(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761346
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】無機親水性コート液、それから得られる親水性被膜及びこれを用いた部材
(51)【国際特許分類】
C09D 183/02 20060101AFI20150723BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20150723BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20150723BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20150723BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20150723BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20150723BHJP
H01L 51/44 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
C09D183/02
C09D1/00
C09D7/12
C09K3/18
C09D5/16
B32B9/00 A
H01L31/04 120
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-522548(P2013-522548)
(86)(22)【出願日】2012年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2012064096
(87)【国際公開番号】WO2013001975
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2013年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-144076(P2011-144076)
(32)【優先日】2011年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】井上 友博
(72)【発明者】
【氏名】古舘 学
(72)【発明者】
【氏名】栄口 吉次
(72)【発明者】
【氏名】天野 正
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−270094(JP,A)
【文献】
特開平09−249673(JP,A)
【文献】
特開2000−212510(JP,A)
【文献】
特開2006−131917(JP,A)
【文献】
特開2011−111558(JP,A)
【文献】
特開平07−277724(JP,A)
【文献】
特開平11−189408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/02
B32B 9/00
C09D 1/00
C09D 5/16
C09D 7/12
C09K 3/18
H01L 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)純度が99.0質量%以上である4官能性ケイ素化合物を水性媒体中で、下記構造式(2):
R24N+X- (2)
(式中、R2はアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Xはヒドロキシ基(OH)である)で表される有機アンモニウム塩を該4官能性ケイ素化合物に対して100モル%以上の量の存在下、常温〜170℃にて加水分解縮合して得られた非晶質シリケート化合物含有水溶液、および
(b)水、
を含有し、該非晶質シリケート化合物含有水溶液由来の固形分の濃度が0.01〜2.0質量%であり、かつ、pHが5〜8である無機親水性コート液であって、該非晶質シリケート化合物含有水溶液の29Si-NMR測定によって得られるスペクトル中、Qn構造(nは0〜4の整数)に帰属されるピークの全ピークに対する面積比から、該無機親水性コート液中の全ケイ素原子に対する該Qn構造中のケイ素原子のモル比Rn(nは前記のとおり)をそれぞれ算出した場合に、
(R0+R1+R2+R3)≧90mol%、R3≧40mol%、かつ、R4≦5mol%
を満たす、塗布型の無機親水性コート液。
【請求項2】
請求項1に係る無機親水性コート液であって、該無機親水性コート液の乾燥硬化物からなる被膜の接触角が水に対して20°以下である上記無機親水性コート液。
【請求項3】
前記4官能性ケイ素化合物が、
SiO2の含有率が99.0質量%以上であり、Na2O、K2O、Fe2O3、CaO、SO3、MgOおよびP2O5の各々の含有率が0.1質量%以下であり、一次粒子径が500nm以下である非晶質シリカ、
純度が99.0質量%以上である4官能性ケイ素アルコキシド化合物、
純度が99.0質量%以上である4官能性ハロゲン化ケイ素化合物、または
これらの2種以上の組み合わせ
である請求項1または2に係る無機親水性コート液。
【請求項4】
