特許第5759386号(P5759386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5759386-電解液中のフッ化水素を除去する精製器 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759386
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】電解液中のフッ化水素を除去する精製器
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0566 20100101AFI20150716BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20150716BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20150716BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20150716BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20150716BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   H01M10/0566
   B01J20/02 B
   B01J20/04 B
   B01J20/06 B
   B01J20/08 B
   B01J20/18 B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-546160(P2011-546160)
(86)(22)【出願日】2010年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2010072638
(87)【国際公開番号】WO2011074631
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2009-286334(P2009-286334)
(32)【優先日】2009年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 豊
(72)【発明者】
【氏名】大屋敷 靖
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−505042(JP,A)
【文献】 特開2008−235255(JP,A)
【文献】 特開2001−269664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0566
B01J 20/00− 20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用電解液からフッ化水素と水分とを除去するための精製装置において、炭酸型ハイドロタルサイト類または焼成型ハイドロタルサイト類であるフッ化水素吸着材を収容したフッ化水素除去用精製器と、水分吸着材を収容した水分除去用精製器とを上流から下流にこの順に接続した精製装置であって、
前記水分除去用精製器が、水分を10ppmw以下に減少させるものであり、
水分吸着材が合成ゼオライトであり、
前記フッ化水素除去用精製器が、リチウムイオン二次電池用電解液に含まれるフッ化水素の濃度を10ppmw未満に減少させるか、または、前記フッ化水素除去用精製器が、フッ化水素除去率を90%以上とするものである、精製装置
【請求項2】
1つのハウジングを有孔の壁で区画してそのそれぞれの区画中に上記のそれぞれの吸着材を順に収容した2個の精製器で構成した請求項1に記載の精製装置。
【請求項3】
前記フッ化水素除去用精製器の上流側に、水分吸着材を収容した前置水分除去用精製器を設けた請求項1に記載の精製装置。
【請求項4】
1つのハウジングを有孔の壁で区画してその中に上記のそれぞれの吸着材を順に収容した3個の精製器で構成した請求項3に記載の精製装置。
【請求項5】
前記フッ化水素除去用精製器が、リチウムイオン二次電池用電解液に含まれるフッ化水素の濃度を10ppmw未満に減少させ、フッ化水素除去率を90%以上とするものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の精製装置。
【請求項6】
前記前置水分除去用精製器が、水分を100ppmw以下に減少させるものである請求項3に記載の精製装置。
【請求項7】
前記フッ化水素吸着が、構造式[M2+1−x3+(OH)x+[(COx/2・mHO]x−(m≧0)の炭酸型ハイドロタルサイト類(ただし、0<x≦0.33、M2+は、2価のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnの金属イオン、M3+は、3価のAl、Fe、Cr、Co、またはInの金属イオン)である、請求項1に記載の精製装置。
【請求項8】
