(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のめっき槽と、複数の給電ロールと、それぞれのめっき槽に配置される複数の反転ロールと複数のアノードとを備え、該給電ロールと該反転ロールを順次経由しながら、長尺の金属薄膜付き樹脂フィルムを単位断面積あたり4N/mm2よりも大きな搬送張力で搬送しつつ、該金属薄膜付き樹脂フィルムに電気めっきを連続的に施す電気めっき機構と、
前記電気めっき機構から搬送される処理後の前記金属薄膜付き樹脂フィルムを巻き取るための巻き取りロールと、
前記電気めっき機構と前記巻き取りロールとの間に配置され、該電気めっき機構と前記該巻き取りロールとの間において、前記金属薄膜付き樹脂フィルムを単位断面積あたり4N/mm2以下の搬送張力で搬送するための張力カットロールと、
前記張力カットロールから搬送された前記金属薄膜付き樹脂フィルムの搬送張力を調整するための駆動ロールと、
を備え、
前記張力カットロールは、前記金属薄膜付き樹脂フィルムの抱き角が90°〜270°の範囲となるように配置されており、
前記駆動ロールの周速度が、前記巻き取りロールに巻き取られる前記金属薄膜付き樹脂フィルムの最外周の周速度よりも100%を超えて101%以下の範囲に設定されている、
連続めっき装置。
前記巻き取りロールに巻き取られる前記金属化樹脂フィルムの長さが500m以上で、かつ、該巻き取りロールが、外径20cm以下の円筒状の巻き取りコアを備え、該金属化樹脂フィルムが該巻き取りコアに巻き回される、請求項4または5に記載の金属化樹脂フィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
電気めっきは、半導体の回路形成をはじめ、鋼ストリップや銅箔の表面処理、電解銅箔の製造、ポリイミドなどの樹脂フィルムの表面に銅電気めっき膜を形成した金属化樹脂フィルム(銅張積層板)の製造などにおいて、広く用いられている。
【0003】
このうち、金属化樹脂フィルムは、配線加工されて、プリント配線板(PWB)、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ自動ボンディング用テープ(TAB)、チップオンフィルム(COF)などの電子部品用の実装用基板となる。近年、電子部品の軽薄短小化に伴い、これらの実装用基板に対しては、配線を狭ピッチ化する要求が高まっている。配線ピッチの高密度化の要求に対しては、FPCやCOFの原料となる金属化樹脂フィルムにおける歪やシワをなくすことが必要とされる。
【0004】
これらの実装用基板の中で、特に、液晶画面表示用ドライバICチップを実装するための手段として、COFが注目されている。COFは従来の実装法であったTCP(Tape Carrier Package)に比べて、ファインピッチ実装が可能であり、ドライバICチップの小型化とコストダウンを図ることが容易な実装法である。このCOFの製造方法としては、高耐熱、高絶縁性樹脂であるポリイミドフィルムの表面に、接着剤を介することなく金属薄膜層や銅層などの金属膜を積層した金属化樹脂フィルムを、いわゆるサブトラクティブ法で配線加工することが広く行われている。サブトラクティブ法でFPCやCOFを得る場合には、まず金属化樹脂フィルムの金属層表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターンを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層をエッチングするためのエッチングマスクを得て、次いで露出している金属部をエッチングして除去し、さらに残存するレジスト層を除去し、水洗し、乾燥し、その後、配線のリード端子部などに所定のめっきを施すことが行われる。
【0005】
特開2002−252257号公報には、金属化樹脂フィルムの構成およびその製造方法が開示されている。この文献の技術では、まず、厚さ38〜50μm程度の樹脂フィルムの上に、スパッタリング法によりニッケル、クロム、ニッケルクロム合金などからなる厚さ7〜50nm程度の下地金属層を形成し、その上に良好な導電性を付与するために、スパッタリング法で0.5〜1.5μm程度の銅薄膜層を形成して金属層を得て、さらに、回路形成のために、電気めっき法、あるいは、電気めっきと無電解めっきを併用する方法によって、金属層を銅などによって厚膜化して、厚さが5〜15μm程度の金属導電体を形成することにより、金属化樹脂フィルムを得ている。
