特許第5759469号(P5759469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5759469ペースト及びその塗膜を電解質膜や電極膜とする高分子トランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759469
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】ペースト及びその塗膜を電解質膜や電極膜とする高分子トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20150716BHJP
   C09D 153/00 20060101ALI20150716BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20150716BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150716BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20150716BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20150716BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20150716BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150716BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   C08L53/00
   C09D153/00
   C09D5/24
   C09D7/12
   C08K7/00
   H01B1/22 A
   H01B1/24 A
   H01B1/06 A
   H02N11/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-535053(P2012-535053)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2011071489
(87)【国際公開番号】WO2012039425
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2013年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-214099(P2010-214099)
(32)【優先日】2010年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 活栄
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−210326(JP,A)
【文献】 特開2007−336790(JP,A)
【文献】 特開2003−142125(JP,A)
【文献】 特開2008−248116(JP,A)
【文献】 特開2001−210336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L53/00
C08L3/00−13/08
C09D153/00
C09D7/12
H01B1/06−1/24
H02N11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)
で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及びイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を含むブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、
沸点が最低でも150℃である有機溶媒(B)と、
前記有機溶媒(B)に不溶であって、長径が1μm〜100μmでアスペクト比が最大でも5である非解離性粒子(C)とを含有していることを特徴とするペースト。
【請求項2】
前記アニオンYが、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンから選ばれるアニオンであることを特徴とする請求項1に記載のペースト。
【請求項3】
前記非解離性粒子(C)が、非解離性重合体粒子であることを特徴とする請求項1に記載のペースト。
【請求項4】
前記非解離性粒子(C)が、結晶性高分子からなる粒子、架橋高分子からなる粒子、及び無機物粒子から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のペースト。
【請求項5】
前記非解離性粒子(C)の長径に対して、最大でも1/50の平均粒子径である導電性微粒子(D)を含有していることを特徴とする請求項1に記載のペースト。
【請求項6】
前記導電性微粒子(D)が、金属微粒子、金属化合物微粒子、導電性カーボン微粒子、及び導電性高分子の粉体から選ばれることを特徴とする請求項5に記載のペースト。
【請求項7】
請求項1に記載のペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする電解質膜。
【請求項8】
請求項5に記載のペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする電極膜。
【請求項9】
少なくとも1つの電解質膜が、少なくとも一対の電極膜に挟まれた高分子トランスデューサであって、前記電解質膜と、導電性微粒子(D)を含有している前記電極膜との少なくとも何れかが、下記化学式(1)
【化2】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)
で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及びイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を有するブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、
沸点が最低でも150℃である有機溶媒(B)と、
前記有機溶媒(B)に不溶であって、長径が1μm〜100μmでアスペクト比が最大でも5である非解離性粒子(C)とを含有しているペーストを乾燥固化して得た塗膜であることを特徴とする高分子トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解質膜と電極膜との材料として有用であるペースト及びそれにより形成された塗膜を電解質膜や電極膜とする高分子トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器やマイクロマシン等の分野において、小型かつ軽量なアクチュエータやセンサのように、ある種類のエネルギーを別の種類のエネルギーに変換するトランスデューサの必要性が高まっている。また産業用ロボットやパーソナルロボット等の分野において、軽量で柔軟性に富むトランスデューサの必要性も高まっている。
【0003】
この様に多くの分野で、軽量で柔軟なトランスデューサとして高分子トランスデューサが注目されており、様々な方式の高分子トランスデューサが報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1に、陽イオン交換膜と該イオン交換膜の両面に接した電極とからなる小型で柔軟性に優れたアクチュエータ素子が、開示されている。また、本発明者らは特許文献2において、特定の分子構造を持つ高分子固体電解質成分により、極めて柔軟性に優れた高分子トランスデューサについて開示している。特許文献1及び2の発明は、いずれも高分子固体電解質に対して少なくとも一対の電極層を設けた構造であり、無電解メッキの手法を用いて高分子固体電解質に電極層が形成された積層構造を有するものである。
【0005】
一方、その積層構造について、特許文献3及び4に、高分子固体電解質と導電性微粒子とからなる組成物を電極層として用いた高分子トランスデューサが開示されている。これらの高分子トランスデューサの動作において、高分子固体電解質と、例えば、無電解メッキ法で形成されるデンドライト状金属、金属微粒子、カーボン微粒子等の導電性物質との界面における電気二重層の形成が重要な役割を示す。この電気二重層をより多く形成させるためにこのような組成物で形成する方法が採用されている。
【0006】
一般的に無電解メッキ法は、貴金属ドープと還元剤による還元とを数回繰り返す必要があり、工業的に適したものであるとは言い難い。その点、特許文献3〜4及び非特許文献1〜3に開示されている高分子固体電解質及び導電性微粒子の組成物を用い、これを適切な媒体に溶解又は分散させた液やペーストを調製し得られる膜を電極膜とする方法は、工業的・経済的に実現可能であると期待されている。
