特許第5758913号(P5758913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758913
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】ヒートポンプ装置の運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20150716BHJP
   F25B 1/02 20060101ALI20150716BHJP
   F25B 7/00 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   F25B1/00 361L
   F25B1/00 371M
   F25B1/00 321J
   F25B1/02 Z
   F25B1/00 396R
   F25B1/00 397A
   F25B7/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-549570(P2012-549570)
(86)(22)【出願日】2010年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2010073459
(87)【国際公開番号】WO2012086089
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】工藤 孝典
(72)【発明者】
【氏名】荒田 徳幸
(72)【発明者】
【氏名】後川 浩
(72)【発明者】
【氏名】深野 修司
(72)【発明者】
【氏名】中島 史
【審査官】 仲村 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−170007(JP,A)
【文献】 特開2000−146327(JP,A)
【文献】 特開2004−108683(JP,A)
【文献】 特開2003−065616(JP,A)
【文献】 特開2006−194565(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/119591(WO,A1)
【文献】 特開2008−298406(JP,A)
【文献】 特開2003−232580(JP,A)
【文献】 特開2005−172249(JP,A)
【文献】 特開2008−070060(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/112322(WO,A1)
【文献】 特開平05−180518(JP,A)
【文献】 特開平10−009690(JP,A)
【文献】 特開2002−277075(JP,A)
【文献】 特開平09−004933(JP,A)
【文献】 特開2005−241070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 1/02
F25B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NH冷媒を用いて、50〜100℃の高温水を製造するために、高圧側ヒートポンプ装置と低圧側ヒートポンプ装置とを組み合わせ、
前記前者の高圧側ヒートポンプ装置はNH冷媒を用い、該NH冷媒が循環する第1の冷媒循環路に、複数の気筒のピストンを駆動する駆動モータと、該駆動モータによって駆動される潤滑油ポンプとを備えた多気筒型往復動圧縮機と、第1の凝縮器と、第1の膨張弁と、第1の蒸発器とが設けられて構成され、
一方前記低圧側ヒートポンプ装置は他の冷媒が循環する第2の冷媒循環路に、圧縮機と、第2の凝縮器と、レシーバと、第2の膨張弁と、サージドラムとが設けられて構成され、
前記高圧側ヒートポンプ装置側の前記第1の蒸発器は、前記低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路に組み込んで、低圧側ヒートポンプ装置の他の冷媒の保有熱を熱源とするカスケードコンデンサとして構成して、
カスケードコンデンサで他の冷媒ガスと熱交換し気化したNH冷媒ガスは、前記高圧側ヒートポンプ装置の多気筒型往復動圧縮機に送られ、ここで圧縮された後、前記第1の凝縮器で凝縮されるとともに該第1の凝縮器には、高温水の循環路が接続され、高温水が供給先から前記第1の凝縮器に連続的に循環されているとともに、前記往復動圧縮機の冷媒吸入路に加熱機構を設け、該冷媒吸入路に流入するNH冷媒を飽和温度以上に保持するようにして運転制御し、
該運転制御を、前記多気筒型往復動圧縮機の許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量が該往復動圧縮機の潤滑状態を保持し得る潤滑下限負荷までの間の負荷運転は、該多気筒型往復動圧縮機を全気筒運転しながら該多気筒型往復動圧縮機を駆動する駆動モータの回転数制御で行い、一方前記潤滑下限負荷以下では、前記駆動モータの回転数制御と前記多気筒型往復動圧縮機の気筒数制御とを組み合わせて行なうことを特徴とするヒートポンプ装置の運転制御方法
【請求項2】
前記カスケードコンデンサは、第2の冷媒循環経路に設けた凝縮器に対して、並列となるように、前記第2の冷媒循環路に接続して前記第2の冷媒循環路を通る冷媒ガスの一部が、分岐管を通り、前記高圧側ヒートポンプ装置の前記カスケードコンデンサに導入可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載のヒートポンプ装置の運転制御方法
【請求項3】
