特許第5761186号(P5761186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761186欠陥発生源の特定方法および搬送装置の保守方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761186
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】欠陥発生源の特定方法および搬送装置の保守方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20150723BHJP
   C03B 35/16 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   G01N21/892 A
   C03B35/16
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-520445(P2012-520445)
(86)(22)【出願日】2011年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2011063541
(87)【国際公開番号】WO2011158810
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-138641(P2010-138641)
(32)【優先日】2010年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】塩屋 敏和
(72)【発明者】
【氏名】村田 充
(72)【発明者】
【氏名】高谷 賢一
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊二
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−517653(JP,A)
【文献】 特公平03−032608(JP,B2)
【文献】 特開2010−060253(JP,A)
【文献】 特開2003−320646(JP,A)
【文献】 特開2009−046366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
C03B 35/00−35/26
B65G 13/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロールを有する搬送装置を備えた徐冷装置においてシート状ガラスが前記複数のロールによって搬送される際に、該シート状ガラスの搬送方向に一定の間隔で欠陥を生じさせるロールを特定する欠陥発生源の特定方法であって、
前記複数のロールのうち一部のロールの周速度を変更して、前記シート状ガラスの搬送速度と異ならしめ、前記周速度の変更の前後における前記欠陥の間隔の変化の有無に応じて、前記欠陥発生源となっているロールを特定する欠陥発生源の特定方法。
【請求項2】
前記一部のロールの角速度を変更することで、前記一部のロールの周速度を変更する請求項1に記載の欠陥発生源の特定方法。
【請求項3】
前記一部のロールの外径を変更することで、前記一部のロールの周速度を変更する請求項1に記載の欠陥発生源の特定方法。
【請求項4】
前記一部のロールを加熱して拡径させる請求項3に記載の欠陥発生源の特定方法。
【請求項5】
複数のロールによってシート状ガラスを搬送する搬送装置の保守方法であって、
異物が付着しているロールと、前記シート状ガラスとの接触位置において、前記異物が付着しているロールの外径を変更することで、前記異物が付着しているロールの周速度と前記シート状ガラスの搬送速度とを異ならしめることにより、前記異物が付着しているロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめ、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減する搬送装置の保守方法。
【請求項6】
前記異物が付着しているロールを加熱して拡径させる請求項に記載の搬送装置の保守
方法。
【請求項7】
複数のロールによってシート状ガラスを搬送する搬送装置の保守方法であって、
異物が付着しているロールと前記シート状ガラスとを接触させながら、前記異物が付着しているロールの位置を、前記シート状ガラスに対して搬送方向と異なる方向に移動させることにより、前記異物が付着しているロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめ、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減する搬送装置の保守方法。
【請求項8】
前記異物が付着しているロールを軸方向に移動させる請求項記載の搬送装置の保守方法。
【請求項9】
