(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二のアルミナ群に対する前記第一のアルミナ群の含有比率(第一のアルミナ群/第二のアルミナ群)が、質量基準で2.0以上5.0以下である、請求項1又は請求項2に記載のBステージシート。
前記エポキシ樹脂の総含有量に対する前記硬化剤の含有比率(硬化剤/エポキシ樹脂)が、当量基準で0.95以上1.25以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のBステージシート。
金属支持体と、前記金属支持体上に配置された請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のBステージシートの硬化物である硬化樹脂層と、前記硬化樹脂層上に配置された金属箔と、を備える金属基板。
金属支持体と、前記金属支持体上に配置された請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のBステージシートの硬化物である硬化樹脂層と、前記硬化樹脂層上に配置された金属箔からなる回路層と、前記回路層上に配置されたLED素子と、を備えるLED基板。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0058】
<Bステージシート>
本発明のBステージシートは、(A)下記一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂(以下、「特定エポキシ樹脂」ともいう)の少なくとも1種と、(B)下記一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する硬化剤(以下、「特定硬化剤」ともいう)の少なくとも1種と、(C)無機充填剤の少なくとも1種と、(D)エラストマの少なくとも1種と、を含有するエポキシ樹脂組成物の半硬化物である。
【0059】
【化25】
【0060】
一般式(I)中、R
1〜R
8はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示す。
【0061】
【化26】
【0062】
【化27】
【0063】
【化28】
【0064】
【化29】
【0065】
一般式(IIa)〜(IId)中、m及びnはそれぞれ独立に正の数を示し、Arは下記一般式(IIIa)及び(IIIb)のいずれか1つで表される基を示す。
【0066】
【化30】
【0067】
一般式(IIIa)及び(IIIb)中、R
11及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R
12及びR
13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0068】
また本発明のBステージシートは、(A)下記一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂の少なくとも1種と、ジヒドロキシアレーン類及びアルデヒド類の反応生成物であり、水酸基当量が60以上130以下であるフェノール樹脂を含む硬化剤の少なくとも1種と、(C)無機充填剤の少なくとも1種と、(D)エラストマの少なくとも1種と、を含有するエポキシ樹脂組成物の半硬化物であることもまた好ましい。
【0069】
エポキシ樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)を上記構成とすることにより、優れた熱伝導性と優れた電気絶縁性とを両立可能で、優れた可とう性を有するBステージシートを構成することができる。また金属箔上に前記Bステージシートを配置することで可とう性に優れた樹脂付金属箔を得ることができる。
以下にエポキシ樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0070】
(A)エポキシ樹脂
前記エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂は、下記一般式(I)で表される2価の部分構造と少なくとも1つのエポキシ基を有するものであれば特に制限されない。中でも下記一般式(I)で表される部分構造と少なくとも2つのエポキシ基とを有する化合物であることが好ましく、下記一般式(I)で表される部分構造と少なくとも2つのエポキシ基とを有し、前記部分構造が主鎖の一部を構成する化合物であることが好ましい。
エポキシ樹脂が一般式(I)で表される部分構造を有することで、樹脂硬化物とした場合に、高い秩序を有する高次構造を形成することが可能となる。これにより優れた熱伝導性と高い放熱性とを実現することができる。
【0071】
【化31】
【0072】
R
1〜R
8はそれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。
一般式(I)で表されるビフェニル構造を有する樹脂は、分子配向が容易であるという特徴を有する。こうした特徴は、エポキシ樹脂組成物の硬化物における熱抵抗の低抵抗化に有利に働き、結果として硬化物の熱放散性を高め、高い放熱性を与える。
一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂やビフェニレン型エポキシ樹脂を挙げることができる。具体的には下記一般式(IV)で表される化合物及び(V)で表される化合物等が挙げられる。
【0073】
【化32】
【0074】
一般式(IV)中、R
1〜R
8はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の置換もしくは非置換の炭化水素基を表し、nは0〜3の整数を表わす。
流動性の点からは、nが0〜2であることが好ましく、nが0又は1であることがより好ましく、nが0であることが特に好ましい。
炭素数1〜10の置換もしくは非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等を挙げることができる。
なかでもR
1〜R
8は、熱伝導性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0075】
上記一般式(IV)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂としては、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル又は4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルを主成分とするエポキシ樹脂、エピクロルヒドリンと4,4’−ビフェノール又は4,4’−(3,3’,5,5’−テトラメチル)ビフェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも硬化物のガラス転移温度の低下を防ぐことができる観点から、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルを主成分とするエポキシ樹脂が好ましい。
一般式(IV)で表されるエポキシ樹脂としては、R
1、R
3、R
6及びR
8がメチル基であり、R
2、R
4、R
5及びR
7が水素原子であり、n=0である化合物を主成分とする「エピコ−ト YX4000H」(三菱化学株式会社製、商品名)や、R
1、R
3、R
6及びR
8がメチル基であり、R
2、R
4、R
5及びR
7が水素原子であり、n=0である化合物と、R
1〜R
8が水素原子であり、n=0である化合物との混合物である「エピコ−ト YL6121H」(三菱化学株式会社製、商品名)等を市場で入手可能である。
【0076】
また前記ビフェニレン型エポキシ樹脂としては、下記一般式(IV)で表されるエポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0077】
【化33】
【0078】
一般式(V)中、R
1〜R
9はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数6〜10のアラルキル基を表し、nは0〜10の整数を示す。
【0079】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基等を挙げることができる。炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等を挙げることができる。また炭素数7〜10のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等を挙げることができる。
なかでもR
1〜R
9は、Bステージシートの可とう性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0080】
上記一般式(V)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂としては例えば、NC−3000(日本化薬株式会社製商品名)が市販品として入手可能である。
【0081】
