特許第5760408号(P5760408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760408
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ステップグラジエント流路系
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/34 20060101AFI20150723BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20150723BHJP
   G01N 30/20 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   G01N30/34 A
   G01N30/26 M
   G01N30/20 Z
【請求項の数】2
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2010-268560(P2010-268560)
(22)【出願日】2010年12月1日
(65)【公開番号】特開2012-117934(P2012-117934A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−89166(JP,U)
【文献】 特開2003−247987(JP,A)
【文献】 特開平2−130466(JP,A)
【文献】 特開2006−227029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと当該ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を当該ループに充填可能な状態と当該ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと試料を充填可能なループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段と、
を備えた流路系であって、
第nの流路切り替え手段を第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに、試料導入手段を第1の流路切り替え手段に設けたループに、それぞれ備えた前記流路系。
【請求項2】
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと当該ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を当該ループに充填可能な状態と当該ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと試料を充填可能なループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段と、
を備え、第nの流路切り替え手段を第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに、試料導入手段を第1の流路切り替え手段に設けたループに、それぞれ備えた流路系と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えた液体クロマトグラフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ装置において溶離液のグラジエントを送液するための流路系に関する。特に本発明の流路系は、微小流量液体クロマトグラフィにおいてステップグラジエントを送液する際に好ましく使用することができる。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィにおいて、目的成分を溶出させる方法としては、単一の溶離液(バッファ)を用いて溶出させるアイソクラティック溶出法と、溶離液(バッファ)の組成を変化させて溶出させるグラジエント溶出法とに大別される。このうち、後者のグラジエント溶出法は、分離できる試料成分の範囲が広いことから、液体クロマトグラフィを用いた分析で多く用いられている。
【0003】
グラジエント溶出法は、分析時間中に何らかの方法により溶離液(バッファ)の組成を変化させて、試料中の目的成分を溶出させる。溶離液(バッファ)の組成を変化させる方法の一例として、組成の異なる複数の溶離液(バッファ)と前記溶離液に対応する送液ポンプとを並列に配置し、総流量を一定に保ちながら各ポンプの流量を制御することで組成を変化させる、高圧グラジエント(吐出グラジエント)法があげられる。2種類の溶離液(バッファ)(10a、10b)を2台の送液ポンプ(31a、31b)で流量制御した場合の、高圧グラジエント送液装置の一態様を図1に、図1の装置で作成したグラジエントプロファイルの一例を図2に、それぞれ示す。溶離液(バッファ)の組成を変化させる方法の別の例として、1台のポンプで組成の異なる複数の溶離液(バッファ)を送液して組成を変化させる、低圧グラジエント(吸引グラジエント)法があげられる。低圧グラジエント(吸引グラジエント)法では、送液ポンプの吸引側に複数の溶離液(バッファ)を選択可能な切り替え手段(例えば電磁弁など)を設け、送液する溶離液(バッファ)を選択する。低圧グラジエント送液装置の一態様として、3種類(10a、10b、10c)の溶離液(バッファ)を電磁弁(53a、53b、53c)を用いて切り替える装置を図3に、図3の装置で作成したグラジエントプロファイルの一例を図4に、それぞれ示す。高圧グラジエント(吐出グラジエント)法は、溶離液(バッファ)組成を自由に変化させることができるものの、装置自体が高価であることから、研究や探索目的で使用されることが多い。一方低圧グラジエント(吸引グラジエント)法は、組成変化が溶離液(バッファ)数に限定されるものの、装置自体は安価であることから、分析対象が決まっているルーチン分析に使用されることが多い。
【0004】
汎用液体クロマトグラフィでは、分析カラムに送液する溶離液(バッファ)の流速を毎分1mL程度とするため、グラジエント溶出法で目的成分を溶出させる場合、高圧グラジエント法を用いてもよいし、低圧グラジエント法を用いてもよく、目的に応じて、より適切なグラジエント法を選択すればよい。
【0005】
しかしながら、分析カラムサイズを微小化する傾向がある近年の液体クロマトグラフィでは、分析カラムに送液する溶離液(バッファ)の流速が毎分数μLから数十μL程度まで低下する。そのため、前述した高圧グラジエント法または低圧グラジエント法をそのまま適用することは困難である。その理由として、高圧グラジエント法の場合、分析カラムに送液する溶離液(バッファ)の流速を毎分数十μLで分析を行なうには、その100分の1の流速であっても一定の流量精度を維持するポンプが必要であり、装置設計が困難となるからである。一方、低圧グラジエント法の場合、送液ポンプの上流側に設けた切り替え手段で溶離液(バッファ)を切り替えるため、切り替え手段−ポンプ−カラム間の容量分だけ、溶離液(バッファ)の切り替えに遅れが生じるが、分析カラムへ導入する溶離液(バッファ)の流速を毎分数十μLで分析を行なうと、切り替え手段−ポンプ−カラム間の容量が数百μL程度であっても遅れが10分程度生じるため、事実上分析自体が困難となるからである。
【0006】
