特許第5759872号(P5759872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759872
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】酒種の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20150716BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20150716BHJP
   A21D 13/00 20060101ALI20150716BHJP
   C12R 1/69 20060101ALN20150716BHJP
【FI】
   C12N1/14 101
   A21D8/04
   A21D13/00
   C12N1/14 A
   C12N1/14 A
   C12R1:69
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-246663(P2011-246663)
(22)【出願日】2011年11月10日
(65)【公開番号】特開2013-102702(P2013-102702A)
(43)【公開日】2013年5月30日
【審査請求日】2014年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】山本 英二
(72)【発明者】
【氏名】秦 太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−239940(JP,A)
【文献】 特開2010−142172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
A21D 8/00
A21D 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度0℃未満の凍結麹と温度60〜100℃の熱水とを混合して得られた麹液を、30℃以下の温度に調整し、次いで少なくとも蒸米及び米と混合することを特徴とする酒種の製造方法。
【請求項2】
前記凍結麹の温度が−10℃以下であり、前記熱水の温度が80〜100℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記凍結麹と前記熱水との質量比が、1:1〜4である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記麹が、Aspergillus oryzae又はAspergillus sojaeを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られた酒種を用いて製造されたパン類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵力が高く、良好な膨らみと風味をパンに付与することができる酒種の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酒種をパン生地に添加して発酵、成形、焼成して製造した酒種パンが製造されている。この酒種パンは、独特の酒様の豊かな風味を有する点で、消費者に好まれている。
酒種パンに使用される酒種は、通常、米麹と米の混合物(場合によっては清酒酵母を加えることもある)を発酵させることにより製造されている。しかしながら、このような酒種は、発酵力が十分でなく、パン生地に添加しても、製造中に生地がだれたり、ふっくらと焼き上がらないことがあった。さらに、このような酒種を使用して製造されたパンは、酒の香りではなく、しょうゆや味噌に類する臭いや苦味、エグ味が感じられる場合があった。
【0003】
上記従来の酒種パンの欠点を克服するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、生きている黒麹を含む麹を用いた酒種を配合したことを特徴とするパン類が記載されている。しかし、この黒麹を用いた酒種は、発酵力がなお十分でなく、さらにパンを製造したときに異臭やエグ味を有する場合がある。さらに、黒麹はその製麹工程において、黒色の胞子を形成することがあり、パンの概観を大きく損なう恐れがある。また特許文献2には、麦麹と、小麦もしくは米と小麦の混合物を混ぜ、これに清酒酵母を添加し、発酵せしめることを特徴とするパン用酒種の製造方法が記載されている。しかしこの技術も、十分な発酵力のある酒種を得ることはできず、雑菌による異味・異臭が感じられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3701959号公報
