特許第5761636号(P5761636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761636アルミナ接合体及びアルミナ焼結体の接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761636
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】アルミナ接合体及びアルミナ焼結体の接合方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   C04B37/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-32863(P2011-32863)
(22)【出願日】2011年2月18日
(65)【公開番号】特開2012-171815(P2012-171815A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年8月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー技術開発プログラム/革新的部材産業創出プログラム/革新的省エネセラミックス製造技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 広行
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
(72)【発明者】
【氏名】井筒 靖久
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−018448(JP,A)
【文献】 特開2008−174443(JP,A)
【文献】 特開2009−103331(JP,A)
【文献】 宮崎広行,アルミナ接合体の接合強度に及ぼす多孔質接合中間層の厚みの効果,日本セラミックス協会年会講演予稿集,2012年 3月19日,Vol.2012 ,P.193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ焼結体同士が接合部を介して接合されたアルミナ接合体であって、前記接合部が、厚さ30μm以上、100μm以下のアルミナからなり、前記接合部の厚さ方向における孔径が前記接合部の厚さの40〜100%の長さである粗大独立気孔と、孔径が5μm以下の微細気孔を含む未焼結領域と、相対密度が98%以上の緻密な焼結領域とから形成され、前記アルミナ接合体から前記接合部を含むように切り出した試験片を用い、JIS R1601に準拠して測定された室温での曲げ強度が200MPa以上であり、JIS R1604に準拠して測定された1200℃大気中での曲げ強度が100MPa以上であるアルミナ接合体。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミナ接合体からなる管部材であって、相対密度が95%以上である緻密質のアルミナ焼結体同士が、前記接合部を介して接合された接合構造を有する管部材。
【請求項3】
リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構成部材として用いられる請求項に記載の管部材。
【請求項4】
アルミナ焼結体同士を接合するアルミナ焼結体の接合方法であって、分散剤を添加した純水を分散媒とし、この分散媒に固形分として純度が99.8%以上のアルミナ粒子のみを添加したアルミナスラリーであって、該アルミナスラリーにおける前記アルミナ粒子の含有量が、65質量%よりも多く、77.5質量%未満であるものを調製し、このアルミナスラリーを前記アルミナ焼結体の被接合面に塗布した後、被接合面同士を突き合わせ、被接合面間に介在する前記アルミナスラリーからなる接合部の厚みが30μm以上、100μm以下となるように調整したまま乾燥させて仮接合体を作製し、この仮接合体を、前記被接合面の面圧が0.015MPa以上となるよう荷重を掛けた状態で、1300℃以上1700℃以下の温度にて大気中で熱処理することにより前記接合部を焼結させて、前記アルミナ焼結体同士を接合するアルミナ焼結体の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体同士を接合したアルミナ接合体及びアルミナ焼結体の接合方法に関するものであり、更に詳しくは、長さ数mにも及ぶ大型部材への適用が可能な、高純度で高強度といった要求を満たすことのできるアルミナ接合体及びそのようなアルミナ接合体を作製するためのアルミナ焼結体の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種製造分野における品質と生産性の向上に向けて、生産用途で用いられるエンジニアリングセラミックス部材には、大型化と高純度化が求められている。