【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のアルキル(メタ)アクリレート系熱可塑性樹脂組成物は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体をそれぞれ含む塊状重合体とグラフト共重合体とからなる組成物であって、前記組成物は、塊状重合体70〜90重量%とグラフト共重合体30〜10重量%とからなり、前記アクリル系グラフト共重合体にビニルシアン系単量体を含み、前記ビニルシアン系単量体を、前記組成物の総重量を基準として0.01〜3重量%となるように含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の熱可塑性樹脂は、上述した熱可塑性樹脂組成物から提供され、前記熱可塑性樹脂組成物の押出ペレットを射出成形させて収得された熱可塑性樹脂であって、全光線透過率(total transmittance)89以上で、ヘイズ(Haze)3.0以下であるので、電気電子製品のハウジング用途に適用されることを特徴とする。
【0012】
以下、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物について説明したあと、これから収得される熱可塑性樹脂についても具体的に説明する。
【0013】
まず、本発明では、アルキル(メタ)アクリレート系単量体をそれぞれ含む塊状重合体とグラフト共重合体とからなる組成物であって、前記組成物は、塊状重合体70〜90重量%とグラフト共重合体30〜10重量%とからなり、前記グラフト共重合体にビニルシアン系単量体を含み、前記ビニルシアン系単量体を前記組成物の総重量を基準として0.01〜3重量%となるように含むことを技術的特徴とする。
【0014】
このうち、前記ビニルシアン系単量体の含量は、ポリアルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのような非結晶性透明熱可塑性樹脂にできるだけ近くなるようにビニルシアン系単量体の含量を低減させたもので、下記の実施例で明らかになったように、極少量を使用しても高い耐スクラッチ性と低い黄色度を達成できる。
【0015】
前記ビニルシアン系単量体は、これに限定するものではないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びエタクリロニトリルの中から選択された1種以上であってもよい。
【0016】
このようなビニルシアン系単量体を組成物内に極少量で含ませる技術は、前記グラフト共重合体を構成するビニルシアン系単量体の含量を調節することによって達成できるもので、特に、本発明では、グラフト共重合体を構成する成分のうちビニルシアン系単量体を、グラフト共重合体をなす全体組成総100重量%を基準として1〜9.999重量%の範囲内で含むことに技術的特徴を有する。
【0017】
また、前記グラフト共重合体は、グラフト共重合体をなす全体成分総100重量%を基準として、アルキル(メタ)アクリレート系単量体を30〜60重量%の範囲で含ませることができる。
【0018】
さらに、前記グラフト共重合体は、グラフト共重合体をなす全体成分総100重量%を基準として、芳香族ビニル単量体5〜25重量%及び共役ジエン系ゴム質重合体20〜50重量%をさらに含むことができる。
【0019】
具体的には、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体、芳香族ビニル単量体、及びビニルシアン系単量体を、共役ジエン系ゴム質重合体にグラフトさせた共重合体であって、組成物の総重量を基準として10〜30重量%の範囲で含むことができる。
【0020】
このうち、前記共役ジエン系ゴム質重合体は、これに限定するものではないが、ブタジエンゴム質重合体、イソプレンゴム質重合体、クロロイソプレンゴム質重合体の中から選択されたものが好ましく、平均粒径が250〜500nmであり、ゲル含量が60〜95%である大粒径ゴム質重合体を使用することができる。
【0021】
このとき、平均粒径が100〜200nmで、ゲル含量が60〜95%である小粒径ゴム質重合体を、酢酸などの酸、塩基あるいはその他の高分子などを用いて、融着などの方法で大粒径化する方式を適用してもよい。
【0022】
このとき、小粒径共役ジエン系ゴム質重合体のための乳化重合用添加剤としては、ロジン酸カリウム塩またはオレイン酸カリウム塩などの乳化剤、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのような電解質、ドデシルメルカプタンなどの分子量調節剤、及び過硫酸カリウムなどの有機過酸化物開始剤を含むことができる。
【0023】
前記共役ジエン系ゴム質重合体の平均粒径、さらに、ゲル含量は、最終生成樹脂の衝撃強度及び加工性などに非常に大きな影響を及ぼすファクターに該当するもので、一般的に、ゴム質重合体の粒径が小さいほど、衝撃強度及び加工性が低下し、粒径が大きいほど、衝撃強度が大きくなり、ゲル含量が小さいほど、ゴム質重合体の内部に単量体が多く膨潤して重合が発生し得るので、見掛け粒径が大きくなり、衝撃強度が向上する。
【0024】
その一方、ゴム質重合体の含量が多く、粒径が大きいほど、グラフト率が低下するという問題を伴う。前記グラフト率は、グラフト共重合体の物性に大きな影響を及ぼす。グラフト率が低下すると、グラフトされないゴム質重合体が多く存在するため、熱安全性が悪くなる。したがって、適切な粒径及びゲル含量を有する共役ジエン系ゴム質重合体を製造するのが重要であり、前記共役ジエン系ゴム質重合体に芳香族ビニル単量体及びビニルシアン系単量体をグラフトさせるとき、適切なグラフト率を有するようにすることが重要である。