【0006】
なお、近年においては、前記スパッタリング法によって形成される銅薄膜層としての金属被膜の厚さは、100〜500nmが一般的となりつつある。また、金属導電体の厚さは、サブトラクティブ法によって回路を形成する場合には、5〜12μmが一般的となっている。
【0007】
ここで、電気めっき法によって樹脂フィルム上に金属導電体を形成する場合、特開平7−22473号公報や特開2009−26990号公報に開示されているような連続めっき装置が用いられる。
図2は、このような連続めっき装置を示す概念図である。連続めっき装置1は、縦型の電気めっき槽11a〜dを必要数(図示の例では4個)だけライン方向に連続して配置することにより構成される。それぞれの電気めっき槽11a〜dには、カソードの役割を担うめっき面と対向するようにアノードである陽極14a〜hが2つずつ設置される。また、それぞれのめっき槽11a〜dごとに、電力を供給する給電部と樹脂フィルムに金属層が形成された金属薄膜付きフィルム(F)を連続的に搬送させるための機構(給電ロール16a〜eと反転ロール13)が備えられる。特に、特開2009−26990号公報の装置は、金属薄膜付きフィルム(F)をこれらのめっき槽に順次連続的に供給し、めっき槽ごとに通電量を制御して、それぞれのめっき槽における通電量を、金属薄膜付きフィルム(F)が供給される順に従って、順次増加させることにより、均一に良好な電気めっき被膜を連続的に形成することを可能としている。
【0008】
このような連続めっき法によって金属導電体が形成された金属化樹脂フィルム(S)は長尺であるため、ライン方向最終の給電ロール16eから搬送された後、巻き取りロール19に巻き取られることになる。しかしながら、巻き取り方によっては、金属化樹脂フィルム(S)の表面にシワが発生するという問題がある。このようなシワの発生した金属化樹脂フィルムは製品として扱うことができないため、その歩留まりを低下させてしまう。
【0009】
巻き取りロールにロール状に巻き取ったフィルムロールのシワやタルミによる平面性悪化を抑制するための手段が、特開2003−146496号公報に開示されている。しかしながら、この文献に開示される方法は、フィルムの表面に金属膜などが成膜されていないフィルムに適用されるものであり、この方法は、金属化樹脂フィルムにおけるシワの発生という問題の解決には何ら寄与しないものである。
【0010】
また、連続めっき装置を用いて、ロールツーロールで搬送されつつ電気めっきが施される金属化樹脂フィルムの製造過程で発生する上述のような問題は、銅箔などの長尺の導電性基板に張力を与えながらロールツーロールで搬送して電気めっきを行う際にも同様に生じうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、金属薄膜付きフィルムや銅箔などの長尺の導電性基板をロールツーロールで搬送した場合でも、局所的な歪みを発生させることなく電気めっきを行うことが可能で、電気めっき後にロール状に巻き取られた製品の表面にシワなどが発生してしまうことを防止できる、連続めっき装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために、局所的な歪みの生じない金属化ポリイミドフィルムなどの長尺の導電性基板の製造方法を鋭意研究した結果、巻き取りロールにおいて巻き取られる際に、内周側の導電性基板が外周側の導電性基板により巻き締められることによりシワが発生していること、かつ、このようなシワの発生を抑制するためには、巻き取り前に駆動ロールを配置して、導電性基板の搬送張力および搬送速度を調整することが効果的であるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明の連続めっき装置は、具体的にはロールツーロール電気めっき装置の改良に関するものであり、
