(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィー用投影対物レンズは、数十年にわたって、半導体構造素子およびその他の微細構造素子の製造に用いられてきた。これらのレンズは、パターンを、以下ではマスクまたはレチクルとも呼ばれるフォトマスクまたはレチクルから感光層により被覆された物体上に非常に高い解像度で縮小投影する役割を果たす。
【0003】
主として、並行して進められている3つの開発が、約100nm以下の大きさのさらに一層微細な構造を製造するのに寄与している。第1に、投影対物レンズの像側の開口数(NA)を現在通例の値より大きくしてNA=0.8以上の範囲にする試みがなされている。第2に、さらに一層短い動作波長、好ましくは260nm未満、たとえば248nm、193nmまたは157nm未満の波長の紫外光が用いられている。最後に、解像度を高めるまた他の方策、たとえば位相シフトマスクおよび/または斜め照明も用いられている。
【0004】
さらにまた、高い屈折率を有する浸液媒体を投影対物レンズの最後の光学素子と基板との間における空間内に導入することによって達成可能な解像度を高める手法がすでにある。この技術は、本明細書において、液浸リソグラフィーと呼ばれる。この液浸リソグラフィーに適する投影対物レンズは、液浸対物レンズと呼ばれる。浸液媒体の導入の結果として、λ
eff=λ
0/n
Iの有効波長が得られ、ここで、λ
0は、真空動作波長であり、n
Iは、浸液媒体の屈折率である。その結果として、R=k
1(λ
eff/NA
0)の解像度と、DOF=±k
2(λ
eff/NA
0)
2の焦点深度(DOF)とが得られ、ここで、NA
0=sinθ
0は、「乾燥系」開口数であり、θ
0は、対物レンズの開口半角である。経験的定数k
1およびk
2は、処理工程に依存する。
【0005】
液浸リソグラフィーの理論上の利点は、有効動作波長が減じられることと、以って解像度が向上することとにある。これが、真空波長を変化させることなしに達成されうるため、光の生成、光学材料の選択、被覆技術等に関して対応する波長用に確立された技術が、大体において変更なしに採用されうるようになる。加えて、浸液媒体を使用することは、NA=1以上の範囲内の非常に高い開口数を有する投影対物レンズを用いるための必要条件となる。
【0006】
193nmにおいては、
【数1】
の超純水が、適切な浸液として注目されうる。
【0007】
M.スウィッケス(M. Switkes)およびM.ロスチャイルド(M. Rothschild)の論文「157nmでの液浸リソグラフィー(Immersion Lithography at 157 nm)」、J. Vac. Sci. Technol. 第19巻(6)、2001年11月/12月、p.1以降に、157nmの動作波長に関して十分な透明度を有するとともに、マイクロリソグラフィーにおいて現在用いられているいくつかのフォトレジスト材料との適合性を有するパーフルオロポリエーテル(PFPE)を基剤とする浸液が示されている。試験されたひとつの浸液は、157nmにおいてn
I=1.37の屈折率を有する。前記出版物において、さらにまた、フッ化カルシウム素子とシリコン鏡とを用いて動作するとともに、NA=0.86の開口数において、60nm以下の構造の結像を可能にすることを意図される、液浸干渉リソグラフィー用の、レンズを含まない光学系が示されている。
【0008】
本出願人の国際特許出願第03/077036号および第03/077037号には、高い像側開口数によって液浸リソグラフィーに適するマイクロリソグラフィー用屈折性投影対物レンズが示されている。
【0009】
浸液媒体を用いることは、投影対物レンズの光学設計に関する難題となるだけではない。その他の点においても、周知の処理工程および装置を改変して、安定した処理工程を達成することが必要になる。
【0010】
米国特許第4,480,910号および第5,610,683号(欧州特許第0 605 103号に対応)には、液浸リソグラフィーに用いられるとともに、浸液を投影対物レンズと基板との間に導入する装置を有する投影露光装置が説明されている。
【0011】
日本国特許出願の特願平10−303114号には、液浸リソグラフィーに用いられる投影露光装置が示されている。浸液の加熱による結像問題を軽減するために、屈折率の低い温度係数しか有さない水性浸液を使用することが提案されている。これが意図するところは、以って、温度によって引き起こされる屈折率の変動とこれによって生じしめられる結像品質の損失とを減じることにある。
【特許文献1】国際特許出願第03/077036号
【特許文献2】国際特許出願第03/077037号
【特許文献3】米国特許第4,480,910号
【特許文献4】米国特許第5,610,683号
【特許文献5】欧州特許第0 605 103号
【特許文献6】特願平10−303114号
【非特許文献1】M.スウィッケス(M. Switkes)およびM.ロスチャイルド(M. Rothschild)の論文「157nmでの液浸リソグラフィー(Immersion Lithography at 157 nm)」、J. Vac. Sci. Technol. 第19巻(6)、2001年11月/12月、p.1以降
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、液浸リソグラフィーに適するとともに、浸液と長期的に接触しても安定した結像品質を有する投影対物レンズを提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する投影対物レンズを手段として達成される。有利な開発形態は、従属請求項に記載されている。全ての請求項の語句表現は、参照により本明細書に含まれる。
【0014】
本発明のひとつの態様により、自身の物体平面内に配置されるパターンを自身の像面に結像させる投影対物レンズにおいて、自身の光学素子と前記像面との間に配置される浸液媒体を利用して動作する投影対物レンズが得られる。前記光学素子は、投影対物レンズの動作波長に対して透過性を有する基板を有し、前記基板に取り付けられる保護層システムは、浸液媒体との接触のために設けられるとともに、浸液媒体によって引き起こされる劣化に対する前記光学素子の耐性を高める役割を果たす。
【0015】
前記保護層システムを備えた光学素子は、好ましくは光路上の最後の光学素子であり、該素子の直後に像面が位置する。
【0016】
保護層システムは、このような保護層システムを有さない投影対物レンズと比べて投影対物レンズの耐用寿命の実質的な長期化がもたらされるように設計される。これは、特に、浸液媒体と接触する光学素子または全体としての投影対物レンズの光学特性が、保護層システムを有さない場合より実質的に長期にわたって仕様範囲内に維持されることを意味する。本発明においては、攻撃的作用を有しうる浸液媒体と投影対物レンズとの間において長期的な接触があった場合に、結像に不可欠な投影対物レンズの光学特性が、たとえば、浸液媒体が該浸液媒体と接触する光学素子、すなわち基板および/または前記基板に取り付けられる被覆を化学的かつ/または物理的に攻撃して、以って設計により定められるその光学特性の減損を招くことによって損なわれることが考慮に入れられる。この効果は、本発明により回避されるか、または少なくとも実質的に減じられて、投影対物レンズの耐用寿命が、浸液媒体と接触する光学素子の、浸液によって引き起こされる光学特性の劣化によって、制限されないようになる。
【0017】
一般に光路上の最後の光学素子のみが浸液媒体と接触するため、浸液媒体と接触する光学素子は、以下では、「最後の光学素子」とも呼ばれる。しかしながら、本発明の利点は、浸液媒体と接触する光学素子が、光路上の最初の光学素子または投影対物レンズ内に配置される光学素子である場合でも得られうる。したがって、「最後の光学素子」という用語は、多くの場合において、浸液媒体との接触のために設けられる光学素子を表す。
【0018】
本出願の意味における保護層システムは、単一材料層によって形成されうる。例として、透明な塊状材料によって製作される本質的に平行平面状の板または薄膜技術により製造される肉薄の単一層が含まれうる。保護層システムは、さらにまた、互いに積み重なって配置されるとともに、たとえば誘電性交互層システムまたは被覆板として形成される複数個の材料層からなりうる。
【0019】
