特許第5761244号(P5761244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5761244-液晶組成物 図000007
  • 特許5761244-液晶組成物 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761244
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】液晶組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/54 20060101AFI20150723BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C09K19/54 B
   C09K19/54 Z
   G02F1/13 500
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-75836(P2013-75836)
(22)【出願日】2013年4月1日
(62)【分割の表示】特願2008-522608(P2008-522608)の分割
【原出願日】2007年6月27日
(65)【公開番号】特開2013-166950(P2013-166950A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2013年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2006-176079(P2006-176079)
(32)【優先日】2006年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】新山 聡
(72)【発明者】
【氏名】川上 玲美
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/019379(WO,A1)
【文献】 特表2007−504484(JP,A)
【文献】 特開2003−082352(JP,A)
【文献】 特開2002−080478(JP,A)
【文献】 特開2002−080851(JP,A)
【文献】 特開2002−302487(JP,A)
【文献】 特開2002−179669(JP,A)
【文献】 特開平02−272090(JP,A)
【文献】 国際公開第94/023331(WO,A1)
【文献】 特開2002−179633(JP,A)
【文献】 特開2003−192808(JP,A)
【文献】 特開平10−195445(JP,A)
【文献】 特開2000−178557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/00−60
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カイラルネマティック液晶と硬化物との複合体を備え、電圧印加/電圧非印加の切り換えにより前記カイラルネマティック液晶の配向が変化する液晶光学素子用の液晶組成物であって、
非硬化性化合物であるネマティック液晶と、
非硬化性化合物である第1のカイラル剤と、
前記第1のカイラル剤とは旋光性の方向が互いに異なりかつ硬化性化合物である第2のカイラル剤とを含有し、
硬化性化合物の総量が当該液晶組成物全体に対して0.1〜20質量%であり、
全体としてネマティック相を示し、
硬化性化合物を硬化させた場合、前記硬化物が形成されるとともに、前記第2のカイラル剤が旋光性を喪失し、液晶相がネマティック相からカイラルネマティック相へ相変化して前記カイラルネマティック液晶が形成される、液晶組成物。
【請求項2】
カイラル剤ではない硬化性化合物をさらに含有する、
請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
少なくとも一方の内面に、プレチルト角10°以下の配向膜を備えた一対の基板間に挟持された場合、ツイスト角が360°以下となる、
請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
誘電率異方性が正である、
請求項1〜のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液晶組成物、これを用いた液晶光学素子およびその液晶光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶光学素子は、低消費電力、薄型、軽量等の利点を有するため、携帯電話、デジタルカメラ、携帯情報端末、テレビ等の多くの電子機器に広く用いられている。その中で、近年、電界により液晶分子の配列を制御して、光散乱状態を変化させる液晶光学素子が提案されている。
【0003】
また、LCPC(Liquid Crystal Polymer Composite)、PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)、NCAP(Nematic Curvilinear Aligned Phase)等、液晶と硬化物との複合体を備えた液晶光学素子(以下、液晶/硬化物複合体素子という)が知られている(特許文献1参照)。一般的に、液晶/硬化物複合体素子では、硬化物相中にネマティック液晶相が均一に分散しており、電圧を印加して硬化物相と液晶相の屈折率の一致/不一致を切替えることにより、光の透過−散乱を制御している。この液晶/硬化物複合体素子は、原理的に偏光板を必要としないため、光透過率が高い。このため、例えば、自動車のサンルーフなどに利用される光シャッター、文字や模様を表示できるショーウィンドウ、各種掲示板、自動車のインストルメントパネル、ウィンドウ等の用途に適している。このような液晶/硬化物複合体素子の一例として、電圧非印加時に透明状態を示す素子も報告されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、上記液晶/硬化物複合体素子では、通常20mass%以上、好ましくは30mass%以上の硬化物の含有を必須とするものが多い(特許文献3、特許文献4参照)。ここで、液晶相が複数の屈折率を有するのに対し、硬化物相は通常単一の屈折率のみを有するため、大型の窓ガラスに適用する場合などには、屈折率が一致している方向以外では、透過時のヘイズ値が大きいという問題があった。すなわち、透過時に、パネルに対し垂直方向から見た場合、パネルは透明に見えるが、斜め方向から見た場合、パネルが充分に透明に見えないという問題があった。また、重合相分離方式(特許文献3、特許文献4の実施例に記載されたように、液晶に比較してモノマーを多量に含む液晶混合物を重合させることにより、液晶と硬化物とを相分離させる方式)により製造される液晶/硬化物複合体素子では、高い耐熱温度すなわち高い相転移温度Tの液晶相が要求される場合、重合前に均一な液晶混合物から液晶相が析出するのを防止するため、液晶混合物を加熱しながら重合させる必要があった。上記2つの問題点を回避するため、可視光線を選択反射する螺旋ピッチを有するカイラルネマティック液晶に微量の硬化性化合物を添加し、カイラルネマティック液晶のフォーカルコニック配向を安定化させ、電圧非印加時に散乱状態としたPSCT(Polymer Stabilized Cholesteric Texture)が開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4688900号明細書
【特許文献2】特開2000−119656号公報
【特許文献3】米国特許第4834509号明細書
【特許文献4】米国特許第5200845号明細書
【特許文献5】米国特許第5437811号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5で開示されるPSCTでは、電圧非印加時に光散乱状態を示し、電圧印加で透明状態となる液晶光学素子を提供する場合、液晶組成物に電圧を印加しながら硬化性化合物を硬化させる必要があった。一方、電圧非印加時に透明状態を示し、電圧印加で散乱状態となる液晶光学素子を提供する場合、液晶組成物が接する基板面をラビング処理する必要があった。そのため、特に大型の液晶光学素子では、全体を均一に製造することが困難であり、生産性に劣る問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、透過状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子のための液晶組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたものであり、以下の発明を提供する。