前記カスケードコンデンサが低圧側ヒートポンプ装置の凝縮器と圧縮機との間に直列に配置され、該凝縮器の冷媒流量を調整するか、又はカスケードコンデンサと凝縮器との間に設けた吐出圧力調整弁により該凝縮器の凝縮圧力を調整するようにしたことを特徴とする請求項1記載のヒートポンプ装置の運転制御方法
【請求項4】
前記低圧側ヒートポンプ装置の凝縮した冷媒液を前記カスケードコンデンサで過冷却させ、過冷却した冷媒液を低圧側ヒートポンプ装置の低圧側冷媒循環路に戻すことを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ装置の運転制御方法
【請求項5】
前記往復動圧縮機の停止時又は起動時に、往復動圧縮機の吐出路の高圧冷媒ガスを蒸発器側と均圧させる均圧機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至いずれか1項に記載のヒートポンプ装置の運転制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NH冷媒を用いたヒートポンプ装置によって、所望温度の高温水又は低温水を安定供給可能にしたヒートポンプ装置の運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からヒートポンプ装置の作動冷媒として、地球環境保全の観点から、フロンに代わり、オゾン層破壊係数(ODP),地球温暖化係数(GWP)が少ない自然冷媒の活用が推進されてきた。自然冷媒であるCOは、ODP=0、GWP=1と小さく、給湯では、高温給湯が可能であり、COPも高いため、家庭用や業務用の給湯機として実用されている。
【0003】
しかし、CO冷媒は、周囲雰囲気温度において一般冷媒よりも圧力が高いため、既存設備が使用できず、CO圧力対応の設備を配管系も含めて新設となるので、設備費が高コストとなるという問題がある。そこで、ODP=0、GWP≒0の自然冷媒であり、蒸発潜熱が大きく、冷却能力又は加熱能力が高いNH冷媒を使用したヒートポンプ装置が製品化され、高温水を製造する省エネ型のボイラ代替機能として実用化されている。
特許文献1及び特許文献2には、NH冷媒を用いたヒートポンプ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−255919号公開公報
【特許文献2】国際公開WO2010−13590号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒートポンプ装置では、製造した高温水の利用先として、暖房、給湯、産業プロセス加熱、洗浄、殺菌、融雪等がある。これらの用途では、一定温度の温水を継続して供給する運転が求められる。また、負荷が低下した場合、負荷側からの環水温度が上がるため、ヒートポンプ装置の容量制御を行なう必要がある。また、ヒートポンプ装置の熱源や周囲温度の変化によっても、ヒートポンプ装置の冷却能力又は加熱能力が異なってくるため、これらの変化に対応した運転制御を行なう必要がある。一定温度の温水を継続して供給するためには、負荷や周囲温度の変動に合わせて、圧縮機の容量を比例制御する必要がある。
【0006】
また、NH冷媒は、例えば、50〜100℃の高温水を製造するためには、ヒートポンプサイクルの低圧側で1.5MPa、高圧側では5MPaを超える圧力となる。そのため、運転条件及び周囲温度等の変動要素により、冷媒圧力が左右され、停止時の吸入配管、圧縮機、吐出配管及び運転時の吸入配管、圧縮機の冷媒側表面温度が、NH3冷媒ガス圧力の飽和温度以下に低下してNH冷媒ガスが液化するという問題がある。
【0007】
また、圧縮機吸入路のNH冷媒ガス圧力が高くなったとき、吸入配管の温度がそれに追従できず、高温化したNH3冷媒ガスが吸入配管に接触して液化する場合もある。液化冷媒が圧縮機に吸入されると、ピストンやピストンリング等の金属接触が起こり、機器、部品が損傷するおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、NH冷媒を用いたヒートポンプ装置において、負荷や周囲環境の変動に対しても、COPを低下させることなく、常に所望温度、例えば50〜90℃の高温水等を供給可能にすることを目的とする。
また、運転中又は運転停止時に、圧縮機を構成する機器、部品等の損傷を防止することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、NH冷媒を用いて、50〜100℃の高温水を製造するために、高圧側ヒートポンプ装置と低圧側ヒートポンプ装置とを組み合わせ、
前記前者の高圧側ヒートポンプ装置はNH冷媒を用い、該NH冷媒が循環する第1の冷媒循環路に、複数の気筒のピストンを駆動する駆動モータと、該駆動モータによって駆動される潤滑油ポンプとを備えた多気筒型往復動圧縮機と、第1の凝縮器と、第1の膨張弁と、第1の蒸発器とが設けられて構成され、
一方前記低圧側ヒートポンプ装置は他の冷媒が循環する第2の冷媒循環路に、圧縮機と、第2の凝縮器と、レシーバと、第2の膨張弁と、サージドラムとが設けられて構成され、
前記高圧側ヒートポンプ装置側の前記第1の蒸発器は、前記低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路に組み込んで、低圧側ヒートポンプ装置の他の冷媒の保有熱を熱源とするカスケードコンデンサとして構成して、