(a)前記異物が付着したロールのうち、徐冷装置の上流に配設されたドロスボックス内のロールにカーボン製部材を押し当てることにより、前記異物を除去または削減し、
(b)前記異物が付着したロールのうち、前記徐冷装置内のロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめることで、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減する請求項5〜のいずれか一項に記載の搬送装置の保守方法。
【請求項10】
(a)前記ドロスボックス内において、スズを主成分とする異物を前記ロールから除去または削減し、
(b)前記徐冷装置内において、ガラスを主成分とする異物を前記ロールから除去または削減する請求項に記載の搬送装置の保守方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥発生源の特定方法および搬送装置の保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の製造装置は、一般的に、溶融ガラスからシート状ガラスを成形する成形装置と、成形されたシート状ガラスが搬入される徐冷装置とを備える。徐冷装置は、複数のロールなどを有する搬送装置を備える。シート状ガラスは、徐冷装置内で複数のロール上を所定方向に搬送されながら徐冷された後、徐冷装置外に搬出される。次いで、シート状ガラスは、切断機によって所定寸法に切断され、製品であるガラス板となる。
【0003】
ところで、シート状ガラスなどのシート状物が複数のロール上を搬送される際に、ロールの外周面に異物が付着または傷が発生していると、ロールが1回転するたびに、シート状物の表面に欠陥が形成される。この欠陥は、シート状物の搬送方向に一定の間隔をおいて周期的に表れる。その間隔は、ロールの外周長に略一致するので、ロールの外径により定まる。
【0004】
そこで、ロールの外径と欠陥の間隔とに基づいて、欠陥発生源となっているロールを特定する方法がガラス板の製造以外の分野では提案されている。この方法は、外径の異なる複数種類のロールを用いることにより、欠陥発生源となっているロールを早期に特定するものである。また、この方法は、欠陥の間隔と一致する外周長を有する複数のロールのうち一部のロールを軸方向に移動することにより、シート状物に発生する欠陥の位置を変化させ、その変化に基づいて、欠陥発生源となっているロールを特定する。
【0005】
欠陥発生源として特定されたロールは、シート状物から離れた位置に移動され(通常は、ロールを下げることでシート状物から引き離す)、新品のロールと交換される。その後、交換された新品のロールが元の位置に戻される。新品のロールと交換する代わりに、ロールの外周面に付いた異物(または傷)を除去しても良い。このようにして、複数のロールなどを有する搬送装置を保守することで、欠陥の発生を解消することができる。なお、以下本明細書においてはロール外周面の「異物または傷」を総称して単に「異物」ということもある。
【0006】
一方、フロート法によるガラス板の製造分野においては、フロートバスから引き出されたガラスリボンのボトム面に付着したドロスや溶融スズが、リフトアウトロールに付着するため、カーボン繊維等を用いて、これらのドロス等をロール表面から取り除く技術が提案されている(特許文献1を参照)。これは、リフトアウトロールに付着したドロス等が、再度ガラスリボンに付着することを防ぐためのものである。ガラスリボンに付着したドロス等は、下流のレヤーロールに付着すると当該ロール表面で固化し、ガラスリボンを傷付けてしまう。そこで、特許文献1に開示の技術は、リフトアウトロールに付着したドロス等をカーボン繊維等で取り除くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2009−49366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の欠陥発生源の特定方法では、ロールを軸方向に移動するので、ロールの位置を移動する作業が煩雑である。また、ロールの移動範囲には搬送装置の大きさによる制約があるので、欠陥の位置変化が小さく、欠陥の位置変化を確認する作業が煩雑である。
【0009】
また、上述の搬送装置の保守方法では、欠陥発生源として特定されたロールをシート状物から離れた位置に移動させるので、シート状物が自重によって変形することがある。また、シート状物の周辺における気流が変わることがあり、シート状物の温度分布が変動して、シート状物が反ることもあり、ガラス板の製造に用いることは困難である。また、従来の当業者の通常の知見においては、ガラスリボンを搬送している最中にロールの周速を変えた場合、当該ガラスリボンは破砕されてしまうことを危惧するのが一般的であった。
