力される直前の高周波電圧の波高値V
PPを表す信号SV
PPを受け取り、コイル電流測定器80からはフローティングコイル70を流れる誘導電流I
INDの電流値(実効値)を表す信号SI
INDを受け取る。V
PP検出器78は、整合器58の出力電圧の波高値V
PPを測定するために整合器58に常備されているものを利用することができる。
【0054】
ここで、フローティングコイル70および容量可変機構72の作用を説明する。本発明者は、この実施形態の誘導結合形プラズマエッチング装置について次のような電磁界シミュレーションを実施した。
【0055】
すなわち、フローティングコイル70の静電容量(具体的には可変コンデンサ74の静電容量)をパラメータとして100pF〜1400pFの範囲で可変し、RFアンテナ54に所定のパワーで高周波RF
Hを印加したときにRFアンテナ54を流れるアンテナ電流(RF電流)I
RFとフローティングコイル70を流れるコイル電流(誘導電流)I
INDとの比I
IND/I
RFを算出するとともに、RFアンテナ54に入力される直前の高周波電圧の波高値V
PPを算出した。そして、フローティングコイル70の静電容量を横軸にとり、電流比(I
IND/I
RF)および電圧波高値V
PPを縦軸にとって、算出値をプロットしたところ、
図3に示すような特性が得られた。
【0056】
この電磁界シミュレーションでは、RFアンテナ54の外径(半径)を250mmに設定し、フローティングコイル70の内径(半径)および外径(半径)をそれぞれ100mmおよび130mmに設定し、RFアンテナ54とフローティングコイル70との間の距離間隔を5mmに設定した。また、RFアンテナ54の下方のチャンバ内処理空間で誘導結合により生成されるドーナツ状のプラズマを
図2に示すような円盤形状の抵抗体85で模擬し、この抵抗体85の直径を500mm、抵抗率を100Ωcm、表皮厚さを10mmに設定した。プラズマ生成用高周波RF
Hの周波数は13.56MHzとし、入力部負荷インピーダンスから1000W相当の入力があった場合を想定して電圧波高値V
PPを算出した。
【0057】
図3に示すように、コイル電流I
INDとアンテナ電流I
RFの比I
IND/I
RFは、横軸上(コイル容量の可変範囲内)で中間部が上に突き出るようなプロファイルを示し、コイル容量の最小値(100pF)から中間の500pF付近までの区間では単調に増加して、500pF付近で極大値(約800%)に達し、その先の区間では単調減少し、約10%以下〜約800%の範囲で変化する。
【0058】
なお、図示省略しているが、コイル容量を1400pFよりもさらに大きくしていくと、電流比I
IND/I
RFは約60%で落ち着いてそれよりも下がらなくなる。つまり、可変コンデンサ74を短絡したときは、フローティングコイル70にはアンテナ電流I
RFに比して約60%のコイル電流I
INDが流れる。
【0059】
一方、RF電圧波高値V
PPは、横軸上(コイル容量の可変範囲内)で中間部がすり鉢状に沈むようなプロファイルを示し、コイル容量の最小値(100pF)から中間の730pF付近までの区間では単調に減少して、730pF付近で極小値(約350ボルト)に達し、その先の区間では単調増加し、約350ボルト〜約1800ボルトの範囲で変化する。
【0060】
この電磁界シミュレーションにおいて、さらに
図3のA(コイル容量最小)、B(コイル電流極大)、C(V
PP極小)、D(コイル容量最大)の代表的な各容量ポジションについて、ドーナツ状プラズマ内部(上面から5mmの位置)の半径方向の電流密度分布(プラズマ密度分布に相当)を求めたところ、
図4に示すようなプロファイルが得られた。
【0061】
A(コイル容量最小)の容量ポジションでは、フローティングコイル70にコイル電流I
INDが殆ど流れない状態、つまりフローティングコイル70が無いときに近い状態になる。このAの容量ポジションで得られる径方向の電流密度(プラズマ密度)分布は、
図4の(A)に示すように、ドーナツ状プラズマの中心位置(r=0mm)および外周エッジ位置(r=250mm)でそれぞれ零であり、中間部(r=120〜160mm)で約100A/m
2の高さまでなだらかに盛り上がるようなプロファイルを示す。
【0062】
B(コイル電流極大)の容量ポジションでは、フローティングコイル70に略直列共振に近い状態の下でコイル電流I
INDが流れる。ここで、フローティングコイル70の等価的な負荷または受動回路は、コイル70のループ(電流路)に含まれる抵抗、インダクタンスおよび容量の直列回路で与えられる。フローティングコイル70の抵抗は、そのコイル導体の材質(抵抗率)、断面積および長さで決まる。フローティングコイル70のインダクタンスは、コイル70自体の構造で決まる自己インダクタンスだけでなく、コイル70とRFアンテナ54との間の相互インダクタンスおよびコイル70とプラズマとの間の相互インダクタンスをも含む。フローティングコイル70のインピーダンスは、これらのインダクタンスに加えて可変コンデンサ74の静電容量で規定される。
【0063】
このBの容量ポジションで得られる径方向の電流密度(プラズマ密度)分布は、
図4の(B)に示すように、フローティングコイル70のコイル導体と重なる位置(r=100〜120mm)付近で200A/m
2を超える高さまで局所的に高く盛り上がり、それより径方向の内側および外側の位置ではAの容量ポジションのときよりもむしろ幾らか低くなるようなプロファイルになる。
【0064】
このように、フローティングコイル70内の受動回路が直列共振状態になると、非常に大きなコイル電流I
NDがフローティングコイル70を流れ、フローティングコイル70のコイル導体と重なる位置でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度が局所的に著しく高く(フローティングコイル70が無いときの2倍以上にも)なる。
【0065】
C(V
PP極小)の容量ポジションでは、RFアンテナ54に入力される直前のRF電圧の波高値V
PPが極小になる。このCの容量ポジションにおける径方向の電流密度(プラズマ密度)分布は
図4の(C)に示すようなプロファイルを示し、Bの容量ポジションを選択した場合のプロファイルに比して、フローティングコイル70のコイル導体と重なる位置(r=100〜120mm)付近での局所的な盛り上がりが幾らか弱まる一方で、それより径方向の内側および外側の位置では幾らか高くなる。
【0066】
D(コイル容量最大)の容量ポジションでは、フローティングコイル70が可変コンデンサ74を外して短絡している状態に近い状態になる。このDの容量ポジションで得られる径方向の電流密度(プラズマ密度)分布は、
図4の(D)に示すように、Aの容量ポジションを選択した場合のプロファイルに比して、フローティングコイル70のコイル導体と重なる位置(r=100〜120mm)付近で局所的に大きく落ち込み、代わりに周辺部(r=160〜230mm)で100A/m
2を超える高さまで盛り上がるようなプロファイルを示す。
【0067】
図示省略するが、ドーナツ状プラズマ内の半径方向の電流密度分布は、フローティングコイル70に設けられる可変コンデンサ74の静電容量の値に応じて連続的に変化すること、つまり、Aの容量ポジションからBの容量ポジションまでの区間では
図4の(A)のプロファイルと
図4の(B)のプロファイルとの間で連続的に変化し、Cの容量ポジションからDの容量ポジションまでの区間では
図4の(C)のプロファイルと
図4の(D)のプロファイルとの間で連続的に変化することが理解されよう。
【0068】
したがって、Aの容量ポジションからBの容量ポジションまでの区間では、可変コンデンサ74の静電容量を大きくするほど、フローティングコイル70のコイル導体と重なる位置(r=100〜120mm)付近、つまりフローティングコイル70の直下位置付近でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度が高く盛り上がることが容易に推定できる。また、Cの容量ポジションからDの容量ポジションまでの区間では、可変コンデンサ74の静電容量を大きくするほど、フローティングコイル70の直下位置付近でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度が低下ないし落ち込むことが容易に推定できる。
【0069】
また、
図3に示すようにコイル容量に依存して変化するコイル電流/アンテナ電流の比I
IND/I
RFの特性とRF電圧波高値V
PPの特性とは互いに上下対称的であり、B(コイル電流極大)の容量ポジションとC(V
pp極小)の容量ポジションとは
図4の電流密度(プラズマ密度)分布の類似性からも容量ポジション的には近いとみることも可能である。したがって、B,Cの両容量ポジションを一本化して1つのモードとし、これにAの容量ポジションのモードとDの容量ポジションのモードとを加えた3つを代表的選択モードとすることも可能である。
【0070】
このように、この実施形態においては、フローティングコイル70の静電容量(具体的には可変コンデンサ74の静電容量)を可変することにより、チャンバ10内の処理空間に生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を径方向で多様かつ自在に制御することが可能であり、ひいてはドーナツ状プラズマが処理空間で四方(特に径方向)に拡散する結果として得られるサセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で多様かつ自在に制御することが可能である。したがって、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で均一化することも容易である。
【0071】
この実施形態では、上記のような電磁界シミュレーションで得られた検証結果に基づいて、
図1に示すように、フローティングコイル70を流れるコイル電流(誘導電流)I
INDの電流値をコイル電流測定器80で測定し、あるいはRFアンテナ54に入力される直前の高周波電圧の波高値V
PPをV
PP検出器78で測定し、それらの測定値SI
IND,SV
PPを容量制御部76に与えるようにしている。さらには、