特に数mに及ぶ大型部材の作製には、従来の一体型のセラミックス成形・焼成技術では対応が困難である。そこで、複数の小さなセラミックス焼結体(ブロック)を作製して組み合わせ、それらを接合する箇所のみを局所的に加熱することにより接合して所望の部材を作製する技術の開発が必要とされてきた。また、耐熱性と耐食性とが要求される半導体製造装置や化学プラントなどでは、製品への不純物元素の混入が厳しく制限されており、用いられる部材に対し高純度なものが要求されている。特に、リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構成部材として用いられる大型のセラミックスパイプ(管部材)においては、高純度でかつ高い高温強度を有し、直径が最大30cm程度で長さが最大5m程度にも達するような大型製品が必要とされている。
【0003】
一般的なセラミックス焼結体の接合方法には、酸化物ソルダー法や高融点金属法などがあるが、それらの接合方法は、不純物元素の混入や高温強度の劣化が起こることから、上記のような用途に対しては好ましくない。また、固相加圧接着法のように、加熱中に高い圧力を被接合材に負荷することは、大型部材の製造においては困難であり、このような大型部材作製の要求に応えることができない。
【0004】
これに対し、セラミックス焼結体同士を無加圧で接合し、得られた接合体が高純度を維持できる接合方法として、該セラミックス焼結体と同組成であるセラミックス粒子を純水に分散させたスラリーを用いて接着し、焼成して接合する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている接合方法では、接合強度が100MPa未満と接合強度が十分でないという問題に加え、接合層の厚みが0.5μmと極めて薄いことから、大型部材の接合には適用できないという問題が有った。なぜなら、大型部材作製のために接合に用いるセラミックス焼結体(ブロック)の被接合面は、例えば、管状焼結体の場合には直径が数10cm以上と大きいことから、端面の平坦度を1μm以下にすることは一般に困難であり、上記特許文献1に記載されている接合方法に必要と考えられる最大0.1μm程度の平坦度に被接合面を仕上るのには、多大なコストが掛かり実用的ではないからである。このように、大きなセラミックス焼結体の端面を研削加工により高精度に仕上げることはコストの観点から望ましくないため、被接合面の凹凸が数10μmあっても許容できるような接合方法が望まれる。
【0006】
この他の接合方法としては、ベータアルミナ管とセラミックス管との接合において、アルミナスラリーをインサート材として被接合面に約0.2mmの厚さで塗布し、両管を当接し乾燥させたのち、マイクロ波加熱により接合材を得る技術が知られている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載されている接合方法は、マイクロ波の吸収が大きいベータアルミナに応用が限定される特殊な手法である。構造用セラミックスとして一般的に用いられているのはアルファアルミナであり、そのマイクロ波の吸収は非常に小さいことからマイクロ波による加熱が一般に困難である。マイクロ波による加熱を望むならマイクロ波をよく吸収する不純物を添加する必要があるが、その場合は、アルミナ接合部材が高純度でなくなってしまう。また、マイクロ波による加熱では、熱電対が使えないので温度測定が困難であり、被接合材の温度を正確に制御にできないため、突発的な発熱による被接合材の損傷の恐れや、再現性のある加熱ができないといった問題点を有する。また、上記特許文献2には、接合強度の記載が無く、上記問題点を考慮すると、接合強度が安定的に得られたか疑問であり、接合体が得られたとしても、その強度はおそらく数10MPa以下で、測定値のバラツキの大きなものであったと容易に推察される。