(d)金属酸化物粒子、金属カルコゲニド粒子および有機金属錯体粒子からなる群より選択され、n型半導体性を有し、一次粒子径が1〜100nmである少なくとも1種の微粒子を更に含有する請求項1〜3のいずれか1項に係る無機親水性コート液。
【請求項5】
前記微粒子が、二酸化チタン粒子および三酸化タングステン粒子からなる群より選択され、一次粒子径が1〜100nmである少なくとも1種の微粒子である請求項4に係る無機親水性コート液。
【請求項6】
前記微粒子上に、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、タングステン、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、該金属の化合物またはこれらの組み合わせが担持されている請求項4または5に係る無機親水性コート液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機親水性コート液の乾燥硬化物からなる無機親水性被膜。
【請求項8】
接触角が水に対して20°以下であり、暗所に1ヶ月放置した後の接触角が水に対して20°以下に維持されている請求項7に係る親水性被膜。
【請求項9】
基材と、該基材の表面に設けられた請求項8に記載の親水性被膜とを有する部材。
【請求項10】
前記基材がガラス系基材、ポリカーボネート系基材、アクリル系基材、ポリエステル系基材またはフッ素系基材である請求項9に係る部材。
【請求項11】
前記親水性被膜が設けられた前記表面を該表面の法線方向から接線方向に至る全ての角度において観察したときに、干渉色および白濁のいずれの異常も目視にて認められない請求項9または10に係る部材。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の部材を有する太陽電池モジュール用カバーパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基体の表面を汚染から保護する親水性コート液に関するものである。本発明の親水性コート液は、無機物の親水コート液でありながら、光の反射および干渉が抑えられ、極めて高い親水性に由来する、基材の耐汚染機能を有する膜を形成できる。なおかつ、本コート液は水系かつ中性域で安定であり、常温硬化でも被膜を形成可能である。したがって、工場インライン製造および現場施工のいずれにおいても取扱いが安全かつ容易で、あらゆる場所に強固かつ透明な親水性コートを施すことが容易である。
【背景技術】
【0002】
ガラスや外壁等、主に住宅建材を中心にして、各種防汚性コート剤が上市されて久しい。
かつては撥水性を謳うことで、汚染物自体を寄せ付けない手法が多くとられた。しかし近年、このような撥水膜の長期曝露の結果、材料の撥水性は静電気帯電の元になり、かえって埃を吸着して汚れ付着を促進してしまうといった欠点が明らかになりつつある。
このような中、帯電防止または降雨による汚れの洗い落としを期待し、各種親水性コーティング液が試行されるようになり、特に、光触媒性材料を中心に、部材の親水化方法が各種検討されている。特に光触媒は、光照射下においては親水性であるのみならず、汚れを酸化分解する作用も併せて期待できることから、実用化例が多くある。
たとえば、外装用タイル、ガラス、外壁塗装、空気清浄機内部のフィルター、および無機系の基材(セラミック、金属等)への応用を主体に、プラスティック材料をはじめとする有機材料、および意匠性材料への応用も近年盛んに検討されている(特許文献1および2)。
【0003】
しかしながら、上記の如く、各種多様な成分を用いて上市および開発されている親水性コート液は、現状においては、いずれも何らかの難点を有している。
すなわち、水溶性ポリマーを主成分とした親水コート剤は、耐久性に乏しく、また被膜硬化反応に伴って徐々に水酸基等の親水性活性基が消失する。
シリコーン等の無機コート剤は、耐久性および親水性に優れるものの、コーティング液自体が有機溶剤系であることが多く、施工条件が限定されることがある。無溶剤型のものであっても揮発性オリゴマー蒸気の揮散が少量あり、やはり施工条件が限定される。特に硬化反応性の高いコート剤の場合には、液の寿命が短いといった保管上の難点もある。
光触媒を添加したコート液は、光触媒そのものが非常に凝集力の高い粉末であるが故に、粗分散(分散粒径100nm〜数μm)されたゾルに、各種ポリマーのビヒクルを添加したコート液とならざるを得ず、塗布後外観に濁りが生じて透明性に乏しいことがある。また、光がある環境下でしかその親水性を発揮できない。更に、光触媒反応によるビヒクルの分解に起因する膜の分解、劣化脱落が避けられない。
このように、施工が安全かつ容易で、更に長期に渡って十分な親水作用を発揮できる膜を形成できるコート液は現在のところ上市されていない。
また、これらコート剤のいずれも、親水性を付与する際に、水酸基を多く有するシリカ等の金属酸化物を添加するケースが多いが、これら金属酸化物粒子は屈折率が高く、透明な基材、特にガラスやポリカーボネート等の屈折率の低い基材に塗布した場合、塗布面に対して法線方向以外の、斜め入射光に対して反射率が高く、外観を阻害するケースが多い。
【0004】
よって、現行親水性コート液の問題点、即ち、
(1)高い親水性の発現が難しい、
(2)親水性が長期持続しない、
(3)液自体、または形成される塗膜の透明性が低く、白色以外の基材への適用が困難、