前記フッ化水素吸着が、構造式M2+1−x3+1+x/2の焼成型ハイドロタルサイト類(ただし、0<x≦0.33、M2+は、2価のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnの金属イオン、M3+は、3価のAl、Fe、Cr、Co、またはInの金属イオン)である、請求項1に記載の精製装置。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池用電解液が10−100ppmwの水を含む、請求項1に記載の精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に使用するための非水電解液の製造工程およびリチウムイオン二次電池の製造工程に使用される精製装置に関し、より詳しくは、リチウムイオン二次電池用のフッ化水素含有非水電解液を通液することによりフッ化水素を除去し、さらに水分を除去するための精製装置に関する。
本願は、2009年12月17日に、日本に出願された特願2009−286334号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔に塗布された正極材および銅箔に塗布された負極材の双方を電気的接触が起こらないように絶縁性の多孔性ポリエチレンフィルムなどを介して対向させ、内部の空隙を炭酸エステルなどの非水溶剤に電解質および添加剤を溶解させた電解液によって満たした構造をとっている。このリチウムイオン二次電池に使用される電解質としては、伝導性、電位窓、金属との相互作用などの面で良好な特性を持つフッ化物系電解質が使用されることが多い。しかし、これらフッ化物には、加水分解によりフッ化水素を遊離させる性質があり、生じたフッ化水素が、電極材の溶解や集電体の腐食などを生じさせ、電池性能を低下させる問題が生じる。
【0003】
上記問題に対処するために、従来は製造過程での水分の混入を防ぎ、それによってフッ化物系電解質の加水分解を抑制する方法がとられてきた。しかしながら、従来の方法では製造過程における水分の混入を完全に防ぐことは困難であり、電解液中でのフッ化水素の発生を完全に抑制することはできなかった。また、電解液製造時のみならず、電解液の輸送や電池製造工程において水分が混入する場合もある。水分混入を低減するため、ドライルームのような湿度が低く管理された場所で製造作業を行なう必要があり、これが生産コストの増大につながっている。
【0004】
また、加水分解により発生したフッ化水素が非水電解液に悪影響を与えるのを防止するために、従来では電解液および/または電極材にフッ化水素を吸着する化合物を含有させることが提案されている。それらの中にはインターカレート物質として知られる合成ハイドロタルサイト類(特許文献1)および有機化した合成ハイドロタルサイト類(特許文献2)が優れたフッ化水素除去物質として提案されている。これらのハイドロタルサイト化合物は積層構造をなし、層間にフッ化水素分子や場合によりさらに水分子を吸着し固定する作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−73999号公報
【特許文献2】特開2008−262859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来のリチウムイオン二次電池では、製造工程において非水電解液への水分の混入を十分に抑制できないことから、電解液にフッ化水素を吸着する物質を混入していた。また、電極材にフッ化水素を吸着する物質を混入する場合には、その混入量だけ重量当りの電極活物質量が減少するため、リチウムイオン二次電池の初期放電容量が制限されていた。
本発明は製造工程において電解液中の水分のみならずフッ化水素も充分に減少することにより、リチウムイオン二次電池内に装入される電解質の性能を高め、また放電容量等の性質に影響を与えるフッ化水素吸着物質を電池内に添加せずに、リチウム二次電池の寿命特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、合成ハイドロタルサイト類を収容したフッ化水素除去用精製器と、水分吸着材を収容した水分除去用精製器とを上流から下流にこの順に接続した精製装置を提供する。
下流側に水分除去用精製器を使用するのは、合成ハイドロタルサイトによる炭酸イオンとフッ化水素の交換反応が起きた際などに生成する水分を除去するためである。
(2)本発明はまた、前記(1)の精製装置において、前記フッ化水素除去用精製器の上流側に、水分吸着材を収容した前置水分除去用精製器を接続した精製装置を提供する。
上流側に前置水分除去用精製器を使用するのは、電解液が水分を多く含んでいる場合に電解液中の溶媒が加水分解されるのを防ぐためであり、電解液中の水分が少ない場合には使用する必要がない。
上記(1)、(2)の精製装置は、個別の精製器を管路してもよいし、代わりに1つのハウジングを区画してその中に上記のそれぞれの吸着材を順に収容して複数の精製器が一体になった精製装置を構成してもよい。