前記エポキシ樹脂としては、熱伝導率、電気絶縁性及びBステージシートの可とう性の観点から、前記一般式(IV)又は一般式(V)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましく、熱伝導性の観点から、一般式(IV)で表される化合物の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0082】
前記エポキシ樹脂組成物は、前記一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂に加えて、前記一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂以外のその他のエポキシ樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
その他のエポキシ樹脂としては一般に使用されているエポキシ樹脂から適宜選択することができる。
【0083】
その他のエポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールA/D等のジグリシジルエーテル、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノール・アラルキル樹脂のエポキシ化物、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、シクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ヒドロキシナフタレン及び/又はジヒドロキシナフタレンの2量体等のエポキシ化物、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂、及びこれらのエポキシ樹脂をシリコーン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン系ゴム、ポリアミド系樹脂等により変性したエポキシ樹脂などが挙げられる。
これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0084】
前記エポキシ樹脂組成物の全固形分におけるエポキシ樹脂の含有率としては、特に制限はないが、熱伝導率、電気絶縁性及びBステージシートの可とう性の観点から、3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、後述する硬化物の物性の観点から、4質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
い。
尚、エポキシ樹脂組成物中の固形分とは、エポキシ樹脂組成物を構成する成分から揮発性の成分を除去した残分を意味する。
【0085】
また前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂中の前記一般式(I)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂の含有率は特に制限されない。熱伝導性の観点からエポキシ樹脂全体の60質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましく、より一層熱伝導性を高める観点から80質量%以上とすることが特に好ましい。
【0086】
前記エポキシ樹脂組成物は、Bステージシートを構成したときの可とう性の観点から、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0087】
前記ナフタレン環を有するエポキシ樹脂としては少なくとも1つのナフタレン環と少なくとも1つのエポキシ基とを有する化合物であれば特に制限されない。例えば、HP4032D(DIC株式会社製)を挙げることができる。
【0088】
前記エポキシ樹脂組成物が、その他のエポキシ樹脂(好ましくは、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂)を含む場合、その含有率には特に制限はない。例えば、前記特定エポキシ樹脂に対して0.01質量%以上15質量%以下とすることができ、0.01質量%以上12質量%以下であることが好ましい。かかる含有率であることで熱伝導率、電気絶縁性及びBステージシートの可とう性がより効果的に向上する。
【0089】
(B)硬化剤
前記エポキシ樹脂組成物は、下記一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造の少なくとも1種を有する硬化剤(特定硬化剤)の少なくとも1種を含む。特定硬化剤と特定エポキシ樹脂とを組み合わせることで、優れた熱伝導性を達成することができる。また前記エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて特定硬化剤以外のその他の硬化剤をさらに含んでもよい。
【0090】
【化34】
【0091】
【化35】
【0092】
【化36】
【0093】
【化37】
【0094】
一般式(IIa)〜(IId)中、m及びnはそれぞれ独立に正の数であり、それぞれの繰り返し単位の繰り返し数を示す。Arは下記一般式(IIIa)及び(IIIb)のいずれか1つで表される基を示す。
【0095】
【化38】
【0096】
一般式(IIIa)及び(IIIb)中、R
11及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R
12及びR
13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0097】
一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する硬化剤は、後述する製造方法によって、同時に生成可能なものであり、一般式(IIa)〜(IId)から選ばれる少なくとも2種の部分構造を有する化合物の混合物として生成可能である。
すなわち前記特定硬化剤は、一般式(IIa)〜(IId)のいずれか1つで表される部分構造のみを有する化合物を含むものであっても、一般式(IIa)〜(IId)から選ばれる少なくとも2種の部分構造を有する化合物を含むものであってもよい。
【0098】
一般式(IIa)〜(IId)において水酸基の置換位置は芳香環上であれば特に制限されない。
一般式(IIa)〜(IId)のそれぞれについて、複数存在するArはすべて同一の原子団であってもよいし、2種以上の原子団を含んでいてもよい。また一般式(IIa)〜(IId)で表される部分構造は、硬化剤の主鎖骨格として含まれていてもよく、また側鎖の一部として含まれていてもよい。さらに一般式(IIa)〜(IId)のいずれか1つで表される部分構造を構成するそれぞれの繰り返し単位は、ランダムに含まれていてもよいし、規則的に含まれていてもよいし、ブロック状に含まれていてもよい。
【0099】
一般式(IIa)〜(IId)のいずれかで表される部分構造においてArは上記一般式(IIIa)及び(IIIb)のいずれか1つで表される基を表す。
前記一般式(IIIa)及び(IIIb)におけるR
11及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基であるが、熱伝導性の観点から水酸基であることが好ましい。またR
11及びR
14の置換位置は特に制限されない。
またR
12及びR
13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。前記R
12及びR
13における炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられる。また一般式(IIIa)及び(IIIb)におけるR
12及びR
13の置換位置は特に制限されない。
【0100】
一般式(IIa)〜(IId)におけるArは、本発明の効果、特に優れた熱伝導性を達成する観点から、ジヒドロキシベンゼンに由来する基(一般式(IIIa)においてR
11が水酸基であって、R
12及びR
13が水素原子である基)、及びジヒドロキシナフタレンに由来する基(一般式(IIIb)においてR
14が水酸基である基)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
ここで、「ジヒドロキシベンゼンに由来する基」とはジヒドロキシベンゼンの芳香環部分から水素原子を2つ取り除いて構成される2価の基を意味し、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。また「ジヒドロキシナフタレンに由来する基」等についても同様の意味である。
【0101】
また、前記エポキシ樹脂組成物の生産性や流動性の観点からは、Arは、ジヒドロキシベンゼンに由来する基であることがより好ましく、1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0102】
またさらに、より熱伝導性を特に高める観点から、Arとして少なくとも1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基を含むことが好ましく、Arとして1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基を含む構造単位の含有率が、一般式(IIa)〜(IId)で表される部分構造の総質量中において60質量%以上であること特に好ましい。