カスケードコンデンサで他の冷媒ガスと熱交換し気化したNH冷媒ガスは、前記高圧側ヒートポンプ装置の多気筒型往復動圧縮機に送られ、ここで圧縮された後、前記第1の凝縮器で凝縮されるとともに該第1の凝縮器には、高温水の循環路が接続され、高温水が供給先から前記第1の凝縮器に連続的に循環されているとともに、前記往復動圧縮機の冷媒吸入路に加熱機構を設け、該冷媒吸入路に流入するNH冷媒を飽和温度以上に保持するようにして運転制御し
該運転制御を、前記多気筒型往復動圧縮機の許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量が該往復動圧縮機の潤滑状態を保持し得る潤滑下限負荷までの間の負荷運転は、該多気筒型往復動圧縮機を全気筒運転しながら該多気筒型往復動圧縮機を駆動する駆動モータの回転数制御で行い、一方前記潤滑下限負荷以下では、前記駆動モータの回転数制御と前記多気筒型往復動圧縮機の気筒数制御とを組み合わせて行なうことを特徴とする。
【0010】
又本発明では、圧縮機として、比較的低コストでかつ容量制御が容易な往復動圧縮機を用いている。そして、前記往復動圧縮機は、許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量が往復動圧縮機の潤滑状態を保持し得る潤滑下限負荷までの間の前記往復動圧縮機の容量制御を、往復動圧縮機を駆動する駆動モータの回転数制御で行うと共に、潤滑下限負荷以下の往復動圧縮機の容量制御を、前記駆動モータの回転数制御と気筒数制御とを組み合わせて行ない、熱交換流体の凝縮器又は蒸発器での出口温度を設定範囲に保持する。これにより、許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量を確保し得る潤滑下限負荷までの間の往復動圧縮機の容量制御を、全気筒運転しながら駆動モータの回転数制御によって行なう。また、それ以下の負荷では、気筒数制御と駆動モータの回転数制御とを組み合わせて行なうようにしたものである。
【0011】
これによって、高いCOPを維持しながら、負荷に対する比例制御を可能にしている。また、負荷に対する比例制御を可能にすることによって、圧縮機吸入配管での冷媒の液化を防止するようにしている。さらに、熱交換流体の凝縮器又は蒸発器での出口温度を設定範囲に保持することで、高低所望温度の熱交換流体を製造可能になる。
【0012】
圧縮機の容量を減少させると、冷媒循環量が減少するので、蒸発器の蒸発能力に余裕が生じることから、蒸発温度が上昇し、それにより吸入圧力が上昇する。そのため、過度的に吸入配管の温度がNH冷媒の飽和温度を下回り、NH冷媒ガスの凝縮液化が生じる可能性がある。
本発明方法において、往復動圧縮機の冷媒吸入路に設けられた加熱機構によって、該冷媒吸入路に流入するNH冷媒を飽和温度以上に保持し、NH冷媒の往復動圧縮機への液バックを防止する。
【0013】
この場合、圧縮機の容量減の制御を行なう前に、予め加熱機構を作動させておくとよい。これによって、ヒートポンプ装置の運転中又は停止中に、NH冷媒の圧縮機への液バックを確実に防止できる。そのため、圧縮機を構成する機器、部品の潤滑性を良好に保持できるので、圧縮機摺動部の異常摩耗を防止できる。
【0014】
本発明において、往復動圧縮機の吸入路に設けられた遮断弁によって、ヒートポンプ装置の停止時該吸入路を遮断し、NH冷媒の往復動圧縮機の起動時の液バックを防止するとよい。ヒートポンプ装置の熱源が多種多様に異なる場合、ヒートポンプ装置の停止時に、圧縮機の温度が低いとき、前記遮断弁で吸入路を遮断することにより、吸入路から圧縮機への液バックを防ぎ、圧縮機起動時の潤滑油フォーミング及び圧縮機摺動部の異常摩耗を確実に防止できる。
【0015】
本発明において、往復動圧縮機の停止時に、往復動圧縮機の吐出路の高圧冷媒ガスを吸入遮断弁のある蒸発器側(低圧部)へ逃がすことにより、往復動圧縮機の高低圧力差を最少にし、往復動圧縮機の高圧部での液化を防止するようにするとよい。往復動圧縮機の停止直後に、吐出路の高圧冷媒ガスを低圧の蒸発器側に逃がすことにより、圧縮機吐出路側が周囲温度により冷却され、圧縮室内部のNH冷媒が液凝縮し、次の起動時に往復動圧縮機の内部機器に損傷を与える危険性を軽減することができる。
【0016】
また、本発明において、往復動圧縮機の起動時に、往復動圧縮機の吐出路の高圧冷媒ガスを吸入遮断弁のある蒸発器側(低圧部)へ逃がすことにより、往復動圧縮機の高低圧力差を最少にし、該往復動圧縮機の起動トルクを低減させるようにするとよい。圧縮機の起動時に、吸入路と吐出路との圧力差が少ないほど、圧縮機の駆動モータの起動トルクが小さくて済む。そのため、圧縮機の起動時に、圧縮機の吐出路の高圧を低圧の蒸発器側に均圧させることで、駆動モータの起動トルクを低減できる。
【0017】
前記本発明は、許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量が往復動圧縮機の潤滑状態を保持し得る潤滑下限負荷までの間の往復動圧縮機の容量制御を、往復動圧縮機を駆動する駆動モータの回転数制御によって行うと共に、潤滑下限負荷以下の往復動圧縮機の容量制御を、前記駆動モータの回転数制御と気筒数制御とを組み合わせて行ない、熱交換流体の凝縮器又は蒸発器での出口温度を設定範囲に保持する。
【0018】
本発明では、圧縮機として、比較的低コストでかつ容量制御が容易な往復動圧縮機を用いている。熱交換流体の凝縮器又は蒸発器での出口温度を検出しながら、許容最大負荷から潤滑油ポンプの流量を確保し得る潤滑下限負荷までの間の往復動圧縮機の容量制御を、全気筒運転しながら駆動モータの回転数制御によって行なう。また、それ以下の負荷では、気筒数制御と駆動モータの回転数制御とを組み合わせて行なうようにしたものである。
