(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761521
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】洗浄システムおよび洗浄方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20150723BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648F
H01L21/304 648K
H01L21/30 572B
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-543939(P2011-543939)
(86)(22)【出願日】2011年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2011062058
(87)【国際公開番号】WO2011155335
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-130560(P2010-130560)
(32)【優先日】2010年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】内田 稔
(72)【発明者】
【氏名】大津 徹
【審査官】
▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−060147(JP,A)
【文献】
特開2006−108304(JP,A)
【文献】
特開2007−266495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸溶液を電解して過硫酸を生成する電解部と、電解された前記硫酸溶液を貯留する第1の貯留部と、前記電解部と前記第1の貯留部との間で前記硫酸溶液を循環させる循環ラインと、過硫酸を含む前記硫酸溶液を用いて被洗浄材を洗浄する洗浄装置と、前記電解部で電解された前記硫酸溶液を前記洗浄装置に送液する供給ラインと、前記洗浄装置の上流側にあって前記供給ラインに介設され前記洗浄装置で用いられる前記硫酸溶液を加熱する加熱部と、前記加熱部の上流側にあって前記供給ラインに介設された第2の貯留部とを備え、
前記第2の貯留部と前記加熱部と前記洗浄装置とが、前記第1の貯留部、前記電解部および前記循環ラインよりも空間的に高い位置にあることを特徴とする洗浄システム。
【請求項2】
前記第2の貯留部内に設置されるか、又は前記第2の貯留部の上流側にあって前記供給ラインに介設され、前記第2の貯留部に貯留される前記硫酸溶液を予備加熱する予備加熱部を備えることを特徴とする請求項1に記載の洗浄システム。
【請求項3】
前記電解部で電解される前記硫酸溶液の温度が80℃以下、前記予備加熱部で加熱されて前記第2の貯留部に貯留される前記硫酸硫酸溶液の温度が90〜120℃、前記加熱部で加熱されて前記洗浄装置で利用される前記硫酸溶液の温度が150〜220℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄システム。
【請求項4】
前記第2の貯留部の上流側で前記供給ラインに第1のポンプが介設され、前記第2の貯留部の下流側かつ前記加熱部の上流側で前記供給ラインに第2のポンプが介設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項5】
前記洗浄装置、前記第2の貯留部および前記加熱部がクリーンルーム内に設置され、前記電解装置および前記第1の貯留部が前記クリーンルーム外下方に設置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項6】
前記硫酸溶液の硫酸濃度が85質量%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項7】
前記洗浄装置に用いた前記硫酸溶液を前記第1の貯留部、前記電解部および前記循環ラインの少なくとも一つに接続して環流させる環流ラインを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項8】