[1]カイラルネマティック液晶と硬化物との複合体を備え、電圧印加/電圧非印加の切り換えにより前記カイラルネマティック液晶の配向が変化する液晶光学素子用の液晶組成物であって、非硬化性化合物であるネマティック液晶と、非硬化性化合物である第1のカイラル剤と、前記第1のカイラル剤とは旋光性の方向が互いに異なりかつ硬化性化合物である第2のカイラル剤とを含有し、硬化性化合物の総量が当該液晶組成物全体に対して0.1〜20質量%であり、全体としてネマティック相を示し、硬化性化合物を硬化させた場合、前記硬化物が形成されるとともに、前記第2のカイラル剤が旋光性を喪失し、液晶相がネマティック相からカイラルネマティック相へ相変化して前記カイラルネマティック液晶が形成される、液晶組成物。これにより、透明状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子が得られる。
【0009】
[2]硬化前の前記液晶組成物は、カイラル剤ではない硬化性化合物をさらに含有する、
[1]に記載の液晶組成物。これにより、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することができる。
【0011】
]少なくとも一方の内面に、プレチルト角10°以下の配向膜を備えた一対の基板間に挟持された場合、ツイスト角が360°以下となる、[1]または[2]に記載の液晶組成物。これにより、確実に、透明状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子が得られる。
【0012】
]硬化前の前記液晶組成物の誘電率異方性が正である、[1]〜[]のいずれか1項に記載の液晶組成物。これにより、電圧印加時に透明状態となる液晶光学素子が得られる。

【発明の効果】
【0013】
本発明により、透過状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子のための液晶組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の製造フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、簡略化されている。以下、液晶と硬化物との複合体を「液晶/硬化物複合体」、または、単に「複合体」とも記載する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子1は、第1の透明基板11、第1の透明電極12、第1の絶縁膜13、第1の配向膜14、第2の透明基板21、第2の透明電極22、第2の絶縁膜23、第2の配向膜24、シール材30、スペーサ40および複合体層50を備えている。
【0017】
具体的には、液晶光学素子1は、第1の透明基板11と第2の透明基板21とが互いに対向し、第1および第2の透明基板11、21の間で液晶/硬化物の複合体層50を挟持して構成されている。
【0018】
第1および第2の透明基板11、21は絶縁基板であり、例えば、ガラス基板や、ポリカーボネート、アクリル樹脂などからなる樹脂基板または樹脂フィルム基板等が用いられる。ただし、本実施の形態では、第1および第2の透明基板11、21としたが、必ずしも両方の基板が透明である必要はなく、一方のみが透明であってもよい。
また、これらの絶縁基板の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。絶縁基板の厚さは適宜選択され、一般には0.4〜10mmが好ましい。
【0019】
第1の透明基板11の内面上には、複数の第1の透明電極12がストライプ状に形成されている。一方、第2の透明基板21の内面上には、複数の第2の透明電極22がストライプ状に形成されている。なお。複数の第2の透明電極22は、複数の第1の透明電極12に対して略直交して交差するように形成されている。第1および第2の透明電極12、22は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)からなる。第1および第2の透明電極12、22のうち、いずれか一方は、Alや誘電体多層膜の反射電極であってもよい。もちろん、電極の形状は直交するストライプ状のものに限られることはなく、基板面全体が一つの電極であったり、特定のマークやキャラクターを表示できるものでもよい。
【0020】
第1および第2の絶縁膜13、23は、各々第1および第2の透明電極12、22を覆うように形成されている。第1および第2の絶縁膜13、23は、電気絶縁性を向上させるためのものであり、SiO、TiO、Al等の金属酸化物やその他の絶縁性物質からなる。なお、第1および第2の絶縁膜13、23はなくてもよい。
【0021】
第1および第2の絶縁膜13、23上には各々第1および第2の配向膜14、24が形成されている。配向膜14、24は、複合体層50内の液晶を所定の方向に配向させるため、液晶と接するように形成されている。ここで、透明基板11、21のそれぞれに形成された配向膜のうち、少なくとも一方は、液晶を透明基板11、21の内面に垂直に配向させることが好ましい。具体的には、プレチルト角60°以上の配向膜とすることが好ましく、プレチルト角80°以上の配向膜がより好ましく、プレチルト角85°以上の配向膜が特に好ましい。これにより、ラビング処理を行わなくても、全体としてネマティック相を示す液晶組成物を均一に配向させることができる。これにより、硬化後の液晶光学素子の光学特性を、大面積の場合であっても均一にすることができる。
【0022】
シール材30は、第1および第2の透明基板11、21の間において、第1および第2の透明基板11、21の周縁に沿って形成されている。第1および第2の透明基板11、21は、シール材30により接合されている。シール材30の材料には、例えば、紫外線硬化樹脂や熱硬化性樹脂が用いられる。第1および第2の透明基板11、21の内面間距離すなわち複合体層50の厚さ(セルギャップ)は一定であり、シール材30の高さは、第1および第2の透明基板11、21の内面間の距離と等しくなっている。
図1の液晶光学素子1はフラットな形状であるが、本発明の液晶光学素子はフラットな形状に限られず、用途によっては一部または全部に曲率を有していてもよい。すなわち、3次元の形状であってもよい。ただし、この場合においても、第1および第2の透明基板11、12の内面間距離すなわち複合体層50の厚さ(セルギャップ)は一定である。
【0023】
スペーサ40は、第1および第2の透明基板11、21とシール材30に囲われた空間内に、均一に散布されている。スペーサ40は、セルギャップを制御する。セルギャップすなわちスペーサ40の直径は2〜50μmが好ましく、4〜30μmがさらに好ましい。セルギャップが小さすぎると透過状態と散乱状態のコントラストが低下し、大き過ぎると駆動電圧が上昇する。スペーサ40は、例えば、ガラス粒子、シリカ粒子、架橋したアクリル粒子等の硬質な材料からなる。なお、球状でなく、リブ状のスペーサを一方の基板に形成したものでもよい。
【0024】
複合体層50は、第1および第2の透明基板11、21とシール材30に囲われた空間(以下、セル空間ともいう)内に封入されている。複合体層50は、セル空間内に本発明の液晶組成物を充填し、セル空間内に液晶組成物が充填され、かつ液晶が配向された状態でその液晶組成物中の硬化性化合物を重合により硬化して得られる、液晶/硬化物複合体からなる。この液晶組成物中の硬化性化合物の含有率(これは、液晶/硬化物複合体中に含まれる、硬化性化合物の硬化物の含有率に実質的に等しい。)は、0.1〜20mass%であることが好ましい。0.1mass%未満では、液晶/硬化物複合体の散乱状態において、液晶相を硬化物により効果的な形状のドメイン構造に分割することができず、所望の透過−散乱特性を得ることができない。一方、20mass%を越えると、従来の液晶/硬化物複合体と同様に透過状態でのヘイズ値が増大する。また、さらに好ましくは、液晶組成物中の硬化性化合物の含有率が0.5〜10mass%であり、液晶/硬化物複合体の散乱状態での散乱強度を高く、透過−散乱の状態が切り替わる電圧値を低くすることができる。