【0103】
一般式(IIa)〜(IId)におけるm及びnについては、流動性の観点からm/n=20/1〜1/5であることが好ましく、20/1〜5/1であることがより好ましく、20/1〜10/1であることがさらに好ましい。また、(m+n)は流動性の観点から20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
(m+n)の下限値は特に制限されない。
【0104】
一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する特定硬化剤は、特にArが置換又は非置換のジヒドロキシベンゼン及び置換又は非置換のジヒドロキシナフタレンの少なくともいずれか1種である場合、これらを単純にノボラック化した樹脂等と比較して、その合成が容易であり、軟化点の低い硬化剤が得られる傾向にある。したがってこのような樹脂を含む樹脂組成物の製造や取り扱いも容易になる等の利点がある。
なお、一般式(IIa)〜(IId)のいずれかで表される部分構造を有する硬化剤はField Desorption Ionization Mass-Spectrometry:電界脱離イオン化質量分析法(FD−MS)によって、そのフラグメント成分として前記部分構造を容易に特定することができる。
【0105】
前記特定硬化剤の分子量は特に制限されない。流動性の観点から、数平均分子量として2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、350以上1500以下であることがさらに好ましい。
また重量平均分子量としては2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、400以上1500以下であることがさらに好ましい。
前記特定硬化剤の数平均分子量及び重量平均分子量は、GPCを用いた通常の方法により測定される。
【0106】
前記特定硬化剤の水酸基当量は特に制限されない。耐熱性に関与する架橋密度の観点から、前記特定硬化剤の水酸基当量は平均値で60以上130以下であることが好ましく、65以上120以下であることがより好ましく、70以上110以下であることがさらに好ましい。
また前記エポキシ樹脂組成物は、特定硬化剤に加えて後述する単量体成分を低分子希釈剤として含んでいてもよい。単量体成分の含有率は硬化剤の総質量中に40質量%以下であることが好ましい。この場合の硬化剤の水酸基当量は好ましくは平均値で60〜80である。
【0107】
一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する硬化剤(特定硬化剤)の製造方法は特に限定はされない。例えば次のようなジヒドロキシアレーン類の自己酸化による分子内閉環反応を用いる方法が利用できる。すなわち、例えばカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン、一般式(IIIa)においてR
11が水酸基であり、R
12及びR
13が水素である化合物)等を20モル%〜90モル%含むフェノール類と、アルデヒド類とを、一般的なノボラック樹脂と同様、シュウ酸などの酸触媒下で反応させることで製造することができる。
【0108】
反応条件は特定硬化剤の構造等に応じて適宜選択できる。例えば、アルデヒド類としてホルムアルデヒドを用いる場合には、100℃前後の還流条件で反応を行う。この還流反応を1〜8時間行い、その後、反応系内の水を常法により除去しながら120℃〜180℃まで昇温する。このときの雰囲気は酸化性雰囲気(たとえば空気気流中)とすることが好ましい。その後この状態を2時間〜24時間続けることにより、系内には一般式(IIa)や(IIb)で表される部分構造を有する化合物が生成し、所望の硬化剤を得ることができる。
【0109】
また上記ジヒドロキシアレーン類の自己酸化による分子内閉環反応において、レゾルシノールとカテコールとアルデヒド類とを用いて、同様に反応させることにより、一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物が生成する。さらにレゾルシノールとアルデヒド類とを、同様に反応させることにより、一般式(IIa)、(IIc)及び(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物が生成する。さらにまたハイドロキノンとカテコールとアルデヒド類とを、同様に反応させることにより、一般式(IIa)及び(IIb)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物が生成する。
【0110】
前記特定硬化剤を別の観点から見ると、ジヒドロキシアレーン類とアルデヒド類を酸性触媒下で反応させて得られるフェノール樹脂組成物であり、水酸基当量がジヒドロキシアレーン類のノボラック樹脂の理論水酸基当量(60前後)と比較して大きいフェノール樹脂組成物である。このようなフェノール樹脂組成物を硬化剤として用いることにより、エポキシ樹脂の配向を助け、結果としてエポキシ樹脂組成物の放熱性を高めるといった効果が得られると考えられる。水酸基当量が理論値より大きくなる理由は、ジヒドロキシアレーン類が反応中に分子内閉環反応を行い、前記一般式(IIa)〜(IId)の様な部分構造を有するフェノール樹脂を含むためと考えられる。
【0111】
特定硬化剤の製造に用いるジヒドロキシアレーン類としては、カテコール、レゾルシノール、及びハイドロキノン等の単環式ジヒドロキシアレーン類、並びに1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、及び1,4−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類などの多環式ジヒドロキシアレーンが挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を併用してもよい。
またアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどフェノール樹脂合成に通常用いられるアルデヒド類が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0112】
これらのジヒドロキシアレーン類とアルデヒド類とを、酸触媒の存在下に、ジヒドロキシアレーン類1モルに対してアルデヒド類を0.3モル〜0.9モル用いて反応させることが好ましい。より好ましくはアルデヒド類を0.4モル〜0.8モル用いる。
アルデヒド類を0.3モル以上用いることで、ジベンゾキサンテン誘導体の含有率を高くすることができ、さらに未反応ジヒドロキシアレーン類の量を抑制し、樹脂の生成量を多くすることができる傾向がある。またアルデヒド類が0.9モル以下であると、反応系中でのゲル化を抑制し、反応の制御が容易になる傾向がある。
【0113】
酸触媒として使用される酸としては、シュウ酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及びメタンスルホン酸などの有機酸類、並びに塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸類を挙げることができる。これらの酸は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
酸触媒の使用量は例えば、用いるジヒドロキシアレーン類1モルに対して、0.0001モル〜0.1モルとすることが好ましい。より好ましくは0.001〜0.05モル用いる。酸触媒の使用量が0.0001モル以上であると、120〜180℃で分子内脱水閉環を行う工程が短時間になる傾向がある。また0.1モル以下であると、触媒除去の工程がより容易になる傾向があり、半導体用途などでイオン性不純物を嫌う系への適用が容易になる。
【0114】
前記エポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、特定硬化剤以外のその他の硬化剤をさらに含んでもよい。その他の硬化剤としては、封止用、接着用エポキシ樹脂組成物等に一般に使用される硬化剤から適宜選択することができる。その他の硬化剤として具体的には例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、及びアミノフェノール等のフェノール類;α−ナフトール、β−ナフトール、及びジヒドロキシナフタレン等のナフトール類;前記フェノール類及びナフトール類からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、及びサリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;フェノール類及びナフトール類からなる群より選ばれる少なくとも1種とシクロペンタジエンとから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、及びジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0115】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるその他の硬化剤の含有率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、適宜選択される。