前記環流ラインに、前記洗浄に用いられた前記硫酸溶液を貯留する分解部を備えることを特徴とする請求項7に記載の洗浄システム。
【請求項9】
前記第1の貯留部から前記電解部に至る前記硫酸溶液を冷却する第1の冷却部を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項10】
前記環流ラインに介設されて前記硫酸溶液を冷却する第2の冷却部を備えることを特徴とする請求項7または8に記載の洗浄システム。
【請求項11】
前記洗浄装置が、枚葉式洗浄装置であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の洗浄システム。
【請求項12】
被洗浄材を過硫酸を含む硫酸溶液で洗浄する洗浄方法であって、硫酸溶液を電解部で電解しつつ、該電解部と第1の貯留部との間で循環させ、循環される前記硫酸溶液の一部を取り出して、前記循環がなされている位置よりも空間的に高い位置において、第2の貯留部で貯留した後、前記循環がなされている位置よりも空間的に高い位置において、急速加熱し、かつ前記洗浄に供することを特徴とする洗浄方法。
【請求項13】
前記貯留に際し前記硫酸溶液を予備加熱することを特徴とする請求項12記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコンウエハ等の電子材料に付着したレジストの洗浄に好適に使用することができ、硫酸溶液を電解して得られる過硫酸を含む硫酸溶液を、前記レジストの洗浄などを行う洗浄装置に供給する洗浄システムおよび洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるレジスト剥離工程において、硫酸溶液を電気分解して過硫酸(ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ一硫酸;分子状過硫酸およびイオン状過硫酸)を生成し、過硫酸溶液を洗浄液として洗浄を行う硫酸電解法が知られている。レジスト剥離工程では洗浄液が高温であるほどレジスト剥離が効率的に進行する。これは硫酸電解法によって製造した洗浄液が所定の高温になると洗浄液中の過硫酸が自己分解して極めて酸化力の強い硫酸ラジカルを生成して洗浄に寄与するためであると考えられる。
ラジカルは寿命が短いため、洗浄液を早い段階で昇温してしまうと、洗浄液に含まれる過硫酸の自己分解が早すぎて洗浄に寄与することなく消費されてしまう。また洗浄液を長時間(例えば数分程度)かけてゆっくり加熱した場合、高温化の途中で過硫酸の自己分解とそれに伴う硫酸ラジカルの分解が進行してしまい、高温化した時点では既に過硫酸濃度が低くなってしまうという問題がある。
【0003】
また、電子材料基板などを洗浄する方法としては、バッチ式の他に枚葉式がある。枚葉式では、例えば被洗浄物を回転台に固定し、これを回転させながら薬液などを散布する、流し落とす、などして洗浄する。枚葉式洗浄装置では、バッチ式洗浄と比較してウエハなどの電子材料基板の清浄度をより高く保つことができる。比較的少ない薬液使用量によって、不要なレジストをシリコンウエハなどの電子材料から効率的に剥離することができる。しかし、枚葉式洗浄装置に用いられる薬液には、バッチ式洗浄装置で用いられる電解硫酸液よりもさらに厳しい条件の特性が求められる。特に、1×10
15atoms/cm
2以上の高濃度にイオン注入されたレジストの剥離洗浄においては、より高い過硫酸濃度と、より高い液温度をもつ洗浄液が求められる。
【0004】
以上の観点から、本発明者らは、洗浄液の昇温は洗浄直前にごく短時間で行う必要があるものとして、急速加熱器を備える洗浄システムを提案している(特許文献1参照)。該洗浄システムでは、電解液を貯留した貯留槽と急速加熱器とを供給配管で繋ぎ、さら急速加熱器の出口側と洗浄装置までの供給配管とをフランジで接合するなどしている。そして貯留槽から急速加熱器までポンプで送液し、該急速加熱器で加熱してそのまま前記送液の圧力で洗浄装置に硫酸溶液を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−60147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記した急速加熱器の流路には、ガラス質で脆さのある石英などを用いることがあり、送液圧力が大きくなると破損などのおそれがある。
