(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761111
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】絶縁放熱シート及び窒化ホウ素の造粒方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20150723BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20150723BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20150723BHJP
H01B 3/46 20060101ALI20150723BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20150723BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C08K9/06
C08L83/04
H01B3/46 G
H01L23/36 M
H01B3/46 B
H01B3/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-93555(P2012-93555)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-220971(P2013-220971A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】塩野 嘉幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】辻 謙一
(72)【発明者】
【氏名】中野 昭生
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−059425(JP,A)
【文献】
特開平01−038451(JP,A)
【文献】
特開平06−157010(JP,A)
【文献】
特開平11−060216(JP,A)
【文献】
特開2011−142129(JP,A)
【文献】
特開平09−202663(JP,A)
【文献】
特開2003−155215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00−21/00
H01B 3/00、3/46
H01L 23/36
H05K 7/20
C08K 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層内で窒化ホウ素を流動させると共に、アミノ基を有するシランカップリング剤を水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液をスプレーしながら造粒させることを特徴とする窒化ホウ素の造粒方法。
【請求項2】
窒化ホウ素の質量に対してアミノ基を有するシランカップリング剤を5質量%より多く、30質量%以下の量でスプレーすることを特徴とする請求項1記載の窒化ホウ素の造粒方法。
【請求項3】
流動層に給気する気体の温度を50℃以上110℃未満とすることを特徴とする請求項1又は2記載の窒化ホウ素の造粒方法。
【請求項4】
流動層内で窒化ホウ素を流動させながら、アミノ基を有するシランカップリング剤を水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液を、該アミノ基を有するシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して5質量%より多く30質量%以下の量で用いて造粒することによって得られた窒化ホウ素をゴム又は樹脂に分散してなる絶縁放熱シートであって、シート厚さ方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I002と100回折線の強度I100との比であるピーク強度比I002/I100が6以上80以下であることを特徴とする絶縁放熱シート。
【請求項5】
流動層内で窒化ホウ素を流動させながら、アミノ基を有するシランカップリング剤を水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液で造粒処理を行った窒化ホウ素をシリコーンゴム組成物に分散してなる絶縁放熱シートであって、シート厚さ方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I002と100回折線の強度I100との比であるピーク強度比I002/I100が20より大きく80以下であることを特徴とする絶縁放熱シート。
【請求項6】
流動層内で窒化ホウ素を流動させると共に、アミノ基を有するシランカップリング剤を水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したアミノ基を有するシラン溶液を、該アミノ基を有するシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して5質量%より多く30質量%以下の量で用いて、スプレーしながら造粒することによって得られ、X線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I002と100回折線の強度I100との比であるピーク強度比I002/I100が3以上40以下であることを特徴とする窒化ホウ素粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気、電子機器や発光機器等の発熱部材から放熱部材へ熱を伝達させるのに用いる絶縁放熱シート及びこのシートに用いる窒化ホウ素の造粒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気、電子機器や発光機器等の発熱部材から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導層には、高い熱伝導性を有し、且つ絶縁性であることが要求されており、このような要求を満たすものとして、フィラーを樹脂あるいはゴム中に分散させた絶縁放熱シートが広く用いられている。ここで、フィラーとしては、高い熱伝導率を有し、且つ絶縁性である六方晶窒化ホウ素(h−BN)が用いられている。