ひとつの開発形態において、前記基板は、フッ化物結晶材料、特にフッ化カルシウムによって構成される。最後の光学素子にフッ化物結晶材料を用いることは、特に、157nm以下の動作波長用のシステムの場合には、その他の光学材料、たとえば合成石英ガラスは、一般にこの波長に対して透過性を有さないため、必須である。より高い波長用、たとえば193nm用の装置の場合もまた、フッ化カルシウムを最後の光学素子に用いることは、像面の近傍に配置されるこの素子は高い放射負荷にさらされることと、フッ化カルシウムは、合成石英ガラスに対して、放射によって引き起こされる密度変化を起こす傾向が低いこととから、好適である。その一方で、本発明者は、フッ化カルシウムは、水に対して軽微な溶解度を有し、水または水溶液が浸液として用いられる場合には、基板材料が化学的に攻撃されることを発見した。これは、本発明を手段として回避されうる。その他の実施例において、最後の光学素子は、合成石英ガラスによって構成される。
【0020】
本発明は、最後の光学素子の形態とは無関係に用いられうる。いくつかの実施例において、最後の光学素子は、球面状または非球面状に湾曲する入射面と、保護層システムが取り付けられる本質的に平面状の出射面とを有する平凸レンズである。その他の実施例において、最後の光学素子は、いくつかの実施例では交換可能である本質的に平行平面状の板である。この平行平面板は、例として、最後から2番目の光学素子上に密着せしめられるか、または異なる方法で前記素子に光学的に中性的に接続されうる。交換可能な最後の光学素子は、特に最後の光学素子の光学特性が、浸液媒体を用いることによって、経時的に許容可能な範囲を超えて低下する場合に、保守を容易にする。
【0021】
多くの場合、保護層システムは、本質的に最後の光学素子の像側出射面にのみ取り付けられるだけで十分である。さらにまた、保護層システムが、基板の像側出射面に取り付けられるとともに、基板の隣接する側面部分上にも連続的に延在する実施例がある。それが適切である場合は、保護層システムは、まさに基板の像から遠い側の入射面上にも延在しうる。その結果として、要件によって、それが該当する場合には、このような保護がなければ忍び寄る浸液媒体によって濡らされうる危険性にさらされる基板面の「全周的な保護」を創出することができる。
【0022】
ひとつの開発形態において、前記保護層システムは、浸液媒体に対して本質的に不浸透性を有する少なくとも1つの障壁層からなる。この障壁層は、浸液に対して本質的に化学的耐性を有するとともに、基板から遠い障壁層の外側から基板に面する障壁層の側へと通り抜ける孔を本質的に有さない少なくとも1つの障壁層材料からなりうる。障壁層を用いて、浸液が基板まで有意な程度に浸透することを防ぐことができる。障壁層は、単独で、またはさらに他の材料層との組合せで設けられうる。障壁層は、単層または多層として形成されうる。
【0023】
研磨残渣または粉塵等の粒子および/またはかき傷等の機械的損傷が、先行する加工処理段階の結果として被覆前に保護対象の基板表面に存在する場合は、この非理想的な面に施される被覆が、これらの重要位置にすぐ近接する位置において乱されて、その結果として、基板材料が浸液に対して完全に密封されえない危険性がある。その結果として、基板材料は、被覆の欠陥領域内の点において攻撃されうる。ひとつの開発形態において、このことによって生じる問題は、保護層システムの製造における特定の変形態様の方法を手段として回避または軽減されうる。第1に、多層システムの第1の層は、基板上または基板に施される被覆上に施される。その後、この第1の層の一部分は、特に機械研磨法を利用して再び除去されて、その結果として、研磨面が、部分的に除去された第1の層上に生じる。その後、第2の層が、第1の層の前記研磨面に施される。それが適切である場合は、研磨により下地層を部分的に除去する段階と、然る後にその後の層により被覆する段階とが、1回または多数回にわたって繰り返される。研磨面の清浄化は、好ましくは、前記除去段階とその後の被覆との間において行なわれる。前記除去段階において、一般に一部の粒子が被覆部分から切除または削除される。その後の第2の層の被覆時において、一般に粒子は確かに再び存在するが、同じ位置に存在するわけではない。この方法段階は、全ての粒子が少なくとも一度は除去されるまで何度も繰り返されうる。この多重被覆時において、たとえ欠陥が個別層内に残存しても、第1および第2の層内の欠陥は、前記層内において異なる横方向位置に大体または完全に分配されて、その結果として、欠陥を有さない領域が、多層システムの少なくとも1つの層内において本質的に前記システムの全ての位置に存在することになる。その結果として、前記多層システムは、その横方向範囲全体にわたって前記層範囲に対して垂直な方向に浸液に対して不浸透性を有する。
【0024】
多層システムの全ての層は、同じ材料によって構成されうる。さらにまた、異なる材料によって構成される層を形成させて、その結果として、たとえば交互層システムを創出しうることも可能である。
【0025】
前記保護層システムは、対応する動作波長に対して本質的に透過性を有するとともに、さらにまた浸液媒体に対して本質的に不溶性である少なくとも1つのフッ化物材料を有する少なくとも1つの障壁層を含みうる。特に、動作波長によって、前記障壁層は、以下の少なくとも1つの材料を含むか、または本質的にこうした材料によって構成されうる:フッ化アクチニウム(AcF
3)、フッ化ビスマス(BiF
3)、フッ化エルビウム(ErF
3)、フッ化ユーロピウム(EuF
3)、フッ化ガドリニウム(GdF
3)、フッ化ホルミウム(HoF
3)、フッ化マグネシウムカリウム(KMgF
3)、フッ化ランタン(LaF
3)、フッ化イットリウムナトリウム(NaYF
4)、フッ化ネオジム(NdF
3)、フッ化サマリウム(SmF
3)、フッ化テルビウム(TbF
3)、フッ化チタン(TiF
3)、フッ化ツリウム(TmF
3)、フッ化バナジウム(VF
3)、フッ化イッテルビウム(YbF
3)、フッ化イットリウム(YF
3)。全ての前記材料は、193nmまでに適する。特に、フッ化希土類ErF
2、GdF
3、LaF
3およびKMgF
3は、157nmにおいても用いられうる。
【0026】
前記保護層システムが、以下の少なくとも1つの酸化物材料を含むか、または本質的に1つの前記材料によって構成される少なくとも1つの障壁層からなることも可能である:二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウムマグネシウム(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化タングステン(WO
2)、三酸化タングステン(WO
3)。この場合、全ての材料が、193nmに適しており、SiO
2は、小さい層厚さが選択される場合は、157nmにも用いられうる。
【0027】
ひとつの開発形態において、障壁層は、本質的に、高い充填密度を有する酸化物材料によって構成される。充填密度は、塊状材料の密度の95%を超え、特に97%を超え、好ましくは98%を超えるべきである。塊状材料との屈折率の差は、常光線および異常光線に関する等方性物質の屈折率または異方性物質の平均屈折率に対して、5%未満、好ましくは3%未満、特に2%未満であるべきである。
【0028】
二酸化ケイ素(SiO
2)を使用することは、この材料が193nmまで干渉層システムにおいて低い屈折率を有する無吸収材料として用いられうるとともに、被覆技術が適切であれば、実質的に無孔の態様で施されうるため、特に好ましい。特に、障壁層が、本質的にイオンスパッタされた酸化物材料、特に二酸化ケイ素によって構成される場合に好適である。実験により、二酸化ケイ素またはその他の酸化物材料をイオン促進蒸着する場合は、蒸着される材料の充填密度が、有意に増加して、以って浸液媒体に対する障壁層としての適合性が高められることがわかった。
【0029】
また他の可能性は、障壁層材料、特に二酸化ケイ素をPECVD法で施すことである。プラズマ促進化学蒸着の場合は、構成要素は、気体の形態で単量体として供給されるとともに、マイクロ波プラズマにおいて化学的に活性化される。作業条件が適切であれば、炭化水素を有さず、かつ弱い吸収性しか持たず、かつ本質的に孔を含まない酸化物層、たとえば石英層が基板上において形成される。
【0030】
ひとつの開発形態において、障壁層は、約0.15λ〜0.6λの範囲内、特に約0.2λ〜0.3λの範囲内または約0.4λ〜0.6λの範囲内の光学層厚さを有することが好適であることが実証されており、ここで、λは、投影対物レンズの動作波長である。このことは、特に、障壁層材料と浸液媒体との間における屈折率差Δnに関して、Δn≧0.04の条件が成り立つ場合に好適である。このような層は、単独で、または高い屈折率または低い屈折率を有する誘電材料によって作製されるさらに他の層とともに、増透効果を有する干渉層システムとして用いられうる。例として、前記障壁層そのものは、反射防止層として設計されうる。この目的のためには、その層厚さは、本質的に、動作波長の4分の1またはその奇数倍に対応しうる。障壁層の光学層厚さは、さらにまた、前記障壁層に隣接する単一層形または多層形の層システムの光学特性に適合せしめられて、増透効果が前記層システムとともに確立されるようにされうる。≦15nmの幾何学的層厚さを有する障壁層も可能である。