また、電子材料基板の洗浄は、通常はクリーンルーム内で行われるが、クリーンルーム内の設置スペースは限られており、洗浄システム設置には制約が多くて自由に設置することができず、送液圧力を考慮した設置が難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、急速加熱に対する送液圧力を小さくして、設置スペースが制約されるクリーンルームなどへの設置が容易な洗浄システムおよび洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の洗浄システムは、硫酸溶液を電解して過硫酸を生成する電解部と、電解された前記硫酸溶液を貯留する第1の貯留部と、前記電解部と前記第1の貯留部との間で前記硫酸溶液を循環させる循環ラインと、過硫酸を含む前記硫酸溶液を用いて被洗浄材を洗浄する洗浄装置と、前記電解部で電解された前記硫酸溶液を前記洗浄装置に送液する供給ラインと、前記洗浄装置の上流側にあって前記供給ラインに介設され前記洗浄装置で用いられる前記硫酸溶液を加熱する加熱部と、前記加熱部の上流側にあって前記供給ラインに介設された第2の貯留部とを備え、
前記第2の貯留部と前記加熱部と
前記洗浄装置とが、前記第1の貯留部、前記電解部および前記循環ラインよりも空間的に高い位置にあることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の洗浄方法は、被洗浄材を過硫酸を含む硫酸溶液で洗浄する洗浄方法であって、硫酸溶液を電解部で電解しつつ
、該電解部と第1の貯留部との間で循環させ、循環される前記硫酸溶液の一部を取り出して、前記循環がなされている位置よりも空間的に高い位置において、
第2の貯留部で貯留した後、
前記循環がなされている位置よりも空間的に高い位置において、急速加熱し
、かつ前記洗浄に供することを特徴とする。
【0010】
本発明では、電解部と第1の貯留部との間で循環ラインによって硫酸溶液を循環させることで、電解によって過硫酸を継続して生成することができる。
供給ラインでは、電解がされて循環している硫酸溶液が取り出される。取り出し位置は、電解部の出液側、循環ライン、第1の貯留部のいずれであってもよい。
供給ラインで送液される硫酸溶液は、一旦、第2の貯留部で貯留され、その後、加熱部に送液される。これにより第2の貯留部の上流側の送液圧力は、そのまま下流側に伝達されることはない。そして第2の貯留部および加熱部は、前記循環がされている位置よりも高い位置にあるので、第2の貯留部以降では、より小さい送液圧力で加熱部を通して洗浄装置に硫酸溶液を送液することができる。
【0011】
なお、電解部では、上記のように硫酸溶液を電解して洗浄効果を高める過硫酸を生成する。この電解においては、溶液温度が低いほど過硫酸の生成効率が良くなる。したがって、過硫酸を生成するときの電解温度は80℃以下が望ましい。該温度範囲を超えると、電解効率が著しく低下する。一方、温度が低すぎると、電極の損耗が激しくなる。したがって、上記温度は40℃以上が望ましい。
【0012】
上記電解部では、陽極と陰極とを対にして電解がなされる。これら電極の材質は、本発明としては特定のものに限定されない。しかし、電極として一般に広く利用されている白金を本発明の電解部の陽極として使用した場合、過硫酸を効率的に製造することができず、白金が溶出するという問題がある。これに対し、導電性ダイヤモンド電極は、過硫酸の生成を効率よく行えるとともに、電極の損耗が小さい。したがって、電解部の電極のうち、少なくとも、過硫酸の生成がなされる陽極を導電性ダイヤモンド電極で構成するのが望ましく、陽極、陰極ともに導電性ダイヤモンド電極で構成するのが一層望ましい。導電性ダイヤモンド電極は、シリコンウエハ等の半導体材料を基板とし、このウエハ表面に導電性ダイヤモンド薄膜を合成させたものや、板状に析出合成したセルフスタンド型導電性多結晶ダイヤモンドを挙げることができる。また、Nb、W、Tiなどの金属基板上に積層したものも利用できる。なお、導電性ダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンド薄膜の合成の際にボロンまたは窒素の所定量をドープして導電性を付与したものであり、通常はボロンドープしたものが一般的である。これらのドープ量は、少なすぎると技術的意義が発生せず、多すぎてもドープ効果が飽和するため、ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、50〜20,000ppmの範囲のものが適している。