ただし、後述のように光学活性物質でない硬化性化合物としてメソゲン構造を有する硬化性化合物を使用することが好ましい場合は、得られる液晶相の透過状態でのヘイズ値の増大が少なく、その場合はメソゲン構造を有する硬化性化合物の含有率が10mass%を超えても良好な特性の光学素子が得られる。従って、後述のメソゲン構造を有する硬化性化合物を含む液晶組成物の場合は、硬化性化合物の総量は20mass%、特に15mass%、を上限とすることが好ましい。
【0025】
前記のように液晶組成物中の硬化性化合物の含有率は液晶組成物に対して0.1〜20mass%が好ましく、光学活性物質である硬化性化合物のHTP(Helical Twisting Power)に依存して0.1〜20mass%の範囲内において適宜選択することが好ましい。光学活性物質である硬化性化合物のHTPが大きい場合は、ネマティック液晶と非硬化性の光学活性物質との混合物からなるカイラルネマティック液晶に添加して全体としてネマティック相を示す液晶組成物を調製するために必要な光学活性物質である硬化性化合物の量は少なくてよい。たとえば、HTPが大きい(HTPが30〜60程度)光学活性物質である硬化性化合物を用いる場合、最も好ましい液晶組成物中の硬化性化合物の含有率は0.5〜5mass%である。光学活性物質である硬化性化合物のHTPが30よりも小さい場合は、前記のように0.5〜10mass%が好ましい。
【0026】
液晶組成物中の非硬化性の光学活性物質の含有量は、非硬化性の光学活性物質のHTPに依存して決まる。すなわち、非硬化性の光学活性物質のHTPが大きい場合は、液晶/硬化物複合体中の液晶(カイラルネマティック相を示す液晶)において所望のピッチを得るための非硬化性の光学活性物質の量は少なくてよい。たとえば、HTPが20〜50の非硬化性の光学活性物質を用いる場合、液晶組成物中の該光学活性物質の含有率は、0.5〜10mass%が好ましく、1〜5mass%が特に好ましい。
【0027】
本発明の液晶組成物は、旋光性の方向が互いに異なる少なくとも2種の光学活性物質とネマティック液晶とを含有し、かつ全体としてネマティック相を示す、液晶組成物である。旋光性の方向とは右旋性(dextro-rotatory)と左旋性(levo-rotatory)をいい、旋光性の方向が互いに異なるとは一方が右旋性の場合、他方が左旋性であることをいう。ネマティック液晶としては、2種類以上のネマティック液晶を組み合わせて用いてもよい。通常、ネマティック液晶に旋光性を有する光学活性物質すなわちカイラル剤を所定量以上添加すると、螺旋構造を有するカイラルネマティック液晶(コレステリック液晶ともいう)に相変化する。ここで、螺旋構造の周期すなわち螺旋ピッチpは、カイラル剤の濃度cおよびHTP(Helical Twisting Power)を用い、p=1/(c・HTP)で表現される。本発明では、互いに異なる旋光性を有する光学活性物質、具体的には右旋性のカイラル剤および左旋性のカイラル剤をネマティック液晶に添加し、pを実質的に無限大とし、液晶組成物が全体としてネマティック相を示すようにする。pが実質的に無限大であるとは、後述のようにセルギャップをdとすると、p≧dであることをいう。これにより、本発明の液晶組成物は、ネマティック液晶にカイラル剤を添加しながらも、全体としてネマティック相を示す液晶組成物である。
【0028】
通常のカイラルネマティック液晶は、プレナー配向やフォーカルコニック配向、またはその混合配向などで複数の安定配向を示すことにより、一方向の均一な液晶配向を、電界を印加しない状態で実現することは困難であった。一方、ネマテッィク相を示す液晶組成物は、配向膜により、一方向の液晶配向を容易に実現することができる。特に、プレチルト角が大きい、いわゆる垂直配向膜を用いた場合は、ラビング処理を行うことなく、液晶組成物を透明電極付き基板に対して垂直方向に均一に配向させることが容易に可能となる。ここで、ネマティック相であるとは、第1の透明基板11と第2の透明基板21間における液晶のツイスト角θとすると、θ≦360°であることをいい、θ≦180°であることが好ましい。換言すると、セルギャップdの場合、ネマティック相であるとは、螺旋ピッチp≧dであることをいい、p≧2dであることが好ましい。θ>360°すなわちp<dとなると、ネマティック液晶は、カイラルネマティック液晶の様態に近づき、配向膜による一方向の均一な液晶配向が困難になる。ネマティック液晶のツイスト角は、例えば、少なくとも片方の基板の内面にラビング処理を施したプレチルト角が10°以下となる配向膜を備えた一対の透明基板間に液晶組成物を挟持して、偏光顕微鏡観察において偏光板を回転させながら透過光を観察することで測定できる。また、くさび形状のセルに液晶組成物を挟持して、その回位線間の距離の観察によって求めることができる。
【0029】
本発明の液晶組成物中の旋光性の方向が互いに異なる少なくとも2種の光学活性物質のうち、旋光性の方向に関して一方の光学活性物質が非硬化性化合物であり、他方の光学活性物質が硬化性化合物である。この硬化性化合物は、液晶組成物を電極付き基板に挟持した後に、硬化性化合物を硬化させることにより液晶相に複数のドメインを形成する。同時に、硬化により高分子化することでカイラル剤としての旋光機能の一部または全部を喪失する。そのため、残った非硬化性のカイラル剤により、硬化性化合物の硬化の過程でネマティック液晶がカイラルネマティック液晶に相変化する。非硬化性のカイラル剤としては、例えば、メルク社製のS−811、S−1011、S−2011等が例示される。これらのカイラル剤は左旋性(levo-rotatory)を有するものである。この場合、同時に含まれる硬化性のカイラル剤としては、例えば、BASF社製のPaliocolor LC 756のような右旋性(dextro-rotatory)の旋光性化合物が好適である。もちろん、非硬化性のカイラル剤として、右旋性のものを使用し、硬化性のカイラル剤として左旋性の硬化性化合物を使用してもよい。自然界に存在する旋光性物質を原料にして旋光性化合物を準備すると比較的安価に右旋性の化合物を提供することができる。さらに、非硬化性のカイラル剤として、左旋性のものと右旋性のものを共に用いてもよく、同様に硬化性のカイラル剤も左旋性のものと右旋性のものを共に用いてもよい。硬化性化合物が硬化する前の液晶組成物が実質的にネマティック相を示し、硬化性化合物が硬化した後の液晶相がカイラルネマティック相を形成するように構成すれば、左旋性と右旋性の組合せはいずれの場合でも本発明の効果を発現させることができる。
【0030】
本発明の液晶組成物から硬化性化合物を硬化して得られる液晶は、硬化物の影響を除いて、本発明の液晶組成物から硬化性化合物(硬化性のカイラル剤以外の硬化性化合物も含む)を除いた混合物の液晶物性とほぼ等しいカイラルネマティック液晶と考えられる。従って、この混合物は液晶/硬化物複合体に要求されるカイラルネマティック液晶としての液晶物性を満たす混合物とする。この混合物に添加される硬化性のカイラル剤の旋光性の程度やその添加量は、この混合物のカイラルネマティック性を失わせてネマティック性とすることができるものである必要がある。この限りにおいて、硬化性のカイラル剤の旋光性の程度や液晶組成物中の量は、非硬化性のカイラル剤の(逆方向の)旋光性の程度や液晶組成物中の量に制約を受けるものではない。
【0031】
本発明の効果は、液晶組成物の誘電率異方性(Δε)が正の場合でも負の場合でも発現可能であり、また、基板内面に備える配向膜のプレチルト角も10°以下の場合や60°以上の場合、いずれにおいても発現できる。さらに配向膜にラビング処理を行ってもよい。
【0032】