【0025】
また、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、これに限定するものではないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルエタクリレート及びエチルエタクリレートの中から選択された1種以上であってもよく、メチルメタクリレートを使用することが反応性を考慮するときに、最も好ましい。
【0026】
前記芳香族ビニル単量体は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ベンジン核の一以上の水素が炭素原子数1〜5のアルキル基またはハロゲンに選択的に置換されたスチレンの中から選択された1種以上であってもよく、スチレンを使用することが反応性を考慮するときに、最も好ましい。
【0027】
さらに、前記グラフト共重合体のための重合添加剤としては、ロジン酸カリウム塩またはオレイン酸カリウム塩、アルキルアリールスルホン酸塩などの乳化剤、ドデシルメルカプタンなどの分子量調節剤、ピロりん酸ナトリウム、硫化第一鉄などのようなレドックス系酸化還元触媒、デキストロースなどの酸化還元開始剤、及びクメンヒドロペルオキシドなどの重合開始剤を含むことができる。本発明において、グラフト共重合体を製造するための乳化重合方式は、これに限定するものではないが、レドックス開始剤を使用して重合することがより好ましい。
【0028】
前記グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に対して10〜30重量%の範囲で使用されることが好ましい。これは、10重量%未満の場合には、衝撃強度が著しく低下し、30重量%を超えると、樹脂の流動性が良くないため、加工性に問題が生じると、着色性及び耐スクラッチ性が低下するためである。
【0029】
このように収得されたグラフト共重合体は、透明性を維持するように、屈折率1.513〜1.518の範囲、一例としては、1.515〜1.516の範囲を満足できる。
【0030】
また、前記塊状重合体は、アルキル(メタ)アクリレート系単量体60〜80重量%、及び芳香族ビニル単量体20〜40重量%を反応媒質下に塊状重合させて収得されたもので、組成物の総重量を基準として90〜70重量%の範囲で含むことができる。
【0031】
特に、本発明では、塊状重合体を構成する芳香族ビニル単量体を、射出成形性を改善するのに十分な含量に限定し、ビニルシアン系単量体は、射出成形性を低下させるという点を考慮して使用せず、この未使用量だけアルキル(メタ)アクリレート系単量体を過量使用することにより、黄色度を低くし、硬度を上昇させて耐スクラッチ性の改善を達成できることが確認できた。
【0032】
具体的には、前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、これに限定するものではないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルエタクリレート及びエチルエタクリレートの中から選択された1種以上であってもよく、メチルメタクリレートを使用することが反応性を考慮するときに、最も好ましい。
【0033】
前記アルキル(メタ)アクリレート系単量体は、塊状重合体をなす全体組成総100重量%を基準として60〜80重量%であることが好ましい。60重量%未満では屈折率が大きくなるためヘイズ(haze)が増加し、耐スクラッチ性に問題があり、80重量%を超えると、反応物の粘度が急激に増加して重合が一定に進まず、加工性が低下するという問題があるため好ましくない。
【0034】
また、前記芳香族ビニル単量体は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ベンジン核の一以上の水素が炭素原子数1〜5のアルキル基またはハロゲンに選択的に置換されたスチレンの中から選択された1種以上であってもよく、スチレンを使用することが反応性を考慮するときに、最も好ましい。
【0035】
前記芳香族ビニル単量体は、塊状重合体をなす全体組成総100重量%を基準として20〜40重量%であることが好ましい。20重量%未満では、反応物の粘度が高く、生産された製品の加工性と流動性が悪くなるという問題があり、40重量%を超える場合には、屈折率が大きくなるため透明度が低下し、耐スクラッチ特性が低下するという問題があるため好ましくない。
【0036】
特に、本発明では、塊状重合体の製造時にビニルシアン化合物を使用しないので、低い黄色度であり且つ光沢度を付与することに技術的特徴を有する。
【0037】
このとき、前記反応媒質は、炭素原子数1〜3のアルキル基またはハロゲンに置換された芳香族炭化水素化合物の中から選択された1種以上であって、塊状重合体をなす全体組成総100重量部を基準として20〜30重量部の範囲内で含むことができる。
【0038】
前記反応媒質は、反応溶媒としての役割よりは反応潤滑剤としての役割を行うもので、20重量部未満では反応物の粘度が急激に増加するという問題があり、30重量部を超えるときには分子量が低く、生産量が低くなるという問題があるため好ましくない。
【0039】
さらに、酸化防止剤として、高温の揮発槽で黄変を抑制する目的に使用するもので、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を、単独であるいはホスファイト系酸化防止剤との混合物タイプで、塊状重合体をなす全体組成総100重量部を基準として0.01〜1重量部の範囲内で含むことができる。使用量が0.01重量部未満である場合、高温の揮発槽で熱履歴による黄変を抑制する効果が小さく、1重量部を超過する場合には、重合転換率の減少により屈折率が増加するという問題があるため好ましくない。