溶離液(バッファ)の流速を毎分数十μLとする液体クロマトグラフィでグラジエント溶出を行なう方法がいくつか提案されている。特許文献1は、あらかじめ分析系と分断した状態で、シリンジポンプ内にグラジエントプロファイルを作成後、分析開始と同時にシリンジポンプと分析系とを接続し、分析カラムに送液する溶離液の組成変化を行なわせるグラジエント溶出法を開示している。しかしながら、特許文献1の方法は、1分析毎にシリンジポンプと分析系との接続/切断操作が必要であるため再現性が悪化する問題がある。また、高圧カラムを使用する場合、分析開始と同時に圧力低下が発生するため、元の圧力に戻るまでの時間、正確な測定ができない、という問題もある。
【0007】
特許文献2は、ナノフローレベル(nL/分)のリニアグラジエント溶出を安定的かつ連続的に達成する装置を開示している。ともに容量1μL程度の第1および第2のループを備えた流路切り替えバルブに、低圧グラジエントによる混合溶媒を供給するマイクロフローレベル(μL/分)の第1のポンプ、および作動液(押出液)を供給するナノフローレベル(nL/分)の第2のポンプをそれぞれ流路接続する。第1のループに第1のポンプから混合溶媒を満たす一方で第2のループに第2のポンプから押出液を注入する第1の状態と、第2のループに第1のポンプから混合溶媒を満たす一方で第1のループに第2のポンプから押出液を注入する第2の状態と、を交互に切り替える。このバルブ切り替え操作をたとえば1分間隔で繰り返すことにより、第1のポンプから供給される瞬間的な組成のグラジエント溶媒を1分ごとに抜き取って階段状の溶媒グラジエントを発生させることができる。特許文献2に開示の装置は、あらかじめグラジエントプロファイルを作成しておく必要はなく、連続運転に適しているが、溶媒の消費量が比較的多く、バルブ切り替えを頻繁に行なう必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2009/151096号
【特許文献2】特開2006−227029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した方法以外にも、流路切り替えバルブのスイッチングを用いたグラジエント溶出法がある。図5は、3種類の溶離液(バッファ)を用いたステップグラジエント送液装置を備えた、液体クロマトグラフ装置の一例を示している。前記装置は、
溶離液A(バッファA)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための流路切り替えバルブ(52c)と、
試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
分析カラム(70)と、
カラム恒温槽(80)と、
検出器(90)と、
を備え、送液ポンプ(31)、流路切り替えバルブ(52c)、流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)、分析カラム(70)、検出器(90)の順に直鎖上に連結している。試料導入バルブ(51)および流路切り替えバルブ(52b、52c)は、通常液体クロマトグラフ装置で用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。前記六方バルブは、充填手段(不図示)でバルブに設けたループに溶離液(バッファ)または試料を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した溶離液(バッファ)または試料を分析カラムへ導入可能な状態(ON状態)と、を切り替えることができる。
【0010】
初期化工程(平衡化工程)(図6a)では、流路切り替えバルブ(52c)、流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)はいずれもOFF状態とし、流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)にバッファB(10b)を、流路切り替えバルブ(52c)に設けたループ(62c)にバッファCを、試料導入バルブ(51)に設けたループ(61)に試料を、それぞれポンプやシリンジなどの充填手段を用いて充填する(図6a)。初期化工程(平衡化工程)では、分析カラム(70)へはバッファA(10a)のみが導入される。バッファAによる平衡化完了後、試料導入バルブ(51)をON状態にし、ループ(61)に充填した試料(20)をバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する。一定時間後、試料導入バルブ(51)をOFF状態にするとともに流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、ループ(62b)に充填したバッファBをバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する(図6b)。さらに一定時間後、流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態にするとともに流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、ループ(62c)内に充填したバッファCをバッファAで押し出す形で分析カラム(70)に導入する(図6c)。これら一連の工程により、バッファA、バッファB、バッファCの順にステップグラジエント溶出を行なうことができる。
【0011】
当該溶出法は、従来から知られている低圧グラジエント法と比較して、流路切り替えバルブから分析カラムまでのデットボリュームを大幅に少なくすることができるため、微小化したカラムを用いた液体クロマトグラフィにおけるグラジエント溶出法として適している。しかしながら、当該溶出法は、溶離液(バッファ)を切り替える度に、バルブの切り替えが伴う。例えば、図5の装置で溶離液(バッファ)が5種類の場合は、高圧状態で最低5回、流路切り替え操作が必要となる。流路切り替えバルブにおける流路切り替え時には、一時的に流路が閉塞するため、クロマトグラム圧力変動に由来するスパイク状のノイズが発生する。従来の液体クロマトグラフィのように比較的圧力が低い状態で使用する場合は特に問題ないが、近年主流になりつつある数μmオーダーの充填材を使用したUPLC(Ultra Performance Liquid Chromatography)用カラムでは、通常使用時でも圧力が数十MPa程度になる。そのため、UPLC用カラムを用いた液体クロマトグラフィにおいて当該溶出法を採用すると、切り替え時の圧力変動が大きくなるため、前記変動に由来するクロマトグラムのノイズも大きくなり、分析精度へ悪影響を及ぼす問題がある。
【0012】
そこで本発明は、液体クロマトグラフィ装置においてステップグラジエントを作成し送液するための流路系であって、溶離液(バッファ)の種類が増大しても高圧状態での切り替え回数を最小限にできる(圧力変動を最小限にできる)流路系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するためになされた本発明は、以下の態様を包含する。
【0014】
本発明の第一の態様は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備えた流路系であって、
第nの流路切り替え手段を、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた、前記流路系である。
【0015】
本発明の第二の態様は、試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段を、さらに第1の流路切り替え手段出口側に備えた、前記第一の態様に記載の流路系である。