【0003】
六方晶窒化ホウ素の結晶構造は、黒鉛と同様の層状構造であり、その粒子形状は鱗片状である。この鱗片状窒化ホウ素は長径方向の熱伝導率が高く、短径方向の熱伝導率が低いという、異方的な熱伝導率を有しており、かかる長径方向と短径方向との熱伝導率の差は、数倍から数十倍と言われている。よって、樹脂あるいはゴム中に分散させる鱗片状窒化ホウ素を、シート内で直立させた状態、すなわち鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚さ方向と一致するように配向させることにより、シート厚さ方向の熱伝導性を飛躍的に向上させた絶縁放熱シートの開発が期待されている。
【0004】
しかし、プレス成形法、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、ドクターブレード成形法等の公知の成形法によってシート状に成形する方法では、成形時の圧力や流動によって、樹脂あるいはゴム中の鱗片状窒化ホウ素がシート内で倒れた状態、すなわち、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と一致するように配向されやすいという傾向がある。そのため、このようにして得られる絶縁放熱シートは、シート面方向の熱伝導性に優れたものとなり、シート厚さ方向が熱伝導経路となる使用形態において、優れた熱伝導性を十分に発揮できないという問題があった。
【0005】
そこで、樹脂あるいはゴム中に分散される鱗片状窒化ホウ素の長径方向を、シート厚さ方向と一致させるような方法、すなわち、シート厚さ方向に直立状態で配向させる方法がいくつか提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1(特公平6−38460号公報)では、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と一致するように配向させたシートを厚さ方向にスライスすることにより、鱗片状窒化ホウ素の長径方向が厚さ方向に直立配向した放熱シートを得ている。
【0007】
特許文献2(特許第3568401号公報)では、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と一致するように配向させたシートを巻き取った積層物を垂直に切断することにより、鱗片状窒化ホウ素の長径方向が厚さ方向に直立配向した放熱シートを得ている。
【0008】
特許文献3(特開2002−80617号公報)では、鱗片状窒化ホウ素を含む高分子組成物を硬化させる前に、シート厚さ方向に磁場を印加することにより、鱗片状窒化ホウ素の長径方向をシート厚さ方向と平行に磁場配向させた放熱シートを得ている。
【0009】
特許文献4(特公平6−12643号公報)では、オルガノポリシロキサンと鱗片状窒化ホウ素とを含む組成物を硬化させる前に超音波振盪機で振盪することにより、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向に配向しないようにさせた放熱シートを得ている。
【0010】
特許文献5(特開2003−60134号公報)では、粒径50μm以上の窒化ホウ素二次凝集粒子を1〜20質量%含んだ放熱シートを提案している。二次凝集粒子の凝集形態は、特に限定されるものではなく、例えば、ファンデルワールス力、静電気力、吸着水分等に起因する自然凝集であっても、無機塩や高分子物質等からなる凝集剤を用いたり、混合造粒、押出造粒、噴霧乾燥などの操作により意図的に凝集されたものであっても、更には、製造工程にて生ずるB
2O
3等の不純物が粒界に固着して凝集した形態であっても構わない、と記載されている。
【0011】
特許文献6(国際公開第2009/041300号)では、粒径50μm以上の窒化ホウ素二次凝集体粒子を20体積%より多く含んだ放熱シートを提案している。また、この二次凝集体粒子は15μm以下の平均長径の鱗片状窒化ホウ素の一次粒子を等方的に凝集させ、焼成して球状に形成したものである。二次凝集体粒子は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子をスプレードライ法等の公知の方法によって凝集させた後、焼成、粒成長させることによって得ることができ、焼成温度は特に限定されることはないが、一般に約2,000℃である、と記載されている。また、シート厚さ方向にX線を照射して得られたピーク強度比I
002/I
100は6以上20以下である。
【0012】
特許文献7(特許第3461651号公報)では、窒化ホウ素とほう酸メラミンとの混合物を非酸化性ガス雰囲気下にて1,700〜2,200℃で焼成して窒化ホウ素粉末を得ている。また、シートではないが、窒化ホウ素粉末でのX線を照射して得られたピーク強度比I
002/I
100は6〜20である。
【0013】
特許文献8(特許第4070345号公報)では、窒化ホウ素をアミノ基及びメルカプト基を含有するシランカップリング剤で表面改質を行い、放熱シートを得ている。これは湿度の高い場合の吸湿導電を防止することを目的としており、シラン溶液と窒化ホウ素とをプラネタリーミキサー、ゲートミキサー、品川ミキサー等の汎用的な設備を使用して均一混合した後に乾燥させる、と記載されている。また、処理量は窒化ホウ素100質量部に対して0.1〜5質量部と記載されている。
【0014】
しかし、特許文献1〜4の方法はいずれも、特殊な設備や複雑な製造工程を必要とするため、生産性やコスト面において不利である。
【0015】