【0007】
このペーストを用い印刷法により高分子トランスデューサを製造する場合には、多くの電気二重層を形成させるべく、一定の膜厚で電極膜を形成する必要がある。また、電解質膜についても、相対する電極膜を確実に電子的に絶縁するためには一定以上の膜厚が必要である。これらの電極膜及び電解質膜は、一般的に、ペーストの固形分濃度を高め、そのペーストを塗工し乾燥させる工程を多数回繰り返すことで、所望の膜厚を得ている。しかし、この固形分濃度の上昇に伴うペースト粘度の著しい上昇や製造工程におけるコストの増大等の問題がある。このように用いられるペーストは、固形分濃度の調製、保存安定性、ハンドリング性、塗工性等がいまだ十分ではないため、より実用性に優れたものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−6991号公報
【特許文献2】特開2007−336790号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0103706号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0266642号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】未来材料、2005年、第5巻、第10号、p.14〜19
【非特許文献2】アンゲヴァンテ ケミー インターナショナルエディション(Angewandte Chemie International Edition)、2005年、第44巻、p.2410〜2413
【非特許文献3】ポリマー(Polymer)、2002年、第43巻、p.797〜802
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、高い固形分濃度に調製でき、ハンドリング性・塗工性・保存安定性に優れたペーストと、そのペーストを少数回の塗工・乾燥の工程により均一で優れた柔軟性を有する所望の膜厚に形成された塗膜である電解質膜・電極膜と、工業的に、また経済的に実現が可能であり優れた性能を示す高分子トランスデューサとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の粒子を含むことにより高分子トランスデューサに適した電解質形成用及び電極形成用のペースト、このペーストを乾燥して得られる塗膜及びこれを用いて得られる高分子トランスデューサが優れた性能を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、請求の範囲の請求項1に記載されたペーストは、下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及びイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を含むブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、沸点が最低でも150℃である有機溶媒(B)と、前記有機溶媒(B)に不溶であって、長径が1μm〜100μmでアスペクト比が最大でも5である非解離性粒子(C)とを含有していることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載のペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記アニオンYが、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンから選ばれるアニオンであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載のペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記非解離性粒子(C)が、非解離性重合体粒子であることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載のペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記非解離性粒子(C)が、結晶性高分子からなる粒子、架橋高分子からなる粒子、及び無機物粒子から選ばれることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載のペーストは、請求項1に記載されたものであって、前記非解離性粒子(C)の長径に対して、最大でも1/50の平均粒子径である導電性微粒子(D)を含有していることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載のペーストは、請求項5に記載されたものであって、前記導電性微粒子(D)が、金属微粒子、金属化合物微粒子、導電性カーボン微粒子、及び導電性高分子の粉体から選ばれることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の電解質膜は、請求項1に記載のペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の電極膜は、請求項5に記載のペーストを乾燥固化し膜状に形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の高分子トランスデューサは、少なくとも1つの電解質膜が、少なくとも一対の電極膜に挟まれた高分子トランスデューサであって、前記電解質膜と、導電性微粒子(D)を含有している前記電極膜との少なくとも何れかが、下記化学式(1)
【化2】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基又は直接結合、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基、水素イオンHに対するアニオンYはRを介して芳香環と連結されており、n=1〜3、m=0〜4、かつ1≦m+n≦5である)で示される単位を含む重合体ブロック(a−1)及びイオン基を有しておらず室温でゴム状の重合体ブロック(a−2)を有するブロック共重合体からなる高分子固体電解質(A)と、沸点が最低でも150℃である有機溶媒(B)と、前記有機溶媒(B)に不溶であって、長径が1μm〜100μmでアスペクト比が最大でも5である非解離性粒子(C)とを含有しているペーストを乾燥固化して得た塗膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のペーストは、高い固形分濃度に調製することが容易であり、優れたハンドリング性及び塗工性を示すことができる。また、このペーストは、その成分である高分子固体電解質(A)が均一に溶解又は分散しているものであって、その状態を長期間維持し、安定して保存することができる。ペーストに含まれる高分子固定電解質(A)は均質に溶解又は分散した状態で安定的であるため、そのペーストを塗工し、乾燥させることで、均質な塗膜である電解質膜を形成することができる。さらに、そのペースト中に導電性微粒子(D)を含有することで電極膜を形成することができる。
【0022】
本発明の電解質膜及び電極膜は、均質なものであり、極めて優れた柔軟性及び靭性を示すことができる。このペーストの塗工及び乾燥の繰り返し工程において、少ない工程数で所望の厚みを得られる電解質膜及び電極膜は、高い生産性と優れた経済性とを有するものである。この電解質膜及び電極膜は、高分子トランスデューサの電解質及び電極としてその形状を問わず好適に用いることができる。
【0023】
本発明の高分子トランスデューサは、優れた性能を有するペーストにより、煩雑な工程を必要とせずに製造されたものであって、優れた柔軟性により、高い応答感度を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用する高分子トランスデューサの一例を示す断面図である。
図2】本発明を適用する高分子トランスデューサの部材が付加された例を示す断面図である。
図3】本発明を適用する高分子トランスデューサの性能測定方法を示す概要図である。
【符号の説明】
【0025】
1は高分子トランスデューサ、1Aはセンサ部、2は電解質層、3a,3bは電極層、4a,4bは集電体、5a,5bはフィルム基材、11a,11bはクリップ、12a,12bはリード線、13は変位発生器、13aは駆動伝達部材、13bは振動板、14はレーザー変位計、Pは変位点である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明のペーストは、高分子トランスデューサを構成する電解質膜及び電極膜を形成する材料として好適なものである。
【0028】
本発明の電解質膜の形成に適したペーストは、高分子固体電解質(A)、沸点が150℃以上である有機溶媒(B)、その有機溶媒(B)に不溶であって、長径が1μm〜100μmでアスペクト比が5以下である非解離性粒子(C)を含有しているものである。
【0029】