(4)液自体のポットライフ、塗工性またはその両方に制限がある、および
(5)塗膜の反射がきつく、特に斜めから見た際の外観が阻害される
という問題点を一度に解決する手法が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−116461号公報
【特許文献2】特開2006−272757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、上記(1)〜(5)の問題点を効果的に解決することができ、高い親水性と高い透明性とを兼備した被膜を与える低反射性・低干渉性無機親水性コート液、それから得られる親水性被膜およびこれを用いた部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は第一に、
(a)純度が99.0質量%以上である4官能性ケイ素化合物を水性媒体中で塩基性化合物の存在下、常温〜170℃にて加水分解縮合して得られた非晶質シリケート化合物含有水溶液、
(b)水、および
(c)場合によってはアルコール、ケトン、界面活性剤またはこれらの2種以上の組み合わせ 30質量%以下
を含有し、該非晶質シリケート化合物含有水溶液由来の固形分の濃度が0.01〜2.0質量%であり、かつ、pHが5〜8である無機親水性コート液を提供する。
【0008】
(c)成分において、前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールが挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、ダイアセトンアルコール、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。前記界面活性剤としては、例えば、石鹸(脂肪酸ナトリウム)系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABSまたはLAS)系界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩(AS)系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)系界面活性剤、α−スルホ脂肪酸エステル(α-SF)系界面活性剤、α−オレフィンスルホン酸塩系界面活性剤、モノアルキルリン酸エステル塩(MAP)系界面活性剤、アルカンスルホン酸塩(SAS)系界面活性剤等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩系界面活性剤、ジアルキルジメチルアンモニウム塩系界面活性剤、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩系界面活性剤、アミン塩系界面活性剤等のカチオン性界面活性剤;アルキルアミノ脂肪酸塩系界面活性剤、アルキルベタイン系界面活性剤、アルキルアミンオキシド系界面活性剤等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系界面活性剤、アルキルグルコシド系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド系界面活性剤、これらのノニオン(非イオン性)界面活性剤の疎水性基をシリコーンまたはフッ素で変性した界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のノニオン(非イオン性)界面活性剤が挙げられる。
(c)成分の含量は、本願親水性コート液の30質量%以下、即ち0〜30質量%、好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%である。
【0009】
該無機親水性コート液の乾燥硬化物からなる被膜の接触角は水に対して20°以下、更に15°以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の好ましい一実施形態においては、(a)成分における前記塩基性化合物が有機アンモニウム塩、アルキルアミン、アルカノールアミン、含窒素複素環式化合物またはこれらの2種以上の組み合わせであり、該塩基性化合物の添加量が前記4官能性ケイ素化合物に対して100モル%以上である。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態においては、前記4官能性ケイ素化合物が、
SiO
2の含有率が99質量%以上、好ましくは99.0質量%以上であり、Na
2O、K
2O、Fe
2O
3、CaO、SO
3、MgOおよびP
2O
5の各々の含有率が0.1質量%以下であり、一次粒子径が500nm以下である非晶質シリカ、
純度が99.0質量%以上である、テトラエトキシシラン(正珪酸エチル)等の4官能性ケイ素アルコキシド化合物、
純度が99.0質量%以上である、四塩化ケイ素等の4官能性ハロゲン化ケイ素化合物、または
これらの2種以上の組み合わせ
である。
【0012】
(a)成分の前記非晶質シリケート化合物含有水溶液は、その
29Si-NMR測定によって得られるスペクトル中、Q
n構造(nは0〜4の整数)に帰属されるピークの全ピークに対する面積比から、該非晶質シリケート化合物含有水溶液中の全ケイ素原子に対する該Q