【0013】
なお、第1の貯留部の硫酸溶液の温度は、50〜90℃(特に60〜70℃)が望ましい。第1の貯留部の硫酸溶液は、電解部に送液されるため、温度が高いと電解に備えて冷却することが必要になり冷却負担が大きくなるため、90℃以下が望ましい。また、温度を低くすると電解部の電極損耗の懸念があるので電解液貯留部の硫酸溶液の温度は50℃以上が望ましい。
【0014】
また、第2の貯留部では、予備加熱して硫酸溶液を貯留するのが望ましい。予備加熱は、前記供給ラインで行ってもよく、第2の貯留部で行ってもよい。予備加熱によって、下流側の加熱部における加熱負担を小さくして急速加熱をより容易にする。予備加熱の温度は、90℃〜120℃の範囲内とするのが望ましい。90℃未満では、加熱部における加熱負担の軽減効果が小さい。また、120℃を超えると過硫酸の自己分解が進行して、洗浄の際に十分な酸化性能を得られなくなる。
【0015】
また、加熱部では、洗浄に際し、硫酸溶液が150〜220℃の温度を有しているように硫酸溶液を加熱するのが望ましい。加熱温度が150℃未満であると、過硫酸の自己分解による酸化性能が十分に得られない。一方、硫酸溶液の温度が過度に高くなると、過硫酸の分解速度が速くなりすぎて、却って洗浄性能が低下するので、220℃以下が望ましい。
【0016】
上記洗浄システムで用いられる硫酸溶液は、硫酸濃度が85質量%以上であるのが望ましい。硫酸濃度が85質量%未満では、仮に過硫酸濃度が高かったとしても洗浄装置でのレジスト剥離性能が低下する。一方、硫酸濃度が96質量%を超えると、電解工程での電流効率が低下するので、96質量%以下が望ましい。
【0017】
洗浄装置では、電子材料基板などの被洗浄物が洗浄された後、比較的高温の硫酸溶液が排出される。本発明では、この硫酸溶液を循環ライン側に環流させる環流ラインを設けることができる。前記環流ラインを前記第1の貯留部、前記電解部および前記循環ラインの少なくとも一つに接続することにより、硫酸溶液を環流させることができる。
環流ラインには、第1の貯留部の液温度や電解部入口の液温度を所定温度に保つために、冷却部を介設するのが望ましい。また、環流ラインには、前記冷却部を設ける場合にはその上流側に、洗浄装置使用側から受け取った硫酸溶液を滞留させて、電子材料基板から剥離されて硫酸溶液に含まれるレジストなどの残留有機物の分解を行う分解部を設けることができる。硫酸溶液中には過硫酸などの酸化性物質が残留しており、硫酸溶液の余熱を利用して分解部に滞留させた硫酸排液中のレジストなどを前記酸化性物質の作用によって酸化分解除去する。この酸化分解は、温度が高いほど効果的になされる。
【0018】
上記洗浄システムの配置においては、前記洗浄装置、前記第2の貯留部および前記加熱部をクリーンルーム内に設置し、前記電解装置、前記第1の貯留部および循環ラインをクリーンルーム外下方に設置することができる。これにより洗浄システムをスペースに限りのあるクリーンルームの内外に効率よく配置することができる。
【0019】
なお、本発明では、種々の被洗浄材を対象にして洗浄を行うことができるが、シリコンウエハ、液晶用ガラス基板、フォトマスク基板などの電子材料基板を対象にして洗浄処理をする用途に好適である。さらに具体的には、半導体基板上に付着したレジスト残渣などの有機化合物の剥離プロセスに利用することができる。また、半導体基板上に付着した微粒子、金属などの異物除去プロセスに利用することができる。
また、本発明は、シリコンウエハなどの基板上に付着した汚染物を高濃度硫酸溶液で洗浄剥離するプロセスに利用することができ、アッシングプロセスなどの前処理工程を省略してレジスト剥離・酸化効果を高めるために過硫酸溶液を電解部によってオンサイト製造して、硫酸溶液を繰り返し利用して外部からの過酸化水素やオゾンなどの薬液添加を必要としないシステムとして用いるのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上、説明したように、本発明によれば、硫酸溶液を循環しつつ電解する際に、第1の貯留部から加熱部に直接送液するのではなく、まず第1の貯留部側から第2の貯留部に送液して、次いで第2の貯留部から加熱部に送液する、というように送液を2段階にすることにより加熱部の液圧の上昇を抑えることができ安全性を確保できる。