本発明の液晶組成物から得られる液晶/硬化物複合体が電圧非印加時に均一な散乱状態を示し、電圧印加での透明状態で最もヘイズが小さく、透過−散乱のコントラストが大きいのは、正の誘電率異方性を有する当該液晶組成物をプレチルトがほぼ90°の配向膜に接するように配置して、電極付き基板に対して垂直配向させた場合である。ここで、当該液晶組成物中に含まれる硬化性を有するカイラル剤を硬化させると、硬化反応により生成する硬化物が、硬化反応の過程で出現するカイラルネマティック相を、効果的に複数の領域(ドメイン)に分割することができる。よって、電圧非印加時に散乱状態、電圧印加時に透過状態の液晶光学素子を、本発明の液晶組成物から極めて容易に得ることができる。硬化物により分割された複数のドメインは、それぞれに平均的な屈折率が異なるものと推察され、この液晶光学素子への入射光は、平均屈折率の異なる複数の液晶ドメインにより効果的に散乱される。
【0033】
本発明の液晶組成物は、特許文献5に記載のPSCTと異なり、液晶/硬化物複合体形成の過程で液晶組成物の硬化時に電圧を印加する必要がなく、電圧非印加の状態で硬化性化合物を硬化させるのみでよい。すなわち、硬化性化合物が光硬化性化合物であれば、光照射のみで液晶光学素子が得られる。また、液晶を硬化性化合物に溶解させて全体を等方相とした後に、重合相分離方式によって液晶/硬化物複合体を得る場合とは異なり、高い相転移温度Tcの液晶相が要求される場合であっても液晶組成物からの液晶相の析出を防止するために加熱する必要もない。さらに、本発明の液晶組成物から得られる液晶/硬化物複合体は、硬化物の含有率が低いため、大面積の液晶光学素子とした場合においても透過状態でのヘイズ値は低く、素子を観察する角度により透明性が良好である。
【0034】
なお、上述のように、誘電率異方性の極性は、正負どちらでもよいが、駆動電圧を低減するためには、誘電率異方性が大きい方が好ましい。また、散乱強度を高めて、透過−散乱のコントラストを改善するためには、液晶組成物の屈折率異方性(Δn)を大きくすることが好ましい。一方、誘電率異方性が大き過ぎると液晶組成物の電気絶縁性(比抵抗値)が低下するおそれがある。また、屈折率異方性が大き過ぎると、紫外線に対する耐久性が低下するおそれもある。
【0035】
さらに、本発明の液晶組成物には光学活性物質ではない硬化性化合物が含まれていてもよい。例えば、正の誘電率異方性を有する液晶にメソゲン構造を有さない硬化性化合物が含まれていると、得られる液晶相の散乱状態を安定化することができ、大面積においても均一な液晶光学素子を提供することができる。このような硬化性化合物としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルジアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルジアクリレート、ポリエーテル系ウレタンアクリレート等が例示される。光学活性化合物ではない硬化性化合物としては、さらに、メソゲン構造を有する硬化性化合物であってもよい。メソゲン構造を有する硬化性化合物としては、例えば、以下に示す化合物(特許文献2に記載の下式の式(2)や式(4)の硬化性化合物)が例示される。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
本発明の液晶組成物中の光学活性物質ではない硬化性化合物の含有量が多過ぎると、透過時のヘイズ値が大きくなるおそれがある。従って、本発明の液晶組成物における硬化性化合物の総量(光学活性化合物である硬化性化合物を含めた量)は、液晶組成物全体に対して20mass%以下、特に10mass%以下、であることが好ましい。また、前記のように、光学活性物質である硬化性化合物としてHTPが大きい(30〜60程度)の硬化性化合物を用いる場合、液晶組成物全体に対する硬化性化合物の総量は、5mass%以下であることが好ましい。
また、誘電率異方性が正の液晶組成物をプレチルト角が大きい配向膜上に設ける場合、ネマティック相を有する液晶組成物の未硬化状態での配向状態がそのまま固定化されて、電圧印加有無でのコントラストが低下することがある。従って、この場合は、本発明の液晶組成物における硬化性化合物の総量は液晶組成物全体に対して10mass%以下であることが好ましく、5mass%以下であることが特に好ましい。
【0039】
一方、負の誘電率異方性を有する液晶組成物を使用する場合には、透過−散乱のコントラストを大きくするために、プレチルト角の大きい配向膜を用い、液晶を電極付き基板に垂直となるよう配向させた状態を維持しつつ硬化性化合物を硬化させて、その配向状態を固定化させることが好ましい。そのためには、液晶組成物が上述のメソゲン構造を有する硬化性化合物を所定量含むことが好適である。この場合、メソゲン構造を有する硬化性化合物の量は、液晶組成物全体に対して3〜18mass%であることが好ましく、5〜14mass%であることが特に好ましい。ただし、この場合であっても、硬化性化合物の総量は液晶組成物全体に対して20mass%以下、特に15mass%以下、であることが好ましい。
【0040】
本発明の液晶組成物には、前記硬化性化合物の硬化を開始させる硬化剤や硬化を促すための硬化促進剤(硬化触媒など)が含まれていてもよい。特に、硬化反応を開始させる硬化剤を用いることが好ましい。硬化性化合物が重合性化合物である場合、重合開始剤を用いることが好ましい。例えば、光重合によって硬化反応を行う場合、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般的な光重合開始剤を用いることができる。硬化開始剤や硬化促進剤を使用する場合、その量は液晶組成物中の硬化性化合物の総量に対して5mass%以下であることが好ましく、3mass%であることが特に好ましい。
【0041】
さらに、コントラスト比や安定性の向上を目的として、種々の化合物を添加することもできる。例えば、コントラストの向上を目的として、アントラキノン系、スチリル系、アゾメチン系、アゾ系等の各種二色性色素を用いることができる。その場合、二色性色素は、基本的に液晶化合物と相溶し、硬化性化合物とは不相溶であることが好ましい。この他に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種可塑剤等の添加も、安定性や耐久性向上の点から好ましい。
これら種々の化合物を添加する場合、その総量は液晶組成物に対して20mass%以下、特に10mass%以下、であることが好ましい。
【0042】
次に、誘電率異方性が正の液晶組成物を、電極付き基板に垂直方向に配向させて硬化性化合物を硬化させることにより得られる液晶光学素子1の動作について説明する。第1および第2の透明電極12、22の間に電圧を印加すると、電極間の電界により正の誘電率異方性を有する液晶が垂直配向して、複合体層50は透過状態となる。一方、第1および第2の透明電極12、22の間に電圧を印加していないときは、上述の通り、硬化反応の過程で出現するカイラルネマティック液晶が電極間でランダム配向しているため、複合体層50は散乱状態となると推察される。このように電圧の印加、非印加により、散乱状態と透明状態が変化するため、所望の画像などを表示することができる。なお、負の誘電率異方性を有する液晶組成物を、電極付き基板に垂直方向に配向させて硬化性化合物を硬化させることにより得られる液晶光学素子1では、電圧印加時に散乱状態、電圧非印加時に透過状態となる液晶光学素子とすることもできる。
【0043】
次に、液晶光学素子1の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の製造フローの一例を示す図である。図2に示すように、本製造フローはST201〜ST207までの7ステップからなる。
【0044】
まず、第1および第2の透明基板11、21の内面上に第1および第2の透明電極12、22を形成するための透明電極膜を、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成する(ST201)。透明電極膜としては、上述の通り、ITOが好適である。この透明電極膜を、例えば、フォトリソグラフィ法により所望の文字や模様の形状にパターニングして、第1および第2の透明電極12、22を形成する。
【0045】
次に、第1および第2の絶縁膜13、23を、ゾルゲル法、スパッタリング法、真空蒸着法等により、各々第1および第2の透明電極12、22を覆うように形成する(ST202)。
【0046】