n構造中のケイ素原子のモル比R
n(nは前記のとおり)をそれぞれ算出した場合に、
(R
0+R
1+R
2+R
3)≧90mol%、R
3≧40mol%、かつ、R
4≦5mol%
を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明の無機親水性コート液は、光触媒として、(d)金属酸化物粒子、金属カルコゲニド粒子および有機金属錯体粒子からなる群より選択され、n型半導体性を有し、一次粒子径が1〜100nmである少なくとも1種の微粒子を更に含有することが好ましい。前記微粒子は、二酸化チタン粒子および三酸化タングステン粒子からなる群より選択され、一次粒子径が1〜100nmである少なくとも1種の微粒子であることが好ましい。前記微粒子上には、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、タングステン、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、該金属の化合物(例えば、酸化物)またはこれらの組み合わせが担持されていることが好ましい。本明細書において「一次粒子径が1〜100nmである」とは、透過型電子顕微鏡によって10μm四方の視野を10視野程度観察したときに、全ての粒子の粒子径が1〜100nmの範囲に観測されることをいう。
【0014】
本発明は第二に、上記無機親水性コート液の乾燥硬化物からなる親水性被膜を提供する。
該親水性被膜は、接触角が水に対して20°以下、好ましくは15°以下であり、暗所に1ヶ月放置した後の接触角が水に対して20°以下、好ましくは15°以下に維持されていることが好ましい。
【0015】
本発明は第三に、基材と、該基材の表面に設けられた上記親水性被膜とを有する部材を提供する。
前記基材は、ガラス系基材、ポリカーボネート系基材、アクリル系基材、ポリエステル系基材またはフッ素系基材であることが好ましい。前記親水性被膜が設けられた前記表面を該表面の法線方向から接線方向に至る全ての角度において観察したときに、干渉色および白濁のいずれの異常も目視にて認められないことが好ましい。
【0016】
本発明は第四に、上記部材を有する太陽電池モジュール用カバーパネルを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の低反射・低干渉性無機親水性コート液は、水性溶媒(即ち、水単独、または水とアルコール、ケトンおよび界面活性剤の少なくとも1種との組み合わせ)を用いることができ、安全かつ基材ダメージの無い塗工液を形成できると共に、常温〜100℃程度の低温硬化が可能である。得られる塗膜は透明度および硬度、ならびに付着汚れに対する除染力に優れ、表面は1ヶ月後でも親水性を維持し、また、暗所においても親水性が継続する。形成される被膜は全て無機物で構成されているため強固で、無機被膜であるにもかかわらず、あらゆる方向からの入射光に対して高い透明性を示す。
更に、中性付近のpHを有し、かつ水性の液であるため、施工環境および方法を問わない。このような液性でありながら液寿命も半年以上あるために、取扱い性にも優れる。
したがって、本発明によれば、優れた性能および取扱い性を有し、意匠性の維持に優れた低反射・低干渉性無機親水性コート液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「常温」とは10〜30℃をいう。
【0019】
本発明に係る低反射・低干渉性無機親水性コート液は、特殊な組成・含有比率を有するシリケートを主成分とし、適宜光触媒等の防汚性材料を添加して得られる。
【0020】
[4官能性ケイ素化合物]
シリケート原料となる4官能性ケイ素化合物としては、純度が99.0質量%以上である限り、従来知られているいずれのものも使用することができる。4官能性ケイ素化合物は、1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。4官能性ケイ素化合物としては、例えば、シリカ、4官能性ケイ素アルコキシド化合物、4官能性ハロゲン化ケイ素化合物が挙げられる。なお、本明細書において「4官能性ケイ素化合物」とは、加水分解縮合により下記式:
【0021】
【化1】
で表される構造のシリケート化合物を与える化合物をいい、4官能性ケイ素アルコキシド化合物とは、加水分解縮合により上記式で表される構造を与えるケイ素アルコキシド化合物をいい、4官能性ハロゲン化ケイ素化合物とは、加水分解縮合により上記式で表される構造を与えるハロゲン化ケイ素化合物をいう。
【0022】
・シリカ
シリカとしては、ヒュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ、コロイド状に溶液分散したシリカ、イネ籾殻から抽出したシリカ等が用いられる。シリカは1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。中でも、SiO
2の含有率が99.0質量%以上であり、Na
2O、K
2O、Fe
2O
3、CaO(遊離酸化カルシウム)、SO
3、MgOおよびP
2O
5の各々の含有率が0.1質量%以下であり、一次粒子径が500nm以下である非晶質シリカが好適である。
【0023】