一方、特許文献5の方法において、二次凝集粒子を構成する鱗片状窒化ホウ素の一次粒子の平均長径が大きい場合には、一次粒子が同じ方向を向いて凝集してしまうと共に、放熱シートの製造工程において混合撹拌やプレス等を行う際に二次凝集粒子が崩れ易くなる。そのため、このような二次凝集粒子を配向しても、シート厚さ方向の熱伝導性は十分に向上しない。また、特許文献5の放熱シートでは、50μm以上の粒径を持つ二次凝集粒子を1〜20質量%しか含んでいないため、熱伝導性が十分でない。
【0016】
また、特許文献6〜7の方法において、約2,000℃での焼成によりI
002/I
100は6以上20以下とするものであるが、特許文献6の方法は鱗片状窒化ホウ素の一次粒子を作製するときだけでなく、二次凝集粒子を作製するときにも約2,000℃の高温が必要となるため、コスト面において不利である。特許文献7では鱗片状窒化ホウ素の一次粒子を汎用的に作製する方法よりも窒化ホウ素作製時の時間を要し、コスト面において不利である。
【0017】
特許文献8の方法において、窒化ホウ素をアミノ基及びメルカプト基を含有するシランカップリング剤を用いて表面改質を行っているが、この方法では鱗片状窒化ホウ素の一次粒子表面を改質するのみで、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と一致するように配向してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平6−38460号公報
【特許文献2】特許第3568401号公報
【特許文献3】特開2002−80617号公報
【特許文献4】特公平6−12643号公報
【特許文献5】特開2003−60134号公報
【特許文献6】国際公開第2009/041300号
【特許文献7】特許第3461651号公報
【特許文献8】特許第4070345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、生産性やコスト面において有利であり、且つ熱伝導性及び電気絶縁性に優れた絶縁放熱シート及びこれに用いる窒化ホウ素の造粒方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明をなすに至ったもので、下記絶縁放熱シート、窒化ホウ素の造粒方法及び窒化ホウ素を提供する。
〔1〕 流動層内で窒化ホウ素を流動させると共に、アミノ基を有するシランカップリング剤を
水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液をスプレーしながら造粒させることを特徴とする窒化ホウ素の造粒方法。
〔2〕 窒化ホウ素の質量に対してアミノ基を有するシランカップリング剤を5質量%より多く、30質量%以下の量でスプレーすることを特徴とする〔1〕記載の窒化ホウ素の造粒方法。
〔3〕 流動層に給気する気体の温度を50℃以上110℃未満とすることを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の窒化ホウ素の造粒方法。
〔4〕 流動層内で窒化ホウ素を流動させながら
、アミノ基を有するシランカップリング剤を
水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液を、該アミノ基を有するシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して5質量%より多く30質量%以下の量で用いて造粒することによって得られた窒化ホウ素をゴム又は樹脂に分散してなる絶縁放熱シートであって、シート厚さ方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100が6以上80以下であることを特徴とする絶縁放熱シート。
〔5〕
流動層内で窒化ホウ素を流動させながら、アミノ基を有するシランカップリング剤を水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したシラン溶液で造粒処理を行った窒化ホウ素をシリコーンゴム組成物に分散してなる絶縁放熱シートであって、シート厚さ方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100が20より大きく80以下であることを特徴とする絶縁放熱シート。
〔6〕 流動層内で窒化ホウ素を流動させると共に、アミノ基を有するシランカップリング剤を
水に溶解させた又は低級アルコールに溶解させ水を添加したアミノ基を有するシラン溶液を、該アミノ基を有するシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して5質量%より多く30質量%以下の量で
用いて、スプレーしながら造粒することによって得られ、X線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100が3以上40以下であることを特徴とする窒化ホウ素粉。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生産性やコスト面において有利であり、且つ熱伝導性及び電気絶縁性に優れた放熱シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の絶縁放熱シート及び窒化ホウ素とその造粒方法について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アミノ基を有するシランカップリング剤で造粒処理を行った窒化ホウ素をシリコーンゴム組成物に分散してなる絶縁放熱シートであれば、ゴム中に分散させる鱗片状窒化ホウ素をシート内で直立させた状態、すなわち鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚さ方向と一致するように配向させる窒化ホウ素が増加することにより、シート厚さ方向の熱伝導性を飛躍的に向上させた絶縁放熱シートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