【0019】
これによって、高いCOPを維持しながら、負荷に対する比例制御を可能にしている。また、負荷に対する比例制御を可能にすることによって、圧縮機吸入配管での冷媒の液化を防止するようにしている。また、熱交換流体の凝縮器又は蒸発器での出口温度を設定範囲に保持することで、所望温度の熱媒体を製造可能になる。
【0020】
本発明において、往復動圧縮機の冷媒吸入路に加熱機構を設け、該冷媒吸入路に流入するNH冷媒を飽和温度以上に保持し、NH冷媒の往復動圧縮機への液バックを防止するようにする。このように、NH冷媒を飽和温度以上に保持することで、NH冷媒の液化を防止し、これによって、ヒートポンプ装置の運転中又は停止中に、NH冷媒の圧縮機への液バックを確実に防止できる。そのため、圧縮機を構成する機器、部品の潤滑性を良好に保持できるので、圧縮機摺動部の異常摩耗を防止できる。
【0021】
本発明において、前記加熱機構が、往復動圧縮機の吸入路に設けられた加熱ヒータであるとよい。これによって、簡素かつ低コストな構成で、NH冷媒の圧縮機への液バックを確実に防止できる。
【0022】
前記加熱機構は、圧縮機の吸入路を二重管構造にし、往復動圧縮機から吐出した冷媒ガス又は凝縮器出口側の冷媒液を該二重管構造の外側管に導入し、該冷媒ガス又は冷媒液の保有熱で吸入路を加熱するようにするとよい。これによって、冷媒の保有熱を利用するので、特別なエネルギー源を必要としない利点がある。
【0023】
前記加熱機構は、圧縮機から吐出した冷媒ガスの一部を分岐させ、吸入路に注入させて、該冷媒ガスの保有熱で吸入路を加熱するようにしたものでもよい。冷媒ガスの顕熱分を吸入路の加熱に利用できるので、加熱効率を向上できる。
【0024】
前記加熱機構は、圧縮機を着脱型の保温ジャケットで覆うものであるとよい。これによって、設備工事を簡素化かつ低コストにできる。
【0025】
本発明において、往復動圧縮機の停止時又は起動時に、往復動圧縮機の吐出路の高圧ガスを吸入遮断弁の蒸発器側(低圧部)へ逃がす均圧機構を設けるようにするとよい。往復動圧縮機の停止直後に、吐出路の高圧ガスを低圧の蒸発器側に逃がすことにより、圧縮機高圧側が周囲温度により冷却され、内部のNH冷媒が液凝縮し、次の起動時に往復動圧縮機の内部機器に損傷を与える危険性を軽減することができる。
また、往復動圧縮機の起動時に、吐出路の高圧を蒸発器側低圧に均圧させることで、起動時の駆動モータの起動トルクを低減できる。
【0026】
前記均圧機構が、往復動圧縮機の吐出路又は凝縮器に熱交換器を設け、ヒートポンプ装置の停止時に該熱交換器に冷却媒体を流し、冷媒ガスを凝縮液化して吐出路の冷媒ガス圧を低減するものであるとよい。これによって、圧縮機の吸入路と吐出路との圧力差を小さくでき、圧縮機駆動モータの起動トルクを低減できる。なお、前記冷却媒体の温度又は流量を調整することで、吐出路の冷媒圧力を精度良く調整でき、そのため、吸入路と吐出路との圧力差を精度良く調整できる。
【0027】
本発明において、他の冷媒が循環する第2の冷媒循環路に、圧縮機と、凝縮器と、レシーバと、膨張弁と、サージドラムとが設けられて構成されている低圧側ヒートポンプ装置より成り、
前記高圧側ヒートポンプ装置側の前記蒸発器は、前記低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路に組み込まれ、該低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路に組み込まれ、低圧側ヒートポンプ装置の冷媒の保有熱を熱源とするカスケードコンデンサとして構成され、該低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路の圧力調整を行なって、熱交換流体の凝縮器出口温度を設定範囲に保持するようにする。これによって、熱交換流体を高温化でき、高い温度の熱交換流体を必要とする需要先の要求に応じることができる。
【0028】
また、低圧側ヒートポンプ装置の保有熱を熱源として利用するとき、低圧側ヒートポンプ装置の凝縮温度が、例えば季節により、夏期は凝縮温度が40℃となり、冬期は凝縮温度が15℃となり、熱源温度が大きく変動する。凝縮温度が15℃となれば、COPは低減すると共に汲み上げる熱量が減少して、熱交換流体を要求温度にできない場合がある。これに対し、低圧側ヒートポンプ装置の高圧側冷媒経路の圧力調整を行なうことにより、熱交換流体を設定温度に調整できる。
【0029】
なお、低圧側ヒートポンプ装置を設けた前記構成において、低圧側ヒートポンプ装置の凝縮後の冷媒液をカスケードコンデンサで過冷却させ、過冷却した冷媒液を低圧側ヒートポンプ装置の低圧側冷媒循環路に戻すように構成するとよい。これによって、低圧側ヒートポンプ装置の冷凍効果を向上できる。
【0030】
また、カスケードコンデンサが低圧側ヒートポンプ装置の凝縮器と並列に配置され、該凝縮器の冷媒流量を調整して該凝縮器の凝縮圧力を調整するように構成するとよい。これによって、カスケードコンデンサの熱源を確保しながら、夏期においては、低圧側ヒートポンプ装置の凝縮負荷の一部をカスケードコンデンサで分担軽減し、低圧側ヒートポンプ装置の凝縮器の冷媒凝縮温度を低減することにより、COPを向上させた高効率運転が可能になる。冬期においては、低圧側ヒートポンプ装置の凝縮負荷を低減させ、カスケードコンデンサの熱源に供する側の比率を増加させることにより、ヒートポンプ装置の高効率運転が可能となる。
【0031】