Na、K、Ca等のアルカリ不純物(アルカリ金属又はアルカリ土類金属含有化合物)またはSもしくはP系の不純物を1質量%超含有する場合、希釈してpH調整した後のコート液の安定性が低くなりやすく、ゲル化および固体夾雑物の析出を招く場合がある。また、特に二酸化チタン系の光触媒を添加する場合、Na
+が残存しているとこれが徐々にTiO
2に取り込まれ、光に対して不活性なチタン酸ナトリウム(NaTiO
3)を生成し、光触媒反応を阻害することがあり、このような観点からもNa含有品は好ましくない。
【0024】
また、Fe、Al等の金属不純物を0.1質量%超含有している場合、溶液が着色することがあり、また、屈折率が上昇することがあり、更に、膜の透明度、特に被膜形成面に対して斜めに入射する光の透過率が低下することがある。
【0025】
なお、本明細書において「一次粒子径が500nm以下である」とは、透過型電子顕微鏡によって10μm四方の視野を10視野程度観察したときに、500nm超の粒子が全く観測されないことをいう。
【0026】
・4官能性ケイ素アルコキシド化合物
4官能性ケイ素アルコキシド化合物としては、例えば、下記構造式(1):
Si(OR
1)
x(OH)
4-x (1)
(式中、R
1は有機基であり、xは1〜4の整数である)
で表されるケイ素アルコキシド化合物、およびその縮合物が挙げられる。4官能性ケイ素アルコキシド化合物は1種単独で使用することも2種以上を併用することもでき、また、シリカと併用してもよい。
【0027】
上記R
1は互いに同一であっても異なっていてもよい。R
1の具体例としては、メチル基(CH
3)、エチル基(CH
2CH
3)、プロピル基(CH
2CH
2CH
3)、イソプロピル基(CH
2(CH
3)CH
3)、ブチル基(CH
2CH
2CH
2CH
3)等のアルキル基;トリエトキシシリル基(Si(OCH
2CH
3)
3)等のアルコキシシリル基が挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン(上記xが4で、上記R
1が全てメチル)、テトラエトキシシラン(上記xが4で、上記R
1が全てエチル)が好適に使用できる。
【0028】
・4官能性ハロゲン化ケイ素化合物
4官能性ハロゲン化ケイ素化合物としては、例えば、四塩化ケイ素が挙げられる。
【0029】
[塩基性化合物]
加水分解縮合に使用される塩基性化合物としては、有機塩基、例えば、有機アンモニウム塩、アルキルアミン、アルカノールアミン、含窒素複素環式化合物またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。塩基性化合物は1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
【0030】
・有機アンモニウム塩
有機アンモニウム塩としては、例えば、下記構造式(2):
R
24N
+X
- (2)
(式中、R
2は有機基であり、Xはヒドロキシ基(OH)またはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)である)
で表される有機アンモニウム塩が挙げられる。有機アンモニウム塩は1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
【0031】
上記R
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R
2の具体例としては、メチル基(CH
3)、エチル基(CH
2CH
3)、プロピル基(CH
2CH
2CH
3)、イソプロピル基(CH
2(CH
3)CH
3)、ブチル基(CH
2CH
2CH
2CH
3)等のアルキル基;メチロール基(CH
2OH)、エチロール基(CH
2CH
2OH)等のヒドロキシアルキル基が挙げられる。中でも、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好適に使用できる。
【0032】
・アルキルアミン
アルキルアミンとしては、例えば、下記構造式(3):
R
3y-NH
3-y (3)
(式中、R
3はアルキル基であり、yは1〜3の整数である)
で表される含窒素化合物およびその塩が挙げられる。アルキルアミンは1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
【0033】
上記R
3は互いに同一であっても異なっていてもよい。R
3の具体例としては、メチル基(CH
3)、エチル基(CH
2CH
3)、プロピル基(CH
2CH
2CH
3)、イソプロピル基(CH
2(CH
3)CH
3)、ブチル基(CH
2CH
2CH
2CH
3)等のアルキル基が挙げられる。
【0034】
・アルカノールアミン
アルカノールアミンとしては、例えば、下記構造式(4):
R
4y-NH
3-y (4)
(式中、R
4はヒドロキシアルキル基であり、yは前記の通りである)
で表される含窒素化合物およびその塩が挙げられる。アルカノールアミンは1種単独で使用することも2種以上を併用することもできる。
【0035】
上記R
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。R
4の具体例としては、メチロール基(CH
2OH)、エチロール基(CH
2CH