【0031】
いくつかの実施例において、障壁層は、基板の出射側表面に直接施される。反射防止層システムは、基板から遠い障壁層面に施されうる。代案または追加として、反射防止層システムが基板と障壁層との間において配置されることも可能である。いずれの場合も、前記反射防止層システムは、単層または高い屈折率と低い屈折率とを交互に有する誘電材料を有する複数個の単層からなる多層システムによって形成されうる。
【0032】
前記誘電材料は、使用対象の動作波長において本質的に吸収性を有さないように選択されるべきである。低い屈折率を有する各々の層は、動作波長によって、以下の1つの材料を単独で、またはこのグループのその他の材料との組合せで含みうる:フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化アルミニウム(AlF
3)、チオライト(Na
5Al
3F
14)、氷晶石(Na
3AlF
6)、二酸化ケイ素(SiO
2)。高い屈折率を有する各々の層は、以下の1つの材料を単独で、またはこのグループのその他の材料との組合せで含みうる:フッ化ランタン(LaF
3)、フッ化ガドリニウム(GdF
3)、フッ化エルビウム(ErF
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)、フッ化ホルミウム(HoF
3)、フッ化ネオジム(NdF
2)、フッ化サマリウム(SmF
3)、フッ化テルビウム(TbF
3)、フッ化チタン(TiF
3)、フッ化イットリウム(YF
3)、フッ化イッテルビウム(YbF
3)、酸化アルミニウムマグネシウム(MgAl
2O
4)、三酸化タングステン(WO
3)、二酸化タングステン(WO
2)。
【0033】
反射防止層システムが浸液媒体との接触用に設けられる場合は、動作時において可能な限り低い除去率が得られる配慮がなされるべきである。したがって、前記の材料グループにおいて、超純水に対する除去率が約0.01mg/cm
2/日未満、特に0.005または0.002mg/cm
2/日である材料が好ましい。
【0034】
ひとつの実施例においては、フッ化マグネシウム/フッ化ランタンの交互層システムが用いられる。
【0035】
無機材料の代わりに、疎水効果を有するその他の材料を用いて障壁層を製造することも可能であることがわかった。ひとつの開発形態において、保護層システムは、浸液に対して本質的に不透水性を有するパーフルオロ系フルオロカーボンにより作製される少なくとも1つの障壁層からなる。例として、パーフルオロ系アルカンおよびシロキサンを用いることができる。適切な製品は、たとえばメルク社(Merck)により、WR1、WR2またはWR3またはWR4の名称で販売されている。WR3は、特にフッ化物材料との併用において好適である一方で、WR1およびWR2は、特に酸化物材料との組合せにおいて好適である。また、とりわけテフロン(登録商標)の名称で知られているポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることも可能である。
【0036】
さらにまた、液体材料または滑性を示す材料を用いて保護層システムを形成させることも可能である。超純水を浸液媒体として用いる場合は、例として、フォンブリン(Fomblin)の名称で入手可能な真空オイル等の、真空技術に適する油またはグリースを用いることができる。フルオロポリエーテル(PFPE)を基剤とするその他のグリースも可能である。投影露光装置の動作時において、液体の保護媒体または滑性を示す保護媒体が、それが適切である場合には、連続的に繰返し投影対物レンズの出射面と隣接部分とに施されて、浸液媒体による攻撃に対する確実な保護が与えられうる。この場合は、保護膜材料が浸液媒体により汚染されないことを確実にする配慮がなされなければならない。したがって、水の場合は、保護膜材料は、水に対する溶解度を全くまたはほとんど有するべきではない。
【0037】
本発明にしたがった保護層システムの設計において、該保護層システムの光学特性は、浸液媒体の光学特性、特に該媒体の屈折率n
Iに適合せしめられるべきである。屈折率に関して適合せしめられる保護層システムの配設は、本発明の範囲内に含まれる異なる方法で行なわれうる。
【0038】
ひとつの実施例において、前記保護層システムは、層範囲に対して垂直をなす連続的または断続的な屈折率プロファイルを有する屈折率分布型層として設計される。この場合は、好ましくは、基板付近の領域における屈折率は、本質的に、基板材料の屈折率に対応し、浸液との接触用に設けられる領域における屈折率は、本質的に、浸液の屈折率に対応する。このようにすると、理想的な増透効果が少なくとも大体において達成されうる。
【0039】
連続的な勾配を有する層は、たとえば、蒸着の過程において比が変化する、異なる屈折率を有する2つ以上の誘電材料を共蒸着させることによって達成されうる。さらにまた、2つ以上の異なる誘電材料を交互に蒸着させて、小刻みに平均屈折率の勾配を生じしめることも可能である。十分に小さい層厚さにすると、ナノ層パターン状の混合材料を製造することができる。
【0040】
浸液による光学特性の劣化に対する投影対物レンズの適切な保護設計時において、いくつかの浸液は、特に硬紫外線による同時照射の場合に、該浸液と接触する材料を化学的/物理的に攻撃しうることを考慮に入れなければならない。本質的に材料の除去および/または化学反応によって引き起こされる摩耗は、投影対物レンズの耐用寿命を制限するとともに、交換または修理を必要としうる。いくつかの実施例は、事実上不可避のこうした表面損傷を光学的に無効にしうる方策を提供する。
【0041】
この目的のために、ひとつの実施例において、保護層システムは、屈折率に関して最適化される摩耗システムとして設計される。この摩耗システムは、その光学特性に関して、浸液媒体に対する境界領域における厚さの漸進的減少および/または光学特性の漸進的変化が、保護層システムの、以って投影対物レンズの光学特性の実質的な変化を招かないように最適化されうる。換言すれば、保護層システムの光学効果は、浸液による特性変化に対して相対的に感応しない。
【0042】
ひとつの開発形態によれば、前記保護層システムは、浸液媒体との接触用に設けられるとともに、屈折率が基板、特にフッ化カルシウムの屈折率より低い板材料によって製作される塊状材料板からなる。前記板材料の屈折率は、好ましくは浸液媒体の屈折率n
Iに近接するべきである。考慮される板材料の一例は、193nmにおいて
【数2】
であるフッ化リチウム(LiF)である。193nmにおいて、
【数3】
の屈折率を有する超純水が浸液として用いられる場合は、板材料に対する重大な屈折率差Δnは、0.01未満となり、その結果として、略理想的な屈折率適合が可能になる。塊状材料板は、交換可能(交換可能な板)でありうる。
【0043】
一般に、屈折率n
Iを有する浸液媒体を用いる場合、保護層システムが少なくとも浸液媒体に隣接する領域において有効屈折率n
ssを有して、屈折率差Δn=|n
I−n
ss|に関してΔn<0.05が成り立つようにすると有利であることが実証された。屈折率差をΔn<0.01、特にΔn<0.005にしたがって減少させることが好ましい。このような保護層システムの光学特性は、浸液媒体による材料の漸進的溶解に対して相対的に感応しないため、保護層システムを摩耗層として用いることができる。
【0044】
いくつかの実施例において、1個または複数個の単層を有する誘電性反射防止層システムが、基板と摩耗システム、特に摩耗板との間において配置される。
【0045】
全ての浸液媒体に関して光学的に透明な材料を入手して、塊状材料から、屈折率に関して浸液媒体および/または増透システムに対して十分に小さい屈折率差を有して適合せしめられた摩耗システムを得ることができるわけではないと仮定しなければならない。ひとつの開発形態において、保護層システムは、少なくとも浸液媒体に隣接する領域において、低い屈折率を有する少なくとも1つの第1の材料と高い屈折率を有する少なくとも1つの第2の材料とを含む混合材料によって構成される。好ましくは、前記第1の材料は、屈折率
【数4】
を有し、前記第2の材料は、屈折率
【数5】
を有し、ここで、n
Iは、浸液媒体の屈折率であり、n
Sは、基板材料の屈折率であり、前記第1および第2の材料の比は、前記混合材料の平均屈折率n