次に、第1および第2の絶縁膜13、23上に、各々第1および第2の配向膜14、24を形成する(ST203)。第1および第2の配向膜14、24は、ネマティック相を示す液晶組成物を一対の電極付き基板間で所定の方向に配向させるため、液晶と接するように形成する。上述の通り、透明基板11、21のそれぞれに形成された配向膜14、24のうち、少なくとも一方を、液晶を透明基板11、21の内面に垂直に配向させるように形成する。具体的には、プレチルト角60°以上の配向膜を形成することが好ましい。プレチルト角が小さい、具体的には10°以下の配向膜を使用することもできるが、液晶組成物を均一に配向させるためにはラビング処理が必要になる。
【0047】
次に、第1または第2の透明基板11、21の内面上に、散布機を用いてスペーサ40の粒子を散布する(ST204)。
【0048】
次に、第1または第2の透明基板11、21の内面上に、当該第1または第2の透明基板11、21の周縁に沿って、シール材30を塗布する(ST205)。ここで、シール材30には、紫外線硬化樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。なお、シール材30がスペーサを含んでいてもよい。
【0049】
次に、上記第1または第2の透明基板11、21を貼り合わせ、これにより形成されたセル内に液晶組成物を充填する(ST206)。ここで、2カ所以上に設けたシール材の切り欠きの一方を液晶組成物に浸し、他方より吸引する(吸引法)。また、シール材の切り欠きを1カ所以上設けたセルを真空中で液晶組成物の入った容器に切り欠き部を浸漬した状態で大気圧に戻し、セルの内圧と大気圧の差圧にてセル中に液晶組成物を充填させることもできる(真空注入法)。さらに、ODF(one-drop-fill)法(液晶滴下法、真空滴下法などとも呼ばれる。)を用いて、第1または第2の透明基板11、21の内面に、所定量の液晶組成物を滴下し、減圧下で、第1および第2の透明基板11、21の間をシール材30により貼り合わせてもよい。このODF法は、真空装置を要するが、上記吸引法や真空注入法に比べ、短時間で、液晶組成物を充填でき、大型液晶光学素子の製造に効果的である。
本発明においては、上記の方法によって透明基板の内面間に液晶組成物を挟持する。透明基板の内面間に液晶組成物が挟持された状態において、液晶組成物はネマティック相を示すので、配向膜によって液晶を容易に一方向へ配向させることができる。
なお、液晶組成物を介して第1または第2の透明基板11、21を貼り合わせる工程は、上記以外の方法を用いてもよい。
【0050】
次に、液晶組成物中の硬化性化合物を硬化させる(ST207)。本発明においては、液晶組成物が透明基板の内面間に挟持され、かつ、液晶が配向した状態において硬化性化合物を硬化させる。硬化物の硬化前において液晶は一方向に配向しているため、電極間に電圧を印加しない状態で硬化性化合物を硬化させることができる。
硬化性化合物が光硬化性化合物の場合には、紫外線光源などにより露光し、硬化させる。露光により、光硬化性化合物が硬化し、液晶/硬化物の複合体層50が形成される。また、上述のODF法の場合にシール材30として光硬化性のシール材を使用した場合、同時にシール材を硬化させることもできる。なお、シール材30に光硬化性樹脂を用いない場合、シール材の硬化は別途行う必要がある。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明にかかる実施例を示すが、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
ヘイズ値は、スガ試験機社製の直読ヘーズコンピューターを用いて測定した。
【0052】
[実施例1]
正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−002、Tc=72℃、Δn=0.246、Δε=16)に、左旋性の光学活性物質(メルク社製:S−1011、上記ネマティック液晶中のHTPは38)を、液晶組成物に対して3.0mass%添加し、螺旋ピッチが約0.82μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、右旋性の光学活性物質(BASF社製:Paliocolor LC756、上記ネマティック液晶中のHTPは56)を添加し、再び螺旋ピッチが約18μmのネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質は光硬化性化合物であり、上記液晶組成物におけるその含有率は2.0mass%である。さらに、上記液晶組成物に含まれる光硬化性化合物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加することにより、本発明にかかる液晶組成物(液晶組成物A)を得た。この液晶組成物Aについてセルギャップが6μmの場合のツイスト角を測定するため、液晶組成物Aを内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が6μm球状スペーサと共に挟持した。ここで、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。この液晶組成物Aを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Aのツイスト角は約120°であった。
【0053】
次に、透明電極としてITO薄膜(インジウム錫酸化物)を内面に設けた一対のガラス基板のITO電極上に、絶縁層としてSiO2−TiO系の金属酸化物薄膜(セイミケミカル社製:MIC−55)を約50nmの厚みに形成する。さらにその上にプレチルト角が約90°となるポリイミド薄膜からなる配向膜を形成する。一対のこのガラス基板を、直径6μmの樹脂ビーズからなるスペーサを介して対向させ、液晶組成物を注入するための孔以外をエポキシ樹脂により封止してセルを作製した。このセル内に上記液晶組成物Aを室温にて真空注入法により充填した後、注入孔を室温硬化性の封着材にて封止した。注入孔を封止した後にセルを観察したところ、セルはヘイズのほとんどない透明状態を示した。次に、室温にて、ガラス基板面に中心波長が365nmで照射強度が30W/mの紫外線をセルの両面から10分間照射して、硬化性化合物を硬化させることにより液晶光学素子を得た。
【0054】
紫外線照射後、液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、30Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。すなわち、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が得られた。上記透過状態におけるヘイズ値は2%以下であり、透明性は良好であった。さらに、透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察してもヘイズの増加はほとんど見られなかった。集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、25であった。
【0055】
本発明にかかる液晶組成物Aを用いれば、特許文献5に記載のPSCTと異なり、液晶光学素子形成の過程において、液晶組成物に電圧を印加する必要がなく、硬化性を有するカイラル剤を硬化させるのみでよい。本実施例のように、光硬化性化合物を用いれば、光照射のみにより、硬化性を有するカイラル剤が硬化して液晶を複数のドメインに分割するとともに、液晶がネマティック相からカイラルネマティック相へ変化する。これにより、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が極めて容易に得られる。また、垂直配向膜を用いることにより、ラビング処理も省略することができる。さらに、本実施例1にかかる液晶光学素子は、硬化物の含有率が低いため、透過状態でのヘイズ値は低く、透明性は素子を観察する角度によらず良好である。また、透明状態と白濁状態とのコントラストも大きい。
【0056】
[実施例2]