この場合、上記造粒処理として、流動層内で窒化ホウ素を流動させながらアミノ基を有するシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して5質量%を超え30質量%以下の量でスプレーしながら造粒させることによって得られた窒化ホウ素を用いることで、これを各種ゴムや樹脂、例えばシリコーンゴムや樹脂、アクリル樹脂等に分散させた場合、シートの厚さ方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100が6〜80、好ましくは10〜80、更に好ましくは20を超え80以下である絶縁放熱シートも良好な熱伝導性が得られるが、特にシリコーンゴムに分散させる場合は、熱伝導性を飛躍的に向上させる点から、I
002/I
100が20を超え80以下であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明で用いる窒化ホウ素は、鱗片状のものが好ましく、その大きさは長径が1〜100μm、短径が0.05〜50μmであることが好ましい。これを後述するように、造粒処理することが好適である。
【0026】
かかる放熱シートにおける鱗片状窒化ホウ素の配向度は、X線回折装置を用いて評価することができる。具体的には、配向度は、放熱シートのシート厚み方向にX線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100により評価することができる。強度比I
002/I
100は、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と平行に配向している割合が多い場合に大きくなり、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚さ方向と平行に配向している割合が多い場合に小さくなる。
【0027】
本発明におけるシリコーンゴムの放熱シートは、強度比I
002/I
100が、上述したように、6〜80、特に20より大きく80以下、より好ましくは20より大きく60以下の範囲にあることが好ましい。かかる強度比が小さすぎると、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート厚さ方向と平行に配向している割合が多く、絶縁破壊特性が低下してしまうことがある。一方、かかる強度比が80を超えると、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と平行に配向している割合が多く、シート厚さ方向の所望の熱伝導性向上効果が得られないことがある。
【0028】
造粒処理に使用するスプレー液はシランカップリング剤が好ましく、シリコーンゴム組成物への分散性を阻害しない。また、アミノ基を有するシランカップリング剤が好ましく、造粒した窒化ホウ素が放熱シートの製造工程中において、混合撹拌やプレス等を行う際に崩れ難い。その結果、かかる造粒した窒化ホウ素を配合して得られる放熱シートでは、等方的な熱伝導性を有する造粒した窒化ホウ素が放熱シート製造工程中に崩れることなく均一に分散しているので、シート厚さ方向の熱伝導率が向上する。
【0029】
かかるアミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明のシリコーンゴム製放熱シートのマトリックスとなるシリコーンゴム組成物を構成するオルガノポリシロキサンは下記式(1)で示される平均組成式を有するものである。
R
aSiO
(4-a)/2 (1)
【0031】
上記式(1)において、Rは同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基、好ましくは炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、又はこれらの基の炭素原子に直結した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、クロロエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基、シアノプロピル基等であり、好ましくはメチル基、フェニル基、トリフロロプロピル基、ビニル基であり、aは1.85〜2.10の正数である。
【0032】
オルガノポリシロキサンは直鎖状の分子構造を有することが好ましいが、分子中に一部分子鎖状構造を有していてもよい。更にオルガノポリシロキサンは分子鎖末端をトリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されていることが好ましい。トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチルヒドロキシシリル基等が例示される。
【0033】
架橋剤はオルガノポリシロキサンの架橋反応の機構により適宜選択される。
架橋がラジカル反応の場合は有機過酸化物が使用され、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、モノクロルベンゾイルパーオキサイド、ビス2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、ジ(t−ブチル)パーベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(t−ブチル)パーオキサイド等が例示される。有機過酸化物はオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.2〜5質量部添加することが好ましい。
【0034】