【0008】
更に、上記特許文献2に記載されている接合方法においては、均一な加熱のために被接合材に重しを載せた状態でマイクロ波焼結装置内で毎分10回転で回転させることが記されているが、大型のセラミックス焼結体をマイクロ波焼結装置内で同じ条件下で回転させることは技術的に難しい。これらの問題点から、この手法は高純度が必要とされる大型のアルミナ焼結体の接合方法として現実的なものではない。
【0009】
このように、現状では高純度を維持できる緻密質アルミナ焼結体の高強度な接合方法がないことから、ロータリーキルン用の大型セラミックスパイプとしては、大型成形体を一体焼成した多孔質なセラミックスからなるパイプか、緻密質な焼結体からなるパイプを突合せ、特殊な構造を有するフレーム内に収納し両端から圧縮応力を掛けることにより機械的に連結した大型パイプといった商品が販売されているのみである。しかしながら、前者の場合、気孔率が最大25%程度と高く、曲げ強度が最大でも8MPa程度しかないので、高い応力に耐えることができないといった問題が有る。また、後者の場合、接合部に段差があることや、装置が複雑で大掛かりとなるといった問題が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−18448号公報
【特許文献2】特開平8−59358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高い接合強度と優れた耐食性とを有し、接合部が不純物を含まないように構成することができるとともに、被接合材の被接合面の平坦度に対し高い許容度を有することで大型部材に好適に適用することができるアルミナ接合体と、そのようなアルミナ接合体からなり、リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構成部材等として好適に用いられる管部材と、そのようなアルミナ接合体を、低荷重下での熱処理により作製することができるアルミナ焼結体の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のアルミナ接合体、管部材及びアルミナ焼結体の接合方法が提供される。
【0013】
[1] アルミナ焼結体同士が接合部を介して接合されたアルミナ接合体であって、前記接合部が、厚さ30μm以上、100μm以下のアルミナからなり、前記接合部の厚さ方向における孔径が前記接合部の厚さの40〜100%の長さである粗大独立気孔と、孔径が5μm以下の微細気孔を含む未焼結領域と、相対密度が98%以上の緻密な焼結領域とから形成され、前記アルミナ接合体から前記接合部を含むように切り出した試験片を用い、JIS R1601に準拠して測定された室温での曲げ強度が200MPa以上であり、JIS R1604に準拠して測定された1200℃大気中での曲げ強度が100MPa以上であるアルミナ接合体。
【0015】
] [1]に記載のアルミナ接合体からなる管部材であって、相対密度が95%以上である緻密質のアルミナ焼結体同士が、前記接合部を介して接合された接合構造を有する管部材。
【0016】
] リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構
成部材として用いられる[]に記載の管部材。
【0017】
] アルミナ焼結体同士を接合するアルミナ焼結体の接合方法であって、分散剤を添加した純水を分散媒とし、この分散媒に固形分として純度が99.8%以上のアルミナ粒子のみを添加したアルミナスラリーであって、該アルミナスラリーにおける前記アルミナ粒子の含有量が、65質量%よりも多く、77.5質量%未満であるものを調製し、このアルミナスラリーを前記アルミナ焼結体の被接合面に塗布した後、被接合面同士を突き合わせ、被接合面間に介在する前記アルミナスラリーからなる接合部の厚みが30μm以上、100μm以下となるように調整したまま乾燥させて仮接合体を作製し、この仮接合体を、前記被接合面の面圧が0.015MPa以上となるよう荷重を掛けた状態で、1300℃以上1700℃以下の温度にて大気中で熱処理することにより前記接合部を焼結させて、前記アルミナ焼結体同士を接合するアルミナ焼結体の接合方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアルミナ接合体は、後述する本発明のアルミナ焼結体の接合方法のように、マイクロ波による加熱を行わずに、大気中で焼結させることにより接合部を形成することができるので、接合部に、マイクロ波をよく吸収するような不純物を添加する必要が無く、被接合材であるアルミナ焼結体のみならず、それらを接合する接合部についても、高純度のアルミナのみによって構成することができる。