【特許文献2】特許第2534870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酵母をさらに添加しなくとも十分な発酵力を有し、パンに良好なボリュームと酒様の風味とを付与することができる酒種の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、凍結麹と熱水とを混合して得られた麹液を、30℃以下の温度に調整し、次いで蒸米、米等で仕込むことによって製造された酒種が、良好な酵母の発酵力を有しており、当該酒種を用いることにより、良好なボリュームと酒様の風味とを有するパン類が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、温度0℃未満の凍結麹と温度60〜100℃の熱水とを混合して得られた麹液を、30℃以下の温度に調整し、次いで少なくとも蒸米及び米と混合することを特徴とする酒種の製造方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、上記製造方法により得られた酒種を用いて製造されたパン類を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により製造された酒種は発酵力が高く、酵母をさらに添加しなくとも生地を良好に膨張させることができるので、当該酒種を用いることによりボリュームのあるパン類を製造することができる。また当該酒種を用いて製造されたパン類は、良好な酒様の風味を呈することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酒種の製造方法においては、まず、凍結麹と熱水とを混合して麹液を得る。上記凍結麹は、生麹を凍結したもので、0℃より低い温度で凍結されているものであればよいが、−10℃以下で凍結されているものが好ましい。上記熱水としては、水道水、イオン水、精製水、ミネラルウォーターなどの、調理に通常使用される水を用いればよく、温度は60〜100℃、好ましくは80〜100℃であればよい。
【0010】
本発明で使用される麹としては、特に限定されないが、Aspergillus oryzaeAspergillus sojae等の黄麹菌;Aspergillus kawachiiAspergillus shirousamii等の白麹菌、等を含むものが好ましく、このうち黄麹菌を含むものがより好ましい。また好ましくは、本発明で使用される麹には、黒麹(例えば、Aspergillus awamoriAspergillus saitoi等)、特にその生菌は、実質的に含まれていない。
【0011】
上記凍結麹と熱水とを混合して麹液を得る。該麹液における凍結麹と熱水との質量比は、1:1〜4であればよく、好ましくは1:2〜3である。
次いで、得られた麹液の温度を、30℃以下、好ましくは5〜20℃に調整する。ここで、麹液の温度調整は、混合開始から、好ましくは180秒以内、より好ましくは60秒以内に完了する。調整に長い時間をかけ過ぎると、麹の酵素が失活するおそれがある。
麹液の温度を調整する手段としては、外部から冷却若しくは加温する方法、麹液を空冷又は攪拌冷却する方法、麹液が所定時間内に所定の温度に達するように、凍結麹と熱水の温度及び混合比を予め調節する方法、又はこれらの組み合わせ等が挙げられるが、このうち、凍結麹と熱水の温度及び混合比を予め調節する方法が簡便で好ましい。このとき、凍結麹と熱水の温度及び混合比は、例えば、周囲温度、使用される凍結麹の状態や量などを考慮して、当業者が適宜決定することができる。
【0012】
次いで、上記所定の温度に調整された麹液を用いて酒種を仕込む。すなわち、当該麹液を、米、もち米、小麦、大麦、それらを蒸したもの、又はそれらの組み合わせ等の材料と混合する。好ましくは、上記麹液を、少なくとも蒸米及び米と混合する。この混合物における麹液と上記材料との質量比は、麹液1に対して、蒸米及び米の合計量として、0.1〜1.0、好ましくは0.2〜0.6であればよい。必要に応じてさらに水を添加してもよい。得られた混合物を発酵させることにより、酒種を得ることができる。上記麹液と蒸米、米等との混合、及び得られた混合物の発酵は通常の手順に従って行えばよい。例えば、上記混合物を、10〜25℃、好ましくは15〜20℃の温度下で約24〜48時間、好ましくは約48時間、約12時間毎に攪拌しながら静置し、発酵させればよい。発酵は、発酵室等の温度管理可能な環境下で行うことが好ましい。
【0013】
必要に応じて、上記の手順で得られた酒種を一番種として、順次仕込みと発酵を繰り返し、酒種を製造してもよい。例えば、一番種の発酵が終了したら、この一番種の一部もしくは全量に、麹、水、蒸米等を加えて二番種を仕込み、約12時間毎に攪拌しながら24時間程度発酵させてもよい。またはさらに、発酵が終了した二番種から同様の手順で三番種を仕込んで発酵させ、あるいは、同様にさらなる仕込みと発酵の手順を適宜繰り返して、酒種を製造することができる。
【0014】