また、架橋が付加反応の場合はケイ素原子に直結した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンシロキサンと触媒として有効量(触媒量)の白金族元素(好ましくは白金)又はその化合物が使用される。この場合はオルガノポリシロキサンが1分子中に2個以上のアルケニル基を含有することが必要である。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に直結した水素原子がアルケニル基に対して0.5〜5倍、特に0.6〜3倍となる量を配合することが好ましい。
【0035】
更に、架橋が縮合反応の場合は、アルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基等の加水分解性基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上含有する加水分解性シラン又はシロキサンが架橋剤として使用される。この配合量はオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜20質量部、特に2〜10質量部である。また、触媒としてSn、Ti、Fe、Co等の有機金属化合物を使用することが好ましい。この場合はオルガノポリシロキサンの分子鎖両末端が水酸基又はアルコキシ基で封鎖されていることが必要である。架橋剤の配合量はその他の成分の種類や配合比に合わせて適宜調整し得る。
【0036】
本発明のシリコーンゴム製の絶縁放熱シートは、上述の窒化ホウ素、シリコーンゴム組成物の成分の他に、必要に応じて、例えば充填補強剤、分散剤、難燃助剤、耐熱助剤、希釈用有機溶剤、着色のための顔料、硬化抑制剤等を配合することができる。また、成形時に骨格となるガラス繊維クロスを含有させることもできる。
【0037】
本発明の絶縁放熱シートは、プラネタリーミキサー、ゲートミキサー、品川ミキサー、バンバリーミキサー、3本ロール、ニーダー等の汎用的な設備を使用して均一混合し、プレス成形法、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ロール成形法、ドクターブレード成形法等の公知の成形法によってシート状に成形後加硫することにより得られる。こうして得られた絶縁放熱シートに粘着剤及び保護用の紙やフィルムを設けることは任意である。
【0038】
本発明の絶縁放熱シートに用いるアミノ基含有シランカップリング剤で処理された窒化ホウ素としては、流動層内で窒化ホウ素を流動させ、シランカップリング剤をスプレーしながら造粒させる窒化ホウ素の造粒方法であれば、生産性やコスト面において有利である。
【0039】
かかるシランカップリング剤は窒化ホウ素の質量に対して5質量%より大きく30質量%以下、より好ましくは8〜25質量%が好ましい。かかる質量比が5質量%以下であると、鱗片状窒化ホウ素の長径方向がシート面方向と平行に配向している割合が多く、シート厚さ方向の所望の熱伝導性向上効果が得られないことがある。一方、かかる質量比が30質量%より大きい場合であると、窒化ホウ素の周囲に低熱伝導層が厚く形成されるために熱伝導性向上効果が得られないことがある。
【0040】
シラン溶液の調製には水にシランカップリング剤を溶解後、又はメタノール、エタノール等の低級アルコールにシランカップリング剤を溶解後に水を添加した後、必要に応じて酢酸、塩酸、Sn等の有機金属化合物などの加水分解触媒を添加して、撹拌、超音波振動等を加えて行う方法が一般的である。アミノ基を含有するもの(以下アミノシランと総称する)は加水分解速度が速く、触媒も不要で、水にアミノシランを溶解後、超音波振動を加えてシラン溶液を調製することができる。
【0041】
流動層に給気する気体の温度は50℃以上110℃未満が好ましい。かかる温度が50℃未満の場合であると、大きな造粒物が散見され、成形後の放熱シートの表面に凹凸が発生し、接触熱抵抗が大きくなることがある。一方、かかる温度が110℃以上の場合であると、シリコーンゴム組成物への均一分散性が悪くなることがある。
【0042】
更に、スプレー速度は、0.1〜30g/min、より好ましくは0.2〜20g/min、更に好ましくは0.3〜4g/minであることが好ましい。0.1g/minより遅いと造粒時間が長くなりコスト的に不利であり、30g/minより早いと造粒粉の粒度分布が広くなってしまう不利がある。
【0043】
なお、このようにして得られる窒化ホウ素粉は、X線を照射して得られるX線回折図における002回折線の強度I
002と100回折線の強度I
100との比であるピーク強度比I
002/I
100が3〜40、より好ましくは6〜20であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の絶縁放熱シート及び窒化ホウ素の造粒方法の実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
[シラン溶液の調製]
水200gにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−603)50gを溶解後、撹拌、超音波振動を加え、250gのシラン溶液を調製した。
【0046】
[窒化ホウ素の造粒処理]
パウレック製の流動層造粒乾燥コーティング装置(MP−01)に、鱗片状窒化ホウ素500gを配置し、スプレー液として上記シラン溶液250gを配置した。従って、シランカップリング剤は窒化ホウ素の質量に対して10質量%配置したこととなる。スプレー速度8g/min、給気温度80℃にて造粒処理を行った。
【0047】
[放熱シート組成物の調製]
ジメチルシロキサン単位99.85mol%、メチルビニルシロキサン単位0.15mol%で、平均重合度約8,000のオルガノポリシロキサン100質量部、上記造粒処理を行った窒化ホウ素400質量部、及び架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン3質量部を400質量部のトルエンに分散してプラネタリーミキサーで混合し、放熱シート組成物を調製した。
【0048】
[放熱シートの成形]