従って、ヒートポンプ装置の熱交換流体の凝縮器出口温度を高い方向に可変制御運転する場合、低圧側ヒートポンプ装置と並行して凝縮負荷を制御することにより、カスケードコンデンサと熱交換する凝縮液の温度を上げて高効率運転が容易となる。これらの夏期及び冬期の運転条件を計画制御することにより、ヒートポンプ装置及び低圧側ヒートポンプ装置の通年の総合運転効率を最適化できる。これによって、ヒートポンプ装置の所期凝縮圧力相当の熱源温度が確保できるので、熱交換流体を所期温度まで高温化できる。
【0032】
前記構成において、カスケードコンデンサが低圧側ヒートポンプ装置の凝縮器と圧縮機との間に直列に配置され、該凝縮器の冷媒流量を調整するか、又はカスケードコンデンサと凝縮器との間に設けた吐出圧力調整弁により該凝縮器の凝縮圧力を調整するように構成するとよい。これによって、低圧側ヒートポンプ装置の冷媒の過熱分を含め顕熱分を有効に利用できるため、第2ヒートポンプ装置の容量が小さい場合でも、カスケードコンデンサの熱源を確保できる。また、吐出圧力調整弁で低圧側ヒートポンプ装置の冷媒ガスの凝縮圧力を制御することで、凝縮温度を低減し、これによって、低圧側ヒートポンプ装置の運転効率を向上できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明方法によれば、高いCOPを維持しながら、負荷に対する比例制御を可能にし、これによって、所望温度の熱交換流体の製造を可能にし、かつ圧縮機吸入配管での冷媒の液化を防止できる。
【0034】
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明方法及び装置の第1実施形態に係るヒートポンプ装置の全体構成図である。
図2】前記第1実施形態で圧縮機吸入路に設けられた加熱機構を示す説明図である。
図3A】圧縮機の容量制御方法を示す線図であり、比較例を示す。
図3B】圧縮機の容量制御方法を示す線図であり、第1実施形態の容量制御を示す。
図3C】圧縮機の容量制御方法を示す線図であり、例外的な容量制御を示す。
図4A】圧縮機の容量制御に対する温水温度の追従性に係る実験データを示す線図であり、比較例としての容量制御を示す。
図4B】圧縮機の容量制御に対する温水温度の追従性に係る実験データを示す線図であり、本発明の容量制御を示す。
図5】別な加熱機構を示す説明図である。
図6】さらに別な加熱機構を示す説明図である。
図7】さらに別な加熱機構を示す説明図である。
図8】本発明方法及び装置の第2実施形態に係るヒートポンプ装置の全体構成図である。
図9】本発明方法及び装置の第3実施形態に係るヒートポンプ装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0037】
本発明方法及び装置の第1実施形態を図1図2図3A図3C及び図4A図4Bに基づいて説明する。図1に、本実施形態のヒートポンプ装置10Aを示す。ヒートポンプ装置10Aは、NHを冷媒とする高圧側ヒートポンプ装置12と、低圧側ヒートポンプ装置40とから構成されている。低圧側ヒートポンプ装置40で用いられる冷媒の種類は特に限定されない。NH冷媒を用いてもよい。
【0038】
高圧側ヒートポンプ装置12は、NH冷媒が循環する冷媒循環路14a〜14cに、多気筒型往復動圧縮機16、例えば6気筒を備えた往復動圧縮機16と、凝縮器18と、膨張弁20と、カスケードコンデンサ22とが設けられて構成されている。多気筒型往復動圧縮機16は、駆動モータ24と、駆動モータ24の回転数を制御するインバータ装置26と、クランク軸の回転と連動して、クランクケース30内に溜まった潤滑油oを圧縮機内の各機器及び部品に供給する潤滑油ポンプ28とを備えている。
【0039】
低圧側ヒートポンプ装置40は、冷媒循環路42a〜42eに、圧縮機44と、凝縮器46と、レシーバ48と、膨張弁50と、サージドラム52とが設けられて構成されている。圧縮機44の種類は特に限定されない。また、サージドラム52と蒸発器54との間は、第2の冷媒循環路56a及び56bで接続され、サージドラム52から液ポンプ58によって蒸発器54に冷媒液が循環されている。蒸発器54には、各種冷却用途の冷水又は冷凍冷蔵装置(図示省略)などで製造される冷却媒体wが循環する循環管60が組み込まれ、冷却媒体wが蒸発器54に送られてくる。蒸発器54で冷媒液と冷却媒体wとが熱交換され、冷媒液の一部が冷媒ガスとなって、サージドラム52に戻される。
【0040】
サージドラム52内の冷媒ガスは、圧縮機44に送られて圧縮された後、凝縮器46で凝縮される。凝縮した冷媒液r1は、一旦レシーバ48に貯留された後、膨張弁50を通って一部がガス化し、サージドラム52に戻される。冷媒循環路42aを通る冷媒ガスの一部r2は、分岐管62aを通り、高圧側ヒートポンプ装置12のカスケードコンデンサ22に導入される。カスケードコンデンサ22は、凝縮器46に対して、並列となるように、冷媒循環路42a〜42eに接続されている。
【0041】
カスケードコンデンサ22に導入された冷媒ガスr2は、カスケードコンデンサ22でNH冷媒と配管を介して間接熱交換し、NH冷媒に吸熱される。カスケードコンデンサ22で液化された冷媒は、分岐管62bを通って冷媒循環路42dに戻る。なお、冷媒循環路42aには、凝縮器46の上流側で流量調整弁64が設けられている。この流量調整弁64で凝縮器46に入る冷媒ガスの流量を調整することで、分岐管62aからカスケードコンデンサ22に送られる冷媒ガスr2の凝縮圧力を調整する。
【0042】