前記化学式(1)中、Rとなり得る炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。また、Rとなり得る炭素数6〜14のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0030】
前記化学式(1)中、Rとなり得る炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、Rとなり得る1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基としては、例えば1〜3個の置換基を有してもよいフェニレン基等が挙げられる。また、Rとなり得る置換基を有してもよい(ポリ)アルキレングリコール基としては、例えば置換基を有していてもよいポリエチレングリコール基等が挙げられる。
【0031】
前記化学式(1)中、Rの有していてもよい置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、メチルエトキシ基、エチルエトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
【0032】
前記化学式(1)中、Rとなり得る炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。また、Rとなり得る炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
前記化学式(1)で示される単位を有する高分子固体電解質(A)に含まれるカチオンは、水素イオンであるが、実質上は水と結合しオキソニウムイオンとなっていてもよい。一般的に、これらを見分けることは困難である。本明細書においては、これらを統一して水素イオンと記載する。水素イオンは、化学結合を介して高分子固体電解質(A)の高分子主鎖に結合していないため高分子固体電解質内において可動である。
【0034】
可動イオンである水素イオンに対するアニオンYは、高分子固体電解質(A)の高分子主鎖に結合されている。かかるアニオンYとしては、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオン等を挙げることができる。イオンの解離度を高める観点からより強い酸の共役アニオンであることが好ましく、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンが好ましく、特に高分子への導入容易性の観点も含めるとスルホン酸アニオンが好ましい。
【0035】
従って、高分子固体電解質(A)を構成する重合体ブロック(a−1)は、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン等からなる重合体に含まれる芳香環のうち、少なくとも一部にスルホン酸基が導入された重合体ブロックであることが好ましい。なかでも、前駆体となるブロック共重合体の製造容易性や工業的入手性、スルホン酸基導入の容易性等の観点から、ポリスチレン及び/又はポリα−メチルスチレンの芳香環のうち、少なくとも一部にスルホン酸基が導入された重合体ブロックであることがより好ましい。以後、重合体ブロック(a−1)をスルホン化ポリスチレン系ブロックと記載することがある。
【0036】
スルホン酸基の導入量は、特に制限されないが、高分子固体電解質(A)のハンドリング性や溶媒への溶解性、イオン伝導性、引いては得られる高分子トランスデューサの性能の観点から、芳香環に対して10mol%〜100mol%、好ましくは25mol%〜80mol%、より好ましくは40mol%〜70mol%の範囲である。この指標をスルホン化率と記載することがある。ここでスルホン化率50mol%とは、芳香環100個のうち、50個にスルホン酸基が導入されていることを示す。スルホン化率がこの範囲よりも低いとき、イオン基の量が不十分となり、得られる高分子トランスデューサの性能が低下するので好ましくない。
【0037】
高分子固体電解質(A)を構成する重合体ブロック(a−2)としては、室温25℃でゴム状、即ちガラス転移温度(Tg)が25℃以下のものであることが必要である。好ましくは0℃(Tgが0℃以下)、より好ましくは−30℃でも、ゴム状(Tgが−30℃以下)のものである。これにより、ペーストを塗布、乾燥して得られる塗膜は柔軟なものとなり、したがって柔軟な高分子トランスデューサを得ることができる。この条件が満たされる限り、重合体ブロック(a−2)に関する制限はないが、好ましい例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−r−イソプレン)、ポリ(スチレン−r−ブタジエン)、ポリ(スチレン−r−イソプレン)、ポリ(アクリロニトリル−r−ブタジエン)等のポリ共役ジエン類;これらのポリ共役ジエン類に含まれる炭素−炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ポリ共役ジエン類;ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類;ポリイソブチレン、ポリシロキサン類等を挙げることができる。なかでもゴムとしての性質や重合体ブロック(a−1)へのスルホン酸基導入の際の副反応を抑制する観点から、炭素−炭素二重結合が水素添加された水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、水添ポリ(ブタジエン−r−イソプレン)、又はポリイソブチレンであることが好ましい。かかる水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、水添ポリ(ブタジエン−r−イソプレン)における炭素−炭素二重結合の水素添加率は90mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましく、98mol%以上がさらに好ましい。
【0038】
ブロック共重合体である高分子固体電解質(A)のブロックシーケンスは、特に制限されないが、(a−1)−(a−2)型のジブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)、(a−2)−(a−1)−(a−2)のトリブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)のテトラブロック共重合体、(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)−(a−1)、(a−2)−(a−1)−(a−2)−(a−1)−(a−2)のペンタブロック共重合体等のリニア型ブロック共重合体、[(a−1)−(a−2)]−X、[(a−2)−(a−1)]−X型のスター型ブロック共重合体(nは2を超える数、Xはカップリング剤残基である)のうちの何れかであると好ましく、(a−1)−(a−2)−(a−1)型のトリブロック共重合体であるとより好ましい。
【0039】
高分子固体電解質(A)の数平均分子量は、スルホン酸基を導入した後には測定が難しいため、スルホン酸基導入前の数平均分子量を指標としてもよく、その場合において3000〜30万であると好ましく、1万〜20万であるとより好ましい。これよりも数平均分子量が低い場合には、高分子固体電解質の機械的強度が劣るため好ましくなく、これよりも大きい場合には、ペーストとする際に溶媒への溶解性が低下するため好ましくない。
【0040】
また重合体ブロック(a−1)及び重合体ブロック(a−2)の各合計の質量比は、10:90〜90:10であることが好ましい。この範囲を外れると、機械的強度が大きく低下したり、柔軟性を喪失したりするため好ましくない。
【0041】
またブロック共重合体は、必要に応じて重合体ブロック(a−1)及び重合体ブロック(a−2)とは別の重合体ブロックを有していてもよい。かかる別の重合体ブロックは1つであっても複数であってもよく、複数である場合には同じ化学構造を有するものであってもよいし、異なる化学構造を有するものであってもよい。このような重合体ブロックを構成する重合体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン類;ポリp−メチルスチレン、ポリp−エチルスチレン、ポリp−アダマンチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレン等のp位に置換基を有するポリスチレン類;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリε−カプロラクトン等のポリエステル類;ポリアミド−6、ポリアミド−6,12、ポリアミド−6T、ポリアミド−9T等のポリアミド類;ポリウレタン類;ポリシロキサン類等を挙げることができる。
【0042】