2OH)等のヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0036】
・水性媒体
(a)成分の調製に使用される水性媒体とは、水単独、または水とその他の媒体、例えばアルコール及びケトンの少なくとも1種、との混合物を云い、ここで該混合物中の水以外の媒体の合計は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0037】
[加水分解縮合条件]
4官能性ケイ素化合物の加水分解縮合は、反応系(原料混合液)に対し好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%の上記4官能性ケイ素化合物を原料として、水性媒体中で塩基性化合物の存在下、常温〜170℃にて行われる。塩基性化合物の添加量は前記4官能性ケイ素化合物に対して好ましくは100モル%以上、より好ましくは100〜500モル%である。
【0038】
4官能性ケイ素化合物がシリカである場合、SiO
2濃度が1〜15質量%、塩基性化合物濃度が2〜25質量%、残分が水である原料混合液を作製し、これを80℃〜130℃にて加熱攪拌することが好適である。これにより透明な加水分解液が得られる。この条件でシリカの加水分解縮合を行うと、加水分解が十分に進行しやすいため、不溶シリカが残存しにくく、また、添加した塩基性化合物の分解が起こりにくいために、固形分の析出が起こりにくい。更に、加水分解に用いる塩基性化合物は、有機アンモニウム塩が好ましく、中でもテトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好適に用いられる。
【0039】
水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いると、最終的に得られるシリケートの重縮合反応の進行が早く、目的とする組成のシリケートが得られにくく、液の寿命も短くなる。また、後の処理によってイオンを除去しても、残存したカチオンが長く膜内に留まり、膜特性の劣化を招くことがある。
【0040】
加水分解縮合で得られる非晶質シリケート化合物含有水溶液の
29Si-NMR測定によって得られるスペクトルにおいて、各ピークのケミカルシフトは次の通りに帰属される。
Q
0:-71.5ppm近傍 0縮合体シリケートモノマー
Q
1:-79〜-83ppm近傍 1縮合体
Q
2:-87〜-91ppm近傍 2縮合体
Q
3:-96〜-100ppm近傍 3縮合体
Q
4:-107〜-112ppm近傍 4縮合体
【0041】
前記の通り、(R
0+R
1+R
2+R
3)≧90mol%、R
3≧40mol%、かつ、R
4≦5mol%が満たされることが好ましい。R
4≦5mol%が満たされると、極性の低いQ
4構造の含有量が多くなり過ぎないので、硬化膜の密着性が向上しやすい。また、R
3≧40mol%が満たされると、Q
3構造の含有量が十分であるため、Q
0〜Q
2構造に起因する縮合反応性が高くなりすぎず、無機親水性コート液の安定性が良好となりやすい。
【0042】
本発明の「無機親水性コート液」とは、乾燥硬化により溶媒を除去した場合、実質的に無機物の親水性硬化物を与えるコート液を意味する。ここで実質的に無機物とは、硬化物に対する無機物の含量が好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であることを意味する。
【0043】
[コート液の調製・塗布]
上記条件にて加水分解縮合を行って調製した非晶質シリケート化合物を含有する水溶液中の固形分濃度が0.01〜2.0質量%となるように希釈し、かつ、上記加水分解縮合のために添加した塩基性化合物のカチオンを、例えば、イオン交換樹脂で除去してpHを5〜8に調整することで、本発明のコート液が得られる。前記固形分濃度が0.01〜2.0質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%の範囲内であると、得られる液の安定性が良好となりやすく、固形分が析出しにくい。
【0044】
[光触媒の添加]
本発明の無機親水性コート液に更に(d)成分の光触媒を添加する場合、添加される光触媒濃度は、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%である。光触媒濃度がこの範囲だと、光触媒による防汚活性が良好となりやすく、また、透明性が維持されやすく外観が良好となりやすい。
【0045】
また、前記無機親水性コート液中のシリケート化合物の濃度(質量%)をA、光触媒の濃度(質量%)をBとしたとき、好ましくはA:(A+B)=0.05:99.5〜99.5:0.05であり、より好ましくは99.5:0.05〜70:30である。A:(A+B)の値が前記の範囲内にあると、光触媒に由来する酸化分解による防汚活性が発揮されやすく、膜の強度および透明度が良好となりやすい。
【0046】
[被膜の形成]
本発明の無機親水性コート液が塗布される基材は、被膜を形成することができる限り、特に制限されない。基材の材料としては、無機材料、有機材料いずれも挙げられ、無機材料には例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。これらはそれぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