実施例1に用いた配向膜に代わり、液晶組成物Aと接する面のプレチルト角が10°以下で、かつ、ラビング処理を施した配向膜を用いた以外は実施例1と同様に液晶光学素子を作製した。このとき、配向膜のラビング方向がほぼ直交するようにガラス基板同士を対向させた。紫外線を照射して硬化性化合物を硬化させた後の液晶光学素子は白濁を呈した。次に同様に、上記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。すなわち、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が得られた。上記透過状態におけるヘイズ値は4%であった。透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察したところ、ヘイズは若干増加したものの、良好であった。同様に集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、12であった。
【0057】
本発明に係る液晶組成物Aを用いることにより、水平配向膜を用いた場合でも、ラビング処理を施すことにより、上記実施例1と同様、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が容易に得られる。本実施例2にかかる液晶光学素子の光学特性は、上記実施例1に比べれば、全体的にやや劣るものの良好である。
【0058】
[実施例3]
正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(Tc=94℃、Δn=0.230、Δε=15)に、左旋性の光学活性物質(上記ネマティック液晶に10mass%溶解したときのHTPは約24)を液晶組成物に対して3.5mass%添加し、螺旋ピッチが約1.2μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、硬化性を有する右旋性の光学活性物質(BASF社製:Paliocolor LC756、上記ネマティック液晶中でのHTPは55)を添加し、再び螺旋ピッチが40μm以上のネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質の上記液晶組成物におけるその含有率は1.8mass%である。さらに、上記液晶組成物に含まれる光硬化性化合物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加することにより、液晶組成物(液晶組成物B)を得た。この液晶組成物Bについてセルギャップが10μmの場合のツイスト角を測定するため、実施例1と同様に、液晶組成物Bを内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が10μm球状スペーサと共に挟持した。ここで、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。液晶組成物Bを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Bのツイスト角は90°以下であった。
【0059】
次に、スペーサの直径を10μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Bに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Bを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同様にして、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0060】
紫外線照射後、液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、40Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。上記透過状態におけるヘイズ値は2%以下であった。さらに、透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察してもヘイズの増加はほとんど見られなかった。集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、8であった。
【0061】
本実施例3の液晶組成物Bを用いた場合も、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が極めて容易に得られる。また、垂直配向膜を用いることにより、ラビング処理も省略することができる。さらに、本実施例3の液晶光学素子の光学特性は、上記実施例1の液晶光学素子の光学特性に比べ、コントラストが劣るものの、良好である。
【0062】
[実施例4]
実施例3で調製したネマティック液晶組成物Bに、さらに、下記化学式(1)で示される光学活性物質ではない硬化性化合物(硬化性化合物P)を、(1)を含む全体に対して1.7mass%となるように添加した。
【0063】
【化3】
【0064】
硬化性化合物Pは、分子内にメソゲン構造を有さない硬化性化合物である。さらに、添加した硬化性化合物Pに対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)をさらに加えて液晶組成物(液晶組成物C)を調製した。硬化性化合物Pは光学活性物質ではないため、液晶組成物Cの螺旋ピッチは液晶組成物Bの螺旋ピッチと変わらない。
【0065】
次に、透明電極間に設ける球形ビーズのスペーサの直径を10μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Cに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Cを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同様にして、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0066】
紫外線照射後、液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、40Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。上記透過状態におけるヘイズ値は2%以下であった。透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察してもヘイズは小さく、良好な透明性を示した。また、集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、15であった。
【0067】
本実施例4の液晶組成物Cを用いた場合も、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が極めて容易に得られる。また、垂直配向膜を用いることにより、ラビング処理も省略することができる。さらに、本実施例4の液晶光学素子の光学特性は、同じネマティック液晶を使用した上記実施例2の液晶光学素子の光学特性に比べ、硬化性化合物Pを含むことでコントラストが向上しており、良好である。
【0068】
[実施例5]
実施例1と同じ、正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−002、Tc=72℃、Δn=0.246、Δε=16)に、左旋性の光学活性物質(上記ネマティック液晶に10mass%溶解したときのHTPは約27)を液晶組成物に対して3.1mass%添加し、螺旋ピッチが約1.2μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、硬化性を有する右旋性の光学活性物質(BASF社製:Paliocolor LC756)を添加し、再び螺旋ピッチが約20μmのネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質の上記液晶組成物におけるその含有率は1.5mass%である。さらに、上記液晶組成物に含まれる光硬化性化合物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加することにより、液晶組成物(液晶組成物D)を得た。この液晶組成物Dについてセルギャップが8μmの場合のツイスト角を測定するため、液晶組成物Dを、内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が8μm球状スペーサと共に挟持した。このとき、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。この液晶組成物Dを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Dのツイスト角は約140°であった。
