【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等はこれらの課題に鑑み鋭意検討した。その結果、酸化鉄、及びアルミナを特定量含有したジルコニア混合粉末を焼結することで、重厚感のある茶色を呈する茶色ジルコニア焼結体が得られるだけではなく、焼結温度の違いによる呈色の変化が少ない茶色ジルコニア焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は部分安定化ジルコニア及び、該部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2重量%の酸化鉄及び少なくとも1重量%のアルミナを含むジルコニア混合粉末である。
【0013】
以下、本発明のジルコニア混合粉末について説明する。
【0014】
本発明のジルコニア混合粉末は、部分安定化ジルコニアを含む。ジルコニアが部分安定化ジルコニアであることで、これを焼結して得られる茶色ジルコニア焼結体の機械的特性、特に靱性と強度が高くなる。
【0015】
部分安定化ジルコニアとは安定化剤を含むジルコニアである。安定化剤としてイットリア(Y
2O
3)、セリア(CeO
2)などを挙げることができ、イットリアを含有したジルコニアであることが好ましい。安定化剤の含有量は、部分安定化ジルコニアに対して2〜4mol%であることがより好ましい。なお、部分安定化ジルコニアに対するイットリアの含有量は、Y
2O
3/(ZrO
2+Y
2O
3)により求めることができる。
【0016】
本発明のジルコニア混合粉末は、酸化鉄(Fe
2O
3)及びアルミナ(Al
2O
3)を含有する。酸化鉄は茶色を呈色する着色剤として機能し、アルミナは焼結温度の違いによる呈色の変化を抑制する。これにより、本発明のジルコニア混合粉末から得られる焼結体は、焼結温度による呈色の変化が少ない、茶色ジルコニア焼結体となる。
【0017】
本発明のジルコニア混合粉末が含有する酸化鉄の量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2重量%である。酸化鉄の量が2重量%未満の場合、得られるジルコニア焼結体は呈色が薄くなり、重厚感に劣ったものになる。酸化鉄の含有量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2.5重量%であることが好ましく、少なくとも3重量%であることがより好ましい。
【0018】
一方、酸化鉄の含有量が多くなりすぎると、焼結時にジルコニア焼結体に亀裂が入りやすくなる。そのため、本発明のジルコニア混合粉末が含有する酸化鉄の量は、6重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0019】
本発明のジルコニア混合粉末が含有するアルミナの量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも1重量%である。アルミナを少なくとも1重量%含有することで、焼結した際に焼結炉の部材との焼き付きが生じにくくなる。
【0020】
一方、アルミナ含有量が1重量%未満の場合、焼結温度の違いによる色調変化が大きくなり、安定した呈色の茶色ジルコニア焼結体が得られなくなる。
【0021】
アルミナ含有量が多くなると、より呈色の変化が小さくなりやすく、なおかつ、焼結の際の焼き付きが抑制される。そのため、本発明のジルコニア混合粉末が含有するアルミナは、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2重量%であることが好ましく、少なくとも3重量%であることがより好ましい。
【0022】
また、アルミナの含有量が多くなりすぎると、焼結体の色調が明るくなりやすい。そのため、本発明のジルコニア混合粉末のアルミナ含有量は、部分安定化ジルコニアに対して5重量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のジルコニア混合粉末は、マンガン酸化物を含むことが好ましい。マンガン酸化物は着色剤として機能する。そのため、ジルコニア混合粉末が酸化鉄及びアルミナに加えてマンガン酸化物を含有することで、より重厚感のある茶色ジルコニア焼結体が得られる。
【0024】