複数のめっき槽と、複数の給電ロールと、それぞれのめっき槽に配置される複数の反転ロールと複数のアノードとを備え、前記給電ロールと反転ロールを順次経由しながら、長尺の導電性基板を搬送しつつ、該導電性基板に電気めっきを連続的に施す電気めっき機構と、
該電気めっき機構から搬送される処理後の導電性基板を巻き取るための巻き取りロールと、
該電気めっき機構と前記巻き取りロールとの間に配置され、前記電気めっき機構において必要とされる導電性基板の最小限の搬送張力よりも、該電気めっき機構と前記巻き取りロールとの間における該導電性基板の搬送張力を小さくするための張力カットロールと、
該張力カットロールから搬送された前記導電性基板の搬送張力を調整するための駆動ロールと、
を備え、
前記張力カットロールは、前記導電性基板の抱き角が90°〜270°の範囲となるように配置されていることを特徴とする。
【0015】
前記駆動ロールの表面が硬度50°〜90°の範囲にあるゴムで形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の連続めっき方法は、本発明の連続めっき装置を用い、前記電気めっき機構と前記巻き取りロールとの間における、前記処理後の導電性基板の搬送張力を、前記電気めっき機構において必要とされる前記導電性基板の最小限の搬送張力よりも小さく設定することを特徴とする。
【0017】
この場合、前記駆動ロールの周速度を、前記巻き取りロールに巻き取られる前記導電性基板の最外周の周速度よりも100%を超えて101%以下の範囲に設定することが好ましい。
【0018】
本発明の連続めっき方法は、特に、前記導電性基板が、樹脂フィルムの上に接着剤を介することなく金属薄膜が形成された金属薄膜付き樹脂フィルムであり、該金属薄膜付き樹脂フィルムに電気めっきを施して金属化樹脂フィルムを製造する場合に好適に適用される。
【0019】
このような本発明の金属化樹脂フィルムの製造方法においては、前記電気めっき機構における、該金属薄膜付き樹脂フィルムの単位断面積あたりの搬送張力を4N/mm
2よりも大きく設定し、かつ、前記電気めっき機構と前記巻き取りロールとの間における、前記金属化樹脂フィルムの単位断面積当たりの搬送張力を4N/mm
2以下に設定することを特徴とする。
【0020】
前記金属化樹脂フィルムの単位断面積当たりの搬送張力を3.75N/mm
2以下に設定することが好ましい。
【0021】
本発明は、前記巻き取りロールに巻き取られる前記金属化樹脂フィルムの長さが500m以上で、かつ、前記巻き取りロールが、外径20cm以下の円筒状の巻き取りコアを備え、前記金属化樹脂フィルムが該巻き取りコアに巻き回される場合に、特に好適に適用される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の連続めっき装置によれば、金属薄膜付き樹脂フィルムから金属化樹脂フィルムを連続めっき法で製造し、ロール状に巻き取った場合でも、金属化樹脂フィルムにシワが発生せず、結果的に歪みのない金属化樹脂フィルムを得ることができる。
【0023】
また、本発明の効果は、金属化樹脂フィルムの製造に限られず、銅箔、その他の長尺の導電性基板に電気めっきなどの連続処理を行う際にも、広く適用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の連続めっき装置について、金属化樹脂フィルムの製造に用いられるロールツーロール電気めっき装置を例に説明する。金属化樹脂フィルムの製造では、導電性基板として、ポリイミドフィルムの表面に接着剤を介することなくスパッタリング法でニッケル合金からなる下地金属層と、この下地金属層の表面に銅薄膜層を成膜した、長尺の金属薄膜付きポリイミドフィルムが用いられる。
【0026】
図1は、本発明の連続めっき装置であるロールツーロール電気めっき装置1aを示す概念図である。本例では、縦型の電気めっき槽11a〜dを4個ライン方向に連続して配置している。電気めっき槽の必要数は、めっきする厚みに応じて設定される。本発明の電気めっき装置1aも、従来のめっき装置1(
図2参照)と同様に、巻き出しロール12から巻き出された金属薄膜付きポリイミドフィルム(F)を、給電ロール16a〜e、反転ロール13を経由させ、電気めっき液が満たされた電気めっき槽11a〜dへの浸漬を繰り返した後、最後の給電ロール16eからライン後方に搬送するように構成されている。
