特許第5761469号(P5761469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761469
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20150723BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150723BHJP
   C08F 20/30 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   G02F1/1337 520
   G02F1/13 500
   C08F20/30
   C09K19/38
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-548226(P2014-548226)
(86)(22)【出願日】2014年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2014057286
(87)【国際公開番号】WO2014156815
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-62039(P2013-62039)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】原 智章
(72)【発明者】
【氏名】呉 偉
(72)【発明者】
【氏名】川上 正太郎
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/098059(WO,A1)
【文献】 特開2011−227187(JP,A)
【文献】 特開2012−241124(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131600(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/018213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1337
C09K 19/00−19/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通電極を有する第一の基板と、画素電極を有する第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板の間に挟持された液晶組成物層と、液晶組成物の配向方向を規制する重合体と、前記第一の基板と前記第二の基板の少なくとも一方に前記液晶組成物層中の液晶分子の配向方向を、前記第一の基板および前記第二の基板における前記液晶組成物層と隣接する面に対して略垂直に制御する垂直配向膜を有し、前記共通電極と前記画素電極間に、前記第一の基板と前記第二の基板に略垂直に電圧を印加し、前記液晶組成物層中の液晶分子を制御する液晶表示素子であって、重合性化合物及び液晶組成物の混合物を前記第一の基板と前記第二の基板の間に挟持した状態で、第一の基板と前記第二の基板の間に電界又は電圧を印加した状態で紫外線を照射して重合性化合物を重合させた重合体の数平均分子量がポリスチレン換算で5万以上であり、前記液晶組成物として、一般式(Ia)
【化1】
(式中、R11及びR14はお互い独立して炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置換されていても良く、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されても良く、u及びvはお互い独立して、0、1又は2を表すが、u+vは2以下であり、M11、M12及びM13はお互い独立して、
(a)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)及び、
(c)1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ピペリジン-2,5-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及びデカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)に含まれる水素原子はそれぞれシアノ基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又は塩素原子で置換されていても良く、M12及びM13が複数存在する場合に、それらは同一でも良く異なっていても良く、L11、L12及びL13はお互い独立して単結合、−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−(CH2)4−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−、−CF2O−又は−C≡C−を表し、L11及びL13が複数存在する場合は、それらは同一でも良く異なっていても良く、X11及びX12はお互い独立してトリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又はフッ素原子を表す。)
及び一般式(IV)
【化2】
(式中、R41及びR42はお互い独立して炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置換されても良く、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されても良く、oは0、1又は2を表し、M41、M42及びM43はお互い独立して
(d)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(e)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、及び
(f)1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ピペリジン-2,5-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、M43が複数存在する場合には同一であっても異なっていても良く、L41及びL42はお互い独立して単結合、−CH2CH2−、−(CH2)4−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−、−CF2O−、−CH=CH−、−CH=N−N=CH−又は−C≡C−を表し、L42が複数存在する場合は、それらは同一でも良く異なっていても良い。)で表される化合物から成る化合物群より選ばれる化合物を含有するが、その内、R11、R14、R41及びR42の少なくともいずれかひとつが炭素原子数2から10のアルケニル基を表す化合物を含有する液晶表示素子。
【請求項2】
重合性化合物及び液晶組成物の混合物に照射総エネルギー量が50Jから250Jである紫外線を照射する請求項1記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項3】
重合性化合物及び液晶組成物の混合物に中心波長365nmにおける照度が5mW/cmから50mW/cmである紫外線を照射する請求項1又は2に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項4】
上記液晶組成物において、一般式(Ia)及び一般式(IV)で表される化合物の内、R11、R14、R41及びR42の少なくともいずれかひとつが炭素原子数2から10のアルケニル基を表す化合物の含有量の合計が80質量%以上である請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項5】
重合体の数平均分子量がポリスチレン換算で49万5000以上400万以下である請求項4記載の液晶表示素子。
【請求項6】
重合性化合物が重合性基を2個又は3個を有する化合物である請求項1、4又は5のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
重合性化合物が一般式(II)
【化3】
(式中、R21及びR22はそれぞれ独立して、以下の式(R−1)から式(R−15)
【化4】