【0016】
本発明の第三の態様は、試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段を、さらに第1の流路切り替え手段に設けたループに備えた、前記第一の態様に記載の流路系である。
【0017】
本発明の第四の態様は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備え、第nの流路切り替え手段を第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた、流路系と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを設けた試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えた液体クロマトグラフ装置である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の流路系に備える流路切り替え手段は、前記手段に設けた充填手段により前記手段に設けたループに溶液(例えば、溶離液やバッファなど)を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した溶液(例えば、溶離液やバッファなど)を本発明の流路系に備えた送液手段により送液された押出液により送液先へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。また、本発明の流路系に備える試料導入手段は、前記手段に設けた試料充填手段により前記手段に設けたループに試料を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した試料を本発明の流路系に備えた送液手段により送液された押出液により送液先へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。なお、ここでいう送液先へ送液可能な状態とは、本発明の流路系を液体クロマトグラフ装置に備える場合、溶液または試料を分析カラムおよび検出器へ導入可能な状態のことをいう。本発明の流路系に備える流路切り替え手段および試料導入手段の一例として、液体クロマトグラフィで通常用いられる、二位置切り替え六方バルブがあげられる。
【0020】
本発明の液体クロマトグラフ装置において、流路系に備える押出液を送液する送液手段は、第1の流路切り替え手段がOFF状態では、押出液を直接分析カラムおよび検出器へ導入可能な手段であり、第1の流路切り替え手段がON状態では、押出液で押し出す形で、第1から第n(nは2以上)の流路切り替え手段に設けたループに充填された溶離液(バッファ)を分析カラムおよび検出器へ導入可能な手段である。前記送液手段の一例として、液体クロマトグラフィで通常用いられる、プランジャポンプがあげられる。
【0021】
本発明の流路系によるグラジエント作成の概念図を図7に示す。本発明の流路系は、あらかじめ低圧下(例えば大気圧下)で、流路切り替え手段(バルブ)(52)に設けたループ(62)に溶離液A(バッファA:本発明では押出液に相当する)を除いたグラジエントプロファイルを作成後、流路切り替え手段(バルブ)(52)による流路切り替えを一度行なうことで、バッファAにより前記グラジエントプロファイルを送液先へ送液可能な(図7に示す液体クロマトグラフ装置の場合、分析カラムおよび検出器へ導入可能な)流路系である。本発明の流路系は、ステップグラジエント溶出におけるステップ数(すなわち溶離液数)が増大しても、流路の切り替え回数は最小限で済むため、流路切り替えに伴う圧力変動も最小限に抑えられる。よって、分析精度や検出器のベースラインに及ぼす影響も最小限に抑えることができる。
【0022】
本発明の流路系の一態様を図8および図9に示す。図8aは3種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図8bは4種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図9aは5種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図9bはn種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、本発明の流路系の一態様をそれぞれ示した図である。なお、図8および図9において、溶離液A(バッファA)は押出液を兼ねている。また、図8aと図8bは本発明の流路系と、分析カラム(70)と、カラム恒温槽(80)と、検出器(90)と、を備えた液体クロマトグラフ装置の形で示している。代表して図8aについて詳細に説明する。図8aの流路系は、
溶離液A(バッファA:押出液を兼ねる)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための第1の流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための第2の流路切り替えバルブ(52c)と、
第1の流路切り替えバルブ出口側に設けた、試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
バッファBを充填可能なループ(62b)と、
バッファCを充填可能なループ(62c)と、
試料を充填可能なループ(61)と、
を備え、第2の流路切り替えバルブ(52c)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)に設けている。第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、および試料導入バルブ(51)は、通常液体クロマトグラフィで用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。
【0023】
図8aのうち、流路切り替えバルブ(52b、52c)付近を拡大した図を図10に示す。初期化工程(平衡化工程)では、送液ポンプ(31)により送液されたバッファA(10a)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB1からPB2を経由し分析カラム(70)へ導入される。第1の充填手段(不図示)により送液されたバッファB(10b)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB6、ループ(62b)に設けた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC1からPC2、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB3からPB4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62b)を含めた、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB4までの流路がバッファBで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファBは、ループ(62b)に充填したバッファBのうち、ポートPC2からポートPB3までのループに充填されたバッファBである。第2の充填手段(不図示)により送液されたバッファC(10c)は第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC6、ループ(62c)、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC3からPC4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62c)を含めた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC4までの流路がバッファCで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファCは、ループ(62c)に充填されたバッファCである。バッファBをループ(62b)に充填するための第1の充填手段およびバッファCをループ(62c)に充填するための第2の充填手段に特に制限はなく、一例としてシリンジやポンプがあげられる。また、充填方法も特に制限はなく、シリンジなどを用いて手動で充填してもよいし、ポンプなどの自動送液手段を用いて充填してもよい。