【0027】
本例の電気めっき装置1aでも、電気めっき槽11a〜dのそれぞれに、電気めっき液に浸漬されたアノード14a〜hが2個ずつ備えられている。アノード14a〜hと給電ロール16a〜dは整流器(図示せず)に電気的に接続して、電気めっき回路を構成している。より具体的には、給電ロール16aとアノード14aは整流器を介して電気的に接続しており、給電ロール16bとアノード14bは、アノード14aとは異なる整流器に接続している。給電ロール16bはさらに別の整流器を介してアノード14cにも接続している。アノード14d以降も、同様に電気めっき回路が構成される。
【0028】
アノード14a〜hは、巻き出しロール12側から段階的に電流密度が上昇するように、それぞれのアノード14a〜hに接続された制御用電源により電流密度の制御がなされている。このような電流密度の制御により、過剰な電流による電気めっきの焼けなどの不具合を発生することなく、金属薄膜付き樹脂フィルム(F)に施される電気めっきの膜厚を徐々に増加させていくことを可能としている。
【0029】
なお、図示はしていないが、給電ロール16a〜eに隣接して、金属薄膜付き樹脂フィルム(F)を搬送する動力と搬送張力を付与するための駆動ロール、および、張力センサを備えた張力センサロールがそれぞれ配置されている。
【0030】
電気めっきにより銅めっきを施す場合、アノードとしては、銅からなる公知の可溶性アノードや、チタンなどの金属を電気めっき液に侵食されない導電性酸化物で覆った公知の不溶性アノードを用いることができる。
【0031】
従来の電気めっき装置1のように、電気めっき槽11a〜dよりもライン後方において、電気めっき後の金属化樹脂フィルム(S)が、最後の給電ロール16eから、直接的に、あるいは、1個のガイドロールを経由して、巻き取りロール19に巻き取られるように構成されているのとは異なり、本例の電気めっき装置1aでは、電気めっき槽11a〜dよりもライン後方に、金属化樹脂フィルム(S)の搬送張力を調整するための機構が備えられている。
【0032】
すなわち、最後の給電ロール16eと巻き取りロール19との間に、張力カットロールであるガイドロール15a、b、駆動ロール17、張力センサを備えた張力センサロール18が配置され、金属化樹脂フィルム(S)は、これらの機構を経由した後、巻き取りロールに導かれるように構成されている。
【0033】
図示のような連続めっき装置を用いた連続めっき法において、長尺の導電性基板の搬送張力は、導電性基板の種類によって異なるが、樹脂フィルムにポリイミドを用いた金属薄膜付き樹脂フィルム(F)の場合、めっき槽11a〜d内において、蛇行なく搬送させるためには、金属薄膜付き樹脂フィルムの単位断面積あたりで4N/mm
2よりも大きな搬送張力が必要とされる。その理由は、次の通りである。
【0034】
金属薄膜付き樹脂フィルム(F)が、めっき槽11a〜d内で蛇行しつつ搬送されると、電気めっき後の金属化樹脂フィルム(S)において、シワの発生はもちろんであるが、幅方向での電気めっき膜厚のバラツキが拡大し、製品の品質が安定しなくなる。また、連続めっき法において、徐々に電気めっきの膜厚を大きくしていく場合に、その工程で、金属薄膜付き樹脂フィルム(F)が蛇行して搬送されると、電気めっき膜と樹脂フィルムの間に、蛇行による応力が局所的な歪みとして蓄積される。この歪みが蓄積した金属化樹脂フィルム(S)をサブトラクティブ法で配線加工した場合、電気めっき膜が除去され、ポリイミドなどの樹脂フィルムの表面が露出した箇所で、この歪みが放出され、配線間隔の寸法安定性を損なう結果となる。
【0035】
しかしながら、このようにシワの発生などの不具合を防止するために搬送張力を付与した場合でも、従来の電気めっき装置1の構成では、巻き取り後の金属化樹脂フィルム(S)にシワが発生して、金属化樹脂フィルム基板における歪みの発生を除去することが困難であった。発明者がこの点について鋭意検討した結果、電気めっきを施す工程に必要とされる搬送張力が付与された状態で、金属化樹脂フィルム(S)を巻き取りロール19に巻き取った場合に、金属化樹脂フィルム(S)が巻き締まってしまうことに起因して、金属化樹脂フィルム(S)に局所的な歪みやシワが発生するとの知見が得られたのである。