一方、特許文献1に開示の技術では、欠陥の発生したロールを特定することはできないし、カーボン繊維は劣化し易いという問題もある。すなわち、リフトアウトロールよりも後段に位置する徐冷装置(レヤー)内では酸素濃度が高くなるため、下流に行けば行くほど、カーボン繊維は酸素と反応して劣化しやすい。
【0010】
本発明は、以上に鑑みてなされたもので、欠陥発生源となっているロールを容易に特定することができる欠陥発生源の特定方法を提供することを第1目的とする。また、シート状ガラスの変形を抑制することができる搬送装置の保守方法を提供することを第2目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、複数のロールを有する搬送装置を備えた徐冷装置においてシート状ガラスが前記複数のロールによって搬送される際に、該シート状ガラスの搬送方向に一定の間隔で欠陥を生じさせるロールを特定する欠陥発生源の特定方法であって、前記複数のロールのうち一部のロールの周速度を変更して、前記シート状ガラスの搬送速度と異ならしめ、前記周速度の変更の前後における前記欠陥の間隔の変化の有無に応じて、前記欠陥発生源となっているロールを特定する欠陥発生源の特定方法を提供する。
【0012】
本発明は、前記目的を達成するために、第1の態様によれば、複数のロールによってシート状ガラスを搬送する搬送装置の保守方法であって、異物が付着しているロールと、前記シート状ガラスとの接触位置において、前記異物が付着しているロールの外径を変更することで、前記異物が付着しているロールの周速度と前記シート状ガラスの搬送速度とを異ならしめることにより、前記異物が付着しているロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめ、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減する搬送装置の保守方法を提供する。
【0013】
本発明の欠陥発生源の特定方法においては、前記一部のロールの角速度を変更することで、前記一部のロールの周速度を変更することが好ましい。
【0014】
本発明の欠陥発生源の特定方法においては、前記一部のロールの外径を変更することで、前記一部のロールの周速度を変更することが好ましい。
【0015】
本発明の欠陥発生源の特定方法においては、前記一部のロールを加熱して拡径させることが好ましい。
【0019】
本発明の搬送装置の保守方法においては、前記異物が付着しているロールを加熱して拡径させることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記目的を達成するために、第2の態様によれば、複数のロールによってシート状ガラスを搬送する搬送装置の保守方法であって、異物が付着しているロールと前記シート状ガラスとを接触させながら、前記異物が付着しているロールの位置を、前記シート状ガラスに対して搬送方向と異なる方向に移動させることにより、前記異物が付着しているロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめ、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減する搬送装置の保守方法を提供する
【0022】
本発明の搬送装置の保守方法においては、前記異物が付着しているロールを軸方向に移動させることが好ましい。
【0023】
本発明の搬送装置の保守方法においては、(a)前記異物が付着したロールのうち、徐冷装置の上流に配設されたドロスボックス内のロールにカーボン製部材を押し当てることにより、前記異物を除去または削減し、(b)前記異物が付着したロールのうち、前記徐冷装置内のロールの速度ベクトルと、前記シート状ガラスの速度ベクトルとを異ならしめることで、前記異物に剪断応力を加え、前記異物を除去または削減することが好ましい。
【0024】
本発明の搬送装置の保守方法においては、(a)前記ドロスボックス内において、スズを主成分とする異物を前記ロールから除去または削減し、(b)前記徐冷装置内において、ガラスを主成分とする異物を前記ロールから除去または削減することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、欠陥発生源となっているロールを容易に特定することができる欠陥発生源の特定方法を提供することができる。また、本発明によれば、シート状ガラスの変形を抑制することができる搬送装置の保守方法を提供することができる。特に、本発明は、徐冷装置を開放することなく上記操作を実施できるため、徐冷装置内の温度変化が生じないという効果がある。よって、ロール表面の異物を除去した後、直ちに製品の生産を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1実施形態による欠陥発生源の特定方法が適用される搬送装置の側面方向からの断面模式図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態による欠陥発生源の特定方法の工程図である。