【0024】
図8a(図10)に示す、本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置を用いた、グラジエント溶出法について図11および図12を用いて詳細に説明する。
【0025】
工程1 初期化およびバッファB/C/試料充填工程(図11a)
2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)をOFF状態とし、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62b)にバッファBを、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたループ(62c)にバッファCを、試料導入バルブ(51)に接続したループ(61)に試料を、充填手段(不図示)を用いてそれぞれ充填する。なお、バッファAは第1の流路切り替えバルブ(52b)、試料導入バルブ(51)を経由し、分析カラム(70)へ導入される。
【0026】
工程2 試料導入工程(図11b)
バッファAによる分析カラム(70)平衡化およびバッファB/C/試料のループへの充填完了後、試料導入バルブ(51)をON状態にすることで、ループ(61)に充填した試料をバッファA(押出液)で押し出す形で分析カラム(70)に導入し、バッファAによる試料成分の溶出を開始する。
【0027】
工程3 バッファB/C連結工程(図12a)
第2の流路切り替えバルブ(52c)をON状態にし、バッファBを充填したループ(62b)とバッファCを充填したループ(62c)とを連結する。なお、本操作は低圧下(例えば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(62b、62c)内の圧力変動は生じない。
【0028】
工程4 バッファB/C導入工程(図12b)
工程2の操作から一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、バッファAを送液する流路と工程3で連結したバッファBおよびバッファCを充填した流路(すなわちループ(62b)およびループ(62c))とを連結する。これにより、バッファA(押出液)で押し出される形でバッファB、バッファCの順に分析カラム(70)へ導入され、バッファBによる試料成分の溶出、引き続きバッファCによる試料成分の溶出を行なう。
【0029】
なお、前記工程のうち、工程2(試料導入工程)と工程3(バッファB/C連結工程)は逆に行なってもよい。
【0030】
図8図10)に示す本発明の流路系において、分析カラムに導入するバッファの流速をF、バッファAによる試料成分の溶出を開始(工程2)してから第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にする(工程4)までの時間をT1、バッファBを充填するループ(62b)のうち分析カラムへ導入される容量(図10のポートPC2からポートPB3までに充填されたバッファBの容量)をVb、バッファCを充填するループ(62c)の容量をVcとし、配管のデットボリュームを無視すると、分析カラムへの導入時間は、バッファAでT1、バッファBでVb/F、バッファCでVc/Fとなる。一例として、Fが毎分10μL、T1が5分、Vbが30μL、Vcが60μLとすると、分析カラムへの導入時間は、バッファAで5分、バッファBで3分(30/10)、バッファCで6分(60/10)となる。
【0031】
本発明の流路系の別の態様を図13および図14に示す。図13aは3種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図13bは4種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図14aは5種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、図14bはn種類の溶離液(バッファ)を用いたときの、本発明の流路系の別の態様をそれぞれ示した図である。なお、図13および図14において、溶離液A(バッファA)は押出液を兼ねている。また、図13および図14では本発明の流路系と、分析カラム(70)と、検出器(90)と、を備えた液体クロマトグラフ装置の形で示している。代表して図13aについて詳細に説明する。図13aの流路系は、
溶離液A(バッファA:押出液を兼ねる)(10a)を送液する送液ポンプ(31)と、
溶離液B(バッファB)(10b)を分析カラムへ導入するための第1の流路切り替えバルブ(52b)と、
溶離液C(バッファC)(10c)を分析カラムへ導入するための第2の流路切り替えバルブ(52c)と、
試料(20)を分析カラムへ導入するための試料導入バルブ(51)と、
バッファBを充填可能なループ(62ba、62bb、62bc)と、
バッファCを充填可能なループ(62c)と、
試料を充填可能なループ(61)と、
を備え、第2の流路切り替えバルブ(52c)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62bb)とループ(62bc)との間に設けており、試料導入バルブ(51)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたループ(62ba)とループ(62bb)との間に設けている。第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、および試料導入バルブ(51)は、通常液体クロマトグラフィで用いられる、二位置切り替え六方バルブを用いることができる。
【0032】