【0116】
前記エポキシ樹脂組成物は、特定硬化剤を構成するフェノール性化合物であるモノマーを含んでいてもよい。特定硬化剤を構成するフェノール性化合物であるモノマーの含有比率(以下、「モノマー含有比率」ということがある)としては特に制限はないが、5〜80質量%であることが好ましく、15〜60質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0117】
モノマー含有比率が20質量%以上であることで、フェノール樹脂の粘度上昇を抑制し、無機充填剤の密着性がより向上する。また50質量%以下であることで、硬化の際における架橋反応により、より高密度な高次構造が形成され、優れた熱伝導率と耐熱性が達成できる。
【0118】
尚、特定硬化剤を構成するフェノール性化合物のモノマーとしては、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノンを挙げることができ、少なくともレゾルシノールをモノマーとして含むことが好ましい。
【0119】
また前記エポキシ樹脂組成物における前記硬化剤の含有比率としては、熱伝導率、電気絶縁性、Bステージシートの可とう性及び可使時間の観点から、エポキシ樹脂の総量に対する前記硬化剤の含有比率が、当量基準で.95以上1.25以下であることが好ましく、1.00以上1.25以下であることがより好ましく、1.00以上1.22以下であることがさらに好ましく、吸湿時の絶縁性の観点から、1.00以上1.20以下であることがさらに好ましく、1.00以上1.10以下であることが特に好ましい。
【0120】
ここで当量基準とは、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数と、該エポキシ基と1:1で反応する硬化剤の官能基数(好ましくは水酸基数)とを基準にして、エポキシ樹脂と硬化剤の含有比率を規定することを意味する。
また、エポキシ樹脂の総含有量とは、前記特定エポキシ樹脂、及び、前記特定エポキシ樹脂以外のその他のエポキシ樹脂の総含有量を意味する。
従って、前記硬化剤がフェノール樹脂の場合、上記当量基準の含有比率は具体的には、下記式より算出される。
式 含有比率(フェノール樹脂/エポキシ樹脂) = Σ(フェノール樹脂量/フェノール樹脂の水酸基当量)/Σ(エポキシ樹脂量/エポキシ樹脂のエポキシ当量)
【0121】
(C)無機充填剤
前記エポキシ樹脂組成物は、無機充填剤の少なくとも1種を含む。無機充填剤は、当該技術分野で通常用いられる無機充填剤から適宜選択して用いることができる。具体的には例えば、非導電性のものとして、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。また導電性のものとして、金、銀、ニッケル、銅等を挙げることができる。これらは1種類単独で又は2種類以上の混合系で使用することができる。
これらの中でも熱伝導性、電気絶縁性、Bステージシートの可とう性の観点から、アルミナであることがより好ましい。
【0122】
前記無機充填剤は、単一ピークを有する粒度分布を示す無機充填剤であってもよく、異なる粒度分布を示す複数種類の無機充填剤を組合せたものであってもよい。中でも熱伝導性の観点から、それぞれが異なる粒度分布を示す3種類以上の無機充填剤を組合せたものであることが好ましく、それぞれが異なる粒度分布を示す3種類以上のアルミナ群を組合せたものであることがより好ましい。
無機充填剤が、例えばそれぞれが異なる粒度分布を示す3種類の無機充填剤を組み合わせたものである場合、前記エポキシ樹脂組成物に含まれる無機充填剤の粒度分布は、3種類の無機充填剤のそれぞれに対応する少なくとも3つのピークを有する。また、それぞれのピークのピーク面積は、それぞれの無機充填剤の含有率に応じたものとなっている。
【0123】
前記無機充填剤が複数種類のアルミナ粒子群を組合せたものである場合、その混合割合は、組合せるアルミナ粒子群の数やそれぞれのアルミナ粒子群の平均粒径等に応じて適宜選択することができる。
なかでも、重量累積粒度分布の小粒径側からの累積50%に対応する粒子径D50が7μm以上35μm以下である第一のアルミナ群と、前記粒子径D50が1μm以上7μm未満である第二のアルミナ群と、前記粒子径D50が1μm未満である第三のアルミナ群とを含み、前記第一のアルミナ群、第二のアルミナ群、及び第三のアルミナ群の総質量中における、前記第一のアルミナ群の含有率が60質量%以上70質量%以下、且つ前記第二のアルミナ群の含有率が15質量%以上30質量%以下、且つ前記第三のアルミナ群の含有率が1質量%以上25質量%以下であり、前記第三のアルミナ群に対する前記第二のアルミナ群の含有比率(第二のアルミナ群/第三のアルミナ群)が、質量基準で0.9以上1.7以下であることが好ましい。
【0124】
さらに好ましくは、第三のアルミナ群に対する前記第二のアルミナ群の含有比率(第二のアルミナ群/第三のアルミナ群)が、質量基準で0.9以上1.1以下である。このように第三のアルミナ群が第二のアルミナ群とほぼ同量で含まれることにより、熱伝導性を損なうことなく、Bステージシートの柔軟性を高め、流動性をより最適なレベルにすることができる。
さらに、前記第二のアルミナ群に対する前記第一のアルミナ群の含有比率(第一のアルミナ群/第二のアルミナ群)が、質量基準で2.0以上5.0以下であることがより好ましく、シート中の空隙を低減させる観点から、2.5以上4.0以下であることがより好ましい。第一のアルミナ群を第二のアルミナ群に対して上記の範囲で含むことにより、高い熱伝導率と分散性を満足することができる。
【0125】
ここで無機充填材剤(好ましくはアルミナ)の粒子径D50は、レーザー回折法を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。レーザー回折法を用いた粒度分布測定は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行なうことができる
【0126】
前記第一のアルミナ群は、重量累積粒度分布の小粒径側からの累積50%に対応する粒子径D50が7μm以上35μm以下であることが好ましい。熱伝導率と電気絶縁性の観点から、10μm以上25μm以下であることが好ましく、シートの平坦性を保つ観点から、15μm以上25μm以下であることがより好ましい。
また前記エポキシ樹脂組成物に含まれるアルミナの総質量中における第一のアルミナ群の含有率は、60質量%以上70質量%以下であることが好ましい、熱伝導率と電気絶縁性の観点から、62質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0127】
また前記第二のアルミナ群は、重量累積粒度分布の小粒径側からの累積50%に対応する粒子径D50が1μm以上7μm未満であることが好ましい。熱伝導率と電気絶縁性の観点から、2μm以上6μm以下であることが好ましく、シート中の空隙を低減する観点から、3μm以上5μm以下であることがより好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるアルミナの総質量中における第二のアルミナ群の含有率は、15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、熱伝導率と電気絶縁性の観点から、18質量%以上27質量%以下であることがより好ましく、18.5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0128】
前記第三のアルミナ群は、重量累積粒度分布の小粒径側からの累積50%に対応する粒子径D50が1μm未満であることが好ましい。熱伝導率と電気絶縁性の観点から、0.1μm以上0.8μm以下であることが好ましく、シート中の空隙を低減させる観点から、0.2μm以上0.6μm以下であることがより好ましい。
また前記エポキシ樹脂組成物に含まれるアルミナの総質量中における第三のアルミナ群の含有率は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、熱伝導率と電気絶縁性の観点から、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上18質量%以下であることがさらに好ましい。
【0129】
本発明におけるアルミナは既述の粒子径分布を有するものであれば、結晶構造等に特に制限はなく、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ等のいずれであってもよいが、前記第一から第三のアルミナ群の少なくとも1種はα−アルミナであることが好ましく、熱伝導性の観点から、α−アルミナのみから構成されることがより好ましい。
また前記第一のアルミナ群及び第二のアルミナ群は、熱伝導性の観点から、α−アルミナの単結晶粒子からなるアルミナであることがさらに好ましい。