図2に示すように、RFアンテナ54を流れるアンテナ電流(RF電流)I
RFの電流値(実効値)をRF電流計86で測定し、その測定値SI
RFを容量制御部76に与えてもよい。コイル電流測定器80は、一例として、電流センサ82と、この電流センサ82の出力信号に基づいてコイル電流I
INDの電流値(実効値)を演算するコイル電流測定回路84とで構成される。
【0072】
フローティングコイル70のインダクタンスにはRFアンテナ54との相互インダクタンスだけでなくプラズマとの相互インダクタンスも含まれるため、プロセスパラメータ(圧力、RFパワー等)の値が変わると、プラズマからの影響でフローティングコイル70のインピーダンスが変わり、
図3に示すような特性においてB(コイル電流極大)の容量ポジションあるいはC(V
PP極小)の容量ポジションが不定に変動することがある。しかし、上記のようなコイル電流モニタ部、RFアンテナ電流モニタ部および/またはV
PPモニタ部を備えることで、プロセスパラメータの設定値が変更されても、Bの容量ポジションあるいはCの容量ポジションを随時同定することもできる。
【0073】
容量制御部76は、好ましくはマイクロコンピュータを含み、たとえば
図3に示すような電流比I
IND/I
RFまたはV
PPのコイル容量依存特性をテーブルメモリにマッピングしておくことも可能であり、主制御部75から送られてくる容量設定値(目標値)あるいはプロセスレシピまたはプロセスパラメータ等の情報に基づいて、さらには上記電流モニタ部またはV
PPモニタ部を用いたフィードバック制御等により、当該プロセスに最も適した可変コンデンサ74の容量ポジションを選択し、あるいは動的に可変することができる。
【0074】
上述した電磁界シミュレーションで示されたように、フローティングコイル70に可変コンデンサ74が備わっていない場合(ギャップGがコイル導体で短絡されている場合)、フローティングコイル70内にはRFアンテナ54を流れるアンテナ電流I
RFよりも小さい一定の比率(上記の例では約60%)で誘導電流I
INDが流れる。しかし、フローティングコイル70に可変コンデンサ74が備わっている場合は、可変コンデンサ74の静電容量に応じて、フローティングコイル70内に流れる誘導電流I
INDの電流値が広範囲に変化し、それによってフローティングコイル70の直下付近でドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度が広範囲に変化する。
【0075】
特に、上記Aの容量ポジション(100pF)から上記Bの容量ポジション(500pF)までの区間では、可変コンデンサ74の静電容量が大きくなるにしたがって誘導電流I
INDがアンテナ電流I
RFの約10%から約800%まで単調に増大し、それによってドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度がフローティングコイル70の直下位置付近で略フラットな状態から局所的に高く隆起した状態まで著しく変化する。
【0076】
また、上記Cの容量ポジション(730pF)から上記Dの容量ポジション(1400pF)までの区間では、可変コンデンサ74の静電容量が大きくなるにしたがって誘導電流I
INDがアンテナ電流I
RFの約320%から約120%まで単調に減少し、それによってドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度がフローティングコイル70の直下位置付近で局所的に隆起した状態から局所的に陥没した状態まで著しく変化する。
【0077】
さらに、注目すべきことは、フローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDはAの容量ポジションよりもDの容量ポジションの方が10倍以上大きいのにも拘わらず、
図4の(A),(D)の両プロファイルを対比するとわかるように、フローティングコイル70の直下位置付近におけるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度は、Aの容量ポジションのときは略フラットなのに対して、Dの容量ポジションのときは局所的に大きく落ち込む。
【0078】
上記のようなフローティングコイル70の作用、特に可変コンデンサ74の静電容量を可変したときの作用は、
図5に示すようなシンプルなモデル(基本構成)について考察すると理解しやすい。
図5において、RFアンテナ54およびフローティングコイル70は、半径の異なる円環状単巻きコイルであり、隣接して同軸に配置されているものとする。
【0079】
図5のモデルにおいて、高周波電源56よりRFアンテナ54に一定周波数fの高周波RF
Hを供給して、RFアンテナ54にアンテナ電流I
RFを流したとき、電磁誘導によりフローティングコイル70内に生じる起電力つまり誘導起電力V
INDはファラデーの法則から次の式(1)で表わされる。
V
IND=−dΦ/dt=−iωMI
RF ・・・・(1)
【0080】
ここで、ωは角周波数(ω=2πf)、MはRFアンテナ54とフローティングコイル70との間の相互インダクタンスである。なお、上記の式(1)では、フローティングコイル70とプラズマとの間の相互インダクタンスは相対的に小さいので無視している。
【0081】
この誘導起電力V
INDによりフローティングコイル70内で流れる電流(誘導電流)I
INDは、次の式(2)で表わされる。
I
IND=V
IND/Z
70=−iMωI
RF/{R
70+i(L
70ω−1/C
74ω)} ・・・(2)
【0082】
ここで、Z
70はフローティングコイル70のインピーダンス、R
70はフローティングコイル70の抵抗(プラズマに吸収されるパワーに起因する抵抗成分も含む)、L
70はフローティングコイル70の自己インダクタンス、そしてC
74は可変コンデンサ74の静電容量である。
【0083】
フローティングコイル70の一般的な材質および構造、ならびに通常の使用形態では、|R
70|≦|L
70ω−1/C
74ω|であるから、誘導電流I
INDは次の近似式(3)で表わされる。
I
IND≒−MωI
RF/(L
70ω−1/C
74ω) ・・・・(3)
【0084】
この式(3)は、可変コンデンサ74の静電容量C
74に応じてフローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDの向きが周回方向で変わることを意味する。
【0085】
すなわち、フローティングコイル70内で直列共振が起きるときの可変コンデンサ74の静電容量C
74の値をC
Rとすると、C
74がC
Rよりも大きい場合は、L
70ω>1/C
74ωとなって、つまりフローティングコイル70内のリアクタンス(L
70ω−1/C
74ω)が正の値となって、フローティングコイル70内には負極性(アンテナ電流I
RFと周回方向で逆向き)の誘導電流I
INDが流れる。しかし、C
74がC
Rよりも小さい場合は、L
70ω<1/C
74ωとなって、つまりフローティングコイル70内のリアクタンス(L
70ω−1/C
74ω)が負の値となって、フローティングコイル70内には正極性(RFアンテナ54を流れる電流I
RFと周回方向で同じ向き)の誘導電流I
INDが流れる。この特性を
図6のグラフ(プロット図)に示す。
【0086】
図6のグラフにおいて、横軸は、可変コンデンサ74の静電容量C
74であり、20pFから1000pFまで連続的に変化させている。縦軸は、誘導電流I
RFとアンテナ電流I
RFの比(I
IND/I
RF)であり、RFアンテナ54を流れるアンテナ電流I
RFに対して何倍の誘導電流I
INDがフローティングコイル70内に流れるのかを表わしている。電流比(I
IND/I
RF)が正の値のときは、誘導電流I
RFが周回方向でアンテナ電流I
RFと同じ向きに流れる。反対に、電流比(I
IND/I
RF)が負の値のときは、誘導電流I
INDが周回方向でアンテナ電流I
RFと逆向きに流れる。なお、このグラフの計算例では、f(ω/2π)=13.56MHz、M=350nH、L
70=580nHとしている。この場合、フローティングコイル70内で直列共振を起こす静電容量C
74の値C
Rは、L
70ω=1/C
Rωの共振条件から、C
R≒230pFである。
【0087】
図6に示すように、可変コンデンサ74の静電容量C
74が20pFのときは、誘導電流I
INDは零に近い正の値になる。C
74の値を20pFから増やしていくと、誘導電流I
INDは正の向き(アンテナ電流I
RFと同じ向き)で漸次的に増大し、やがてアンテナ電流I
RFを凌駕し、そこからは指数関数的に増大し、直列共振を起こす静電容量値C
Rの直前で最大になる。そして、C
74の値がC
Rを超えると、とたんに誘導電流I
INDが負の向き(アンテナ電流I
RFと逆向き)で大きな電流になる。さらにC
74の値を増やしていくと、誘導電流I
INDは負の向きを保ったまま対数関数的に小さくなり、最終的にはアンテナ電流I
RFよりも絶対値的に小さな値I
Sに漸近する。ここで、飽和値I
SはI
S≒MI
RF/L
70であり、上記の例(M=350nH、L
70=580nH)ではI
S≒0.6I
RFである。
【0088】
図3および
図4のシミュレーション結果は、
図6の特性を当てはめると、理解しやすい。すなわち、上記Aの容量ポジション(100pF)から上記Bの容量ポジション(500pF)までの区間は、
図6において電流比(I
IND/I
RF)が正の値をとる区間に対応しており、誘導電流I
INDは周回方向でアンテナ電流I
RFと同じ向きに流れる。また、上記Cの容量ポジション(730pF)から上記Dの容量ポジション(1400pF)までの区間は、
図6において電流比(I
IND/I
RF)が負の値をとる区間に対応しており、誘導電流I
INDは周回方向でアンテナ電流I
RFと逆向きに流れる。
【0089】
フローティングコイル70の作用の中で特に重要な点は、可変コンデンサ74の静電容量に応じて誘導電流I
INDの流れる向きが変わり、それによってチャンバ10内で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布に与える影響(作用効果)が全く違ってくることである。