前記非金属無機材料としては、例えばガラス、セラミック材料が挙げられる。これらはタイル、硝子、ミラー等の様々な形に製品化され得る。
前記金属無機材料としては、例えば鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられ、これらはメッキが施されてもよいし、有機塗料が塗布されていてもよい。また、非金属無機材料又は有機材料の表面に施された金属メッキ皮膜であってもよい。
前記有機材料としては、例えば塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料;天然、合成若しくは半合成の繊維材料及び繊維製品が挙げられる。これらは、フィルム、シート、その他の成型品、積層体などの所要の形状、構成に製品化されていてよい。
【0047】
本発明の無機親水性コート液を基材に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ローラー法、印毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基材上に形成させることができる。
【0048】
形成される被膜の膜厚は、1〜500nmの範囲にあることが好ましく、特には、50〜300nmの範囲にあることが好ましい。膜厚が1〜500nmの範囲にあると、被膜は強度および透明性が良好となりやすく、割れが生じにくい。
【0049】
本発明の無機親水性コート液からなる塗膜を乾燥硬化させるためには、常温静置でも加熱してもよく、加熱する場合は50〜200℃の温度範囲で1〜120分間処理することが好ましく、特に、60〜110℃の温度範囲で5〜60分間処理することが好ましい。
【0050】
本発明の無機親水性コート液を塗布して形成される被膜の水接触角は、20°以下、更に15°以下であることが好ましい。水接触角が20°以下であると、良好な防汚性が発揮されやすい。
【0051】
また、本発明の無機親水性コート液を塗布して形成される被膜の透明度は、元の基材の透明度に対し、被膜形成後の全光線透過率減少量がΔ3%以下、かつヘイズ率増加量がΔ2%以下となるような透明度であることが好ましい。該塗膜の全光線透過率減少量がΔ3%以下であると、透明性が維持されやすく外観が良好になりやすい。またヘイズ率増加量がΔ2%以下であると、膜に濁りが生じにくく、外観が良好になりやすい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの例により制限されるものではない。
【0053】
[実施例1]
4官能性ケイ素化合物として、下記表に示す組成(単位:質量%)を有する高純度ヒュームドシリカ(非市販品、信越化学工業(株)製造、非晶質シリカ、一次粒子径が500nm以下である)を使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
上記ヒュームドシリカ、水、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(25質量%水溶液、東洋合成製)を、シリカ:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド=1:2(モル比)、反応開始時の系においてシリカの含有量が5質量%となるように混合し、110℃にて2時間加熱撹拌した。得られた溶液を、固形分濃度が0.5質量%になるように水で希釈した後、イオン交換樹脂(商品名:ダウエックス50W-X8、ダウコーニング製)にてpH7.0に調整し、コート液(固形分濃度:0.5質量%)を得た。
【0056】
[実施例2]
テトラエチルオルトシリケート(純度:99.9質量%以上、多摩化学製、以下TEOSという場合がある)、水、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(25質量%水溶液、東洋合成製)、アセトン(和光純薬工業製、特級)を、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド:テトラエチルオルトシリケート=4:1(モル比)、反応開始時の系において、テトラエチルオルトシリケートの含有量が15質量%、アセトンの含有量が42質量%となるように混合し、常温にて5時間攪拌して、白色沈殿を得た。この系から溶媒を除去して沈殿を回収し、アセトン洗浄後に水に再度溶解させ、固形分濃度が0.5質量%になるまで水で希釈した後、イオン交換樹脂(商品名:ダウエックス50W-X8, ダウコーニング製)にてpHが7.0に調整し、コート液(固形分濃度:0.5質量%)を得た。
【0057】
[実施例3]
実施例1のコート液に光触媒サガンコートTOゾル(製品名TO-85, Anatase型酸化チタンの分散液、鯤コーポレーション製)を、実施例1で得られたコート液中の固形分:TiO
2=90:10(質量比)となるように添加して、コート液を調製した。
【0058】
[実施例4]
実施例2のコート液に光触媒サガンコートTOゾル(製品名TO-85, Anatase型酸化チタンの分散液、鯤コーポレーション製)を、実施例2で得られたコート液中の固形分:TiO