一方前記第三のアルミナ群は、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、又はθ−アルミナであることが好ましく、α−アルミナであることがより好ましく、熱伝導性の観点から、α−アルミナの単結晶粒子からなるアルミナであることがさらに好ましい。
【0130】
前記第一から第三のアルミナ群としては、市販のものから適宜選択することができる。また、遷移アルミナ又は熱処理することにより遷移アルミナとなるアルミナ粉末を、塩化水素を含有する雰囲気ガス中で焼成すること(例えば、特開平6−191833号公報、特開平6−191836号公報等参照)により製造したものであってもよい。
【0131】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれる無機充填剤(好ましくはアルミナ)の含有率には特に制限はない。エポキシ樹脂組成物を構成する固形分中、85質量%以上95質量%以下とすることができ、熱伝導率、電気絶縁性、及びシート可とう性の観点から、88質量%以上92質量%以下であることがより好ましい。
尚、エポキシ樹脂組成物中の固形分とは、エポキシ樹脂組成物を構成する成分から揮発性の成分を除去した残分を意味する。
【0132】
(D)エラストマ
前記エポキシ樹脂組成物は、エラストマの少なくとも1種を含む。エラストマを含むことで、Bステージシートの柔軟性を高め、かつ圧着時の樹脂の過剰な流動性を抑制することができる。
エラストマの種類としては特に制限はなく従来公知のエラストマを耐熱性や入手性に応じて使用することができる。中でも粘度特性の観点から、重量平均分子量が10万以上80万以下のエラストマであることが好ましく、30万以上70万以下のエラストマであることがより好ましく、40万以上65万以下のエラストマであることがさらに好ましい。
【0133】
またエラストマは、エポキシ樹脂との相性の観点から、アクリル系エラストマであることが好ましく、メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸グリシジル共重合体であるアクリル系エラストマであることがより好ましい。
さらにニトリルゴム成分を共重合成分に含まないアクリル系エラストマであることもまた好ましい。ニトリルゴム成分を共重合性分に含まないことで電気的信頼性をより高めることができる。
【0134】
前記エラストマは、Bステージシートの可とう性、及び流動性の観点から、重量平均分子量が10万以上80万以下のアクリル系エラストマを含むことが好ましく、重量平均分子量が30万以上70万以下のアクリル系エラストマを含むことがより好ましい。
さらに前記エラストマに含まれる重量平均分子量が10万以上80万以下のアクリル系エラストマの含有率は、前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエラストマの全質量中に70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
なお、エラストマの重量平均分子量はGPCを用いた通常の方法により測定される。
【0135】
前記エポキシ樹脂組成物が、所定の重量平均分子量を有するエラストマを含むことで、特定エポキシ樹脂及び特定硬化剤を含んでいても、半硬化状態のBステージシートの溶融粘度が低くなりすぎることを抑制できる。これによりゲル化前に高い応力(プレスなど)が加えられる場合でも、過剰なフロー性を抑制できる。
【0136】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエラストマの含有率には特に制限はない。エラストマの含有率は、エポキシ樹脂組成物を構成する固形分中、0.5質量%以上5.0質量%以下とすることができ、熱伝導率及びシート可とう性の観点から、0.5質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0137】
前記エポキシ樹脂組成物は、上記必須成分に加えて硬化促進剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。硬化促進剤を含むことでゲルタイムを所望の範囲に容易に調整することができる。
硬化促進剤としては通常使用される硬化促進剤を特に制限なく用いることができる。硬化促進剤の例を挙げれば、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザ−ビシクロ〔4.3.0〕ノネン、5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザ−ビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エン等のシクロアミジン化合物、並びに、これらの化合物に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物及びこれらの誘導体;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物及びこれらの誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン及びこれらの有機ホスフィンに無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物等の有機リン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N−メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体などが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。信頼性や成形性の観点からは有機リン化合物が好ましい。
【0138】
前記エポキシ樹脂組成物における硬化促進剤の含有率は、硬化促進効果が達成される量であれば特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂に対して0.1〜10質量%が好ましい。硬化促進剤の含有率が0.1質量%以上である、と短時間での硬化性に優れる傾向がある。また硬化促進剤の含有率が10質量%以下であると、硬化速度が速くなりすぎることが抑制され、良好な硬化物を得られる傾向がある。
【0139】
前記エポキシ樹脂組成物はカップリング剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、エポキシ樹脂と硬化剤よりなる樹脂成分と無機充填剤との接着性を高めることができる。
カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等のシランカップリング剤、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用しても構わない。
【0140】
シランカップリング剤としては、市販のものを通常使用できるが、エポキシ樹脂や硬化剤との相溶性及び樹脂層と無機充填剤との界面での熱伝導ロスを低減することを考慮すると、末端にエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基、又は水酸基を有するシランカップリング剤を用いることが好適である。
【0141】
具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができ、またSC−6000KS2に代表されるシランカップリング剤オリゴマ(日立化成コーテットサンド株式会社製)等も挙げられる。
これらシランカップリング剤は1種単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0142】
前記エポキシ樹脂組成物におけるカップリング剤の含有率は、無機充填剤に対して0.05質量%〜5質量%であることが好ましく、0.1質量%〜2.5質量%がより好ましい。カップリング剤の含有率が0.05質量%以上であると耐湿性がより向上する傾向がある。またカップリング剤の含有率が5質量%以下であると熱伝導率がより向上する傾向がある。
【0143】
前記エポキシ樹脂組成物は、分散剤を含有することができる。分散剤としては無機充填剤の分散に効果のある分散剤であれば特に制限なく使用できる。分散剤としては例えば、味の素ファインテック株式会社製アジスパーシリーズ、楠本化成株式会社製HIPLAADシリーズ、株式会社花王製ホモゲノールシリーズ等が挙げられる。これら分散剤は1種単独でも2種類以上を併用することもできる。
【0144】
本発明のBステージシートは、前記エポキシ樹脂組成物の半硬化物からなり、シート状の形状を有する。
Bステージシートは、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を離型フィルム上に塗布・乾燥して樹脂フィルムを形成する工程と、前記樹脂フィルムをBステージ状態まで加熱処理する工程とを含む製造方法で製造できる。
前記エポキシ樹脂組成物を加熱処理して形成されることで、熱伝導率及び電気絶縁性に優れ、Bステージシートとしての可とう性及び可使時間に優れる。
【0145】
本発明のBステージシートとは樹脂シートの粘度として、常温(25度)においては10
4Pa・s〜10
5Pa・sであるのに対して、100℃で10