上記した別の重合体ブロックには、所定の機能を担わせることができる。例えば、別の重合体ブロックに、形状安定性を補強する作用を期待する場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド−6、ポリアミド−6,12、ポリアミド−6T、ポリアミド−9T等の結晶性ポリマーや、ポリp−メチルスチレン、ポリp−アダマンチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレン等の高いガラス転移温度を有するポリマーからなる重合体ブロックを用いることが好ましい。なお、これら別の重合体ブロックには、重合体ブロック(a−1)とは異なる機能を期待するため、実質的に、イオン基が含まれていないことが好ましい。
【0043】
ブロック共重合体のより具体的な例としては、スチレン及び/又はα−メチルスチレンのベンゼン環のp位(4位)に、スルホン酸基が直接結合している重合体ブロック(a−1)と、1,3−ブタジエン単位及び/又はイソプレン単位からなり炭素−炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている重合体ブロック(a−2)とからなり、ブロックシーケンスが(a−1)−(a−2)−(a−1)であるトリブロック共重合体を挙げることができる。
【0044】
本発明のペーストに含まれる有機溶媒(B)は、常圧で150℃以上の沸点であることが必要である。これを下回る場合、ペーストが乾燥しやすくなり塗工時の作業性が低下する傾向にある。
【0045】
このような有機溶媒(B)としては、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、デセン、ウンデセン、α−ターピネン、β−ターピネン等の飽和または不飽和脂肪族炭化水素類;クメン、o-シメン、m−シメン、p−シメン、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、o−ジイソプロピルベンゼン、m−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼン及びこれらの異性体の混合物等の芳香族炭化水素類;1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、ターピネオール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ターピネオール、シクロヘキサノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類;イソホロン、シクロヘキサノン、2−オクタノン、3−オクタノン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類等を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよく、2種類を組み合わせて用いることが好ましい。これは、ペーストに含まれる高分子固体電解質(A)が、高い極性を持つスルホン化ポリスチレン系ブロック(a−1)と、低い極性を持つ(a−2)とからなるブロック共重合体であるため、単独の溶媒への溶解が困難であるためである。
【0046】
また、有機溶媒(B)の沸点があまりに高い場合には、ペーストを塗工した後の乾燥工程が長時間化したり、あるいは溶媒が塗膜内に残留したりする等の影響が現れることがあるため好ましくない。この観点から溶媒の沸点は好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0047】
本発明のペーストに含まれる非解離性粒子(C)は、前記有機溶媒(B)に不溶であり、その平均長径が1μm〜100μmでかつ平均アスペクト比(短径に対する長径の比)が5以下であることが必要であり、3以下であることが好ましく、1〜1.5の範囲であることがより好ましい。非解離性粒子(C)の平均長径及び平均アスペクト比は、例えば電子顕微鏡観察で無作為に選んだ100個の粒子についての長径及びアスペクト比を測定し、それぞれの平均から求めることができる。
【0048】
ここで非解離性とは、イオンへの解離を起こさないことを指す。食塩や重曹や炭酸カルシウム等の塩類、タルクやクレイ等の鉱物は解離性イオンを有する物質であり、非解離性の物質には該当しない。
【0049】
非解離性粒子(C)の長径が100μmを上回る場合には、ペースト内での沈降が生じやすくなったり、塗工工程においてスクリーンの詰まりを生じやすくなったりするため、印刷特性に影響が出る傾向があり好ましくない。一方、非解離性粒子(C)の長径が1μmを下回る場合には、非解離性粒子(C)の添加によりペーストの粘度が過剰に上昇したり、電極膜を形成した際に、電極の電子伝導性能が低下したりする傾向があり好ましくない。
【0050】
またアスペクト比が5以上であると、塗膜又は高分子トランスデューサの柔軟性が損なわれる傾向があり好ましくない。
【0051】
ペーストに含まれる非解離性粒子(C)として、例えば、非解離性重合体粒子及び無機物粒子が挙げられ、非解離性重合体粒子が好ましく、結晶性高分子からなる粒子、架橋高分子からなる粒子がさらに好ましく、3次元架橋構造を有する架橋高分子が特に好ましい。
具体的な非解離性粒子(C)として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等の結晶性高分子からなる粒子;架橋ポリエチレン、架橋ポリプロピレン、架橋ポリスチレン、架橋ポリ塩化ビニル、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリアクリロニトリル、架橋AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)粒子、架橋ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)粒子、架橋ポリ(スチレン-メタクリル酸エステル)共重合体粒子、架橋ポリ(スチレン-アクリル酸エステル)共重合体粒子、架橋ポリテトラフルオロエチレン粒子、架橋ポリフッ化ビニリデン粒子、架橋ポリ塩化ビニリデン粒子、架橋ポリ酢酸ビニル粒子、架橋ポリビニルアルコール粒子、架橋ポリ(エチレン−酢酸ビニル)共重合体粒子、架橋ポリ(エチレン−ビニルアルコール)共重合体粒子、架橋ポリエチレングリコール粒子、架橋ポリプロピレングリコール粒子、架橋ポリエチレンテレフタレート粒子、架橋ポリブチレンテレフタレート粒子、架橋ポリアミド粒子、架橋ポリカーボネート粒子等の架橋高分子からなる粒子;ダイヤモンドパウダー、ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ等の無機物粒子が挙げられる。
【0052】
なかでも、適度な粒径のものが得やすいことから、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、ガラスビーズが好ましく、またペーストの安定性が高いことから、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子がより好ましい。
【0053】
本発明のペーストは、少なくとも高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)及び非解離性粒子(C)の三成分からなる。一方、この電解質膜用ペーストを塗工し乾燥することで得られる塗膜は、高分子固体電解質(A)及び非解離性粒子(C)の二成分からなる。ペーストに含まれる有機溶媒(B)は、塗工後の乾燥工程において揮発するものである。
【0054】
高分子固体電解質(A)と非解離性粒子(C)との組成比は、塗膜の物性に大きく影響を与えるものであり、例えば質量比で(A):(C)=10:90〜90:10であり、得られる塗膜の柔軟性及び塗膜のイオン伝導性の観点からは(A):(C)=50:50〜80:20であることが好ましい。これよりも高分子固体電解質(A)が多い場合にはペーストの塗工性が低下し、非解離性粒子(C)が多い場合にはイオン伝導性の低下や、塗膜の柔軟性が失われる傾向にある。
【0055】
下記式(2)で定義される電解質膜の形成に適したペーストの固形分濃度(%)は、ペーストの印刷特性やハンドリング性、さらに適する印刷方法に影響を与える。
{(A)+(C)}/{(A)+(B)+(C)}×100(%)・・・(2)
式(2)中、それぞれ、(A)は高分子固体電解質、(B)は有機溶媒、(C)は非解離性粒子の質量を示す。
【0056】
前記の通り、適切な固形分濃度は採用する印刷方法に依存するものである。本発明の高分子トランスデューサの電解質膜としての形状から好適であるスクリーン印刷法を用いる場合、適切な固形分濃度は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。固形分濃度がこれよりも低い場合には、ペーストの粘度が低下しすぎるため液ダレ等による不良が発生し易い傾向にある。70%よりも固形分濃度が高い場合には、ペーストの粘度が高くなりすぎ、カスレ等の不良が発生し易い傾向にある。
【0057】