の何れかを表し、S21及びS22はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜12のアルキル基、又は単結合を表し、該アルキル基中のメチレン基は酸素原子同士が直接結合しないものとして酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良く、L21は、単結合、−O−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−CO−、−C−、―COO−、−OCO−、―CH=CH−COO−、−COO―CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−CH=CH−OCO−、―COOC−、―OCOC−、―COCO−、―CCOO−、−OCOCH−、―CHCOO−、−CH=CH−、−CF=CH−、−CH=CF−、−CF=CF−、−CF−、−CFO−、−OCF−、−CFCH−、−CHCF−、−CFCF−又は−C≡C−を表し、L21が複数存在する場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、M21は、1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、アントラセン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基を表すが、無置換であるか又はこれらの基中に含まれる水素原子がフッ素原子、塩素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基、ニトロ基、又は
【化5】
に置換されていても良く、M22は、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、アントラセン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基を表すが、無置換であるか又はこれらの基中に含まれる水素原子がフッ素原子、塩素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基、ニトロ基、又は
【化6】
に置換されていても良く、M22が複数存在する場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、m21は0、1、2、又は3を表す。)で表される化合物である請求項1、4又は5のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
一般式(II)中のM21が1,4−フェニレン基であり、この基中のひとつの水素原子が
【化7】
に置換されている化合物である請求項7記載の液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶TV等の構成部材として有用な液晶表示素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、家庭用各種電気機器、測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型、IPS(インプレーンスイッチング)型、OCB(光学補償複屈折)型、ECB(電圧制御複屈折)型、VA(垂直配向)型、CSH(カラースーパーホメオトロピック)型、あるいはFLC(強誘電性液晶)等を挙げることができる。また駆動方式としてもスタティック駆動、マルチプレックス駆動、単純マトリックス方式、TFT(薄膜トランジスタ)やTFD(薄膜ダイオード)等により駆動されるアクティブマトリックス(AM)方式を挙げることができる。
【0003】
これらの表示方式において、IPS型、ECB型、VA型、あるいはCSH型等は、Δεが負の値を示す液晶材料を用いるという特徴を有する。これらの中で特にAM駆動によるVA型表示方式は、高速で広視野角の要求される表示素子、例えばテレビ等の用途に使用されている。
【0004】
VA型ディスプレイでは、Δεが負の液晶組成物が用いられており、液晶TV等に広く用いられている。一方、全ての駆動方式において、低電圧駆動、高速応答、広い動作温度範囲が求められている。すなわち、Δεの絶対値が大きく、粘度(η)が小さく、高いネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)が要求されている。また、Δnとセルギャップ(d)との積であるΔn×dの設定から、液晶組成物のΔnをセルギャップに合わせて適当な範囲に調節する必要がある。加えて、液晶表示素子をテレビ等へ応用する場合、高速応答性が重視されるため、回転粘度(γ)の小さい液晶組成物が要求される。
【0005】
一方、VA型ディスプレイの視野角特性を改善するために、基板上に突起構造物を設けることにより、画素中の液晶分子の配向方向を複数に分割するMVA(マルチドメイン・バーチカル・アライメント)型の液晶表示素子が広く用いられるに至った。MVA型液晶表示素子は、視野角特性の点では優れるものの、基板上の突起構造物の近傍と離れた部位とでは、液晶分子の応答速度が異なり、突起構造物から離れた応答速度の遅い液晶分子の影響から、全体としての応答速度が不十分である問題があり、突起構造物に起因する透過率の低下の問題があった。この問題を解決するために、通常のMVA型液晶表示素子とは異なり、セル中に非透過性の突起構造物を設けることなく、分割した画素内で均一なプレチルト角を付与する方法として、PSA液晶表示素子(polymer sustained alignment:ポリマー維持配向、PS液晶表示素子(polymer stabilised:ポリマー安定化)を含む。)が開発されている。PSA液晶表示素子は、少量の反応性モノマーを液晶組成物に添加し、その液晶組成物を液晶セルに導入後、電極間に電圧を印加しながら、活性エネルギー線の照射により、液晶組成物中の反応性モノマーを重合させることにより製造されるものである。そのため、分割画素中において適切なプレチルト角を付与することができ、結果として、透過率向上によるコントラストの向上及び均一なプレチルト角の付与による高速応答性を達成できる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
PSA型液晶表示素子の課題として短い時間の活性エネルギー線照射によりプレチルト角を付与させ、かつ表示素子に悪影響を与える未反応性モノマーを低減させることが挙げられ、この解決のために特定の液晶組成物による検討が行われている。(特許文献2参照)また、適切なプレチルト角を有すると同時に高抵抗で高速応答を得るため、特定の液晶化合物と特定の反応性モノマーの組み合わせた組成物が検討されている。(特許文献3参照)
また、別の課題として焼き付き等による表示不良の発生が挙げられる。この焼き付きの原因としては、不純物によるもの及び液晶分子の配向の経時変化(プレチルト角の経時変化)が知られている。プレチルト角の変化の原因として、重合性化合物の硬化物であるポリマーが柔軟であると、液晶表示素子を構成した場合において同一パターンを長時間表示し続けたときにポリマーの構造が変化し、その結果としてプレチルト角が変化してしまうことがある。このような問題を解決するため、1,4−フェニレン基等の構造を有する重合性化合物を用いてPSA型表示素子(特許文献4参照)や、ビアリール構造を有する重合性化合物を用いてPSA型表示素子(特許文献5参照)が検討されている。
【0007】
このように、有用な表示性能を有するPSA型表示素子における液晶分子の配向に伴う表示不良問題を重合性化合物の最適化によって解決が試みられている一方で、PSA型表示素子中の液晶分子のプレチルト角が付与を阻害されたり、また、基板内のプレチルト角が部分的に不均一になりムラ状の表示不良が発生するなどの配向制御に関する新たな問題があった。
【0008】
このように、VA型等の垂直配向型表示素子において求められる表示性能(コントラスト、応答速度等)に加えて、PSA型表示素子の表示品位のために求められる適切なプレチルト角の生成、プレチルト角の継時的な安定性、均一な配向状態の維持等の要求事項を両立することが必要となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−357830号公報
【特許文献2】特開2010−256904号公報
【特許文献3】特開2009−102639号公報
【特許文献4】特開2003−307720号公報
【特許文献5】特開2008−116931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、基板間に液晶分子が略垂直配向させ電圧印加により液晶分子の配向制御を行うPSA型表示素子において、液晶分子のプレチルト角の生成を阻害することがなくプレチルト角が適切に付与され、それによる配向安定性が良好で、基板内の配向が均一で表示不良がない又は抑制されたPSA型表示素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために、液晶表示素子におけるプレチルト角を検討した結果、液晶表示素子中の液晶分子の配向方向を制御する重合体を特定のものにすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の液晶組成物は、共通電極を有する第一の基板と、画素電極を有する第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板の間に挟持された液晶組成物層と、液晶組成物の配向方向を規制する重合体と、前記第一の基板と前記第二の基板の少なくとも一方に前記液晶組成物層中の液晶分子の配向方向を、前記第一の基板および前記第二の基板における前記液晶組成物層と隣接する面に対して略垂直に制御する垂直配向膜を有し、前記共通電極と前記画素電極間に、前記第一の基板と前記第二の基板に略垂直に電圧を印加し、前記液晶組成物層中の液晶分子を制御する液晶表示素子であって、該重合体の数平均分子量がポリスチレン換算で5万以上である液晶表示素子を提供し、また、この液晶表示素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶表示素子は、良好なプレチルト角の生成が達成され、基板内における配向状態も均一なものとなり、表示不良がない又は抑制された高い表示品質を有するものとなり、液晶TV、モニター等の表示素子として有効に用いることができる。また、本発明によれば、高い表示品質の液晶表示素子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の液晶表示素子の一実施形態を示す概略斜視図である。