MIXが得られるように選択される。材料の組合せの選択にあたっては、混合相手が浸液に対して本質的に同じ溶解度を有することを確実にして、浸液が動作時において前記構成要素の一方を選択的に攻撃することがないように配慮しなければならない。このようにすると、光学特性の漸進的な変化および/または混合相手が溶解しやすいことによる空孔率の増大を防ぐことができる。
【0046】
摩耗システムにおいて、平均屈折率n
MIXは、浸液媒体の屈折率n
Iに近接するように設定されうる。好ましくは、Δn<0.05が成り立ち、特にΔn<0.01またはΔn<0.005が成り立ち、ここで、Δn=|n
I−n
MIX|である。
【0047】
最適化された増透特性を有する本質的に摩耗しない保護層システムを得ることが意図される場合は、
【数6】
を設定することが好適でありうる。両側において隣接する材料の屈折率の幾何平均の領域における平均屈折率により、基板と保護層との間およびさらにまた保護層と浸液との間の界面において反射される振幅が本質的に同じ大きさになることが確実になり、その結果として、反射される部分ビームの相対的位相を適切に設定すると、最適な干渉による弱め合いが可能になる。好ましくは、以下の少なくとも1つの条件が満たされるべきである:
【数7】
、特に±1%およびまたは
【数8】
<0.02、特に<0.01。これにより、光学厚さl・d
QWOTを有する光学的に有効な単一層形反射防止層を得ることが可能になり、ここで、d
QWOTは、材料の4分の1波長層の層厚さであり、lは、奇数の整数である。
【0048】
前記混合材料は、ナノパターン状の多層材料または2つ以上の構成要素の連続的または均質な混合物として構成されうる。193nm用に設計される実施例においては、フッ化マグネシウム(MgF
2)とフッ化ランタン(LaF
3)とが共蒸着せしめられる。この組合せは、特に耐性を有する。
【0049】
混合材料により製作される層システムの代わりに、単一材料により製作される単層、たとえば、屈折率が193nmにおいて
【数9】
程度であり、以って193nmにおける超純水の屈折率n=1.44に十分に合致するフッ化マグネシウムにより製作される層を設けることも可能である。
【0050】
孔を含まず、かつかき傷を有さない層が保証される適切な被覆工程(たとえば蒸着またはスパッタリング等)を見つけることが困難なこともある。さらにまた、被覆工程によって製造される薄層システムは、一般に、現場での動作時、すなわち顧客により動作せしめられるときの清浄化に鋭敏であるため、後に保護層システムが清浄化時に損傷される危険性がある。いくつかの実施例においては、被覆工程を用いずに設けられうる保護層システムが用いられる。この場合、前記保護層システムは、本質的に平面状の基板界面上に密着せしめられる本質的に平行平面状の板(保護板)によって形成される。密着時において、光学的に中性かつ、それが適切である場合には再剥離可能な接続部が、基板と密着せしめられる要素との間において形成される。基板と密着せしめられる板とは、一緒に、すなわち多部品構造の組み合わされた光学素子として、共通のホルダ内において保持されうる。
【0051】
ひとつの変形態様において、前記基板は、フッ化物結晶材料、特にフッ化カルシウムによって構成され、前記保護板は、合成石英ガラスによって構成される。このような実施例は、特に本質的に水によって構成される浸液媒体が用いられる場合には、水に対して相対的に高い溶解度を示す基板材料が化学的耐性と水不溶性とを有する石英ガラスによって初期溶解に対して永久的に保護されうるため、有利である。
【0052】
フッ化物結晶材料によって製作される基板上に密着せしめられる合成石英ガラスにより製作される保護板を利用する場合は、板材料と基板材料との異なる熱膨張係数のために、温度変化によって、悪い場合には、密着せしめられた板の基板からの分離および/または界面領域における損傷を招きかねない機械的応力の発生を招きうるため、温度変化が問題になりうる。ひとつの開発形態において、前記基板は、フッ化カルシウムによって構成され、前記密着板は、フッ化バリウムによって構成される。フッ化バリウムは、フッ化物材料として合成石英ガラスと比較すると、基板材料と板材料との間における熱膨張係数の差が、以って熱によって引き起こされる応力が、この場合にはより小さくなるため、フッ化カルシウムより好ましい熱膨張係数を有する。さらにまた、水に対するフッ化バリウムの溶解度は、フッ化カルシウム(ホタル石)の溶解度より有意に低い。その結果として、基板と保護板との間において、温度の変動が起こる場合でも機械的に安定な接続を確保することが可能である。
【0053】
ひとつの開発形態においては、5mm未満の板厚さを有する保護板が利用される。好ましくは、密着せしめられる保護板は、3mm未満、特に2mm未満または1mm未満の板厚さを有する。しかしながら、取扱いの点から、板厚さは、50μmまたは100μmの値を下回るべきではない。密着前の板厚さの下限は、表面を密着加工後に後処理することができて、それが適切である場合は、局所的な材料の除去によって、存在する表面変形を補正することおよび/または全体としての板厚さを所望の最終厚さに減じることが可能になるように選択されうる。その結果として、蒸着またはスパッタリングにより形成される保護層システムの層厚さより大きい厚さを有する保護層システムを創出することが可能になる。一般に、前者の厚さは、5μmまたは2μmまたは1μmまたは500nm以下である。
【0054】
本発明は、さらにまた、自身の物体平面内に配置されるパターンを自身の像面に、自身の光学素子と前記像面との間において配置される浸液媒体を利用して結像させるように設計された投影対物レンズを前記浸液によって引き起こされる光学特性の劣化に対して保護する方法において、使用現場における周囲温度を有意に下回る媒体温度を有する冷却浸液媒体が用いられることによって区別される方法に関する。この場合、前記媒体温度は、たとえば15°C未満の値に設定されうる。特に、前記媒体温度は、約10°C〜約5°Cの間の範囲内に維持されうる。前記浸液媒体の積極的な冷却は、さまざまな理由から有利でありうる。本質的に水によって構成される浸液媒体が用いられる場合は、たとえばフッ化カルシウムに対する水の溶解力は、その温度とともに低下するため、前記積極的な冷却によって、例として、浸液媒体の溶解力を低下させうる。以って、積極的な冷却は、フッ化カルシウムにより作製される光学素子が水を含有する浸液媒体または本質的に水によって構成される浸液媒体と直接接触する液浸系の耐用寿命の長期化に寄与しうる。浸液媒体の積極的な冷却を用いて、さらにまた、周囲温度が相対的に大きく変動しやすい場合でも、浸液媒体の領域において温度の変動を最小限に抑えることができる。このようにすると、例として、密着せしめられる平行平面板を保護層システムとして有するシステムの場合に、基板と板材料との異なる熱膨張係数によって生じる熱応力を無害な値に制限することができる。
【0055】
周囲温度に対する浸液媒体の冷却は、さらにまた、浸液媒体との接触用に設けられる光学素子が浸液媒体によって引き起こされる劣化に対する該光学素子の耐性を高める保護層システムを有さずに存在する液浸系の場合にも用いられうる。
【0056】
光学素子の基板と該基板上に密着せしめられるとともに例として平行平面板でありうる要素との間において熱により引き起こされる応力の問題は、本発明のまた他の態様によれば、投影対物レンズが、密着部を備える前記光学素子の領域を周囲温度の変動と無関係に大体において一定の温度に保つように設定される温度調整装置を具備することによって軽減される。この温度調整装置は、密着部を備える前記光学素子の取付け直後に作動せしめられて、製造現場と予想される使用現場との間における輸送時、使用現場における取外し時および最終顧客によるその後の運転時において、基板と密着せしめられる要素との間の界面領域内において大体において一定の温度を保証する。前記温度調整装置は、構造的に投影対物レンズに接続される構成要素を有しうる。温度調整装置は、例として、温度が調整される光学素子のホルダに取り付けられるとともに、電気的に駆動されて前記ホルダを冷却する1個以上のペルティエ素子からなりうる。代案または追加として、さらにまた、前記ホルダに、外部冷却装置に接続されうる、冷却液を導通させる流体通路を設けることができる。
【0057】
保護層システムが、たとえば最後の光学素子(光の伝播方向における)に取り付けられうるマイクロリソグラフィー用投影対物レンズの例を用いて、本発明を本明細書に例証的な態様で示した。この場合は、屈折性または反射屈折性投影対物レンズが含まれうる。
【0058】