【0090】
すなわち、フローティングコイル70内で誘導電流I
INDが周回方向でアンテナ電流I
RFと逆向きに流れるときは、そのコイル導体の直下位置付近で誘導磁界の強度ないしは誘導結合プラズマの密度を局所的に低減する作用効果が得られ、誘導電流I
INDの電流値が大きいほどそのプラズマ密度低減効果の度合いが増す。
【0091】
これに対して、フローティングコイル70内で誘導電流I
INDが周回方向でアンテナ電流I
RFと同じ向きに流れるときは、そのコイル導体の直下位置付近で誘導磁界の強度ないしは誘導結合プラズマの密度を局所的に増強する作用効果が得られ、誘導電流I
INDの電流値が大きいほどそのプラズマ密度増強効果の度合いが増す。
【0092】
したがって、可変コンデンサ74の静電容量を可変することにより、フローティングコイル70を所定位置に固定した状態の下で、チャンバ10内で生成されるドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布を自在に制御し、ひいてはドーナツ状プラズマが処理空間で四方(特に径方向)に拡散する結果として得られるサセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で任意または多様に制御することができる。
【0093】
なお、上記のようにアンテナ電流I
RFと周回方向で同じ向きの誘導電流I
INDをフローティングコイル70内で流すことにより、RFアンテナ54だけでなくフローティングコイル70にも誘導結合プラズマの生成に積極的またはプラスに作用させる場合の効果として、RFパワー供給効率を向上させる面もある。すなわち、誘導結合プラズマの生成にフローティングコイル70をプラスに作用させる場合は、RFアンテナ54側の負担が軽くなり、RFアンテナ54に供給する高周波電流I
RFを低減することができる。それによって、高周波給電系統の各部(特に整合器58、高周波給電導体60等)で生じる高周波RF
Hのパワー損失を低減することができる。
【0094】
上述した
図5のモデルはRFアンテナ54の径方向内側にフローティングコイル70を配置しているが、
図7に示すようにRFアンテナ54の径方向外側にフローティングコイル70を配置する構成でも作用は全く同じである。すなわち、相互インダクタンスMが同じであれば、フローティングコイル70がRFアンテナ54の内側であっても外側であっても、フローティングコイル70内には同じ向きおよび同じ大きさの誘導電流I
INDが流れる。
【0095】
もっとも、フローティングコイル70がRFアンテナ54から遠く離れていると、相互インダクタンスMは小さくなり、フローティングコイル70内に励起される誘導起電力V
INDが弱く(低く)なる。しかし、そのような場合でも、可変コンデンサ74の静電容量C
74を調整してフローティングコイル70内で直列共振の状態ないしはそれに近い状態をつくることにより、実用上十分な大きさの誘導電流I
INDを得ることは可能である。
【0096】
ただし、フローティングコイル70内で直列共振状態またはそれに近い状態が起きるときは、上記の近似式(3)は当てはまらず、次の近似式(4)が当てはまる。
I
IND≒−iMωI
RF/R
70 ・・・・(4)
【0097】
この式(4)からわかるように、フローティングコイル70内で直列共振状態またはそれに近い状態が起きる場合は、誘導電流I
INDがアンテナ電流I
RFに対して90°前後の位相差をもつ。このような場合、相互インダクタンスMが小さすぎると、つまり式(4)の係数(Mω/R
70 )が小さすぎると、実用に適さない。したがって、この係数(Mω/R
70 )が1より大きいこと、つまり次の条件式(5)が満たされることが必要である。
Mω
>R
70 または 2πfM
>R
70 ・・・・(5)
【0098】
ここで、右辺のR
70は上記のようにフローティングコイル70の抵抗であり、そのコイル導体の抵抗R
70Cとプラズマ側のパワー吸収に相当する抵抗R
70Pとの和(R
70C+R
70P)であるが、おおよそ前者(R
70C)が支配的であり、設計上は後者(R
70P)を無視できる。
【0099】
理論的には、RFアンテナ54およびフローティングコイル70が
図5または
図7のような円環状単巻きコイルであって、両者の半径がそれぞれa,b、両者間の距離がdであるとすると、相互インダクタンスMは次の式(6)で表わされる。
【数1】
【0100】
一例として、同一平面上に半径50mmのRFアンテナ54と半径rのフローティングコイル70を同軸に配置した場合、上記の式(6)より求められる相互インダクタンスMと角周波数ωとの積Mωは
図8に示すような特性でフローティングコイル70の半径rに依存する。ただし、f(ω/2π)=13.56MHzとしている。
【0101】
フローティングコイル70の抵抗Rの典型的な値としてR=1(Ω)と見積もると、
図8からr<約150mm、つまりフローティングコイル70の半径rがRFアンテナ54の半径(50mm)の約3倍以内にあれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が満たされる。
【0102】
なお、
図8の特性は、フローティングコイル70が径方向においてRFアンテナ54の外側にあることを仮定している。フローティングコイル70が径方向においてRFアンテナ54の内側にある場合は両者の関係が逆になり、アンテナ54の半径(50mm)がフローティングコイル70の半径rの約3倍以下であれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が成立する。見方を変えれば、フローティングコイル70の半径rがRFアンテナ54の半径の約1/3倍以上あれば、Mω>1つまり上記の条件式(5)が満たされる。
[実施形態2]
【0103】
次に、
図9〜
図13につき、本発明の第2の実施形態を説明する。
【0104】
図9にこの第2の実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成を示し、
図10にこの第2の実施形態におけるRFアンテナ54およびフローティングコイル70の配置構成(レイアウト)を示す。図中、上述した第1の実施形態の装置(
図1)と同様の構成または機能を有する部分には同一の符号を附している。
【0105】
この第2の実施形態においては、RFアンテナ54が、半径の異なる円環状の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oを有している。これらの内側コイル54
iおよび外側コイル54
oは、高周波給電部に対して、つまり高周波電源30からの給電導体60側のノードN
Aと接地電位部材に至るアース線55側のノードN
Bとの間で、接続導体(90
i,90
o),(92
i,92
o)を介して電気的に並列に接続され、誘電体窓52の上で互いに径方向に間隔を開けてそれぞれ内側および外側に配置されている。フローティングコイル70は、径方向において内側コイル54
iおよび外側コイル54
oの中間に配置される。
【0106】
この第2の実施形態においては、内側コイル54
i、外側コイル54
oおよびフローティングコイル70の三者が、互いに相似なコイル形状を有することと、いずれも誘電体窓52の上に載って配置されることと、互いに同軸に配置されることが好ましい。また、フローティングコイル70が内側コイル54
iおよび外側コイル54
oから等距離に配置されることが望ましい。
【0107】
内側コイル54
i、外側コイル54
oおよびフローティングコイル70の三者が互いに相似なコイル形状を有し、フローティングコイル70が内側コイル54
iと外側コイル54
oの真ん中に同軸に配置される構成によれば、後述するようにRFアンテナ54(内側コイル54
i/外側コイル54
o)におけるアンテナ内分配電流のバランス制御とフローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDの向きおよび大きさ(電流値)の制御とをそれぞれ独立に行うことができる。
【0108】
また、RFアンテナ54の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oだけでなく、フローティングコイル70も誘電体窓52の上に載って配置される構成によれば、フローティングコイル70も内側コイル54
iおよび外側コイル54
oと同様にチャンバ10内のプラズマ生成空間に最も近い位置から最大の効率で誘導プラズマの生成に積極的に寄与することができる。
【0109】
この第2の実施形態においては、RFアンテナ54内で内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoのバランス(比)を任意に調整するために、内側コイル54
iとは並列に接続され、外側コイル54
oとは直列に接続される可変コンデンサ94を設け、主制御部75の制御の下で容量制御部96により可変コンデンサ94の静電容量を可変できるようにしている。なお、可変コンデンサ94を内側コイル54
i側に(内側コイル54
iと直列に接続して)設ける構成も可能である。
【0110】
アンテナ室15(
図9)内では、
図10に示すように、RFアンテナ54の上方に延びる接続導体(90
i,90
o),(92
i,92
o)は、誘電体窓52から十分大きな距離を隔てて(相当高い位置で)横方向の分岐線または渡り線90
m,92
mを形成している。これによって、RFアンテナ54およびフローティングコイル70に対する電磁的な影響を少なくしている。
【0111】
図11Aに、この第2の実施形態においてRFアンテナ54およびフローティングコイル70の好適なレイアウトおよび電気的接続構成を示す。なお、RFアンテナ54の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oのいずれも、さらにはフローティングコイル70も、単巻きのコイル構造に限定されず、複巻き形態を採ることもできる。たとえば、
図11Bに示すように、外側コイル54
oおよびフローティングコイル70をそれぞれ単巻き(1ターン)に形成し、内側コイル54