図2】本発明の液晶表示素子に用いられるスリット電極(櫛形電極)の一例を示す概略平面図である。
図3】本発明の液晶表示素子におけるプレチルト角の定義を示す図である。
図4】実施例1に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
図5】実施例2に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
図6】実施例3に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
図7】比較例1に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
図8】比較例2に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
図9】比較例3に示す液晶表示素子の垂直配向膜上の走査型電子顕微鏡図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶表示素子及びその製造方法の実施の形態について説明する。
【0016】
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
(液晶表示素子)
本発明の液晶表示素子は、一対の基板の間に挟持された液晶組成物層を有する液晶表示素子であって、液晶組成物層に電圧を印加し、液晶組成物層中の液晶分子をフレデリクス転移させることにより、光学的なスイッチとして働かせる原理に基づくものであり、この点では周知慣用技術を用いることができる。
【0017】
二つの基板は、液晶分子をフレデリクス転移するための電極を有する、通常の垂直配向液晶表示素子では、一般的に、二つの基板間に垂直に電圧を印加する方式が採用される。この場合、一方の電極は共通電極となり、もう一方の電極は画素電極となる。以下に、この方式の最も典型的な実施形態を示す。
【0018】
図1は、本発明の液晶表示素子の一実施形態を示す概略斜視図である。
【0019】
本実施形態の液晶表示素子10は、第一の基板11と、第二の基板12と、第一の基板11と第二の基板12の間に挟持された液晶組成物層13と、第一の基板11における液晶組成物層13と対向する面上に設けられた共通電極14と、第二の基板12における液晶組成物層13と対向する面上に設けられた画素電極15と、共通電極14における液晶組成物層13と対向する面上に設けられた垂直配向膜16と、画素電極15における液晶組成物層13と対向する面上に設けられた垂直配向膜17と、第一の基板11と共通電極14の間に設けられたカラーフィルター18とから概略構成されている。
【0020】
第一の基板11と、第二の基板12としては、ガラス基板又はプラスチック基板が用いられる。
【0021】
プラスチック基板としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、環状オレフィン樹脂等の樹脂からなる基板が用いられる。
【0022】
共通電極14は、通常、インジウム添加酸化スズ(ITO)等の透明性を有する材料から構成される。
【0023】
画素電極15は、通常、インジウム添加酸化スズ(ITO)等の透明性を有する材料から構成される。
【0024】
画素電極15は、第二の基板12にマトリクス状に配設されている。画素電極15は、TFTスイッチング素子に代表されるアクティブ素子のドレイン電極により制御され、そのTFTスイッチング素子は、アドレス信号線であるゲート線及びデータ線であるソース線をマトリクス状に有している。なお、ここでは、TFTスイッチング素子の構成を図示していない。
【0025】
視野角特性を向上させるために画素内の液晶分子の倒れる方向をいくつかの領域に分割する画素分割を行う場合、各画素内において、ストライプ状やV字状のパターンを有するスリット(電極の形成されない部分)を有する画素電極を設けていてもよい。
【0026】
図2は、画素内を4つの領域に分割する場合のスリット電極(櫛形電極)の典型的な形態を示す概略平面図である。このスリット電極は、画素の中央から4方向に櫛歯状にスリットを有することにより、電圧無印加時に基板に対して略垂直配向している各画素内の液晶分子は、電圧の印加に伴って4つの異なった方向に液晶分子のダイレクターを向けて、水平配向に近づいていく。その結果、画素内の液晶の配向方位を複数に分割できるので極めて広い視野角特性を有する。
【0027】
画素分割するための方法としては、前記画素電極にスリットを設ける方法の他に、画素内に線状突起等の構造物を設ける方法、画素電極や共通電極以外の電極を設ける方法等が用いられる。これらの方法により、液晶分子の配向方向を分割することもできるが、透過率、製造の容易さから、スリット電極を用いる構成が好ましい。スリットを設けた画素電極は、電圧無印加時には液晶分子に対して駆動力を有さないことから、液晶分子にプレチルト角を付与することはできない。しかし、本発明において用いられる配向膜材料を併用することにより、プレチルト角を付与することができるとともに、画素分割したスリット電極と組み合わせることにより、画素分割による広視野角を達成することができる。
【0028】
本発明において、プレチルト角を有するとは、電圧無印加状態において、基板面(第一の基板11および第二の基板12における液晶組成物層13と隣接する面)に対して垂直方向と液晶分子のダイレクターが僅かに異なっている状態を言う。
【0029】
本発明の液晶表示素子は、垂直配向(VA)型液晶表示素子であるので、電圧無印加時に液晶分子のダイレクターは基板面に対して略垂直配向しているものである。液晶分子を垂直配向させるためには、一般的に垂直配向膜が用いられる。垂直配向膜を形成する材料(垂直配向膜材料)としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリシロキサン等が用いられるが、これらのなかでもポリイミドが好ましい。
【0030】
垂直配向膜材料は、メソゲン性部位を含んでいてもよいが、後述する重合性化合物とは異なり、メソゲン性部位を含まないことが好ましい。垂直配向膜材料がメソゲン性部位を含むと、電圧の印加を繰り返すことにより、分子配列が乱れることに起因する焼き付き等が発生することがある。
【0031】
垂直配向膜がポリイミドからなる場合には、テトラカルボン酸二無水物およびジイソシアネートの混合物、ポリアミック酸、ポリイミドを溶剤に溶解又は分散させたポリイミド溶液を用いることが好ましく、この場合、ポリイミド溶液中におけるポリイミドの含有量は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0032】
一方、ポリシロキサン系の垂直配向膜を用いる場合には、アルコキシ基を有するケイ素化合物、アルコール誘導体及びシュウ酸誘導体を所定の配合量比で混合して加熱することにより製造したポリシロキサンを溶解させた、ポリシロキサン溶液を用いることができる。
【0033】
本発明の液晶表示素子は、ポリイミド等により形成される前記垂直配向膜とは別に配向方向を規制する重合体を含む。該重合体は、液晶分子のプレチルト角を固定する機能を付与するものである。
【0034】
スリット電極等を用いて、画素内の液晶分子のダイレクターを電圧印加時に異なった方向にチルトさせることが可能となるが、スリット電極を用いた構成においても、電圧無印加時に、液晶分子は基板面に対してほとんど垂直配向しており、プレチルト角は発生しない。該重合体により適切なプレチルト角を付与し、電圧印加時の液晶分子がチルトする方向を制御することができる。
【0035】
本発明の液晶表示素子は、略垂直に制御する垂直配向膜を有する電極基板間に、液晶組成物と重合性化合物の混合物を封入し、電極間に電圧を印加し、液晶分子を僅かにチルトさせた状態で、紫外線等のエネルギー線を照射することで、該混合物中の反応性化合物を重合させ重合体を形成させることにより、適切なプレチルト角を付与している。
【0036】