図13aのうち、流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)付近を拡大した図を図15に示す。初期化工程(平衡化工程)では、送液ポンプ(31)により送液されたバッファA(10a)は第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB1からPB2を経由し分析カラム(70)へ導入される。第1の充填手段(不図示)により送液されたバッファB(10b)は流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB6、ル−プ(62bc)、流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC1からPC2、ループ(62bb)、試料導入バルブ(51)に設けたポートPI1からPI2、ループ(62ba)、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB3からPB4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62ba、62bb、62bc)を含めた、第1の流路切り替えバルブ(52b)に設けたポートPB5からPB4までの流路がバッファBで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファBは、ループ(62ba)およびループ(62bb)に充填されたバッファBである。第2の充填手段(不図示)により送液されたバッファC(10c)は第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC6、ループ(62c)、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC3からPC4、を経由後、廃液として排出され、これによりループ(62c)を含めた、第2の流路切り替えバルブ(52c)に設けたポートPC5からPC4までの流路がバッファCで充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入するバッファCは、ループ(62c)に充填されたバッファCである。試料充填手段(不図示)により送液された試料(20)は試料導入バルブ(51)に設けたポートPI5からPI6、ループ(61)、試料導入バルブ(51)に設けたポートPI3からPI4、を経由し廃液として排出され、これによりループ(61)を含めた試料導入バルブ(51)に設けたポートPI5からPI4までの流路が試料で充填されることになる。なお、実際に分析カラムに導入する試料は、ループ(61)に充填された試料である。バッファBをループ(62b)に充填するための第1の充填手段、バッファCをループ(62c)に充填するための第2の充填手段および試料を充填するための試料充填手段に特に制限はなく、一例としてシリンジやポンプがあげられる。また、充填方法も特に制限はなく、シリンジなどを用いて手動で充填してもよいし、ポンプなどの自動送液手段を用いて充填してもよい。
【0033】
図13a(図15)に示す、本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフィ装置を用いた、グラジエント溶出法について図16を用いて詳細に説明する。
【0034】
工程1 初期化およびバッファB/C/試料充填工程(図16a)
第1の流路切り替えバルブ(52b)、第2の流路切り替えバルブ(52c)、試料導入バルブ(51)はいずれもOFF状態とし、ループ(62ba、62bb、62bc)にバッファBを、ループ(62c)にバッファCを、ループ(61)に試料を、充填手段(不図示)を用いてそれぞれ充填する。なお、バッファAは第1の流路切り替えバルブ(52b)を経由し、分析カラム(70)へ導入される。
【0035】
工程2 バッファB/試料/バッファC連結工程(図16b)
バッファAによる分析カラム(70)平衡化ならびにバッファB/C/試料のループへの充填完了後、第2の流路切り替えバルブ(52c)および試料導入バルブ(51)をON状態にし、バッファBを充填したループ(62ba、62bb、62bc)、試料を充填したループ(61)およびバッファCを充填したループ(62c)を連結する。なお、本操作は低圧下(例えば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(62ba、61、62bb、62c、62bc)内の圧力変動は生じない。
【0036】
工程3 バッファB/試料/バッファC導入工程(図16c)
工程2から一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にし、バッファAを送液する流路と、工程2で連結したバッファB、試料およびバッファCを充填した流路(すなわちループ(62ba)、ループ(61)、ループ(62bb)、ループ(62c)、ループ(62bc))とを連結する。これにより、バッファA(押出液)で押し出される形でループ(62ba)に充填したバッファB、ループ(61)に充填した試料、ループ(62bb)に充填したバッファB、バッファCの順に分析カラム(70)へ導入され、試料の導入ならびにバッファBによる試料成分の溶出およびバッファCによる試料成分の溶出を行なう。
【0037】
なお、本発明の流路系の別の態様において、バッファAとバッファBは異なる組成であってもよいし、同じ組成であってもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の流路系は、
押出液を送液する送液手段と、
第1の溶液を充填可能なループと前記ループに第1の溶液を充填する第1の充填手段とを設け、第1の充填手段で第1の溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第1の溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶液を充填可能なループと前記ループに第nの溶液を充填する第nの充填手段とを設け、第nの充填手段で第nの溶液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶液を送液手段で送液された押出液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第nの流路切り替え手段と、
を備えた流路系であって、
第nの流路切り替え手段を、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えていることを特徴としている。
【0039】
流路切り替え手段のスイッチングにより溶離液を切り替えることで、ステップグラジエントを送液する装置は、これまでもあった(例えば図5および図6の装置)が、本発明の流路系は図5および図6の装置と比較し、高圧状態での流路切り替え数を減らすことができる。例えば、5種類の溶離液(バッファ)を用いたステップグラジエント送液において、図5および図6のような一般的な流路切り替え手段(バルブ)の切り替えによりステップグラジエントを送液する場合は、図17aに示すように、1回の分析で、試料の導入に1回、溶離液(バッファ)の切り替えに4回の合計5回圧力変動が生じる。一方、本発明の流路系の一態様(図9a)では、図17bに示すように1回の分析で、試料の導入に1回、溶離液(バッファ)の切り替えに1回の合計2回の圧力変動で済む。さらに、本発明の流路系の別の態様(図14a)では、図17cに示すように、1回の分析で、試料および溶離液(バッファ)導入時の1回の圧力変動で済む。
【0040】
n種類の溶離液(バッファ)を用いてステップグラジエントを作成し送液する場合の、1分析あたりの高圧状態での切り替え回数の一覧を表1に示す。
【0041】
【表1】