iを2回巻き(2ターン)に形成してもよい。
【0112】
本発明者は、この実施形態の誘導結合形プラズマエッチング装置について次のような実験を実施した。
【0113】
すなわち、フローティングコイル70内の可変コンデンサ74およびRFアンテナ54内の可変コンデンサ94のそれぞれ静電容量C
74,C
94をパラメータとしてC
74=24pF〜1495pF、C
94=126pF〜1321pFの範囲でステップ的に可変し、RFアンテナ54に所定のパワーで高周波RF
Hを印加したときにRFアンテナ54の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoならびにフローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDの電流値を計測するとともに、チャンバ10内で電磁誘導により生成されるドーナツ状プラズマの内部(上面から5mmの位置)の半径方向の電子密度分布(プラズマ密度分布に相当)を実測した。
【0114】
この実験では、主なプロセス条件として、高周波RF
Hの周波数は13.56MHz、RFパワーは1500W、チャンバ10内の圧力は100mTorr、処理ガスはArとO
2の混合ガス、ガスの流量はAr/O
2=300/30sccmであった。また、RFアンテナ54(内側コイル54
i/外側コイル54
o)およびフローティングコイル70の仕様として、
図11Bのレイアウトを採用し、内側コイル54
i(2ターン)の半径は50mm、外側コイル54
o(1ターン)の半径は150mm、フローティングコイル70(1ターン)の半径は100mmであった。
【0115】
図12および
図13に、この実験で得られた結果(データ)を示す。
【0116】
図12は、両可変コンデンサ74,94の静電容量(C
74,C
94)の各組み合わせに対して、アンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoおよび誘導電流I
INDの値を3本の棒グラフで表わしている。各ユニットの棒グラフにおいて、右側の棒グラフは内側コイル54
iを流れるアンテナ内分配電流I
RFiの電流値を表わし、左側の棒グラフは外側コイル54
oを流れるアンテナ内分配電流I
RFoの電流値を表わし、真ん中の棒グラフはフローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDの電流値を表わしている。アンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoの棒グラフは、周回方向でアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoの流れる向きを基準にしているので、常に正の値として示されている。誘導電流I
INDの棒グラフは、誘導電流I
INDがアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoと周回方向で同じ向きに流れるときは正の値として示され、誘導電流I
INDがアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoと周回方向で逆向きに流れるときは負の値として示されている。
【0117】
図13は、両可変コンデンサ74,94の静電容量(C
74,C
94)の各組み合わせに対して、チャンバ10内で生成されるドーナツ状プラズマ内部(上面から5mmの位置)の半径方向の電子密度分布(プラズマ密度分布に相当)を表わしている。各電子密度分布グラフにおいて横軸の右端の位置がチャンバ10の中心軸上の位置(r=0mm)に対応している。
【0118】
この実験において、可変コンデンサ94の静電容量C
94の値を173pFに固定して、可変コンデンサ74の静電容量C
74の値を24pF→27pF→58pF→165pFと段階的に上げた場合に得られた棒グラフデータ(
図12)およびドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布データ(
図13)については、次のように解析することができる。
【0119】
すなわち、この場合は、
図12に示すように、内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoの電流値はそれぞれ14.1A〜16.4A,16.0A〜18.3Aでさほど変わらずに、フローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDは正の値(I
RFi,I
RFoと同じ向き)で0.4A→0.5A→1.5A→12Aと急激に増大する。そして、C
74の値が202pFのときは、殆ど直列共振の状態またはその直前の状態になり、誘導電流I
INDは39.3Aに増大する。このとき、アンテナ内分流電流I
RFi,I
RFoはむしろ減少し、それぞれ4.6A,5.8Aである。
【0120】
この場合、ドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布は、
図13に示すように、誘導電流I
INDが0.4A〜1.5AのときはRFアンテナ54の内側の領域(r=50mm〜100mm)で略フラットなプロファイルを示し、誘導電流I
INDが12Aになるとフローティングコイル70の直下位置(r=100mm)付近が局所的に隆起し、誘導電流I
INDが39.3Aになるとその隆起の度合いが著しく大きくなる。
【0121】
このように、RFアンテナ54の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oにそれぞれ約14〜16A,約16〜18Aのアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoが流れる場合は、フローティングコイル70内に周回方向で同じ向きに0.4〜1.5Aという小さな(1/10以下の)誘導電流I
INDが流れるときに、ドーナツ状プラズマ中の電子密度(プラズマ密度)分布が略フラットになることは、非常に興味深くかつ重要である。
【0122】
これは、仮にフローティングコイル70が無い場合でも、RFアンテナ54の内側コイル54
iおよび外側コイル54
oの直下位置付近で生成されたプラズマが径方向において拡散するため、両コイルの中間領域でも相当の密度でプラズマが存在するためである。そこで、両コイル54
i,54
oとは別の中間のコイル(フローティングコイル70)内に少量(上記の例では0.4〜1.5A程度)の電流を周回方向でアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoと同じ向きに流すと、その中間コイルの直下位置付近で誘導結合プラズマの生成が程良く増強され、プラズマ密度が径方向で均一化することになる。
【0123】
別な見方をすれば、誘導結合プラズマの生成にフローティングコイル70を積極的に参加または寄与させて、ドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布を略フラットにするためには、つまりアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoと同じ向きでその1/10以下の誘導電流I
INDを得るには、直列共振を起こす値(202pF付近)よりも十分小さな領域(約10pF〜80pF)の静電容量を選定できるように可変コンデンサ74を構成する必要がある。
【0124】
次に、この実験において、可変コンデンサ94の静電容量C
94の値を173pFに固定して、可変コンデンサ74の静電容量C
74の値を367pF→1495pFと段階的に上げた場合に得られた棒グラフデータ(
図12)およびドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布データ(
図13)については、次のように解析することができる。
【0125】
この場合は、可変コンデンサ74の静電容量C
94が直列共振を起こす値(202pF付近)を超えた領域内で変化するため、
図12に示すように、誘導電流I
INDのグラフは負の値を示す。つまり、フローティングコイル70内の誘導電流I
INDは、周回方向でRFアンテナ54内のコイル電流I
RFi,I
RFoと逆向きに流れる。そして、C
74の値が367pFのときは、直列共振を起こす値(202pF付近)に近いため、誘導電流I
INDの電流値(絶対値)は11.2Aと比較的大きい。反面、C
74の値が1495pFのときは、直列共振を起こす値(202pF付近)から相当遠いため、誘導電流I
INDの電流値(絶対値)は5.0Aと比較的小さい。一方、内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoの電流値は、それぞれ17.4A〜19.0A,19.4A〜20.1Aであり、さほど変わらない。
【0126】
この場合のドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布は、
図13に示すように、C
74の値が367pFのとき(誘導電流I
INDの電流値が−11.2Aのとき)はフローティングコイル70の直下位置(r=100mm)付近が局所的に落ち込み、C
74の値が1495pFのとき(誘導電流I
INDの電流値が−5.0Aのとき)はその落ち込みが一層顕著になる。これは、フローティングコイル70内で流れる誘導電流I
INDの向きが周回方向で内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoとは逆向きであるため、フローティングコイル70の直下位置付近で誘導磁界を打ち消して誘導結合プラズマの生成を妨げる方向に作用するためである。
【0127】
次に、この実験において、フローティングコイル70内の可変コンデンサ74の静電容量C
74の値を24pFに固定して、RFアンテナ54内の可変コンデンサ94の静電容量C
94の値を126pF→171pF→173pF→186pF→1321pFと段階的に上げた場合に得られた棒グラフデータ(
図12)およびドーナツ状プラズマ内の電子密度(プラズマ密度)分布データ(
図13)については、次のように解析することができる。