2Pa・s〜10
3Pa・sに粘度が低下するものである。また、後述する硬化後の硬化樹脂層は加温によっても溶融することはない。尚、上記粘度は、動的粘弾性測定(周波数1ヘルツ、荷重40g、昇温速度3℃/分)によって測定される。
【0146】
具体的には例えば、PETフィルム等の離型フィルム上に、メチルエチルケトンやシクロヘキサンノン等の溶剤を添加したワニス状のエポキシ樹脂組成物を、塗布後、乾燥することで樹脂フィルムを得ることができる。
塗布は、公知の方法により実施することができる。塗布方法として、具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂層を形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調整した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等を適用することができる。例えば、乾燥前の樹脂層の厚みが50μm〜500μmである場合、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0147】
塗工後の樹脂層は硬化反応がほとんど進行していないため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しく、支持体である前記PETフィルムを除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱いが困難である。そこで、本発明は後述する加熱処理により樹脂組成物をBステージ化する。
本発明において、得られた樹脂フィルムを加熱処理する条件は、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にまで半硬化することができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。本発明において加熱処理には、熱真空プレス及び熱ロールラミネート等から選択される加熱処理方法が好ましい。これにより塗工の際に生じた樹脂層中の空隙(ボイド)を減少させることができ、また平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には例えば、加熱温度80℃〜130℃で、1秒間〜30秒間、真空下(例えば、1MPa)で加熱プレス処理することでエポキシ樹脂組成物をBステージ状態に半硬化することができる。
【0148】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm以上200μm以下とすることができ、熱伝導率、電気絶縁性及びシート可とう性の観点から、60μm以上150μm以下であることが好ましい。また、2層以上の樹脂フィルムを積層しながら熱プレスすることにより作製することもできる。
【0149】
<樹脂付金属箔>
本発明の樹脂付金属箔は、金属箔と、前記金属箔上に配置された前記エポキシ樹脂組成物の半硬化体である半硬化樹脂層とを備える。前記エポキシ樹脂組成物に由来する半硬化樹脂層を有することで、熱伝導率、電気絶縁性、可とう性に優れる。
前記半硬化樹脂層は前記樹脂組成物をBステージ状態になるように加熱処理して得られるものである。
【0150】
前記金属箔としては、金箔、銅箔、アルミニウム箔など特に制限されないが、一般的には銅箔が用いられる。
前記金属箔の厚みとしては、例えば1μm以上210μm以下とすることができる。中でも10μm以上150μm以下であることが好ましく、18μm以上105μm以下であることがより好ましい。このような金属箔を用いることで可とう性がより向上する。
また、金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5μm〜15μmの銅層と10μm〜300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0151】
樹脂付金属箔は、前記樹脂組成物を金属箔上に塗布・乾燥することにより樹脂層(樹脂フィルム)を形成し、前記樹脂層がBステージ状態(半硬化状態)になるように加熱処理することで製造することができる。
【0152】
樹脂付金属箔の製造条件は特に制限されないが、乾燥後の樹脂層においては、金属基板作成時の電気絶縁性や外観の観点から、樹脂ワニスに使用した有機溶媒が80質量%以上揮発していることが好ましい。乾燥温度は80℃〜180℃程度であり、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで決めることができ、特に制限はない。樹脂ワニスの塗布量は、乾燥後の樹脂層の厚みが50μm〜200μmとなるように塗布することが好ましく、60μm〜150μmとなることがより好ましい。
尚、樹脂層の形成方法、加熱処理条件は既述の通りである。
【0153】
<金属基板>
本発明の金属基板は、金属支持体と、前記金属支持体上に配置された前記エポキシ樹脂組成物の硬化物である硬化樹脂層と、前記硬化樹脂層上に配置された金属箔と、を備える。金属支持体と金属箔との間に配置された硬化樹脂層が、前記エポキシ樹脂組成物を硬化状態になるように加熱処理して形成されたものであることで、接着性、熱伝導率、電気絶縁性に優れる。
【0154】
前記金属支持体は目的に応じて、その素材及び厚み等が適宜選択される。具体的には例えば、アルミニウム、鉄等の金属を用い、加工性の観点から、厚みを0.5mm以上5mm以下とすることが好ましい。
【0155】
また硬化樹脂層上に配置される金属箔は、前記樹脂付金属箔における金属箔と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0156】
本発明の金属基板は、例えば以下のようにして製造することができる。アルミニウム等の金属支持体上に、前記エポキシ樹脂組成物を上記と同様にして塗布・乾燥することで樹脂層を形成し、さらに樹脂層上に金属箔を配置して、これを加熱・加圧処理して、樹脂層を硬化することで製造することができる。また、金属支持体上に、前記樹脂付金属箔を樹脂層が金属支持体に対向するように張り合わせた後、これを加熱・加圧処理して、樹脂層を硬化することで製造することもできる。
【0157】
前記樹脂層を硬化する加熱・加圧処理の条件は、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択される。例えば、加熱温度が80℃〜250℃で、圧力が0.5MPa〜8.0MPaであることが好ましく、加熱温度が130℃〜230℃で、圧力が1.5MPa〜5.0MPaであることがより好ましい。
【0158】
<LED基板>
本発明のLED基板100は、
図8及び
図9に概略を示すように金属支持体14と、前記金属支持体上に配置された前記エポキシ樹脂組成物の硬化物である硬化樹脂層12と、前記硬化樹脂層12上に配置された金属箔からなる回路層10と、前記回路層上に配置されたLED素子20と、を備える。
金属支持体上に接着性、熱伝導率及び電気絶縁性に優れる前記硬化樹脂層が形成されていることで、LED素子から放出される熱を効率的に放熱することが可能になる。
【0159】
本発明のLED基板は、例えば、上記のようにして得られる金属基板上の金属箔に回路加工して回路層を形成する工程と、形成された回路層上にLED素子を配置する工程と、を含む製造方法で製造することができる。
金属基板上の金属箔に回路加工する工程には、フォトリソ等の通常用いられる方法を適用することができる。また回路層上にLED素子を配置する工程についても、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。
【実施例】
【0160】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0161】
(硬化剤1の合成)
撹拌機、冷却器、温度計を備えた2Lのセパラブルフラスコに、カテコール220g、37%ホルムアルデヒド81.1g、シュウ酸2.5g、水100gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で3時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を150℃に昇温した。150℃を保持しながら12時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤1であるフェノール樹脂を得た。
得られた硬化剤1について、FD−MSにより構造を確認したところ、一般式(IIa)で表される部分構造及び一般式(IIb)で表される部分構造の存在が確認できた。
【0162】
硬化剤1の合成時における、重量平均分子量の変化を
図1に、単量体、2量体、3量体及びその他(4量体以上)の含有率(分子の核体数)の変化を
図2に示した。また得られたフェノール樹脂のGPCチャートを
図3に示した。
なお、
図2の含有率の変化は、一定時間毎に生成物を取り出し、GPCを行って得られた
図3のようなチャートから求めたもので、単量体、2量体、3量体及び4量体以上とは