電解質膜の形成に適したペーストは、高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)及び非解離性粒子(C)を適切な方法で混合することにより得られる。高分子固体電解質(A)は有機溶媒(B)に対して、溶解していても分散していてもよいが、均質な塗膜を得やすいという観点からは溶解している方が好ましい。
【0058】
混合の方法は、特に制限されないが、例えば高分子固体電解質(A)を予め有機溶媒(B)に溶解させた液(ビヒクル)に、非解離性粒子(C)を加え、撹拌機(攪拌翼)、ビーズミル、ボールミル、ロールミル等の混練機、分散機を用いて混合することが挙げられる。
【0059】
電解質膜の形成に適したペーストは、種々の方法により塗工することができる。塗工の方法としては例えば、スプレー法、ディップ法、バーコート法、ドクターブレード法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法等を挙げることができる。なかでも塗膜に求められる形状や作業性の観点から、スクリーン印刷法が望ましい。
【0060】
このように電解質膜の形成に適したペーストを塗工した後、乾燥させることで本発明の電解質膜を得ることができる。乾燥の条件について特に制限はないが、例えば50〜150℃の温度下、1秒〜1日といった時間範囲で行うことができる。これらは用いる有機溶媒(B)の種類や、高分子固体電解質(A)、非解離性粒子(C)の組成比等に依存して決定される。
【0061】
電極膜の形成に適したペーストは、少なくとも高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)及び非解離性粒子(C)の三成分からなる。一方、この電極膜用ペーストを塗工・乾燥することで得られる塗膜は、少なくとも高分子固体電解質(A)及び非解離性粒子(C)の二成分からなる。ペーストに含まれる有機溶媒(B)は、塗工後の乾燥工程において揮発するものであり、塗膜中に残留しないことが望ましい。
【0062】
本発明のペーストは、電解質膜の形成に適したペーストに、さらに導電性微粒子(D)を添加することで、電極膜の形成に適したペーストとなる。この構成成分である高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)及び非解離性粒子(C)については、電解質膜の形成に適したペーストと同じものを用いることができる。
【0063】
導電性微粒子(D)の平均粒子径は、非解離性粒子(C)の粒径の1/50以下であることが好ましい。この条件が満たされるとき、いわゆる排除体積効果により、導電性微粒子(D)がネットワークを形成しやすくなり、電子伝導性に優れた電極膜が得られやすくなるためである。
【0064】
電極膜の形成に適したペーストに含まれる導電性微粒子(D)としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル等の金属微粒子;酸化ルテニウム(RuO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、二酸化イリジウム(Ir)、酸化タンタル(Ta)、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、硫化亜鉛(ZnS)等の金属化合物微粒子;カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等のカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)等の導電性カーボン微粒子;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの誘導体等の導電性高分子の粉体等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。なかでも、工業的経済性や高分子トランスデューサとした際の電気化学的安定性等の観点からは、導電性カーボン微粒子であることが好ましい。また、高分子トランスデューサとしての性能の観点からは、大きな比表面積を有するカーボンブラックであることがより好ましい。このようなカーボンブラックの例としてケッチェンブラック(ライオン社製)を挙げることができる。導電性微粒子(D)の平均粒子径は、例えば電子顕微鏡観察で無作為に選んだ100個の粒子についての粒子径を測定し、その平均から求めることができる。
【0065】
電極膜の形成に適したペーストは、少なくとも高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)、非解離性粒子(C)及び導電性微粒子(D)の四成分からなる。一方、この電極膜用ペーストを塗工・乾燥することで得られる塗膜は、少なくとも高分子固体電解質(A)、非解離性粒子(C)及び導電性微粒子(D)の三成分からなる。ペーストに含まれる有機溶媒(B)は、塗工後の乾燥工程において揮発するものであり、塗膜中に残留しないことが望ましい。
【0066】
高分子固体電解質(A)、非解離性粒子(C)及び導電性微粒子(D)の組成比はペーストを乾燥固化して得られる塗膜の物性に大きく影響を与えるものである。
【0067】
高分子固体電解質(A)と導電性微粒子(D)の組成比は、塗膜の電子伝導性に大きく影響を与えるものであり、例えば、質量比で(A):(D)=99:1〜1:99であり、得られる塗膜の柔軟性及び塗膜の電子伝導性の観点からは(A):(D)=95:5〜25:75であること好ましい。これよりも高分子固体電解質(A)が多い場合には、電子伝導性が低下し、導電性微粒子(D)が多い場合には柔軟性が低下する傾向がある。
【0068】
非解離性粒子(C)は、高分子固体電解質(A)及び導電性微粒子(D)で合計100質量部である組成に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。これよりも非解離性粒子(C)が少ない場合には、本発明の効果が十分に得られないため好ましくなく、例えば80質量部を越える場合には、塗膜の柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0069】
下記式(3)で定義される電極膜の形成に適したペーストの固形分濃度(%)は、ペーストの印刷特性やハンドリング性、さらに適する印刷方法に影響を与える。
[{(A)+(C)+(D)}/{(A)+(B)+(C)+(D)}]×100(%)
・・・(3)
式(3)中、それぞれ、(A)は高分子固体電解質、(B)は有機溶媒、(C)は非解離性粒子、(D)は導電性微粒子の質量を示す。
【0070】
前記の通り、適切な固形分濃度は採用する印刷方法に依存するものである。本発明の高分子トランスデューサの電極膜としての形状から好適であるスクリーン印刷法を用いる場合、適切な固形分濃度は、10質量%以上であると好ましく、20質量%以上であるとより好ましく、30質量%以上であるとさらに好ましい。固形分濃度がこれよりも低い場合には、ペーストの粘度が低下しすぎるため液ダレ等による不良が発生し易い傾向にある。一方、70質量%よりも固形分濃度が高い場合にはペーストの粘度が高くなりすぎ、カスレ等の不良が発生し易い傾向にある。
【0071】
電極膜の形成に適したペーストは、高分子固体電解質(A)、有機溶媒(B)、非解離性粒子(C)、及び導電性微粒子(D)を適切な方法で混合することにより得られる。高分子固体電解質(A)は有機溶媒(B)に対して、溶解していても分散していてもよいが、均質な塗膜を得やすいという観点からは溶解している方が好ましい。
【0072】
混合の方法は、特に制限されないが、例えば高分子固体電解質(A)を予め有機溶媒(B)に溶解させた液(ビヒクル)に、非解離性粒子(C)及び導電性微粒子(D)を加え、撹拌機(攪拌翼)、ビーズミル、ボールミル、ロールミル等の混練機、分散機を用いて混合することが挙げられる。
【0073】
電極膜の形成に適したペーストは、種々の方法により塗工することができる。塗工の方法としては例えば、スプレー法、ディップ法、バーコート法、ドクターブレード法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット法等を挙げることができる。なかでも塗膜に求められる形状や作業性の観点から、スクリーン印刷法が望ましい。
【0074】
このように電極膜の形成に適したペーストを塗工した後、乾燥させることで本発明の電極膜を得ることができる。乾燥の条件について特に制限はないが、例えば50〜150℃の温度下、1秒〜1日といった時間範囲で行うことができる。これらは用いる有機溶媒(B)の種類や、高分子固体電解質(A)、非解離性粒子(C)、導電性微粒子(D)の組成比等に依存して決定される。
【0075】