【0128】
この場合は、
図12に示すように、RFアンテナ54内で内側コイル54
iおよび外側コイル54
oをそれぞれ流れるアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoのバランス(比)が大きく変化する。
【0129】
すなわち、C
94=126pFのときは、I
RFi=1.2A,I
RFo=30.0Aであり、I
RFi≦I
RFoのバランスになる。しかし、C
94=171pFのときは、I
RFi=15.7A,I
RFo=18.2Aであり、厳密にはI
RFi<I
RFoではあるが、I
RFi≒I
RFoのバランスに近くなる。さらに、C
94=173pFのときは、I
RFi=16.4A,I
RFo=18.3Aとなり、I
RFi≒I
RFoのバランスに一層近くなる。
【0130】
そして、C
94=186pFのときは、I
RFi=18.1A,I
RFo=16.6Aであり、両者の大小関係がI
RFi>I
RFoと逆転して、I
RFi≒I
RFoのバランスに近い状態を保つ。さらに、C
94=1321pFのときは、I
RFi=27.1A,I
RFo=7.4Aであり、はっきりとI
RFi≧I
RFoのバランスになる。
【0131】
一方、C
94=126pF〜1321pFの変化に対して、フローティングコイル70内に流れる誘導電流I
INDは、0.2A〜0.6Aの範囲内に止まっており、電流の向きを変えないのはもちろん、電流値もほとんど変わらない。
【0132】
このように、この実施形態においては、フローティングコイル70内に流れる誘導電流I
INDの向きおよび大きさの制御と、RFアンテナ54内のアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoのバランス(比)の制御とを独立に行うことができる。
【0133】
このような独立制御を行える主たる理由は、フローティングコイル70と内側コイル54
iとの間の相互インダクタンスをM
iとし、フローティングコイル70と内側コイル54
iとの間の相互インダクタンスをM
oとすると、M
i=M
oの関係があるためである。
【0134】
内側コイル54
iおよび外側コイル54
oにアンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoがそれぞれ流れるときに、フローティングコイル70内に生じる誘導起電力V
INDは、重ね合わせの理により、内側コイル54
iを内側のアンテナ内分配電流I
RFiが流れるときにフローティングコイル70内に生じる誘導起電力と、外側コイル54
oを外側のアンテナ内分配電流I
RFoが流れるときにフローティングコイル70内に生じる誘導起電力とを足し合わせたものになる。ここで、それぞれの相互インダクタンスM
i,M
oが等しいとすれば、上記の式(1),(2),(3)より、フローティングコイル70に生じる誘導起電力ひいては誘導電流は、アンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoの比(I
RF/I
RFo)には関係なく、それらの和(I
RFi+I
RFo)に依存することがわかる。
【0135】
この場合のドーナツ状プラズマ中の電子密度(プラズマ密度)分布は、
図13に示すように、C
94の値が126pFのとき(I
RFi≦I
RFoのとき)は、外側コイル54
oの直下位置(r=150mm)付近で局所的に盛り上がる。また、C
94の値が171pF,173pFのとき(厳密にはI
RFi<I
RFoの関係でI
RFi≒I
RFoのとき)は、RFアンテナ54の直下領域(r=50mm〜150mm)で略フラットになる。C
94の値が186pFのとき(厳密にはI
RFi>I
RFoの関係でI
RFi≒I
RFoのとき)は、相対的に外側コイル54
oの直下位置付近よりも内側コイル54
iの直下位置付近の方が高くなる。そして、C
94の値が1321pFのとき(I
RFi≧I
RFoのとき)は、内側コイル54
iの直下位置(r=50mm)付近で局所的に大きく盛り上がる。
【0136】
このように、RFアンテナ54内の可変コンデンサ94の静電容量C
94を可変することにより、アンテナ内分配電流I
RFi,I
RFoのバランスを任意に制御し、ひいては内側コイル54
iおよび外側コイル54
oのそれぞれの直下位置付近における誘導結合プラズマ密度のバランスを任意に制御することができる。
【0137】
上述した実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置においては、一枚の半導体ウエハWに対する単一または一連のプラズマ処理を行う中で、プロセス条件の変更、切り換えまたは変化に応じて、主制御部75の制御の下でフローティングコイル70の可変コンデンサ74の静電容量を可変調整することが可能である。
【0138】
このことにより、枚葉プラズマプロセスの全処理時間または全ステップを通じて、RFアンテナ54を流れる高周波のアンテナ電流I
RFによってアンテナ導体の周り(特にチャンバ10内のプラズマ生成空間)に形成されるRF磁界またはRF電界の強度ひいては誘導結合プラズマの生成に対するフローティングコイル70の関与の形態(増強作用/低減作用)または度合い(強弱)を任意のタイミングで自在かつ精細に調節することができる。これによって、サセプタ12近傍のプラズマ密度を径方向で任意または多様に制御することが可能であり、サセプタ12近傍のプラズマ密度分布を径方向で均一にすることも容易である。したがって、プラズマプロセスの均一性を容易に向上させることができる。
[RFアンテナ/フローティングコイルのレイアウト変形例]
【0139】
図14〜
図22に、上記第2の実施形態における容量結合型プラズマエッチング装置(
図9)に適用可能なRFアンテナ54/フローティングコイル70のレイアウトの変形例を幾つか示す。
【0140】
図14Aおよび
図14Bは、RFアンテナ54が内側コイル54
iおよび外側コイル54
oを有する場合において、フローティングコイル70を内側コイル54
iの径方向内側に配置する構成例(
図14A)および外側コイル54
oの径方向外側に配置する構成例(
図14B)をそれぞれ示す。
【0141】
図14Aの構成例では、フローティングコイル70と外側コイル54
iとの間の相互インダクタンスよりもフローティングコイル70と内側コイル54
iとの間の相互インダクタンスの方が格段に大きい。このため、フローティングコイル70内に流れる誘導電流I
INDは、外側コイル54
oを流れる電流IRF
oよりも内側コイル54
iを流れる電流I
RFiに多く依存する。
【0142】
逆に、
図14Bの構成例では、フローティングコイル70と内側コイル54
iとの間の相互インダクタンスよりもフローティングコイル70と外側コイル54
iとの間の相互インダクタンスの方が格段に大きい。このため、フローティングコイル70内に流れる誘導電流I
INDは、内側コイル54
iを流れる電流I
RFiよりも外側コイル54
oを流れる電流I
RFoに多く依存する。
【0143】
図15A〜
図15Dに、コイル径の異なる複数(たとえば2つ)のフローティングコイル70
i,70
oを併設する構成例を示す。
【0144】
図15Aに示すように、典型的には、径方向においてRFアンテナ54を両側から挟むように、コイル径の小さい方の内側フローティングコイル70
iをRFアンテナ54の径方向内側に配置し、コイル径の大きい方の外側フローティングコイル70
oをRFアンテナ54の径方向外側に配置する構成が採られる。
【0145】
もっとも、
図15Bに示すように、内側フローティングコイル70
iおよび外側フローティングコイル70
oの双方をRFアンテナ54の内側に配置することも可能である。あるいは、
図15Cに示すように、内側フローティングコイル70
iおよび外側フローティングコイル70
oの双方をRFアンテナ54の外側に配置することも可能である。
【0146】
さらには、
図15Dに示すように、RFアンテナ54が内側コイル54
iおよび外側コイル54
oからなる場合において、内側フローティングコイル70
iを内側コイル54
iと外側コイル54
oとの間に配置し、外側フローティングコイル70
oを外側コイル54
oの径方向外側に配置することも可能である。この一変形例として、図示省略するが、内側フローティングコイル70
iを内側コイル54
oの径方向内側に配置し、外側フローティングコイル70
oを内側コイル54
iと外側コイル54
oとの間に配置することも可能である。
【0147】
このように独立した複数のフローティングコイル70
i,70
oを併設する構成においては、各々のフローティングコイル70
i,70
oとRFアンテナ54との間の相互インダクタンスは殆ど等しい場合もあれば相当異なる場合もある。いずれの場合でも、各々のフローティングコイル70
i,70
oに可変コンデンサ74
i,74
oが個別に設けられているので、それぞれの可変コンデンサ74
i,74
oの静電容量を可変制御することによって、フローティングコイル70
i,70
o内にそれぞれ流れる誘電電流I
INDi,I
INDoの向きおよび大きさ(電流値)を独立に制御することができる。
【0148】
図16に示すように、フローティングコイル70を複巻き(たとえば2ターン)に構成することも可能である。複巻きコイルの場合は、コイル全体(全周)の抵抗R
70および自己インダクタンスL
70は増倍するため、そのぶん誘導電流I
INDが小さくなる。もっとも、コイルの長さが増倍しているので、コイル全体では単巻きと同等の起磁力(アンペアターン)が得られる。したがって、このような複巻きのフローティングコイル70は、たとえば可変コンデンサ74の耐性面から、フローティングコイル70内で大きな誘導電流I
INDが流れるのを避けたい場合に有利である。
【0149】
また、
図17に示すように、フローティングコイル70を周回方向で分割(図示の例は2分割)する構成も可能である。この場合は、各々円弧状の分割コイル70L,70Rに可変コンデンサ74
L,74
Rが個別に設けられる。通常は、コイル一周で同じ向きに同じ大きさの電流が流れるように、つまり両分割コイル70