ここで該重合体は、数平均分子量がポリスチレン換算で5万以上にすることで、重合性化合物の重合プロセスにおいて、液晶組成物との混合物から充分に相分離して垂直配向膜を有する基板上に付着し重合体層を形成することができる。このような重合体層により、電圧印加時に液晶分子がチルトする方向を付与することができると同時に、良好なプレチルト角及び基板全体が均一なものを得ることができる。重合体の数平均分子量が小さい場合、得られた液晶表示素子のプレチルト角はほとんど得られないか、あるいは不十分なものとなる。
【0037】
重合体の数平均分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー )を用いて測定することができる。垂直配向膜を有する基板上に付着した重合体層及び液晶組成物中に存在する重合体を溶媒に溶解させてGPC測定を行い、得られた重合体ピークの保持時間を、分子量既知の標準物質を用いて作成した分子量較正曲線に当てはめることにより、重合体の分子量を求めることができる。分子量既知の標準物質としては一般的にポリスチレンが広く用いられる。このポリスチレンを標準物質として作成した分子量較正曲線にピークの保持時間を当てはめることでポリスチレン換算の分子量を求めることができる。一般的にGPC測定によって得られた重合体のピークはブロードなものとなる。これは重合体の分子量が単一なものではなく、分子量分布が存在するからである。一般に分子量分布を有する重合体の分子量は平均分子量で表現される。平均分子量には数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量等様々な定義があるが、本発明では数平均分子量を使用する。重合体のポリスチレン換算の数平均分子量を5万以上とすることで良好なプレチルト角を有する液晶表示素子が得られるが、この理由として、重合体のポリスチレン換算の数平均分子量を5万以上とすることで液晶組成物からの重合体の相分離がスムーズに進行し、垂直配向膜を有する基板上に付着することで配向規制能を持った重合体層が形成されるからであると考えられる。この液晶組成物からの重合体の相分離過程には液晶組成物に対する重合体の溶解性が強く影響する。この液晶組成物への溶解性には重合体中の低分子量成分の寄与が大きい。すなわち低分子量成分が少ないほど重合体の相分離は活発となる。このため平均分子量の中でも低分子量成分の影響を受けやすい数平均分子量がこの相分離の状態をよく反映するものと考えられる。数平均分子量の定義を以下の数式(1)に示す。
【0038】
【数1】
【0039】
(ただしMn=数平均分子量、Mi=iなる分子量、Ni=分子量Miを持つ分子の数)
重合体のポリスチレン換算の数平均分子量は5万以上であると低分子量成分が少なく、結果として良好なプレチルト角を有する液晶表示素子が得られるため好ましい。7万以上であると低分子量成分が更に少なくなるためより好ましい。一方、重合体のポリスチレン換算の数平均分子量が1000万を超えると重合体層の均一性が低下する場合があるため、1000万以下であることが好ましい。この重合体層の均一性の度合いは使用する垂直配向膜や液晶組成物の影響も受ける。重合体のポリスチレン換算の数平均分子量はこうした外的要因も吸収して重合体の均一性を保持できる値として400万以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明において、略垂直とは、垂直配向している液晶分子のダイレクターが垂直方向からやや倒れてプレチルト角を付与した状態を意味する。プレチルト角が完全な垂直配向の場合を90°、ホモジニアス配向(基板面に水平に配向)の場合を0°とすると、略垂直とは、89〜86°であることが好ましく、89〜87°であることがより好ましい。
(重合性化合物)
本発明の液晶表示素子中に形成された重合体は、数平均分子量がポリスチレン換算で5万以上であることから、重合体を形成する重合性化合物は2官能又は3官能以上の反応性基を有することが好ましい。
【0041】
重合性化合物において、反応性基は光による重合性を有する置換基が好ましい。
【0042】
重合性化合物として具体的には、下記の一般式(II)
【0043】
【化1】
【0044】
(式中、R21及びR22はそれぞれ独立して、以下の式(R−1)から式(R−15)
【0045】
【化2】
【0046】
の何れかを表し、S21及びS22はそれぞれ独立して、炭素原子数1〜12のアルキル基、又は単結合を表し、該アルキル基中のメチレン基は酸素原子同士が直接結合しないものとして酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良く、L21は、単結合、−O−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−CO−、−C−、―COO−、−OCO−、―CH=CH−COO−、−COO―CH=CH−、−OCO−CH=CH−、−CH=CH−OCO−、―COOC−、―OCOC−、―COCO−、―CCOO−、−OCOCH−、―CHCOO−、−CH=CH−、−CF=CH−、−CH=CF−、−CF=CF−、−CF−、−CFO−、−OCF−、−CFCH−、−CHCF−、−CFCF−又は−C≡C−を表し、L21が複数存在する場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、M21は、1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、アントラセン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基を表すが、無置換であるか又はこれらの基中に含まれる水素原子がフッ素原子、塩素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基、ニトロ基、又は
【0047】
【化3】
【0048】
に置換されていても良く、M22は、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、アントラセン−2,6−ジイル基、フェナントレン−2,7−ジイル基を表すが、無置換であるか又はこれらの基中に含まれる水素原子がフッ素原子、塩素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基、ニトロ基、又は
【0049】
【化4】
【0050】
に置換されていても良く、M22が複数存在する場合はそれらは同一でも異なっていてもよく、m21は0、1、2、又は3)で表される化合物が好ましい。
【0051】
式中、R21及びR22は、式(R−1)又は式(R−2)が好ましく、L21は、単結合、−O−、−OCH−、−CHO−、−C−、―COO−、−OCO−、−COO―CH=CH−、−CH=CH−OCO−、―OCOC−、―CCOO−、−OCOCH−又は―CHCOO−が好ましく、M21、及びM22は、無置換であるか又はフッ素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基を有する1,4−フェニレン基が好ましい。m21は0、1、2又は3を表すが、0、1、又は2が好ましい。
【0052】
更に詳述すると、重合性化合物である一般式(II)で表される化合物として、具体的に以下の一般式(II−1)で表される化合物が好ましい。
【0053】
【化5】
【0054】
(式中、R21及びS21は、一般式(II)中のR21及びS21と同じ意味を表し、X211〜X218は水素又はフッ素を表す。)
一般式(II)で表される化合物において、上記のビフェニル骨格の構造は、式(IV−11)から式(IV−14)であることが好ましく、式(IV−11)であることが好ましい。
【0055】
【化6】
【0056】
式(IV−11)から式(IV−14)で表される骨格を含む重合性化合物は重合後の配向規制力が最適であり、良好な配向状態が得られる。
【0057】
また、一般式(II)で表される化合物として、一般式(II−2)で表される化合物も挙げられる。
【0058】
【化7】
【0059】
(式中、R21、S21、L21、及びM21は、一般式(II)中のR21、S21、L21、及びM21と同じ意味を表し、L22はL21と同じ意味を表し、X21〜X25は水素又はフッ素を表す。)
重合性化合物は、1種又は2種以上を含有するが、1種〜5種含有することが好ましく、1種〜3種含有することがより好ましい。重合性化合物の含有率が少ない場合、液晶組成物に対する配向規制力が弱くなる。逆に、重合性化合物の含有率が多すぎる場合、重合時の必要エネルギーが上昇し、重合せず残存してしまう重合性化合物の量が増加し、表示不良の原因となるため、その含有量は0.01〜2.00質量%であることが好ましく、0.05〜1.00質量%であることがより好ましく、0.10〜0.50質量%であることが特に好ましい。
【0060】