【0036】
すなわち、樹脂フィルムにポリイミドを用いた金属薄膜付き樹脂フィルム(F)に電気めっきを施して金属化樹脂フィルム(S)を得る場合、電気めっきが施された金属化ポリイミドフィルム(S)を巻き取りロール軸19にロール状に巻き取る際に、金属化樹脂フィルム(S)の単位断面積あたりの搬送張力が4N/mm
2よりも大きい場合には、ロール状に巻き取った金属化ポリイミドフィルム(S)に巻き締まりによるシワが発生して、その箇所で局所的な歪みが発生する。これを回避するためには、金属化樹脂フィルム(S)の単位断面積あたりの搬送張力を4N/mm
2以下とする必要がある。好ましくは、金属化樹脂フィルム(S)の単位断面積あたりの搬送張力を3.75N/mm
2以下となるようにする。
【0037】
なお、この搬送張力は、導電性基板の種類によって異なるが、いずれの場合でも、電気めっき処理に必要とされる単位断面積あたりの搬送張力の最小値を下回る単位断面積あたりの搬送張力、好ましくは、最小値の95%以下、さらに好ましくは、最小値の90%以下の値の単位断面積あたりの搬送張力を、電気めっき処理よりもライン後方において電気めっき後の導電性基板に付与するようにすればよい。
【0038】
このように、電気めっき処理中および巻き取りに際して、局所的な歪みのない金属化樹脂フィルムを得るためには、電気めっき槽内では高い搬送張力を与え、電気めっき後から巻き取りまでは低い搬送張力とすることが必要である。すなわち、本発明の電気めっき装置1aでは、金属薄膜付き樹脂フィルム(F)の電気めっき槽11a〜d内における搬送張力と、電気めっき後の金属化樹脂フィルム(S)の巻き取りロール19で巻き取られるまでの搬送張力では、張力差が生じることになる。
【0039】
このような張力差を生じさせるために、本例では、張力カットロールであるガイドロール15a、bを、電気めっき槽11dよりライン後方において、最後の給電ロール16eと巻き取りロール19の間に配置している。本例では、張力カットロールとして、複数のガイドロール15a、bを千鳥足状となるように配し、搬送経路を、曲がりくねったものとしている。しかしながら、張力カットロールはこの構成に限られず、その他にも、金属製のガイドロールと表面がゴムで覆われたニップロールとを組み合わせて、金属化樹脂フィルム(S)をこれらのロールに挟み込んだ状態で搬送するようにする構成も採用できる。
【0040】
ただし、いずれの場合でも、ガイドロールでの抱き角(ラップ角)は90°〜270°の範囲とする必要がある。それぞれのガイドロールでの抱き角が90°未満であると、搬送張力をカットする効果が十分にならない可能性がある。また、それぞれのガイドロールでの抱き角が270°を超えると、ガイドロールの配置が困難になる。
【0041】
また、本例では、張力カットロール(ガイドロール15a、b)と巻き取りロール19の間に、駆動ロール17を配し、金属化樹脂フィルム(S)に再度、搬送張力を与える必要がある。金属化樹脂フィルム(S)の搬送張力を、電気めっき槽11a〜d内より低く、かつ、駆動ロール17で一定の搬送張力を付与することで、巻き取り時における単位断面積あたりの搬送張力を上述の値以下とすることにより、巻き重なる金属化樹脂フィルム間に空気層が入り、微小な変形の巻き重なりによる強調がなく、シワの発生が防止されることになる。なお、駆動ロール17を配さないと、搬送張力が低い場合であっても、巻き取りロール19にロール状に巻き取られる過程で、金属化樹脂フィルム(S)は巻き締まってしまい、局所的な歪やシワが発生することになる。
【0042】
これは、巻き取りロール19の駆動モータのトルクにより生じる、張力カットロール(ガイドロール15a、b)と巻き取りロール19間の金属化樹脂フィルム(S)の搬送張力が、巻き取りロール19にロール状に巻かれる際の金属化樹脂フィルム(S)を巻き締めてしまうためである。より詳細には、巻き取りロール19には、ロール状に金属化樹脂フィルム(S)が巻かれるので、巻き取りロール19に巻かれた金属化樹脂フィルム(S)は、その外周側に巻かれる金属化樹脂フィルム(S)に巻き締められてしまい、局所的な歪みやシワを発生させることになる。よって、駆動ロール17を配することにより、駆動ロール17のサーボモータのトルクが、巻き取りロール19に巻かれた金属化樹脂フィルム(S)を巻き締めないように、その搬送張力をアシストするようにしている。