カスケードコンデンサ22で冷媒ガスr2と熱交換し気化したNH冷媒ガスは、多気筒型往復動圧縮機16に送られ、ここで圧縮された後、凝縮器18で凝縮される。凝縮器18には、高温水の循環路34が接続され、高温水が供給先Aから凝縮器18に連続的に循環している。NH冷媒ガスは、この高温水と熱交換し、冷却されて凝縮する。凝縮器18で50〜100℃に加熱された高温水hは、供給先Aに供給される。供給先Aでは、暖房、給湯、産業用プロセスの加熱源、洗浄、殺菌又は融雪等に使用される。
【0043】
凝縮したNH冷媒液は、膨張弁20で減圧され、カスケードコンデンサ22で低圧側ヒートポンプ装置40の冷媒ガスr2と熱交換して気化する。凝縮器18の循環路34の出口側には高温水hの温度を検出する温度センサ36が設けられている。
【0044】
コントローラ66には、温度センサ36の検出値が入力される。また、コントローラ66は、往復動圧縮機16の吸入弁の動作を制御して運転気筒数を調整すると共に、インバータ装置26を制御して往復動圧縮機16の回転数を制御できる。また、コントローラ66は、圧縮機44の駆動モータ45を、インバータ装置(図示省略)等を介して制御すると共に、膨張弁20、50及び流量調整弁64の開度を制御できる。
【0045】
また、多気筒型往復動圧縮機16と凝縮器18間の吐出路14bに、冷却器32が設けられている。冷却器32には冷却水cが循環しており、冷却器32を通るNH冷媒ガスを冷却水cで冷却し、NH冷媒ガスの圧力を低減している。
【0046】
また、図2に示すように、往復動圧縮機16の吸入路14aには、加熱機構70Aが設けられている。図2において、この加熱機構70Aは、吸入路14aを構成する吸入配管に、加熱ヒータを内蔵して吸入配管を被覆した保温材702と、吸入配管の温度を検出する温度センサ704と、吸入配管を流れるNH冷媒ガスの温度及び圧力を検出する温度センサ706及び圧力センサ708とで構成されている。また、吸入配管には、ヒートポンプ装置10の停止時に吸入配管を遮断する遮断弁72が設けられている。これらセンサの検出値はコントローラ66に入力され、遮断弁72の動作は、コントローラ66によって制御される。
【0047】
かかる構成において、コントローラ66によって、往復動圧縮機16の駆動モータ24の回転数と、気筒数とを制御しながらヒートポンプ装置10Aを運転する。図3Aに示すように、多気筒型往復動圧縮機16が回転数を一定にし、気筒数制御のみで、温度センサ36で検出される高温水hの温度を設定範囲に制御する場合、多気筒型往復動圧縮機16の容量制御は段階的なステップ状のものとなる。例えば、多気筒型往復動圧縮機16を2気筒ずつ増減制御する場合、多気筒型往復動圧縮機16の容量は、100%、67%及び33%と段階的な制御となる。図3A図3Cの横軸は、多気筒型往復動圧縮機16の許容最高回転数かつ全気筒運転での能力を100%としている。縦軸は、100%容量時のCOPを1としたものである。
【0048】
図3Aに示すように、気筒数のみの制御では、温度センサ36の検出値を設定範囲に制御しようとするとき、該検出値が設定範囲にうまく合わず、ハンチングする場合がある。図3Bは、気筒数制御と回転数制御とを組み合わせた本実施形態の制御方法を示す。100%容量から圧縮機の回転数を下げ、潤滑油ポンプ28が往復動圧縮機16の潤滑性能を維持できる最低回転数になる容量までは、全気筒運転下で圧縮機の回転数を下げていくことで、容量制御を行なう。それ以下の容量に落とすときは、運転気筒数を4気筒に落とし、逆に各気筒の回転数を上げる。往復動圧縮機では、回転数が低いほうがCOPを向上できるので、なるべく低い回転数で運転するようにする。
【0049】
6気筒運転のとき、許容最高回転数が1500rpmで、最低回転数が900rpmとする。このとき、4気筒運転での許容最高回転数での運転を、6気筒での最低回転数での運転と比べ、数%減となるように設定することで、気筒数が変わっても圧縮機の容量を連続的にPID制御できる。4気筒運転から2気筒運転に移行する場合も同様に設定する。
図3Cは、温水需要の高負荷運転時間が長く続き、温水需要がなくても低負荷運転を継続する必要がある場合の例外的な運転方法である。この場合、6気筒運転中は回転数制御を行ない、4気筒運転及び2気筒運転中は、最低回転数のみで運転することで、高いCOPでの運転が可能となる。
【0050】
本実施形態では、温度センサ36で高温水hの温度を検出し、この検出値が設定範囲になるように、往復動圧縮機16の回転数と気筒数とを制御する。また、運転中、温度センサ704,706及び圧力センサ708を検出しながら、NH冷媒ガスの圧力変動によっても、NH冷媒ガスが液化しないように、加熱機構70Aを作動させておく。ヒートポンプ装置10Aの起動時にも、予め加熱機構70Aを作動させて温度制御を行なう。ヒートポンプ装置10Aの運転停止時には、遮断弁72で吸入路14aを遮断することで、起動時の液バックを防止する。例えば蒸発器54の熱源である冷水wの循環が冷凍冷蔵装置側の特別な事由により停止せず、高圧側ヒートポンプ装置12側が停止し、蒸発器54側より冷媒温度が下がる場合に、往復動圧縮機16側での起動時の冷媒液化を防止する。
【0051】
また往復動圧縮機16の起動前に、冷却器32を作動させ、吐出路14bの冷媒圧力を低減させておく。これによって、往復動圧縮機16の起動トルクを低減できる。
また、コントローラ66で流量調整弁64の開度を制御することで、凝縮器46の凝縮圧力を制御している。また、カスケードコンデンサ22での低圧側ヒートポンプ装置40の冷媒ガスの凝縮圧力を制御することにより、高温水hの温度を設定範囲に合わせるために必要な高圧側ヒートポンプ装置12の作動条件を確保できる。
【0052】
