【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した方法以外にも、流路切り替えバルブのスイッチングを用いたグラジエント溶出法がある。
図5は、3種類の溶離液(バッファ)を用いたステップグラジエント送液装置を備えた、液体クロマトグラフ装置の一例を示している。前記装置は、
溶離液A(バッファA)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための流路切り替えバルブ(52c)と、
試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
分析カラム(70)と、
カラム恒温槽(80)と、
検出器(90)と、
を備え、送液ポンプ(31)、流路切り替えバルブ(52c)、流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)、分析カラム(70)、検出器(90)の順に直鎖上に連結している。試料導入バルブ(51)および流路切り替えバルブ(52b、52c)は、通常液体クロマトグラフ装置で用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。前記六方バルブは、充填手段(不図示)でバルブに設けたループに溶離液(バッファ)または試料を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した溶離液(バッファ)または試料を分析カラムへ導入可能な状態(ON状態)と、を切り替えることができる。
【0010】
初期化工程(平衡化工程)(
図6a)では、流路切り替えバルブ(52c)、流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)はいずれもOFF状態とし、流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)にバッファB(10b)を、流路切り替えバルブ(52c)に設けたループ(62c)にバッファCを、試料導入バルブ(51)に設けたループ(61)に試料を、それぞれポンプやシリンジなどの充填手段を用いて充填する(
図6a)。初期化工程(平衡化工程)では、分析カラム(70)へはバッファA(10a)のみが導入される。バッファAによる平衡化完了後、試料導入バルブ(51)をON状態にし、ループ(61)に充填した試料(20)をバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する。一定時間後、試料導入バルブ(51)をOFF状態にするとともに流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、ループ(62b)に充填したバッファBをバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する(
図6b)。さらに一定時間後、流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態にするとともに流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、ループ(62c)内に充填したバッファCをバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する(
図6c)。これら一連の工程により、バッファA、バッファB、バッファCの順にステップグラジエント溶出を行なうことができる。
【0011】
当該溶出法は、従来から知られている低圧グラジエント法と比較して、流路切り替えバルブから分析カラムまでのデットボリュームを大幅に少なくすることができるため、微小化したカラムを用いた液体クロマトグラフィにおけるグラジエント溶出法として適している。しかしながら、当該溶出法は、溶離液(バッファ)を切り替える度に、バルブの切り替えが伴う。例えば、
図5の装置で溶離液(バッファ)が5種類の場合は、高圧状態で最低5回、流路切り替え操作が必要となる。流路切り替えバルブにおける流路切り替え時には、一時的に流路が閉塞するため、クロマトグラム圧力変動に由来するスパイク状のノイズが発生する。従来の液体クロマトグラフィのように比較的圧力が低い状態で使用する場合は特に問題ないが、近年主流になりつつある数μmオーダーの充填材を使用したUPLC(Ultra Performance Liquid Chromatography)用カラムでは、通常使用時でも圧力が数十MPa程度になる。そのため、UPLC用カラムを用いた液体クロマトグラフィにおいて当該溶出法を採用すると、切り替え時の圧力変動が大きくなるため、前記変動に由来するクロマトグラムのノイズも大きくなり、分析精度へ悪影響を及ぼす問題がある。
【0012】
そこで本発明は、液体クロマトグラフィ装置においてステップグラジエントを作成し送液するための流路系であって、溶離液(バッファ)の種類が増大しても高圧状態での切り替え回数を最小限にできる(圧力変動を最小限にできる)流路系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するためになされた本発明は、以下の態様を包含する。
【0014】
本発明の第一の態様は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備えた流路系であって、
第nの流路切り替え手段を、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた、前記流路系である。
【0015】
本発明の第二の態様は、試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段を、さらに第1の流路切り替え手段出口側に備えた、前記第一の態様に記載の流路系である。
【0016】
本発明の第三の態様は、試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段を、さらに第1の流路切り替え手段に設けたループに備えた、前記第一の態様に記載の流路系である。
【0017】
本発明の第四の態様は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備え、第nの流路切り替え手段を第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた、流路系と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えた液体クロマトグラフ装置である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の流路系に備える流路切り替え手段は、前記手段に設けた充填手段により前記手段に設けたループに溶液(例えば、溶離液やバッファなど)を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した溶液(例えば、溶離液やバッファなど)を本発明の流路系に備えた送液手段により送液された押出液により送液先へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。また、本発明の流路系に備える試料導入手段は、前記手段に設けた試料充填手段により前記手段に設けたループに試料を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した試料を本発明の流路系に備えた送液手段により送液された押出液により送液先へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。なお、ここでいう送液先へ送液可能な状態とは、本発明の流路系を液体クロマトグラフ装置に備える場合、溶液または試料を分析カラムおよび検出器へ導入可能な状態のことをいう。本発明の流路系に備える流路切り替え手段および試料導入手段の一例として、液体クロマトグラフィで通常用いられる、二位置切り替え六方バルブがあげられる。