L,70
R内でそれぞれ流れる誘導電流I
INDL,I
INDRが同じ向きで同じ大きさになるように、それぞれ可変コンデンサ74
L,74
Rの静電容量が調整される。もっとも、このような分割方式のフローティングコイル70においては、必要に応じて、たとえば方位角方向における装置構造の非対称性を補償するために、各分割コイル70
L,70
R内で流れる誘導電流I
INDL,I
INDRの向きまたは大きさを意図的に異ならせることも可能である。
【0150】
図18には、RFアンテナ54を構成するコイル(内側コイル54
i/外側コイル54
o)およびフローティングコイル70の各々が空間的かつ電気的に並列な関係にある一対のスパイラルコイルからなる例を示す。
【0151】
より詳細には、内側コイル54
iは、周回方向で180°ずらして並進する一対のスパイラルコイル54
ia,54
ibからなる。これらのスパイラルコイル54
ia,54
ibは、高周波電源56側のノードN
Aよりも下流側に設けられたノードN
Cとアース線55側のノードN
Bよりも上流側に設けられたノードN
Dとの間で電気的に並列に接続されている。
【0152】
外側コイル54
oは、周回方向で180°ずらして並進する一対のスパイラルコイル54
oa,54
obからなる。これらのスパイラルコイル54
oa,54
obは高周波電源56側のノードN
Aよりも下流側に設けられたノードN
Eとアース線55側のノードN
Bよりも(さらには可変コンデンサ74よりも)上流側に設けられたノードN
Fとの間で電気的に並列に接続されている。
【0153】
また、フローティングコイル70は、周回方向で180°ずらして並進する一対のスパイラルコイル70
a,70
bからなる。これらのスパイラルコイル70
a,70
bの閉じたループ内には可変コンデンサ74
a,74
bがそれぞれ設けられている。
【0154】
なお、フローティングコイル70を構成する各スパイラルコイルとRFアンテナ54を構成する各スパイラルコイルとの間の相互インダクタンスに関係する距離間隔は、両スパイラルコイルの平均径の間の距離間隔で近似されてよい。
【0155】
図19は、フローティングコイル70が径方向においてRFアンテナ54を挟むようにその両側(RFアンテナ54の内側および外側)に跨って配置される構成例を示す。この構成例によれば、RFアンテナ54とフローティングコイル70との間の相互インダクタンスを大きくすることができるだけでなく、フローティングコイル70の直下位置付近における誘導結合プラズマ生成領域を径方向で分散ないし拡張することができる。
【0156】
図20は、フローティングコイル70が、RFアンテナ54の真上に上部コイルセグメント70
pを同軸に配置するとともに、RFアンテナ54と同一平面上(たとえば径方向外側)に下部コイルセグメント70
qを同軸に配置し、両コイルセグメント70
p,70
qを電気的に直列接続する構成例を示す。
【0157】
この構成例において、上部コイルセグメント70
pは、RFアンテナ54との相互インダクタンスを可及的に大きくするように、RFアンテナ54と同じコイル径を有し、RFアンテナ54に限りなく接近して配置されるのが好ましい。一方、下部コイルセグメント70
qは、RFアンテナ54との相互インダクタンスよりも直下のチャンバ10内で生成される誘導結合プラズマの径方向分布特性を優先してよく、任意の口径を選定することができる。こうして、上部コイルセグメント70
pは主に誘導起電力の発生に寄与し、下部コイルセグメント70
qは主にプラズマ密度分布の制御に寄与する。このように、両コイルセグメント70
p,70
qに役割分担させることができる。
【0158】
図21および
図22は、RFアンテナ54およびフローティングコイル70の形状に関する変形例を示す。本発明において、RFアンテナ54およびフローティングコイル70のループ形状は円形に限るものではなく、被処理体の形状等に合わせて任意の形態を採りことが可能であり、たとえば
図21に示すような矩形または四角形、あるいは
図22に示すような扇型であってもよい。
【0159】
また、図示省略するが、RFアンテナ54とフローティングコイル70は必ずしも互いに相似形である必要はない。
[RFアンテナ/フローティングコイルの配置構造に関する他の実施例]
【0160】
上述した第1および第2の実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置では、チャンバ10の天井に誘電体窓52を水平に取り付け、この誘電体窓52の上または上方にRFアンテナ54およびフローティングコイル70を配置した。しかし、本発明におけるRFアンテナおよびフローティングコイルの配置構造は上記実施形態に限定されるものではない。
【0161】
たとえば、
図23Aに示すように、RFアンテナ54およびフローティングコイル70がチャンバ10の縦方向にオフセットして(位置をずらして)チャンバ側壁の周囲に配置される構成も可能である。図示の構成例では、フローティングコイル70がRFアンテナ54の下方に配置される。チャンバ10の側壁は、少なくともRFアンテナ54およびフローティングコイル70の位置する付近の部位が誘電体からなる。RFアンテナ54またはフローティングコイル70は、複巻きの場合はヘリカル(螺旋)形状になる。
【0162】
図23Aの構成例では、チャンバ10の周囲でRFアンテナ54を高周波のアンテナ電流I
RFが流れると、そのアンテナ電流I
RFによって生成される磁界がチャンバ10の側壁(誘電体窓)を貫通してチャンバ10内のプラズマ生成空間を通過し、この磁界の時間的な変化によってプラズマ生成空間の方位角方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって方位角方向に加速された電子がエッチングガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。一方、RFアンテナ54をアンテナ電流I
RFが流れることによって、フローティングコイル70内には誘導電流I
INDが流れる。このアンテナ電流I
RFによって生成される磁界は、チャンバ10の側壁(誘電体窓)を貫通してチャンバ10内のプラズマ生成空間を通過する。誘導電流I
INDの流れる向きがアンテナ電流I
RFの向きと反対であれば誘導結合プラズマの生成は低減され、誘導電流I
INDの流れる向きがアンテナ電流I
RFの向きと同じであれば誘導結合プラズマの生成は増強される。
【0163】
この実施例においても、フローティングコイル70のループ内に可変コンデンサ74を設けているので、この可変コンデンサ74の静電容量を制御することにより、誘導電流I
INDをアンテナ電流I
RFと逆向きにすることも同じ向きにすることも可能であり、さらには誘導電流I
INDの大きさ(電流値)を調節することもできる。
【0164】
図23Aの構成例は、チャンバ10の側壁の周囲でフローティングコイル70をRFアンテナ54よりも下方に、つまりサセプタ12に近づけて配置しているので、フローティングコイル70ないし可変コンデンサ74の作用の効き目を強くすることができる。しかし、フローティングコイル70をRFアンテナ54よりも上方に、つまりサセプタ12から遠ざけて配置する構成も可能であり、たとえば
図23Bに示すように、フローティングコイル70をチャンバ10の天板(誘電体窓)52の上に配置することも可能である。この場合、フローティングコイル70は、円環状またはスパイラル状のコイル形態を採ることができる。
【0165】
別の実施例として、
図23Cに示すように、チャンバ10にドーム形状の天板(誘電体窓)52が取り付けられる場合は、このドーム状誘電体窓52の上に(好ましくは載置した状態で)RFアンテナ54およびフローティングコイル70を配置する構成も可能である。
[フローティングコイル内に固定コンデンサを設ける実施例]
【0166】
図24に、フローティングコイル70のループ内に固定コンデンサ94を設ける実施例を示す。この実施例におけるフローティングコイル70は、好ましくは円環状の単巻きコイルであり、RFアンテナ54に可及的に近接して配置される。また、図示の例ではフローティングコイル70がRFアンテナ54の径方向内側に配置されているが、RFアンテナ54の径方向外側に配置されてもよい。
【0167】
この実施例において、フローティングコイル70を誘導結合プラズマの生成に積極的に作用させる場合は、RFアンテナ54を流れるアンテナ電流I
RFと周回方向で同じ向きに適度な大きさ(たとえばI
RFの数倍)の誘導電流I
INDがフローティングコイル70内で流れるように、固定コンデンサ94の静電容量を選定する。すなわち、固定コンデンサ94の静電容量は、フローティングコイル70内で直列共振を起こす静電容量よりは小さくてその付近の値に選定される。これによって、フローティングコイル70は、単巻き(1ターン)の円環状コイルであっても、誘導結合プラズマ生成のアシスト効果に関して複巻き(複数ターン)の円環状コイルあるいはスパイラルコイルと見掛け上同等の働きをすることができる。
【0168】
このような固定コンデンサ94付きの単巻き円環状のフローティングコイル70は、製作(特にコンデンサの作り込み)が容易であり、RFアンテナ54周りの組み立てやメンテナンスにも有利である。また、フローティングコイル70のループ内に結線箇所や接続用導体も無いので、パワーロスが少ないことや、電磁気的な作用面において周回方向の均一性がよいこと等の利点がある。
【0169】
なお、上述した第1または第2の実施形態において、フローティングコイル70内に設けられた可変コンデンサ74を固定コンデンサ94に置き換えることはもちろん可能である。
[フローティングコイルの構造に関する実施例1]
【0170】
次に、
図25〜
図28を参照して、本発明の誘導結合型プラズマ処理装置で用いるフローティングコイル70の構造に関する実施例を説明する。
【0171】
先ず、
図25〜
図29につき、フローティングコイル70のコンデンサ(74,94)に市販品のコンデンサ素子を用いる場合の実施例を説明する。
【0172】