よって、本発明のアルミナ接合体は、接合部内に残留した不純物による耐食性や強度の劣化が無く、高い接合強度と優れた耐食性とを発揮するとともに、不純物による汚染の恐れも無い。このため、本発明のアルミナ接合体は、各種大型構造部材に広く適用することができ、特に不純物元素の混入の恐れがない高純度材料から構成されることが要求される半導体製造装置や化学プラント部材などの生産用途で用いられる大型部材として好適に使用することができる。また、本発明のアルミナ接合体は、接合部の厚みが30μm以上であることから、被接合材端面(被接合面)の平坦度が数10μmあってもその凹凸を吸収することができ、これにより、被接合面の加工仕上げに対する要求を低下させることができる。すまわち、大型の被接合材に対する高精度の加工が不要となることから、大型の接合体であっても、低コストで作製することが可能となる。また、前記のように厚みに余裕を持たせた接合部が接合面の凹凸を吸収することにより、被接合面全面での接合が可能となり、高い接合強度を発揮する。更に、前記のとおり、接合部を高純度のアルミナのみによって形成し、ガラスなどの不純物を含ませないようにすることができるため、1200℃の高温環境においても高い接合強度を維持することができ、耐熱性を要求される用途への適用も可能となる。
【0020】
本発明の管部材は、本発明のアルミナ接合体を、その代表的な用途の1つである管部材に適用したものである。この管部材は、前記のような本発明のアルミナ接合体の効果を発揮することから、特に高純度・高強度であることが要求される大型構造部材、例えば、リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構成部材として、好適に利用できる。
【0021】
本発明のアルミナ焼結体の接合方法によれば、前記のような優れた効果を有する本発明のアルミナ接合体を作製することができる。また、本発明のアルミナ焼結体の接合方法は、被接合材であるアルミナ焼結体を、大気中において低加重下で熱処理することにより接合することができるので、大型の接合体を作製する場合であっても、大型のホットプレス炉などを用いず、通常の大気炉により接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のアルミナ接合体の一例とその前駆体である仮接合体の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明のアルミナ接合体の接合部の断面のSEM写真である。
図3】比較例2のアルミナ接合体の接合部の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
本発明のアルミナ接合体は、アルミナ焼結体同士が接合部を介して接合されたものであり、前記接合部が、厚さ30μm以上のアルミナからなり、前記接合部の厚さ方向における孔径が前記接合部の厚さの40〜100%の長さである粗大独立気孔と、孔径が5μm以下の微細気孔を含む未焼結領域と、相対密度が98%以上の緻密な焼結領域とから形成されることを、その主要な特徴とする。
【0025】
図1は、本発明のセラミックス接合体の一例とその前駆体である仮接合体の概略構成を示す概略図である。前記のような特徴を有する本発明のセラミックス接合体は、本発明のアルミナ焼結体の接合方法によって作製することができる。
【0026】
本発明のアルミナ焼結体の接合方法においては、まず、微量の分散剤を添加した純水を分散媒とし、その分散媒に固形分として純度が99.8%以上のアルミナ粒子のみを添加し、混合・撹拌してアルミナスラリーを調製する。ここで、固形分として焼結助剤などを添加すると、接合部内に不純物が残留し、耐食性の悪化や、高温強度の劣化、不純物元素による汚染などを引き起こすことになり好ましくない。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩などが使用できる。なお、純水に分散剤を添加しない場合には、流動性がある状態で高濃度にアルミナ粒子をより多く添加することが難しく、高い接合強度を有する接合部を得ることが難しい。