合成ハイドロタルサイト類としては炭酸型ハイドロタルサイト類、あるいは、炭酸型ハイドロタルサイトを500℃以上で焼成し、脱炭酸した焼成型ハイドロタルサイトを使用する。この型の合成ハイドロタルサイトを用いて電解液中のフッ化水素の初期の濃度を30ppmw(parts per million weight)としたとき、炭酸型ハイドロタルサイト類1gにつき、フッ化水素の濃度を5ppmw、好ましくは1ppmw、さらに好ましくは0.5ppmw以下に減少させることが可能であり、それによりリチウム二次電池に必要な電解液(リチウム化合物電解質と溶媒よりなる)を調製することが可能となる。また水分除去精製器を併用することで水分(水)を10ppmw以下に減少させることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、水分管理のみでの低減が困難であった電解液中のフッ化水素を除去することができる。また、製造工程の最終段階においてフッ化水素を除去することができるため、水分管理の負担軽減にともなう製造コスト削減につながる。
上記の構成を有するフッ化水素除去精製器、またはフッ化水素除去精製器と水分除去精製器とを有する精製装置を使用することにより、十分なフッ化水素除去及び水分除去が可能となり、リチウムイオン二次電池の電解液内にフッ化水素除去物質を混入する必要がなくなり、長寿命のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明に使用できる精製器の1例を示す断面図である。
図2図2は本発明の実施例による精製装置の構成を示すもので、(a)は第1実施例を、(b)は第2実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明が精製の対象とする水分を含有する非水電解液の電解質としてはフッ素含有リチウム塩が使用される。たとえば、上記リチウム塩としては、上記文献2に記載されているような、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、及びLiPF{(COO)等がある。特に、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、及びLiSbF6等が加水分解を起こし易いため、これらを含む電解液をリチウム電池内に取り込む前に本発明の精製装置により精製して、水分の存在下で加水分解により生じているフッ化水素を除去する。
【0011】
電解質を溶解する有機溶剤としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、それらの混合物などが使用できる。
電解質を溶解する有機溶剤としては、上記の炭酸エステル類の混合物であることが好ましい。
【0012】
一方、電解液中の水分を吸着できる吸着材には活性アルミナ、合成ゼオライト等、多数の吸着材が知られているので、適宜選択して採用すればよい。水分は本発明のフッ化水素除去精製器において、フッ化水素と金属水酸化物あるいは金属酸化物とが反応して金属フッ化物を生成した際に生じるので、または合成ハイドロタルサイト類によるフッ化水素・炭酸イオン置換反応によっても生じるので、合成ハイドロタルサイト類を収容するフッ化水素除去精製器で電解液を精製したのちに、副生した水分を直ちに水分除去精製器において除去する必要がある。
フッ化水素除去精製器の上流側でも非水電解液中の水分を吸着できる同様な吸着材を用いて水分を除去することが好ましい。
【0013】
本発明で使用する合成ハイドロタルサイト類としては、炭酸イオンをインターカレートしたもの、または、炭酸型ハイドロタルサイトを500℃以上の焼成により脱炭酸処理したものを採用する。どちらも良好なフッ化水素吸着能を有しているが、焼成型の方が、水の副生が少ないためより好ましい。炭酸型ハイドロタルサイトは、構造式[M2+1−x3+(OH)x+[(COx/2・mHO]x−(m≧0、mは処理温度に依存)、焼成型は、構造式M2+1−x3+1+x/2、(ただし、0<x≦0.33、M2+は、2価のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnの金属イオン、M3+は、3価のAl、Fe、Cr、Co、及びInの金属イオン)であり、特に構造式[Mg1−xAl(OH)x+[(COx/2・mHO]x−、またはMg1−xAl1+x/2が採用できる。ここでMg1−xAlx(OH)2は金属水酸化物シートであり、CO3は層間イオンである。たとえば、炭酸型として、キョーワード500シリーズ(協和化学工業社製)、また、焼成型としてKW2000シリーズ(協和化学工業社製)などが使用できる。このような合成ハイドロタルサイト類は、炭酸型では、炭酸イオンとフッ化物イオンとの交換により、焼成型ではフッ化水素の吸着により、フッ化水素を固定化することができる。またこの物質は水分子も吸着できるがフッ化水素の吸着に比してあまり効果がない。そのため、本発明では水分除去のためには別の水分除去吸着材を使用する。
【0014】
フッ化水素除去のための精製器は、粒状のフッ化水素吸着材を充填した円筒形のハウジングの両端に吸着材の流出防止用のメッシュを配し、電解液の流入口および流出口としてネジ継手を取り付けたものからなる。水分除去のための精製器としては任意のものが使用できるが、フッ化水素除去のための精製器と同様な構造のものを使用してよい。