ペーストを乾燥固化させて得た塗膜からなる電解質膜及び/又は電極膜で構成される本発明の高分子トランスデューサについて、図1を参照しながら詳細に説明する。高分子トランスデューサ1は、電解質層2に対し、少なくとも互いに独立し絶縁した一対の電極層3a及び3bが付与された構造を持つ。この構造は、厚み方向に対し、電極層3a/電解質層2/電極層3bの順に積層されたものである。積層構造の電極層3aと電極層3bとは、互いには絶縁している独立した電極である。高分子トランスデューサ1を曲げ量等のセンサとして用いる場合には、高分子トランスデューサ1に曲げを与えた際に電極層3a及び電極層3bの間に生じる電位差を信号として読み取って使用する。高分子トランスデューサ1をアクチュエータとして用いる際には、電極層3a及び電極層3aの間に外部から電位差を与えることにより駆動する。
【0076】
図2に、部材を付加した高分子トランスデューサ1を示す。高分子トランスデューサ1は、電極層3a/電解質層2/電極層3bの積層構造のそれぞれ電極層3a,3bの外側に、その長手方向の抵抗を低減すべく、集電体4a,4bが設けられたものである。さらに、その集電体4a,4bの外側を、保護層としての作用を有するフィルム基材5a,5bで覆われた構造である。ここで、集電体4a/電極層3a/電解質層2/電極層3b/集電体4bの積層構造をセンサ部1Aとする。集電体4a,4bは、高分子トランスデューサ1を構成する一対の電極層3a,3bのうち少なくとも一方の電極の外側、つまり高分子固体電解質2に対して反対側に配設することができる。
【0077】
高分子トランスデューサ1は、その電解質層2及び電極層3a,3bにおいて、電解質層2のみが、電解質膜の形成に適したペーストで形成された電解質膜であってもよく、電極層3a,3bのみが、電極膜の形成に適したペーストで形成された電極膜であってもよく、双方が本発明のペーストで形成されたものであってもよい。
【0078】
集電体4a,4bとしては例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム等の金属箔や金属薄膜;金、銀、ニッケル等の金属粉またはカーボンパウダー、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素微粉とバインダー樹脂からなる成形体;織物、紙、不織布等の布帛や高分子フィルム等にスパッタやメッキ等の方法により金属薄膜を形成したもの等を挙げることができる。なかでも可撓性の観点からは金属粉とバインダー樹脂とからなる膜状成形体、布帛や高分子フィルム等に金属薄膜を形成したものであることが好ましい。
【0079】
フィルム基材5a,5bは、一般的に用いられるポリマーフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エラストマーフィルム等を用途に応じて適宜用いることができる。尚、このフィルム基材は高分子トランスデューサを使用する際に除去してもよいし、そのまま一体としてもよい。そのまま一体として用いる場合にはフィルム基材は保護層として作用する。
【0080】
かかる高分子トランスデューサ1の形状は、特に制限されず、例えば膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、円柱状、柱状、球状等の種々の形状を挙げられる。
【0081】
図1及び2に示されるように、膜状、フィルム状、シート状、板状の高分子トランスデューサ1を製造する方法は、例えば、膜状に成形した電解質膜2の両面上に、ペーストを塗工・乾燥して得られる塗膜である電極層3a,3bを、相互に絶縁が確保される状態で貼り合わせ(図1)、必要に応じて集電体4a,4bを塗工法等により形成する(図2)方法;
膜状に成形した電解質層2の両面にペーストを塗工・乾燥することで相互に絶縁した電極膜3a,3bを形成し(図1)、必要に応じて集電体4a,4bを塗工法等により形成する(図2)方法;
フィルム基材5a上に必要に応じて集電体4aを形成した後、電極膜用ペーストを塗工・乾燥して電極層3aを形成し、その上に電解質膜用ペーストを塗工・乾燥して電解質層2を形成し、次いで電極膜用ペーストを塗工・乾燥して電極層3bを形成した後、必要に応じて集電体4bを形成し、さらに必要に応じてカバーとしてフィルム基材を貼合せる(図2)方法;
フィルム基材5a,5b上に必要に応じてそれぞれ集電体4a,4bを形成した後、電極膜用ペーストを塗工して乾燥しそれぞれ電極層3a,3bを形成し、次いで電解質膜用ペーストを、それぞれの電極層3a,3bに塗工して乾燥し、電極層3a−電解質層2、及び電極層3b−電解質層2の積層構造を形成させてできたフィルム状前駆体同士の電解質層2面同士を熱プレスし、ラミネートによって貼り合せる(図2)方法等を挙げられる。
【0082】
高分子トランスデューサ1の電極層3a,3b、電解質層2、必要に応じて配設される集電体4a,4b、フィルム基材5a,5bの各厚さは、特に制限されず、高分子トランスデューサの用途等により適宜調整される。ただし、電極層3a,3bの厚さは、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは5μm〜1mm、さらに好ましくは10〜500μmの範囲である。また、電解質層2の厚さは、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは5μm〜1mm、さらに好ましくは10〜500μmの範囲である。また、図2に示される集電体4a,4bを設ける場合には、その厚みは、好ましくは1nm〜1mm、より好ましくは5nm〜100μm、さらに好ましくは10nm〜50μmの範囲である。同じく、図2に示されるフィルム基材5a,5bの厚みとしては、保護層としてそのまま使用するか否かに関わらず、製造時の取扱い容易性の観点や保護層としての強度の観点から、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは10μm〜1mm、さらに好ましくは30μm〜500μmの範囲である。
【0083】
本発明の高分子トランスデューサ1は、空気中、水中、真空中、有機溶媒中で動作することができる。さらに使用環境に応じて、適宜封止を施してもよい。封止材としては特に制限はなく、各種樹脂等を挙げることができる。
【0084】
この様な本発明の高分子トランスデューサ1に外部より変位、圧力等の機械的エネルギーを加えると、相互に絶縁した電極間に電気エネルギーとして電位差(電圧)を発生させることができる。このため、本発明の高分子トランスデューサを、変動、変位又は圧力を検知する変形センサや変形センサ素子として使用することもできる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0086】
本発明のペーストの調製を実施例1〜8に示し、それを塗工し、乾燥することにより得られる塗膜を電解質膜や電極膜として含む高分子トランスデューサの製造について実施例9〜13に示す。
【0087】
実施例及び比較例で使用した材料について以下に示す。
(1)ポリα−メチルスチレン−b−ポリ(1,3−ブタジエン)−b−ポリα−メチルスチレンの水素添加物(mSEBmS):国際公開第02/40611号に開示されている方法と同様の方法で、ポリα−メチルスチレン−b−ポリ(1,3−ブタジエン)−b−ポリα−メチルスチレン型トリブロック共重合体を合成した。得られたトリブロック共重合体の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定でポリスチレン換算により、76,000であり、核磁気共鳴(H−NMR)から求められた1,3−ブタジエンに由来する1,4−結合量は55%、α−メチルスチレン単位の含有量は30質量%であった。合成したトリブロック共重合体のシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のチーグラー型水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下80℃で5時間の水素添加反応を行いmSEBmSを得た。得られたmSEBmSの水素添加率はH−NMRより99.6mol%であった。
(2)無水酢酸:和光純薬工業株式会社より購入してそのまま用いた。
(3)濃硫酸:和光純薬工業株式会社より購入してそのまま用いた。
(4)ジクロロメタン:キシダ化学株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)に接触させたものを用いた。
(5)ジイソプロピルベンゼン:三井化学株式会社より購入し、そのまま用いた。
(6)1−ヘキサノール:和光純薬工業株式会社より購入し、そのまま用いた。
(7)導電性カーボンブラック:ライオン株式会社より購入した「ケッチェンブラックEC600JD」を、150℃で12時間、真空乾燥したものを用いた。一次粒径34nm。
(8)ガラスビーズ:ポッターズ・バロティーニ株式会社製「EGB731」。平均粒径20μm、アスペクト比1、真密度2.6g/cm
(9)架橋ポリメチルメタクリレート粒子(1):綜研化学株式会社製「MX2000」。平均粒径20μm、アスペクト比1、真密度1.2g/cm
(10)架橋ポリメチルメタクリレート粒子(2):綜研化学株式会社製「MX150」。平均粒径1.5μm、アスペクト比1、真密度1.2g/cm