【0027】
アルミナスラリー中のアルミナ粒子の含有量は、65質量%よりも多く、77.5質量%未満とすることが望ましい。アルミナスラリー中のアルミナ含有量が65質量%以下であると、アルミナスラリーの乾燥時に水分の蒸発によって接合部に大きな空洞が形成され、強度低下を引き起こす場合が有る。一方、アルミナスラリー中のアルミナ含有量が80質量%以上では、アルミナスラリーが流動性の乏しいものとなり、被接合面全体に均一にスラリーを塗布できず、接合むらが発生する場合がある。また、77.5質量%では均一にスラリーを塗布できるが、図3の光学顕微鏡写真に示すように接合部と被接合面との間にき裂30が生じてしまい、強度低下を起こす場合があるので好ましくない。このき裂30の形成メカニズムは明らかでないが、塗布後にスラリー表面が乾燥して膜を形成し、これが被接合面とスラリーとの密着性を阻害することが一因として考えられる。
【0028】
次に、調製したアルミナスラリーを、アルミナ焼結体1aと1bの両方の被接合面、または、片方の被接合面にを塗布して、アルミナ焼結体1aと1bの被接合面同士を突き合わせ、該被接合面間に介在する前記アルミナスラリーからなる接合部(焼結前の接合部)2の厚みが30μm以上となるように調整したまま乾燥させて仮接合体1Aを作製する。この接合部の厚みが30μm未満では、被接合面の凹凸を吸収できずにアルミナ焼結体1aと1b同士が接合されない恐れがある。なお、接合部の厚みの上限は特に限定されないが、接合部の厚みが厚すぎると、場合によっては、接合部に形成される粗大独立気孔のサイズが大きくなり過ぎて、接合強度が不十分となる可能性があるので、接合部の厚みは100μm以下とすることが好ましい。
【0029】
次いで、作製した仮接合体1Aを大気中で熱処理する。この熱処理により、仮接合体1Aの接合部2を焼結させ、焼結後の接合部3によってアルミナ焼結体1aと1bとが接合された本発明のアルミナ接合体1Bを得る。この熱処理は、被接合面の面圧が0.015MPa以上、好ましくは0.015〜0.030MPaとなるよう荷重を掛けた状態で行う。熱処理の際の被接合面の面圧が、0.015MPa未満の場合、接合部と被接合面との間に数100μmに及ぶき裂が生じ、接合強度が劣化する。被接合面の面圧の調整は、例えば、仮接合体1Aを、図1のようにアルミナ焼結体1aと1bとが上下方向になるように配置して、仮接合体1Aの上部に、所定の質量の重しを載せることにより行うことができる。重しとしては、例えばアルミナ焼結体を好適に用いることができる。なお、アルミナ焼結体1aがその自重のみによって、被接合面に0.015MPa以上の面圧を生じさせるようなものである場合には、重しのような外部からの荷重の負荷は必要ない。例えば、長さが1m相当のアルミナ焼結体の直方体又は円筒を縦に積み上げて接合する際に、アルミナ焼結体の自重で生じる被接合面の面圧は0.04MPa程度であり、このような大型焼結体の接合においては、外部から荷重を負荷することなく十分な強度を有する接合体が得られる。なお、この程度の低荷重下での熱処理は、通常の大気炉を用いて行うことが可能である。
【0030】
この熱処理は、1300℃以上1700℃以下の温度で行う。熱処理温度が1300℃未満では、接合部のアルミナ粉体の焼結が十分に進行せず、接合部において十分な接合強度が得られない。一方、1700℃を超えると、焼結体の粒成長が生じ母材の機械的性質の劣化が生じる恐れがある。
【0031】
被接合面の面圧や、熱処理温度を前記のように設定して熱処理を行うと、仮接合体1Aのアルミナ粉体からなる接合部2は、その一部の領域においてアルミナ粉体の焼結に伴う体積の収縮が生じて緻密化が進行するが、被接合体であるアルミナ焼結体1aと1bは収縮をしないために、他の領域では緻密化が進まず未焼結領域となり多くの微細気孔を残す。更に、前記のように緻密化した領域の収縮により、他の領域において接合部が水平方向に引っ張られ、接合部内に粗大な独立気孔が形成される。そして、この熱処理の結果、接合体1Aのアルミナ粉体からなる接合部2は、接合部の厚さ方向における孔径が接合部の厚さの40〜100%の長さである粗大独立気孔20cと、孔径が5μm以下の微細気孔を含む未焼結領域20aと、相対密度が98%以上の緻密な焼結領域20bとから形成される接合部3となり、この接合部3が被接合材であるアルミナ焼結体1aと1bと結合することにより、本発明のアルミナ接合体1Bが得られる。
