【0027】
本発明において処理対象とするR−Fe−B系焼結磁石としては、例えば、下記の製造方法によって製造したものが挙げられる。
25〜40mass%の希土類元素Rと、0.6〜1.6mass%のB(硼素)と、残部Feおよび不可避不純物とを包含する合金を用意する。ここで、RはRHを含んでいてもよい。また、Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよいし、Feの一部は(50mass%以下)は、他の遷移金属元素(例えば、CoまたはNi)によって置換されていてもよい。この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種の添加元素Mを0.01〜1.0mass%程度含有していてもよい。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴンガス雰囲気下において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉合金粉末を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、冷却処理の時間を相対的に長くすればよい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1〜20μm程度(典型的には平均粒径3〜5μm)の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された磁性粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合し、潤滑剤で合金粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した磁性粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば0.8〜1.4MA/mである。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4〜4.5g/cm
3程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、例えば、1000〜1200℃の範囲内の温度で10〜240分間行う。650〜1000℃の範囲内の温度で10〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行ってもよい。焼結工程の後、寸法調整のための研削を行ってもよい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0030】
実施例1:
(使用したR−Fe−B系焼結磁石)
Nd:20.7、Pr:5.7、Dy:5.0、B:1.00、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、残部:Fe(単位:mass%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した不定形粉末に対し粉砕助剤として0.04mass%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行って焼結体ブロックを得、得られた焼結体ブロックを表面研削加工して寸法調整することで、厚さ2mm×縦15mm×横18mmのR−Fe−B系焼結磁石を得た。こうして得たR−Fe−B系焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した(以下「焼結磁石」と称する)。
【0031】
図1に示す熱処理装置(円筒形容器は直径50mm×長さ70mmのSUS製で内容積は137375mm
3)を用いて工程Aを行った。具体的には、容器内に、焼結磁石50g、RH拡散導入材(60mass%のDyと40mass%のFeの合金からなる直径3mm以下の球状体)50g、攪拌補助材(ジルコニアからなる直径5mmの球状体)50gを順次収容し、容器内を圧力が100Paのアルゴンガス雰囲気とし、容器内の温度を900℃とし、容器を0.02m/秒の周速度で中心軸線を中心に回転させることによって容器内にて内容物を受動させ、内容物を相対的に移動可能かつ近接または接触可能として連続的または断続的に移動させながら6時間熱処理を行い、焼結磁石に対してDyを拡散導入するための工程Aを行った(この工程Aの方法を「接触拡散法」と略称する)。なお、熱処理の環境は、容器内に内容物を収容した後、容器内を真空排気し、真空中で10℃/分で600℃まで昇温し、その後、容器内の圧力が100Paになるようにアルゴンガスを導入してから容器の回転を開始し、容器内の温度が900℃になるまで10℃/分で昇温することで形成した。熱処理終了後は、容器内を室温まで自然放冷した後、内容物を取り出して焼結磁石をRH拡散導入材と攪拌補助材から分離した。その後、焼結磁石を別の熱処理炉に収容し、炉内の圧力を100Paとして、900℃での第1熱処理を6時間行い、続いて、500℃での第2熱処理を3時間行った。
【0032】
工程A、第1熱処理、第2熱処理を行った焼結磁石に対し、
図2に示す連続処理炉を用いて工程Bを行った。具体的には、露点−35℃の大気(酸素分圧20000Pa、水蒸気分圧32Pa、酸素分圧/水蒸気分圧=625)の雰囲気下、400℃で30分間の熱処理を行って、表面改質された焼結磁石を得た。なお、常温(25℃)から熱処理の温度(400℃)までの昇温は、露点−35℃の大気の雰囲気下、500℃/時間の昇温速度で行った。熱処理終了後は、露点−35℃の大気の雰囲気下、常温まで自然放冷した。