しかしながら、本発明は、この種の光学結像系に制限されるものでも、一般の光学結像系に制限されるものでもなく、逆に、浸液媒体と接触しうる光学素子が用いられるその他の光学系にも用いられうる。この光学系は、例として、また他の光学系を光学的に測定する装置において、浸液媒体によって満たされうる少なくとも1個の空間が測定用光学系内または前記光学系と測定対象の光学系との間に存在する装置であってもよい。
【0059】
本発明は、さらにまた、浸液媒体との接触用に設けられるとともに、該浸液媒体によって引き起こされる劣化に対する光学素子の耐性を高める役割を果たす保護層システムが取り付けられる光学素子に関する。このような浸液耐性光学素子は、従来の光学素子の代わりに、光学素子と浸液媒体との接触が起こる従来システムにおいて取り入れられうる。
【0060】
前記およびその他の特徴は、特許請求の範囲から明らかになるだけでなく、詳細な説明と図面とからも明らかになり、個別の特徴は、単独で、または複数の特徴を部分的に組み合わせた形態で本発明の実施例およびその他の分野において実施されうるとともに、本質的に保護されうる有利な設計を構成しうる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1に、液浸リソグラフィーによって大規模集積回路を製造するのに用いられるウェーハステッパ1の形態をとるマイクロリソグラフィー投影露光装置が示されている。この投影露光装置1は、光源として、193nmの動作波長を有するエキシマレーザ2からなるが、その他の動作波長、たとえば157nmまたは248nmも可能である。下流の照明系3は、自身の出射面4において、下流の投影対物レンズ5のテレセントリック要件に適合する、鮮明に境界を定められた非常に均一な照明の大きい照明フィールドを生じしめる。この照明系3は、照明モード選択用装置を有するとともに、本例においては、可変コヒーレンス度の従来式照明と環状フィールド照明と双極子または四極子照明との間において切り替えられうる。
【0063】
前記照明系の下流において、マスク6を保持および操作して、該マスクが投影対物レンズ5の物体平面4内に配置されるとともに、該平面内において移動方向7に移動せしめられて走査されうるようにする装置(レチクルステージ)が配置される。
【0064】
マスク平面とも呼ばれる前記平面4に続いて下流に、前記マスクの像をフォトレジスト層により被覆されたウェーハ10上に4:1の縮尺で結像させる縮小対物レンズ5が配置される。その他の縮尺、たとえば5:1または10:1または100:1またはそれ未満も同様に可能である。感光基板としての役割を果たすウェーハ10は、フォトレジスト層を有する平面状の基板面11が、本質的に投影対物レンズ5の像面12と位置するように配置される。前記ウェーハは、スキャナ駆動装置からなる装置8によって保持されて、前マスク6と同期して前記マスクと平行に移動せしめられる。前記装置8は、さらにまた、マニピュレータを含んで、前記ウェーハを投影対物レンズの光軸13に対して平行なz方向と前記軸に対して垂直なxおよびy方向とのいずれにも移動させる。光軸13に対して垂直に延在する少なくとも1つの傾斜軸を有する傾斜装置が一体化される。
【0065】
ウェーハ10(ウェーハステージ)を保持するために設けられる前記装置8は、液浸リソグラフィー用に構成される。前記装置は、スキャナ駆動装置によって移動せしめられうるとともに、底部がウェーハ10を受ける平坦な凹部を有する受容装置15からなる。周辺縁部16は、自身内に導入されるとともに図示されない装置によって自身から排出されうる浸液媒体20用の上方に開口する平坦な液密受容部を形成する。前記縁部の高さは、対物レンズの出口とウェーハ表面との間における作動距離が正しく設定されれば、充填された浸液媒体がウェーハ10の表面11を完全に覆うことができ、かつ投影対物レンズ5の出射側端部領域が前記浸液媒体中に浸漬しうるような寸法とされる。
【0066】
投影対物レンズ5は、少なくともNA=0.80であるが、好ましくは0.98を超える像側開口数NAを有するとともに、以って特に高い屈折率を有する浸液の使用に適合せしめられる。適切な屈折性投影対物レンズは、たとえば本出願人の国際特許出願第03/077036号および第03/077037号に開示されており、これらの出願の開示内容は、参照により、本明細書の内容とされる。
【0067】
投影対物レンズ5は、平凸レンズ25を像面12に最も近い最後の光学素子として有しており、前記レンズの平面状の出射面26は、投影対物レンズ5の最後の光学面となる。前記投影露光装置の動作時において、前記最後の光学素子の出射側は、完全に浸液20中に浸漬するとともに、前記浸液によって濡らされる。本例の場合は、屈折率n
I≒1.437(193nm)を有する超純水が、浸液として用いられる。
【0068】
投影対物レンズ5の際立った特徴は、フッ化カルシウムにより製作される前記平凸レンズ25の平面状の出射面26が、浸液によって引き起こされる劣化に対する前記最後の光学素子の耐性を高める保護層システム30を有することによって構成される。この保護層30を用いて、若干の水溶性を有する基板材料であるフッ化カルシウムが浸液によって攻撃されるとともに徐々に溶解されることを防ぐことができる。さらにまた、前記保護層システム30は、層材料と層厚さとを適切に選択して、該保護層システムが光学機構と浸液との間の界面に関する反射防止被覆として作用するようにすることによって最適化される。この場合は、前記保護層の厚さは、解像特性と解像によって引き起こされる結像誤差とに関して最適化される。
【0069】
保護層システム30は、誘電性の単層として設計される。このような単層は、該単層の屈折率n
SSが、基板の屈折率n
Sと浸液媒体の屈折率n
Iとの間に位置する場合に、反射防止層として作用する。浸液および基板材料の屈折率の幾何平均が、前記単層の屈折率n
SS
【数10】
としてとられる場合は、前記単層の反射防止効果は、入射角I
0を有する光入射と所定の動作波長λとの場合において、前記単層の厚さに関して、
【数11】
が成り立つ場合に最適となり、ここで、Iは奇数である。この場合、Iは、屈折角であり、前記屈折角Iと入射角I
0との間における関係は、以下のスネルの法則によって与えられる:n
s・sinI
0 = n
ss・sinI。このため、光学層厚さが波長の4分の1(λ/4)またはその奇数倍に対応する単層が好適である。n
H2O=1.437およびn
CaF2=1.502を有する本例の装置(193nmでのフッ化カルシウム/水、ここでI=0°)においては、これは、単層の材料が屈折率
【数12】
を有するとともに、幾何学的層厚さに関して、d
L4=I・32.8nmが成り立つ場合に可能であり、ここで、I=1、3、5、…‥である。最後の光学素子の基板が、合成石英ガラス(n
SiO2=1.552)によって構成されるまた他の実施例において、前記単層の材料は、最適化された屈折率
【数13】
を有し、前記単層の幾何学的層厚さは、d
L4=I・32.3nm(I=0°)である。
【0070】
浸液媒体と保護層との間および保護層と基板との間における相対的に小さい屈折率差によって、このような単層は、高い開口数を有する投影対物レンズの場合に一般に生じるような高入射角でも良好な増透効果を有する。前記の例証的な計算から離れて、単層の厚さは、これらの場合には高い入射角に関して最適化されるべきである。
【0071】
屈折率がn
Iとn
Sとの間に位置する材料によって製作される単体型システムは、前記単層に好適に用いられる。単体型システムの場合は、材料によって引き起こされる不均等な除去により不均一性が生じる可能性を無くすことが、とりわけ有利である。
【0072】
所定の条件下で得られる誘電材料が、所望の屈折率範囲から外れた屈折率を有する場合は、所望の範囲内の有効屈折率n
MIXを有する2つ以上の構成要素を含む材料混合物または混合材料を用いることができる。この場合は、屈折率
【数14】
の低い屈折率を有する少なくとも1つの材料と、屈折率
【数15】
の高い屈折率を有する少なくとも1つの材料とが、適切な混合比で用いられるべきである。本明細書において考慮される液浸系においては、これらは、例として、低い屈折率を有する材料に関してはフッ化アルミニウム、チオライト、氷晶石、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウムまたはこれらの材料の混合物であり、高い屈折率を有する材料に関してはフッ化ランタン、フッ化エルビウム、フッ化ガドリニウム、フッ化ネオジム、フッ化鉛、二酸化ケイ素、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、フッ化トリウムおよびこれらの材料の混合物である。浸液に対して同等の溶解度を有する材料を選択すると、大体において、除去時において材料によって引き起こされる不均一性と、それが該当する場合は、その結果として生じる多孔状態を大きく防ぐことができる。フッ化マグネシウムとフッ化ランタンとからなる混合系は、特に超純水に対するこれらの材料の溶解度が軽微であることから、このような層システムは、長期にわたって最適な厚さ条件を満たしうるため、有利でありうる。