【0069】
次に、透明電極間に設ける球形ビーズのスペーサの直径を8μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Dに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Dを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同条件にて、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0070】
紫外線照射後、液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、30Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。透過状態におけるヘイズ値は2%以下であり、集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子のガラス基板に垂直方向からの入射光に対する透過率を測定したところ、ガラス基板表面での反射や透明電極層での入射光の吸収を含んだ状態で84%であった。次に、同じ測定系にて入射光に対して45°傾けて本素子を配置した際の透過率を測定したところ、ほとんど変化なく83%であった。同じ測定光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、15であった。
【0071】
本実施例5の液晶組成物Dを用いた場合も、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が極めて容易に得られる。また、垂直配向膜を用いることにより、ラビング処理も省略することができる。さらに、本実施例5の液晶光学素子の光学特性は、上記実施例1の液晶光学素子の光学特性に比べ、コントラストが若干劣るものの、良好である。
【0072】
[実施例6]
負の誘電率異方性を示すネマティック液晶(Tc=105℃、Δn=0.202、Δε=−5.1)に、左旋性の光学活性物質(上記ネマティック液晶に10mass%溶解したときのHTPは約23)を液晶組成物に対して2.9mass%添加し、螺旋ピッチが約1.5μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、硬化性を有する右旋性の光学活性物質(BASF社製:Paliocolor LC756、上記ネマティック液晶中でのHTPは44)を添加し、再び螺旋ピッチが約23μmのネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質の上記液晶組成物におけるその含有率は1.5mass%である。さらに、上記液晶組成物に含まれる光硬化性化合物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加することにより、液晶組成物(液晶組成物E)を得た。この液晶組成物Eについてセルギャップが6μmの場合のツイスト角を測定するため、実施例1と同様に、液晶組成物Eを内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が6μm球状スペーサと共に挟持した。このとき、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。液晶組成物Eを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Eツイスト角は約90°であった。
【0073】
次に、透明電極間に設ける球形ビーズのスペーサの直径を6μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Eに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Eを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同様にして、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0074】
紫外線照射後、液晶光学素子は若干白濁した透明を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、15Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子の透明度は若干高まり、集光角5°のシュリーレン光学系での透過率は65%であった。次に、ITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、本素子は白濁状態を呈し、同じ測定系での透過率は5%であり、透明状態と白濁状態とのコントラストは、13であった。電圧印加で白濁度が大きくなる電気光学素子が得られた。
【0075】
[実施例7]
負の誘電率異方性を示すネマティック液晶(Tc=96℃、Δn=0.200、Δε=−5.0)に、左旋性の光学活性物質(上記ネマティック液晶に10mass%溶解したときのHTPは約22)を液晶組成物に対して1.1mass%添加し、螺旋ピッチが約4μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、硬化性を有する右旋性の光学活性物質(BASF社製:Paliocolor LC756、上記ネマティック液晶中でのHTPは50)を添加し、再び螺旋ピッチが約23μmのネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質の上記液晶組成物におけるその含有率は0.5mass%である。さらに、下記化学式(2)で示される光学活性物質ではない硬化性化合物(硬化性化合物R)を、(2)を含む全体に対して10mass%となるように添加した。
【0076】
【化4】
【0077】
硬化性化合物Rは、分子内にメソゲン構造を有する硬化性化合物である。さらに、含まれる硬化性化合物全体に対して約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)をさらに加えて液晶組成物(液晶組成物F)を調製した。硬化性化合物Rは光学活性物質ではないため、液晶組成物Fも螺旋ピッチが約23μmのネマティック液晶である。この液晶組成物Fについてセルギャップが10μmの場合のツイスト角を測定するため、実施例1と同様に、液晶組成物Fを内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が10μm球状スペーサと共に挟持した。このとき、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。液晶組成物Fを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Fのツイスト角は、約160°であった。
【0078】
次に、透明電極間に設ける球形ビーズのスペーサの直径を10μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Fに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Fを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同様にして、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0079】
紫外線照射後、液晶光学素子は、若干ヘイズのある透明状態を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、40Vの矩形波電圧を印加したところ、本素子は強い白濁状態を示した。集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、17であった。電圧印加で白濁度が大きくなる電気光学素子が得られた。
【0080】
[合成例]化合物3の合成例