【0033】
実施例2:
実施例1の第2熱処理と工程Bの間で、焼結磁石に対してブラスト加工を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。なお、焼結磁石に対するブラスト加工は、不二製作所社製のブラスト装置(SGF−4B)を用い、共栄研磨材社製のガラスビーズ(GB♯100)を投射材として、0.3MPaの投射圧で各面に対してそれぞれ15秒間投射することによって行った。ブラスト加工された焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した。
【0034】
実施例3:
実施例1の第2熱処理と工程Bの間で、焼結磁石に対して表面研削加工を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。なお、焼結磁石に対する表面研削加工は、大昌精機社製の平面研削盤を用い、各面に対してそれぞれ0.2mm研削することで行った(砥石の番手:♯100、砥石の回転数:1500rpm、研削盤への磁石の送り込み速度:0.6m/分)。表面研削加工された焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した。
【0035】
実施例4:
実施例1の工程Bにおいて用いた露点−35℃の大気のかわりに、露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa、水蒸気分圧600Pa、酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)を用いて熱処理を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0036】
実施例5:
実施例4の第2熱処理と工程Bの間で、焼結磁石に対してブラスト加工を行うこと以外は実施例4と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。なお、焼結磁石に対するブラスト加工は、不二製作所社製のブラスト装置(SGF−4B)を用い、共栄研磨材社製のガラスビーズ(GB♯100)を投射材として、0.3MPaの投射圧で各面に対してそれぞれ15秒間投射することによって行った。ブラスト加工された焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した。
【0037】
実施例6:
実施例4の第2熱処理と工程Bの間で、焼結磁石に対して表面研削加工を行うこと以外は実施例4と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。なお、焼結磁石に対する表面研削加工は、大昌精機社製の平面研削盤を用い、各面に対してそれぞれ0.2mm研削することで行った(砥石の番手:♯100、砥石の回転数:1500rpm、研削盤への磁石の送り込み速度:0.6m/分)。表面研削加工された焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した。
【0038】
実施例7:
実施例1の工程Aにおいて用いたRH拡散導入材のかわりに、55mass%のDyと45mass%のFeの合金からなる直径3mm以下の球状体をRH拡散導入材として用い、容器内の圧力を0.5Paとし、容器内の温度を870℃とし、熱処理を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0039】
実施例8:
実施例1の工程Aにおいて用いたRH拡散導入材のかわりに、40mass%のDyと60mass%のFeの合金からなる直径3mm以下の球状体をRH拡散導入材として用い、攪拌補助材を用いず、容器内の圧力を2Paとし、容器内の温度を950℃とし、3時間熱処理を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0040】
実施例9:
実施例1の工程Aにおいて用いたRH拡散導入材のかわりに、99.9mass%のDyからなる直径3mm以下の球状体をRH拡散導入材として用い、容器内の圧力を500Paとし、容器内の温度を800℃とし、6時間熱処理を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0041】
実施例10:
実施例2の工程Aにおいて用いたRH拡散導入材のかわりに、99.9mass%のDyからなる直径3mm以下の球状体をRH拡散導入材として用い、容器内の圧力を0.05Paとし、容器内の温度を800℃とし、6時間熱処理を行うこと以外は実施例2と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0042】
実施例11:
(使用したR−Fe−B系焼結磁石)
Nd:20.7、Pr:5.7、Dy:5.0、B:1.00、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、残部:Fe(単位:mass%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した不定形粉末に対し粉砕助剤として0.04mass%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、厚さ2mm×縦15mm×横18mmの焼結体を得、こうして得た焼結体を寸法調整のための表面研削加工を行うことなくそのままR−Fe−B系焼結磁石として実験に供した(以下「焼結磁石」と称する)。