表1に示すように、一般的なバルブ切り替えによるステップグラジエントでは、溶離液(バッファ)数の増大に伴い、高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)の回数も増加する。一方、本発明の流路系の一態様(図8および図9)では溶離液(バッファ)数が増大しても高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)は常に2回で済み、本発明の流路系の別の態様(図13および図14)では溶離液(バッファ)数が増大しても高圧状態での切り替え(すなわち圧力変動)は常に1回で済む。よって、例えば本発明の流路系を、液体クロマトグラフ装置に備えたとき、液体クロマトグラフ装置に備えた検出器に余分なノイズを与えることがなくなり、クロマトグラムに現れるスパイク状のノイズも抑えられるため、より高精度な分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】高圧グラジエント送液装置を備えた液体クロマトグラフ装置の従来からある態様を示している。
図2図1の高圧グラジエント送液装置で作成したグラジエントプロファイルの一例を示している。
図3】低圧グラジエント送液装置を備えた液体クロマトグラフ装置の従来からある態様を示している。aは初期化工程、bはバッファB導入工程、cはバッファC導入工程における流路構成を示しており、太線はバッファの流路を示している。
図4図3の低圧グラジエント送液装置で作成したグラジエントプロファイルの一例を示している。
図5】ステップグラジエント送液装置を備えた液体クロマトグラフ装置の従来からある態様を示している。
図6図5のステップグラジエント送液装置を用いて各バッファを送液する際の流路構成を示している。aはバッファA、bはバッファB、cはバッファCを送液する場合における流路構成を示しており、太線はバッファの流路を示している。
図7】本発明の流路系によるステップグラジエント作成の概念図を示している。
図8】本発明の流路系の一態様を示している。aは3種類のバッファ使用時の、dは4種類のバッファ使用時の、流路系の一態様をそれぞれ示している。
図9】本発明の流路系の一態様を示している。aは5種類のバッファ使用時の、bはn種類のバッファ使用時の、流路系の一態様をそれぞれ示している。
図10図8aの流路系のうち、流路切り替えバルブ付近を拡大した図を示している。太線は分析カラムに導入するバッファが充填される領域を示している。
図11図8aの流路系を用いたステップグラジエント送液を示している。aは初期化およびバッファB/C/試料充填工程、bは試料導入工程における流路系をそれぞれ示している。
図12図8aの流路系を用いたステップグラジエント送液を示している。aはバッファB/C連結工程、bはバッファB/C導入工程における流路系をそれぞれ示している。
図13】本発明の流路系の別の態様を示している。aは3種類のバッファ使用時の、dは4種類のバッファ使用時の、流路系の一態様をそれぞれ示している。
図14】本発明の流路系の別の態様を示している。aは5種類のバッファ使用時の、bはn種類のバッファ使用時の、流路系の一態様をそれぞれ示している。
図15図13aの流路系のうち、流路切り替えバルブ付近を拡大した図を示している。太線は分析カラムに導入するバッファまたは試料が充填される領域を示している。
図16図13aの流路系を用いたステップグラジエント送液を示している。aは初期化およびバッファB/C/試料充填工程、bはバッファB/試料/バッファC連結工程、cはバッファB/試料/バッファC導入工程における流路系をそれぞれ示している。
図17】5種類のバッファを用いてステップグラジエントを行なった時の模式的な圧力変動を示している。aは従来からある送液装置(図5)を、bは本発明の流路系の一態様(図9a)を、cは本発明の流路系の別の態様(図14a)を、それぞれ用いたときの圧力変動を示している。
図18】実施例1で使用した装置の全体構成を示している。
図19】実施例1において、流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間を変化(0分、5分、10分)させたときの、検出器の出力変化を示している。
図20】実施例1において、ループ(62b)の容量を変化(97.1μL、145.7μL、194.3μL、238.4μL)させたときの、検出器の出力変化を示した図である。
図21】実施例1において、ループ(62c)の容量を変化(97.1μL、145.7μL、194.3μL、238.4μL)させたときの、検出器の出力変化を示した図である。
図22】実施例2および3で使用した液体クロマトグラフ装置の全体構成を示している。
図23】実施例4で使用した液体クロマトグラフ装置の全体構成を示している。
図24】実施例2で検証したグラジエントプロファイル(ステップグラジエント条件)を示している。
図25図24に示す各グラジエントプロファイルを用いて試料分析した結果(クロマトグラム)を示している。下段がプロファイル1、中段がプロファイル2、上段がプロファイル3で試料分析したときのクロマトグラムを示し、矢印は流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるタイミングを示している。
図26】実施例3で実施した試料分析のクロマトグラム(上段)および圧力変動(下段)の一例を示している。
図27】実施例3で実施した試料分析(10回)のクロマトグラム(a)および圧力変動(b)を示している。
図28】実施例4で実施した試料分析のクロマトグラム(上段)および圧力変動(下段)の一例を示している。
図29】実施例4で実施した試料分析(10回)のクロマトグラム(a)および圧力変動(b)を示している。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
図8aに示す本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置のうち、分析カラム(70)の代わりに抵抗管(100)を備えた装置を用いて、本発明の流路系の効果を検証した。
【0045】
本実施例で用いた装置の全体構成を図18に示す。送液ポンプ(31)はUNIFLOWS社製のポンプを、流路切り替えバルブ(52b、52c)はレオダイン製7010を、検出器(90)は東ソー製UV−8020(マイクロセル、波長254nm)を、それぞれ使用した。溶離液A(バッファA)(10a)として純水を、溶離液B(バッファB)(10b)として0.1%アセトン水溶液を、溶離液C(バッファC)(10c)として0.2%アセトン水溶液を、それぞれ使用した。アセトンは紫外吸収を有するため、アセトンの組成変化を紫外検出器でモニターして検証した。
【0046】
まず、2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)をともにOFF状態にし、送液ポンプ(31)により送液されるバッファAを検出器(90)に直接導入し、バッファBをループ(62b)に、バッファCをループ(62c)に充填手段(不図示)を用いてそれぞれ充填する。各ループにバッファを充填した後、第2の流路切り替えバルブ(52c)をOFF状態からON状態にして、バッファBとバッファCとを大気圧下で連結する。一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にすることで、まずバッファA、その後バッファAで押し出す形でバッファB、バッファCの順に検出器(90)に導入する。
【0047】