【0020】
本発明の液体クロマトグラフ装置において、流路系に備える押出液を送液する送液手段は、第1の流路切り替え手段がOFF状態では、押出液を直接分析カラムおよび検出器へ導入可能な手段であり、第1の流路切り替え手段がON状態では、押出液で押し出す形で、第1から第n(nは2以上)の流路切り替え手段に設けたループに充填された溶離液(バッファ)を分析カラムおよび検出器へ導入可能な手段である。前記送液手段の一例として、液体クロマトグラフィで通常用いられる、プランジャポンプがあげられる。
【0021】
本発明の流路系によるグラジエント作成の概念図を
図7に示す。本発明の流路系は、あらかじめ低圧下(例えば大気圧下)で、流路切り替え手段(バルブ)(52)に設けたループ(62)に溶離液A(バッファA:本発明では押出液に相当する)を除いたグラジエントプロファイルを作成後、流路切り替え手段(バルブ)(52)による流路切り替えを一度行なうことで、バッファAにより前記グラジエントプロファイルを送液先へ送液可能な(
図7に示す液体クロマトグラフ装置の場合、分析カラムおよび検出器へ導入可能な)流路系である。本発明の流路系は、ステップグラジエント溶出におけるステップ数(すなわち溶離液数)が増大しても、流路の切り替え回数は最小限で済むため、流路切り替えに伴う圧力変動も最小限に抑えられる。よって、分析精度や検出器のベースラインに及ぼす影響も最小限に抑えることができる。
【0022】
本発明の流路系の一態様を
図8および
図9に示す。
図8aは3種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図8bは4種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図9aは5種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図9bはn種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、本発明の流路系の一態様をそれぞれ示した図である。なお、
図8および
図9において、溶離液A(バッファA)は押出液を兼ねている。また、
図8aと
図8bは本発明の流路系と、分析カラム(70)と、カラム恒温槽(80)と、検出器(90)と、を備えた液体クロマトグラフ装置の形で示している。代表して
図8aについて詳細に説明する。
図8aの流路系は、
溶離液A(バッファA:押出液を兼ねる)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための第1の流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための第2の流路切り替えバルブ(52c)と、
第1の流路切り替えバルブ出口側に設けた、試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
バッファBを充填可能なループ(62b)と、
バッファCを充填可能なループ(62c)と、
試料を充填可能なループ(61)と、
を備え、第2の流路切り替えバルブ(52c)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)に設けている。第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、および試料導入バルブ(51)は、通常液体クロマトグラフィで用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。
【0023】
図8aのうち、流路切り替えバルブ(52b、52c)付近を拡大した図を
図10に示す。初期化工程(平衡化工程)では、送液ポンプ(31)により送液されたバッファA(10a)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB1からPB2を経由し分析カラム(70)へ導入される。第1の充填手段(不図示)により送液されたバッファB(10b)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB6、ループ(62b)に設けた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC1からPC2、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB3からPB4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62b)を含めた、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB4までの流路がバッファBで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファBは、ループ(62b)に充填したバッファBのうち、ポートPC2からポートPB3までのループに充填されたバッファBである。第2の充填手段(不図示)により送液されたバッファC(10c)は第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC6、ループ(62c)、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC3からPC4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62c)を含めた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC4までの流路がバッファCで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファCは、ループ(62c)に充填されたバッファCである。バッファBをループ(62b)に充填するための第1の充填手段およびバッファCをループ(62c)に充填するための第2の充填手段に特に制限はなく、一例としてシリンジやポンプがあげられる。また、充填方法も特に制限はなく、シリンジなどを用いて手動で充填してもよいし、ポンプなどの自動送液手段を用いて充填してもよい。
【0024】
図8a(