上記麹液と酒種材料との混合物には、さらに酵母を添加してもよいが、酵母の取り扱いが難しい(誤ると雑菌を持ち込むことになる)。本発明では、酵母を添加しなくとも、上記酒種材料等とともに持ち込まれる酵母で発酵を進めることができる。酵母を添加する場合、酵母の種類としては、Saccharomyces cerevisiaeが好適な例として挙げられるが、特に限定されない。
【0015】
上記本発明の方法で製造された酒種は、パン類の製造に用いることができる。本発明の方法で製造された酒種を用いて製造することができるパン類としては、従来酒種発酵又はイースト発酵を利用して製造されている生地から得られるものであれば、特に限定されない。例えば、当該パン類としては、酒種入りパンの元祖である「あんぱん」、フランスパン(フィセル、バタール等)、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、食パン(イギリスパン等)、リッチパン(バターロール、デニッシュ等)、イタリアパン(フォカッチャ、パネトーネ等)、ベルギーパン(ワッフル等)、中近東パン(ナン、ピタパン等)などのパン;豚まん、花巻等の中華まん及び中華パン;酒饅頭等の和菓子;ケーキ;蒸しパン;ピザ等が挙げられる。上記パン類は、菓子パンや総菜パン等の具材とともに焼成されたものであってもよい。当該具材としては、あんぱんに使用される小豆餡の他、白餡、うぐいす餡等の豆の餡、ジャム、クリーム、チョコレート、ソース類、魚肉類、野菜類、果実類等、各種菓子パンや総菜パン等に通常使用されている多様な材料を用いることができる。
【0016】
上記パン類は、生地に従来の酒種やイーストの代わりに本発明の方法で製造された酒種を添加する以外は、通常のパン類の製造方法に従って製造すればよい。例えば、上記パン類は、本発明の酒種を添加した生地を、通常の製造方法に従って混練、発酵、成形、焼成することによって製造することができる。
さらに、本発明の方法で製造された酒種は、上記パン類に限られることなく、パン酵母などを用いたあらゆる食品に応用することが可能である。
【0017】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
製造例1〜6
黄麹菌(Aspergillus oryzae)による麹を凍結させて凍結麹を調製し、使用するまで−20℃で凍結保存した。この凍結麹20gと90℃の水50gとを混合し、温度調整を行い、表1記載の麹液を調製した。この麹液70質量部を、蒸米5質量部、米25質量部、と混合し、18℃で48時間発酵させ、酒種の一番種を作った。
【0019】
【表1】
【0020】
試験例1
製造例1〜6を一番種として、これに黄麹菌(A. oryzae)による麹、蒸米、米、水をさらに加えて発酵させ二番種を製造した。同様の手順で、三番種、四番種を製造し、四番種を表2記載の材料と混合し、パンを製造した。
製造されたパンについて、10人のパネルで表3の基準に従って外観、内相、食感及び風味の評価を行い、その平均値を求めた。
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
結果を表4に示す。麹液の温度を30℃以下に調整して製造された酒種を用いて得られたパンは、外観・内相・食感及び風味がよく、良好に発酵したことが示された。
【表4】
【0024】
試験例2
表5記載の温度に設定した凍結麹(Aspergillus oryzae)による麹20gと水50gとを混合して、温度調節を行い、20℃の麹液を調製した。この麹液を用いて、製造例1と同様の手順で一番種を製造した。試験例1と同様の手順で二番種、三番種、四番種を製造し、得られた四番種からパンを製造して、その風味を評価した。結果を表5に示す。
【0025】
【表5】
【0026】
試験例3
−20℃の凍結麹(Aspergillus oryzae)と90℃の水とを表6記載の割合で混合して温度20℃の麹液を調製した。この麹液を用いて、製造例1と同様の手順で酒種を製造した。得られた酒種を一番種として、試験例1と同様の手順で二番種、三番種、四番種を製造し、得られた四番種からパンを製造して、その外観、内相、食感及び風味を評価した。結果を表6に示す。
【0027】
【表6】
【0028】
試験例4
黄麹菌(Aspergillus oryzae)の代わりに黄麹菌(Aspergillus sojae)又は白麹菌(Aspergillus kawachii)を用いた以外は製造例4と同じ手順で麹液を調製し、酒種を製造した。得られた酒種を一番種として、試験例1と同様の手順で二番種、三番種、四番種を製造した。なお二〜四番種に添加する麹は試験例1と同様にA. oryzaeを用いた。得られた四番種から試験例1と同様の手順でパンを製造して、その外観、内相、食感及び風味を評価した。結果を表7に示す。なお、表7には製造例4の結果を再掲する。
【0029】
【表7】