図19は、図18においてループ(62b、62c)の容量は固定し、流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間を変化させたときの、検出器の出力変化を示した図である。なお、ループ(62b)のうち実際に検出器へ導入される部分(第2の流路切り替えバルブ(52c)出口側)は内径0.75mm×330mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)チューブからなり容量は145.7μL、ループ(62c)は内径0.75mm×540mmのPEEKチューブからなり容量は238.4μL、各バッファの流速は毎分13μL、である。図19より、第1の流路切り替えバルブ(52b)を切り替えるタイミング(すなわち検出器へのバッファAの導入時間)を変化させても、検出器へのバッファBおよびバッファCの導入時間は変化しないことから、ステップグラジエントが適正に行なわれていることがわかる。
【0048】
図20は、図18においてループ(62c)の容量および第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間を固定し、ループ(62b)の容量(ループ(62b)のうち第2の流路切り替えバルブ(52c)出口側の容量)を変化させたときの、検出器の出力変化を示した図である。なお、ループ(62c)は内径0.75mm×540mmのPEEKチューブからなり容量は238.4μL、各溶離液(バッファ)の流速は毎分13μL、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間は0分、である。図20より、ループ(62b)の容量を変化させても、バッファAからバッファBに切り替わるタイミングおよびバッファCの検出器への導入時間は変化しないことから、ステップグラジエントが適正に行なわれていることが分かる。
【0049】
図21は、図18においてループ(62b)の容量および第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間を固定し、ループ(62c)の容量を変化させたときの、検出器の出力変化を示した図である。なお、ループ(62b)のうち実際に検出器へ導入される部分(第2の流路切り替えバルブ(52c)出口側)は内径0.75mm×540mmのPEEKチューブからなり容量は238.4μL、各溶離液(バッファ)の流速は毎分13μL、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間は0分、である。図21より、ループ(62c)の容量を変化させても、バッファBからバッファCに切り替わるタイミングおよびバッファBの検出器への導入時間は変化しないことから、ステップグラジエントが適正に行なわれていることがわかる。
【0050】
実施例2
図8aに示す本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置を用いて、本発明の流路系の効果を検証した。
【0051】
本実施例で用いた液体クロマトグラフ装置の全体構成を図22に示す。送液ポンプ(31)はUNIFLOWS製ポンプを、流路切り替えバルブ(52b、52c)はレオダイン社製7010を、試料導入バルブ(51)はレオダイン社製7410を、分析カラム(70)は逆相クロマトグラフィ用カラム(東ソー製TSK−GEL ODS−100V:粒径3μm、内径1mm、長さ35mm)を、カラム恒温槽(80)は東ソー製CO−8020を、検出器(90)は東ソー製UV−8020(マイクロセル、波長254nm)を、それぞれ使用した。溶離液A(バッファA)(10a)としてアセトニトリル/水(35/65)を、溶離液B(バッファB)(10b)としてアセトニトリル/水(45/55)を、溶離液C(バッファC)(10c)としてアセトニトリル/水(60/40)を、それぞれ使用した。試料(20)は、p−ヒドロキシ安息香酸メチル(C1)、p−ヒドロキシ安息香酸エチル(C2)、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル(C3)、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル(C4)、p−ヒドロキシ安息香酸n−ヘキシル(C6)、p−ヒドロ安息香酸n−ヘプチル(C7)の混合物を使用し、1分析あたり0.5μLを分析カラムに導入した。
【0052】
ループ(62b)のうち実際に検出器へ導入される部分(第2の流路切り替えバルブ(52c)出口側)は内径0.75mm×330mmのPEEKチューブからなり容量は145.7μL、ループ(62c)は内径0.75mm×540mmのPEEKチューブからなり容量は238.4μL、各溶離液(バッファ)の流速は毎分15μL、にそれぞれ固定し、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えるまでの時間を変化させて、試料の分析を行なった。
【0053】
2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)がOFF状態では、送液ポンプ(31)により送液されるバッファAを直接分析カラム(70)に導入することで初期化および平衡化が行なわれ、バッファBは充填ポンプ(32b)によりループ(62b)に、バッファCは充填ポンプ(32c)によりループ(62c)にそれぞれ充填される。初期化(平衡化)の終了および各ループへの溶離液(バッファ)充填後、試料導入バルブ(51)を用いて試料充填ポンプ(不図示)によりループ(61)に充填された試料を導入することで分析カラム(70)に試料を導入し、第2の流路切り替えバルブ(52c)をOFF状態からON状態にして、バッファBとバッファCとを大気圧下で連結する。一定時間経過後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態にすることで、まずバッファA、その後バッファAで押し出す形でバッファB、バッファCの順に分析カラム(70)へ導入し試料中の目的成分の溶出を行なう。
【0054】
検証は表2および図24に示す3種類のグラジエントプロファイル(ステップグラジエント条件)を用いて行なった。
【0055】
【表2】
プロファイル1では、試料注入後11分で第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えることで、まずバッファAを11分間、次にバッファBを約9.7分間、その次にバッファCを約15.9分間、分析カラムに導入して試料を分析する。プロファイル2では、試料注入後18分で第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えることで、まずバッファAを18分間、次にバッファBを約9.7分間、その次にバッファCを約15.9分間、分析カラムに導入して試料を分析する。プロファイル3では、試料注入後33分で第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態に切り替えることで、まずバッファAを33分間、次にバッファBを約9.7分間、その次にバッファCを約15.9分間、分析カラムに導入して試料を分析する。
【0056】
前記3つのプロファイルで試料を分析した結果のクロマトグラムを図25に示す。プロファイル1(図25の下段)では、C1およびC2がバッファAにより、C3およびC4がバッファBにより、C6およびC7がバッファCによりそれぞれ溶出されていることがわかる。プロファイル2(図25の中段)では、C1、C2およびC3がバッファAにより、C4がバッファBにより、C6およびC7がバッファCによりそれぞれ溶出されていることがわかる。プロファイル3(図25の上段)では、C1、C2、C3およびC4がバッファAにより、C6およびC7がバッファCによりそれぞれ溶出されていることがわかる。
【0057】
実施例3