図3図3は、本発明の第2実施形態による搬送装置の保守方法が適用される搬送装置の側面方向からの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は、後述の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、後述の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による欠陥発生源の特定方法が適用される搬送装置の側面方向からの断面模式図である。図1において、周速変更前の欠陥の位置を実線で示し、周速変更後の欠陥の位置を破線で示す。
【0029】
第1実施形態は、欠陥発生源の特定方法に関するものである。図1に示すように、ガラス板の製造装置は、溶融ガラスからシート状ガラス2を成形する成形装置10と、成形装置10で成形されたシート状ガラス2が搬入される徐冷装置20とを備える。
【0030】
成形装置10は、一般的な装置であって良く、例えばフロート成形装置やフュージョン成形装置であって良い。フロート成形装置は、溶融ガラスを溶融金属(代表的には溶融錫)の浴面に連続的に供給して、シート状ガラス2を成形する装置である。フュージョン成形装置は、樋状の成形体の両側面に沿って流下させた溶融ガラスを、成形体の下縁付近で合流させて、シート状ガラス2を成形する装置である。
【0031】
徐冷装置20は、複数のロール31〜33などを有する搬送装置30を備える。なお、図1には、3本のロール31〜33のみ図示されているが、徐冷装置20におけるロールの本数は3本に限定されるものではない。複数のロール31〜33は、電動モータなどの駆動装置によって回転駆動され、シート状ガラス2を所定方向(矢印A方向)に搬送する。
【0032】
各ロール31〜33の回転方向は、シート状ガラス2の搬送方向に対して順方向になるように設定される。また、各ロール31〜33の周速度は、シート状ガラス2の搬送速度と略同じになるように設定される。各ロール31〜33の外周面は、例えば図1に示すように、シート状ガラス2の下面に接触しており、シート状ガラス2は水平に搬送される。
【0033】
複数のロール31〜33は、同一の外径を有していて良いし、異なる外径を有していても良い。前者の場合、ロールの種類が少ないので、ロールの管理コストを削減することができる。後者の場合、ロールの種類が多いので、後述の測定工程(ステップS21)において、欠陥発生源の候補を減らすことができ、欠陥発生源を早期に特定することができる。
【0034】
複数のロール31〜33の駆動方法は、特に限定されない。例えば、複数のロール31〜33は、それぞれ、複数のギヤのいずれかを介して、1つの駆動装置(例えば、電動モータ)に接続されており、1つの駆動装置によって回転駆動されて良い。この場合、駆動装置の数、駆動装置を制御する制御装置(例えば、マイクロコンピュータ)の数を削減することができ、搬送装置を簡略化することができる。
【0035】
また、複数のロール31〜33は、それぞれ、複数の駆動装置のいずれかに接続されており、複数の駆動装置によって回転駆動されても良い。この場合、複数の駆動装置を独立に制御することで、複数のロール31〜33の角速度を独立に制御することができる。よって、特定のロールの角速度を容易に変更することができる。
【0036】
シート状ガラス2は、徐冷装置20内で複数のロール31〜33上を所定方向に搬送されながら徐冷された後、徐冷装置20外に搬出される。次いで、シート状ガラス2は、切断機によって所定寸法に切断され、製品であるガラス板となる。
【0037】
ところで、複数のロール31〜33によってシート状ガラス2を搬送する際に、いずれかのロール(例えば、ロール32)の外周面に異物4(または傷)が付着していると、ロール32が1回転するたびに、シート状ガラス2の表面に欠陥6が形成される。この欠陥6は、シート状ガラス2の搬送方向に一定の間隔L1をおいて周期的に表れる。その間隔L1は、ロール32の外周長に略一致するので、ロール32の外径により定まる。
【0038】
本実施形態では、欠陥発生源となっているロール32を特定する方法として、図2に示すように、欠陥6の間隔L1を測定する測定工程(ステップS21)と、一部のロールの周速度を変更する変更工程(ステップS22)と、欠陥6の間隔L2を再測定する再測定工程(ステップS23)と、欠陥6の間隔の変化を確認する確認工程(ステップS24)とを順次有する。
【0039】
測定工程(ステップS21)では、欠陥6の間隔L1を測定する。次いで、測定した間隔L1が複数のロール31〜33のいずれかの外周長と一致していることを確認し、一致するロールを欠陥発生源の候補とする。
【0040】