(11)架橋ポリスチレン粒子:綜研化学株式会社製「SX130H」。平均粒径1.3μm、アスペクト比1、真密度1.1g/cm
(12)炭酸カルシウム(解離性):丸尾カルシウム株式会社製「スノーライト」。平均粒径1.7〜2.2μm。
(13)タルク(解離性):林化成株式会社製「ミクロンホワイト」。平均粒径2.8μm。
(14)ガラス繊維:オーウェンスコーニングジャパン株式会社製「チョップトストランド03−JA FT2A」。平均繊維長(長径)3mm、平均繊維径(短径)11μm。
【0088】
その他の溶媒、試薬類は市販品を購入し、必要に応じて一般的な方法で精製したものを用いた。
【0089】
(製造例1)
mSEBmS355gを撹拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、次いで、窒素で系内を置換した後、塩化メチレン3Lを加え、35℃にて2時間攪拌して溶解した。溶解後、塩化メチレン155mL中、0℃にて無水酢酸34.7mLと濃硫酸77.5mLとを反応させて得られたスルホン化剤(アセチルサルフェート)を、5分間かけて徐々に滴下した。35℃にて7時間攪拌後、10Lの蒸留水の中に攪拌しながら反応溶液を注ぎ、スルホン化mSEBmSを凝固析出した。析出した固形分を90℃の蒸留水で30分間洗浄し、さらに濾別した。この洗浄及び濾別の作業を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰返し、最後に濾集した重合体を真空乾燥してスルホン化mSEBmSを得た。得られたスルホン化mSEBmSのα−メチルスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR(核磁気共鳴)スペクトル測定から49.8mol%、プロトン交換容量は1.08mmol/gであった。
【0090】
(実施例1)
製造例1で得られたスルホン化mSEBmS(高分子固体電解質(A))26gを、ジイソプロピルベンゼン59gと1−ヘキサノール15gとの混合溶媒:(有機溶媒(B))に攪拌溶解させた。次いでこの溶液に、ガラスビーズ(非解離性粒子(C))12gを加えて、十分に混合してペースト(I−1)を調製した。
【0091】
(実施例2)
実施例1において、ガラスビーズ12gの代わりに、架橋ポリメチルメタクリレート(1)5.5gを用いる以外は同様の操作を行って、十分に混合してペースト(I−2)を調製した。
【0092】
(実施例3)
実施例1において、ガラスビーズ12gの代わりに、架橋ポリメチルメタクリレート(2)5.5gを用いる以外は同様の操作を行って、十分に混合してペースト(I−3)を調製した。
【0093】
(実施例4)
実施例1において、ガラスビーズ12gの代わりに、架橋ポリスチレン5gを用いる以外は同様の操作を行って、十分に混合してペースト(I−4)を調製した。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、ガラスビーズを用いない以外は同様の操作を行ってペースト(比I−1)を調製した。
【0095】
(比較例2)
実施例1において、ガラスビーズの代わりに炭酸カルシウム12gを用いて、十分に混合してペースト(比I−2)を調製した。
【0096】
(比較例3)
実施例1において、ガラスビーズの代わりにタルク12gを用いて、十分に混合してペースト(比I−3)を調製した。
【0097】
(比較例4)
実施例1において、ガラスビーズの代わりにガラス繊維12gを用いて、十分に混合してペースト(比I−4)を調製した。
【0098】
(実施例5)
製造例1で得られたスルホン化mSEBmS(高分子固体電解質(A))23.6gを、ジイソプロピルベンゼン22.2gと1−ヘキサノール51.8gとの混合溶媒(有機溶媒(B))に攪拌溶解させた。次いで、この溶液にガラスビーズ(非解離性粒子(C))11.6g、及びケッチェンブラック(導電性微粒子(D))5.26gを加えて、精密分散乳化機(エム・テクニック株式会社製「クレアミックスCLM−0.8S」)を用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(II−1)を調製した。
【0099】
(実施例6)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりに、架橋ポリメチルメタクリレート(1)5.35gを用いる以外は同様の操作を行ってペースト(II−2)を調製した。
【0100】
(実施例7)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりに、架橋ポリメチルメタクリレート(2)5.35gを用いる以外は同様の操作を行ってペースト(II−3)を調製した。
【0101】
(実施例8)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりに、架橋ポリスチレン4.91gを用いる以外は同様の操作を行ってペースト(II−4)を調製した。
【0102】
(比較例5)
製造例1で得られたスルホン化mSEBmS(高分子固体電解質(A))24gを、ジイソプロピルベンゼン21.6gと1−ヘキサノール50.4gとの混合溶媒(有機溶媒(B))に攪拌溶解させた。次いで、この溶液にケッチェンブラック(導電性微粒子(D))4.59gを加えて、精密分散乳化機(エム・テクニック株式会社製「クレアミックスCLM−0.8S」)を用い、ローター回転速度4500rpmで30分間分散処理を行うことによりペースト(比II−1)を調製した。
【0103】
(比較例6)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりに炭酸カルシウム11.6gを用いてペースト(比II−2)を調製した。
【0104】
(比較例7)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりにタルク11.6gを用いてペースト(比II−3)を調製した。
【0105】
(比較例8)
実施例5において、ガラスビーズ11.6gの代わりにガラス繊維12gを用いてペースト(比II−4)を調製した。
【0106】
(ペースト及び塗膜の評価)
実施例1〜8及び比較例1〜8で得られたペーストの保存安定性評価と印刷特性評価とを行った。
【0107】
(1)ペーストの保存安定性評価
ペースト(I−1)〜(I−4)、(比I−1)〜(比I−4)、(II−1)〜(II−4)及び(比II−1)〜(比II−4)を、それぞれガラス瓶に採り、蓋をした状態で25℃にて10日間静置した後、ペーストの状態を目視、及び棒でかき混ぜることにより確認した。その状態において、「変化なし」を○、「ゲル状物の発生あり又はゲル化」を△、「沈降物あり」を×、とする指標に従って評価した。
【0108】
(2)ペーストの印刷特性評価
調製したペースト(I−1)〜(I−4)、(比I−1)〜(比I−4)、(II−1)〜(II−4)及び(比II−1)〜(比II−4)を、スクリーン印刷装置(ニューロング精密工業社製「LS−34TV」)を用いてテスト印刷を行った。この時、スクリーンはテトロン(ポリエステル)材料製、パターンサイズ20mm×20mm、乳材厚12μm、250メッシュのものを用いた。基材には、無延伸PPフィルム(東セロ株式会社製「GLC−50」、厚み50μm、片面コロナ処理)のコロナ処理面に繰返しテスト印刷を実施して、印刷特性に関して官能評価を行った。
A〜Dの4段階に分けた評価基準を以下に示す。
A: 問題なく印刷が可能であり、また得られた塗膜においてもダレ等による形状不良は発生しなかった
B: 問題なく印刷が可能であったが、得られた塗膜においてダレによる形状不良が発生した
C: ペーストがゲル化しており、スクリーン印刷による塗工は不可能であった
D: 印刷に用いたスクリーンのメッシュ部に、詰まりが生じ、印刷性は不良であった
また、実施例1〜4及び比較例1〜4の各ペーストは15μmの膜厚、さらに実施例5〜8及び比較例5〜8の各ペーストは100μmの膜厚に達するまでに必要な塗工回数を数えた。その所望の膜厚に達するまでの塗工回数が少ないほど、工業的経済性に有利な条件で塗膜が形成できるため好ましい。
【0109】
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたペーストをフィルム上に塗工し、乾燥して得た塗膜の柔軟性評価を行った。
【0110】
(3)塗膜の柔軟性評価
ペースト(I−1)〜(I−4)及び(比I−1)〜(比I−4)を、離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、「ピューレックス A31」)の離型処理面に、クリアランス750μmのブロックコーターを用いて塗工し、100℃のホットプレート上で乾燥して塗膜を得た。この塗膜を10mm×30mmの長さにカットし、長さ方向の15mm分をクランプで挟み、固定したうえで、残りの15mmの部分を手で約10mm押し曲げた際の膜の変化について観察した。