【0032】
図2は、本発明のアルミナ接合体の接合部の断面のSEM写真であり、この写真より、接合部3が、(1)孔径が5μm以下の微細気孔が密集した未焼結領域20a、(2)相対密度が98%以上の緻密な焼結領域20b、及び、(3)接合部3の厚さ方向における孔径が接合部3の厚さの40〜100%の長さである粗大独立気孔20cから形成されていることが確認できる。また、未焼結領域20aと焼結領域20bにおいて、接合部3と上下のアルミナ焼結体(被接合材)とは密着しており、接合界面においてき裂などは観察されず、接合部3がアルミナ焼結体の結合を担っていることが分かる。
【0033】
なお、接合部3に粗大独立気孔20cが幾つか存在することにより、被接合面の一部が結合をしていない未接合領域を抱えることになるが、これら粗大独立気孔20cは互いに連結することなく孤立して存在するため、大きなき裂を形成するには至らず、粗大独立気孔20cの存在による接合強度の劣化は大きくない。また、熱処理時において、接合部は水平方向(接合部の厚さ方向に対して垂直な方向)への収縮が許容されていることにより、垂直方向(接合部の厚さ方向)へは大きく収縮する必要が無いため、焼結領域20bと未焼結領域20aとにおいても、接合部3内を水平方向に横切る鋭いき裂の生成が抑制され、接合強度を大きく損なうことが無い。
【0034】
この結果、本発明のアルミナ接合体は、高い強度を発現する。具体的には、本発明のアルミナ接合体から接合部を含むように切り出した試験片を用い、JIS R1601に準拠して測定された室温での曲げ強度として、200MPa以上の強度を発現することができる。また、JIS R1604に準拠して測定された1200℃大気中での曲げ強度として、100MPa以上の強度を発現することができる。
【0035】
本発明の管部材は、本発明のアルミナ接合体からなる管部材であって、相対密度が95%以上である緻密質のアルミナ焼結体同士が、前記接合部を介して接合された接合構造を有するものである。この管部材は、本発明のアルミナ接合体を、その代表的な用途の1つである管部材に適用したものである。この管部材は、被接合材であるアルミナ焼結体として相対密度が95%以上という緻密質のものを使用しており、また、前記のような本発明のアルミナ接合体の効果を発揮することから、特に高純度・高強度であることが要求される大型構造部材、例えば、リチウムイオン2次電池用の正極材料の製造に使用されるロータリーキルンの構成部材として、好適に利用できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(アルミナスラリー中のアルミナ含有量の検討)
アルミナ純度が99.5%以上で、相対密度が99.0%以上である市販のアルミナ焼結体を20mm×16mm×5mmに加工し、20mm×16mm面を#200番の研削砥石で研削した試験片を幾つか準備した。純水に、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩を主成分とする中京油脂社製のセルナD305(商品名)を、質量比で17:1となるように添加し、よく撹拌して分散媒を作製した。この分散媒に対して、純度が99.8%以上で、平均粒径が600nmであるアルミナ粒子を、含有量が表1に示すようにそれぞれ65.0質量%、69.5質量%、74.5質量%、77.5質量%、80.0質量%となるように添加して撹拌し、分散媒中にアルミナ粒子が分散混合したスラリーを得た。更に、これらのスラリーを真空ポンプを用いて約2分間真空脱気して、スラリー中の気泡の除去を行った。このようにして、アルミナ粒子の含有量が異なる5種のアルミナスラリーを調製した。
【0038】
次に、前記試験片を2枚一組とし、一方の試験片の20mm×16mm面の全面に、前記アルミナスラリーを塗布してから、他方の試験片の20mm×16mm面を十字になるように重ね合わせた。ここで、2枚の試験片の隙間がおよそ90μmとなるように調整し、この間にアルミナスラリーを充填して、一晩乾燥させて仮接合体を得た。なお、アルミナスラリー中のアルミナ含有量が80質量%のものは、流動性が十分でなく試験片に塗布が十分にできなかったことから仮接合体の作製ができなかった。