変更工程(ステップS22)では、欠陥発生源の候補となっている複数のロール31〜33のうち一部のロール(例えば、ロール32)の周速度を変更して、シート状ガラス2の搬送速度と異ならしめる。周速度を変更したロール32は、シート状ガラス2に対してスリップするようになる。よって、周速度を変更したロール32の外周面に異物4(または傷)などが付着していると、欠陥6の間隔L1が間隔L2に変化する。本発明者らは、シート状ガラス2をロール32上でスリップさせても、シート状ガラス2が簡単に破砕してしまうようなことはないことを確認した。
【0041】
例えば、ロール32の周速度を遅くすると、ロール32の回転周期が長くなるので、図1に破線で示すように、欠陥6の間隔が長くなる。ロール32の周速度が0に近づくにつれ、欠陥6の間隔が無限大に近づく。
【0042】
一方、ロール32の周速度を速くすると、ロール32の回転周期が短くなるので、欠陥6の間隔が短くなる。ロール32の周速度が無限大に近似すると、欠陥6の間隔が0に近づく。
【0043】
なお、ロール32の回転方向を逆方向に設定したうえで、ロール32の周速度を変更しても良い。この場合も、ロール32の回転周期が変わるので、欠陥6の間隔が変化する。
【0044】
欠陥6の間隔の変化の有無を確認しやすいように、ロール32の周速度を変更することが望ましい。周速度の変更量は、ロール32の外径などに基づいて設定される。
【0045】
ロールの周速度を変更する方法としては、例えばロールの角速度を変更する方法、ロールの外径を変更する方法などがある。
【0046】
ロールの角速度を変更する場合、ロールの駆動方法に応じた方法が用いられる。例えば、複数のロール31〜33がそれぞれ複数のギヤのいずれかを介して1つの駆動装置に接続されている場合、特定のロールに接続されているギヤを外して、別の駆動装置によって特定のロールを回転駆動させる方法がある。また、複数のロール31〜33がそれぞれ複数の駆動装置のいずれかに接続されている場合、特定のロールに接続される駆動装置の出力を独立に制御して変更する方法がある。これらの方法は、ロールの回転方向を変更する方法としても用いることができる。
【0047】
ロールの外径を変更する場合、ロールを加熱して拡径しても良いし、ロールを冷却して縮径しても良い。ロールを加熱して拡径する方法は、成形装置10で成形されたシート状ガラス2を搬送する場合に適している。その場合、シート状ガラス2が高温になっているので、シート状ガラス2が熱衝撃によって割れるのを抑制することができる。
【0048】
周速度を変更するロールは、欠陥発生源となる頻度が高いロールから優先的に選ばれる。そのようなロールとしては、搬送方向上流側のロールが挙げられる。
【0049】
欠陥発生源の候補となるロールの数が3つ以上である場合、周速度を変更するロールの数は複数であっても良い。これにより、欠陥発生源の特定に要する時間を短縮することが可能である。但し、周速度を変更するロールの数が多すぎると、シート状ガラス2の搬送速度が変わるので、好ましくない。
【0050】
複数のロールの周速度を変更する場合、複数のロールの周速度を互いに異なる周速度に変更しても良い。この場合、後述の間隔の変化量ΔL(ΔL=|L2−L1|)を調べることで、欠陥発生源の特定に要する時間をさらに短縮することが可能である。
【0051】
再測定工程(ステップS23)では、変更工程(ステップS22)後に、欠陥6の間隔L2を再測定する。再測定後に、変更された周速度(および変更された回転方向)を元に戻して、シート状ガラス2の搬送速度に合わせて良い。
【0052】
確認工程(ステップS24)では、測定工程(ステップS21)の測定結果と、再測定工程(ステップS23)の測定結果とを比較して、ロールの周速度の変更前後おける、欠陥6の間隔の変化の有無を確認する。
【0053】
次に、欠陥6の間隔の変化があった場合について説明する。この場合、直前の変更工程(ステップS22)において、周速度を変更したロールの数が1つであるか否かをチェックする。
【0054】
周速度を変更したロールの数が1つである場合、周速度を変更したロールを欠陥発生源として特定し、今回の作業を終了する。特定の際に、間隔の変化量ΔLが、ΔL=L1×|V1−V2|/V1の関係を満たしていることを確認しても良い。ここで、V1、V2はロールの周速度であって、V1は変更前の周速度(即ち、シート状ガラス2の搬送速度)、V2は変更後の周速度である。この確認によって、欠陥発生源の特定精度を向上することができる。
【0055】
また、周速度を変更したロールの数が1つではない場合(即ち、周速度を変更したロールの数が複数である場合)、周速度を変更したロールを欠陥発生源の候補とする。次いで、変更工程(ステップS22)以降の工程を繰り返し行う。
【0056】
次に、欠陥6の間隔の変化がなかった場合について説明する。この場合、直前の変更工程(ステップS22)において、周速度を変更しなかったロールの数が1つであるか否かをチェックする。
【0057】