【0015】
図1は吸着器を例示する。簡単に述べると精製器1の内部にはフッ化水素吸着材である合成ハイドロタルサイト類の吸着材粒子2が収容される。精製器1は、材質がステンレス鋼、合成樹脂等の不活性な素材で作られた、円筒状胴部3と、この胴部の両端に設けた円盤状の端板5、7と、これらの端板を貫通する電解液入口部材9及び電解液出口部材11とを有し、胴部3と端板5、7との接続部13、15、及び端板7と出口部材11との接続部17はそれぞれ溶接されて完全な液密状態となっている。端板5と電解液入口部材9との接続部は吸着材粒子の充填又は交換を可能にする開口を形成する必要があるので入口側の端板5の開口部8の内周面には雌ねじ19が形成され、入口部材9の外周面には雄ねじ20が形成されている。入口部材9の内端には環状の支持部材21が溶接され又はねじ結合されている。支持部材21には予めセラミック製、好ましくは金属製の多孔質円筒23がねじ結合又は溶接されており、多孔質円筒23はキャップ25でねじ結合や溶接で閉鎖されている。同様に出口部材11の内端には予め多孔質のセラミック製、好ましくは金属製の円筒27がねじ結合や溶接で結合されており、多孔質円筒27はキャップ29で閉鎖されている。キャップはねじその他任意の方法で多孔質円筒27に固定できる。上流側となる多孔質円筒23は比較的粗い細孔を有する多孔体で良いが下流側となる多孔質円筒27は精製材の微粉末も通さない程度の細かい細孔を有する必要がある。使用前には、入口部材9はねじ付きキャップ33により、出口部材11はねじ付きキャップ35により閉鎖されている。
また、上記の構造の代わりに、同じハウジング内を有孔隔壁で2つ又は3つに区画し、上記段落[0007]で述べたように二種又は三種の吸着材を装入して一体構造にすることも可能である。
【0016】
図2(a)は、本発明の第1実施例による精製装置を例示し、上流から下流に電解液入口100、合成ハイドロタルサイト類を収容したフッ化水素除去用精製器101、接続管路102、合成ゼオライト等の水分吸着材を収容した水分除去用精製器103、及び精製電解液出口104をこの順に接続した精製装置を提供する。
図2(b)は、本発明の第2実施例による精製装置を例示し、上流から下流に電解液入口200、水分吸着材を収容した前置水分除去用精製器201、接続管路202、合成ハイドロタルサイト類を収容したフッ化水素除去用精製器203、接続管路204、水分吸着材を収容した水分除去用精製器205、及び精製電解液出口206をこの順に接続した精製装置を示す。
【0017】
実施例
水分の除去
本発明の効果を実証するための実験を行った。リチウム二次電池用の電解質の溶媒として利用されている炭酸ジメチルと、トルエンとを用いて水分(水)の除去実験を行った。
実験1
炭酸ジメチル(DMC)10gと粒状活性アルミナ(株式会社デーケーファイン製AA−300シリーズ、粒径 8×14メッシュ)1gを蓋つき褐色瓶に入れ、さらに可変量の脱イオン水(超純水)を加えた。19時間放置したのち炭酸ジメチル中の水分濃度をカールフィッシャー水分計(三菱化学(株)製 CA−06)を用いて測定した。試料の配合と測定結果を表1に示す。
実験2
炭酸ジメチル(DMC)10gと粒状ゼオライト(MS)(ユニオン昭和(株)製 モレキュラーシーブ 3A、粒径 14×30メッシュ)1gを蓋つき褐色瓶に入れ、さらに可変量の脱イオン水(超純水)を加え、19時間放置したのち炭酸ジメチル中の水分濃度をカールフィッシャー水分計を用いて測定した。試料の配合と測定結果を表2に示す。
実験3
トルエン10gと粒状合成ゼオライト(MS)(ユニオン昭和(株)製 モレキュラーシーブ3A、粒径14×30メッシュ)1gを蓋つき褐色瓶に入れ、さらに可変量の脱イオン水(超純水)を加え、19時間放置したのちトルエン中の水分濃度をカールフィッシャー水分計を用いて測定した。試料の配合と測定結果を表3に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
通常の電解液(フッ素含有電解質を有機溶媒に溶解したもの)は製造段階で10−100ppmw程度の水分を含有するから、本発明の目的を達成するにはフッ化水素除去精製器の上流側に設置される前置水分除去精製器で水分を100ppmw以下に低減できればよい。またフッ化水素除去精製器の下流に配置される水分除去精製器では水分を10ppmw以下に低減できればよい。表1〜3に示したように、本実験で得られた結果は充分に満足なものである。
【0022】
フッ化水素除去
本発明の効果を実証するための実験を行った。
実験4
炭酸ジメチル(DMC)10gに、フッ化物イオン濃度2000ppmwのフッ酸を50μL加え、フッ化物イオン濃度10ppmwのDMC溶液を調製した。これに吸着材として炭酸型ハイドロタルサイト(HTS)(キョーワード500 SNタイプ)1gを加えて振り混ぜた。