図25に示す実施例は、フローティングコイル70に1つの切れ目Gを形成し、この場所に市販品の2端子型コンデンサ(74,94)を取り付ける。この実施例における特徴は、フローティングコイル70のコイル導体とコンデンサ(74,94)のパッケージ本体の端子とを結ぶ接続端子112a,112bをコイル導体より上方(好ましくは垂直上方)に立てている構成にある。
【0173】
上記のようにフローティングコイル70に大きな誘導電流I
INDを流す場合は、大電流を流せる大きなサイズのコンデンサ(74,94)が用いられる。ところが、コンデンサ(74,94)のサイズが大きいと、切れ目Gのサイズも大きくなり、フローティングコイル70のループ上で切れ目Gの箇所がフローティングコイル70の電磁界的な作用上無視できない特異点になり得る。
【0174】
この実施例では、上記のようにコンデンサ接続導体112a,112bを垂直上方に延ばしてコンデンサ本体をコイル導体よりも一段上方に(プラズマ側から一段遠く離して)配置するので、コンデンサ本体がプラズマ側から見え難い構造、つまりマスキングされる構造になっている。
【0175】
図26Aおよび
図26Bに示す別の実施例では、フローティングコイル70の切れ目Gをコイル周回方向に対して(またはコイル半径方向に対して)一定の角度(たとえば45°)で斜めに形成している。そして、切れ目Gを介して相対向するコイル導体の両開放端部にそれぞれ設けられる一対のコンデンサ給電ポイント(コンデンサ接続導体112a,112bの基端の位置)114a,114bがコイル中心Oを通る半径方向の直線F上に位置するように構成している。かかる構成により、プラズマ側からは、切れ目Gの箇所が見え難くなって、フローティングコイル70のコイル導体が周回方向であたかも連続しているように見える。
【0176】
一変形例として、フローティングコイル70の切れ目Gを、斜め一直線ではなく、
図26Cに示すような入れ子構造を可能とする斜め形状にすることも可能である。
【0177】
図27Aに示す別の実施例では、フローティングコイル70の切れ目Gがコイル導体をコイル半径方向に対して斜めに切りながら延びているだけでなく、縦方向(コイル軸方向)に対しても斜めに切りながら延びている構成が特徴的である。かかる構成により、プラズマ側からは切れ目Gの箇所が一層見え難くなり、周回方向におけるフローティングコイル70のコイル導体の擬似的連続性が更に向上する。
【0178】
なお、フローティングコイル70のコイル導体の断面形状は任意であり、たとえば
図27Bに示すように三角、四角または円のいずれであってもよい。
【0179】
図28に、フローティングコイル70の切れ目Gに起因する特異点の存在を解消または抑制するのに有効な別の実施例を示す。この実施例では、フローティングコイル70上に周回方向に一定の間隔を置いて複数個たとえば3個のコンデンサ(74,94)を設けている。
【0180】
元々、誘導結合型プラズマ処理装置は、RFアンテナ直下では径方向に不均一に(ドーナツ状)にプラズマを生成し、それを拡散させてサセプタ側の基板上に均一なプラズマが得られるように設計されるものである。周回方向でドーナツ状プラズマ内のプラズ密度に不均一な箇所がある場合にも、当然に拡散による平滑化が起きるが、径方向に比べると周回方向では平滑化に必要な拡散距離が長いため、平滑化または均一化し難い傾向がある。
【0181】
この点に関しては、
図28に示すように、不連続点を周回方向に一定間隔で複数設けると、平滑化に必要な拡散距離が短くなる。たとえば、図示のようにフローティングコイル70に120°間隔で3個の切れ目Gを設けると、周回方向でプラズマの拡散に必要な距離は円周の1/3になり、平滑化ないし均一化しやすくなる。
【0182】
図29の実施例は、
図28の実施例の一変形例であり、フローティングコイル70にダミーの切れ目G'を形成し、このダミーの切れ目G'にダミーのコンデンサ電極116およびダミーのコンデンサ接続導体118を設ける構成を特徴とする。ダミーの切れ目G'は、コンデンサ(74,94)を取り付けるための本来の切れ目Gと全く同じ構造でよく、全部の切れ目(G,G')が周回方向で等間隔に配置されるように、本来の切れ目Gと混在して所定位置に1つまたは複数設けられる。ダミーのコンデンサ電極116は、一枚の導体板(たとえば銅板)で構成されてよい。ダミーのコンデンサ接続導体118も、本物のコンデンサ接続導体112a,112bと同様の材質および形状に作られてよい。
【0183】
図28の実施例ではフローティングコイル(70,90)に電気的に直列接続で複数のコンデンサ(74,94)を設けるのに対して、
図29の実施例は1個のコンデンサ(74,94)で済むという特徴がある。
[フローティングコイルの構造に関する実施例2]
【0184】
次に、
図30〜
図36Bに、固定コンデンサ94を構造体としてフローティングコイル70に一体に作り込む実施例を示す。
【0185】
図30に示す実施例は、フローティングコイル70の切れ目Gをそのまま固定コンデンサ94の電極間ギャップとして利用する例である。この切れ目Gに誘電体のフィルム(図示せず)を挿入してもよい。
【0186】
この実施例において、切れ目Gを介して向かい合うコイル導体の一対の開放端部はコンデンサ電極を構成する。このコンデンサ電極は、
図31に示すように上方(または横)に延びる拡張部120を一体に付けることで、電極面積を任意の大きさに調整することもできる。
【0187】
また、上記のような突き合わせ型のコンデンサ構造の他にも、たとえば
図32に示すように、フローティングコイル70において、切れ目Gに隣接する一方のコイル導体端部70eを一方のコンデンサ電極としてその上に誘電体122を固着し、他方のコイル導体端部70fにも接続する架橋導体板124を誘電体122の上面に当てて他方のコンデンサ電極とする。これによって、重ね合わせ型の固定コンデンサ94が構成される。
【0188】
図33〜
図35に、可変コンデンサ74を構造体としてフローティングコイル70に一体に作り込む一実施例を示す。この実施例は、大まかには、
図32の固定コンデンサ94において架橋導体板124をスライド可能な可動電極に置き換えるものである。
【0189】
図33に示すように、この実施例では、切れ目Gに隣接する一方のコイル導体端部70aの上には、同じ厚みを有する板状またはシート状の誘電体128および固定接点導体130が固着される。ここで、固定接点導体130は、誘電体128よりも切れ目Gから遠い位置に配置される。また、反対側で切れ目Gに隣接する他方のコイル導体端部70bの上には、誘電体128および固定接点導体130と同じ厚みを有する板状またはシート状の固定接点導体132が固着される。可動電極126は、面一に並べられた固定接点導体130、誘電体128および固定接点導体132の上面を摺動してコイル周回方向に移動できるようになっている。なお、フローティングコイル70の周回方向は、厳密には円弧であるが、局所的に切れ目Gの場所付近に限ってみれば、直線方向とみなしてよい。したがって、可動電極126が直線的に移動しても、フローティングコイル70の上から横に外れることはない。
【0190】
可動電極126を摺動させるためのスライド機構134は、たとえばボールネジ機構からなり、一定の位置で水平に延びる送りネジ136を回転駆動するためのステッピングモータ138と、送りネジ136と螺合するナット部(図示せず)を有し、送りネジ136の回転によってその軸方向に水平移動するスライダ本体140と、このスライダ本体140と可動電極126とを結合する圧縮コイルバネ142および鉛直方向で摺動可能に嵌合する一対の円筒体144,146とで構成されている。ここで、外側の円筒体144はスライダ本体140に固定され、内側の円筒体146は可動電極126に固定されている。圧縮コイルバネ142は、弾性力によって可動電極126を固定接点導体130、誘電体128および固定接点導体132に押し付ける。容量制御部76は、ステッピングモータ138の回転方向および回転量を通じて可動電極126のスライド位置を制御する。
【0191】
この実施例では、切れ目Gを挟む一対のコイル導体端部70e,70fの間に、
図34のような等価回路で表される可変コンデンサ74、第1のスイッチS
1および第2のスイッチS
2が作り込まれている。ここで、第1のスイッチS
1は可変コンデンサ74と電気的に直列に接続される開閉器であり、第2のスイッチS
2は可変コンデンサ74と電気的に並列に接続される開閉器である。
【0192】
より詳細には、可変コンデンサ74は、一方のコイル導体端部70aと誘電体128と可動電極126とスライド機構134とによって構成されている。第1および第2のスイッチS
1,S
2は、固定接点導体130,132と可動電極126とスライド機構134とによって構成されている。
【0193】
ここで、
図35につき、この実施例における作用を説明する。
【0194】
先ず、
図35の(a)に示すように、可動電極126を、片側のコイル導体端部70b上の固定接点導体132のみに接触し、反対側のコイル端部70e上の固定接点導体130および誘電体128のいずれとも接触しない位置に移動させる。この位置では、スイッチS
1,S
2のいずれも開(OFF)状態であり、フローティングコイル70の切れ目Gは電気的に完全にオープン(遮断)状態になる。したがって、フローティングコイル70には誘導電流にI
INDが一切流れず、実質的にフローティングコイル70が無い場合と同じになる。
【0195】
次に、
図35の(b)に示すように、可動電極126を、片側のコイル導体端部70f上の固定接点導体132に接触し、反対側のコイル導体端部70e上では誘電体128には接触し、固定接点導体130には接触しない位置に移動させる。この位置では、スイッチS
2は開(OFF)状態のままで、スイッチS
1が閉(ON)状態になり、可変コンデンサ74が有意のキャパシタンスをもって機能(通電)する。
【0196】
この可変コンデンサ74の静電容量は、可動電極126を固定接点導体132に向って移動させるほど大きくなり、
図35の(c)に示すように可動電極126が誘電体128の上面全体を覆う位置まで移動させたときに最大になる。
【0197】
そして、可動電極126を更に前進移動させて、
図35の(d)に示すように固定接点導体130の上まで移動させると、両側の固定接点導体130,132同士が可動電極126を介して短絡し、スイッチS