【0039】
これらの仮接合体を大気炉に移し、被接合面の面圧が0.03MPaとなるよう仮接合体の上部にアルミナ焼結体の重しを載せて、1650℃で2時間焼成し、アルミナ接合体を作製した。このようにして得られたアルミナ接合体から、3mm×2mm×10mmの棒状試験片を作製し、下部スパンを8mmとした3点曲げ試験により曲げ強度を各3〜4本測定し、平均値を算出した。その結果を表1に示すともに、当該結果に基づいて、アルミナスラリー中のアルミナ含有量の効果について検討した。
【0040】
【表1】
【0041】
(検討結果)
アルミナスラリー中のアルミナ含有量を65.0質量%とした比較例1では、アルミナスラリーが乾燥する際の水分の蒸発量が大きく、接合部内に大きな空洞が形成されてしまい、接合強度の劣化が明らかであった。一方、アルミナスラリー中のアルミナ含有量を80.0質量%とした比較例3では、前述のとおりスラリーの流動性が十分でなく、接合部の厚みを制御できず仮接合体の作製ができなかった。これに対し、アルミナスラリー中のアルミナ含有量をそれぞれ69.5質量%と74.5質量%とした実施例1と2においては、ほぼ200MPa程度の曲げ強度を有するアルミナ接合体が作製できた。しかし、アルミナスラリー中のアルミナ含有量を77.5質量%とした比較例2においては、仮接合体の作製及び、焼結により接合体の作製はできたが、図3に示すように接合界面にき裂30を生じ、曲げ強度は120MPa程度しか得られなかった。これらの結果から、アルミナスラリー中のアルミナ含有量は、65.0質量%よりも大きく、77.5質量%未満であることが好適であることがわかった。
【0042】
(接合部の厚みの検討)
アルミナスラリー中のアルミナ含有量を74.5質量%に固定して、仮接合体の接合部の厚みをそれぞれ60μm、40μm、36μmとした以外は前記と同様にしてアルミナ接合体を作製し、3点曲げ強度の平均値を算出した。その結果を、前記実施例2(接合部の厚み90μmのもの)の結果と併せて表2に示すともに、当該結果に基づいて、接合部の厚みの効果について検討した。
【0043】
【表2】
【0044】
(検討結果)
接合部の厚みが30〜90μmの範囲にある実施例2〜5の何れのアルミナ接合体においても、200MPa以上の十分な曲げ強度を得ることができた。なお、接合部の厚みが30μm未満になるとアルミナ焼結体の被接合面の凹凸に十分対応することができないと思われたので、ここでは接合部の厚みが30μm未満のアルミナ接合体の作製を行わなかった。
【0045】
(焼結時の被接合面の面圧の検討)
アルミナスラリー中のアルミナ含有量を74.5質量%に固定して、接合部の厚みを90μmとした仮接合体を作製した。これらの仮接合体に、それぞれ被接合面の面圧が0.015MPa、0.008MPa、0MPa(自重のみ)となるように、アルミナ焼結体の重しを載せた以外は前記と同様にしてアルミナ接合体を作製し、3点曲げ強度の平均値を算出した。その結果を、前記実施例2(被接合面の面圧が0.03MPaのもの)の結果と併せて共に表3に示すともに、当該結果に基づいて、焼結時の被接合面の面圧の効果について検討した。
【0046】
【表3】
【0047】
(検討結果)
焼結時の被接合面の面圧を0.015MPa以上とした実施例2と6では、200MPa以上の十分な曲げ強度を得ることができた。一方、焼結時の被接合面の面圧を0.008MPa以下とした比較例4と5では、曲げ強度は200MPaに届かなかった。このことから、焼結時に0.015MPa以上の面圧を被接合面に負荷することが必要であることが分かった。なお、高さが1m以上あるようなアルミナ焼結体の接合において、自重により得られる被接合面の面圧は、0.04MPa程度であると見積もられることから、そのような大型焼結体の接合においては、外部から荷重を負荷することなく十分な強度を有するアルミナ接合体が得られることが分かった。
【0048】
(より大きなアルミナ焼結体の接合)