図10)に示す、本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置を用いた、グラジエント溶出法について
図11および
図12を用いて詳細に説明する。
【0025】
工程1 初期化およびバッファB/C/試料充填工程(
図11a)
2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)をOFF状態とし、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)にバッファBを、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたループ(62c)にバッファCを、試料導入バルブ(51)に接続したループ(61)に試料を、充填手段(不図示)を用いてそれぞれ充填する。なお、バッファAは第1の流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)を経由し、分析カラム(70)へ導入される。
【0026】
工程2 試料導入工程(
図11b)
バッファAによる分析カラム(70)平衡化およびバッファB/C/試料のループへの充填完了後、試料導入バルブ(51)をON状態にすることで、ループ(61)に充填した試料をバッファA(押出液)で押し出す形で分析カラム(70)に導入し、バッファAによる試料成分の溶出を開始する。
【0027】
工程3 バッファB/C連結工程(
図12a)
第2の流路切り替えバルブ(52c)をON状態にし、バッファBを充填したループ(62b)とバッファCを充填したループ(62c)とを連結する。なお、本操作は低圧下(例えば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(62b、62c)内の圧力変動は生じない。
【0028】
工程4 バッファB/C導入工程(
図12b)
工程2の操作から一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、バッファAを送液する流路と工程3で連結したバッファBおよびバッファCを充填した流路(すなわちループ(62b)およびループ(62c))とを連結する。これにより、バッファA(押出液)で押し出される形でバッファB、バッファCの順に分析カラム(70)へ導入され、バッファBによる試料成分の溶出、引き続きバッファCによる試料成分の溶出を行なう。
【0029】
なお、前記工程のうち、工程2(試料導入工程)と工程3(バッファB/C連結工程)は逆に行なってもよい。
【0030】
図8(
図10)に示す本発明の流路系において、分析カラムに導入するバッファの流速をF、バッファAによる試料成分の溶出を開始(工程2)してから第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にする(工程4)までの時間をT1、バッファBを充填するループ(62b)のうち分析カラムへ導入される容量(
図10のポートPC2からポートPB3までに充填されたバッファBの容量)をVb、バッファCを充填するループ(62c)の容量をVcとし、配管のデットボリュームを無視すると、分析カラムへの導入時間は、バッファAでT1、バッファBでVb/F、バッファCでVc/Fとなる。一例として、Fが毎分10μL、T1が5分、Vbが30μL、Vcが60μLとすると、分析カラムへの導入時間は、バッファAで5分、バッファBで3分(30/10)、バッファCで6分(60/10)となる。
【0031】
本発明の流路系の別の態様を
図13および
図14に示す。
図13aは3種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図13bは4種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図14aは5種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、
図14bはn種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、本発明の流路系の別の態様をそれぞれ示した図である。なお、
図13および
図14において、溶離液A(バッファA)は押出液を兼ねている。また、
図13および
図14では本発明の流路系と、分析カラム(70)と、検出器(90)と、を備えた液体クロマトグラフ装置の形で示している。代表して
図13aについて詳細に説明する。
図13aの流路系は、
溶離液A(バッファA:押出液を兼ねる)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための第1の流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための第2の流路切り替えバルブ(52c)と、
試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
バッファBを充填可能なループ(62ba、62bb、62bc)と、
バッファCを充填可能なループ(62c)と、
試料を充填可能なループ(61)と、
を備え、第2の流路切り替えバルブ(52c)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62bb)とループ(62bc)との間に設けており、試料導入バルブ(51)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62ba)とループ(62bb)との間に設けている。第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、および試料導入バルブ(51)は、通常液体クロマトグラフィで用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。
【0032】
図13aのうち、流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)付近を拡大した図を
図15に示す。初期化工程(平衡化工程)では、送液ポンプ(31)により送液されたバッファA(10a)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB1からPB2を経由し分析カラム(70)へ導入される。第1の充填手段(不図示)により送液されたバッファB(10b)は流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB6、ル−プ(62bc)、流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC1からPC2、ループ(62bb)、試料導入バルブ(51)に設けたポートPI1からPI2、ループ(62ba)、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB3からPB4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62ba、62bb、62bc)を含めた、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB4までの流路がバッファBで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファBは、ループ(62ba)およびループ(62bb)に充填されたバッファBである。