1も閉(ON)状態になる。すなわち、切れ目Gが短絡状態になり、フローティングコイル70はコイル導体の両端が閉じたリングになる。
【0198】
なお、
図34のように可変コンデンサ74(固定コンデンサ94でも可能)と直列および/または並列にスイッチS
1,S
2を接続する構成は、市販品のコンデンサ素子を用いる実施例(
図25〜
図29)においても実現できる。また、直列接続のスイッチS
1は、フローティングコイル70のループ内でコンデンサ74(94)とは別の切れ目に設けられてもよい。
【0199】
図36Aおよび
図36Bに、可変コンデンサ74を構造体としてフローティングコイル70に一体に作り込む別の実施例を示す。
【0200】
この実施例では、
図36Aに示すように、フローティングコイル70のコイル導体が、互いに同心円状(断面櫛歯状)に配置され、かつ底部で一体接続または分離された口径の異なる複数(たとえば3つ)の円筒状(正確には円弧状)板体150(1),150(2),150(3)で構成される。そして、コイル導体150(1),150(2),150(3)には周回方向で1箇所または等間隔の複数個所で切れ目Gが形成されるとともに、各切れ目Gの付近で周回方向に移動または変位可能な可動電極152が設けられる。
【0201】
各々の可動電極152は、断面櫛歯状の円筒体150(1),150(2),150(3)と非接触で対向する断面櫛歯状の頂部で一体に接続された複数(たとえば4つ)の円弧状板体152(1),152(2),152(3) ,152(4)で構成されている。可動電極板152同士は水平支持棒154を介して一体的に結合され、中心点Oを通る垂直支持棒(図示せず)を介してモータ等の回転機構(図示せず)に接続されている。
【0202】
可動電極152を
図36Aに示す位置に移動させると、フローティングコイル70のコイル導体150(1),150(2),150(3)は切れ目Gの箇所で周回方向に電気的に分断された状態となり、完全遮断状態(コイルが無いのと同じ状態)になる。
【0203】
可動電極板152を
図36Aの位置から図の反時計回りに少し移動させると、可動電極152は周回方向に切れ目Gを横断してその両側のコイル導体端部の双方とコンデンサを形成する。このように切れ目Gを周回方向で跨ぐ可動電極152の回転位置を調節することで、合成的なコンデンサのキャパシタンスを可変することができる。
[可変コンデンサの静電容量の制御に関する実施例]
【0204】
図37A〜
図37Cに示す実施例は、フローティングコイル70内に設けられる可変コンデンサ74の静電容量を温度で可変制御する方式に係るものである。
【0205】
この実施例では、
図37Aおよび
図37Bに示すように、フローティングコイル70の1つ(または複数)の切れ目Gに、温度によって誘電率が変化する感温性の材質たとえばポリアミド樹脂からなる誘電体156を挿入する。
図37Cに、この種の感温性誘電体においてその誘電率が温度に依存して変化する特性の一例を示す。
【0206】
このような感温性の誘電体156に対して、たとえばレーザまたはランプ158より加熱用の光ビームを照射し、あるいはガスノズル160より冷却用のガスを噴射することにより、一定の温度−誘電率特性(
図37C)に基づいて誘電体156の誘電率を可変し、ひいては可変コンデンサ74の静電容量を可変制御する。
【0207】
一変形例として、
図38に示すように、可変コンデンサ74の静電容量を湿度で可変制御する方式も可能である。この構成例では、フローティングコイル70の1つ(または複数)の切れ目Gに、湿度によって誘電率が変化する感湿性の材質、たとえば架橋ポリイミド、セルロース・アセテート、ポリビニル・アルコール、ポリアクリル・アミドまたはポリビニル・ピロリドンからなる誘電体162を挿入する。このような感湿性の誘電体162に対して、たとえばレーザまたはランプ164より加熱または乾燥用の光ビームを照射し、あるいはガスノズル166より蒸気を噴射することにより、一定の湿度−誘電率特性(図示せず)に基づいて誘電体162の誘電率を可変し、ひいては可変コンデンサ74の静電容量を可変制御する。乾燥手段として、光ビームに代えて乾燥ガスを使用することも可能である。
[フローティングコイルのレイアウト構造に関する他の実施例]
【0208】
図39〜
図43につき、フローティングコイルの巻線またはレイアウト構造に関する他の実施例を説明する。
【0209】
フローティングコイル70のコイル径がスパイラル状RFアンテナ54の内径と外径との中間にある場合は、
図39に示すように、フローティングコイル70のコイル導体の上を跨いでRFアンテナ54の内側部分と外側部分とを接続する高架接続導体170を設けてよい。なお、RFアンテナ54にたとえばコンデンサ172からなる終端回路を接続してもよい。
【0210】
また、
図40Aおよび
図40Bに示すように、スパイラル状のRFアンテナ54に対してフローティングコイル70が径方向で互い違いになるようなスパイラル形状を有する構成も可能である。
【0211】
また、
図41に示すように、コイル径の異なる独立した2つのスパイラル状フローティングコイル70A,70Bを同心状に並べて配置してもよい。
【0212】
別の実施例として、図示省略するが、高さ位置の異なる独立した複数のフローティングコイル70A,70B,・・・を同軸状に並べて配置することも可能である。
【0213】
また、
図42に示すように、コイル径の異なる複数(たとえば2つ)のスパイラルフローティングコイル70C,70Dを可変または固定コンデンサ74C(90C)、74D(90D)を介して直列に接続し、全体として1つの複巻フローティングコイルとすることも可能である。さにらは、図示省略するが、コンデンサ74C(90C)、74D(90D)のいずれか一方を省いてその部分を短絡する構成も可能である。
【0214】
また、
図43に示すように、1つまたは複数(図示の例は3つ)のフローティングコイル70(1),70(2),70(3)のそれぞれのループ内に、固定コンデンサ94(1),94(2),94(3)または可変コンデンサ74(1),74(2),74(3)と開閉スイッチS(1),S(2),S(3)とを直列接続(または並列接続)で設ける構成も可能である。
[他の実施形態または変形例]
【0215】
本発明におけるフローティングコイルには大きな誘導電流(時にはRFアンテナに流れる電流よりも大きな電流)が流れることもあり、フローティングコイルの発熱に留意することも大切である。
【0216】
この観点から、
図44Aに示すように、フローティングコイル70の近傍に空冷ファンを設置して空冷式で冷却するコイル冷却部を好適に設けることができる。あるいは、
図44Bに示すように、フローティングコイル70を中空の銅製チューブで構成し、その中に冷媒を供給してフローティングコイル70の過熱を防止するコイル冷却部も好ましい。
【0217】
図45につき、本発明におけるフローティングコイルの二次的機能に関する一実施例を説明する。
【0218】
この実施例は、誘導結合型プラズマエッチング装置より排出されるガス中に含まれる温室効果ガスをプラズマで分解処理するための誘導結合形プラズマ排ガス分解処理装置190を併設している。この誘導結合形プラズマ排ガス処理装置190は、たとえば石英またはアルミナからなる円筒状の反応容器または反応管192の周囲にヘリカル形のRFアンテナ194を備えている。
【0219】
この実施例では、このRFアンテナ194をフローティングコイル70の切れ目Gの間に設けられるコンデンサ(74,94)と電気的に直列接続に接続している。フローティングコイル70に流れるコイル電流(誘導電流)I
INDは同時にRFアンテナ194にも流れ、反応管192内に誘導結合のプラズマを生成する。反応管192には、誘導結合型プラズマエッチング装置の排気ポート22より排気管24を介して排ガスが導入される。この種の排ガス中の代表的な温室効果ガスは、フッ素と炭素の化合物であるパーフルオロカーボン、フッ素と炭素と水素の化合物であるハイドロフルオロカーボン、NF
3,SF
6等であり、誘導結合による高周波放電のプラズマで分解し、環境負荷の低いガスに変換され、排気装置26へ送られる。
【0220】
反応管192には、排ガスの分解効率を向上させるための添加ガスたとえはO
2ガスも所定の流量または混合比で導入される。図示省略するが、反応容器192の外周にたとえば冷却水を通す水冷パイプを巻いて反応管192を温調してもよい。また、排ガス分解処理を更に促進するために、反応管192の周囲に別のヘリカル形RFアンテナ(図示せず)を併設し、これに別個の独立した高周波電流を供給する構成も可能である。
【0221】
この実施例においては、上記のように、誘導結合型プラズマエッチング装置のフローティングコイル70と誘導結合型プラズマ排ガス分解処理装置190のRFアンテナ194とを電気的に直列に接続している。そして、誘導結合形プラズマエッチング装置において誘導結合型プラズマのプラズマ密度分布の制御のためにフローティングコイル70に流れる誘導電流I
INDをRFアンテナ194にも流して、誘導結合型プラズマ排ガス分解処理装置190のプラズマ生成に再利用している。
【0222】
上述した実施形態における誘導結合型プラズマエッチング装置の構成は一例であり、プラズマ生成機構の各部はもちろん、プラズマ生成に直接関係しない各部の構成も種種の変形が可能である。
【0223】
また、処理ガス供給部においてチャンバ10内に天井から処理ガスを導入する構成も可能であり、サセプタ12に直流バイアス制御用の高周波RF
Lを印加しない形態も可能である。一方で、複数のRFアンテナまたはアンテナ・セグメントを使用し、複数の高周波電源または高周波給電系統によりそれら複数RFアンテナ(またはアンテナ・セグメント)にプラズマ生成用の高周波電力をそれぞれ個別に供給する方式のプラズマ装置にも本発明は適用可能である。
【0224】
さらに、本発明による誘導結合型のプラズマ処理装置またはプラズマ処理方法は、プラズマエッチングの技術分野に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマプロセスにも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。