【0111】
実施例1〜4で得られたペーストの保存安定性評価及び印刷特性評価と、塗膜の柔軟性評価との評価結果を表1に示す。ポリメチルメタクリレートはPMMA、ポリスチレンはPSと略記する。
【0112】
【表1】
【0113】
比較例1〜4で得られたペーストの保存安定性評価及び印刷特性評価と、塗膜の柔軟性評価との評価結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表1から明らかなように、実施例1〜4の本発明の要件を満たしているペーストは、ペーストの保存安定性及び印刷特性が良好なものであった。また、少ない回数で所望の膜厚に達し、工業的経済性に有利な条件で塗膜を形成できることがわかった。
【0116】
一方、表2から明らかなように、本発明の要件を満たしていないペーストについて、粒子(C)を含まない比較例1のペースト(比I−1)については、印刷特性について、問題なく印刷はできたが、粘度が低いことに由来してダレが生じたため形状不良が発生した。また所望の膜厚を得るために必要な塗工回数が多くなり、工業的経済性に劣ることが明らかとなった。このペースト(比I−1)について、ペーストの固形分濃度の向上、すなわち高濃度化による高粘度化を試みたが、高分子固体電解質(A)が溶解せず解決策には繋がらなかった。また、同じく要件を満たしていない比較例2及び3のペースト(比I−2),(比I−3)については、高分子固体電解質(A)に含まれるスルホン酸基と、粒子(C)とに含まれるカルシウムやマグネシウムの金属成分の間に架橋反応が生じることによると推定されるゲル化が著しい点で保存安定性に乏しく、またゲル状であるため塗工が不可能であった。さらに本発明の要件を満たしていない比較例4のペースト(比I−4)については、保存安定性に問題はなかったものの、スクリーン印刷時にメッシュ部に詰まりが生じてしまい、印刷特性に劣ることがわかった。
【0117】
以上のことから、本発明の要件を満たしているペーストは、保存安定性及び印刷特性に優れており、また工業的経済性に有利な条件で塗工することが可能であることがわかる。また、実施例1〜4の塗膜は、十分な柔軟性を有しており、高分子トランスデューサ用の電解質膜として好適に用いることができることがわかった。
【0118】
一方、比較例2及び3については、ペーストの塗工自体が不可能であるため、塗膜が製造できず評価が不可能であった。比較例4は、塗膜が得られるものの、柔軟性が著しく低下しており、また屈曲させた場合に割れが生じてしまった。このことから比較例4の塗膜は、高分子トランスデューサ用の電解質膜として用いることは適当ではないことがわかる。
【0119】
実施例5〜8で得られたペーストの保存安定性評価及び印刷特性評価の評価結果を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
比較例5〜8で得られたペーストの保存安定性評価及び印刷特性評価の評価結果を表4に示す。
【0122】
【表4】
【0123】
表3から明らかなように、実施例5〜8の本発明の要件を満たしているペーストは、ペーストの保存安定性、及び印刷特性が良好であった。また少ない回数で所定膜厚に達し、工業的経済性に有利な条件で塗膜を形成できることがわかった。
【0124】
一方、表4から明らかなように、本発明の要件を満たしていないペーストについて、粒子(C)を含まない比較例5のペースト(比II−1)は、印刷特性については問題が無かったものの、所定膜厚を得るために必要な塗工回数が多くなり、工業的経済性に劣るものである。ペースト(比II−1)について、ペーストの固形分濃度の向上、すなわち高濃度化により、塗工回数の低減を試みたが、高分子固体電解質(A)が溶解せず、解決策には繋がらなかった。また、同じく要件を満たしていない比較例6及び7のペースト(比II−2),(比II−3)については、高分子固体電解質(A)に含まれるスルホン酸基と、粒子(C)とに含まれるカルシウムやマグネシウムの金属成分の間に架橋反応が生じることによると推定されるゲル化が著しい点で保存安定性に乏しく、またゲル状であるため塗工が不可能であった。さらに本発明の要件を満たしていない比較例8のペースト(比II−4)について、保存安定性に問題はなかったものの、スクリーン印刷時にメッシュ部に詰まりが生じてしまい、印刷特性に劣ることがわかった。
【0125】
以上のことから、本発明の要件を満たしているペーストは、保存安定性及び印刷特性に優れており、また工業的経済性に有利な条件で塗工することが可能であることがわかる。
【0126】
(実施例9)
市販の銀ペースト(藤倉化成株式会社製「ドータイトXA−954」)で集電体4a,4bを設けたポリプロピレン製フィルム5a,5b(東セロ株式会社 無延伸ポリプロピレンフィルム「GLC50」、膜厚50μm)上に、スクリーン印刷装置LS−34TVを用いて、比較例5で調製したペースト(比II−1)を塗工し、その後80℃で乾燥した。この工程を塗膜の厚みが100μmになるまで行い、電極膜3a,3bを形成し、積層体Aとした。
実施例1で調製したペースト(I−1)を、積層体Aの電極膜3a,3b上にスクリーン印刷装置LS−34TVを用いて塗工し、その後80℃で乾燥し電解質膜2を形成した。この工程を電解質膜2の膜厚が15μmになるまで行い、積層体Bを形成した。
積層体Bの二枚を、電解質膜2の面同士が接着するように重ね合わせてこの状態で100℃にて5分間プレスをすることで高分子トランスデューサ1を得た。この際、トランスデューサとしての評価を行うため、リード線12a,12bを設けた。
【0127】
(実施例10〜13及び比較例9〜10)
実施例9の電極膜と電解質膜と形成したペーストの代わりに、それぞれ実施例5、6、8及び比較例1で得られたペーストを用いること以外は、同様の作業を行い、高分子トランスデューサを製造した。電解質膜及び電極膜の組合せを表5及び表6に示す。
【0128】
(高分子トランスデューサの変形センサとしての性能試験)
変形センサとしての応答感度は、高分子トランスデューサに一定変位を与えたときに発生した電圧と定義する。性能試験の測定における概要図を図3に示す。
実施例9〜13及び比較例9〜10で得られた高分子トランスデューサについて、センサ部1A(20mm×20mm)のうち、長さ方向の10mm分をクランプ11a,11bで挟み、変形センサ長で10mm分をフリーとして測定セルとした。リード線12a,12bを電圧計(キーエンス社製「NR−ST04」)に接続した。この状態で、高分子トランスデューサ1の固定端から5mmの場所に、変位発生器13の振動板13bから駆動伝達部材13aを介して1mmの変位を与えたときに発生した電圧をデータロガーで測定した。なおこの時、高分子トランスデューサ1の固定端から5mmの変位点Pの変位量を、レーザー変位計14(キーエンス社製「LK−G155」)を用いて同時に測定した。変形開始から20秒後に変形を解除した。
変形直後の発生電圧をレーザー変位計14で読み取った変形量で除して求めた信号強度(S0)、及び変形後20秒後の発生電圧をレーザー変位計で読み取った変形量で除して求めた信号強度(S20)、信号保持率=(S20/S0)×100(%)を評価した。S0及びS20は高い方が好ましく、信号保持率は100%に近いほど好ましい。実施例9〜13及び比較例9〜10における評価結果を表5及び表6に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
【表6】
【0131】
本発明のペーストを、電解質膜と電極膜との少なくとも何れかに用いて製造した高分子トランスデューサは、いずれも良好な信号保持率(S20/S0)を示し、変形状態をよくモニタリングできるセンサであることがわかる。また本発明のペーストとは異なるペーストを用いた比較例9に比べると、信号保持率は同等であり、信号強度(S0及びS20)が大きい結果となり、高い信号強度が得やすく、使用に適していることがわかる。
【0132】
また本発明の要件である非解離性粒子(C)とは異なる粒子(C)を用いた場合の高分子トランスデューサは、十分な柔軟性を持っているとは言い難いものであった。
【0133】
比較例10は、変形に応答したと思われる信号が得られず、ノイズを多数含む結果となり、測定不可となった。試験後の高分子トランスデューサを目視確認したところ、屈曲部位においてクラックが発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のペーストは印刷に適した特性を示し、高分子トランスデューサ用の電解質材料及び電極材料として有用である。電解質膜の形成に適するペーストを塗工し乾燥して得られる塗膜は、高分子トランスデューサ用の電解質膜として、また、電極膜の形成に適するペーストを塗工し乾燥して得られる塗膜は、高分子トランスデューサ用の電極膜としてそれぞれ活用され、十分な柔軟性を示し高い応答感度を有する高分子トランスデューサとして使用される。この高分子トランスデューサは、種々の変形や変位を計測する柔軟なセンサとして好適に使用することができる。
図1
図2
図3