上記放熱シート組成物をPETセパレーター上にドクターブレードで厚さ0.3mmにコーティングした後、80℃で10分間乾燥させたものを2枚作製した。厚さ0.05mmのガラス繊維クロスの各々の面に接触するように上記の乾燥させた放熱シート組成物を配置して、温度170℃、圧力100kg/cm
2の条件で10分間のプレス熱加硫を行って絶縁放熱シートを得た。次いでそれを常圧200℃で4時間の2次加硫を行った。得られた放熱シートの厚さは0.3mmであった。
【0049】
[評価]
放熱シートにおける鱗片状窒化ホウ素の配向度について、X線回折装置を用い、CuKα線で30kV、30mAの条件で、2θ、20〜60°をスキャニングし、26.9°付近の002回折線のピーク強度と、41.6°付近の100回折線のピーク強度からピーク強度比I
002/I
100を求めた。
TO−3型トランジスターを使用して熱抵抗を測定した。JIS K6249の測定方法にて絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
シラン溶液の調製において、水220gにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−603)30gを溶解後、撹拌、超音波振動を加え、250gのシラン溶液を調製し、これを用いてシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して6質量%としたこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0051】
[実施例3]
シラン溶液の調製において、水100gにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−603)150gを溶解後、撹拌、超音波振動を加え、250gのシラン溶液を調製し、これを用いてシランカップリング剤を窒化ホウ素の質量に対して30質量%としたこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0052】
[実施例4]
造粒処理の給気温度を50℃にて行ったこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0053】
[実施例5]
造粒処理の給気温度を109℃にて行ったこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0054】
[実施例6]
シラン溶液の調製において、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−903)としたこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0055】
[実施例7]
シラン溶液の調製において、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE−603)としたこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0056】
[実施例8]
シラン溶液の調製において、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE−903)としたこと以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0057】
[比較例1]
シラン処理の調製、窒化ホウ素の造粒処理を行わず、それ以外は実施例1と同様にして放熱シートを成形し、評価を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
[実施例9〜13]
[シラン溶液の調製]
水200gにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−603)100gを溶解後、撹拌、超音波振動を加え、
300gのシラン溶液を調製した。
【0060】
[窒化ホウ素の造粒処理]
パウレック製の流動層造粒乾燥コーティング装置(MP−01)に、鱗片状窒化ホウ素500gを配置し、スプレー液として上記シラン溶液250gを配置した。従って、シランカップリング剤は窒化ホウ素の質量に対して20質量%配置したこととなる。スプレー速度0.3〜
40g/min、給気温度70℃にて造粒処理を行った。
【0061】
[放熱シート組成物の調製]
ジメチルシロキサン単位99.85mol%、メチルビニルシロキサン単位0.15mol%で平均重合度約8,000のオルガノポリシロキサン100質量部、上記造粒処理を行った窒化ホウ素400質量部、及び架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン3質量部を400質量部のトルエンに分散してプラネタリーミキサーで混合し、放熱シート組成物を調製した。
【0062】
[放熱シートの成形]
上記放熱シート組成物をPETセパレーター上にドクターブレードで厚さ0.3mmにコーティングした後、80℃で10分間乾燥させたものを2枚作製した。厚さ0.05mmのガラス繊維クロスの各々の面に接触するように上記の乾燥させた放熱シート組成物を配置して、温度170℃、圧力100kg/cm
2の条件で10分間のプレス熱加硫を行って絶縁放熱シートを得た。次いでそれを常圧200℃で4時間の2次加硫を行った。得られた放熱シートの厚さは0.3mmであった。
【0063】
[評価]
造粒した窒化ホウ素粉の配向度について、粉をガラスの測定セルに充填し、X線回折装置を用い、CuKα線で30kV、30mAの条件で、2θ、20〜60°をスキャニングし、26.9°付近の002回折線のピーク強度と、41.6°付近の100回折線のピーク強度からピーク強度比I
002/I
100を求めた。
成形した放熱シートを使用して熱抵抗、絶縁破壊電圧を測定した。TO−3型トランジスターを使用して熱抵抗を測定した。JIS K6249の測定方法にて絶縁破壊電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】