第2の充填手段(不図示)により送液されたバッファC(10c)は第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC6、ループ(62c)、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC3からPC4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62c)を含めた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC4までの流路がバッファCで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファCは、ループ(62c)に充填されたバッファCである。試料充填手段(不図示)により送液された試料(20)は試料導入バルブ(51)に設けたポートPI5からPI6、ループ(61)、試料導入バルブ(51)に設けたポートPI3からPI4、を経由し廃液として排出され、これによりループ(61)を含めた試料導入バルブ(51)に設けたポートPI5からPI4までの流路が試料で充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入する試料は、ループ(61)に充填された試料である。バッファBをループ(62b)に充填するための第1の充填手段、バッファCをループ(62c)に充填するための第2の充填手段および試料を充填するための試料充填手段に特に制限はなく、一例としてシリンジやポンプがあげられる。また、充填方法も特に制限はなく、シリンジなどを用いて手動で充填してもよいし、ポンプなどの自動送液手段を用いて充填してもよい。
【0033】
図13a(
図15)に示す、本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフィ装置を用いた、グラジエント溶出法について
図16を用いて詳細に説明する。
【0034】
工程1 初期化およびバッファB/C/試料充填工程(
図16a)
第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、試料導入バルブ(51)はいずれもOFF状態とし、ループ(62ba、62bb、62bc)にバッファBを、ループ(62c)にバッファCを、ループ(61)に試料を、充填手段(不図示)を用いてそれぞれ充填する。なお、バッファAは第1の流路切り替えバルブ(52b)を経由し、分析カラム(70)へ導入される。
【0035】
工程2 バッファB/試料/バッファC連結工程(
図16b)
バッファAによる分析カラム(70)平衡化ならびにバッファB/C/試料のループへの充填完了後、第2の流路切り替えバルブ(52c)および試料導入バルブ(51)をON状態にし、バッファBを充填したループ(62ba、62bb、62bc)、試料を充填したループ(61)およびバッファCを充填したループ(62c)を連結する。なお、本操作は低圧下(例えば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(62ba、61、62bb、62c、62bc)内の圧力変動は生じない。
【0036】
工程3 バッファB/試料/バッファC導入工程(
図16c)
工程2から一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、バッファAを送液する流路と、工程2で連結したバッファB、試料およびバッファCを充填した流路(すなわちループ(62ba)、ループ(61)、ループ(62bb)、ループ(62c)、ループ(62bc))とを連結する。これにより、バッファA(押出液)で押し出される形でループ(62ba)に充填したバッファB、ループ(61)に充填した試料、ループ(62bb)に充填したバッファB、バッファCの順に分析カラム(70)へ導入され、試料の導入ならびにバッファBによる試料成分の溶出およびバッファCによる試料成分の溶出を行なう。
【0037】
なお、本発明の流路系の別の態様において、バッファAとバッファBは異なる組成であってもよいし、同じ組成であってもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の流路系は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備えた流路系であって、
第nの流路切り替え手段を、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えていることを特徴としている。
【0039】
流路切り替え手段のスイッチングにより溶離液を切り替えることで、ステップグラジエントを送液する装置は、これまでもあった(例えば
図5および
図6の装置)が、本発明の流路系は
図5および
図6の装置と比較し、高圧状態での流路切り替え数を減らすことができる。例えば、5種類の溶離液(バッファ)を用いたステップグラジエント送液において、
図5および
図6のような一般的な流路切り替え手段(バルブ)の切り替えによりステップグラジエントを送液する場合は、
図17aに示すように、1回の分析で、試料の導入に1回、溶離液(バッファ)の切り替えに4回の合計5回圧力変動が生じる。一方、本発明の流路系の一態様(
図9a)では、
図17bに示すように1回の分析で、試料の導入に1回、溶離液(バッファ)の切り替えに1回の合計2回の圧力変動で済む。さらに、本発明の流路系の別の態様(
図14a)では、
図17cに示すように、1回の分析で、試料および溶離液(バッファ)導入時の1回の圧力変動で済む。
【0040】
n種類の溶離液(バッファ)を用いてステップグラジエントを作成し送液する場合の、1分析あたりの高圧状態での切り替え回数の一覧を表1に示す。
【0041】
【表1】
表1に示すように、一般的なバルブ切り替えによるステップグラジエントでは、溶離液(バッファ)数の増大に伴い、高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)の回数も増加する。一方、本発明の流路系の一態様(
図8および
図9)では溶離液(バッファ)数が増大しても高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)は常に2回で済み、本発明の流路系の別の態様(
図13および
図14)では溶離液(バッファ)数が増大しても高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)は常に1回で済む。よって、例えば本発明の流路系を、液体クロマトグラフ装置に備えたとき、液体クロマトグラフ装置に備えた検出器に余分なノイズを与えることがなくなり、クロマトグラムに現れるスパイク状のノイズも抑えられるため、より高精度な分析が可能となる。