【0073】
増透保護層30の初期の幾何学的層厚さを定義する場合は、保護層厚さが、投影対物レンズの寿命全体にわたって浸液媒体による攻撃によって減少しうることを考慮に入れるべきである。初期の保護層厚さは、十分に厚い残存保護層が、所定の除去率での投影対物レンズの予想寿命後も依然として残るように選択されるべきである。設計により、たとえば、最終的な層厚さは、0°の入射角の場合に、少なくとも依然としてλ/4またはλ/8の幾何学的層厚さおよび/または少なくとも15nmの幾何学的層厚さを有するように定められうる。浸液媒体が、露光処理時または露光処理間において最後の光学素子を流動的態様で通過して導かれる場合は、この流動によって保護層の不均一な除去がもたらされることはなく、むしろ本質的に等方性の除去が保証されることを確実にする配慮がなされなければならない。システムによっては、初期の幾何学的層厚さは、マイクロメートル単位の範囲内、たとえば10μmより大または5μmより大または2μmより大とされうる。この場合、最大層厚さは、層応力の発生によって制限されうる。
【0074】
層システムが障壁層として作用するさらに他の実施例を、
図2〜5を参照して説明する。
図2にしたがった実施例の場合は、最後の光学素子50は、球面状の入射面51と、平面状の出射面52と、前記出射面に隣接するとともに、該レンズのホルダ54が係合する円筒状の縁部53とを有する平凸レンズである。保護層システム60は、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)により透明基板55上に蒸着された本質的に無孔の二酸化ケイ素により製作される単層によって構成される。層構成要素が単量体として気体の形態で供給されるとともに、マイクロ波プラズマにより化学的に活性化される前記被覆法により、基板上において、炭化水素を含まず、かつ弱い吸収性しか有さず、かつ本質的に孔を含まない石英層60が、前記平面状の出射側52を完全に覆うだけではなしに、前記円筒状の縁部領域53を横切って延在して形成されうる。その結果として、前記基板は、さらにまた、細管作用によって促されてホルダ54と最後の光学素子との間に浸透しかねない浸液に対して保護される。前記被覆法は、さらにまた、最後の光学素子の「全周的保護」を可能にし、光学基板の前記出射側だけではなしに、前記縁部および入射側も被覆して、障壁層として作用する被覆を得ることが可能になる(
図5参照)。その他の被覆法、たとえば物理蒸着(PVD)による方法を用いて、このような全周的被覆を減じることもできる。それが適切である場合は、イオン照射(IAD)を利用することにより、層材料の充填密度を高めることができ、以って空孔率を低下させることができる。イオンビームスパッタリング(IBS)またはIBSと比較して指向性または濃度が低いイオン流を用いるマグネトロンスパッタリングなどのスパッタリング法を用いて、高い充填密度と低い空孔率とを有する保護層システムを形成させることもできる。
【0075】
緻密障壁層を形成させるためのひとつの変形態様の方法において、保護層システムは、少なくとも2つの部分被覆を有する多層的態様で構成される。これに関しては、
図3において、例として、2つの単層によって構成されるとともに、平行平面板70の形態をとる最後の光学素子に取り付けられる保護層システム80が示されている。被覆の表面が、基板に最も近い第1の層81の形成後かつその後の外側層82の形成前に清浄化されると、前記外側から基板まで達する貫通孔が大体において防がれうる。その結果として、単層81、82そのものはいずれの場合も完全な保護には不十分な空孔率を有していても、液密性の保護層システムを得ることが可能である。
【0076】
図4および5に、浸液の侵入を阻止する障壁効果が、いずれの場合もPECVD法で施される二酸化ケイ素により製作される単層によってもたらされる保護層システムの変形態様が示されている。
図4における最後の光学素子90の場合は、障壁効果を有する多層形保護層システム100が、該素子の出射側に取り付けられる。このシステムは、透明基板に直接施されるプラズマ促進化学蒸着SiO
2層101からなり、前記層の厚さは、たとえば実施例によって、約0.1λ〜約0.6λの範囲内とされうる。高い屈折率と低い屈折率とを交互に有する誘電材料によって製作される交互層システム102が、前記障壁層101の外側に施される。高い屈折率を有する材料は、本質的に、本例の場合は、フッ化ランタンにより構成される一方で、フッ化マグネシウムが、低い屈折率を有する材料として用いられる。SiO
2障壁層101の層厚さと、交互層システム102の単層の層厚さとは、互いに適合せしめられて、保護層システム100全体が反射防止被覆としての役割を果たすようになっている。
【0077】
ひとつの例証的なシステムが、表1に示されており、開口数NA=1.25(I=60°に対応)の場合の水
【数16】
に関する入射角Iに対する反射率Rの対応する依存性は、
図6において、曲線IVにより示されている。反射率は、I=60°までの入射角範囲全体において0.5%未満となっている。表1に、単層の光学的層厚さが、対応する材料のλ/4層の光学的層厚さd
QWOTに細分されて示されている。
【表1】
【0078】
このような被覆は、以下のようにして形成されうる:第1に、被覆対象の基板91の出射側が清浄化される。その後、障壁層101が、PECVDを手段として無孔の態様に施される。それが適切である場合は、このSiO
2層厚さの光学測定と、その後の反射防止設計に対する前記第1の層厚さの適合化とを行なうことができる。清浄化は、任意で、被覆後に行なってもよい。交互層102の形成は、高温で、フッ化カルシウム/プラズマ促進化学蒸着SiO
2層システムと調和せしめられる態様で行なわれる。この方法を実施することのひとつの利点は、交互層システム102の設計を下地となるフッ化カルシウム/プラズマ促進化学蒸着SiO
2層システムと単純に調和させることができることによって構成される。このようにすると、PECVD層の厚さ再現性が最適でない場合でも、高い増透効果が達成される。設計の適合化は、それが適切である場合は、PECVD層の実際の厚さの測定後に行なわれうる。
【0079】
異なる方法を実施することにより、浸液に対して保護されるとともに、全面的に反射防止被覆を有する最後の光学素子を製造することができ、前記光学素子は、例として、
図5に示されている。この場合は、平凸レンズとして形成される基板111が清浄化された後に、最初に、多層形交互層システム122が、外側部分に関する最後の下層を伴わずに、前記基板の平面状の出射側に蒸着された。その後、素子全体と前記交互層システムとを外囲するとともに、約λ/4の光学的層厚さを有する本質的に無孔のプラズマ促進化学蒸着SiO
2層121が、PECVD法で施されて、前記層は、液密障壁層として作用する。この場合は、前記光学的層厚さは、交互層システム122に適合せしめられて、その結果として、全体として増透効果がもたらされるようになっている(
図6の曲線V参照)。球面状の入射側は、その後、単層123により反射防止被覆された。この方法を実施することのひとつの利点は、保護的な無孔のプラズマ促進化学蒸着SiO2層の下の基盤111の外側において、水溶性または吸湿性の物質も交互層システム122に用いられうることによって構成される。0°〜60°の範囲内の入射角範囲において反射率R≦0.2%を有する例証的なシステムが、表2に示されている。
【表2】
【0080】
図7において略図に示される実施例を参照して、保護層システムを利用して液浸対物レンズの最後の光学素子200を、浸液媒体との接触による該素子の光学特性の劣化に対して保護するまた他の可能性を説明する。フッ化カルシウム基板202の平面状の出射側201に取り付けられる保護層システム210は、浸液媒体220の攻撃による事実上不可避の表面損傷を光学的に無効にすることを可能にする光学的に中性の摩耗層または犠牲層として設計される。この実施例において、このことは、保護層210が、屈折率n
MIXが本質的に浸液媒体の屈折率n