【0043】
なお、駆動ロール17の周速度は、巻き取りロール19にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルム(S)の最外周の周速度よりも100%を超えて101%以下の範囲で速くなるように設定することが望ましい。駆動ロール17の周速度を速くすることにより、駆動ロール17と、巻き取りロール19にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルム(S)との間で、金属化樹脂フィルム(S)を弛んだ状態として、すでにロール状に巻かれた金属化樹脂フィルム(S)を巻き締めてしまうことが防止される。
【0044】
駆動ロール17の表面は、金属化樹脂フィルム(S)の裏面(電気めっきが施されていない側)との摩擦(グリップ)が必要となるため、ゴムにより構成されていることが好ましい。この場合のゴムとしては、硬度が40°〜90°、好ましくは40°〜80°のゴムを使用する。ゴムの硬度が40°未満の場合には、フィルム搬送時にゴムロールが変形して磨耗による滑りが生じる可能性がある。また、ゴムの添加物が多くなり接触する金属化樹脂フィルム(S)に悪影響を及ぼすことがある。一方、硬度が90°を超える場合には、摩擦力が小さくなり、同様に滑りが発生する可能性がある。このような硬度を有するゴムとしては、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。
【0045】
張力センサロール18は、張力カットロール(ガイドロール15a、b)と巻き取りロール19間における金属化樹脂フィルム(S)の単位断面積当たりの搬送張力を測定し、駆動ロールへのフィードバック制御を可能とするものである。
【0046】
本例の電気めっき装置1aにおいて、図示していないが、電気めっき液の洗浄と乾燥を施すために必要とされる、水洗槽、乾燥機、エアーナイフなどは、最後の給電ロール16eと張力カットロール(ガイドロール15a、b)との間に配される。
【0047】
また、張力カットロール(ガイドロール15a、b)と巻き取りロール19の間には、張力カットロール(ガイドロール15a、b)よりも上流側との搬送速度の差が生じても、その差を吸収できるように、公知のアキュムレータロールを備えることもできる。
【0048】
このような構成の本例の電気めっき装置1aを用いた場合、金属薄膜付き樹脂フィルム(F)は、電気めっき槽11a〜dへの浸漬とアノード14a〜hによる電気めっきが施され、金属化樹脂フィルム(S)に加工される。その後、金属化樹脂フィルム(S)の搬送経路上で、図示しない、水洗槽、乾燥機、エアーナイフなどにより、電気めっき液の洗浄と乾燥を施された後、搬送張力を調整する機構を経由して、適切な搬送張力に調整され後、巻き取りロール19に巻き取られる。具体的には、巻き取りロール19は、その軸上に取り付け可能な円筒状の巻き取りコアを備え、この巻き取りコアに金属化樹脂フィルム(S)が巻き取られる。巻き取りコアに巻き取られた金属化樹脂フィルム(S)は、巻き取りコアごと電気めっき装置1aから取り出される。なお、巻き取りコアは、代替して、巻き取りロール19の駆動機構に脱着可能に取り付けられる円柱状のコアを用いることもできる。また、巻き取りコアの材質は、紙やプラスチックなど公知の硬質な材料を用いたものであればよい。
【0049】
本発明は、巻き取りコアの外径が20cm以下の場合に好適に適用される。すなわち、巻き取りコアの外径が20cmを超えている場合、巻き取りコアに巻き回されて層状になっている金属化樹脂フィルムの層数が相対的に減り、外周側の金属化樹脂フィルムが、内周側(巻き取りコア側)の金属化樹脂フィルムを締め付けにくくなるので、シワや歪みは発生しにくくなる。このため、巻き取りコアの外径が20cmを超える装置においては、本発明の連続めっき装置やめっき方法の構成を採ることが必須とはならない。ただし、金属化樹脂フィルムの長尺化がさらに進み、その長さなどに応じて、巻き取りコアの外径が20cmを超える装置においても、上述したような不具合が発生することがあり、その場合には、本発明が好適に適用される。