図3に示すGPCチャートの最後のピークを単量体、最後から2番目のピークを2量体、最後から3番目のピークを3量体、それ以前を4量体以上として、ピーク面積から含有率を求めたものである。よって、2量体、3量体と言っても全て同じ成分というわけではなく、それぞれがフェノール樹脂混合物と考えられる。
【0163】
反応が進むと
図1に示すように重量平均分子量が低下している点、
図2に示すように安定な2量体、3量体が生成している点、そして水酸基当量が理論値(60前後)に対して大きい点、カテコールを用いた点等から、前記一般式(IIa)で表される部分構造を有するフェノール樹脂及び一般式(IIb)で表される部分構造を有するフェノール樹脂の混合物が得られたと考えられる。
なお、上記反応条件では、前記一般式(IIa)で表される部分構造を有する化合物が最初に生成し、これが更に脱水反応することで、前記一般式(IIb)で表される部分構造を有する化合物が得られたと考えられる。
【0164】
(硬化剤2の合成)
撹拌機、冷却器、温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコにレゾルシノール462g、カテコール198g、37%ホルムアルデヒド316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤2であるフェノール樹脂を得た。
得られた硬化剤2について、FD−MSにより構造を確認したところ、一般式(IIa)で表される部分構造及び一般式(IIb)で表される部分構造の存在が確認できた。
【0165】
(硬化剤3の合成)
撹拌機、冷却器、温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコにレゾルシノール627g、カテコール33g,37%ホルマリン316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤3であるフェノール樹脂を得た。
また、得られた硬化剤3について、FD−MSにより構造を確認したところ、一般式(IIa)〜(IId)で表される部分構造すべての存在が確認できた。
【0166】
硬化剤3の合成時における、重量平均分子量の変化を
図4に、単量体、2量体、3量体及び4量体以上の含有率の変化を
図5に示した。また得られたフェノール樹脂のGPCチャートを
図6に示した。
カテコール及びレゾルシノールを用いているため、一般式(IIa)〜(IId)で表される部分構造を有するフェノール樹脂の混合物が得られたと考えられる。
なお、上記反応条件では一般式(IIa)で表される部分構造を有する化合物が最初に生成し、これが更に脱水反応することで一般式(IIb)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物が生成すると考えられる。
【0167】
なお、上記で得られた硬化剤については、物性値の測定を次のようにして行った。
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、株式会社日立製作所製高速液体クロマトグラフィL6000及び島津製作所製データ解析装置C−R4Aを用いて行なった。分析用GPCカラムは、東ソー株式会社製G2000HXL及びG3000HXLを使用した。試料濃度は0.2質量%、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速1.0ml/minで測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値で数平均分子量等を計算した。
【0168】
水酸基当量は、塩化アセチル−水酸化カリウム滴定法により測定した。尚、滴定終点の判断は溶液の色が暗色の為、指示薬による呈色法ではなく、電位差滴定によって行った。具体的には、測定樹脂の水酸基をピリジン溶液中塩化アセチル化した後その過剰の試薬を水で分解し、生成した酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液で滴定したものである。
それぞれの硬化剤の物性値を以下に示す。
【0169】
硬化剤1:前記一般式(IIa)及び(IIb)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物であり、Arが、前記一般式(IIIa)においてR
11=水酸基であり、R
12=R
13=水素原子である1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基である硬化剤(水酸基当量112、数平均分子量400、重量平均分子量550)を含むフェノール樹脂組成物であった。
【0170】
硬化剤2:前記一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物であり、Arが、前記一般式(IIIa)においてR
11=水酸基であり、R
12=R
13=水素原子である1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基又は1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基である硬化剤(水酸基当量108、数平均分子量540、重量平均分子量1,000)を含むフェノール樹脂組成物であった。
【0171】
硬化剤3:前記一般式(IIa)〜(IId)のうちの少なくとも1つで表される部分構造を有する化合物の混合物であり、Arが、前記一般式(IIIa)においてR
11=水酸基であり、R
12=R
13=水素原子である1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基であり、低分子希釈剤として単量体成分(レゾルシノール)を35%含む硬化剤(水酸基当量62、数平均分子量422、重量平均分子量564)を含むフェノール樹脂であった。
【0172】
比較硬化剤1:水酸基当量105のフェノールノボラック樹脂(明和化成株式会社製、商品名「H−100」)。
比較硬化剤2:水酸基当量180のナフトールノボラック樹脂(東都化成株式会社製、商品名「SN−170L」。
【0173】
<実施例1>
ポリプロピレン製の1L蓋付き容器中に、無機充填剤として、粒子径D50が18μmであるアルミナ(住友化学株式会社製、スミコランダムAA18)を56.8g(63%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が3μmであるアルミナ(住友化学株式会社製、スミコランダムAA3)を20.3g(22.5%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が0.4μmであるアルミナ(住友化学株式会社製、スミコランダムAA04)を13.1g(14.5%(対アルミナ総質量))とを秤量し、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、KBM403)を0.10g、溶剤としてメチルエチルケトン(和光純薬株式会社製)を13.4g、分散剤(楠本化成株式会社製、ED−113)を0.18g、硬化剤1を2.9g(固形分)、エラストマとして重量平均分子量61万のメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/メタクリル酸グリシジル共重合体系アクリルエラストマ(ナガセケムテックス製、HTR860−P3−#25)を0.08g加えて攪拌した。さらにビフェニル骨格を有する2官能エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、YL6121H、エポキシ当量172g/eq.)を5.9g、イミダゾール化合物(硬化促進剤、四国化成工業株式会社製、2PZ−CN)を0.012g加えた。さらに、直径5mmのジルコニア製ボールを500g投入し、ボールミル架台上で100rpmで48時間攪拌した後、ジルコニア製ボールを濾別し、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0174】
上記で得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を、250μmのギャップを有するアプリケーター、及び、テーブルコーター(テスター産業株式会社製)を用いて、PETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、A53)上に塗布し、100℃で20分間乾燥を行なった。乾燥後の膜厚は100μmであった。乾燥後の樹脂層上にPETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、A53)を載置した。
次いで真空ラミネータ(名機製作所社製)を用い、130℃、真空度1MPa下において15秒間真空プレスを行って、シート成形物(Bステージシート)を得た。
得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0175】
[評価]
上記で得られたシート成形物を、2枚の2mm厚のステンレス板の間に挟み、箱型乾燥機中において140℃で2時間、さらに190℃で2時間処理してシート硬化物を得た。得られたシート硬化物について以下の評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0176】