ナスフラスコ中にてイソソルビド(0.5g,3.4mmol)、4−(6−アクリロイルオキシ−ヘキシルオキシ)安息香酸(2.0g,6.8mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.3g,10.2mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(0.03g)をジクロロメタン(100mL)に溶解させた。窒素雰囲気下において2時間ほど室温で撹拌操作を行ったのち、40℃に加熱したオイルバス中にて約8時間加熱還流操作を行った。固形物をろ別した後、有機層をpH4程度のイオン交換水、重曹水、イオン交換水の順で洗浄し、抽出操作を行なった。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ別し、ロータリーエバポレータにてジクロロメタンを留去した。得られた残渣を、カラムクロマトグラフィーにて精製操作を行った(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=2:1)。得られた白色固形物を更にエタノールで再結晶し、目的化合物を得た。収量は0.62gであり、収率は26%であった。
【0081】
【化5】
【0082】
[実施例8]
正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−002、Tc=72℃、Δn=0.246、Δε=16)に、左旋性の光学活性物質(メルク社製:S−1011)を液晶組成物に対して2.3mass%添加し、螺旋ピッチが約1.2μmのカイラルネマティック液晶を調製した。次に、合成例で得た式(3)で示される右旋性の光学活性物質(硬化性化合物3、上記ネマティック液晶中でのHTPは42)を添加し、再び螺旋ピッチが約40μm以上のネマティック液晶とした。上記右旋性の光学活性物質は光硬化性化合物であり、前記液晶組成物におけるその含有率は1.9mass%である。さらに、前記液晶組成物に含まれる光硬化性化合物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加することにより、本発明にかかる液晶組成物(液晶組成物H)を得た。この液晶組成物Hについてセルギャップが10μmの場合のツイスト角を測定するため、液晶組成物Hを内面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド薄膜を配向膜として備えた一対のガラス基板間に、微量の直径が10μmの球状スペーサと共に挟持した。ここで、片側のポリイミド薄膜にはラビング処理を施したものを用いた。この液晶組成物Hを挟持したガラス基板を偏光顕微鏡で観察したところ、液晶組成物Hのツイスト角は90°以下であった。
【0083】
次に、スペーサの直径を10μmとした以外は実施例1と同様に、液晶組成物Hに接する基板面にプレチルト角がほぼ90°となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Hを真空注入法にて注入して、注入孔を封止した。このセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。このセルに、実施例1と同様にして、セルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子を得た。
【0084】
紫外線照射後、液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。すなわち、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子が得られた。上記透過状態におけるヘイズ値は2%以下であり、透明性は良好であった。さらに、透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察してもヘイズの増加はほとんど見られなかった。集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、13であった。電圧印加で白濁度が大きくなる素子が得られた。
【0085】
実施例1〜5、8にかかる液晶組成物が正の誘電率異方性を有するのに対し、実施例6および7にかかる液晶組成物EおよびFは負の誘電率異方性を有す。実施例6および7の場合、電圧印加時に散乱状態、電圧非印加時には、より透過な状態となる液晶光学素子が容易に得られる。また、垂直配向膜を用いることにより、ラビング処理も省略することができる。さらに、実施例6および7にかかる液晶光学素子は、透明状態と白濁状態とのコントラストも比較的大きい。
【0086】
[比較例1]
硬化性化合物として、ウレタンアクリレートオリゴマー(東亞合成化学工業社製:アロニックス M1200)とイソオクチルアクリレートを重量比で12/7となるよう混合して均一な硬化性組成物(硬化性組成物Q)を得た。次に、実施例5と同じ正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−002、Tc=72℃、Δn=0.246、Δε=16)と硬化性組成物Qを重量比で31/19となるよう混合して均一な組成物を得た。さらに、含まれる硬化性組成物に対し、約1mass%の光重合開始剤(ベンゾインイソプロピルエーテル)を添加して均一に溶解して組成物(組成物G)を得た。室温で組成物Gは、液晶状態を示さない等方相となり、均一な透明状態を呈した。
【0087】
次に、透明電極間に設ける球形ビーズのスペーサの直径を8μmとした以外は実施例2と同様に、組成物Gに接する基板面にプレチルト角が10°以下となるポリイミド配向膜を備えたセルに、液晶組成物Gを吸引注入法にて注入して、注入孔を封止した。吸引注入法を用いるため、シール部には2箇所以上の孔を設けた。組成物Gを注入後に、このセルは均一な透明状態を示した。次に、室温にて、ガラス基板面に中心波長が365nmで照射強度が10W/mの紫外線をセルの両面から3分間照射して、液晶組成物Gを硬化させることにより液晶光学素子を得た。
【0088】
紫外線照射後、この液晶光学素子は白濁を呈した。次に、上記一対のITO電極間に200Hz、40Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は透明となった。透過状態におけるヘイズ値は2%以下であり、集光角5°のシュリーレン光学系にて、本素子のガラス基板に垂直方向からの入射光に対する透過率を測定したところ、ガラス基板表面での反射や透明電極層での入射光の吸収を含んだ状態で84%であった。次に、同じ測定系にて入射光に対して45°傾けて本素子を配置した際の透過率を測定したところ、透過率は72%であった。透明状態の本素子をガラス基板に対して垂直方位から傾けて観察すると徐々にヘイズが大きくなり、良好な透明性は失われていった。同じ測定光学系にて、本素子の透明状態と白濁状態とのコントラストを室温にて測定したところ、5であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明にかかる液晶光学素子は、自動車のサンルーフに特に好適であるが、この他の用途にも利用することができる。例えば、窓(自動車用(サイドウインドウ、ドアガラス、リアクウォータ等)、建築用、航空機用、船舶用、鉄道車両用等)、天窓、間仕切り、扉等の建築の内装・外装の材料、サインボード、広告商用媒体、大型の間仕切り装置、投射型表示装置と組み合わせた投射用のスクリーン、カメラやデジタルカメラのファインダー等に適用することができる。冷蔵庫の扉に用いることによって、冷蔵庫の扉を開けることなく、内部に収容されている食品を確認することができる。さらに、図形やパターンを組み合わせて表示しあるいは文字などを表示させて、利用者に情報を提供することができる。また、透明板に必要に応じて、文字等の装飾を施してもよい。
なお、2006年6月27日に出願された日本特許出願2006−176079号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0090】
1 液晶光学素子
11 第1の透明基板
12 第1の透明電極
13 第1の絶縁膜
14 第1の配向膜
21 第2の透明基板
22 第2の透明電極
23 第2の絶縁膜
24 第2の配向膜
30 シール材
40 スペーサ
50 複合体層
図1
図2