周速度を変更しなかったロールの数が1つである場合、周速度を変更しなかったロールを欠陥発生源として特定し、今回の作業を終了する。
【0058】
また、周速度を変更しなかったロールの数が1つではない場合(即ち、周速度を変更しなかったロールの数が複数である場合)、周速度を変更しなかったロールを欠陥発生源の候補とする。次いで、それらのロールについて変更工程(ステップS22)以降の工程を繰り返し行う。
【0059】
このようにして、本実施形態では、複数のロール31〜33のうち一部のロールの周速度を変更して、シート状ガラス2の搬送速度と異ならしめることで、欠陥発生源となっているロールを特定するので、ロールの位置を移動する作業を省略することができる。
【0060】
また、本実施形態では、ロールの位置を移動することなく、欠陥6の間隔を変化させることができるので、搬送装置30の大きさの制約をうけない。よって、間隔の変化量ΔLを大きく設定することができ、間隔の変化の有無を容易に確認することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態では、搬送装置30は、徐冷装置20内に設けられているが、徐冷装置20外に設けられていても良く、例えば切断機よりも下流側に設けられていても良い。
【0062】
また、上述した実施形態では、複数のロール31〜33の外周面が、シート状ガラス2の下面に接触しているとしたが、その接触位置に制限はない。例えば、いずれかのロールの外周面がシート状ガラス2の上面に接触していても良い。
【0063】
また、上述した実施形態では、シート状ガラス2を水平に搬送するとしたが、弾性変形可能なシート状物の場合、シート状物をジグザグ状に(蛇行するように)搬送しても良い。
【0064】
また、上述した実施形態では、ロールの周速度の変更前後においてそれぞれ欠陥6の間隔L1、L2を測定するとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数のロールが同一の外径を有する場合、欠陥6の元の間隔L1は、予め分かっているので、測定しなくても良い。
【0065】
(第2実施形態)
第2実施形態は、図1に示す搬送装置30の保守方法に関するものである。この保守方法は、複数のロール31〜33のいずれかの外周面に異物4が付着している場合に適用される。異物4が付着しているロール(以下、「不具合ロール」という)を特定する方法としては、第1実施形態の欠陥発生源の特定方法の他、従来の特定方法を用いても良い。なお、不具合ロールを特定せずに、全てのロール31〜33を不具合ロールと仮定して、以下の作業を行っても良い。
【0066】
搬送装置30の保守方法は、図3に示すように、不具合ロール32とシート状ガラス2との接触位置において、不具合ロール32の速度ベクトルV1と、シート状ガラス2の速度ベクトルV2とを異ならしめることで、異物4に剪断応力を加え、異物4を除去または削減する方法である。異物4を除去または削減することで、異物4がなくなったり、異物4が丸くなるので、欠陥6の発生を解消することができる。
【0067】
速度ベクトルV1、V2の差が大きくなるほど、異物4に加わる剪断応力が大きくなる。なお、剪断応力によってシート状ガラス2が変形しないように、シート状ガラス2の形状や材質などに基づいて、速度ベクトルV1、V2の差を最適化して良い。
【0068】
速度ベクトルV1、V2を異ならしめる方法としては、(1)不具合ロール32の周速度を変更して、シート状ガラス2の搬送速度と異ならしめる方法、(2)不具合ロール32の回転方向をシート状ガラス2の搬送方向に対して逆方向とする方法、(3)不具合ロール32の位置をシート状ガラス2に対して搬送方向と異なる方向に移動させる方法などがある。本実施形態は、上記(1)および(2)に関するものである。上記(3)については、第3実施形態で説明する。
【0069】
不具合ロール32の回転方向をシート状ガラス2の搬送方向に対して順方向に設定したまま、不具合ロール32の周速度を変更すると、不具合ロール32がシート状ガラス2に対してスリップするので、摩擦によって剪断応力が異物4に加わり、異物4が除去または削減される。変更後の周速度は、変更前の周速度(即ち、シート状ガラス2の搬送速度)に対して、2.0%以上の差を有することが好ましいことが経験的にわかった。また、不具合ロール32の回転方向をシート状ガラス2の搬送方向に対して逆方向に設定すると、異物4に加わる剪断応力をより高めることができる。
【0070】
不具合ロール32の周速度を変更する方法としては、第1実施形態と同様に、例えば不具合ロール32の角速度を変更する方法、不具合ロール32の外径を変更する方法などがある。
【0071】