本発明における重合性化合物に対し、重合開始剤が存在しない場合でも重合は進行するが、重合を促進するために重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤としては、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、ベンジルケタール類、アシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられる。また、保存安定性を向上させるために、安定剤を添加しても良い。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン類、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β−ナフチルアミン類、β−ナフトール類、ニトロソ化合物等が挙げられる。
(液晶組成物)
本発明の液晶表示素子に使用される液晶組成物として、誘電率異方性(Δε)が負である化合物を含有する。具体的には、一般式(Ia)、一般式(Ib)及び一般式(Ic)
【0061】
【化8】
【0062】
で表される化合物が挙げられる。
【0063】
式中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16はお互い独立して炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置換されていても良く、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されても良いが、R11、R12及びR13は炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシル基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基が好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基がより好ましく、炭素原子数1から3のアルキル基又は炭素原子数3のアルケニル基が更に好ましく、R14、R15及びR16は炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシル基又はアルケニルオキシ基が好ましく、炭素原子数1から2のアルキル基又は炭素原子数1から2のアルコキシ基がより好ましい。
【0064】
11、R12、R13、R14、R15及びR16がアルケニル基を表す場合においては以下の構造が好ましい。
【0065】
【化9】
【0066】
(式中、環構造へは右端で結合するものとする。)
上記構造中、炭素原子数2又は3のアルケニル基であるビニル基又は1−プロペニル基がさらに好ましい。
【0067】
u、v、w、x、y及びzはお互い独立して、0、1又は2を表すが、u+v、w+x及びy+zは2以下である。
【0068】
11、M12、M13、M14、M15、M16、M17、M18及びM19はお互い独立して、
(a)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)及び、
(c)1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ピペリジン-2,5-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及びデカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)に含まれる水素原子はそれぞれシアノ基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又は塩素原子で置換されていても良く、M12、M13、M15、M16、M18及びM19が複数存在する場合に、それらは同一でも良く異なっていても良いが、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロへキシレン基又は1,4−フェニレン基が好ましい。
【0069】
11、L12、L13、L14、L15、L16、L17、L18及びL19はお互い独立して単結合、−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−(CH2)4−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−、−CF2O−又は−C≡C−を表し、L11、L13、L14、L16、L17及びL19が複数存在する場合は、それらは同一でも良く異なっていても良く、L12、L15及びL18はお互い独立して−CH2CH2−、−(CH2)4−、−CH2O−又は−CF2O−が好ましく、−CH2CH2−、−又は−CH2O−が更に好ましい。存在するL11、L13、L14、L16、L17及びL19はお互い独立して単結合、−CH2CH2−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−又は−CF2O−が好ましく、単結合が更に好ましい。
【0070】
11及びX12はお互い独立してトリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又はフッ素原子を表すが、フッ素原子が好ましい。X13、X14及びX15はお互い独立して水素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又はフッ素原子を表し、何れか一つはフッ素原子を表すが、すべてフッ素原子であることが好ましい。X16、X17、及びX18はお互い独立して水素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基又はフッ素原子を表し、 X16、X17、及びX18の何れか一つはフッ素原子を表し、X16及びX17は同時にフッ素原子を表すことはなく、X16及びX18は同時にフッ素原子を表すことはないが、X16は水素原子であることが好ましく、X17及びX18はフッ素原子であることが好ましい。
【0071】
Gはメチレン基又は−O−を表すが、−O−であることが好ましい。
【0072】
一般式(Ia)、一般式(Ib)及び一般式(Ic)で表される化合物の内、一般式(Ia)で表される化合物が特に好ましい。
【0073】
一般式(Ia)で表される化合物は、以下の一般式(Ia−1)〜一般式(Ia−12)
【0074】
【化10】
【0075】
(式中、RおよびRは各々独立的に炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数2〜6のアルケニル基、アルケニルオキシ基を表し、該アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケニルオキシ基中のメチレン基は酸素原子が連続して結合しない限り1ヶ所以上酸素に置換されていてもよく、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基中の水素原子は1ヶ所以上フッ素で置換されていても良いが、Rは炭素原子数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルケニル基が好ましく、Rは炭素原子数1〜5のアルキル基、アルコキシが好ましい。)から選ばれる化合物であることが好ましい。
【0076】
本発明の液晶表示素子に使用される液晶組成物中の誘電率異方性(Δε)が負である化合物の含有量は10から60質量%であることが好ましく、15から50質量%であることが更に好ましい。
【0077】
本発明の液晶表示素子に使用される液晶組成物として、誘電率異方性(Δε)がほぼゼロである化合物を含有することができる。具体的には、一般式(IV)
【0078】
【化11】
【0079】
で表される化合物を含有することが好ましい。
【0080】
式中、R41及びR42はお互い独立して炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置換されても良く、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子又は塩素原子に置換されても良いが、炭素原子数1から5のアルキル基、アルコキシ基又は炭素原子数2から5のアルケニル基が好ましい。
【0081】
41及びR42がアルケニル基を表す場合においては以下の構造が好ましい。
【0082】
【化12】
【0083】
(式中、環構造へは右端で結合するものとする。)
上記構造中、炭素原子数2又は3のアルケニル基であるビニル基又は1−プロペニル基がさらに好ましい。
【0084】
oは0、1又は2を表すが、0又は1が好ましい。
【0085】
41、M42及びM43はお互い独立して
(d)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のメチレン基又は隣接していない2個以上のメチレン基は−O−又は−S−に置き換えられてもよい)、
(e)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の−CH=又は隣接していない2個以上の−CH=は窒素原子に置き換えられてもよい)、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、及び