マンガン酸化物の量は少なくとも0.01重量%であることが好ましい。マンガン酸化物の含有量が0.01重量%以上であると、得られる茶色ジルコニア焼結体の呈色がより濃く、重厚感のあるものとなる。マンガン酸化物の含有量が多いほど、得られる茶色ジルコニア焼結体は、L値、a値及びb値が低下し、より重厚感のある呈色となる。そのため、マンガン酸化物の含有量は少なくとも0.05重量%であることがより好ましく、少なくとも0.1重量%であることが更に好ましく、0.3重量%であることが更により好ましい。
【0025】
マンガン酸化物の含有量が多くなると、得られる茶色ジルコニア焼結体の重厚感がより高くなる。しかしながら、マンガン酸化物の含有量は、部分安定化ジルコニアに対して0.5重量%以下であれば十分に重厚感の高い茶色ジルコニア焼結体が得られる。
【0026】
マンガン酸化物の種類としては、二酸化マンガン、三酸化二マンガン又は四酸化三マンガンの少なくとも1種類以上を例示することができ、二酸化マンガンであることが好ましい。
【0027】
本発明のジルコニア混合粉末では、酸化鉄、アルミナ及びマンガン酸化物の合計含有量が、部分安定化ジルコニアに対して8重量%未満であることが好ましい。これら着色剤の合計含有量が8重量%未満であることで、高温で焼結しても、得られる茶色ジルコニア焼結体に亀裂が入りにくく、安定して茶色ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0028】
本発明のジルコニア混合粉末は酸化鉄、アルミナ及びマンガン酸化物を含むが、これ以外に原料由来の不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0029】
本発明のジルコニア混合粉末は、これを焼結して得られる茶色ジルコニア焼結体の焼結温度の違いによる色調変化、すなわち色調の差(色差)が少ない。そのため、いずれの焼結温度で焼結した茶色ジルコニア焼結体も同様な色調を呈する。
【0030】
ここで、本発明のジルコニア混合粉末を焼結して得られる茶色ジルコニア焼結体の色調の差は、以下の式(1)により求めることができる。
【0031】
ΔE
T1−T2={(L
T1−L
T2)
2+(a
T1−a
T2)
2+(b
T1−b
T2)
2}
1/2
・・・(1)
【0032】
なお、
ΔE
T1−T2は、焼結温度T1で得られた茶色ジルコニア焼結体と焼結温度T2で得られた茶色ジルコニア焼結体との色差、
L
T1は、焼結温度T1で得られた茶色ジルコニア焼結体の明度L、
L
T2は、焼結温度T2で得られた茶色ジルコニア焼結体の明度L、
a
T1は、焼結温度T1で得られた茶色ジルコニア焼結体の色相a、
a
T2は、焼結温度T2で得られた茶色ジルコニア焼結体の色相a、
b
T1は、焼結温度T1で得られた茶色ジルコニア焼結体の色相b、及び
b
T2は、焼結温度T2で得られた茶色ジルコニア焼結体の色相b
である。
【0033】
また、明度L、色相a及びbはハンターLab表色系における値である。
【0034】
ΔE
T1−T2が小さいほど、焼結温度の違いによる色調の差は小さくなる。本発明のジルコニア混合粉末において、T1が1450℃、T2が1350℃である場合、ΔE
T1−T2は2以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましく、0.55以下であることが更により好ましい。これにより、適用できる焼結温度の範囲が広くなるだけでなく、焼結温度を微細に制御する必要がなくなる。
【0035】
また、T1が1450℃、T2が1400℃である場合、ΔE
T1−T2は1.7以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが更により好ましい。これにより、特に高温で焼結する際の色調の変化が少なくなる。
【0036】
また、T1が1400℃、T2が1350℃である場合、ΔE
T1−T2は1以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.55以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが更により好ましい。これにより、特に低温で焼結する際の色調の変化が少なくなる。
【0037】
本発明のジルコニア混合粉末は、得られるジルコニア混合粉末の組成が上記の組成となるように、部分安定化ジルコニア、酸化鉄、アルミナ及び必要に応じてマンガン酸化物が所定量、均一に混合されれば、その製造方法は特に限定されない。