【0050】
なお、現状として、ロールツーロール方式で長尺の導電性基板を搬送し処理を行う装置では、処理後のロール状の導電性基板を巻き取るための巻き取りコアの外径は、次工程での取扱いが考慮されて、17cm以下に設定されていることが通常である。したがって、金属化樹脂フィルムを上述の不具合が発生しない外周の大きさである外径20cmを超える巻き取りコアに巻き取った場合でも、市場に流通させる際には、外径17cmの巻き取りコアに巻き直す必要がある。このような巻き直しは、工程数が増えるばかりか、巻き直しの際に異物の混入などのトラブルの懸念がある。このように、電気めっき終了後の時点で、流通する形に巻き取ることが望ましいことから、本発明がきわめて有用であることが理解される。
【0051】
また、本発明は、金属化樹脂フィルムの長さが500m以上である場合に、特にその効果が発揮される。連続めっき装置の成膜の際の応力による微小な変形が、巻きを重ねることで強調され、500m以上のロールを製造した際に、得られた基板に永久的な変形、すなわちシワが発生するためである。また、金属化樹脂フィルムの長さが500m以上となると、巻き取りコアに巻き回された金属化フィルムの層数が増え、外周側の金属化フィルムが巻き取りコア側の金属化樹脂フィルムを締め付け、しわや歪が蓄積することになるためでもある。一方、金属化樹脂フィルムの長さが500m未満の場合には、巻き取りコアに巻き回されて層状になっている金属化樹脂フィルムの層数が減り、外周側の金属化樹脂フィルムが内周側の金属化樹脂フィルムを締め付けにくくなるので、シワや歪が発生しにくくなる。
【0052】
以上、本発明について、長尺の導電性基板として、金属薄膜付き樹脂フィルム(金属薄膜付きポリイミドフィルム)を用いた金属化樹脂フィルム(金属化ポリイミドフィルム)の製造工程を中心に、説明を行った。しかしながら、本発明は、金属化樹脂フィルムを製造するための電気めっきに限定されることはなく、長尺の導電性基板である、銅箔や金属ストリップなどに電気めっきもしくは同様の装置を用いたその他の処理を行う場合にも、好適に適用されるものである。たとえば、銅箔のような金属箔の場合、電気めっき槽で両面に電気めっきの金属膜が形成されるため、電気めっき直後の活性が高い電気めっき膜は、巻き取りロールにおいて巻き締められると、シワなどの局所的な歪みのほかに、外周側の金属箔が内周側の金属箔に固着し、ロール状に巻き取った金属箔を巻き出せなくなるという不具合を、本発明により回避することが可能となる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
樹脂フィルムとして、幅50cm、厚さ38μm、長さ1000mの東レ・デュポン株式会社製のポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)EN)を用いた。ロールツーロール式のスパッタリング装置で、ポリイミドフィルムの一方の面に、膜厚25nmのニッケル−クロム合金薄膜を成膜し、さらに、ニッケル−クロム合金薄膜の表面に、膜厚100nmの銅薄膜を成膜して、金属薄膜付きポリイミドフィルムを得た。
【0054】
連続めっき装置として、その概略が
図1に示されるようなロールツーロール電気めっき装置1aを用いた。ロールツーロール電気めっき装置1aのうち、電気めっき処理を行う機構については公知のロールツーロール電気めっき装置と同様である。
【0055】
なお、本実施例では、アノード14a〜hは、巻出しロール12側から段階的に電流密度が上昇するように、それぞれのアノード14a〜hに接続された制御用電源により、電流密度の制御を行った。そして、このような制御により、得られる金属化ポリイミドフィルムの電気めっきの厚さが8μmとなるようにした。
【0056】