【0043】
実施例1と同様の処理を行い、表面改質された焼結磁石を得た。
【0044】
実施例12:
特許文献1に記載の方法に従って工程Aを行った。具体的には、Mo製の処理容器内で、焼結磁石(実施例1で使用した焼結磁石と同じもの)の表面と裏面のそれぞれに対し、RHバルク体として99.9mass%のDyからなる厚さ5mm×縦30mm×横30mmの板状ブロックを5mm〜9mmの間隔を空けて対向配置し、容器内の圧力を0.01Paとし、容器内の温度を900℃とし、6時間熱処理を行うことで、焼結磁石に対してDyを拡散導入するための工程Aを行った(この工程Aの方法を「離間拡散法」と略称する)。熱処理終了後は、容器内を室温まで自然放冷した後、容器内からRHバルク体を取り外してから、実施例1と同様にして第1熱処理と第2熱処理を行った。
【0045】
工程A、第1熱処理、第2熱処理を行った焼結磁石に対し、実施例1と同様の工程Bを行い、表面改質された焼結磁石を得た。
【0046】
実施例13:
実施例12の第2熱処理と工程Bの間で、焼結磁石に対してブラスト加工を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。なお、焼結磁石に対するブラスト加工は、不二製作所社製のブラスト装置(SGF−4B)を用い、共栄研磨材社製のガラスビーズ(GB♯100)を投射材として、0.3MPaの投射圧で各面に対してそれぞれ15秒間投射することによって行った。ブラスト加工された焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した。
【0047】
実施例14:
工程Aとして、電子線加熱蒸着法により、99.9mass%のDyからなるターゲットを用いて焼結磁石(実施例1で使用した焼結磁石と同じもの)の表面に厚さ約5μmのDy被膜を形成した後、真空熱処理炉内において900℃で2時間熱処理を行い、焼結磁石に対してDyを拡散導入した。熱処理終了後、引き続き、実施例1の第2熱処理と同様の条件での追加熱処理を行った。
【0048】
工程Aと追加熱処理を行った焼結磁石に対し、実施例1と同様の工程Bを行い、表面改質された焼結磁石を得た。
【0049】
実施例15:
実施例1の工程Bにおいて用いた露点−35℃の大気のかわりに、露点−10℃の大気(酸素分圧20000Pa、水蒸気分圧290Pa、酸素分圧/水蒸気分圧=69.0)を用い、300℃で2時間の熱処理を行うこと以外は実施例1と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0050】
実施例16:
実施例2の工程Bにおいて用いた露点−35℃の大気のかわりに、露点−51℃の大気(酸素分圧20000Pa、水蒸気分圧5.8Pa、酸素分圧/水蒸気分圧=3448.3)を用い、340℃で1.5時間の熱処理を行うこと以外は実施例2と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0051】
実施例17:
実施例3の工程Bにおいて用いた露点−35℃の大気のかわりに、露点−28℃の大気(酸素分圧20000Pa、水蒸気分圧60Pa、酸素分圧/水蒸気分圧=333.3)を用い、420℃で20分間の熱処理を行うこと以外は実施例3と同様にして、表面改質された焼結磁石を得た。
【0052】
実施例18:
実施例1で得た表面改質された焼結磁石を、特開2001−335921
号公報に記載の蒸着被膜形成装置のそれぞれの円筒形バレルに1.5kgずつ収容し、真空槽内を1×10
−1Paになるまで真空排気した後、アルゴンガスを真空槽内の全圧が1.0Paになるように供給した。その後、バレルの回転軸を6.0rpmで回転させながら、バイアス電圧0.5kVの条件下、15分間グロー放電を行って磁石体試験片の表面を清浄化した。続いて、アルゴンガス圧1.0Pa、バイアス電圧1.0kVの条件下、蒸着材料として水素含有量が5ppmのAlワイヤ(JIS A1070に準拠するもの)をワイヤ送り速度3.3g/分で連続供給しながら、これを加熱して蒸発させ(ハース温度:1400℃)、30分間蒸着を行い、焼結磁石の表面にAl被膜を蒸着形成した。以上のようにして得たAl被膜を表面に有する焼結磁石をブラスト加工装置に投入し、窒素ガスからなる加圧気体とともに、投射材として平均粒径が120μmでモース硬度が6の球状ガラスビーズ粉末を、噴射圧0.2MPaにて10分間噴射して、Al被膜に対してショットピーニングを行い、表面に膜厚が約6μmのAl被膜を有する焼結磁石を得た。
【0053】
比較例1:
実施例1の工程Bを行わないこと以外は実施例1と同様にして得た焼結磁石。
【0054】
比較例2:
実施例2の工程Bを行わないこと以外は実施例2と同様にして得た焼結磁石。
【0055】
比較例3:
実施例3の工程Bを行わないこと以外は実施例3と同様にして得た焼結磁石。
【0056】
比較例4:
実施例12の工程Bを行わないこと以外は実施例12と同様にして得た焼結磁石。
【0057】
比較例5:
実施例13の工程Bを行わないこと以外は実施例13と同様にして得た焼結磁石。
【0058】
比較例6:
実施例3の工程Bのかわりに化成処理を行うこと以外は実施例3と同様にして得た表面に化成処理被膜を有する焼結磁石。なお、化成処理は、85mass%のリン酸水溶液を純水に添加して調製したリン酸濃度が0.07mol/Lの処理液(pH3.0)に、焼結磁石を浴温60℃で5分間浸漬した後、処理液から引き上げ、水洗し、160℃で35分間乾燥することで行った。