図8aに示す本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置の分析精度を確認するために、再現性を検証した。
【0058】
本実施例で用いた液体クロマトグラフ装置は、ループ(62c)を内径0.75mm×620mmのPEEKチューブからなる容量287.0μLのループに、各溶離液(バッファ)の流速を毎分13μLに、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態にする時間を11分固定に、それぞれした他は、実施例2と同じである。なお、2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)は実施例2のバルブに自動化機構を付加したものを使用している。
【0059】
実施例2で使用した試料を用いて10回分析を行なった。そのうちの1回の分析におけるクロマトグラム(上段)および圧力変動(下段)を図26に、10回全ての分析におけるクロマトグラム(a)および圧力変動(b)を図27に、10回分析を行なったときの再現性結果を表3および表4にそれぞれ示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
圧力変動(図26の下段)を確認すると、試料注入時(0分)、および流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態にする時点(試料注入後11分)で、スパイク状の圧力変動が生じているものの、バッファBからバッファCへの切り替え時には前記圧力変動が生じていないことが分かる。なお、試料注入後20分から圧力が徐々に低下しているが、これはバッファBからバッファCに切り替わったことによる粘度の低下が原因であり、流路切り替えバルブの1回の切り替えによりバッファ切り替えが正常に行なわれていることの証でもある。クロマトグラム(図26の上段)より、C1およびC2がバッファAにより、C3およびC4がバッファBにより、C6およびC7がバッファCによりそれぞれ溶出されていることがわかる。溶出時間のCV(変動係数)は0.117%から0.318%(表3a)、ピーク高さのCVは0.246%から1.052%(表3b)、ピーク面積のCVは0.170%から1.338%(表4c)であり、良好な再現性が得られていることがわかる。
【0062】
実施例4
図13aに示す本発明の流路系を備えた液体クロマトグラフ装置の分析精度を確認するために、再現性を検証した。
【0063】
本実施例で用いた液体クロマトグラフ装置の全体構成を図23に示す。送液ポンプ(31)はUNIFLOWS製ポンプを、流路切り替えバルブ(52b、52c)はレオダイン社製7010を、試料導入バルブ(51)はレオダイン社製7410を、分析カラム(70)は逆相クロマトグラフィ用カラム(東ソー製TSK−GEL ODS−100V:粒径3μm、内径1mm、長さ35mm)を、カラム恒温槽(80)は東ソー製CO−8020を、検出器(90)は東ソー製UV−8020(マイクロセル、波長254nm)を、それぞれ使用した。溶離液A(バッファA)(10a)としてアセトニトリル/水(70/30)を、溶離液B(バッファB)(10b)としてアセトニトリル/水(5/95)を、溶離液C(バッファC)(10c)としてアセトニトリル/水(45/50)を、それぞれ使用した。試料(20)は、p−ヒドロキシ安息香酸メチル(C1)、p−ヒドロキシ安息香酸エチル(C2)、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル(C3)、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル(C4)、p−ヒドロキシ安息香酸n−ヘキシル(C6)、p−ヒドロ安息香酸n−ヘプチル(C7)の混合物を使用し、1分析あたり0.5μLを分析カラムに導入した。
【0064】
ループ(62ba)は内径0.75mm×330mmのPEEKチューブからなり容量は145.7μL、ループ(62bb)は内径0.75mm×220mmのPEEKチューブからなり容量は97.1μL、ループ(62c)は内径0.75mm×680mmのPEEKチューブからなり容量は300.3μL、各溶離液(バッファ)の流速は毎分15μL、にそれぞれ固定し、2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)の切り替えにより、ステップグラジエントによる試料の分析を行なった。
【0065】
最初は、2つの流路切り替えバルブ(52b、52c)および試料導入バルブ(51)を全てOFF状態とし、送液ポンプ(31)により送液されるバッファAを直接分析カラム(70)に導入することで、分析カラムの洗浄が行なわれ、バッファBは第1の充填ポンプ(32b)によりループ(62ba、62bb、62bc)に、バッファCは第2の充填ポンプ(32c)によりループ(62c)に、試料(20)は試料充填ポンプ(不図示)によりループ(61)にそれぞれ充填する。各ループへの溶離液(バッファ)または試料充填後、第2の流路切り替えバルブ(52c)および試料導入バルブ(51)をOFF状態からON状態にし、試料、バッファB、バッファCを大気圧下で連結する。前記連結および分析カラムの洗浄後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をOFF状態からON状態にすることで、ステップグラジエントによる試料の分析を開始する。まず、バッファAで押し出す形でループ(62ba)に充填したバッファBを分析カラム(70)へ導入し、分析カラム(70)の初期化(平衡化)を行なう。次に、ループ(61)に充填した試料を分析カラム(70)へ導入する。その後、ループ(62bb)に充填したバッファBを分析カラム(70)へ導入し、分析カラム(70)導入口側に試料が濃縮される。そして、ループ(62c)に充填したバッファCを分析カラム(70)へ導入し、実際の試料分析を行なう。第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態にしてから19分後、第1の流路切り替えバルブ(52b)をON状態からOFF状態にすることで、再びバッファAが分析カラム(70)へ導入される。
【0066】
10回分析を行なったうちの1回の分析におけるクロマトグラム(上段)および圧力変動(下段)を図28に、10回全ての分析におけるクロマトグラム(a)および圧力変動(b)を図29に、10回分析を行なったときの再現性結果を表5および表6にそれぞれ示す。C1、C2、C3およびC4がバッファCにより、C6およびC7がバッファAによりそれぞれ溶出されていることがわかる。溶出時間のCV(変動係数)は0.086%から0.190%(表5a)、ピーク高さのCVは0.256%から1.599%(表5b)、ピーク面積のCVは0.349%から5.434%(表6c)であり、良好な再現性が得られていることがわかる。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【符号の説明】
【0069】
10:溶離液(バッファ)
20:試料
31:送液ポンプ
32:溶離液(バッファ)充填ポンプ
40:合流ブロック
51:試料導入バルブ
52:流路切り替えバルブ
53:電磁弁
61:試料(サンプル)ループ
62:溶離液(バッファ)ループ
70:分析カラム
80:カラム恒温槽
90:検出器
100:抵抗管
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