また、給電ロール16eよりもライン後方に、ステンレス製の10cmφの2個のガイドロール15a、b、図示しない駆動機構に接続された、ステンレス製の10cmφの駆動ロール17、10cmφの張力センサを備えた、ステンレス製の張力センサロール18を、電気めっき後の金属化ポリイミドフィルム(S)の搬送経路が千鳥足状に曲がりくねるように配置した。
【0057】
なお、ガイドロール15a、bにおける金属化ポリイミドフィルム(S)の抱き角はいずれも180°であった。また、駆動ロール17の表面は、硬度50°のゴムにより構成した。この点は、電気めっき処理工程における駆動ロールについても同様である。
【0058】
最後に、プラスチック製で外径17cmφ×60cmの巻き取りコアに、金属化ポリイミドフィルム(S)が巻き取られるように構成した。
【0059】
以上のようなロールツーロール電気めっき装置1aについて、金属薄膜付きポリイミドフィルム(F)の金属導電体(金属層)全体の膜厚が8ミクロンとなるように、銅を電気めっきするように設定した上で、金属化ポリイミドフィルムの製造を開始した。
【0060】
電気めっき槽11a〜d内の搬送張力は90N(単位断面積あたりで4.74N/mm
2)とし、張力カットロール(ガイドロール15a、b)より下流側の搬送張力を75N(単位断面積あたり3.95N/mm
2)となるように、巻き取りロール19の前に配置された駆動ロール17で制御した。また、駆動ロール17の周速度は、巻き取りロール19に巻き取られる導電性基板の最外周の周速度に対して101%に設定した。
【0061】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワは発生していなかった。
【0062】
(実施例2)
駆動ロール17の表面は、硬度80°のゴムにより構成したこと以外は、実施例1と同様にして、連続めっきを行った。
【0063】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワは発生していなかった。
【0064】
(実施例3)
駆動ロール17の表面は、硬度40°のゴムにより構成したこと以外は、実施例1と同様にして、連続めっきを行った。
【0065】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワは発生していなかった。
【0066】
(比較例1)
ガイドロール15a、b、駆動ロール17、張力センサロール18を取り外し、最後の給電ロール16eから直接的に巻き取りロール19の巻き取りコアに、電気めっき後の金属化ポリイミドフィルム(S)を直接巻き取るように構成したこと以外は、実施例と同様にして、連続めっきを行った。
【0067】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワが発生していた。このシワの存在により、その後の工程で得られるチップオンフィルム(COF)における収率は、実施例1と比較して、50%低下すると考えられる。
【0068】
(比較例2)
駆動ロール17の周速度を、巻き取りロール19に巻き取られる導電性基板の最外周の周速度に対して95%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、連続めっきを行った。
【0069】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワが広範囲にわたり発生していた。このシワの存在により、その後の工程で得られるチップオンフィルム(COF)の収率は、実施例1と比較して、収率が100%低下すると考えられる。
【0070】
(比較例3)
駆動ロール17の周速度を、巻き取りロール19に巻き取られる導電性基板の最外周の周速度に対して105%に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、連続めっきを行った。
【0071】
すべての処理終了後に、巻き取りロール19の巻き取りコアにロール状に巻き取られた金属化ポリイミドフィルムをすべて巻き出して、目視でシワの有無を確認したところ、シワが広範囲にわたり発生していた。このシワの存在により、その後の工程で得られるチップオンフィルム(COF)の収率は、実施例1と比較して、収率が100%低下すると考えられる。
【0072】
【表1】