2=90:10となるように添加して、コート液を調製した。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、前記高純度ヒュームドシリカに代えて市販のコロイダルシリカ(純度:20質量%、製品名スノーテックスOS、日産化学製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてコート液(固形分濃度:0.5質量%)を調製した。
【0060】
[比較例2]
実施例2において、前記テトラエチルオルトシリケートに代えて市販のシリケート加水分解液(純度:10質量%、製品名HAS-10、コルコート製)を使用した以外は、実施例2と同様にしてコート液(固形分濃度:0.5質量%)を調製した。
【0061】
[比較例3]
市販のペルオキソチタン酸水溶液(製品名PTA-85、鯤コーポレーション製)を単純に水で希釈してコート液(固形分濃度:0.5質量%)を調製した。
【0062】
[比較例4]
ペルオキソチタン酸の水溶液とAnatase型酸化チタンとの混合液の市販品(製品名TPX-85、鯤コーポレーション製)を単純に水で希釈してコート液(固形分濃度:0.5質量%)を調製した。
【0063】
[
29Si-NMR測定]
実施例1および2ならびに比較例1および2で調製したコート液について
29Si-NMR測定を行い、得られたスペクトル中、Q
n構造(nは0〜4の整数)に帰属されるピークの全ピークに対する面積比から、該コート液中の全ケイ素原子に対するQ
n構造中のケイ素原子のモル比R
n(nは前記のとおり)をそれぞれ算出した。このとき、予め作成していた前記面積比とR
nとの関係を示す検量線を用いた。
【0064】
[塗工液の塗布]
A4サイズにカットしコロナ放電処理を行ったPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚さ50μm)からなる基材上に、コート液を塗布・加熱乾燥して厚さ約200nmの塗膜を作製した。加熱乾燥条件は、70℃、30分とした。
【0065】
[常温硬化時間]
塗膜作製後、常温にて静置し、乾いたキムワイプで膜を擦った。この操作を行っても塗膜に目視で確認できる傷が発生しなくなった時点を常温硬化時間とした。
上記の通り常温硬化を行って得られた被膜を以下の試験に用いた。
【0066】
[膜厚測定]
薄膜測定装置F−20(製品名、FILMETRICS社製)を用いて測定した。
【0067】
[水接触角]
被膜の水接触角を接触角計CA-A(製品名、協和界面科学製)を用いて常温にて測定した。水接触角の測定は、暗所に1ヶ月放置した被膜についても行った。更に、被膜を屋外で1ヶ月曝露した後に水接触角を測定した。
【0068】
[1ヶ月曝露後の水膜形成]
屋外で1ヶ月曝露した被膜を水と接触させ、該被膜の表面に水膜が形成されるかどうかを以下の基準で評価した。
○:一様に水膜が形成された。
△:水膜は形成されたが、一様ではなかった。
×:被膜が水をはじき、水膜が形成されなかった
【0069】
[全光線透過率、ヘイズ]
デジタルヘイズメーターNDH−20D(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。斜め入射光の測定は、試料を45°傾けた状態で測定した。
【0070】
[目視による外観異常]
被膜が設けられた表面を該表面の法線方向から平行方向に至る全ての角度において観察し、干渉色が生じるか、また、反射に起因する白濁が生じるかどうか目視にて確認した。
【0071】
[膜の密着性]
JIS K 5400 8.5 碁盤目テープ剥離試験に従い、ブロックの残存数を記録した。数値が高いほど密着性が高い。
【0072】
[膜の強度]
上記の塗膜作製後、常温にて静置して48hr以上経過した後に、指擦りと乾燥キムワイプ拭き取りを行い、以下の基準で評価した。
○:傷がつかなかった
×:傷がついた
【0073】
[対汚染性]
上記の通り屋外で1ヶ月曝露した被膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:初期と比べて外観に変化がなかった
△:汚れていなかったが、膜自体に干渉色、白化またはその両方が発生した
×:ウォーターマーク、雨だれまたはその両方が発生した
【0074】
[光学特性]
被膜の光学特性を以下の基準で評価した。
○:白化および干渉色は認められず、傾斜による透明度の低下も発生しなかった
△:白化、干渉色またはその両方が認められたが、傾斜による透明度の低下は発生しなかった
×:白化、干渉色またはその両方が認められ、傾斜による透明度の低下も発生した
【0075】
以上の試験の結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
(注)
S法:シリカを加水分解縮合して得られたシリケート
T法:TEOSを加水分解縮合して得られたシリケート
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の親水性コート液は、無機物の親水コート液でありながら、光の反射および干渉が抑えられ、極めて高い親水性に由来する、基材の耐汚染機能を有する膜を形成でき、なおかつ、水系かつ中性域で安定であり、常温硬化でも被膜を形成可能であるので、工場インライン製造および現場施工のいずれにおいても取扱いが安全かつ容易で、ガラスや外壁等、主に住宅建材に強固かつ透明な親水性コートを容易に適用できる。