【0040】
このとき、酸化防止剤の混合比は、これに限定するものではないが、フェノール系酸化防止剤:ホスファイト系酸化防止剤が9:1〜1:5、好ましくは、5:1〜1:3、より好ましくは、2:1〜1:2の重量比である。
【0041】
このとき、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤の組成比において、ホスファイト系酸化防止剤の使用量が1:5の混合比を超える場合、重合時に受ける熱履歴に脆弱であるという問題があり、9:1の混合比未満では、ホスファイト系酸化防止剤の使用量が少ないと、揮発槽及び加工時に熱履歴に脆弱であるという問題があるため好ましくない。
【0042】
このとき、フェノール性酸化防止剤は、これに限定するものではないが、テトラキスメチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、1,3,5−トリス−(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、及び1,3,5−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオンの中から選択された1種であることが好ましい。
【0043】
また、前記ホスファイト系酸化防止剤は、これに限定するものではないが、トリス(2,4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイトの中から選択された1種であることが好ましい。
【0044】
また、分子量調節剤を添加することができ、分子量調節剤としてはドデシルメルカプタン類などを使用することができる。
【0045】
このような塊状重合体は、全体熱可塑性樹脂に対して90〜70重量%で含むことができる。90重量%を超えると、衝撃強度が低下するという問題があり、70重量%未満では、耐スクラッチ性及び剛性が低下するという問題がある。
【0046】
このように収得された塊状重合体は、透明性を維持するように、屈折率1.513〜1.518の範囲、一例としては、1.515〜1.516の範囲を満足できる。
【0047】
参考に、前記塊状重合体の代わりに、懸濁重合体あるいは乳化重合体などの乳化剤を使用したその他の重合体を使用することになると、乳化剤の残留によって本発明で達成しようとする低い黄色度を達成しにくくなる。
【0048】
また、上述したグラフト共重合体と塊状重合体とからなる熱可塑性樹脂組成物には、さらに、滑剤として、エチレンビスステアロアミド、酸化ポリエチレンワックス、及びステアリン酸マグネシウムの中から選択された1種以上を、組成物総100重量部を基準として0.01〜5重量部の範囲で含むことができる。
【0049】
先に提示したグラフト共重合体と塊状重合体の屈折率から収得された熱可塑性樹脂組成物の全体屈折率も、屈折率1.513〜1.518の範囲、一例としては、1.515〜1.516の範囲を満足できる。
【0050】
このような組成で収得された熱可塑性樹脂組成物からアルキル(メタ)アクリレート系熱可塑性樹脂を提供することができる。具体的には、前記熱可塑性樹脂組成物の押出ペレットを射出成形させて収得された熱可塑性樹脂であって、全光線透過率(total transmittance)89以上で、ヘイズ(Haze)3.0以下であるので、電機電子製品のハウジング用途に適用されることができる。
【0051】
特に、下記の実施例でも明らかになったように、収得された前記熱可塑性樹脂の鉛筆硬度が、F〜2Hを満足して、耐スクラッチ性を改善することができる。また、ASTM E313に基づいて測定した黄色度が8以下を満足できる。
【0052】
したがって、本発明によれば、透明性、流動性及び光沢度は維持しながら、高い耐スクラッチ性及び低い黄色度を有するアルキル(メタ)アクリレート系熱可塑性樹脂を提供するようになる。
【0053】
上記のような成分からなる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、用途に応じて、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、離型剤及び紫外線安定剤の中から選択された添加剤を追加して製造できる。
【0054】
このうち、滑剤は、エチレンビスステアロアミド、酸化ポリエチレンワックス、ステアリン酸マグネシウムの中から選択されることができ、その使用量は、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5重量部、より好ましくは、0.5〜2重量部の範囲内である。
【0055】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤であるIR1076などが使用されることができ、その使用量は、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して0.5〜2重量部の範囲内である。
【0056】
また、前記紫外線安定剤は、紫外線吸収剤であるTINUVIN 326などが使用されることができ、その使用量は、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して0.05〜3重量部、より好ましくは、0.2〜1重量部の範囲内である。
【0057】
上記のような本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性と透明性に優れ、黄色度が低いことが特徴であり、より詳細には、高い表面硬度、及びガラスのように透明できれいな感じを有して、電気電子製品の透明なハウジング用途に使用するのに適している。