【0038】
以下、本発明のジルコニア混合粉末の好ましい製造方法について説明する。
【0039】
本発明のジルコニア混合粉末が含有する好ましい部分安定化ジルコニアは、2〜4mol%のイットリアを含む部分安定化ジルコニア粉末であることが好ましい。
【0040】
このような部分安定化ジルコニア粉末は、その結晶構造が正方晶と立方晶とを含む混相であることが好ましい。さらに、部分安定化ジルコニア粉末は、結晶子径が200〜550Åであり、BET比表面積が5〜20m
2/gであり、平均粒子径が0.4〜1.2μmであることが好ましい。
【0041】
このような部分安定化ジルコニア粉末は、例えば、オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解して得られる水和ジルコニアゾル水溶液に、安定化剤又はその原料を添加し、乾燥、か焼、湿式粉砕、乾燥することで得ることができる。
【0042】
なお、安定化剤がイットリアである場合、安定化剤又はその原料としては、イットリア、水和イットリア、イットリアゾル、水酸化イットリウム、塩化イットリウム又は硝酸イットリウムなどのイットリア化合物を例示することができる。
【0043】
本発明のジルコニア混合粉末が含有する酸化鉄粉末及びアルミナ粉末の物性は特に限定はないが、平均粒子径が0.1〜1.0μmの粉末であることが好ましい。
【0044】
本発明のジルコニア混合粉末は、部分安定化ジルコニア粉末に酸化鉄粉末及びアルミナ粉末を混合する。
【0045】
これらの粉末が均一に混合されれば混合方法は特に限定されず、例えば、これらの粉末を湿式混合する方法を挙げることができる。また、部分安定化ジルコニア粉末の製造において湿式粉砕をすると同時に、酸化鉄粉末及びアルミナ粉末を共存させ、粉砕しながら混合させてもよい。
【0046】
得られたジルコニア混合粉末は、必要に応じて噴霧乾燥することができる。これにより、ジルコニア混合粉末の流動性が向上するため、ハンドリングが容易になりやすい。噴霧乾燥した場合のジルコニア混合粉末は、その粒子径が40〜70μm、かさ密度が1〜1.3g/cm
3であることが例示できる。噴霧乾燥の方法としては、二流体ノズルを使用した噴霧乾燥法、アトマイザーディスク方式の乾燥機を使用した噴霧乾燥法などを例示することができる。
【0047】
本発明のジルコニア混合粉末は、これを原料とし、成形し、焼結することで、ジルコニア混合粉末と同様な組成を有し、重厚感のある茶色ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0048】
本発明のジルコニア混合粉末を成形する場合、密度が2.5〜2.7g/cm
3の成形体が得られれば成形体の形状及び成形方法は特に限定されない。成形方法としては、一軸プレス、冷間静水圧プレス(CIP)などを例示することができる。
【0049】
得られた成形体を焼結することで茶色ジルコニア焼結体を得ることができる。焼結方法は簡便な常圧焼結であることが好ましい。また、焼結温度は1300℃〜1500℃を挙げることができ、1350℃〜1450℃であることが好ましい。
【0050】
次に、本発明の茶色ジルコニア焼結体について説明する。
【0051】
本発明の茶色ジルコニア焼結体は、部分安定化ジルコニア、該部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2重量%の酸化鉄、及び少なくとも1重量%のアルミナを含有する茶色ジルコニア焼結体である。これにより、審美性の高い茶色ジルコニア焼結体となる。
【0052】
部分安定化ジルコニアとは安定化剤を含むジルコニアである。安定化剤としてイットリア、セリアなどを挙げることができ、イットリアを含有したジルコニアであることが好ましい。安定化剤の含有量は、部分安定化ジルコニアに対して2〜4mol%であることがより好ましい。なお、部分安定化ジルコニアに対するイットリアの含有量は、Y
2O
3/(ZrO
2+Y
2O
3)により求めることができる。
【0053】
本発明のジルコニア混合粉末は、酸化鉄及びアルミナを含有する。酸化鉄は茶色を呈色する着色剤として機能し、アルミナは焼結温度の違いによる呈色の変化を抑制する。これにより、本発明の茶色ジルコニア焼結体は、焼結温度による呈色の変化が少ない、茶色ジルコニア焼結体となる。