(f)1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレン基、ピペリジン-2,5-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、M43が複数存在する場合には同一であっても異なっていても良いが、トランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基又は3-フルオロ-1,4-フェニレン基が好ましく、トランス-1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基がより好ましい。
【0086】
41及びL42はお互い独立して単結合、−CH2CH2−、−(CH2)4−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−、−CF2O−、−CH=CH−、−CH=N−N=CH−又は−C≡C−を表し、L42が複数存在する場合は、それらは同一でも良く異なっていても良いが、単結合、−CH2CH2−、−(CH2)4−、−OCH2−、−CH2O−、−OCF2−、−CF2O−又は−CH=CH−が好ましく、単結合又は−CH2CH2−がより好ましく、単結合が特に好ましい。
【0087】
好ましい一般式(IV)で表される化合物として、一般式(IV−1)〜一般式(IV−6)
【0088】
【化13】
【0089】
(式中、RおよびRは各々独立的に炭素原子数1〜7のアルキル基、アルコキシ基、炭素数2〜6のアルケニル基、アルケニルオキシを表し、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基中のメチレン基は酸素原子が連続して結合しない限り1ヶ所以上酸素に置換されていてもよく、基中の水素原子は1ヶ所以上フッ素で置換されていてもよい。)で表される化合物が挙げられる。
【0090】
その他の誘電率異方性(Δε)がほぼゼロである化合物として、一般式(VIII−a)、一般式(VIII−c)又は一般式(VIII−d)で表される化合物を1種又は2種以上含有することもできる。
【0091】
【化14】
【0092】
(式中、R51およびR52はそれぞれ独立して炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜5のアルケニル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシ基を表す。)
【0093】
【化15】
【0094】
(式中、R51およびR52はそれぞれ独立して炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜5のアルケニル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシを表し、X51およびX52はそれぞれ独立してフッ素原子または水素原子を表し、X51およびX52の少なくとも一つはフッ素原子であり、両方がフッ素原子はない。)
【0095】
【化16】
【0096】
(式中、R51およびR52はそれぞれ独立して炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数2〜5のアルケニル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシ基を表し、X51およびX52はそれぞれ独立してフッ素原子または水素原子を表し、X51およびX52の少なくとも一つはフッ素原子であり、両方がフッ素原子はない。)
本発明の液晶表示素子に使用される液晶組成物中の誘電率異方性(Δε)がほぼゼロである化合物の含有量は10から80質量%であることが好ましく、20から70質量%であることが更に好ましく、25から60質量%であることが更に好ましい。
【0097】
本発明における液晶組成物は、25℃における誘電率異方性(Δε)が−2.0から−8.0であるが、−2.0から−6.0が好ましく、−2.0から−5.0がより好ましく、−2.5から−4.0が特に好ましい。
【0098】
本発明における液晶組成物は、20℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.14であるが、0.09から0.13がより好ましく、0.09から0.12が特に好ましい。更に詳述すると、薄いセルギャップに対応する場合は0.10から0.13であることが好ましく、厚いセルギャップに対応する場合は0.08から0.10であることが好ましい。
【0099】
本発明における液晶組成物は、20℃における粘度(η)が10から30mPa・sであるが、10から25mPa・sであることがより好ましく、10から22mPa・sであることが特に好ましい。
【0100】
本発明における液晶組成物は、20℃における回転粘度(γ)が60から130mPa・sであるが、60から110mPa・sであることがより好ましく、60から100mPa・sであることが特に好ましい。
【0101】
本発明における液晶組成物は、20℃における回転粘度(γ)と弾性定数(K33)の比(γ/K33)が3.5から9.0mPa・s・pN−1であるが、3.5から8.0mPa・s・pN−1であることがより好ましく、3.5から7.0mPa・s・pN−1であることが特に好ましい。
【0102】
本発明における液晶組成物は、ネマチック相−等方性液体相転移温度(Tni)が60℃から120℃であるが、70℃から100℃がより好ましく、70℃から85℃が特に好ましい。
(液晶表示素子の製造方法)
図1を参照して、本発明の液晶表示素子の製造方法を説明する。
【0103】
第一の基板11の共通電極14が形成された面及び第二の基板12の画素電極15が形成された面に垂直配向材料を塗布し、加熱することにより垂直配向膜16,17を形成する。
【0104】
垂直配向材料がポリイミドの場合には、高分子化合物前駆体としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物およびジイソシアネートの混合物や、ポリアミック酸や、ポリイミドを溶剤に溶解あるいは分散させたポリイミド溶液等が挙げられる。このポリイミド溶液中におけるポリイミドの含有量は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0105】
また、垂直配向材料がポリシロキサンの場合には、高分子化合物前駆体としては、例えば、アルコキシ基を有するケイ素化合物、ハロゲン化アルコキシ基を有するケイ素化合物、アルコールおよびシュウ酸を所定の配合量比で混合して加熱することによりポリシロキサンを合成し、それを溶剤に溶解させたポリシロキサン溶液などが挙げられる。
【0106】
垂直配向材料を、第一の基板11および第二の基板12のそれぞれに、共通電極14、並びに、画素電極15およびそのスリット部(図示略)を覆うように塗布あるいは印刷した後、加熱などの処理をする。これにより、塗布あるいは印刷された配向材料に含まれる高分子化合物前駆体が、重合および硬化して高分子化合物となり、垂直配向膜16,17が形成される。ここで、加熱処理する場合、その温度は、80℃以上が好ましく、150〜200℃がより好ましい。
【0107】
次に、第一の基板11と第二の基板12とを重ね合わせ、それらの間に、液晶組成物及び重合性化合物を含む液晶組成物層13を封入する。
【0108】
具体的には、第一の基板11と第二の基板12のいずれか一方における、垂直配向膜16,17が形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えば、プラスチックビーズ等を散布すると共に、例えば、スクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いて、シール部を印刷する。
【0109】
この後、第一の基板11と第二の基板12とを、垂直配向膜16,17を対向させるように、スペーサ突起物およびシール部を介して貼り合わせ、液晶分子を含む液晶組成物を注入する。
【0110】
その後、加熱するなどして、シール部を硬化することにより、液晶組成物を、第一の基板11と第二の基板12との間に封止する。
【0111】
上述のような、液晶組成物及び重合性化合物を含む液晶組成物層13を第一の基板11と第二の基板12の間に封入する方法以外に、第一の基板11に液晶組成物及び重合性化合物を含む液晶組成物層13を滴下し、その後、第二の基板12を真空中で貼り合わせることによって注入することもできる。
【0112】