(熱伝導率)
得られたシート硬化物の熱伝導率を、熱拡散率・熱伝導率測定装置(アイフェイズ・モバイル、アイフェイズ社製)を用いて、温度波熱分析法により測定した。
【0177】
(電気絶縁性)
得られたシート硬化物を直径25mmの電極間に挟み、HAT−300−100RHO型絶縁破壊電圧測定装置(山崎産業社製)を用いて、交流印加(500V/秒)の条件で最低絶縁耐圧を測定した。
【0178】
(アルミナ粒子径)
ワニス状の樹脂組成物について、その0.5gを50gのメタノールに分散し、適量をレーザー回折散乱粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS230)に投入し、樹脂組成物中のアルミナの粒度分布測定を行った。
【0179】
(Bステージシートの可とう性)
Bステージシートの可とう性を以下のようにして評価した。
作製したBステージシートを長さ100mm、幅10mmに切出し、表面のPETフィルムを除去したものを評価用サンプルとした。アルミ製で、直径が20mm〜140mmの20mm刻みの円板を多段に重ねた治具にサンプルをあてがい、25℃において破損せずに曲げられる最小径を測定し、下記評価基準に従ってBステージシートの可とう性を評価した。
〜評価基準〜
A:最小半径が20mmであった。
B:最小半径が40mm又は60mmであり、実用上の限界だった。
C:最小半径が80mm以上であった。
【0180】
<実施例2>
実施例1において、無機充填剤として、粒子径D50が20μmであるアルミナ(昭和電工株式会社製、AS−20)を62.0g(69%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が3μmであるアルミナ(住友化学製、スミコランダムAA3)を16.8g(19%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が0.4μmであるアルミナ(住友化学製、スミコランダムAA04)を10.7g(12%(対アルミナ総質量))とを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0181】
<実施例3>
実施例1において、無機充填剤として、粒子径D50が30μmであるアルミナ(新日鉄マテリアルズ株式会社マイクロン社製、AL35−63)を49.3g(63%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が4.2μmであるアルミナ(新日鉄マテリアルズ株式会社マイクロン社製、AX3−32)を14.1g(18%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が0.45μmであるアルミナ(日本軽金属株式会社製、LS235)を13.3g(17%(対アルミナ総質量))と、粒子径D50が0.7μmであるアルミナ(アドマテックス社製、AO802)を1.57g(2%(対アルミナ総質量))とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0182】
<実施例4>
実施例1において、硬化剤1の代わりに硬化剤2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0183】
<実施例5>
実施例2において、硬化剤1の代わりに硬化剤2を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0184】
<実施例6>
実施例3において、硬化剤1の代わりに硬化剤2を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0185】
<実施例7>
実施例1において、硬化剤1の代わりに硬化剤3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0186】
<実施例8>
実施例2において、硬化剤1の代わりに硬化剤3を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0187】
<実施例9>
実施例3において、硬化剤1の代わりに硬化剤3を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性に優れていた。
【0188】
<比較例1>
実施例1において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤1(軟化点85℃、水酸基当量105のフェノールノボラック樹脂、明和化成株式会社製、商品名「H−100」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0189】
<比較例2>
実施例2において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤1(軟化点85℃、水酸基当量105のフェノールノボラック樹脂、明和化成株式会社製、商品名「H−100」)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0190】
<比較例3>
実施例3において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤1(軟化点85℃、水酸基当量105のフェノールノボラック樹脂、明和化成株式会社製、商品名「H−100」)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0191】
<比較例4>
実施例1において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤2(軟化点85℃、水酸基当量180のナフトールノボラック樹脂(東都化成株式会社製、商品名「SN−170L」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0192】
<比較例5>
実施例2において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤2(軟化点85℃、水酸基当量180のナフトールノボラック樹脂(東都化成株式会社製、商品名「SN−170L」)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0193】
<比較例6>
実施例3において、硬化剤1の代わりに比較硬化剤2(軟化点85℃、水酸基当量180のナフトールノボラック樹脂(東都化成株式会社製、商品名「SN−170L」)を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0194】
<比較例7>
実施例7において、エポキシ樹脂としてビフェニル骨格を有さない2官能エポキシ樹脂(ダウケミカル社製、DER332、エポキシ当量175g/eq.)に変更したこと以外は実施例7と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性はB評価であった。
【0195】
<比較例8>
実施例8において、エポキシ樹脂としてビフェニル骨格を有さない2官能エポキシ樹脂(ダウケミカル社製、DER332、エポキシ当量175g/eq.)に変更したこと以外は実施例8と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足はB評価であった。
【0196】
<比較例9>
実施例9において、エポキシ樹脂としてビフェニル骨格を有さない2官能エポキシ樹脂(ダウケミカル社製、DER332、エポキシ当量175g/eq.)に変更したこと以外は実施例9と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足はB評価であった。
【0197】
<比較例10>
実施例7において、エラストマを添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0198】
<比較例11>
実施例8において、エラストマを添加しなかったこと以外は実施例8と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0199】
<比較例12>
実施例9において、エラストマを添加しなかったこと以外は実施例9と同様にして、ワニス状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたワニス状のエポキシ樹脂組成物を用いてシート成形物を得て、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示した。
また得られたシート成形物は可とう性が満足できるものでなかった。
【0200】
【表1】
【0201】
表1中、「−」は含有していないことを示す。
表1から、本発明のBステージシートの硬化物は、優れた熱伝導性と優れた電気絶縁性を示すことが分かる。またBステージシートの可とう性に優れることが分かる。
【0202】
日本出願2010−152346号及び日本出願2010−152347号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。