吸着材添加の1時間後、この溶液を超純水によりそれぞれ100倍に希釈し、フッ化物イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで測定した結果を表4に示す。比較例1として、同じ様に調製したDMC溶液に活性アルミナA(株式会社デーケーファイン製AA−300シリーズ、 粒径 8×14メッシュ)5gを添加した結果を表4に示した。また比較例2として、同じ様に調製したDMC溶液を吸着材を添加せずに1時間放置した後のフッ化物イオン濃度の測定結果も示した。
【0023】
【表4】
【0024】
この実験から、吸着材として炭酸型ハイドロタルサイト類を使用すると、上記の条件下で0.5ppmw以下までフッ化水素濃度を減少させる効果が得られる。一方、活性アルミナでは約5gを使用しても約3ppmw程度までしか減少させることができなかった。
【0025】
次に、使用時に近い状況で本願発明の効果を確認するために、試験フィルタを用いてフッ化水素除去および水分除去に関する実験を行った。
【0026】
フッ化水素除去
実験5
合成ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製KW2000シリーズ)1.4gを内容積3.4mLのステンレス鋼製カラムに充填し、試験用フィルタを作製した。これに、開封直後で、フッ化水素濃度が26ppmwであるリチウムイオン2次電池用電解液(キシダ化学(株)製LBG−96533)を毎分1mLの流量で供給した。フィルタを通過した電解液中のフッ化物イオン濃度をイオンクロトマトグラフ分析計(ダイオネクス製 DX−120)を使用して測定した。測定結果を表5に示す。
【0027】
【表5】
【0028】
電解液を試験フィルタに供給しながら、通液量、すなわち試験フィルタを通過させた電解液の量が表5に示される各々の値に達する毎に、フッ化物イオン濃度を測定した。全ての実験結果において、試験用フィルタを通過させた電解液中のフッ化物イオン濃度は10ppmw未満であった。このように、初期のフッ化物イオン濃度が低い電解液に対して、上記試験フィルタは顕著なフッ化水素除去効果を示した。
【0029】
そこで次に、劣化によりフッ化水素濃度が増加した電解液を用いてフッ化水素除去実験を行った。
【0030】
実験6
合成ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製KW2000シリーズ)1.4gを内容積3.4mLのステンレス鋼製カラムに充填し、試験用フィルタを作製した。これに、劣化によりフッ化水素濃度が240ppmwまで増加したリチウムイオン2次電池用電解液(キシダ化学(株)製LBG−96533)を毎分1mLの流量で供給した。フィルタを通過した電解液中のフッ化物イオン濃度をイオンクロトマトグラフ分析計(ダイオネクス製 DX−120)を使用して測定した。測定結果を表6に示す。
【0031】
【表6】
【0032】
このように、初期のフッ化物イオン濃度が高い電解液を用いた場合であっても、本願の試験フィルタに通液することにより90%を超えるフッ化水素除去率が得られた。ここで、フッ化水素除去率は下記式により算出された。
(1−(x/y))×100
x:フィルタを通過した電解液中のフッ化物イオン濃度(ppmw)
y:初期の電解液中のフッ化物イオン濃度(すなわち、240ppmw)
【0033】
水分の除去
上記実験5および6と同様に試験フィルタを用いて、水分除去実験を行った。
【0034】
実験7
合成ゼオライト(東ソー(株)製)2gを内容積3.4mLのステンレス鋼製カラムに充填し、試験フィルタを作製した。また、リチウムイオン2次電池用電解液(キシダ化学(株)LBG−96533)を毎分1mLの流量で試験フィルタに供給し、電解液を供給し続けている状態で試験フィルタの直前で電解液に少量の水を徐々に加えながら、試験フィルタの入口および出口での電解液中の水分濃度をカールフィッシャー水分計(三菱化学(株)CA−06)で測定した。
【0035】
【表7】
【0036】
電解液を試験フィルタに供給しながら、通液量が表7に示される各々の値に達する毎に入口水分濃度および出口水分濃度を測定した。全ての実験結果において電解液の出口水分濃度は10ppmw未満であり、電解液から良好に水が除去されることがわかった。
前述したように、本願発明はフッ化水素除去用精製器と水分除去用精製器とを上流から下流にこの順に接続した精製装置である。実験7の結果から、下流に配置される水分除去用精製器により水を効果的に除去することができることがわかる。したがって、フッ化水素除去用精製器において水の副生が起こった場合であっても、本願発明によれば精製装置出口において電解液に含まれる水分を10ppmw未満に減少させることができるといえる。
【符号の説明】
【0037】
1 精製器
2 吸着材粒子
3 円筒状胴部
5、7 端板
8 開口部
9 電解液入口部材
11 電解液出口部材
13、15、17 接続部
19 雌ねじ
20 雄ねじ
21 支持部材
23、27 多孔質円筒
25、29、33、35 キャップ
100 電解液入口
101 フッ化水素除去用精製器
102 接続管路
103 水分除去用精製器
104 精製電解液出口
200 電解液入口
201 前置水分除去用精製器
202 接続管路
203 フッ化水素除去用精製器
204 接続管路
205 水分除去用精製器
206 電解液出口
図1
図2