このようにして、第一の基板11と第二の基板12の基板間に液晶組成物及び重合性化合物を含む液晶組成物層13を注入した後、次に、共通電極14と画素電極15との間に、電圧印加手段を用いて、電圧を印加する。電圧は、例えば、5〜30(V)の大きさで印加する。これにより、第一の基板11における液晶組成物層13と隣接する面(液晶組成物層13と対向する面)、および、第二の基板12におけるにおける液晶組成物層13と隣接する面(液晶組成物層13と対向する面)に対して所定の角度をなす方向の電場が生じ、液晶分子19が、第一の基板11と第二の基板12の法線方向から所定方向に傾いて配向することとなる。このとき、液晶分子19の傾斜角は、後述の工程で液晶分子19に付与されるプレチルトθと概ね等しくなる。従って、電圧の大きさを適宜調節することにより、液晶分子19のプレチルトθの大きさを制御することが可能である(図3参照)。
【0113】
さらに、電圧を印加した状態のまま、エネルギー線を、例えば、第一の基板11の外側から液晶組成物層13に照射することにより、垂直配向膜16,17中の重合性化合物を重合させ、第2の高分子化合物を生成する。この場合のエネルギー線として、紫外光が特に好ましい。
【0114】
紫外光を使用する場合、紫外線を発生させるランプとしては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ等を用いることができる。また、照射する紫外線の波長としては、液晶組成物の吸収波長域でない波長領域の紫外線を照射することが好ましく、必要に応じて、紫外線をカットして使用することが好ましい。照射する紫外光の強度は一定であっても、一定でなくてもよく、照射強度を変化させる際の各々の強度における照射時間も任意であるが、2段階以上の照射工程を採用する場合には、2段階目以降の照射工程の照射強度は1段階目の照射強度よりも弱い強度を選択することが好ましく、2段階目以降の総照射時間は1段階目の照射時間よりも長くかつ照射総エネルギー量が大きことが好ましい。また、照射強度を不連続に変化させる場合には、全照射工程時間の前半部分の平均照射光強度が後半部分の平均照射強度よりも強いことが望ましく、照射開始直後の強度が最も強いことがより望ましく、照射時間の経過と共にある一定値まで常に照射強度が減少し続けることがさらに好ましい。その場合の紫外線UV強度は2mW/cm〜100mW/cmであることが好ましいが、多段階照射の場合の1段階目、または不連続に照射強度変化させる場合の全照射工程中の最高照射強度は10mW/cm〜100mW/cmであること、かつ多段階照射の場合の2段階目以降、または不連続に照射強度を変化させる場合の最低照射強度は2mW/cm〜50mW/cmであることがより好ましい。また、照射総エネルギー量は10J〜300Jであることが好ましいが、50J〜250Jであることがより好ましく、100J〜250Jであることがさらに好ましい。
【0115】
この場合、印加電圧は交流であっても直流であってもよい。
【0116】
照射時の温度は、本発明の液晶組成物の液晶状態が保持される温度範囲内であることが好ましい。室温に近い温度、即ち、典型的には15〜35℃での温度で重合させることが好ましい。
【0117】
その結果、液晶組成物及び重合性化合物を含む液晶組成物層13中の重合性化合物が重合し、その重合体が垂直配向膜16,17の配向制御部と固着した配向規制部(図示略)が形成される。この配向規制部は、非駆動状態において、液晶組成物層13における垂直配向膜16,17との界面近傍に位置する液晶分子19にプレチルトθを付与する機能を有する。なお、ここでは、紫外光を、第一の基板11の外側から照射したが、第二の基板12の外側から照射してもよく、第一の基板11および第二の基板12の双方の基板の外側から照射してもよい。
【0118】
このように、本発明の液晶表示素子では、液晶組成物層13において、液晶分子19が、所定のプレチルトθを有している。これにより、プレチルト処理が全く施されていない液晶表示素子およびそれを備えた液晶表示装置と比較して、駆動電圧に対する応答速度を大幅に向上させることという特徴を有する。
【0119】
本発明の液晶表示素子は、特にアクティブマトリクス駆動用液晶表示素子に有用である。
【実施例】
【0120】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に例示した組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0121】
まず透明な共通電極からなる透明電極層及びカラーフィルター層を具備した第一の基板(共通電極基板)と、アクティブ素子により駆動される透明画素電極を有する画素電極層を具備した第二の基板(画素電極基板)とを作製した。画素電極基板において、各画素電極としては、液晶分子の配向を分割するため、画素電極に電極を有さないスリットが存在するように、ITOをエッチングしたものを用いた。
【0122】
共通電極基板及び画素電極基板のそれぞれにポリイミドからなる垂直配向膜を形成した。垂直配向膜形成材料として、JSR社製のJALS2096を用いた。垂直配向膜を形成した共通電極基板及び画素電極基板に重合性化合物を含有する重合性液晶組成物を挟持した後、シール剤を硬化させて重合性液晶組成物層を形成した。この際、厚さ3μmのスペーサーを用いて重合性液晶組成物層の厚さを3μmとした。
上記の工程を終えた後で共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射し、重合性液晶組成物層中の重合性化合物を重合させることで液晶表示素子を得た。照射装置としてはウシオ電機社製UIS−S2511RZ、紫外線ランプとしてはウシオ電機社製USH−250BYを用いた。この工程により液晶表示素子中の液晶分子にプレチルト角が付与される。
ここで、プレチルト角は図3に示すように定義される。完全な垂直配向をしている場合、プレチルト角(θ)は90°となり、プレチルト角が付与された場合、プレチルト角(θ)は90°より小さくなる。本発明ではAutronic社製TBA−105を用いたクリスタルローテーション法により液晶表示素子のプレチルト角を測定した。
【0123】
プレチルト角を測定した後、液晶組成物に含有させた重合性化合物の重合により生成した重合物の分子量を測定した。以下にこの測定方法を説明する。まず共通電極基板と画素電極基板を剥離し短冊状の小片とした。この小片を、表面に付着している液晶組成物と共に和光純薬社製高速液体クロマトグラフ用テトラヒドロフランに浸積させ、震とう機を用いて10分間激しく震とうした。テトラヒドロフラン中の基板破片等を濾過により除去し、GPC(東ソー社製GPC−8020)を用いてテトラヒドロフラン中に溶け出した重合物のポリスチレン換算分子量を測定した。
【0124】
また、本発明では垂直配向膜上に形成された重合性化合物の重合物の外観を走査型電子顕微鏡で観察した。この観察方法を説明する。作製した液晶表示素子の共通電極基板と画素電極基板を剥離し、走査型電子顕微鏡の試料ステージに設置できる大きさに切断した。この素子切断片表面をアセトンで静かに流し、付着している液晶組成物を除去した。スパッタリング装置を用いて素子切断片の表面に白金をコーティングし導電性を付与した。この試料を走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM6010−LA)を使用し、加速電圧15kV、倍率1万倍の条件で観察した。
【0125】
なお、本発明においては液晶表示素子中の重合性化合物の残留量を測定し、作製した液晶表示素子中の未重合の重合性化合物の残留量が検出下限未満であることを確認している。この重合性化合物の残留量の測定方法を説明する。まず液晶表示素子を分解し、液晶組成物、重合物、未重合の重合性化合物を含む溶出成分のアセトニトリル溶液を得た。これを高速液体クロマトグラフ(ウォーターズ社製ACQUITY UPLC)で分析し、各成分のピーク面積を測定した。指標とする液晶化合物のピーク面積と未重合の重合性化合物のピーク面積比から、残存する重合性化合物の量を決定した。この値と当初添加した重合性化合物の量から重合性化合物残留量を決定した。なお、重合性化合物の残留量の検出限界は100ppmであった。
実施例において化合物の記載について以下の略号を用いる。
(側鎖)
-n -CnH2n+1 炭素数nの直鎖状のアルキル基
n- CnH2n+1- 炭素数nの直鎖状のアルキル基
-On -OCnH2n+1 炭素数nの直鎖状のアルコキシル基
nO- CnH2n+1O- 炭素数nの直鎖状のアルコキシル基
-V -CH=CH2
V- CH2=CH-
-V1 -CH=CH-CH3
1V- CH3-CH=CH-
-2V -CH2-CH2-CH=CH3
V2- CH3=CH-CH2-CH2-
(環構造)
【0126】
【化17】
【0127】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
【0128】
ni :ネマチック相−等方性液体相転移温度(℃)
Δn :20℃における屈折率異方性
Δε :20℃における誘電率異方性
γ :20℃における回転粘性(mPa・s)
33 :20℃における弾性定数K33(pN)
LC−1からLC−5の液晶組成物を調製し、その物性値を測定した。液晶組成物の構成とその物性値の結果は表1のとおりであった。
【0129】
【表1】
【0130】
(実施例1)
液晶組成物LC−1 100%に対して、