上記検討結果を踏まえ、実施例2を参考として、より大きなアルミナ焼結体(ブロック)を被接合材に用いてアルミナ接合体を作製し、室温と1200℃大気中での4点曲げ試験を行なった。具体的には、まず、アルミナ純度が99.5%以上で、相対密度が99.0%以上である市販のアルミナ焼結体を40mm×13mm×20mmに加工し、40mm×13mm面を#200番の研削砥石で研削した試験片を幾つか準備した。純水に、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩を主成分とする中京油脂社製のセルナD305(商品名)を、質量比で17:1となるように添加し、よく撹拌して分散媒を作製した。この分散媒に対して、純度が99.8%以上で、平均粒径が600nmであるアルミナ粒子を、含有量が74.5質量%となるように添加して撹拌し、分散媒中にアルミナ粒子が分散混合したスラリーを得た。更に、このスラリーを真空ポンプを用いて約2分間真空脱気して、スラリー中の気泡の除去を行った。このようにして、アルミナ粒子の含有量が74.5質量%のアルミナスラリーを調製した。
【0049】
次に、前記試験片を2枚一組とし、一方の試験片の40mm×13mm面の全面に、前記アルミナスラリーを塗布してから、他方の試験片の40mm×13mm面を重ね合わせた。ここで、2枚の試験片の隙間がおよそ90μmとなるように調整し、この間にアルミナスラリーを充填して、一晩乾燥させて40mm×13mm×40mmの仮接合体を得た。
【0050】
この仮接合体を大気炉に移し、被接合面の面圧が0.03MPaとなるよう仮接合体の上部にアルミナ焼結体の重しを載せて、1650℃で2時間焼成し、アルミナ接合体を作製した。このようにして得られたアルミナ接合体から、JIS R1601に準じた3mm×4mm×40mmの棒状試験片を作製し、下部スパンを30mm、上部スパンを10mmとした4点曲げ試験を行った。測定に用いた棒状試験片の数は、室温曲げ試験では5本とし、1200℃大気中の高温曲げ試験においては4本とし、それぞれ平均値を算出した。このようにして、JIS R1601の標準試験片を用いた室温と1200℃大気中での4点曲げ強度の算出結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示すとおり、前記のように作製した実施例7の室温での平均曲げ強度は、表1に示した実施例2の平均曲げ強度と同程度の高い値となった。このことから、試験片サイズが増大しても再現性良く高強度が発現できることがわかった。試験片サイズと強度との関係について論じたセラミックスの強度理論によれば、一般的に、試験片サイズの増大とともに強度が低下することが知られている。これは、強度を律する大きなき裂状欠陥の存在する確率が、小さな試験片よりも大きな試験片の方が高くなるためである。しかしながら、本実施例においては、強度を律すると考えられる粗大欠陥は、接合部内に主に存在すると考えられ、実施例2と7においては、接合部の厚みが同じであるために、粗大欠陥が存在すると考えられる部位の体積は大きくは違わず、この結果、試験片サイズにかかわらずほぼ同等の高い強度が得られたものと考えられる。なお、実施例7は、1200℃大気中での平均曲げ強度も157MPaと高い値となった。これは、接合部が純粋なアルミナ質焼結体からなり、ガラス相などの高温強度を劣化させる物質を含有しないためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上詳述したとおり、本発明は、アルミナ接合体、及びアルミナ焼結体の接合方法に係るものであり、本発明により、接合部を含むよう切出した試験片の室温での曲げ強度が200MPa以上で、1200℃大気中の曲げ強度が100MPa以上の高純度アルミナ質からなる接合体を提供することができる。本発明の接合方法を用いることで、被接合面に高い平坦度を要求することなく大型アルミナ焼結体同士を接合することができ、また、接合部の構成物質が高純度アルミナのみであることから、該接合体を各種製造装置の構成部材に用いた時に不純物元素による汚染を防ぐことができ、同時に、高温での強度の劣化を防ぐことができる。このような特徴により、本発明は、耐食性と耐熱性が要求される大型製造装置部材に用いられる高強度かつ高純度なアルミナ接合体と、それを作製するためのアルミナ焼結体の接合方法を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0054】
1A:仮接合体
1B:アルミナ接合体
1a,1b:アルミナ焼結体
2:接合部(焼結前)
3:接合部(焼結後)
20a:未焼結領域
20b:焼結領域
20c:粗大独立気孔
30:き裂
図1
図2
図3