図4A図4Bは、6気筒を備えた往復動圧縮機で、2気筒ずつの増減制御を行なった場合の運転例を示す。図4Aは、比較例として、気筒数のみの制御を行なった例であり、図4Bは、気筒数制御と回転数制御とを組み合わせた本実施形態の制御を行なった例である。制御対象は、凝縮器18の出口温水温度である。図4Aでは、供給先Aの負荷の連続的な時間変化に対して、往復動圧縮機16の能力が段階的に変化する。温水出口温度が設定温度に対して上下し、偏差が生じる。また、供給先Aの負荷量によっては、往復動圧縮機16の容量がハンチングする。
【0053】
図4Bでは、供給先Aの負荷の連続的な時間変化に対して、往復動圧縮機16の能力が連続的に追従しており、供給先Aの負荷と圧縮機能力とはほとんど一致している。そのため、温水出口温度と設定温度との間にほとんど偏差が生じていない。
【0054】
本実施形態によれば、使用先Aの負荷変動に対して、往復動圧縮機16の容量を、往復動圧縮機16の回転数制御と気筒数制御とを組み合わせて行なうことで、往復動圧縮機16の容量制御を連続的にPID制御できる。そのため、高温水hの温度を精度良く設定範囲に合わせることができる。従って、供給先Aに50〜100℃の高温水を常に継続して供給できる。また、コントローラ66で、流量調整弁64の開度を制御し、低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮器46の凝縮圧力を調整しているので、高温水hの温度を設定温度に合わせるための高圧側ヒートポンプ装置12の作動を容易にできる。
【0055】
また、往復動圧縮機16の吸入路14aを、運転中又は起動時においても、加熱機構70AによってNH冷媒の飽和温度以上に保持しているので、NH冷媒ガスが液化せず、往復動圧縮機16への冷媒液の液バックが生じない。これによって、圧縮機摺動部の異常摩耗を防止できると共に、圧縮機起動時の潤滑油フォーミングを防止できる。また、ヒートポンプ装置10Aの停止時には、遮断弁72で吸入配管を遮断しているので、停止中でも液バックが生じない。
【0056】
また、カスケードコンデンサ22が低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮器46と並列に配置され、凝縮器46に送られる冷媒流量を流量調整弁64で調整することにより、低圧側ヒートポンプ装置40の運転条件が変化しても、流量調整弁64でカスケードコンデンサ22に送る冷媒ガス量を調整できる。そのため、高圧側ヒートポンプ装置12の熱源を確保しながら、夏期においては、低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮負荷の一部をカスケードコンデンサ22で分担軽減すると共に、凝縮器46の冷媒凝縮温度を低減することにより、COPを向上させた高効率運転が可能になる。
【0057】
冬期においては、低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮負荷を高圧側ヒートポンプ装置12で低減させ、低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮冷媒液の保有熱量のうち、高圧側ヒート
ポンプ装置12の熱源に供する側の比率を増加させることにより、ヒートポンプ装置10の高効率運転が可能となる。
【0058】
従って、ヒートポンプ装置12において、NH冷媒の凝縮器18の出口温度を高い方向に可変制御運転する場合、低圧側ヒートポンプ装置40と並行して凝縮負荷を制御することにより、カスケードコンデンサ22と熱交換する低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮液の温度を上げて高効率運転が容易となる。これら夏期及び冬期の運転条件を計画制御することにより、ヒートポンプ装置10の通年の総合運転効率を最適化できる。これによって、ヒートポンプ装置10の所期凝縮圧力相当の熱源温度が確保できるので、受熱流体を所期温度まで高温化できる。
【0059】
次に、加熱機構70Aの変形例を図5により説明する。この加熱機構70Bは、吸入路14aを構成する吸入配管を二重管構造にするものである。即ち、吸入配管を内側管とし、その外側に外側管712を設け、凝縮器18と外側管712とを接続する枝管714a及び714bを設けている。枝管714aには、コントローラ66によって開閉を制御される開閉弁716を設けている。その他の構成は、加熱機構70Aと同一である。
【0060】
加熱機構70Bでは、必要時に外側管712に凝縮器18から高温の凝縮した冷媒液を導入し、吸入配管を加熱している。加熱機構70Bでは、加熱源として冷媒液の保有熱を利用しているので、特別なエネルギー源を必要としない利点がある。さらに冷媒液は、吸入路14aでの熱交換によって過冷却されるため、ヒートポンプ装置10AのCOP向上に寄与する。
【0061】
次に、加熱機構70Aのさらに別な変形例を図6により説明する。図6の加熱機構70Cは、往復動圧縮機16の吸入路14aと吐出路14bとを接続するバイパス路718を設けると共に、バイパス路718にコントローラ66によって開閉を制御される開閉弁720を設けている。その他の構成は、加熱機構70Aと同一である。
加熱機構70Cでは、必要時に開閉弁720を開け、吐出冷媒ガスを吸入路14aに導入することで、吸入路14aを加熱する。加熱機構70Cでは、吐出冷媒ガスを吸入路14aに直接導入することで、吐出冷媒ガスの顕熱を熱源として利用できるので、加熱効率を向上できる利点がある。
【0062】