【0054】
本発明の茶色ジルコニア焼結体が含有する酸化鉄の量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2重量%である。酸化鉄の量が2重量%未満の場合、ジルコニア焼結体は呈色が薄くなり、審美性に劣ったものになる。酸化鉄の含有量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも2.5重量%であることが好ましく、少なくとも3重量%であることがより好ましい。
【0055】
一方、酸化鉄の含有量が多くなりすぎると、焼結時にジルコニア焼結体に亀裂が入りやすくなる。そのため、本発明の茶色ジルコニア焼結体が含有する酸化鉄の量は6重量%以下であることが好ましく、5.5重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
本発明の茶色ジルコニア焼結体が含有するアルミナの量は、部分安定化ジルコニアに対して少なくとも1重量%であることが好ましく、少なくとも2重量%であることがより好ましく、少なくとも3重量%であることが更に好ましい。
【0057】
また、アルミナの含有量が多くなりすぎると、焼結体の色調が明るくなりやすい。そのため、本発明の茶色ジルコニア焼結体のアルミナ含有量は、部分安定化ジルコニアに対して6重量%以下であることが好ましく、5.5重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0058】
本発明の茶色ジルコニア焼結体は、マンガン酸化物を含むことが好ましい。マンガン酸化物は着色剤として機能する。そのため、酸化鉄及びアルミナに加えてマンガン酸化物を含有することで、より重厚感があり審美性の高い茶色を呈する茶色ジルコニア焼結体となる。
【0059】
マンガン酸化物の量は少なくとも0.01重量%であることが好ましい。マンガン酸化物の含有量が0.01重量%以上であると、茶色ジルコニア焼結体の呈色がより濃く、重厚感のあるものとなる。マンガン酸化物の含有量が多いほど、茶色ジルコニア焼結体は、L値、a値及びb値が低下し、より重厚感のある呈色となる。そのため、マンガン酸化物の含有量は少なくとも0.05重量%であることがより好ましく、少なくとも0.1重量%であることがさらに好ましく、少なくとも0.3重量%であることが更により好ましい。
【0060】
マンガン酸化物の種類としては、二酸化マンガン、三酸化二マンガン又は四酸化三マンガンの少なくとも1種類以上を例示することができ、二酸化マンガンであることが好ましい。
【0061】
本発明の茶色ジルコニア焼結体では、酸化鉄、アルミナ及びマンガン酸化物の合計含有量が、部分安定化ジルコニアに対して8重量%未満であることが好ましい。これら着色剤の合計含有量が8重量%未満であることで、焼結時に亀裂の入りにくい茶色ジルコニア焼結体とすることができる。
【0062】
本発明の茶色ジルコニア焼結体は酸化鉄、アルミナ及びマンガン酸化物を含むが、これ以外に原料由来の不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0063】
本発明の茶色ジルコニア焼結体の呈色は、ハンターLab表色系で測定することができる。
【0064】
明度Lが大きくなるほど茶色ジルコニア焼結体の呈色が明るくなる。本発明の茶色ジルコニア焼結体のLは15≦L≦35であることが好ましく、16≦L≦25であることがより好ましく、16≦L≦20であることが更に好ましい。
【0065】
一方、色相aが大きくなると赤味が強くなり、aが小さくなると緑色が強くなる。本発明の茶色ジルコニア焼結体のaは4≦a≦20であることが好ましく、4≦a≦15であることがより好ましく、4≦a≦10であることが更に好ましい。
【0066】
また、色相bが大きくなると黄色が強くなり、bが小さくなると青色が強くなる。本発明の茶色ジルコニア焼結体のbは5≦b≦20であることが好ましく、5≦b≦15であることがより好ましく、5≦b≦8であることが更に好ましい。
【0067】
本発明の茶色ジルコニア焼結体の色調がこの範囲となることで、審美性が高く重厚な茶色を呈する。
【0068】
本発明の茶色ジルコニア焼結体の白色度Wは、15≦W≦30であることが好ましく、15≦W≦25であることがより好ましく、15≦W≦20であることが更に好ましい。