Iに対応する材料から成り立つことによって達成される。このような場合は、基板の出射側201とウェーハの表面230との間における空間は、同一の屈折率を有する媒体によって満たされる。したがって、保護層210の出射側と浸液媒体との間における固液界面211が配置される位置と、この界面の表面形態とは光学効果には重要ではない。したがって、浸液媒体の作用下における保護層材料の漸進的な溶解が、システムの光学特性を損なうことはありえない。
【0081】
本例の場合は、193nmの動作波長において屈折率
【数17】
を有する水が、浸液220として用いられる。保護層210の材料は、低い屈折率を有するフッ化マグネシウムと高い屈折率を有するフッ化ランタンとが、平均屈折率
【数18】
が生じしめられるような混合量で含まれる混合材料である。混合層210は、本質的に均質な混合層として、フッ化マグネシウムとフッ化ランタンとの同時蒸着によって形成された。その他の実施例においては、これらの材料は、単層がいずれの場合も数ナノメートルの厚さしか有さない層パターン状の混合材料が形成されて、透過光240には平均屈折率しか「作用」しないように、交互に蒸着された。
【0082】
摩耗層210に可能な限り長い耐用寿命を与えるために、層材料は、本例の場合イオン支援(イオン支援蒸着、IAD)を用いて施され、以って高い充填密度と低い空孔率とが生じしめられた。混合システムの2つ以上の構成要素の混合比を計算する場合は、動作時において浸液媒体が徐々に飽和して、屈折率nIを有する孔において層の平均屈折率に寄与する、層の可能残留空孔率が考慮に入れられるべきである。
【0083】
これに代わる実施例において、純粋なフッ化マグネシウム(193nmに対して屈折率
【数19】
)が、摩耗層として蒸着せしめられる。これは、さらにまた、摩耗層と浸液媒体との屈折率を、多くの場合に十分な適合状態にすることを可能にする。MgF
2層の緻密度を制御することにより、前記層の屈折率を制御し、かつ193nmにおける超純水の屈折率に適合させることができる。これは、2つの物質の蒸着に代わるものとなる。
【0084】
それが必要とされる場合は、増透反射防止層260が、追加的に、最後の光学素子の基板202と摩耗層210との間において挿入されうる(
図7の左側部分図)。
【0085】
図8(a)に、最後の光学素子300が平凸レンズである液浸対物レンズのまた他の実施例の出射側端部が示されている。前記最後の光学素子は、フッ化リチウム(LiF)によって製作される塊状材料板の形態をとる保護層システム310により、浸液による攻撃に対して保護される。反射率が合致する平行平面板310が、フッ化カルシウム基板301の平面状の出射側302上に密着せしめられて、以って光学的に中性の剥離可能な接続が達成される。したがって、板310は、それが必要とされる場合は、交換されうる(取り外された板が破線で示されている)。
【0086】
板材料のフッ化リチウムは、193nmの動作波長において約n=1.443の屈折率を有し、その結果として、浸液として用いられる水の屈折率n
I(
【数20】
)に対して約Δn=0.006の屈折率差しかない。板310は、浸液に対する屈折率差が小さいことから、材料が浸液との長期にわたる接触において徐々に溶解しても、システムの光学特性にとっては事実上問題にならないため、摩耗システムとしての役割を果たしうる(
図7に関する説明参照)。長期にわたる使用後に、摩耗板を交換することが必要になれば、基板310への剥離可能な接続によって、ほとんど苦もなく、対物レンズの構造に介入することなしに、これを行なうことができる。
【0087】
図8(b)の実施例は、簡単な交換を可能にするために別個のホルダ321を有する板形の交換可能な摩耗素子320を備える。この板320によって形成される保護層システムは、最後の屈折性光学素子(平凸レンズ322)から距離をおいて取り付けられる。
【0088】
水の屈折率に匹敵するが、それより低い屈折率を有する非水浸液を用いる場合は、さらにまた別の適切な材料は、193nmにおいて約n=1.385の屈折率を有するフッ化ナトリウム(NaF)である。フッ化ナトリウムは、容易に水に溶解するが、フッ化液の場合は十分に耐性を有する。したがって、この方法は、157nmに特に好適でありうる。フッ化媒体の屈折率をNaFまたはCaF
2の屈折率に適合させることができる。
【0089】
最後の光学素子(特にフッ化カルシウム)の浸液(特に水)/基板材料界面に関して反射防止効果を有する保護層システムの実施例は、
図1〜6に関連してすでに説明された。顕著な反射防止効果を有するひとつの実施例を、
図9および10に関連して説明する。ここで考慮される実施例の場合は、保護層システムは、本質的に、層範囲に対して垂直な、すなわち透過方向に対して本質的に平行な事前に決定できる屈折率プロファイルを有する屈折率分布型層によって構成される。この場合は、最後の光学素子の基板材料の屈折率と浸液の屈折率との間における連続的または略連続的な事実上指数関数的に進行する遷移が、前記屈折率分布型層内において生じる場合に、事実上理想的な反射防止効果が達成されうる。このような屈折率分布型層は、空気または異なる気体と接触するレンズ上の従来式の反射防止層システムにおいては、空気の屈折率(n=1)に近接する屈折率を固体材料で達成することはできないため、実現不能である。しかしながら、本発明者は、液浸リソグラフィーの場合は、前記光学素子に隣接する高い屈折率を有する媒体、すなわち浸液媒体を用いて、最適な反射防止被覆を達成しうることを認めた。
【0090】
水を浸液媒体(193nmにおいて
【数21】
)とする前記例の場合を用いて、基本概念をより詳細に説明する。層材料として適するとともに、略この屈折率を有する材料、たとえばフッ化マグネシウム(n
I=1.44)がある。さらにまた、より低い屈折率を有する入手可能な材料、たとえば
【数22】
のフッ化アルミニウム(AlF3)もある。
【数23】
である基板材料のフッ化カルシウムの屈折率は、n
Iより高い。さらにまた、屈折率が、基板材料の屈折率より高い入手可能な材料、たとえばn≒1.71程度であるフッ化ランタン(LaF
3)もある。フッ化ランタンとフッ化マグネシウムを適切な混合比にすると、フッ化ランタンの比率を低くするとともに、フッ化マグネシウムの比率を高くすることによって、基板材料に近接して、本質的に基板材料の屈折率を有するとともに、屈折率が、基板からより大きい距離を有する浸液媒体の屈折率の方向に徐々に減少する屈折率分布型層を製造することができる。
図9において、例として、多層システムにおける屈折率プロファイルが、層システムの厚さdに対して図示されており、連続する層の平均屈折率は、基板(屈折率n
S)から浸液媒体(屈折率n
I)へと小刻みに減少する。同様の屈折率プロファイルは、さらにまた、厚さ比が基板からの距離とともに変動する数ナノメートルの一連の非常に薄い非合金のフッ化ランタンおよびフッ化マグネシウムの単層によって実現されうる。材料または材料混合物の選択においては、水溶性を全くまたはわずかしか有さない材料を選択するべきである。
【0091】
図9に示されたシステムに関して、
図10に、入射角Iに対する反射率の依存性が示されている(曲線IX)。これとの比較において、曲線Xは、被覆を有さないフッ化カルシウム基板の反射率プロファイルを示す。ほとんど80°までの入射角に関して明らかに0.1未満の反射率を可能にする屈折率分布型層の強い増透効果が明確に認められる。この増透効果は、特に50°または60°を超える高入射角において明確になる。
【0092】
本明細書において、いくつかの例に基づいて、浸液と該浸液に隣接する材料との間における屈折率の適合化によって、光学特性が、浸液媒体による化学的/物理的攻撃に対して相対的に感応しない保護層システムを創出しうる方法を説明した。この場合、固液界面で隣接する媒体間における零の屈折率差が、理想的な場合において追求されなければならない。固体用材料の選択に基づくだけでは十分に小さい屈折率差を得ることができない場合は、適切な添加剤によって浸液媒体の屈折率n
Iを改変することも可能である。部分断面全体にわたる除去率のごく小さいばらつきが、結像波面を許容不能なまでに損なうことがあるため、事実上零の屈折率差が追及されなければならない。浸液媒体を導通させることによる、不均一な不等距離の除去が、困難を伴いながらも回避されうる。
【0093】
図11および12を参照して、浸液媒体の2つの層が最後の光学素子と露光対象の表面との間において配置されて、投影対物レンズを感光性ウェーハ表面に光学的に結合させることと、同時に、摩耗されやすい可能性がある部分の簡単な交換とを可能にする本発明の実施例を説明する。
図11において、基板401がフッ化カルシウム(その他の実施例では二酸化ケイ素)により製作される平凸レンズである場合の最後の光学素子400が示されている。フッ化リチウム製平行平面板410が、レンズの平面の出射側402に密着せしめられる。フッ化カルシウム(193nmにおいてn