【0131】
【化18】
【0132】
で示される重合性化合物Aを0.4%を添加し均一溶解することで重合性液晶組成物CLC−1を調製した。CLC−1を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が100mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を1000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.9°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は81.3°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は7万5000であった。実施例1の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図4に示す。垂直配向膜上に重合性化合物の重合により生成した無数の重合物微粒子が付着している様子が観察された。
(実施例2)
液晶組成物LC−2 100%に対して、
【0133】
【化19】
【0134】
で示される重合性化合物Aを0.4%を添加し均一溶解することで重合性液晶組成物CLC−2を調製した。CLC−2を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が20mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を5000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.3°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は85.2°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は49万5000であった。実施例2の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図5に示す。垂直配向膜上に重合性化合物の重合により生成した無数の重合物微粒子が付着している様子が観察された。
(実施例3)
液晶組成物LC−2 100%に対して、
【0135】
【化20】
【0136】
で示される重合性化合物Bを0.4%を添加し均一溶解することで重合性液晶組成物CLC−3を調製した。CLC−3を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が100mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を1000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.1°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は85.4°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は60万8000であった。実施例3の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す。垂直配向膜上に重合性化合物の重合により生成した無数の重合物微粒子が付着している様子が観察された。
(比較例1)
CLC−2を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が100mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を1000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.3°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.8°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は2万7000であった。比較例1の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す。実施例とは異なり、垂直配向膜上に重合物微粒子が付着している様子は観察されなかった。
(比較例2)
液晶組成物LC−2 100%に対して、
【0137】
【化21】
【0138】
で示される重合性化合物Cを0.4%を添加し均一溶解することで重合性液晶組成物CLC−4を調製した。CLC−4を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が100mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を1000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.5°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は89.0°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は2200であった。比較例2の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図8に示す。実施例とは異なり、垂直配向膜上に重合物微粒子が付着している様子は観察されなかった。
(比較例3)
CLC−4を用い、前述の方法に従って液晶表示素子を作製した。ただし共通電極と画素電極間に矩形の交流電場を7V印加した状態で紫外線を照射する工程においては、ウシオ電機社製紫外線積算光量計UIT−150を用いて中心波長365nmの条件で測定した照度が20mW/cmになるように調整し、積算光量100J/cmの紫外線を5000秒かけて照射した。この紫外線照射工程の前に測定した液晶表示素子のプレチルト角は87.5°であり、紫外線照射工程の後に測定した液晶表示素子のプレチルト角は88.3°であった。紫外線照射により生成した重合物のポリスチレン換算の数平均分子量は1600であった。比較例3の液晶表示素子の垂直配向膜上を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図9に示す。実施例とは異なり、垂直配向膜上に重合物微粒子が付着している様子は観察されなかった。
【0139】
以上の実施例と比較例の結果を表2にまとめた。表2において「紫外線照射工程により生成したプレチルト角」とは、紫外線照射工程後のプレチルト角が紫外線照射工程前と比較して何度減少したかを示しており、これが正の値であって1〜2°以上であることが好ましい。表2から実施例1〜3の液晶表示素子はいずれも紫外線照射工程により生成したプレチルト角が正の値であって1〜2°以上になっていることが分かる。一方比較例1〜3の液晶表示素子では、紫外線照射工程により生成したプレチルト角が正の値とならず、むしろ負の値(より垂直配向になる)となっている。これでは液晶分子の倒れる方向を制御できず表示不良が発生するなど、液晶表示素子としては品質の悪いものとなる。
実施例1〜3の液晶表示素子と比較例1〜3の液晶表示素子とでは垂直配向膜上に形成された重合性化合物の重合物の様子が大きく異なっていた。走査型電子顕微鏡観察によれば、実施例1〜3の液晶表示素子では重合性化合物の重合物微粒子が垂直配向膜上に数多く付着していた。一方比較例1〜3の液晶表示素子では垂直配向膜上には何も見られなかった。比較例1〜3の液晶表示素子ではそもそも垂直配向膜上に重合性化合物の重合物が付着していないため好ましいプレチルト角が生成しなかったものと考えられる。
この重合物の数平均分子量測定結果を見ると実施例1〜3の液晶表示素子ではいずれも5万以上になっていたが、比較例1〜3の液晶表示素子ではいずれも5万以下になっていた。すなわち実施例1〜3の液晶表示素子では紫外線照射により重合性化合物の重合物の分子量が充分に大きくなった結果、重合物が液晶組成物から分離し垂直配向膜上に微粒子となって付着したものと考えられる。一方比較例1〜3の液晶表示素子では重合性化合物の重合物の分子量が充分に大きくならなかったために液晶組成物から分離して垂直配向膜上に付着するに至らなかったものと考えられる。なお、前述したように比較例1〜3の液晶表示素子においても重合性化合物の残留量は検出下限未満であり、重合反応は完了していることを確認している。
【0140】
以上のように重合性化合物の重合物の数平均分子量を5万以上とした本発明の液晶表示素子により良好なプレチルト角の生成が達成され、高い表示品質を得ることができる。
【0141】
【表2】
【符号の説明】
【0142】
10・・・液晶表示素子、11・・・第一の基板、12・・・第二の基板、13・・・液晶組成物層、14・・・共通電極、15・・・画素電極、16・・・垂直配向膜、17・・・垂直配向膜、18・・・カラーフィルター、19・・・液晶分子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9