不具合ロール32の角速度を変更する場合、不具合ロール32の駆動方法に応じた方法が用いられる。例えば、複数のロール31〜33がそれぞれ複数のギヤのいずれかを介して1つの駆動装置に接続されている場合、不具合ロール32に接続されているギヤを外して、別の駆動装置によって不具合ロール32を回転駆動させる方法がある。また、複数のロール31〜33がそれぞれ複数の駆動装置のいずれかに接続されている場合、不具合ロール32に接続される駆動装置の出力を独立に制御して変更する方法がある。これらの方法は、不具合ロール32の回転方向を変更する方法としても用いることができる。
【0072】
不具合ロール32の外径を変更する場合、不具合ロール32を加熱して拡径しても良いし、不具合ロール32を冷却して縮径しても良い。不具合ロール32を加熱して拡径する方法は、成形装置10で成形されたシート状ガラス2を搬送する場合に適している。その場合、シート状ガラス2が高温になっているので、シート状ガラス2が熱衝撃で割れるのを抑制することができる。
【0073】
このように、本実施形態によれば、不具合ロール32の周速度または/および回転方向を変更して、シート状ガラス2の搬送速度と異ならしめることで、異物4に剪断応力を加え、異物4を除去または削減するので、不具合ロール32の位置を移動する作業を省略することができる。
【0074】
また、本実施形態では、不具合ロール32の位置を移動しないので、シート状ガラス2の自重による変形を防止することができる。また、シート状ガラス2の周辺における気流を安定化して、シート状ガラス2の温度分布を安定化することができ、シート状ガラス2の反りを低減することができる。
【0075】
なお、上記の異物除去の操作を行うことにより、シート状ガラス2の下面には多数の傷が付くことになる。そのため、異物除去の操作を行った際のシート状ガラス2は、製品として使用することは困難である。したがって、異物除去の操作は、設備の定期点検等の時に実施され、製品の生産時には実施されないことが好ましい。
【0076】
(第3実施形態)
第3実施形態は、搬送装置30の保守方法に関するものであって、速度ベクトルV1、V2を異ならしめる方法として、上記(3)を用いたものである。即ち、本実施形態では、不具合ロール32とシート状ガラス2とを接触させながら、不具合ロール32の位置をシート状ガラス2に対して搬送方向と異なる方向に移動させる。例えば、不具合ロール32をその軸方向に移動させる。
【0077】
そうすると、不具合ロール32がシート状ガラス2に対してスリップするので、摩擦によって剪断応力が異物4に加わり、異物4が除去または削減される。よって、欠陥6の発生を解消することができる。欠陥6の発生が解消するまで、不具合ロール32の位置を不具合ロール32の軸方向に往復動させて良い。
【0078】
このように、本実施形態によれば、不具合ロール32とシート状ガラス2とを接触させながら、異物4を除去または削減するので、シート状ガラス2の自重による変形を防止することができる。また、シート状ガラス2の周辺における気流を安定化して、シート状ガラス2の温度分布を安定化することができ、シート状ガラス2の反りを低減することができる。
【0079】
(第4実施形態)
フロート法によるガラス板の製造装置においては、フロートバス等で構成された成形装置10と、徐冷装置20とを備える。徐冷装置20の上流にはドロスボックスが配設されている。ドロスボックス内には、複数のリフトアウトロールが配設されるとともに、徐冷装置20の雰囲気が侵入しないように構成されている。リフトアウトロールにはフロートバス内のドロスや溶融スズが異物(スズを主成分とした異物)として付着し易い。そこで、カーボン製部材(カーボン繊維やカーボン製ブロック等)をロールに押し当てる手法により、これら異物を除去または削減するのが好ましい。
【0080】
一方、徐冷装置20内のロールにはガラスカレットが付着しやすいが、ガラスカレットはスズよりもロールに対する付着力が弱いので、上述のロールの速度ベクトルを変化させる手法により、ガラスカレットを除去または削減することが好ましい。徐冷装置20内においては、ドロスボックス内よりも温度が低く、硬化したガラスリボンが割れることがあり、ガラスカレットが異物(ガラスを主成分とした異物)の原因となり易い。また、徐冷装置20内はドロスボックス内よりも酸素濃度が高く、可燃性のカーボン製部材が使いにくいので、上述のようにドロスボックス内と徐冷装置内とで異物除去の手法を変えることは好ましい。
【0081】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の範囲と精神を逸脱することなく、様々な修正や変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2010年6月17日出願の日本特許出願2010−138641に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0082】
2 シート状ガラス
4 異物
6 欠陥
10 成形装置
20 徐冷装置
30 搬送装置
31〜33 ロール
図1
図2
図3