なお、この変形例において、バイパス路718を吸入路14aの周囲に螺旋形状に配置し、吐出冷媒ガスの顕熱で吸入路14aを加熱し、加熱後の吐出冷媒ガスを吐出路14bに戻すように構成してもよい。あるいは吸入配管を、図5に示すように二重管構造とし、外側管にバイパス路718を接続して吐出冷媒ガスを導入し、その顕熱で内側管を加熱し、加熱後、吐出冷媒ガスを吐出路14bに戻すようにしてもよい。これらの構成例では、吐出路14bの冷媒ガス圧を、バイパス路718の通過時の圧力損失ΔPをだけ高くする必要がある。そのため、バイパス路718の分岐部より下流側の吐出路14bに絞りを設けて、吐出冷媒ガス圧を高め、この絞りの下流側吐出路14bに戻り冷媒ガスの接続部を設けるようにする。
【0063】
次に、加熱機構70Aのさらに別な変形例を図7により説明する。この加熱機構70Dは、往復動圧縮機16を構成するヘッドカバー25、圧縮機構・ピストン・シリンダスリーブ類27、潤滑油ポンプ28及びクランクケース30をすべて覆う着脱式の断熱ジャケット722と、クランクケース30内の潤滑油を加温するオイルヒータ724と、シリンダ壁の温度を検出する温度センサ726と、吸入冷媒ガス圧を検出する圧力センサ728と、吸入冷媒ガス温度を検出する温度センサ730とを備えている。これらセンサの検出値はコントローラ66に入力される。さらに、吸入配管内冷媒ガスの温度及び圧力を検出する温度センサ706と圧力センサ708(図示省略)とを設けている。
【0064】
この加熱機構70Dによれば、簡単かつ低コストな手段で往復動圧縮機16をすべて保温できる。また、断熱ジャケット722は着脱式であるので、必要時に設置すればよく、取り扱いが容易である。
【0065】
断熱ジャケット722は、往復動圧縮機停止後、周囲温度により圧縮機内部で冷媒ガスの液化を防止するため、往復動圧縮機16の全体を保温する。オイルヒータ724により一定高温に維持されたクランクケース30内の潤滑油oからの熱伝導により、コントローラ66によって、圧縮機の内部機器およびヘッドカバー25に至る圧縮機全体を、停止中の圧縮機内部の冷媒ガス圧の飽和温度以上に保持し、冷媒の液化を防止する。それにより、通常の往復動圧縮機起動時の冷凍機油フォーミングによる油圧低下防止効果とともに、冷媒液が介在することによる圧縮機構成部品の損傷を防止する。
【0066】
前記第1実施形態において、往復動圧縮機16の気筒数制御において、運転する気筒数を6,4,2に設定したが、これに限定する必要はなく、運転気筒数を奇数又は整数に設定してもよい。
【0067】
前記第1実施形態においては、カスケードコンデンサ22の熱源として、低圧側ヒートポンプ装置40から送られる冷媒液以外に、隣接した工場のプロセス流体、冷却塔排熱水、下水処理水、冷房排熱水、廃蒸気等の廃熱や、温泉熱、湖水、河川水、海水、地下水、土壌、外気等が保有する自然熱を熱源としてもよい。
【0068】
(実施形態2)
次に、本発明方法及び装置の第2実施形態を図8により説明する。本実施形態のヒートポンプ装置10Bは、低圧側ヒートポンプ装置40で、圧縮機44の吐出冷媒ガスを吐出路42aを介して直接カスケードコンデンサ22に導入している。また、熱交換後の冷媒をカスケードコンデンサ22から戻す分岐管62bを、凝縮器46に接続している。そして、分岐管62bにコントローラ66によって開度を制御される吐出圧力調整弁68を設けている。即ち、カスケードコンデンサ22を凝縮器46に対してその上流側に直列に配置している。その他の構成は第1実施形態と同一である。
【0069】
本実施形態によれば、カスケードコンデンサ22を凝縮器46の上流側に直列に配置しているので、低圧側ヒートポンプ装置40の容量が小さい場合でも、過熱冷媒ガスの顕熱分を含め、高圧側ヒートポンプ装置12に対する熱源供給能力を十分に確保できる。従って、高圧側ヒートポンプ装置12で、より高温の高温水hを製造できる。また、吐出圧力調整弁68によって、低圧側ヒートポンプ装置40の凝縮器46の凝縮圧力を制御し、凝縮器46での凝縮圧力を低減することで、凝縮温度を低下させ、これによって、低圧側ヒートポンプ装置40のCOPを向上できる。
【0070】
(実施形態3)
次に、本発明方法及び装置の第2実施形態を図9により説明する。本実施形態のヒートポンプ装置10Cは、圧縮機44から吐出された冷媒ガスは、凝縮器46で凝縮した後、レシーバ48に一旦貯留される。レシーバ48に貯留された冷媒液r1は、冷媒循環路42cを通ってカスケードコンデンサ22に送られ、高圧側ヒートポンプ装置12の熱源に供される。冷媒液r1は、カスケードコンデンサ22で熱源に供された後、冷媒循環路42dを経てサージドラム52に戻される。その他の構成は、前記第1実施形態と同一である。
【0071】
本実施形態によれば、前記第1実施形態で得られる作用効果に加えて、低圧側ヒートポンプ装置40で凝縮した冷媒液r1を高圧側ヒートポンプ装置12の熱源に供することで、冷媒液r1を過冷却し、低圧側ヒートポンプ装置40の冷凍効果を増大できる。
【0072】
なお、前記第1実施形態から第3実施形態まで、いずれも凝縮器18で所望温度の高温水hを製造する場合の例であったが、本発明はこれに限定されず、蒸発器54で所望温度の低温水、あるいはその他の低温冷媒を製造する場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、NH冷媒を用いたヒートポンプ装置において、負荷や周囲環境の変動に対しても、COPを低下させることなく、常に所望温度の高温流体又は低温流体を様々な用途に安定供給できる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9