なお硫酸溶液を予備加熱しておけば、加熱部の負担を低減することができる。加熱部がハロゲンランプを用いるものである場合は、エネルギーコスト削減に加えてハロゲンランプの長寿命化をも達成できる。
【0021】
上記により洗浄システムの一部をクリーンルーム外下方(例えば階下)に設置することにより、クリーンルーム内の設置スペースが限られているときも洗浄システムを使用することができる。なお、急速加熱後の硫酸溶液は短時間で洗浄に供しなければならないので加熱部をクリーンルーム内の洗浄装置の近くに設置することが特に望まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態の洗浄システムを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
以下に、本発明の機能性溶液供給システムにおける一実施形態を
図1に基づいて説明する。
本発明の電解部に相当する電解装置1は無隔膜型であり、ダイヤモンド電極により構成された陽極および陰極(図示しない)が隔膜で隔てることなく内部に配置され、両電極には直流電源2が接続されている。なお、本発明としては、電解装置を隔膜型によって構成することも可能である。
上記電解装置1には、本発明の第1の貯留部に相当する第1貯留槽20が循環ライン11を介して循環通液可能に接続されている。戻り側の循環ラインには気液分離槽10が介設されている。該気液分離槽10は、気体を含んだ硫酸溶液を収容して硫酸溶液中の気体を分離して系外に排出するものであり、既知のものを用いることができ、本発明としては気液分離が可能であれば、特にその構成が限定されるものではない。
【0024】
また、送り側の循環ライン11には、硫酸溶液を循環させる循環ポンプ12と、硫酸溶液を冷却する冷却器13が介設されている。冷却器13は、本発明の第1の冷却部に相当するものであり、硫酸溶液を冷却して40〜80℃の液温で電解できるようにするものであればよく、本発明としてはその構成が特に限定されるものではない。
【0025】
また、前記第1貯留槽20には、本発明の第1のポンプに相当する第1供給ポンプ21を介して上流側供給ライン22が接続されている。
上記電解装置1、直流電源2、循環ライン11、循環ポンプ12、冷却器13、気液分離槽10、第1貯留槽20および後述する冷却器53によって、電解ユニットAが構成されている。
なお、上記では、気液分離槽10と第1貯留槽20とをそれぞれ備えるものについて説明したが、第1貯留槽で気液分離器を兼ねるものであってもよい。
【0026】
上流側供給ライン22の送液側には、本発明の第2の貯留部に相当する予備加熱槽30が接続されている。予備加熱槽30には、予備加熱槽30内に貯留された硫酸溶液を90〜120℃に加熱する予備加熱部である予備加熱ヒータ31が設けられている。なお、本発明としては、上流側供給ライン22に予備加熱部を備えるものであってもよい。
さらに、予備加熱槽30には、予備加熱槽30内の硫酸溶液を送液する下流側供給ライン32が接続されている。下流側供給ライン32には本発明の第2のポンプに相当する第2供給ポンプ33、急速加熱器34が介設されており、下流側供給ライン32の送液先端側には、枚葉式の洗浄装置40が接続されている。上記上流側供給ライン22と、下流側供給ライン32とによって、本発明の供給ラインが構成されている。
【0027】
上記急速加熱器34は、本発明の加熱部に相当し、石英製の管路を有し、例えば近赤外線ヒータによって硫酸溶液を一過式で、洗浄装置40入口で150〜220℃の液温が得られるように硫酸溶液を急速加熱する。
なお、急速加熱器34の下流側では、下流側供給ライン32に、送液される硫酸溶液の温度を測定する液温測定器35が設けられており、該液温測定器35の測定結果は、直流電源を含む通電制御部36に出力されている。通電制御部36は、前記第2ポンプ33、急速加熱器34に所定の通電量で通電するものであり、該第2ポンプ33、該急速加熱器34に対する通電量を制御する。通電制御部36は、前記液温測定器35の測定結果により前記液温が所定の温度となるように加熱器34の通電量を制御する。通電制御部36によって制御される第2ポンプ33のポンプ流量は、洗浄装置の要求に応じて出力を変化させる。