S=1.502)とフッ化リチウム(193nmにおいてn
S=1.443)との間における屈折率差による反射を最小限に抑えるために、λ/4反射防止層412が、前記基板と板410との間において挟み込まれる。フッ化リチウムによって製作されるとともに交換可能な板としての役割を果たす平行平面板418は、超純水によって形成される薄い浸液層415を利用して、板410に光学的かつ機械的に結合せしめられる。この交換可能な板418は、投影対物レンズと露光対象のウェーハ425との間における隙間を満たす浸液媒体420(超純水)と接触する。層412、410、415および418は、浸液によって形成される層からなる保護層システムを形成する。板410および418と浸液層415との間における非常に小さい屈折率差により、前記板と前記層とは、略単一の平行平面状光学素子のように作用する。しかしながら、介在する水膜415は、ある一定の動作期間後にそれが必要になれば、摩耗板418をシステムの残りの部分に負担をかけない簡単な態様で交換することを可能にする。その他の実施例においては、前記浸液層415および420は、異なる浸液媒体によって、終端板418の対向する側部上において形成される。
【0094】
二重液浸を用いる最後の光学素子500のまた他の実施例を、
図12を参照して示す。フッ化カルシウムにより製作される平凸レンズ501は、同様にフッ化カルシウムにより製作される平行平面状の交換可能板518を自身に光学的に結合せしめられて有する。この光学的結合は、閉システムまたは閉回路において維持されて、基板501と交換可能板518との間における空間を満たす水または重水によって形成される浸液層515により達成される。基板501と浸液層515との間において、λ/4反射防止層512と、前記浸液媒体に隣接するとともに同等の屈折率を有する摩耗層513とが取り付けられる。前記交換可能板518の方向に、続いて、摩耗層506と、前記板518に隣接するλ/4反射防止層517とが配置される。これらの反射防止層512、517により、高い屈折率(n=1.502)を有するフッ化カルシウム(素子501および518)と低い屈折率(n=1.437)を有する水膜との間において高い透過率が確保される。この目的のために、前記反射防止層の屈折率は、約n=1.468とされうる。さらに他のλ/4反射防止層と、浸液媒体520との接触用に設けられる摩耗層521とが、前記板518のウェーハ側の出射側に取り付けられる。両側において反射防止被覆されるとともに、水による攻撃に対して保護される前記交換可能板518は、長期にわたる使用後にそれが必要になれば、容易に交換されうる。この場合の保護層システム530は、1つの浸液層515も含めて、8つの層からなる。浸液層515は、被覆された終端板518の反対側における浸液層520とは異なる浸液媒体によって形成されうる。
【0095】
保護層システムの製造において通例的な標準の被覆技術を用いると、粒子、たとえば研磨残渣または粉塵および/または保護対象の基板表面上におけるかき傷を被覆前に排除することは不可能である。この場合、その表面に施される層が、これらの重要点にすぐ近接する位置において、下地となる基板を全面的に密封することができなくなる危険性がある。例として、フッ化カルシウムが基板材料として用いられ、かつ水が浸液として用いられる場合は、フッ化カルシウムが、これらの位置において攻撃されるとともに、水に溶解しうる。その結果として、これらの位置は、腐食孔の形成によって拡大されかねず、その結果として、結像を妨げる波面変形、散乱光およびその他の欠陥が生じうる。このような欠陥の発生は、特定の変形態様の方法の場合は、第1の層が基板(または該基板に施される被覆)に施される第1の被覆後に、前記第1の層の一部分が機械的方法を手段として研磨されることによって回避される。この場合、一部の粒子は、前記被覆部分から切除または削除され、従来式被覆の面より平滑な、すなわち凹凸が少ない研磨界面が得られる。この段階後に、前記研磨面は、清浄化されるとともに、再度被覆される。この第2の被覆の過程において、一般に、粒子は確かに再び前記表面上において存在するが、前記第1の被覆前に存在した粒子と完全に同じ位置に存在するわけではない。これらの方法段階(被覆‐研磨‐被覆)は、好ましくは、各粒子が少なくとも一度は除去されたことが確実になるまで繰り返される。これによって、基板が全ての点において不浸透性の保護層により覆われて、その結果として、浸液媒体による攻撃が起こりえず、かつ以って浸液媒体に対する基板材料の長期的安定性が確保されるという成果が達成される。
【0096】
図13に、自身の平面状基板面602が、このようにして形成された保護層システム630を用いて被覆されたフッ化カルシウム基板601を有する最後の光学素子600の非常に大まかな拡大略図が示されている。本例の場合は、前記保護層システム630は、前記基板上に直接施される第1の層611と、前記第1の層に施される第2の層612とからなる。いずれの層も、同じ被覆材料によって構成される。前記第1および第2の層間における界面615は、研磨段階によって光学的に平滑な研磨界面として形成され、第2の層612は、前記研磨界面上において支持される。被覆処理は、粒子が完全に存在しないわけではない雰囲気中において行なわれたため、これらの粒子によって、第1の層内における欠陥621の発生が引き起こされた。第2の層612の形成時にも再び欠陥622が発生しうる。しかしながら、第1の層の第1の欠陥612と第2の層の第2の欠陥622とは、前記層内において異なる横方向位置に分布するため、保護的な多層システム630の少なくとも一方の層の被覆面の全ての位置において無欠陥領域が存在して、全体として被覆面全体が互いに隣接する無欠陥領域(多層システムの異なる層内に位置しうる)によって覆われるようになる。以って、浸液媒体に対して化学的に耐性を有する層材料を用いることにより、浸液に対して完全な密封効果を有するとともに、化学的見地から本質的に均質である保護層を形成させることができる。
【0097】
図14に、ホルダ要素750内において保持される平凸レンズの形態をとるフッ化カルシウム基板701を有する像側の最後の光学素子700を備えるリソグラフィー対物レンズの像側端部領域の非常に大まかな拡大略図が示されている。合成石英ガラスにより製作される薄板730は、像面の方を向く前記平面状の基板面702に密着せしめられる。この肉薄の石英ガラス板730は、保護層システムとして作用して、水溶性の基板材料であるフッ化カルシウムを、本質的に水によって構成されるとともに、前記保護板730の像側出射面と、感光層により被覆される半導体ウェーハ725の表面との間における狭い隙間を満たす浸液720による攻撃に対して保護する。無被覆の保護板730は、接着力のみによって前記平面状の基板面702に付着して、以って単一界面に沿って大面積の光学接触が確保される。前記肉薄の石英ガラス板730(板厚さ約1mm)は、イオンビームスパッタリングにより無被覆の表面上に密着せしめられた後に後処理されて、目標を定めた局所的材料除去によって、存在しうる表面変形が補正される。
【0098】
ホルダ要素750において、流体通路751は、光学素子700に直接近接して取り入れられるとともに、投影系の動作時において、冷却装置からなる温度調整装置760に接続されて、冷却通路751を介して閉回路内において導かれる約10°Cの温度を有する冷却液を供給する。浸液媒体720用の温度調整装置770は、該浸液が同様に約10°Cの温度に保たれることを保証する。最後の光学素子と浸液とのいずれもを積極的に冷却することにより、温度変動を1Kより有意に低い値に減少させて、基板701と密着せしめられる保護板730との間において熱によって引き起こされる応力を無害の値に低下させうるようにすることができる。この温度調整装置760は、保護板730の密着直後に必要に応じて作動せしめられるとともに、製造現場と使用現場との間における投影対物レンズの輸送時およびさらにまた投影露光装置の組立時においても動作状態にされて、対物レンズの下側領域および特に最後の光学素子の大体において一定の温度が維持されて、熱によって引き起こされる応力による前記2つの部分の剥離が回避される。
【0099】
また他の実施例(図示せず)において、密着板730は、同様にフッ化物結晶材料によって構成される前記基板701と比較して、石英ガラスより有意に小さい熱膨張率差を有するフッ化バリウムによって構成されて、熱によって引き起こされる応力とそれに付随する保護板の剥離との危険性が、基板材料と板材料との極めて似通った熱膨張率によって、当初から低減または回避されるようになっている。