【0059】
比較例7:
(使用したR−Fe−B系焼結磁石)
Nd:20.7、Pr:5.7、Dy:5.0、B:1.00、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、残部:Fe(単位:mass%)の組成を有する厚さ0.2〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した不定形粉末に対し粉砕助剤として0.04mass%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行って焼結体ブロックを得、得られた焼結体ブロックに対し、100Paの圧力下、500℃で3時間の時効処理を行った後、表面研削加工して寸法調整することで、厚さ2mm×縦15mm×横18mmのR−Fe−B希土類系焼結磁石を得た。こうして得たR−Fe−B系焼結磁石は、超音波水洗を行った後、乾燥させて実験に供した(以下「焼結磁石」と称する)。
【0060】
焼結磁石に対し、実施例1の工程Bと同様の処理を行い、表面改質された焼結磁石を得た。
【0061】
比較例8:
焼結磁石(実施例1で使用した焼結磁石と同じもの)に対し、実施例3の第2熱処理と表面研削加工と同様の処理を行った後、化成処理を行うことで得た表面に化成処理被膜を有する焼結磁石。なお、化成処理は、比較例6と同様にして行った。
【0062】
比較例9:
焼結磁石(実施例1で使用した焼結磁石と同じもの)に対し、実施例3の表面研削加工と同様の処理のみを行った焼結磁石。
【0063】
比較例10:
実施例1の工程Bを行うことなくAl被膜を形成すること以外は実施例18と同様にして得た表面にAl被膜を有する焼結磁石。
【0064】
(耐食性評価試験)
実施例1〜実施例17で得た表面改質された焼結磁石に対して80℃×90%RHの恒温恒湿試験を100時間行い、試験前からの磁石の重量変動を測定し、磁石の表面の酸化腐食による重量増加の程度でもって磁石の耐食性を評価した。結果を表1に示す。また、比較例1〜比較例9で得た各種の焼結磁石に対しても同様の恒温恒湿試験を行い、磁石の耐食性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1と表2から次のことが明らかになった。実施例1〜3の磁石は、工程Aを行った後に工程Bを行っていることにより、工程Bを行っていない比較例1〜3の磁石に比較して、恒温恒湿試験後の磁石の重量増加の程度が極めて僅かであり、このまま使用しても実用上問題のない耐食性を有する磁石であることがわかった。この結果は、工程Bを行うことによって磁石の表面が改質され、工程Aを行うことに伴って磁石の表面に形成される安定性に劣るR含有層の酸化腐食の進行が抑制されたことによるものと考えられた。実施例12、13の磁石と比較例4、5の磁石の対比においても同様の結果であったことから、工程Bによる磁石の表面改質効果は、工程Aの種類を問わず得られることがわかった。実施例1の磁石と実施例2の磁石と実施例3の磁石の対比から、工程Bによる磁石の表面改質効果は、工程Bを行う前にブラスト加工や表面研削加工を行うことで高まることがわかった。工程Aを行った後に表面研削加工と化成処理を行った比較例6の磁石、工程Aを行わずに表面研削加工と工程Bを行った比較例7の磁石、工程Aを行わずに表面研削加工と化成処理を行った比較例8の磁石、工程Aも工程Bも行わずに表面研削加工だけを行った比較例9の磁石は、恒温恒湿試験後の磁石の重量増加の程度が比較的僅かであったが、工程Aを行った後に表面研削加工と工程Bを行った実施例3、6、17の磁石における恒温恒湿試験後の磁石の重量増加の程度と比較するとその程度は大きいものであった。実施例1の磁石と実施例12の磁石と実施例14の磁石の対比から、工程Bによる磁石の表面改質効果は、工程Aとして、特許文献1に記載の離間拡散法を採用した場合や、公知のEB蒸着によって磁石の表面にRH被膜を形成した後に熱処理することでRHを拡散導入する方法を採用した場合でも得られるが、その程度は工程Aとして接触拡散法を採用した場合の方が優れることがわかった。実施例1、4、7、8の磁石と実施例9の磁石の対比から、工程Aとして接触拡散法を採用する場合、RH拡散導入材はRHの他にFeを含むものの方が含まないものに比較して工程Bによる表面改質効果が優れることがわかった。実施例1〜実施例3の磁石と実施例4〜実施例6の磁石の対比から、工程Bを行う雰囲気を形成する水蒸気分圧は低い方がよいことがわかった。
【0068】
(密着性評価試験)
実施例18と比較例10で得た表面にAl被膜を有する焼結磁石それぞれに対し、JIS−K5600−5−6に準拠したクロスカット試験を行い、Al被膜の密着性を評価した。その結果、実施例18のAl被膜については膜剥がれが全く認められなかったが、比較例10のAl被膜については36マス中31マスに膜剥がれが認められた。以上の結果から、実施例1の工程Bによる磁石の表面改質効果により、磁石の表面に優れた密着性をもってAl被膜を形成できるようになることがわかった。
【0069】
(R−Fe−B系焼結磁石に対するDyの拡散導入効果)
実施例1〜実施例17で得た表面改質された焼結磁石は、処理を行う前の焼結磁石に比較して、250kA/m〜350kA/m程度の保磁力の向上が認められた。しかしながら、実用上問題となる残留磁束密度の低下は認められなかった。