例えば、液温が所定の温度よりも低ければ、急速加熱器34の通電量を増やす。また、液温が所定の温度よりも高ければ、急速加熱器34の通電量を減らす。制御量は、予め液温などと関連付けて設定しておき、この設定値に基づいて制御を行うことができる。
上記した予備加熱槽30、予備加熱ヒータ31、第2ポンプ33、急速加熱器34、液温測定器35、通電制御部36は、急速加熱ユニットBを構成している。
【0028】
上記した枚葉式の洗浄装置40では、搬入された被洗浄材である電子材料基板100に向けたノズル41を備え、該ノズル41で洗浄液として硫酸溶液がスプレーされるか少量ずつ流れ落ちる電子材料基板100を載置して回転させる回転台42を備える。さらに、洗浄に用いられた硫酸溶液の液滴を回収する硫酸溶液回収部43が備えられており、該硫酸溶液回収部43には、第1環流ポンプ44を介設した上流側環流ライン45が接続されている。
上記した洗浄装置40、ノズル41、回転台42、硫酸溶液回収部43は、洗浄ユニットCを構成している。
なお、この実施形態では、洗浄装置が枚葉式のものであるとして説明しているが、本発明としては、洗浄装置の種別がこれに限定されるものではなく、バッチ式などの洗浄装置であってもよい。
【0029】
上流側環流ライン45は、洗浄に用いられた硫酸溶液を一時的に貯留する分解槽50が接続されている。分解槽50は、本発明の分解部に相当する。該分解槽50には、第2環流ポンプ51を介して下流側環流ライン52が接続されており、該下流側環流ライン52には、本発明の第2の冷却部に相当する冷却器53が介設され、下流側環流ライン52の送液先端部は前記第1貯留槽20に接続されている。
上記上流側環流ライン45と下流側環流ライン52とによって本発明の環流ラインが構成されている。
【0030】
前記した急速加熱ユニットBと洗浄ユニットCとは、洗浄前に電子材料基板100の処理を行うクリーンルーム200内に設置されており、前記した電解ユニットAと分解槽50とは、クリーンルーム200の外側であってクリーンルーム200の下方の階下に設置されている。これによりスペースが限られたクリーンルーム200内での洗浄処理が可能になる。
【0031】
次に、上記構成からなる洗浄システムの動作について説明する
第1貯留槽20には、硫酸濃度85〜96質量%の硫酸溶液が貯留される。前記硫酸溶液は、循環ポンプ12により送液され、冷却器13で電解に好適な温度(40〜80℃)に調整されて電解装置1の入液側に導入される。電解装置1では、直流電源2によって陽極、陰極間に通電され、電解装置1内に導入された硫酸溶液が電解される。なお、該電解によって電解装置1では、陽極側で過硫酸を含む酸化性物質が生成されるとともに酸素ガスが発生し、陰極側では水素ガスが発生する。これらの酸化性物質とガスは、前記硫酸溶液と混在した状態で環流ライン11を通して気液分離槽10に送られ、前記ガスが分離される。なお、前記ガスは本システム系外に排出されて触媒装置(図示しない)などにより安全に処理される。
【0032】
気液分離槽10でガスが分離された前記硫酸溶液は、過硫酸を含んでおり、さらに循環ライン11を通じて、第1貯留槽20に戻された後、繰り返し電解装置1に送られ電解により過硫酸の濃度が高められる。過硫酸濃度が適度になると、第1貯留槽20内の硫酸溶液の一部は上流側供給ライン22を通して第1ポンプ21によって予備加熱槽30に送液される。予備加熱槽30内では、貯留されている硫酸溶液が予備加熱ヒータ31によって90〜120℃の温度に加熱、維持される。予備加熱槽30内の硫酸溶液は、第2供給ポンプ33によって下流側供給ライン32を通して急速加熱器34を通して洗浄装置40に送液される。この際に、予備加熱槽30、急速加熱器34および洗浄装置40は、前記第1貯留槽20よりも高い位置にあり、第1供給ポンプ21による送液圧力は予備加熱槽30で緩和されているので、急速加熱器34に対する送液圧力は大幅に小さくなっている。したがって、第2貯留部は、第1貯留部の送液圧力をそのまま第2貯留部の下流側に伝達する構造のものであってはならない。
【0033】
急速加熱器34では、過硫酸を含む硫酸溶液が流路を通過しながら近赤外線ヒータによって、洗浄装置40に供給された際に、150℃〜220℃の範囲の液温を有するように急速に加熱される。急速加熱器34を洗浄装置40の近傍に配置することで、加熱温度を利用時の温度と略同じにすることができる。
そして、加熱された、過硫酸を含む硫酸溶液は、下流側供給ライン32を通して枚葉式の洗浄装置40に供給され、電子材料基板100の洗浄に使用される。このとき前記硫酸溶液は、急速加熱器34の入口から洗浄装置40で使用されるまでの通液時間が1分未満となるように、流量が調整されているのが望ましい。なお、枚葉式洗浄装置100では、500〜2000mL/min.での流量が適量とされており、該流量において、前記通液時間が1分未満となるように、急速加熱器34の流路の長さ、流路断面積およびその下流側での下流側供給ライン32のライン長、流路断面積などを設定する。
【0034】
洗浄装置40では、例えば1×10
15atoms/cm
2以上の高濃度にイオン注入されたレジストが設けられたシリコンウエハなどの電子材料基板100が洗浄対象になり該電子材料基板100を回転台42上で回転させつつ前記した硫酸溶液を接触させることでレジストを効果的に剥離除去する。
洗浄に使用された硫酸溶液は、硫酸溶液回収部43で回収された後、洗浄装置40から排出され、第1環流ポンプ44によって上流側環流ライン45を通して分解槽50に送液され貯留される。前記硫酸溶液には洗浄装置40で洗浄されたレジストなどの残留有機物が含まれており、分解槽50に貯留されている間に、前記残留有機物が硫酸溶液に含まれる酸化性物質によって酸化分解される。なお、分解槽50における前記硫酸溶液の貯留時間は、残留有機物などの含有量などによって、任意に調整することができる。この際に、分解槽50を保温可能にすることで、硫酸溶液の余熱を利用した酸化分解を確実なものにすることができる。また、所望により分解槽50に加熱装置を設けることも可能である。
【0035】
分解槽50において含有する残留有機物が酸化分解された硫酸排液は、第2環流ポンプ51により環流ライン52に介設された冷却器53を通して第1貯留槽20に環流される。
なお、分解槽50の下流側であって冷却器53の上流側にフィルタを介設してもよい。これにより、分解槽50で処理しきれなかった硫酸溶液中のSSがフィルタによって捕捉除去される。
また、高温の硫酸溶液が第1貯留槽20に環流されると、第1貯留槽20に貯留されている硫酸溶液中の過硫酸の分解が促進されてしまうため、前記硫酸溶液は冷却器53により適温に冷却された後、第1貯留槽20内に導入される。第1貯留槽20内に導入された硫酸排液は、硫酸溶液として循環ライン11によって電解装置1に送液されて電解により過硫酸が生成され、循環ライン11により再度第1貯留槽20に循環される。
上記本システムの動作によって、使用側である洗浄装置40に高濃度の過硫酸を含む高温の洗浄液を連続して供給することが可能になる。
【0036】
なお、上記では説明しなかったが、分解槽50の上流側で上流側環流ライン45に排液ラインを分岐接続しておき、適宜時に、硫酸溶液を分解槽50に送液せずに系外に排液できるように構成しても良い。
排液ラインにより、洗浄開始直後など洗浄に利用した硫酸溶液中のレジスト剥離量が著しく多量であるときは、硫酸溶液をシステム系外に排出して分解槽50の負担を軽減し、レジスト剥離量が下がった段階で、上記硫酸排液を分解槽50に送液するように制御することができる。該制御は、環流ラインや排液ラインに設けた開閉弁の開閉制御などにより行うことができる。
【0037】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は、上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 電解装置
2 直流電源
10 気液分離器
11 循環ライン
13 冷却器
20 第1貯留槽
21 第1供給ポンプ
22 上流側供給ライン
30 予備加熱槽
31 予備加熱ヒータ
32 下流側供給ライン
33 第2供給ポンプ
34 急速加熱器
40 洗浄装置
50 分解槽
A 電解ユニット
B 急速加熱ユニット
C 洗浄ユニット